(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について詳述する。
【0017】
本発明の金属イオン二次電池は、硫黄を含有する化合物を負極活物質として用いる負極と、正極と、電解液を含み、正極表面に高分子ゲル層を有するものである。硫黄を含有する硫黄系化合物を負極活物質として用いる場合、例えば、硫黄系活物質は、硫黄をゴム系材料と複合化することにより炭素骨格の中に硫黄分子を閉じ込め、それにより硫黄系活物質から硫化物(例えばLi
2S)が電解液に溶出しないように設計することができる。これにより二次電池のサイクル寿命の向上が図られているが、充放電サイクルで活物質が膨張収縮するため、微量の硫化物が電解液に溶出することになる。この硫化物が溶解した電解液が対流拡散して正極側に至り、高電位の正極活物質と接触すると酸化されて硫黄になる。この酸化反応で電解液中の硫化物が消費されると、硫黄負極からの硫化物の溶出が促進されて劣化が加速する。そこで、本発明においては、正極表面にゲルコートする(正極表面に高分子ゲル層を設ける)ことで、硫化物が電極内部に拡散して正極活物質との接触で酸化消費されることを抑制することができる。
【0018】
<正極>
本発明の金属イオン二次電池に用いられる正極は、例えば、リチウムイオンまたはナトリウムイオンなどを吸蔵・放出し得る正極活物質を有することが好ましい。正極は、集電体と、集電体の表面を被覆する正極活物質を有する正極活物質層とから作製することができる。正極活物質は、バインダおよび/または導電助剤とともに正極材料として用いることができる。集電体、バインダおよび導電助剤は、特に限定されるものではなく、例えば後述する負極材料に用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0019】
リチウムイオンを吸蔵・放出し得る正極活物質としては、例えば、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル系複合酸化物などのリチウムと遷移金属との金属複合酸化物などが挙げられる。リチウムマンガン系複合酸化物は、例えば、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、およびLi
2MnO
3−LiMO
2(ここで、MはNi、CoおよびMnからなる群より選択される1種以上である)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。リチウムコバルト系複合酸化物としては、例えば、LiCoO
2が好ましい。リチウムニッケル系複合酸化物は、LiNiO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4およびLi
2MnO
3−LiMO
2(ここで、MはNi、CoおよびMnからなる群より選択される1種以上である)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0020】
ナトリウムイオンを吸蔵・放出し得る正極活物質としては、Liイオン電池用活物質のLiをNaに置き換えた物質、例えば、NaMO
2(ここで、MはNi、CoおよびMnからなる群より選択される1種以上である)、NaMPO
4(ここで、MはNi、CoおよびMnからなる群より選択される1種以上である)などのナトリウムと遷移金属との金属複合酸化物が挙げられる。
【0021】
<高分子ゲル層>
高分子ゲル層に使用する高分子は、特に制限されるものではなく、溶媒により膨潤してゲル化する高分子であれば使用することができる。高分子ゲル層に使用する高分子の具体的な例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリアセタール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリカルボシランなどの高分子
、メタクリル酸
2−ヒドロキシエチルなどのモノマーを共重合させた高分子、ゼラチンや寒天などの天然高分子などが挙げられる。
【0022】
高分子ゲルを正極表面にコーティングするため、上述の高分子を膨潤させる溶媒としては、特に限定されるものではなく、アセトン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、イソプロピルアルコール、アセトニトリルなど本技術分野において使用されるものを、使用する高分子に合わせて用いることができる。
【0023】
高分子ゲルを正極表面にコーティングする手法としては、高分子ゲルのコーティング手法として一般に知られている手法であれば、特に制限することなく使用することができる。具体的には、スピンコーティング、ドクターブレード塗工、ディップコーティングなどが挙げられる。
【0024】
<負極>
本発明の金属イオン二次電池に用いる負極は、負極活物質として後述する硫黄系活物質を用いること以外は、一般的なリチウムイオン二次電池用負極と同様にして、作製することができる。例えば、該負極は、粒子状にした硫黄系活物質を、導電助剤、バインダ、および溶媒と混合してペースト状の負極材料を調製し、当該負極材料を集電体に塗布した後、乾燥させることによって作製することができる。また、その他の方法として、該負極は、例えば、硫黄系活物質を、導電助剤、バインダ、および少量の溶媒とともに、乳鉢などを用いて混練し、かつフィルム状にしたのち、プレス機等を用いて集電体に圧着して、作製することもできる。
【0025】
[硫黄系負極活物質]
本発明の金属イオン二次電池の負極には、硫黄系負極活物質を用いる。硫黄系負極活物質は、硫黄を含有する化合物を用いるものであれば特に限定されるものではないが、ゴムおよびヘテロ原子含有部位を有するモノマー単位からなる重合体からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物と硫黄とを含む原料を、非酸化性雰囲気下で熱処理することにより得られるものであって、ヘテロ原子含有部位が、O、S、PおよびNからなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する一価の官能基、O、S、PおよびNからなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する複素環式基および−S
a−(但し、aは2〜4の整数)で示される基からなる群から選択される基を有する部位であるものである。
【0026】
(高分子化合物)
本発明における高分子化合物は、ゴムおよびヘテロ原子含有部位を有するモノマー単位からなる重合体からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物である。
【0027】
(ゴム)
ゴムとしては、好ましくは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴムは1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、天然ゴムやハイシスポリブタジエンゴムが特に好ましい。両ゴムは、分子鎖が折れ曲がった不規則な構造をとりやすく、隣り合う分子鎖間の分子間力を比較的小さくして結晶化を生じにくくできるので、硫黄系活物質の柔軟性、加工性を向上できる。特に、ハイシスポリブタジエンゴム等のブタジエンゴムを用いるのが好ましい。ここで、ハイシスポリブタジエンゴムとは、シス1,4結合含量が95質量%以上のポリブタジエンゴムである。また、シス1,4結合含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される。
【0028】
なお、本発明において、ゴムは、未加硫の状態で、硫黄系活物質の原料として供される。
【0029】
(ヘテロ原子含有部位を有するモノマー単位からなる重合体)
本発明において、「ヘテロ原子含有部位」とは、O、S、PおよびNからなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する一価の官能基、O、S、PおよびNからなる群から選択される少なくとも一つのヘテロ原子を含有する複素環式基および−S
a−(但し、aは2〜4の整数)で示される基からなる群から選択される基を有する部位である。
【0030】
「O、S、PおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を含有する一価の官能基」の例としては、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基およびアンモニウム基からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。該一価の官能基は、置換基を有していてもよい。
【0031】
この場合の置換基としては、上述の官能基が挙げられる。すなわち、これら一価の官能基は、別のまたは同じ上述の一価の官能基によってさらに置換されていてもよく、該置換は複数回なされ得る。その際、該一価の官能基同士の間に、アルキレン基などのスペーサーが介在してもよい。該アルキレン基としては、例えば、炭素数1〜4のものが挙げられ、具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基などである。
【0032】
「O、S、PおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を含有する複素環式基」としては、例えば、O、S、PおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を1〜3個含有する5〜14員の複素環式基が挙げられる。ここで、該複素環式基を構成する複素環としては、例えば、ピロリジン、ピロール、ピリジン、イミダゾール、ピロリドン、テトラヒドロフラン、トリアジン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ホスホールの如き単環でもよく、インドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、カルバゾール、チアントレン、フェノキサジン、フェノチアジン、キサンテン、チエノ[3,2−b]チオフェン、ベンゾチオフェンおよびホスフィンドールの如き複環でもよく、これらからなる群から選択されるものが挙げられる。これらの複素環式基は置換基を有していてもよく、非置換のものでもよい。置換基を有する場合の置換基としては、例えば、上述の一価の官能基が挙げられる。
【0033】
「ヘテロ原子含有部位を有するモノマー単位からなる重合体」の好ましい例としては、下記式(1)または式(2)で示されるものが挙げられる。
【0034】
【化1】
(式中、R
1は水素原子またはアルキル基を表し、X
1はO、S、PおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を含有する一価の官能基を有する基またはO、S、PおよびNからなる群から選択されるヘテロ原子を含有する複素環式基を有する基を表し、nは整数を表す。)
【0035】
【化2】
(式中、R
2はアルキル基を表し、aは2〜4の整数、mは2〜12の整数を表す。)
【0036】
式(1)において、R
1のアルキル基としては、炭素数1〜4のものが好ましく、このうち、メチル基が好ましい。式(2)において、R
2のアルキル基としては、炭素数5〜12のものが好ましく、より好ましくは炭素数6〜10のもの、さらに好ましくは炭素数7〜9のもの、最も好ましくは炭素数8のものである。
【0037】
本明細書において、アルキル基は、直鎖または分岐鎖のいずれのものも含むが、このうち、直鎖のものが好ましい。
【0038】
ヘテロ原子含有部位を有するモノマー単位からなる重合体のより好ましい具体例としては、特に制限されるものではないが、例えば、ポリビニルピリジン、ホスホリルコリン重合体、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物およびポリスチレンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。また、該重合体としては、重合体の側鎖にヘテロ原子含有部位を有するものが好ましい。
【0039】
ポリビニルピリジンは、下記式(3)で示される化合物である。
【0040】
【化3】
(式中、q
1は整数を表す。)
【0041】
上記ポリビニルピリジンには、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(3−ビニルピリジン)、およびポリ(4−ビニルピリジン)の3種の異性体が存在するが、このうち、ポリ(4−ビニルピリジン)が好ましい。
【0042】
ホスホリルコリン重合体としては、下記式(4)で示される化合物(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体)が挙げられる。
【0043】
【化4】
(式中、q
2は整数を表す。)
【0044】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物としては、下記式(5)で示される化合物が挙げられる。
【0045】
【化5】
(式中、R
3は炭素数5〜12のアルキル基を表し、q
3は整数を表す。)
【0046】
R
3のアルキル基としては、炭素数6〜10のものが好ましく、より好ましくは炭素数7〜9のもの、さらに好ましくは炭素数8のものである。
【0047】
式(5)で示される化合物としては、オクチルフェノールと塩化硫黄の縮合体(田岡化学工業(株)製:商品名タッキロール(Tackirol) V200)が好ましい。
【0048】
ポリスチレンスルホン酸としては、下記式(6)で示される化合物が挙げられる。
【0049】
【化6】
(式中、q
4は整数を表す。)
【0050】
上記ポリスチレンスルホン酸には、ポリ(o−スチレンスルホン酸)、ポリ(m−スチレンスルホン酸)、およびポリ(p−スチレンスルホン酸)の3種の異性体が存在するが、このうち、ポリ(p−スチレンスルホン酸)が好ましい。
【0051】
(高分子化合物の重量平均分子量(Mw))
高分子化合物のMwは2000〜1500000であることが好ましい。2000以上であることで、熱処理を通して高分子化合物に由来する炭素骨格に取り込まれる硫黄の量が増える傾向にあり、一方、1500000を超えても該硫黄の量は向上しにくく、1500000以下であることで好適な硫黄含有量を達成することができる傾向にある。また、高分子化合物のMwが1500000以下であることで、硫黄との混合がより容易であるなどプロセス的に有利となる。高分子化合物のMwのより好ましい範囲は2000〜1300000、より好ましくは2000〜1200000、さらに好ましくは2000〜1100000、さらに好ましくは2000〜1000000である。Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される値(ポリスチレンにより較正)である。
【0052】
(高分子化合物の入手または製造)
高分子化合物は、商業的に入手可能であるか、あるいは、当業者の知識の範囲内である、常法により、製造することができる。
【0053】
(硫黄)
硫黄としては粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等の種々の形態のものをいずれも使用できるが、このうち、沈降硫黄、コロイド硫黄が好ましい。硫黄の配合量は、高分子化合物100質量部に対して、250質量部以上が好ましく、より好ましくは300質量部以上である。250質量部以上であることで充放電容量やサイクル特性を向上できる傾向がある。一方、硫黄の配合量について、上限は特にないが、通常は、1500質量部以下、好ましくは1250質量部以下である。1500質量部を超えても充放電容量やサイクル特性はさらに向上しにくく、1500質量部以下であることがコスト的に有利な傾向がある。
【0054】
(加硫促進剤)
本発明において、加硫促進剤は特に限定されるものではなく各種の加硫促進剤を使用することができる。なかでも、高速加硫が可能な加硫促進剤である超促進性加硫促進剤を用いることが好ましい。
【0055】
加硫促進剤の配合量は、高分子化合物100質量部に対して、3質量部以上が好ましく、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上である。配合量が3質量部以上であることで、充放電容量やサイクル特性を一層向上させるという目的を達成し易い傾向がある。一方、該配合量は、250質量部以下が好ましく、より好ましくは50質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。配合量が250質量部を超えても充放電容量やサイクル特性はそれ以上向上せず、コスト的に不利となる傾向がある。
【0056】
本発明において、超促進性加硫促進剤とは、高速加硫が可能な加硫促進剤をいい、いわゆる「超加硫促進剤」として、商業的に流通しているものを含む概念である。超促進性加硫促進剤とは、これを用いて例えばゴムを加硫する場合において、キュラスト曲線における加硫時間の進行に伴うトルクの上昇が早く現れるものをいう。このような超促進性加硫促進剤としては、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤およびキサントゲン酸塩系加硫促進剤、あるいはこれらと同等の高速性を示す加硫促進剤を用いることができる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどが挙げられ、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、ピペリジニウムペンタメチレンジチオカルバマート、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸亜鉛、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄、ジエチルジチオカルバミン酸テルルなどが挙げられ、キサントゲン酸塩系加硫促進剤としては、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛などが挙げられる。このうち、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤が好ましく、中でも、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などが好ましい。超促進性加硫促進剤としては、1種または2種以上を使用することができる。
【0057】
また、本発明においては、超促進性加硫促進剤に限らず、遅効性加硫促進剤を用いることもできる。遅効性加硫促進剤とは、これを用いて例えばゴムを加硫する場合において、キュラスト曲線における加硫時間の進行に伴うトルクの上昇が遅れて現れるものをいう。本発明においては、一般に遅効性加硫促進剤として知られているスルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤またはこれと同等の遅効性を示す加硫促進剤を用いることができる。そのような遅効性加硫促進剤の具体例としては、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンジチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドなどが挙げられ、このうち、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィドなどが好ましい。遅効性加硫促進剤としては、1種または2種以上を使用することができる。
【0058】
(導電性炭素材料)
本発明においては、得られる硫黄系活物質の導電性を向上させる目的で、熱処理の原料に、導電性を有する炭素材料をさらに添加してもよい。このような導電性炭素材料としては、グラファイト構造を有する炭素材料が好ましい。炭素材料としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンファイバー(CF)、グラフェン、フラーレンなどの縮合芳香環構造を有するものが使用できる。導電性炭素材料としては1種または2種以上を使用することができる。
【0059】
中でも安価で分散性に優れることから、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラックが好ましい。また、アセチレンブラックやカーボンブラックやケッチェンブラックに、CNTやグラフェンなどを少量併用してもよい。かかる併用系により、コストを大幅に上昇させることなく、リチウムイオン二次電池のサイクル特性をさらに向上させることが可能となる。なお、CNTやグラフェンの併用量は、導電性炭素材料の総量の8質量%以上、12質量%以下であるのが好ましい。
【0060】
該導電性炭素材料の配合量は、高分子化合物100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、より好ましくは10質量部以上である。配合量が5質量部以上であることで、充放電容量やサイクル特性を一層向上させるという目的を達成し易い傾向がある。一方、該配合量は、50質量部以下が好ましく、より好ましくは40質量部以下である。50質量部以下であることで、硫黄系活物質における硫黄を含む構造の割合が相対的に低下せず、充放電容量やサイクル特性を一層向上させるという目的を達成し易い傾向がある。
【0061】
(その他の材料)
熱処理の原料には、この分野で通常使用されるその他の材料を、所望により、添加することができる。
【0062】
(硫黄系負極活物質の製造)
本発明において、硫黄系負極活物質は、高分子化合物および硫黄、任意には加硫促進剤を含む原料を非酸化性雰囲気下に熱処理する工程を含んでなる製造方法により製造することができる。該熱処理工程においては、所定の昇温速度、かつ、所定の熱処理温度が採用される。
【0063】
(熱処理工程)
〈原料の混練・微細化〉
熱処理にあたり、原料を構成する材料は、予め混練しておくことが望ましい。また、こうして得た混練物は、微細化しておくことが望ましい。微細化は、原料を粉砕したり、あるいは、はさみを用いて細かく刻むことなどをいう。混練および微細化は、熱処理における反応性を高める上で有効な手段である。
【0064】
〈非酸化性雰囲気〉
非酸化性雰囲気とは、酸素を実質的に含まない雰囲気をいい、構成成分の酸化劣化や過剰な熱分解を抑制するために採用されるものである。具体的には、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気をいう。したがって、熱処理は、例えば、不活性ガス雰囲気下の石英管中で実施される。
【0065】
〈昇温速度〉
昇温速度とは、熱処理工程において原料を加熱していく際の、温度の上昇速度である。本発明において、該昇温速度は所定の範囲、すなわち、50〜1200℃/hの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100〜1150℃/h、さらに好ましくは130〜1100℃/hである。昇温速度がこのような範囲内にあることで、充放電容量やサイクル特性を向上させるという目的を達成し易い傾向がある。また、加硫促進剤を用いる場合には、加硫促進剤の種類に合わせて、昇温速度を変更することが好ましい。超促進性加硫促進剤を用いる場合には、昇温速度は300〜1200℃/hの範囲内であることが好ましく、遅効性加硫促進剤を用いる場合には、昇温速度は50〜250℃/hの範囲内であることが好ましい。
【0066】
〈熱処理の温度・時間〉
熱処理の温度とは、原料の昇温完了後の到達温度であって、原料の熱処理のために一定時間維持される温度をいう。熱処理の温度は、250〜550℃の範囲が好ましい。250℃以上であることで、硫化反応が不十分となることを避け、目的物の充放電容量の低下を防止できる傾向がある。一方、550℃以下とすることで、原料の分解を防ぎ、収率の低下や、充放電容量の低下を防止できる傾向がある。熱処理の温度は、300℃以上がより好ましく、450℃以下がより好ましい。熱処理の時間は、原料の種類、熱処理温度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1〜6時間であることが好ましい。1時間以上であることで、熱処理を十分に進行させることができる傾向があり、6時間以下であることで、構成成分の過剰な熱分解を防止できる傾向がある。
【0067】
〈装置〉
熱処理工程は、例えば、二軸押出機等の連続式の装置を用いて実施することもできる。この場合、該装置内で、原料を混練して粉砕・混合しながら、熱処理も施すなど、硫黄系活物質を一連の操作により連続して製造できるというメリットがある。
【0068】
〈残留物除去工程〉
熱処理後に得られる処理物中には、熱処理時に昇華した硫黄が冷えて析出した未反応硫黄などが残留している。これら残留物はサイクル特性を低下させる要因となるため、できるだけ除去することが望ましい。残留物の除去は、例えば、減圧加熱乾燥、温風乾燥、溶媒洗浄などの常法に従い、実施することができる。
【0069】
〈粉砕、分級〉
得られた硫黄系活物質は、所定の粒度となるように粉砕し、分級して、電極の製造に適したサイズの粒子とすることができる。粒子の好ましい粒度分布としては、メジアン径で5〜25μm程度である。なお、先に説明した二軸押出機を用いた熱処理方法では、混練時のせん断によって、硫黄系活物質の製造と同時に、製造した硫黄系活物質の粉砕も行うことができる。
【0070】
こうして得られる硫黄系負極活物質は、炭素と硫黄を主たる成分とするものであり、硫黄量が多い方が充放電容量やサイクル特性が向上する傾向にある。そのため、硫黄の含有量は多い程好ましい。一般に、硫黄量の好ましい範囲としては、硫黄系活物質中、50.0質量%以上であり、より好ましくは51.0質量%以上、さらに好ましくは52.0質量%以上さらに好ましくは53.0質量%以上、さらに好ましくは54.0質量%以上、さらに好ましくは54.5質量%以上である。ただし、導電性炭素材料を配合する場合には、当該導電性炭素材料を構成する炭素の影響で、硫黄の含有量が多少下回っても、充放電容量やサイクル特性の向上効果を期待できる場合がある。そのような場合の硫黄の含有量は、上述の硫黄量を約5.0質量%下回るものであってもよい。
【0071】
(バインダ)
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、アクリル系共重合体等が例示される。これらのバインダは、1種または2種以上を使用することができる。
【0072】
(溶媒)
溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアルデヒド、アルコール、ヘキサン、水等が例示される。これら溶媒は、1種または2種以上を使用することができる。
【0073】
(配合量)
これら負極を構成する材料の配合量は、特に問わないが、例えば、負極活物質100質量部に対して、導電助剤20〜100質量部、バインダ10〜20質量部、および適量の溶媒とすることが好ましい。
【0074】
(集電体)
集電体としては、二次電池用電極に一般に用いられるものを使用すればよい。例えば、集電体としては、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等からなるものが例示される。このうち、黒鉛化度の高いカーボンで構成されたカーボン不織布やカーボン織布からなる集電体は、水素を含まず、硫黄との反応性が低いために、本発明の硫黄系活物質を負極活物質とする場合の集電体として好適である。黒鉛化度の高い炭素繊維の原料としては、カーボン繊維の材料となる各種のピッチ(すなわち、石油、石炭、コールタールなどの副生成物)やポリアクリロニトリル繊維(PAN)等を用いることができる。
【0075】
<電解液>
金属イオン二次電池に用いる電解液としては、有機溶媒に電解質であるアルカリ金属塩を溶解させたものを用いることができ、水分をできるだけ低減した非水溶媒に電解質を溶解させてなる非水電解液であることが、充電時のガス発生を抑制する観点から好ましい。
【0076】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルエーテル、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル等の非水系溶媒から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。また、なかでも粘度が高く多硫化リチウムの溶出がしにくくなるためスルホランを用いることがより好ましい。
【0077】
金属イオン二次電池が、リチウムイオン二次電池である場合、電解質は、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiI、LiN(SO
2CF
3)
2、LiClO
4等を用いることができる。金属イオン二次電池がナトリウムイオン二次電池である場合、電解質は、例えば、NaPF
6、NaBF
4、NaClO
4、NaAsF
6、NaSbF
6、NaCF
3SO
3、NaN(SO
2CF
3)
2、低級脂肪酸ナトリウム塩、NaAlCl
4等を用いることができる。これら電解質は、1種または2種以上を使用することができる。なかでも、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiN(SO
2CF
3)
2、NaPF
6、NaBF
4、NaAsF
6、NaSbF
6、NaCF
3SO
3、NaN(SO
2CF
3)
2等は、フッ素を含むことから正極に用いるアルミ箔集電体上にフッ化物の被膜を形成して、アルミの溶出を抑制できるものであり好ましい。電解質の濃度は、0.5mol/L〜1.7mol/L程度であればよい。
【0078】
金属イオン二次電池は、上述した負極、正極、電解液以外にも、セパレータなどの部材を備えてもよい。セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極との間のイオンの移動を許容するとともに、正極と負極との内部短絡を防止する。二次電池が密閉型であれば、セパレータには電解液を保持する機能も求められる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PAN、アラミド、ポリイミド、セルロース、ガラス等を材料とする薄肉かつ微多孔性または不織布状の膜を用いるのが好ましい。二次電池の形状は特に限定されず、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状にできる。
【0079】
二次電池は、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などの車両に搭載してもよい。また、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器にも搭載することができる。
【実施例】
【0080】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0081】
以下に、実施例および比較例において使用した各種薬品をまとめて示す。各種薬品は必要に応じて常法に従い精製を行った。
【0082】
高分子化合物1:ハイシスブタジエンゴム(宇部興産(株)製のBR150L:シス1,4結合含量:98質量%、重量平均分子量:60万)
高分子化合物2:オクチルフェノールと塩化硫黄の縮合体(田岡化学工業(株)製のタッキロール(Tackirol)V200)(硫黄含量:24質量%、重量平均分子量:9千)
導電性炭素材料:アセチレンブラック(電気化学工業(株)製のデンカブラック(登録商標))
加硫促進剤:テトラメチルチウラムモノスルフィド(大内新興化学工業(株)製のノクセラーTS)
硫黄:鶴見化学工業(株)製のコロイド硫黄
【0083】
実施例1
<原料の作製>
高分子化合物1を100質量部に、コロイド硫黄1000質量部、および加硫促進剤25質量部を混練機(混練試験装置ミックスラボ、(株)モリヤマ製)で混練することにより、原料を得た。こうして得た原料は、はさみで3mm以下となるように細かく刻み、熱処理工程に供した。
【0084】
(反応装置)
原料の熱処理には、
図2に示す反応装置1を用いた。反応装置1は、原料2を収容して熱処理するための、有底筒状をなす石英ガラス製の、外径60mm、内径50mm、高さ300mmの反応容器3、当該反応容器3の上部開口を閉じるシリコーン製の蓋4、当該蓋4を貫通する1本のアルミナ保護管5((株)ニッカトー製の「アルミナSSA−S」、外径4mm、内径2mm、長さ250mm)と、2本のガス導入管6とガス排出管7(いずれも、(株)ニッカトー製の「アルミナSSA−S」、外径6mm、内径4mm、長さ150mm)、および反応容器3を底部側から加熱する電気炉8(ルツボ炉、開口幅φ80mm、加熱高さ100mm)を備えている。
【0085】
アルミナ保護管5は、蓋4から下方が、反応容器3の底に収容した原料2に達する長さに形成され、内部に熱電対9が挿通されている。アルミナ保護管5は、熱電対9の保護管として用いられる。熱電対9の先端は、アルミナ保護管5の閉じられた先端で保護された状態で、原料2に挿入されて、当該原料2の温度を測定するために機能する。熱電対9の出力は、図中に実線の矢印で示すように、電気炉8の温度コントローラ10に入力され、温度コントローラ10は、この熱電対9からの入力に基づいて、電気炉8の加熱温度をコントロールするために機能する。
【0086】
ガス導入管6とガス排出管7は、その下端が、蓋4から下方へ3mm突出するように形成されている。また反応容器3の上部は、電気炉8から突出して外気に露出されている。そのため、反応容器3の加熱によって原料から発生する硫黄の蒸気は、図中に一点鎖線の矢印に示すように反応容器3の上方へ上昇するものの、途中で冷却され、液滴となって、図中に破線の矢印で示すように滴下して還流される。そのため、反応系中の硫黄が、ガス排出管7を通って外部に漏れだすことはない。
【0087】
ガス導入管6には、図示しないガスの供給系から、Arガスが継続的に供給される。またガス排出管7は、水酸化ナトリウム水溶液11を収容したトラップ槽12に接続されている。反応容器3からガス排出管7を通って外部へ出ようとする排気は、一旦、トラップ槽12内の水酸化ナトリウム水溶液11を通ったのちに外部へ放出される。そのため排気中に、加硫反応によって発生する硫化水素ガスが含まれていても、水酸化ナトリウム水溶液と中和されて排気からは除去される。
【0088】
(熱処理工程)
まず原料2を反応容器3の底に収容した状態で、ガスの供給系から、80ml/分の流量でAr(アルゴン)ガスを継続的に供給しながら、供給開始30分後に、電気炉8による加熱を開始した。昇温速度は300℃/hで実施した。そして原料化合物の温度が450℃に達した時点で、450℃を維持しながら2時間熱処理をした。次いでArガスの流量を調整しながら、Arガス雰囲気下、反応生成物の温度を25℃まで自然冷却させたのち、生成物を反応容器3から取り出した。
【0089】
(未反応硫黄の除去)
熱処理工程後の生成物に残存する未反応硫黄(遊離した状態の単体硫黄)を除去するために、以下の工程をおこなった。すなわち、該生成物を乳鉢で粉砕し、粉砕物2gをガラスチューブオーブンに収容して、真空吸引しながら250℃で3時間加熱して、未反応硫黄が除去された(または、微量の未反応硫黄しか含まない)硫黄系活物質を得た。昇温速度は10℃/分とした。
【0090】
<リチウムイオン二次電池の作製>
(硫黄系負極)
上記で得た硫黄系活物質に、導電助剤としてのアセチレンブラック、バインダとしてのアクリル系共重合体(住友精化(株)製の「アクアチャージ」)とを混合した。混合物の混合質量比は、硫黄系活物質:アセチレンブラック:アクアチャージ=90:5:5とした。混合物に、粘度調整用のNMP溶媒を添加してスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗工し、大気中、80℃で20分間仮乾燥した。さらに、減圧下150℃で3時間乾燥させて硫黄系負極を得た。これを直径11mmの電極サイズに打ち抜いて、試作電池に適用した。
【0091】
(正極)
正極活物質として、LiNi
0.5Mn
1.5O
4と導電助剤としてのアセチレンブラック、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合した。混合物の混合質量比は、LiNi
0.5Mn
1.5O
4:アセチレンブラック:PVdF=90:5:5とした。混合物に粘度調整用のNMP溶媒を添加してスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム箔からなる集電体に塗工し、大気中、80℃で20分間仮乾燥した。さらに減圧下150℃で3時間乾燥させて電極を得た。
【0092】
この電極にアセトンでゲル化したPVdF(ARKEMA製の「Kynar」)を厚み20μmのドクターブレードを使用して塗工した。この電極を150℃で3時間乾燥させてゲルコート正極を得た。これを直径11mmの電極サイズに打ち抜いて、試作電池に適用した。
【0093】
(リチウムイオン二次電池)
上記正極と負極とを用いて全電池を作製した。ステンレス容器からなるCR2032型コイン電池用部材(宝泉(株)製)内に、上記正極と負極とをセパレータにガラスフィルタ(ADVANTEC製、GA100)を、電解液に1mol/LのLiN(SO
2CF
3)
2とスルホランからなる非水系電解液を用い、カシメ機で密閉して、CR2032型コイン型のリチウムイオン二次電池を得た。
【0094】
実施例2
実施例2は、実施例1で得られた負極活物質を用い、正極活物質をLiMn
2O
4に変更した以外は、実施例1と同様の処理を行い、二次電池を作製した。
【0095】
実施例3
実施例3は、負極活物質の製造において、高分子化合物1を高分子化合物2に変更した以外は、実施例1と同様にして、二次電池を作製した。
【0096】
比較例1
実施例1で得られた負極活物質を用い、正極へのゲルコート処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の処理を行い、二次電池を作製した。
【0097】
比較例2
実施例1で得られた負極活物質を用い、電解液にエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1(容量)を用いた以外は実施例1と同様の処理を行い、二次電池を作製した。
【0098】
<充放電容量測定試験>
実施例1、実施例3、比較例1および比較例2で作製した電池は、上限値3.7V、下限値1.5Vの間で、実施例2で作製した電池は上限値2.8V、下限値0.7Vの間で充放電を繰り返した。電流値は0.5C率(実施例1、実施例3、比較例1および比較例2では正極活物質1gあたり70mA、実施例2では正極活物質1gあたり55mA)とした。試験時の温度は30℃とした。
【0099】
<元素分析>
実施例1および実施例3で製造した硫黄系負極活物質の硫黄量を測定した結果、それぞれ55.2%および53.8%であった。なお、測定にはエレメンタール社(Elementar)製の全自動元素分析装置 vario MICRO cubeを用いた。
【0100】
【表1】
【0101】
図1に示されるように、正極にゲルコートを行うことで、サイクル特性の向上につながることが分かる。初期容量と30回目の容量を比較すると、ゲルコートありでは59.3%であるのに対し、ゲルコートなしでは47.6%にとどまる。また、表1に示す通り、実施例2では実施例1に比べて電圧は0.8V低いが、容量維持率は高い。これは、正極活物質の電圧が低いと、電解液中に溶解した硫化リチウムの酸化が抑制されるためと考えられる。
【0102】
また、電解液として粘度の高いスルホランを選択すると、多硫化リチウムへの溶出がしにくくなるため、容量維持率に効果があると考えられる。