特許第6981187号(P6981187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981187
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/02 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
   B62D21/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-218606(P2017-218606)
(22)【出願日】2017年11月13日
(65)【公開番号】特開2019-89411(P2019-89411A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2020年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 馨一
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−095260(JP,A)
【文献】 特開2009−166718(JP,A)
【文献】 特開2012−056372(JP,A)
【文献】 米国特許第06733040(US,B1)
【文献】 特開2011−046234(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/030191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びていて矩形状の閉断面を有する部材であり車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレームを備える車体構造において、
前記一対のサイドフレームの各々には、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部が形成されていて、
当該車体構造はさらに、
少なくとも前記傾斜部にわたって前記一対のサイドフレームの各々をその内部から補強する補強部材と、
前記一対のサイドフレームの各々に差し渡された第1クロスメンバとを備え、
前記補強部材は、
前記傾斜部の上面の車内側に配置された第1部材と、
前記傾斜部の上面の車外側に配置され前記第1部材から離間している第2部材とを含み、
前記第1部材は、側方から見て、前記一対のサイドフレームの各々の前記第1クロスメンバの取付箇所に重なっていて、
当該車体構造はさらに、
前記一対のサイドフレームの各々の傾斜部をその内部から補強するバルクヘッドと、
前記傾斜部の下側に配置されたサスペンションブラケットとを備え、
前記バルクヘッドおよび前記サスペンションブラケットは、側方から見て前記第1クロスメンバの取付箇所に重なっていることを特徴とする車体構造。
【請求項2】
車両前後方向に延びていて矩形状の閉断面を有する部材であり車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレームを備える車体構造において、
前記一対のサイドフレームの各々には、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部が形成されていて、
当該車体構造はさらに、
少なくとも前記傾斜部にわたって前記一対のサイドフレームの各々をその内部から補強する補強部材を備え、
前記補強部材は、
前記傾斜部の上面の車内側に配置された第1部材と、
前記傾斜部の上面の車外側に配置された第2部材とを含み、
当該車体構造はさらに、前記一対のサイドフレームの各々に差し渡された第1クロスメンバおよび該第1クロスメンバの後方の第2クロスメンバを備え、
前記第1部材は、側方から見て、前記一対のサイドフレームの各々の前記第1クロスメンバの取付箇所から前記第2クロスメンバの取付箇所までにわたって重なっていることを特徴とする車体構造。
【請求項3】
記第1クロスメンバと前記第2クロスメンバは、上下方向から見てX字形状を成していることを特徴とする請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記第2部材は、側方から見て、前記第1クロスメンバの取付箇所に重なっていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項5】
前記一対のサイドフレームの各々には、前記傾斜部の後側に位置し車両後方にゆくほど車幅方向外側に向かう末広がり部が形成されていて、
前記第1クロスメンバは、側方から見て、前記一対のサイドフレームの各々の傾斜部に重なるように該一対のサイドフレームに取付けられていて、
前記第2クロスメンバは、側方から見て、前記一対のサイドフレームの各々の末広がり部に重なるように該一対のサイドフレームに取付けられていることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、車両前後方向に延びる一対のサイドフレームを含む車体構造を備えている。一対のサイドフレームは、車幅方向に離間して配置される中空の部材であり、例えば矩形状の閉断面を有している。サイドフレームには、車両前後方向に延びる途中で車幅方向や車両上下方向に形状が変化する箇所が存在する場合がある(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、左右一対のサイドメンバのうち形状が変化する形状変化部の中空部内に、直線状に延びる補強部材を挿入した車枠構造が記載されている。この補強部材は、形状変化部の中空部内に、形状変化部の長手方向に沿って斜めに掛け渡して配置され、中空部内で動かないように固着されている。
【0004】
特許文献1では、形状変化部の中空部内に補強部材を固定したので、サイドメンバの形状変化部を補強することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5161727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、パワーユニットルームの後側に位置する車室(キャビン)の空間を広く確保するため、一対のサイドフレームの各々に車両上下方向に形状が変化する箇所、例えば車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部が形成されている場合がある。かかる場合、一対のサイドフレームは、傾斜部の前後で高低差のある形状となる。このような一対のサイドフレームを含む車体構造では、前突時の入力荷重が傾斜部の上面に集中し易く、傾斜部が変形の起点となり得る。
【0007】
特許文献1の補強部材は、直線状に延びていて、形状変化部の長手方向に沿って斜めに掛け渡して配置され中空部内に固定されている。このため、補強部材は、形状変化部の一方の側壁に一端部が固定され、他端部が他方の側壁にそれぞれ固定されることになる。
【0008】
つまり特許文献1の補強部材は、サイドフレームのうち車両上下方向に形状が変化する形状変化部に対しては、一方の側壁と他方の側壁とをつなぐものに過ぎない。このため、特許文献1に記載の車枠構造には、前突時の入力荷重が集中し変形の起点となる部位を補強することに関し、改善の余地があった。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、サイドフレームに形成された車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部の前突時での変形を抑制できる車体構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車体構造の代表的な構成は、車両前後方向に延びていて矩形状の閉断面を有する部材であり車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレームを備える車体構造において、一対のサイドフレームの各々には、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部が形成されていて、車体構造はさらに、少なくとも傾斜部にわたって一対のサイドフレームの各々をその内部から補強する補強部材を備え、補強部材は、傾斜部の上面の車内側に配置された第1部材と、傾斜部の上面の車外側に配置され第1部材から離間している第2部材とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サイドフレームに形成された車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部の前突時での変形を抑制できる車体構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例に係る車体構造および車体構造に配置されるキャビンを概略的に示す図である。
図2図1の車体構造の一部を示す図である。
図3図2の車体構造のA矢視図である。
図4図2の車体構造のB矢視図である。
図5図4の車体構造の一部を省略して示す図である。
図6図4の車体構造のC−C断面を示す図である。
図7図3の車体構造のサイドフレームがオフセット衝突により変形した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る車体構造の代表的な構成は、車両前後方向に延びていて矩形状の閉断面を有する部材であり車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレームを備える車体構造において、一対のサイドフレームの各々には、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部が形成されていて、車体構造はさらに、少なくとも傾斜部にわたって一対のサイドフレームの各々をその内部から補強する補強部材を備え、補強部材は、傾斜部の上面の車内側に配置された第1部材と、傾斜部の上面の車外側に配置され第1部材から離間している第2部材とを含むことを特徴とする。
【0014】
従来形態においては、サイドフレームは、車両後側にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部を有しているため、傾斜部の前後で高低差のある形状となっている。サイドフレームの傾斜部の後側(車室が位置する側)は前側(パワーユニットルームが位置する側)よりも高さが低くなっているため車室の空間を十分に確保することができる。一方、傾斜部の前側は後側よりも高さが高くなっているため、車室よりも前方に位置するパワーユニットルームにおいて前突による衝撃を高い位置で受けることができる。このような高低差のあるサイドフレームでは、前突時の入力荷重が傾斜部の上面に集中し易く、傾斜部が変形の起点となり得る。
【0015】
ここで車体構造において、車室とパワーユニットルームとを区画するダッシュパネルの下方に傾斜部が位置している場合、傾斜部が変形してしまうと車室が変形し、乗員傷害値が悪化することがある。さらにこのような車体構造では、傾斜部が変形してしまうとダッシュパネルが変形し、いわゆるペダル後退抑制機構が作動しても安全性の評価基準(NCAP)の要求性能を満たせないこともある。
【0016】
そこで本発明では、サイドフレームの少なくとも傾斜部の上面すなわち前突時に最も入力荷重が集中し易い部位を、その内部から第1部材と第2部材とを含む補強部材で補強することで、傾斜部の変形を抑制している。
【0017】
さらに第1部材および第2部材は、傾斜部の上面に車幅方向に離間して配置された別部材である。このため、第1部材および第2部材の板厚や車両前後方向の長さは、互いに異ならせることができる。また第1部材および第2部材のいずれか一方または両方をサイドフレームの側面まで補強する断面L字型の部材とすれば、傾斜部の上面の車内側および車外側の角部をそれぞれ補強することもできる。このように第1部材と第2部材とを別々に設計可能であるため、前突時における傾斜部の変形を、より自由度の高い方法で抑制することが可能である。
【0018】
また別部材である第1部材と第2部材とを車幅方向に離間して配置しているため、傾斜部の上面にわたるような大きな補強部材で上面を補強する場合に比べ、重量増加を抑えることもできる。
【0019】
このように本発明によれば、前突時での傾斜部の変形を抑制することで、傾斜部よりも前側で変形が生じることになり、車室の変形を抑制できる。さらにダッシュパネルの変形も抑制できるため、ペダル後退抑制機構の作動を阻害しないようにすることが可能である。
【0020】
上記の車体構造はさらに、一対のサイドフレームの各々に差し渡された第1クロスメンバおよび第1クロスメンバの後方の第2クロスメンバを備え、第1部材は、側方から見て、一対のサイドフレームの各々の第1クロスメンバの取付箇所から第2クロスメンバの取付箇所までにわたって重なっているとよい。
【0021】
このように、第1部材は、側方から見て、一対のサイドフレームの各々の第1クロスメンバの取付箇所から第2クロスメンバの取付箇所までにわたって重なっているため、第1クロスメンバの取付箇所から第2クロスメンバの取付箇所まで到達している。したがって前突時の入力荷重に耐える第1部材は、第1クロスメンバの取付箇所および第2クロスメンバの取付箇所を介して、第1クロスメンバおよび第2クロスメンバに荷重を伝達できる。そのため、上記構成では、第1クロスメンバおよび第2クロスメンバが第1部材の後ろ盾の役割を果たし、サイドフレームの車幅方向への変形をより十全に抑制できる。
【0022】
上記の第2部材は、側方から見て、第1クロスメンバの取付箇所に重なっており、第1クロスメンバと第2クロスメンバは、上下方向から見てX字形状を成しているとよい。このように、第1クロスメンバの取付箇所に第2部材が側方から見て重なっていることで、第1部材だけでなく第2部材で受けた荷重も第1クロスメンバに伝達し分散できる。また、第1クロスメンバと第2クロスメンバは、上下方向から見てX字状に形成されている。このため、一方のサイドフレームの第1部材や第2部材から第1クロスメンバに分散された荷重は斜め後方に伝達される。さらに荷重は、斜め後方に延びる第2クロスメンバを介して、他方のサイドフレームに伝達され分散される。したがって、前突時の衝撃を確実に分散でき、サイドフレームの変形をより十全に防止できる。
【0023】
上記の一対のサイドフレームの各々には、傾斜部の後側に位置し車両後方にゆくほど車幅方向外側に向かう末広がり部が形成されていて、第1クロスメンバは、側方から見て、一対のサイドフレームの各々の傾斜部に重なるように一対のサイドフレームに取付けられていて、第2クロスメンバは、側方から見て、一対のサイドフレームの各々の末広がり部に重なるように一対のサイドフレームに取付けられているとよい。
【0024】
このようにサイドフレームは、傾斜部の後側に位置する末広がり部が車両後方にゆくほど車幅方向外側に向かっているため、前突時に車幅方向外側よりも車幅方向内側の方がより入力荷重を受ける。そこで上記構成では、側方から見て、一対のサイドフレームの各々の傾斜部、末広がり部にそれぞれ重なるように第1クロスメンバ、第2クロスメンバをサイドフレーム間にそれぞれ差し渡している。このため、第1クロスメンバ、第2クロスメンバがそれぞれサイドフレームの傾斜部、末広がり部の後ろ盾としての役割を果たし、サイドフレームの傾斜部および末広がり部の車幅方向への変形を十全に抑制できる。その結果として、傾斜部よりも前側での車両上下方向の変形を促し、車室の変形などを十分に抑制可能となる。
【0025】
上記の車体構造はさらに、一対のサイドフレームの各々の傾斜部をその内部から補強するバルクヘッドと、傾斜部の下側に配置されたサスペンションブラケットとを備え、バルクヘッドおよびサスペンションブラケットは、側方から見て第1クロスメンバの取付箇所に重なっているとよい。
【0026】
ここで、サスペンションブラケットは、前輪を懸架するブラケットであり、高い剛性でサイドフレームに固定されている。このため、サイドフレームの傾斜部は、第1部材および第2部材に加え、バルクヘッドさらには剛性の高いサスペンションブラケットによっても補強されるため、剛性を高めることができる。
【実施例】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る車体構造100および車体構造100に配置されるキャビン120を概略的に示す図である。図中では車体構造100およびキャビン120を斜め下方から見た状態を示している。以下、各図に示す矢印X、Yは車両前側、車両右側をそれぞれ示している。
【0029】
車体構造100は、車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレーム104、106と、一対のサイドフレーム104、106間に差し渡された複数のクロスメンバ108a〜108iとを備えている。車体構造100は、これらの部材によって図示のような枠状のフレーム構造を形成している。また車体構造100は、図示のようにフレーム構造の上方にキャビン120を配置するような形式の車両に適用可能である。
【0030】
図2は、図1の車体構造100の一部を示す図である。図中では車体構造100を上方から見た状態を示している。図3は、図2の車体構造100のA矢視図である。
【0031】
クロスメンバ108a〜108iのうち、車両前側から4番目・5番目には、図2に示すように第1クロスメンバ(クロスメンバ108d)、第2クロスメンバ(クロスメンバ108e)が位置している。クロスメンバ108dは、車幅方向両端部が車幅方向中央部よりも車両前側に位置するように屈曲していて、車幅方向両端部がブラケット110a、110bを介してサイドフレーム104、106にそれぞれ接合されている。このため、一対のサイドフレーム104、106の各々のクロスメンバ108dの取付箇所は、ブラケット110a、110bの位置に対応している。
【0032】
クロスメンバ108eは、クロスメンバ108dよりも車両後側で一対のサイドフレーム104、106に差し渡されていて、車幅方向両端部が車幅方向中央部よりも車両後側に位置するように屈曲している。クロスメンバ108eは、車幅方向両端部がブラケット112a、112bを介してサイドフレーム104、106にそれぞれ接合されている。このため、一対のサイドフレーム104、106の各々のクロスメンバ108eの取付箇所は、ブラケット112a、112bの位置に対応している。またクロスメンバ108d、108eは、図2に示すように、互いの車幅方向中央部が接合部材114で接合され、上下方向から見て平面視でX字状に形成されている。
【0033】
サイドフレーム104、106は、車両前後方向に延びていて、図2に示すように互いに対称な形状を有している。またサイドフレーム104、106は、矩形状の閉断面115(図6参照)を有する部材である。
【0034】
さらにサイドフレーム104には、図3に示すように、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部116が形成されている。なおサイドフレーム106にも同様に傾斜部118(図2参照)が形成されている。このため、サイドフレーム104、106は、傾斜部116、118の前後で高低差のある形状となっている。
【0035】
具体的には、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118の後側すなわちキャビン120(図1参照)が位置する側は、傾斜部116、118の前側すなわちパワーユニットルーム122が位置する側よりも高さが低くなっている。このため、キャビン120において、キャビン120の空間を十分に確保できる。一方、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118の前側は、後側よりも高さが高くなっている。このため、キャビン120よりも前方に位置するパワーユニットルーム122において、前突による衝撃を高い位置で受けることができる。ところが、このような高低差のあるサイドフレーム104、106では、前突時の入力荷重が傾斜部116、118の上面124、126(図2参照)に集中し易く、傾斜部116、118が変形の起点となり得る。
【0036】
さらに傾斜部116、118は、図1に示すように、キャビン120とパワーユニットルーム122とを区画するダッシュパネル128の下方に位置している。このため、傾斜部116、118が上方に向かって変形してしまうとキャビン120が変形し、乗員傷害値が悪化することがあり得る。さらに傾斜部116、118が上方に向かって変形することでダッシュパネル128が変形し、いわゆるペダル後退抑制機構(不図示)が作動しても安全性の評価基準(NCAP)の要求性能を満たせないことがあり得る。
【0037】
また図2に示すように、サイドフレーム104、106には、傾斜部116、118の後側に位置し車両後側にゆくほど車幅方向外側に向かう末広がり部130、132も形成されている。このため、サイドフレーム104、106では、前突時に末広がり部130、132の前後において車幅方向外側よりも車幅方向内側の方がより入力荷重を受けることになる。
【0038】
そこで本実施例では、サイドフレーム104、106の少なくとも傾斜部116、118、すなわち傾斜部116、118だけでなく末広がり部130、132にもわたって、サイドフレーム104、106をその内部から補強する構成を採用した。以下では、サイドフレーム104の傾斜部116、末広がり部130およびその周辺の構成について主に説明するが、サイドフレーム106の傾斜部118、末広がり部132およびその周辺も同様の構成および機能などを有する。
【0039】
図4は、図2の車体構造100のB矢視図である。サイドフレーム104は、車内側に位置するインナ部材134と、車外側に位置するアウタ部材136とを有し、これらの部材が接合することで矩形状の閉断面115(図6参照)を形成している。
【0040】
サイドフレーム104のアウタ部材136の車幅方向外側には、図4に示すようにボディマウントブラケット138が配置されている。またサイドフレーム106の車幅方向外側にはボディマウントブラケット140が配置されている。これら一対のボディマウントブラケット138、140は、一対のサイドフレーム104、106とキャビン120とを接続する剛性の高いブラケットである。
【0041】
クロスメンバ108dは、図3および図4に示すように、側方から見て、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118に重なるように、ブラケット110a、110bを介してサイドフレーム104、106に差し渡されている。さらにサイドフレーム104の傾斜部116の下側には、図3に示すようにサスペンションブラケット142が配置されている。また、サイドフレーム106の傾斜部118の下側には、図4に示すようにサスペンションブラケット144が配置されている。
【0042】
これら一対のサスペンションブラケット142、144は、不図示の前輪を懸架するブラケットであり、高い剛性でサイドフレーム104、106に固定されている。またサスペンションブラケット142、144は、側方から見てブラケット110a、110bに重なる位置に配置されている。
【0043】
クロスメンバ108eは、図3および図4に示すように、側方から見て、サイドフレーム104、106の末広がり部130、132に重なるように、ブラケット112a、112bを介してサイドフレーム104、106に差し渡されている。
【0044】
図5は、図4の車体構造100の一部を省略して示す図である。図中では、サイドフレーム104のインナ部材134およびアウタ部材136、さらにボディマウントブラケット138を省略して、サイドフレーム104の内部を示している。図6は、図4の車体構造100のC−C断面を示す図である。図6(a)は、サイドフレーム104の断面だけでなく、サイドフレーム104の断面よりも車両後方にある周辺構造も含めて示している。図6(b)は、図6(a)のサイドフレーム104の断面のみを模式的に示している。
【0045】
車体構造100はさらに、図5に示すように、サイドフレーム104をその内部から補強する補強部材として、第1部材146、第2部材148およびバルクヘッド150と、第3部材152およびバルクヘッド154とを備える。なお図中では、第1部材146にハッチングを施している。
【0046】
第1部材146は、図6(b)に示すように、傾斜部116の上面124の車内側に配置されている。第1部材146は、断面L字型の部材であり、上端部156と側端部158とを有する。上端部156は、インナ部材134の上壁160に接合される。側端部158は、上端部156から車両下側に屈曲し、インナ部材134の側壁162に接合される。このように第1部材146は、上端部156と側端部158とでインナ部材134の上側角部164を跨ぐようにして、インナ部材134に接合されている。
【0047】
第2部材148は、図6(b)に示すように、傾斜部116の上面124の車外側に配置されていて、第1部材146から離間している。第2部材148は、断面L字型の部材であり、上端部166と側端部168とを有する。上端部166は、インナ部材134の上壁160に接合される。側端部168は、上端部166から車両下側に屈曲し、アウタ部材136の側壁170に接合される。このように第2部材148は、上端部166と側端部168とでアウタ部材136の上側角部172を跨ぐようにして、インナ部材134およびアウタ部材136に接合されている。
【0048】
さらに第1部材146は、図5にハッチングで示すように、第2部材148よりも車両後方まで延びていて、傾斜部116の車両後側に位置する末広がり部130まで到達している。より具体的には、第1部材146は、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108cの取付箇所付近から、クロスメンバ108dの取付箇所となるブラケット110aを経て、クロスメンバ108eの取付箇所となるブラケット112aまで到達している。すなわち第1部材146は、側方から見て、サイドフレーム104のうち少なくともクロスメンバ108dの取付箇所からクロスメンバ108eの取付箇所までにわたって重なっている。このようにして、第1部材146は、サイドフレーム104の傾斜部116だけでなく末広がり部130も補強している。
【0049】
第2部材148は、図5に示すように、クロスメンバ108cの取付箇所付近から、クロスメンバ108dの取付箇所となるブラケット110aまで到達している。すなわち第2部材148は、側方から見て、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108dの取付箇所に重なっている。このようにして、第2部材146は、サイドフレーム104の傾斜部116を補強している。
【0050】
バルクヘッド150は、図5に示すように第2部材148の車両後側に位置していて、サイドフレーム104のインナ部材134およびアウタ部材136に接合されている。またバルクヘッド150は、側方から見てブラケット110aに重なっている。
【0051】
第3部材152は、バルクヘッド150の車両後側に位置し、第1部材146から車外側に離間していて、第1部材146とともに末広がり部130を補強している。また第3部材152は、クロスメンバ108eの取付箇所となるブラケット112aまで到達している。すなわち第3部材152は、側方から見て、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108eの取付箇所に重なっている。
【0052】
バルクヘッド154は、インナ部材134およびアウタ部材136に接合されていて、末広がり部130を内部から補強している。またバルクヘッド154は、図5に示すように側方から見て、第3部材152とともにブラケット112aに重なっている。
【0053】
ここで前突時、特に車両前面の左右いずれかに衝撃力が集中するオフセット衝突時において、車体構造100のサイドフレーム104に衝撃力が集中した場合について説明する。図2に示すように一方のサイドフレーム104に入力された入力荷重(矢印D参照)は、後方に伝達され、その一部がブラケット110aを介してクロスメンバ108dに分散され、車幅方向中央部に向けて斜め後方に伝達される(矢印E参照)。クロスメンバ108dの車幅方向中央部に伝達された荷重は、接合部材114を介してさらに斜め後方に延びるクロスメンバ108eに伝達される(矢印F参照)。クロスメンバ108eに伝達された荷重は、サイドフレーム106の傾斜部118よりも車両後方に位置するブラケット112bを介して、他方のサイドフレーム106にまで分散される(矢印G参照)。
【0054】
図7は、図3の車体構造100のサイドフレーム104がオフセット衝突により変形した様子を示す図である。なお図中には、変形前のサイドフレーム104の外形を鎖線で示している。
【0055】
車体構造100では、図5に示すようにサイドフレーム104の少なくとも傾斜部116の上面124すなわち前突時に最も入力荷重が集中し易い部位を、その内部から第1部材146と第2部材148とを含む補強部材で補強している。このため、サイドフレーム104は、オフセット衝突時に図7に示す入力荷重(矢印D)を受けると、傾斜部116の変形を抑制され、その結果、傾斜部116よりも前側となる前方部分174が上方に移動するように変形する。
【0056】
したがって本実施例にかかる車体構造100によれば、前突時でのサイドフレーム104、106の傾斜部116、118の変形を抑制することで、傾斜部116、118よりも前側で変形が生じることになり、キャビン120の変形を抑制できる。さらにダッシュパネル128の変形も抑制できるため、ペダル後退抑制機構の作動を阻害しないようにすることが可能である。
【0057】
また第1部材146および第2部材148は、傾斜部116の上面124に車幅方向に離間して配置された別部材である。このため、第1部材146および第2部材148の板厚や車両前後方向の長さは、互いに異ならせることができる。さらに第1部材146および第2部材148は、図6(b)に示すようにサイドフレーム104の側面まで補強する断面L字型の部材としている。このため、第1部材146および第2部材148は、傾斜部116の上面124の車内側および車外側の上側角部164、172をそれぞれ補強できる。したがって車体構造100によれば、第1部材146と第2部材148とを別々に設計可能であるため、前突時における傾斜部116の変形を、より自由度の高い方法で抑制することが可能である。なお図中では、第1部材146および第2部材148の両方を断面L字型の部材としたが、これに限られず、いずれか一方のみを断面L字型の部材としてもよい。
【0058】
また車体構造100では、別部材である第1部材146と第2部材148とを車幅方向に離間して配置しているため、傾斜部116の上面124にわたるような大きな補強部材で上面124を補強する場合に比べ、重量増加を抑えることもできる。
【0059】
また車体構造100では、サイドフレーム104の内部を補強する補強部材のうち車内側の第1部材146を、車外側の第2部材148よりも車両後側まで延ばして末広がり部130まで到達する形状としている。このため、第1部材146は、傾斜部116だけでなく末広がり部130も補強できる。したがって車体構造100では、サイドフレーム104の車内側を第1部材146によって重点的に補強し、第2部材148によって車外側を補強することで、車内側と車外側との剛性のバランスをとることができる。
【0060】
さらに前突時の入力荷重に耐える第1部材146は、側方から見て、クロスメンバ108dの取付箇所からクロスメンバ108eの取付箇所までにわたって重なっている。このため、第1部材146は、クロスメンバ108d、108eの取付箇所を介してクロスメンバ108d、108eに荷重を伝達できる。したがって車体構造100では、クロスメンバ108d、108eが第1部材146の後ろ盾の役割を果たし、サイドフレーム104の車幅方向への変形をより十全に抑制できる。
【0061】
また第2部材148は、側方から見て、クロスメンバ108dのサイドフレーム104への取付箇所に重なっている。このため車体構造100では、第1部材146だけでなく第2部材148で受けた荷重もクロスメンバ108dに伝達し分散できる。
【0062】
また車体構造100では、オフセット衝突時に一方のサイドフレーム104に入力された荷重を、上下方向から見てX字状に形成されたクロスメンバ108d、108eによって、他方のサイドフレーム106に伝達し分散できる。したがって、車体構造100によれば、前突時の衝撃を確実に分散でき、サイドフレーム104の変形をより十全に防止できる。
【0063】
またクロスメンバ108d、108eは、側方から見て、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118、末広がり部130、132にそれぞれ重なるように、サイドフレーム104、106に差し渡されている。このため、クロスメンバ108d、108eはそれぞれ、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118、末広がり部130、132の後ろ盾としての役割を果たすことになる。したがって車体構造100によれば、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118および末広がり部130、132の車幅方向への変形を十全に抑制できる。その結果として、傾斜部116、118よりも前側での車両上下方向の変形を促し、キャビン120の変形などを十分に抑制できる。
【0064】
またサスペンションブラケット142およびバルクヘッド150は、側方から見てクロスメンバ108dの取付箇所に重なっている。このため車体構造100では、サイドフレーム104の傾斜部116が第1部材146および第2部材148に加え、バルクヘッド150さらには剛性の高いサスペンションブラケット142によっても補強されるため、剛性を高めることができる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、車体構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
100…車体構造、104、106…サイドフレーム、108a〜108i…クロスメンバ、110a、110b、112a、112b…ブラケット、114…接合部材、115…閉断面、116、118…傾斜部、120…キャビン、122…パワーユニットルーム、124、126…傾斜部の上面、128…ダッシュパネル、130、132…末広がり部、134…インナ部材、136…アウタ部材、138、140…ボディマウントブラケット、142、144…サスペンションブラケット、146…第1部材、148…第2部材、150、154…バルクヘッド、152…第3部材、156…第1部材の上端部、158…第1部材の側端部、160…インナ部材の上壁、162…インナ部材の側壁、164…インナ部材の上側角部、166…第2部材の上端部、168…第2部材の側端部、170…アウタ部材の側壁、172…アウタ部材の上側角部、174…サイドフレームの前方部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7