【実施例】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0028】
図1は、本発明の実施例に係る車体構造100および車体構造100に配置されるキャビン120を概略的に示す図である。図中では車体構造100およびキャビン120を斜め下方から見た状態を示している。以下、各図に示す矢印X、Yは車両前側、車両右側をそれぞれ示している。
【0029】
車体構造100は、車幅方向に離間して配置される一対のサイドフレーム104、106と、一対のサイドフレーム104、106間に差し渡された複数のクロスメンバ108a〜108iとを備えている。車体構造100は、これらの部材によって図示のような枠状のフレーム構造を形成している。また車体構造100は、図示のようにフレーム構造の上方にキャビン120を配置するような形式の車両に適用可能である。
【0030】
図2は、
図1の車体構造100の一部を示す図である。図中では車体構造100を上方から見た状態を示している。
図3は、
図2の車体構造100のA矢視図である。
【0031】
クロスメンバ108a〜108iのうち、車両前側から4番目・5番目には、
図2に示すように第1クロスメンバ(クロスメンバ108d)、第2クロスメンバ(クロスメンバ108e)が位置している。クロスメンバ108dは、車幅方向両端部が車幅方向中央部よりも車両前側に位置するように屈曲していて、車幅方向両端部がブラケット110a、110bを介してサイドフレーム104、106にそれぞれ接合されている。このため、一対のサイドフレーム104、106の各々のクロスメンバ108dの取付箇所は、ブラケット110a、110bの位置に対応している。
【0032】
クロスメンバ108eは、クロスメンバ108dよりも車両後側で一対のサイドフレーム104、106に差し渡されていて、車幅方向両端部が車幅方向中央部よりも車両後側に位置するように屈曲している。クロスメンバ108eは、車幅方向両端部がブラケット112a、112bを介してサイドフレーム104、106にそれぞれ接合されている。このため、一対のサイドフレーム104、106の各々のクロスメンバ108eの取付箇所は、ブラケット112a、112bの位置に対応している。またクロスメンバ108d、108eは、
図2に示すように、互いの車幅方向中央部が接合部材114で接合され、上下方向から見て平面視でX字状に形成されている。
【0033】
サイドフレーム104、106は、車両前後方向に延びていて、
図2に示すように互いに対称な形状を有している。またサイドフレーム104、106は、矩形状の閉断面115(
図6参照)を有する部材である。
【0034】
さらにサイドフレーム104には、
図3に示すように、車両後方にゆくほど下降するように傾斜した傾斜部116が形成されている。なおサイドフレーム106にも同様に傾斜部118(
図2参照)が形成されている。このため、サイドフレーム104、106は、傾斜部116、118の前後で高低差のある形状となっている。
【0035】
具体的には、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118の後側すなわちキャビン120(
図1参照)が位置する側は、傾斜部116、118の前側すなわちパワーユニットルーム122が位置する側よりも高さが低くなっている。このため、キャビン120において、キャビン120の空間を十分に確保できる。一方、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118の前側は、後側よりも高さが高くなっている。このため、キャビン120よりも前方に位置するパワーユニットルーム122において、前突による衝撃を高い位置で受けることができる。ところが、このような高低差のあるサイドフレーム104、106では、前突時の入力荷重が傾斜部116、118の上面124、126(
図2参照)に集中し易く、傾斜部116、118が変形の起点となり得る。
【0036】
さらに傾斜部116、118は、
図1に示すように、キャビン120とパワーユニットルーム122とを区画するダッシュパネル128の下方に位置している。このため、傾斜部116、118が上方に向かって変形してしまうとキャビン120が変形し、乗員傷害値が悪化することがあり得る。さらに傾斜部116、118が上方に向かって変形することでダッシュパネル128が変形し、いわゆるペダル後退抑制機構(不図示)が作動しても安全性の評価基準(NCAP)の要求性能を満たせないことがあり得る。
【0037】
また
図2に示すように、サイドフレーム104、106には、傾斜部116、118の後側に位置し車両後側にゆくほど車幅方向外側に向かう末広がり部130、132も形成されている。このため、サイドフレーム104、106では、前突時に末広がり部130、132の前後において車幅方向外側よりも車幅方向内側の方がより入力荷重を受けることになる。
【0038】
そこで本実施例では、サイドフレーム104、106の少なくとも傾斜部116、118、すなわち傾斜部116、118だけでなく末広がり部130、132にもわたって、サイドフレーム104、106をその内部から補強する構成を採用した。以下では、サイドフレーム104の傾斜部116、末広がり部130およびその周辺の構成について主に説明するが、サイドフレーム106の傾斜部118、末広がり部132およびその周辺も同様の構成および機能などを有する。
【0039】
図4は、
図2の車体構造100のB矢視図である。サイドフレーム104は、車内側に位置するインナ部材134と、車外側に位置するアウタ部材136とを有し、これらの部材が接合することで矩形状の閉断面115(
図6参照)を形成している。
【0040】
サイドフレーム104のアウタ部材136の車幅方向外側には、
図4に示すようにボディマウントブラケット138が配置されている。またサイドフレーム106の車幅方向外側にはボディマウントブラケット140が配置されている。これら一対のボディマウントブラケット138、140は、一対のサイドフレーム104、106とキャビン120とを接続する剛性の高いブラケットである。
【0041】
クロスメンバ108dは、
図3および
図4に示すように、側方から見て、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118に重なるように、ブラケット110a、110bを介してサイドフレーム104、106に差し渡されている。さらにサイドフレーム104の傾斜部116の下側には、
図3に示すようにサスペンションブラケット142が配置されている。また、サイドフレーム106の傾斜部118の下側には、
図4に示すようにサスペンションブラケット144が配置されている。
【0042】
これら一対のサスペンションブラケット142、144は、不図示の前輪を懸架するブラケットであり、高い剛性でサイドフレーム104、106に固定されている。またサスペンションブラケット142、144は、側方から見てブラケット110a、110bに重なる位置に配置されている。
【0043】
クロスメンバ108eは、
図3および
図4に示すように、側方から見て、サイドフレーム104、106の末広がり部130、132に重なるように、ブラケット112a、112bを介してサイドフレーム104、106に差し渡されている。
【0044】
図5は、
図4の車体構造100の一部を省略して示す図である。図中では、サイドフレーム104のインナ部材134およびアウタ部材136、さらにボディマウントブラケット138を省略して、サイドフレーム104の内部を示している。
図6は、
図4の車体構造100のC−C断面を示す図である。
図6(a)は、サイドフレーム104の断面だけでなく、サイドフレーム104の断面よりも車両後方にある周辺構造も含めて示している。
図6(b)は、
図6(a)のサイドフレーム104の断面のみを模式的に示している。
【0045】
車体構造100はさらに、
図5に示すように、サイドフレーム104をその内部から補強する補強部材として、第1部材146、第2部材148およびバルクヘッド150と、第3部材152およびバルクヘッド154とを備える。なお図中では、第1部材146にハッチングを施している。
【0046】
第1部材146は、
図6(b)に示すように、傾斜部116の上面124の車内側に配置されている。第1部材146は、断面L字型の部材であり、上端部156と側端部158とを有する。上端部156は、インナ部材134の上壁160に接合される。側端部158は、上端部156から車両下側に屈曲し、インナ部材134の側壁162に接合される。このように第1部材146は、上端部156と側端部158とでインナ部材134の上側角部164を跨ぐようにして、インナ部材134に接合されている。
【0047】
第2部材148は、
図6(b)に示すように、傾斜部116の上面124の車外側に配置されていて、第1部材146から離間している。第2部材148は、断面L字型の部材であり、上端部166と側端部168とを有する。上端部166は、インナ部材134の上壁160に接合される。側端部168は、上端部166から車両下側に屈曲し、アウタ部材136の側壁170に接合される。このように第2部材148は、上端部166と側端部168とでアウタ部材136の上側角部172を跨ぐようにして、インナ部材134およびアウタ部材136に接合されている。
【0048】
さらに第1部材146は、
図5にハッチングで示すように、第2部材148よりも車両後方まで延びていて、傾斜部116の車両後側に位置する末広がり部130まで到達している。より具体的には、第1部材146は、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108cの取付箇所付近から、クロスメンバ108dの取付箇所となるブラケット110aを経て、クロスメンバ108eの取付箇所となるブラケット112aまで到達している。すなわち第1部材146は、側方から見て、サイドフレーム104のうち少なくともクロスメンバ108dの取付箇所からクロスメンバ108eの取付箇所までにわたって重なっている。このようにして、第1部材146は、サイドフレーム104の傾斜部116だけでなく末広がり部130も補強している。
【0049】
第2部材148は、
図5に示すように、クロスメンバ108cの取付箇所付近から、クロスメンバ108dの取付箇所となるブラケット110aまで到達している。すなわち第2部材148は、側方から見て、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108dの取付箇所に重なっている。このようにして、第2部材146は、サイドフレーム104の傾斜部116を補強している。
【0050】
バルクヘッド150は、
図5に示すように第2部材148の車両後側に位置していて、サイドフレーム104のインナ部材134およびアウタ部材136に接合されている。またバルクヘッド150は、側方から見てブラケット110aに重なっている。
【0051】
第3部材152は、バルクヘッド150の車両後側に位置し、第1部材146から車外側に離間していて、第1部材146とともに末広がり部130を補強している。また第3部材152は、クロスメンバ108eの取付箇所となるブラケット112aまで到達している。すなわち第3部材152は、側方から見て、サイドフレーム104のうちクロスメンバ108eの取付箇所に重なっている。
【0052】
バルクヘッド154は、インナ部材134およびアウタ部材136に接合されていて、末広がり部130を内部から補強している。またバルクヘッド154は、
図5に示すように側方から見て、第3部材152とともにブラケット112aに重なっている。
【0053】
ここで前突時、特に車両前面の左右いずれかに衝撃力が集中するオフセット衝突時において、車体構造100のサイドフレーム104に衝撃力が集中した場合について説明する。
図2に示すように一方のサイドフレーム104に入力された入力荷重(矢印D参照)は、後方に伝達され、その一部がブラケット110aを介してクロスメンバ108dに分散され、車幅方向中央部に向けて斜め後方に伝達される(矢印E参照)。クロスメンバ108dの車幅方向中央部に伝達された荷重は、接合部材114を介してさらに斜め後方に延びるクロスメンバ108eに伝達される(矢印F参照)。クロスメンバ108eに伝達された荷重は、サイドフレーム106の傾斜部118よりも車両後方に位置するブラケット112bを介して、他方のサイドフレーム106にまで分散される(矢印G参照)。
【0054】
図7は、
図3の車体構造100のサイドフレーム104がオフセット衝突により変形した様子を示す図である。なお図中には、変形前のサイドフレーム104の外形を鎖線で示している。
【0055】
車体構造100では、
図5に示すようにサイドフレーム104の少なくとも傾斜部116の上面124すなわち前突時に最も入力荷重が集中し易い部位を、その内部から第1部材146と第2部材148とを含む補強部材で補強している。このため、サイドフレーム104は、オフセット衝突時に
図7に示す入力荷重(矢印D)を受けると、傾斜部116の変形を抑制され、その結果、傾斜部116よりも前側となる前方部分174が上方に移動するように変形する。
【0056】
したがって本実施例にかかる車体構造100によれば、前突時でのサイドフレーム104、106の傾斜部116、118の変形を抑制することで、傾斜部116、118よりも前側で変形が生じることになり、キャビン120の変形を抑制できる。さらにダッシュパネル128の変形も抑制できるため、ペダル後退抑制機構の作動を阻害しないようにすることが可能である。
【0057】
また第1部材146および第2部材148は、傾斜部116の上面124に車幅方向に離間して配置された別部材である。このため、第1部材146および第2部材148の板厚や車両前後方向の長さは、互いに異ならせることができる。さらに第1部材146および第2部材148は、
図6(b)に示すようにサイドフレーム104の側面まで補強する断面L字型の部材としている。このため、第1部材146および第2部材148は、傾斜部116の上面124の車内側および車外側の上側角部164、172をそれぞれ補強できる。したがって車体構造100によれば、第1部材146と第2部材148とを別々に設計可能であるため、前突時における傾斜部116の変形を、より自由度の高い方法で抑制することが可能である。なお図中では、第1部材146および第2部材148の両方を断面L字型の部材としたが、これに限られず、いずれか一方のみを断面L字型の部材としてもよい。
【0058】
また車体構造100では、別部材である第1部材146と第2部材148とを車幅方向に離間して配置しているため、傾斜部116の上面124にわたるような大きな補強部材で上面124を補強する場合に比べ、重量増加を抑えることもできる。
【0059】
また車体構造100では、サイドフレーム104の内部を補強する補強部材のうち車内側の第1部材146を、車外側の第2部材148よりも車両後側まで延ばして末広がり部130まで到達する形状としている。このため、第1部材146は、傾斜部116だけでなく末広がり部130も補強できる。したがって車体構造100では、サイドフレーム104の車内側を第1部材146によって重点的に補強し、第2部材148によって車外側を補強することで、車内側と車外側との剛性のバランスをとることができる。
【0060】
さらに前突時の入力荷重に耐える第1部材146は、側方から見て、クロスメンバ108dの取付箇所からクロスメンバ108eの取付箇所までにわたって重なっている。このため、第1部材146は、クロスメンバ108d、108eの取付箇所を介してクロスメンバ108d、108eに荷重を伝達できる。したがって車体構造100では、クロスメンバ108d、108eが第1部材146の後ろ盾の役割を果たし、サイドフレーム104の車幅方向への変形をより十全に抑制できる。
【0061】
また第2部材148は、側方から見て、クロスメンバ108dのサイドフレーム104への取付箇所に重なっている。このため車体構造100では、第1部材146だけでなく第2部材148で受けた荷重もクロスメンバ108dに伝達し分散できる。
【0062】
また車体構造100では、オフセット衝突時に一方のサイドフレーム104に入力された荷重を、上下方向から見てX字状に形成されたクロスメンバ108d、108eによって、他方のサイドフレーム106に伝達し分散できる。したがって、車体構造100によれば、前突時の衝撃を確実に分散でき、サイドフレーム104の変形をより十全に防止できる。
【0063】
またクロスメンバ108d、108eは、側方から見て、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118、末広がり部130、132にそれぞれ重なるように、サイドフレーム104、106に差し渡されている。このため、クロスメンバ108d、108eはそれぞれ、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118、末広がり部130、132の後ろ盾としての役割を果たすことになる。したがって車体構造100によれば、サイドフレーム104、106の傾斜部116、118および末広がり部130、132の車幅方向への変形を十全に抑制できる。その結果として、傾斜部116、118よりも前側での車両上下方向の変形を促し、キャビン120の変形などを十分に抑制できる。
【0064】
またサスペンションブラケット142およびバルクヘッド150は、側方から見てクロスメンバ108dの取付箇所に重なっている。このため車体構造100では、サイドフレーム104の傾斜部116が第1部材146および第2部材148に加え、バルクヘッド150さらには剛性の高いサスペンションブラケット142によっても補強されるため、剛性を高めることができる。
【0065】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。