(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
化学組成が、質量%で、C:0.11〜0.20%、Si:0.15〜0.35%、Mn:1.25〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.020%以下、Cr:0.10〜0.25%、V:0.01〜0.10%、Cu:0.10%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、B:0.0020%以下、Ti:0〜0.03%、残部:Fe及び不純物である素管を準備する工程と、
前記素管を、50℃/秒以上の昇温速度でAc3点以上の温度に加熱した後、少なくとも850〜500℃の温度範囲の冷却速度が50℃/秒以上になるように冷却して焼入れする工程と、
前記焼入れした素管を、引張強さが700MPa以上になるように焼戻しする工程とを備え、
前記化学組成を下記の式に代入して得られる炭素当量CEVが0.36〜0.43である、請求項1に記載の継目無鋼管の製造方法。
CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
上式の元素記号には、それぞれの元素の含有量が質量%で代入される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するため、種々の検討を行った。その結果、炭素当量を所定の範囲に制限した上で、旧オーステナイト粒の大きさが結晶粒度番号で9.0以上である組織とすれば、焼戻しの条件を調整することによって、高強度、高靱性、及び優れた加工性の3つを同時に満たせることを見出した。
【0013】
本発明者らはまた、所定の化学組成を有する素管を、50℃/秒以上の昇温速度でAc
3点以上の温度に加熱した後、少なくとも850〜500℃の温度範囲の冷却速度が50℃/秒以上になるように冷却して焼入れすれば、旧オーステナイト粒の大きさが結晶粒度番号で9.0以上である組織が得られることを明らかにした。
【0014】
以上の知見に基づいて、本発明は完成された。以下、本発明の一実施形態による継目無鋼管及びその製造方法を詳述する。
【0015】
[化学組成]
本実施形態による継目無鋼管は、以下に説明する化学組成を有する。以下の説明において、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0016】
C:0.11〜0.20%
炭素(C)は、鋼の強度を向上させる。C含有量が低すぎると、所望の強度を得るために低温での焼戻しが必要になり、その結果として靱性の低下を招く。一方、C含有量が高すぎると、鋼の加工性及び溶接性が低下する。したがって、C含有量は0.11〜0.20%である。C含有量の下限は、好ましくは0.12%である。C含有量の上限は、好ましくは0.19%であり、さらに好ましくは0.18%である。
【0017】
Si:0.15〜0.35%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる。Si含有量が低すぎると、これらの効果が十分に得られない。一方、Si含有量が高すぎると、鋼の靱性が低下する。したがって、Si含有量は0.15〜0.35%である。Si含有量の下限は、好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.23%である。Si含有量の上限は、好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.28%である。
【0018】
Mn:1.25〜1.50%
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼の焼入れ性を高めて強度を向上させる。Mn含有量が低すぎると、これらの効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が高すぎると、MnSの粗大化が起こり鋼の靱性が低下する。したがって、Mn含有量は1.25〜1.50%である。Mn含有量の下限は、好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.35%である。Mn含有量の上限は、好ましくは1.45%であり、さらに好ましくは1.40%である。
【0019】
P:0.030%以下
燐(P)は不純物である。Pは粒界に偏析して鋼の靱性を低下させる。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量は、好ましく0.025%以下であり、さらに好ましくは0.020%以下である。
【0020】
S:0.020%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が高すぎると、MnSの粗大化が起こり、鋼の靱性が低下する。したがって、S含有量は0.020%以下である。S含有量は、好ましくは0.015%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。
【0021】
Cr:0.10〜0.25%
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗を高め、鋼の強度と靱性とを向上させる。Cr含有量が低すぎると、これらの効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が高すぎると、鋼の加工性及び溶接性が低下する。したがって、Cr含有量は0.10〜0.25%である。Cr含有量の下限は、好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.15%である。Cr含有量の上限は、好ましくは0.22%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0022】
V:0.01〜0.10%
バナジウム(V)は、析出強化によって鋼の強度を高める。V含有量が低すぎると、この効果が十分に得られない。一方、V含有量が高すぎると、鋼の加工性及び靱性が低下する。したがって、V含有量は0.01〜0.10%である。V含有量の下限は、好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。V含有量の上限は、好ましくは0.08%である。
【0023】
Cu:0.10%以下
銅(Cu)は不純物である。Cuは鋼の熱間加工性を低下させる。Cu含有量は0.10%以下である。Cu含有量は、好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは002%以下である。
【0024】
Ni:0.10%以下
ニッケル(Ni)は不純物である。Ni含有量は0.10%以下である。Ni含有量は、さらに好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは0.02%以下である。
【0025】
Mo:0.10%以下
モリブデン(Mo)は不純物である。Mo含有量が高すぎると、鋼の溶接性及び靱性が低下する。したがって、Mo含有量は0.10%以下である。Mo含有量は、好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは0.02%以下である。
【0026】
B:0.0020%以下
ボロン(B)は不純物である。B含有量が高すぎると、靱性及び溶接性が低下する。したがって、B含有量は0.0020%以下である。B含有量は、好ましくは0.0018%以下であり、さらに好ましくは0.0015%以下である。
【0027】
本実施形態による継目無鋼管の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここでいう不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップから混入される元素、あるいは製造過程の環境等から混入される元素をいう。
【0028】
本実施形態による継目無鋼管の化学組成は、Feの一部に代えて、Tiを含有してもよい。Tiは選択元素である。すなわち、本実施形態による継目無鋼管の化学組成は、Tiを含有していなくてもよい。
【0029】
Ti:0〜0.03%
チタン(Ti)は、窒化物のピン止め効果によって結晶粒を微細化する。Tiが少しでも含有されていれば、この効果が得られる。一方、Ti含有量が高すぎると、窒化物が粗大化して靱性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.03%である。Ti含有量の下限は、好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.015%である。Ti含有量の上限は、好ましくは0.028%であり、さらに好ましくは0.025%である。
【0030】
[炭素当量CEV]
本実施形態による継目無鋼管は、化学組成を下記の式に代入して得られる炭素当量CEVが0.36〜0.43である。
CEV=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Cu+Ni)/15
上記の式の元素記号には、それぞれの元素の含有量が質量%で代入される。
【0031】
炭素当量CEVが小さいと、高強度を得るために焼戻し温度を低くするか、焼戻しの保持時間を短くする必要がある。しかし、焼戻し温度を低くしたり焼戻しの保持時間を短くしたりすると、靱性が低下する。炭素当量CEVが0.36よりも小さいと、700MPa以上の高強度と必要な靱性とを両立することができない。一方、炭素当量CEVが0.43よりも大きいと、必要な加工性が得られない。具体的には、25%以上の伸びが得られない。炭素当量CEVの下限は、好ましくは0.38であり、さらに好ましくは0.39である。炭素当量CEVの上限は、好ましくは0.41であり、さらに好ましくは0.40である。
【0032】
[組織]
本実施形態による継目無鋼管は、焼戻しマルテンサイトを主相とする組織を有する。本実施形態による継目無鋼管は、焼戻しマルテンサイトの面積率が好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
【0033】
本実施形態による継目無鋼管は、旧オーステナイト粒の大きさが、ASTM E112−13に準拠した結晶粒度番号(以下、単に「結晶粒度番号」という。)で9.0以上である。旧オーステナイト粒の大きさが結晶粒度番号で9.0よりも小さければ、焼戻し条件を調整しても、700MPa以上の高強度と必要な靱性とを両立することができない。旧オーステナイト粒の大きさは、好ましくは結晶粒度番号で10.0以上であり、さらに好ましくは10.5以上である。
【0034】
旧オーステナイト粒の結晶粒度番号は、圧延方向と垂直な断面が被検面になるように、各鋼管から試験片を切り出して樹脂に埋め込み、ピクリン酸飽和水溶液で腐食するBechet-Beaujard法によって旧オーステナイト粒界を現出させ、ASTM E112−13に準じて測定する。
【0035】
旧オーステナイト粒の結晶粒度番号は、焼入れ後、焼戻し前の鋼材(いわゆる焼入れまま材)を用いて測定してもよいし、焼戻しされた鋼材を用いて測定してもよい。いずれの鋼材を用いても、旧オーステナイト粒の結晶粒度番号はほとんど変わらない。
【0036】
なお、焼戻し後の鋼材に対しては、電子線後方散乱回折法(EBSD)等の方法を用いて、結晶の方位関係から旧オーステナイト結晶粒のASTM粒度番号を求めることもできる。この場合、焼戻し後の継目無鋼管の金属組織をEBSDによって、次のように測定する。焼戻し後の継目無鋼管の横断面(圧延方向と垂直な断面)の肉厚中央位置からサンプルを採取する。採取したサンプルを用いて500×500μm
2の観察範囲でEBSDによって結晶方位解析を行い、Misorientation Angleが15〜51°の範囲にある粒同士の境界を旧オーステナイト粒界と定義して、線描画させ、その描画図を元に、ASTM E112−13に準拠して結晶粒度番号を求める。
【0037】
[機械的特性]
本実施形態による継目無鋼管は、引張強さが700MPa以上であり、伸びが25%以上である。
【0038】
引張強さ及び伸びは、次のように測定する。試験片の長手方向が継目無鋼管の圧延方向と平行になるように、JIS Z 2241に準拠した管状引張試験片(標点間距離50mm)を採取する。この試験片を用いて、常温(25℃)、大気中で引張試験を実施して引張強さと伸びを測定する。なお、伸びは破断伸びを意味する。
【0039】
引張強さは、成分及び焼戻し条件によって調整することができる。すなわち、炭素当量CEVを大きくするか、焼戻し温度を低くするか、あるいは焼戻しの保持時間を短くすることで、引張強さを大きくすることができる。継目無鋼管の引張強さは、好ましくは720MPa以上であり、さらに好ましくは740MPa以上である。
【0040】
伸びは、成分及び焼戻し条件によって調整することができる。すなわち、炭素当量CEVを小さくするか、焼戻し温度を高くすることで、伸びを大きくすることができる。継目無鋼管の伸びは、好ましくは28%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。
【0041】
本実施形態による継目無鋼管は、好ましくは、シャルピー衝撃試験によって得られる破面遷移温度vTrsが−40℃以下である。本実施形態による継目無鋼管は、さらに好ましくは、破面遷移温度vTrsが−50℃以下であり、さらに好ましくは−60℃以下である。
【0042】
破面遷移温度vTrsは、次のように測定する。試験片の長手方向が継目無鋼管の圧延方向と平行になるように、JIS Z 2242に規定されたVノッチ試験片(幅2.5mm、高さ10mm、長さ55mm、ノッチ深さ2mm)を採取する。ただし、継目無鋼管の肉厚が薄く幅2.5mmの試験片が採取できない場合、肉厚と同じ幅の試験片とする。それ以外はJIS Z 2242に準拠して、破面遷移温度vTrsを求める。
【0043】
本実施形態による継目無鋼管は、好ましくは、−40℃におけるシャルピー衝撃試験によって得られる吸収エネルギーが180J/cm
2以上である。本実施形態による継目無鋼管は、さらに好ましくは、−40℃におけるシャルピー衝撃試験によって得られる吸収エネルギーが200J/cm
2以上である。
【0044】
[製造方法]
以下、本発明の一実施形態による継目無鋼管の製造方法を説明する。
図1は、本実施形態による継目無鋼管の製造方法のフロー図である。本実施形態による継目無鋼管の製造方法は、素管を準備する工程(ステップS1)、素管を焼入れする工程(ステップS2)、及び焼入れした素管を焼戻しする工程(ステップS3)を備えている。
【0045】
[素管を準備する工程(ステップS1)]
上述した化学組成を有する素管を準備する。素管(継目無鋼管)は例えば、マンネスマン−マンドレル法や、ユジーン−セジュルネ法によって製造されたものを用いることができる。
【0046】
[素管を焼入れする工程(ステップS2)]
上記で準備した素管を焼入れする。素管を焼入れする工程は、加熱工程(ステップS2−1)と、冷却工程(ステップS2−2)とを含んでいる。
【0047】
加熱工程(ステップS2−1)では、素管を50℃/秒以上の昇温速度でAc
3点以上の温度に加熱する。加熱温度がAc
3点未満では、均一な組織が得られない。加熱温度の下限は、好ましくはAc
3点+50℃である。一方、加熱温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化する。加熱温度の上限は、好ましくは1050℃である。
【0048】
加熱工程の昇温速度を50℃/秒以上とすることで、オーステナイト粒の成長を抑制することができる。これによって、熱処理後の組織の旧オーステナイト粒を微細化することができる。加熱工程の昇温速度が50℃/秒未満では、熱処理後の組織の旧オーステナイト粒を9.0以上にすることが困難になる。加熱工程の昇温速度は、好ましくは80℃/秒以上であり、さらに好ましくは100℃/秒以上である。
【0049】
Ac
3点以上の温度での保持時間は、好ましくは0.5〜8秒であり、さらに好ましくは1〜4秒である。保持時間が短すぎると、均一な組織が得られない場合がある。一方、保持時間が長すぎると、特に加熱温度が高い場合、オーステナイト粒が粗大化する可能性がある。
【0050】
冷却工程(ステップS2−2)では、加熱した素管を冷却する。このとき、少なくとも850〜500℃の温度範囲の冷却速度が50℃/秒以上になるように冷却する。この温度領域の冷却速度が50℃/秒よりも小さいと、マルテンサイトの比率が低下し、十分な強度が得られなくなる。850〜500℃の温度範囲の冷却速度は、好ましくは80℃/秒以上であり、より好ましくは100℃/秒以上である。
【0051】
冷却工程(ステップS2−2)は例えば、素管にノズルから冷媒を噴射することによって行うことができる。冷媒は、例えば水である。
【0052】
このような焼入れ工程(ステップS2)は、例えば
図2のような高周波誘導加熱方法を採用した設備で行うことができる。
図2の設備では、素管Pは長手方向に送られながら、高周波誘導加熱コイル10によってAc
3点以上に加熱される。加熱された部位は、高周波誘導加熱コイル10の下流側に近接して設けられた冷却装置20(例えばスプレーで冷却水を噴射する冷却装置)により冷却される。この場合、昇温速度や温度は、素管Pのサイズに応じて、高周波誘導加熱コイル10の出力、高周波誘導加熱コイル10内を通過させるときの素管Pの送り速度等によって調整することができる。
【0053】
上述した化学組成の素管に、上述した焼入れ工程(ステップS2)を実施すれば、旧オーステナイト粒の大きさが結晶粒度番号で9.0以上である組織が得られる。
【0054】
また、上述した焼入れ工程(ステップS2)によれば、脱炭層深さを小さくできる。具体的には、脱炭層深さを0.1mm以下にすることができる。
【0055】
[素管を焼戻しする工程(ステップS3)]
焼入れした素管を、引張強さが700MPa以上になるように焼戻しする。既述のように、引張強さを大きくするには、焼戻し温度を低くするか、あるいは保持時間を短くすればよい。一方、焼戻し温度を低くしたり、保持時間を短くしたりすると、靱性が低下する。そのため、700MPa以上の強度を確保した上で、要求される引張強さと靱性の程度に応じて、焼戻し条件を調整する。
【0056】
焼戻し温度がAc
1点を超えると、強度が急激に低下する。そのため、焼戻し温度は、好ましくはAc
1点以下である。焼戻しの温度の下限は、これに限定されないが、好ましくは550℃であり、さらに好ましくは600℃である。保持時間は、これに限定されないが、好ましくは10分〜2時間であり、さらに好ましくは20分〜1時間である。なお、焼戻しの条件を変えても、旧オーステナイト粒の大きさはほとんど変化しない。
【0057】
以上の工程によって、継目無鋼管が製造される。本実施形態によって製造された継目無鋼管は、700MPa以上の引張強さと、25%以上の伸びと、優れた靱性と有する。
【0058】
なお、製造する継目無鋼管の寸法等を調整するため、冷間加工を実施してもよい。冷間加工は、焼入れ工程(ステップS2)の前、及び焼戻し工程(ステップS3)の後のいずれのタイミングで実施してもよい。ただし、焼戻し工程(ステップS3)の後に実施する場合、冷間加工後に、冷間加工によって導入された応力を除去するための熱処理を実施することが好ましい。一方、焼入れ工程(ステップS2)の前に冷間加工を実施すれば、応力除去のための熱処理を省略することができる。そのため、冷間加工を実施する場合には、焼入れ工程(ステップS2)の前に実施することが好ましい。
【0059】
以上、本実施形態による継目無鋼管及びその製造方法を説明した。従来、700MPa以上の引張強さと優れた靱性とを両立しようとすると、炭素当量を大きくする必要があり、25%以上の伸びを達成することができなかった。反対に、炭素当量を小さくすると、焼戻し条件を調整しても、700MPa以上の引張強さと優れた靱性とを両立することができなかった。本実施形態では、炭素当量を所定の範囲に限定した上で、旧オーステナイト粒が結晶粒度番号で9.0以上である組織とする。これによって、700MPa以上の引張強さと、25%以上の伸びと、優れた靱性とを同時に達成することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
【0061】
マンネスマン−マンドレル法により、表1に示す化学組成を有する、外径63.5mm×肉厚5.1mm、及び外径50.8mm×肉厚4.1mmの素管を製造した。
【0062】
【表1】
【0063】
上記の素管に対し、表2に示す条件で冷間抽伸及び熱処理を実施して、継目無鋼管を製造した。
【0064】
【表2】
【0065】
No.1〜4、9〜13では、素管を冷間抽伸によって外径54.0mm×肉厚4.5mmに加工した後、焼入れ焼戻しの熱処理を実施して継目無鋼管を製造した。焼入れは、素管を高周波誘導加熱コイルで表2の「焼入れ温度」の欄に記載の温度まで加熱した後、シャワー水冷をすることで行った。昇温速度は、約150℃/秒であり、加熱温度での保持時間は2秒であり、850〜500℃の温度範囲の冷却速度は約150℃/秒であった。その後、表2の「焼戻し温度」の欄に記載された温度で30分間保持する焼戻しを実施した。
【0066】
No.5〜8、14及び15では、焼入れ焼戻しの熱処理を実施してから、冷間抽伸によって外径42.7mm×肉厚3.5mmに加工し、その後、応力除去のための熱処理を実施して継目無鋼管を製造した。焼入れは、素管を加熱炉で表2の「焼入れ温度」の欄に記載の温度まで加熱した後、シャワー水冷をすることで行った。昇温速度は、約15℃/秒であり、加熱温度での保持時間は30分であり、850〜500℃の温度範囲の冷却速度は約20℃/秒であった。その後、表2の「焼戻し温度」の欄に記載された温度で30分間保持する焼戻しを実施した。応力除去の熱処理は、580℃で20分間保持することで行った。
【0067】
各継目無鋼管について、内外面及び肉厚方向の中心部において焼入れ後焼戻し前のミクロ組織を測定し、全領域でマルテンサイトの面積率が95%以上であることを確認した。具体的には圧延方向に垂直な横断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、ナイタールエッチング溶液でエッチングして、倍率500倍で観察した。また、焼入れ後焼戻し前の素管から試験片を切り出し、実施形態で説明したBechet-Beaujard法によって結晶粒度番号を測定した。また、全ての熱処理完了後、脱炭層深さを測定した。
【0068】
各継目無鋼管の機械的特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEL、降伏比YR、−40℃でのシャルピー衝撃値vE
−40、破面遷移温度vTrs)を、実施形態で説明した方法によって測定した。なお、降伏強さYSは、引張試験で得られた0.2%伸び時の応力とした。また、シャルピー試験は、幅2.5mmの試験片で測定し、吸収エネルギーを断面積で規格化した値をシャルピー衝撃値(J/cm
2)とした。また、−40℃でのシャルピー衝撃値vE
−40は、3つの試験片で測定した平均値を使用した。
【0069】
結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
表3に示すように、No.1及び2の継目無鋼管は、700MPa以上の引張強さと、25%以上の伸びとを有し、さらに破面遷移温度vTrsが−40℃以下であった。これに対し、No.3〜15の継目無鋼管は、引張強さ、伸び、及び破面遷移温度のいずれかが不芳であった。
【0072】
No.9の継目無鋼管は、伸びELが25%以上であり、破面遷移温度vTrsが−40℃以下であったが、引張強さTSが700MPa未満であった。これは、鋼JのMn含有量が低すぎたためと考えられる。
【0073】
No.10の継目無鋼管は、引張強さTSが700MPa以上であり、破面遷移温度vTrsが−40℃以下であったが、伸びELが25%未満であった。これは、鋼KのCr含有量が低すぎたためと考えられる。
【0074】
No.11の継目無鋼管は、破面遷移温度vTrsが−40℃以下であったが、引張強さTSが700MPa未満でかつ、延びELが25%未満であった。これは、鋼LのV含有量が低すぎたためと考えられる。
【0075】
No.12の継目無鋼管は、引張強さTSが700MPa以上であり、破面遷移温度vTrsが−40℃以下であったが、伸びELが25%未満であった。これは、鋼Mの炭素当量CEVが高すぎたためと考えられる。
【0076】
No.13の継目無鋼管は、伸びELが25%以上であり、破面遷移温度vTrsが−40℃以下であったが、引張強さTSが700MPa未満であった。これは、鋼Nの炭素当量CEVが低すぎたためと考えられる。
【0077】
No.14の継目無鋼管は、引張強さTSが700MPa未満であった。No.15の継目無鋼管は、焼戻し温度を低くして引張強さTSを700MPa以上に調整したものであるが、破面遷移温度vTrsが−40℃よりも高かった。このように、No.14及び15の継目無鋼管では、高強度と高靱性とを両立できる焼戻し条件が存在しなかった。これは、No.14及び15の継目無鋼管の組織の旧オーステナイト粒が大きかったためと考えられる。
【0078】
以上、本発明の実施の形態を説明した。上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。