特許第6981263号(P6981263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981263
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】パッキンおよび取付構造
(51)【国際特許分類】
   F02M 61/16 20060101AFI20211202BHJP
   F02M 61/14 20060101ALI20211202BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   F02M61/16 K
   F02M61/14 320A
   F16J15/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-2826(P2018-2826)
(22)【出願日】2018年1月11日
(65)【公開番号】特開2019-120246(P2019-120246A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年12月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】大蘆 嘉郎
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−197580(JP,A)
【文献】 特開2014−9662(JP,A)
【文献】 特開平10−115267(JP,A)
【文献】 特開平7−239038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 61/00
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドと燃料噴射弁との間に挟まれて設置されるよう適合されたパッキンであって、
パッキン本体と、
前記パッキン本体の内部に形成された密閉の空洞部と、
前記空洞部内に封入され前記空洞部の容量よりも小容量の熱媒液と、
を備えたことを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記空洞部内に設けられ、前記パッキン本体の上面部と下面部の間に挟まれる補強部材をさらに備える
請求項1に記載のパッキン。
【請求項3】
前記パッキン本体が上側分割片と下側分割片に分割され、その分割片同士が両端縁部において互いに固着される
請求項1または2に記載のパッキン。
【請求項4】
前記分割片同士が溶接またはカシメによって固着される
請求項3に記載のパッキン。
【請求項5】
前記上側分割片が断面蓋板状に形成され、前記下側分割片が断面皿状に形成され、前記上側分割片が前記下側分割片に嵌合され、嵌合部が溶接によって固着される
請求項3に記載のパッキン。
【請求項6】
前記熱媒液が水、アルコールまたはその混合液により形成される
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパッキン。
【請求項7】
内燃機関のシリンダヘッドに燃料噴射弁を気密に取り付けるための取付構造であって、
前記シリンダヘッドに設けられた軸部挿入穴と、
前記シリンダヘッドに設けられ前記軸部挿入穴の周囲に形成された座面と、
前記燃料噴射弁に設けられ前記軸部挿入穴に半径方向の隙間を隔てて挿入される軸部と、
前記燃料噴射弁に設けられ前記軸部の周囲に形成される肩部と、
前記座面および前記肩部の間に挟まれて設置されるパッキンと、
を備え、
前記パッキンが、
パッキン本体と、
前記パッキン本体の内部に形成された密閉の空洞部と、
前記空洞部内に封入され前記空洞部の容量よりも小容量の熱媒液と、
を備える
ことを特徴とする取付構造。
【請求項8】
前記パッキンが前記軸部に接触されている
請求項7に記載の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はパッキンおよび取付構造に係り、特に、内燃機関のシリンダヘッドに燃料噴射弁を気密に取り付けるためのパッキンおよび取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に内燃機関、特に直噴式エンジンにおいては、内燃機関のシリンダヘッドに設けられた軸部挿入穴に燃料噴射弁の軸部を挿入すると共に、シリンダヘッドにおいて軸部挿入穴の周囲に形成された座面に、パッキンを挟んで、燃料噴射弁の軸部の周囲に形成された肩部を押し付けて、燃料噴射弁をシリンダヘッドに気密に取り付けるようになっている。軸部挿入穴はシリンダ内の燃焼室に連通され、軸部の先端に形成された複数の噴孔は燃焼室内に臨まされている。これら複数の噴孔から比較的高圧の燃料が噴霧状かつ放射状に燃焼室内に噴射供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−301057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料噴射弁の軸部とシリンダヘッドの軸部挿入穴との間には半径方向の僅かな隙間がある。この隙間に、燃焼ガスや吸気に含まれる水蒸気や細かい水滴が、エンジンの運転に伴って浸入する場合がある。この場合、その後エンジンが停止されると、燃料噴射弁の軸部の温度が低下し、挿入穴内に位置する軸部の表面が結露し、その表面に結露水が発生するおそれがある。この結露水に起因して、軸部が錆びたり腐食したりするなどの損傷が生じる可能性がある。
【0005】
そこで本開示は、かかる事情に鑑みて創案され、その目的は、燃料噴射弁表面での結露水の発生を抑制可能なパッキンおよび取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、
内燃機関のシリンダヘッドと燃料噴射弁との間に挟まれて設置されるよう適合されたパッキンであって、
パッキン本体と、
前記パッキン本体の内部に形成された密閉の空洞部と、
前記空洞部内に封入され前記空洞部の容量よりも小容量の熱媒液と、
を備えたことを特徴とするパッキンが提供される。
【0007】
好ましくは、前記パッキンは、前記空洞部内に設けられ、前記パッキン本体の上面部と下面部の間に挟まれる補強部材をさらに備える。
【0008】
好ましくは、前記パッキン本体が上側分割片と下側分割片に分割され、その分割片同士が両端縁部において互いに固着される。
【0009】
好ましくは、前記分割片同士が溶接またはカシメによって固着される。
【0010】
好ましくは、前記上側分割片が断面蓋板状に形成され、前記下側分割片が断面皿状に形成され、前記上側分割片が前記下側分割片にインロー嵌合され、嵌合部が溶接によって固着される。
【0011】
好ましくは、前記熱媒液が水、アルコールまたはその混合液により形成される。
【0012】
本開示の他の態様によれば、
内燃機関のシリンダヘッドに燃料噴射弁を気密に取り付けるための取付構造であって、
前記シリンダヘッドに設けられた軸部挿入穴と、
前記シリンダヘッドに設けられ前記軸部挿入穴の周囲に形成された座面と、
前記燃料噴射弁に設けられ前記軸部挿入穴に半径方向の隙間を隔てて挿入される軸部と、
前記燃料噴射弁に設けられ前記軸部の周囲に形成される肩部と、
前記座面および前記肩部の間に挟まれて設置されるパッキンと、
を備え、
前記パッキンが、
パッキン本体と、
前記パッキン本体の内部に形成された密閉の空洞部と、
前記空洞部内に封入され前記空洞部の容量よりも小容量の熱媒液と、
を備える
ことを特徴とする取付構造が提供される。
【0013】
好ましくは、前記パッキンが前記軸部に接触されている。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、燃料噴射弁表面での結露水の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の実施形態に係る取付構造を示す縦断面図である。
図2図1のII部詳細図である。
図3】パッキンの縦断面図である。
図4】熱媒液が蒸発したときのパッキンを示す縦断面図である。
図5】パッキンの変形例を示す縦断面図である。
図6】他の実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を説明する。なお本開示は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
【0017】
図1は、本実施形態に係る取付構造を示す縦断面図である。かかる取付構造は、内燃機関(エンジン)のシリンダヘッド1に燃料噴射弁2を気密に取り付けるためのものである。本実施形態のエンジンは車両用ディーゼルエンジンであるが、その種類、用途等に特に限定はなく、例えばエンジンはガソリンエンジンであってもよい。
【0018】
図の上方および下方は鉛直方向の上方および下方を意味する。Cは燃料噴射弁2の中心軸(バルブ軸という)であり、バルブ軸Cは鉛直方向に延びる。燃料噴射弁2は、その先端を下方に向けた下向き状態でシリンダヘッド1に取り付けられている。シリンダヘッド1の下側には、シリンダ(図示せず)内の燃焼室3が形成されている。燃料噴射弁2は、例えばコモンレール式燃料噴射システムに適用されて燃焼室3内に高圧燃料を噴射する。
【0019】
以下、特に断らない限り、バルブ軸Cを基準とした軸方向、半径方向および周方向を単に軸方向、半径方向および周方向という。本実施形態の場合、バルブ軸Cは、図示しないシリンダの中心軸(シリンダ軸という)と同軸である。
【0020】
燃料噴射弁2は、バルブボディ4と、バルブボディ4の下側(先端側)に隣接して配置された燃料噴射ノズル5と、燃料噴射ノズル5をバルブボディ4に密接して取り付ける略円筒状のリテーニングナット6とを備える。リテーニングナット6は、その下端面7から上端面8まで軸方向に延びる。燃料噴射ノズル5は軸部9を有し、軸部9は、リテーニングナット6の下方の位置で軸方向に延びる。軸部9はリテーニングナット6より小径である。軸部9の周囲すなわち半径方向外側に、燃料噴射弁2の肩部10が、リテーニングナット6の下端部によって形成されている。
【0021】
シリンダヘッド1には、燃料噴射弁2が上方から同軸に挿入されるバルブ挿入穴11が設けられている。バルブ挿入穴11はシリンダ軸と同軸である。バルブ挿入穴11は、バルブボディ4およびリテーニングナット6が挿入される大径のボディ挿入穴12と、軸部9が挿入される小径の軸部挿入穴13とを有する。軸部挿入穴13は、ボディ挿入穴12から連続して下方かつ軸方向に延びると共に、シリンダヘッド1の下面14の位置で開口する。これにより軸部挿入穴13は、燃焼室3に連通されると共に、ボディ挿入穴12を燃焼室3に連通させる。
【0022】
ボディ挿入穴12の下端と軸部挿入穴13の上端とは、座面15によって段差状に接続される。座面15は、シリンダヘッド1に設けられ軸部挿入穴13の上端の周囲に形成された、全周に延びる上向きの円環状面である。座面15は軸方向に垂直(すなわち水平)な平面により形成されている。この座面15にパッキン16を介して肩部10が上方から押し付けられることにより、燃料噴射弁2はシリンダヘッド1に気密に取り付けられる。なお燃料噴射弁2は図外上方の位置において図示しないフォーク状の部材により軸方向下方に押圧される。
【0023】
図2には図1のII部詳細を示す。燃料噴射ノズル5は、燃料の実質的な噴射部分をなすもので、略円筒状のノズルボディ17と、ノズルボディ17内に同軸かつ昇降可能に収容されたニードル弁18(仮想線で示す)とを備える。
【0024】
ノズルボディ17は、上方から順に、外径がD1の第1部分19と、外径がD2(<D1)の第2部分20と、外径がD3(<D2)の前述の軸部9と、外径が下方に向かうにつれ順次縮小されるテーパ部21と、テーパ部21の下端部から軸方向下方に突出された略半球状の突出部22とを一体的に有する。
【0025】
第1部分19からテーパ部21までの間の部分の中心部に、ニードル弁18を昇降可能に収容するためのニードル弁穴23が、軸方向に延びて形成される。また突出部22内には、ニードル弁穴23に連通されたサック室24が形成される。突出部22には、燃料出口である複数(本実施形態では四つ)の噴孔25が周方向等間隔で貫通形成される。周知のように、ニードル弁18の下降時にはニードル弁18の先端部がテーパ部21内面に押し付けられて噴孔25への燃料供給が停止され、燃料噴射が停止される。そしてニードル弁18の上昇時には、ニードル弁18の先端部がテーパ部21内面から離間されて噴孔25へ燃料が供給され、燃料噴射が実行される。このとき燃料は噴孔25を通じ、燃焼室3内に斜め下向きかつ放射状に噴射される。
【0026】
第1部分19の下端と第2部分20の上端とは、軸方向に垂直なノズル押圧面26によって段差状に接続される。また第2部分20の下端と軸部9の上端とは、下方に向かうにつれ縮径するテーパ面27によって段差状に接続される。軸部9は、一定の外径D3を有して軸方向に所定長さ延びている。軸部9の下端部(先端部)に形成されたテーパ部21の下半部と、突出部22の全体とは、シリンダヘッド1の下面14より下方に位置され、燃焼室3内に露出されている。
【0027】
リテーニングナット6は、第1部分19にほぼ隙間無くぴったりと嵌合される第1嵌合部分28と、第2部分20に半径方向の僅かな隙間29を隔てて嵌合される第2嵌合部分30とを有する。第1嵌合部分28の内周面下端と第2嵌合部分30の内周面上端とは、軸方向に垂直なナット押圧面31によって段差状に接続される。上記隙間29を含む、第2部分20の半径方向内側のノズルボディ17との隙間をナット内隙間といい、便宜上同一の符合29で表す。
【0028】
リテーニングナット6は、図外上方の位置に雌ネジを有する。この雌ネジが、バルブボディ4の雄ネジに締め付けられることにより、ナット押圧面31がノズル押圧面26を押し上げ、ノズルボディ17を上方のバルブボディ4に密着させる。これにより燃料噴射ノズル5がバルブボディ4に一体的に取り付けられる。
【0029】
図示する燃料噴射弁2の取付状態において、軸部9と軸部挿入穴13の間には半径方向の僅かな隙間(穴内隙間という)32が形成される。パッキン16と軸部9の間にも、半径方向の僅かな隙間(パッキン内隙間という)33が形成される。これら穴内隙間32およびパッキン内隙間33と前述のナット内隙間29とは、互いに連通され、かついずれも燃焼室3に連通される。
【0030】
パッキン16は、全体として、所定の厚さtを有しかつ全周に延びる円環状ないしドーナツ状の部材であり、軸部9の半径方向外側に隙間33を持って嵌合配置される。そしてパッキン16は、シリンダヘッド1の座面15と、燃料噴射弁2の肩部10との間に挟まれて固定される。肩部10は、リテーニングナット6の第2嵌合部分30の下端部によって形成される。肩部10の下端面、すなわちリテーニングナット6の第2嵌合部分30の下端面が、パッキン16の上面に押し付けられる。
【0031】
一般的に用いられる通常のパッキンは、単なる円環状の金属板である。これに対し本実施形態のパッキン16は、より複雑な構造であり、十分なシール性能に加え、後述するような優れた伝熱特性を発揮する。以下、本実施形態のパッキン16について詳細に説明する。
【0032】
図3に示すように、パッキン16は、パッキン本体41と、パッキン本体41の内部に形成された密閉の空洞部42と、空洞部42内に封入され空洞部42の容量よりも小容量の熱媒液43とを備える。またパッキン16は、空洞部42内に設けられ、パッキン本体41の上面部47と下面部48の間に挟まれる補強部材44をさらに備える。
【0033】
パッキン本体41は、シール性と熱伝導性に優れた金属材料(例えば銅)で作られる。パッキン本体41は、厚さtとそれより大きい幅wを有し、横長長方形かつ中空箱状の断面形状を有する。
【0034】
パッキン本体41は、上側分割片45Aと下側分割片45Bに分割される。その分割片45A,45B同士が両端縁部、すなわち半径方向内側(図中右側)および外側(図中左側)の端縁部、もしくは幅wの両端縁部において互いに固着される。
【0035】
本実施形態において、上側分割片45Aは断面蓋板状に形成され、下側分割片45Bは断面皿状に形成される。上側分割片45Aが下側分割片45Bに嵌合された後、両分割片45A,45Bはその嵌合部において溶接によって固着される。
【0036】
上側分割片45Aは、全体として円環板状に形成される。下側分割片45Bは、全体として円環状に形成され、その断面が、上方が開放された角張ったU字状に形成される。下側分割片45Bの両端縁部は鉛直方向に起立し、それらの上端部に、段差状の嵌合穴46,46が形成される。これら嵌合穴46,46に上側分割片45Aがインロー嵌合され、下側分割片45Bの上端開口部が上側分割片45Aにより閉止される。嵌合後、嵌合部がロウ付け等の溶接によって固着封止される。これによりパッキン本体41の内部に密閉の空洞部42が形成される。固着後、上側分割片45Aと下側分割片45Bの上面同士は面一状に配置される。
【0037】
熱媒液43は、水、アルコールまたはその混合液により形成される。アルコールはメタノールまたはエタノールとすることができる。熱媒液43の容量は空洞部42の容量よりも少なくされる。これにより熱媒液43は図示するように、空洞部42内には満たされず、通常状態において空洞部42の底部に重力により溜まり、パッキン本体41の上面部47をなす上側分割片45Aには触れない。言い換えれば熱媒液43の液面は、上側分割片45Aの下面より低い位置に位置される。なお熱媒液43の容量は、空洞部42の容量よりもかなり少なくすることができ、例えば空洞部42の容量の1/2以下、1/3以下、1/4以下、または1/5以下等とすることができる。
【0038】
なお熱媒液43の封入は、例えば熱媒液43の加熱蒸気雰囲気中でパッキン本体41を封止することにより行われる。よって熱媒液43の封入は空気を追い出した状態で行われる。
【0039】
補強部材44は、パッキン16が上下から挟まれたときにパッキン16の圧壊を防ぐために設けられる。補強部材44は、パッキン本体41より硬い材料で作られるのが好ましく、例えばステンレス鋼で作られる。補強部材44は、板材により全体として円環状に形成され、その断面が上下に長い長方形状とされる。本実施形態の場合、複数(具体的には二つ)の補強部材44が幅方向に並列されている。
【0040】
補強部材44が空洞部42内の所定位置に位置決めされた後、上側分割片45Aが下側分割片45Bに嵌合、固着される。これにより補強部材44は、上側分割片45Aと下側分割片45Bに挟まれてその位置が固定される。なお代替的または付加的に、補強部材44を空洞部42内に溶接等により予め固着してもよい。
【0041】
こうして二つの補強部材44が設けられると、空洞部42内は実質的に幅方向の三つの空間に仕切られる。これら各空間に同一レベルで熱媒液43が封入される。なお各空間の熱媒液43の液面レベルをより積極的に等しく保持できるよう、補強部材44に、隣接空間同士を連通させるための連通穴を設けてもよい。
【0042】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0043】
例えば寒冷地等の外気温が低い場所において、エンジンが停止状態で放置され、冷え切った状態からエンジンが始動されたとする。この場合、十分低温となっているシリンダヘッド1および燃料噴射弁2が、燃焼室3内の燃焼ガスにより加熱され、両者の温度が次第に上昇していく。
【0044】
このエンジン運転中、燃焼ガスや吸気(EGRガスやブローバイガスを含む)に含まれる水蒸気や細かい水滴が、燃焼室3から穴内隙間32、パッキン内隙間33、ひいてはナット内隙間29へと、順次浸入していく。特に、筒内圧上昇時に燃焼室3内の水蒸気等が穴内隙間32等に押し込まれること、筒内圧の上昇・下降の繰り返しにより燃焼室3内の水蒸気等が穴内隙間32等へ徐々に浸入していくこと、穴内隙間32等が狭いため毛細管現象の助けもあって一旦浸入した水蒸気等が抜けづらいことなどの理由により、穴内隙間32等には水蒸気等が浸入し、滞留しがちである。
【0045】
次に、始動後短時間のうちにエンジンが停止された場合(始動後即停止運転という)、シリンダヘッド1および燃料噴射弁2が外気により急速に冷却され、やがて穴内隙間32に面する燃料噴射弁2の軸部9の表面の温度が、露点温度を下回り、穴内隙間32内の水蒸気等が凝縮して表面が結露し、表面に結露水が発生する。この結露水に起因して、軸部9の表面が錆びたり腐食したりするなどの損傷が生じる可能性がある。この損傷の問題は、パッキン内隙間33およびナット内隙間29に面する燃料噴射弁2の表面にも同様に発生する。
【0046】
他方、軸部9に対向する軸部挿入穴13の内周面にも同様に結露水が発生することがある。しかし、当該内周面が比較的厚肉のシリンダヘッド1に形成されていること、シリンダヘッド1が軽量で耐腐食性の金属材料、具体的にはアルミニウムにより形成されていること、シリンダヘッド1の表面には既に酸化被膜ができていることなどの理由により、当該内周面での結露水発生は実際上殆ど問題にならない。また、ナット内隙間29に面するリテーニングナット6の第2嵌合部分30の内周面にも同様に結露水が発生することがある。しかし、リテーニングナット6の表面全体には防錆用の表面処理がなされているため、当該内周面での結露水発生も実際上殆ど問題にならない。
【0047】
ノズルボディ17は、そのような表面処理がなされておらず、材料としての鉄が剥き出しの状態で使用されている。しかもその軸部9は肉厚が比較的薄い。従って錆や腐食が生じ易く、かつそれが生じると短期間のうちに亀裂等の二次損傷につながる可能性がある。このため、かかる結露水への対策が非常に重要である。
【0048】
そこで本実施形態では、上述のようなパッキン16を用いることとした。これを用いると、エンジンの運転時と停止時で熱の挙動を次のように改善することができる。
【0049】
すなわち、エンジンが冷え切った状態から始動されたとき、シリンダヘッド1および燃料噴射弁2が燃焼ガスにより加熱され、昇温される。このとき図4に矢印aで示すように、シリンダヘッド1の熱が、座面15からパッキン本体41の下面部48、下面部48から熱媒液43へと順次伝達され、熱媒液43が加熱され、蒸発される。熱媒液43の蒸気は上昇してパッキン本体41の上面部47に接触し、上面部47を加熱する。こうして熱媒液43から上面部47、上面部47から燃料噴射弁2の肩部10へと伝わる熱の流れが生じ、パッキン16は、シリンダヘッド1の熱を燃料噴射弁2に積極的に伝達し、燃料噴射弁2の加熱を促進する。
【0050】
パッキン本体41の上面部47に接触した熱媒液43の蒸気は、その上面部47に熱を奪われて凝縮し、液化する。するとその液化した蒸気が重力の作用により落下し、空洞部42の底部に戻される。これにより、空洞部42の底部と上端部の間を連続的に往復する熱媒液43の循環サイクルが生成される。なおエンジンの振動も液化蒸気の落下に有利に働く。上面部47に付着した液化蒸気の塊を振動により引き剥がすことができるからである。
【0051】
次に、始動後短時間のうちにエンジンが停止された場合(始動後即停止運転された場合)、シリンダヘッド1および燃料噴射弁2が外気により急速に冷却される。このとき、シリンダヘッド1が熱伝導率の高いアルミニウムにより形成されていること、シリンダヘッド1内部に形成されたウォータジャケット(図示せず)内の冷却水がまだ暖らないうちにエンジンが停止されてしまったことなどの理由により、シリンダヘッド1の温度は燃料噴射弁2の温度より急速に低下する傾向がある。
【0052】
一方このとき、パッキン16も冷却され、パッキン16内部の熱媒液43の温度が低下する。このため、熱媒液43の蒸気はほぼ全て液化され、図3に示したように、熱媒液43はほぼ全量液体となって空洞部42の底部に溜まる。
【0053】
こうなると、パッキン本体41の上面部47と熱媒液43の間に、空洞部42内の低圧層ができ、この低圧層が断熱層となって、燃料噴射弁2からパッキン16を通じシリンダヘッド1へと流れる熱の流れが大幅に抑制される。
【0054】
これにより、燃料噴射弁2の冷却および温度低下を抑制すると共に、燃料噴射弁2の温度を比較的高温に維持でき、燃料噴射弁2の結露水発生箇所における結露水の発生を抑制し、結露水に起因した錆びや腐食等の損傷を確実に抑制できる。ここで、結露水発生箇所とは、主に穴内隙間32に面する軸部9の表面である。しかしながら副次的に、パッキン内隙間33に面する軸部9の表面、ならびに、ナット内隙間29に面する軸部9、テーパ面27および第2部分20の表面も、結露水発生箇所に含まれる。
【0055】
このように本実施形態のパッキン16および取付構造によれば、シリンダヘッド1から燃料噴射弁2に向かう熱の流れを許容する一方で、逆方向の流れは阻止もしくは抑制する熱ダイオードを提供することができる。また、始動後即停止運転が行われたとき、燃料噴射弁2の温度低下をシリンダヘッド1の温度低下より遅らせることができ、燃料噴射弁2の温度をシリンダヘッド1の温度より高く維持できる。こうすることで、結露を専らシリンダヘッド1側に発生させ、その分、燃料噴射弁2側での結露発生を抑制することができる。上述の理由により、シリンダヘッド1側での結露は実際上殆ど問題にならないので、燃料噴射弁2側での結露発生を抑制したことで、結露に起因する問題を一挙に解決することが可能である。
【0056】
なお、単なる金属板により作製された通常のパッキンの場合だと、始動後即停止運転が行われたとき、燃料噴射弁の熱がパッキンを通じてシリンダヘッドに積極的に伝達されるため、燃料噴射弁がシリンダヘッドと同等かそれよりも早い速度で温度低下する。こうなると、結露は燃料噴射弁側で多く発生し、上記問題が発生することとなる。
【0057】
ところで本実施形態では、補強部材44を設けたため、パッキン16の圧壊を確実に抑制することができる。補強部材44は、上面部47および下面部48の間で突っ張ってパッキン16が厚さt方向に変形、圧壊するのを防ぐ。なお変形例に関し、補強部材44の数を1個または3個以上に変更してもよい。補強部材44の形状(断面形状を含む)を変更してもよく、例えばその断面形状をテーパ状等としてもよい。パッキン本体41の剛性が十分であれば、補強部材44を省略してもよい。
【0058】
またパッキン本体41を上側分割片45Aと下側分割片45Bに分割し、分割片45A,45B同士を両端縁部において固着したため、各分割片45A,45Bを適宜加工した板材で形成できると共に、容易な組み立てで確実に密閉された空洞部42を形成できる。
【0059】
分割片45A,45B同士を溶接によって固着したので、両者の組み立てを容易かつ確実に行える。
【0060】
特に、上側分割片45Aを断面蓋板状に形成し、下側分割片45Bを断面皿状に形成し、上側分割片45Aを下側分割片45Bに嵌合し、嵌合部を溶接によって固着した。これにより、両者の組み立てを容易かつ確実に行えると共に、確実に密閉された空洞部42を容易に形成できる。なお嵌合の態様はインロー嵌合に限られない。
【0061】
熱媒液43を水、アルコールまたはその混合液により形成したため、熱媒液43を容易に入手できる安価な材料により形成することができる。
【0062】
次に、パッキンの変形例を説明する。なお上記の基本例と同様の部分には図中同一符号を付して説明を割愛し、以下、基本例との相違点を主に説明する。
【0063】
図5に示すように、変形例のパッキン16Aも、パッキン本体41と、空洞部42と、熱媒液43と、補強部材44とを備える。パッキン本体41は、厚さtとそれより大きい幅wを有し、上側分割片45Aと下側分割片45Bに分割される。その分割片45A,45B同士が両端縁部において、互いにカシメによって固着される。
【0064】
上側分割片45Aと下側分割片45Bは略上下対称の断面形状に形成される。上側分割片45Aと下側分割片45Bの両端縁部は、厚さt方向の中心部で互いに密着かつ面接触するよう、略S字状もしくは略クランク状に折曲されている。下側分割片45Bの両端縁部は、上側分割片45Aの両端縁部よりも幅w方向に長くされる。そして上側分割片45Aの両端縁部から幅w方向に突出した下側分割片45Bの両端縁部が、図示するように、上側分割片45Aの両端縁部にカシメられる。これによってパッキン本体41の両端縁部にカシメ部50,50が形成される。カシメの際、下側分割片45Bの両端縁部の突出部は、上側分割片45Aの両端縁部の上面に重なるよう180°折り返され、同時に上側分割片45Aの上下面に圧接される。パッキン本体41が完成するのと同時に、その内部には密閉の空洞部42が形成される。
【0065】
なお基本例と同様、熱媒液43と複数(二つ)の補強部材44とは、カシメ前に予め上側分割片45Aと下側分割片45Bの間(特に下側分割片45Bの上側)に配置される。
【0066】
このように分割片45A,45Bをカシメによって固着しても、パッキン本体41の組み立てを容易にすることが可能になる。なお、カシメに加えまたはそれに代わり、溶接を行ってもよい。
【0067】
以上、本開示の実施形態を詳細に述べたが、本開示は以下のような他の実施形態も可能である。
【0068】
(1)例えば、熱媒液の材料は水、アルコールまたはその混合液以外のものであってもよく、アルコールもメタノールまたはエタノール以外のものであってよい。実機試験等の結果に基づいて最適な材料が選択可能である。
【0069】
(2)パッキン本体の構造は上記に限らず、例えば分割構造ではない、単一の中空構造であってもよい。この場合、パッキン本体に熱媒液を封入するための穴を設け、封入後、穴を閉止すればよい。
【0070】
(3)パッキン内隙間33およびナット内隙間29の少なくとも一方がない実施形態も可能である。
【0071】
図6には、パッキン内隙間33がない他の実施形態を示す。この場合、パッキン16が燃料噴射弁2の軸部9に接触されている。具体的には、パッキン本体41の内周面部51が軸部9の外周面に接触されている。本実施形態では、パッキン本体41の内径が軸部9の外径D3と等しくされ、パッキン本体41の内周面部51が軸部9の外周面に全周接触されている。しかしながら、周方向の一部のみ接触させるようにしてもよい。
【0072】
これによると、エンジン始動後の運転中には、矢印aで示すように前記同様の経路を通じて肩部10を加熱できるほか、矢印bで示すような熱媒液43の蒸気→内周面部51→軸部9という経路を通じて軸部9を直接加熱できる。よって軸部9の加熱を促進できる。
【0073】
また、始動後即停止運転された場合、熱媒液43の蒸気が液化されるため、矢印cで示すように、軸部9→内周面部51→熱媒液43の蒸気→熱媒液43という経路が実質的に存在しなくなる。よって軸部9の冷却を抑制でき、その温度を比較的高温に維持して結露水の発生を抑制できる。
【0074】
(4)本開示に係るパッキンおよび取付構造は、寒冷地等で始動後即停止運転された場合以外でも有用である。その場合以外でも、エンジンが始動後停止されれば、燃料噴射弁の軸部に結露が発生する可能性があるからである。
【0075】
(5)シリンダヘッドはアルミニウム製に限らず、その材質は任意である。例えば鉄製であってもよい。またリテーニングナット6も、防錆用表面処理がなされていなくてもよい。
【0076】
(6)前記実施形態では、バルブ軸Cが鉛直方向に沿うような燃料噴射弁2の配置例を説明した。しかしながら、燃料噴射弁2の配置例はこれに限らず、例えばエンジンの仕様や車両等への搭載状態に応じて、バルブ軸Cが鉛直方向に対し傾斜するように、燃料噴射弁2を配置しても構わない。またバルブ軸Cはシリンダ軸と非同軸または非平行であっても構わない。
【0077】
本開示の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本開示の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本開示に含まれる。従って本開示は、限定的に解釈されるべきではなく、本開示の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 シリンダヘッド
2 燃料噴射弁
16 パッキン
41 パッキン本体
42 空洞部
43 熱媒液
44 補強部材
45A 上側分割片
45B 下側分割片
図1
図2
図3
図4
図5
図6