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特許6981285金属二次電池用の負極、金属二次電池、および金属二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981285
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】金属二次電池用の負極、金属二次電池、および金属二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20211202BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20211202BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20211202BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211202BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M4/38 Z
   H01M10/058
   H01M10/052
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-18150(P2018-18150)
(22)【出願日】2018年2月5日
(65)【公開番号】特開2019-135689(P2019-135689A)
(43)【公開日】2019年8月15日
【審査請求日】2020年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−042601(JP,A)
【文献】 特開2007−018794(JP,A)
【文献】 特開2013−089403(JP,A)
【文献】 特開2012−119079(JP,A)
【文献】 特開2013−038070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 10/058
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属二次電池用の負極であって、
前記金属二次電池の満充電状態において、
前記負極は、炭素繊維集合体、第1金属、および第2金属を含み、
前記炭素繊維集合体は、複数の炭素繊維を含み、
前記第1金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、
前記第2金属は、前記第1金属と合金化する金属または合金であり、
前記第2金属は、少なくとも前記炭素繊維集合体の厚み方向中央部に担持されており、前記第2金属は、粒子状である、
負極。
【請求項2】
前記第2金属は、前記第1金属に対して0.0046モル%以上1.39モル%以下の量で前記炭素繊維集合体内に担持されている、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記第1金属は、リチウムである、請求項1または請求項2に記載の負極。
【請求項4】
前記第2金属は、金、白金、マグネシウム、亜鉛、タングステン、モリブデン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛、ヒ素、アンチモン、およびビスマスからなる金属群より選択された1種の金属を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の負極。
【請求項5】
前記第2金属は、金を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の負極。
【請求項6】
電解質を含有するイオン伝導性高分子層をさらに含み、
前記イオン伝導性高分子層は、前記炭素繊維集合体の表面の少なくとも一部を被覆する、
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の負極。
【請求項7】
前記イオン伝導性高分子層は、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体(PVDF−HFP)を含む、請求項6に記載の負極。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の負極と、正極と、電解質とを少なくとも含む、金属二次電池。
【請求項9】
請求項8に記載の金属二次電池の製造方法であって、
前記負極を準備すること、
前記正極を準備すること、
前記電解質を準備すること、
前記正極と、前記負極と、前記電解質とを少なくとも含む金属二次電池を組み立てること、および、
前記金属二次電池を充電すること、
を少なくとも含む、
金属二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属二次電池用の負極、金属二次電池、および金属二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013−038070号公報(特許文献1)は、リチウムと合金化する金属、またはリチウムと合金化する2種以上の金属の合金が炭素繊維上に形成されてなるリチウムイオン二次電池用負極活物質を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−038070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池およびナトリウムイオン二次電池が開発されている。これらの二次電池においては、負極が黒鉛およびハードカーボン等の黒鉛層間化合物を含む。電荷担体であるリチウム(Li)イオン等は、その析出電位よりも高い電位で黒鉛層間化合物と反応する。これにより電子の授受が行われる。すなわちリチウムイオン二次電池等は、電荷担体が金属として析出しない電位範囲で使用される。
【0005】
リチウムイオン二次電池等の他に、金属二次電池が検討されている。本明細書において「金属二次電池」とは、たとえばリチウム(Li)等の金属が負極活物質である二次電池を示す。たとえばLiを負極活物質として用いたLi金属二次電池の負極では、Li金属の溶解反応および析出反応により、電子の授受が行われる。すなわち満充電時には、負極側の電位は、Liイオンが金属として析出する電位まで下がる。Li金属二次電池は、既存のLiイオン二次電池と比較して、高いエネルギー密度を有することが期待される。
【0006】
しかしLi金属二次電池は充放電の可逆性に課題を有する。すなわちLi金属は、析出時デンドライト(樹枝)状に成長しやすい。デンドライト状に成長したLi金属は、放電時には、基材との電子抵抗が小さい、基材と接している箇所(根元)、およびその隣接箇所から溶解しやすいと考えらえる。基材と接している根元が溶解することにより、デンドライト状に成長したLi金属は基材から脱離し、電解液に再溶解し難くなると考えられる。
【0007】
以下、デンドライト状に金属(たとえば、Li金属)が成長することが「デンドライト成長」とも記される。デンドライト状に成長した金属は「デンドライト金属」とも記され、たとえばデンドライト状に成長したLi金属は、「デンドライトLi」とも記される。
【0008】
特許文献1に開示された負極活物質を用いた場合、炭素繊維上にデンドライトLiが析出するおそれがある。デンドライトLiの析出により、充放電サイクル後の容量維持率に改善の余地が生じるものと考えられる。
【0009】
本開示の目的は、充放電サイクル後の容量維持率の低下を抑制することが可能な金属二次電池用の負極、および該負極を用いた金属二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは推定を含んでいる。作用メカニズムの正否により、特許請求の範囲が限定されるべきではない。
【0011】
〔1〕本開示は、金属二次電池用の負極に係る。金属二次電池の満充電状態において、負極は、第1金属、および第2金属を含む。炭素繊維集合体は、複数の炭素繊維を含む。第1金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。第2金属は、第1金属と合金化する金属または合金である。第2金属は、少なくとも炭素繊維集合体の厚み方向中央部に担持されている。第2金属は、粒子状である。
【0012】
本開示の金属二次電池用の負極では、金属二次電池が満充電状態となるまで充電される際に、金属二次電池は第1金属の析出電位に達するものと考えられる。これにより負極に第1金属が析出し、第1金属を含む負極が得られると考えられる。本明細書において「満充電状態」とは、充電率(SOC:state of charge)が100%の状態を意味する。すなわち、可逆的な充放電の範囲で予め設定された充電終止電圧まで、金属二次電池が充電された状態を示す。
【0013】
本開示の金属二次電池用の負極では、炭素繊維集合体が第2金属の担体として使用される。本明細書において「炭素繊維集合体」とは、多数の炭素繊維が物理的に絡み合った集合体を示す。
【0014】
炭素繊維集合体の表面では、複数の炭素繊維の表面において、それぞれ金属の核の生成が生じると考えられる。すなわち平板状の電極と比較して、金属の核の生成数が増加する(≒金属の析出起点が増加する)ことが期待される。このことにより、デンドライト金属の成長が抑制されると期待される。
【0015】
更に炭素繊維集合体の内部では、デンドライト金属が発生した場合、デンドライト金属が周囲の炭素繊維と接触しやすいと考えられる。炭素繊維は電子伝導性である。デンドライト金属が周囲の炭素繊維と接触することにより、放電時、デンドライト金属から炭素繊維への電子の流れが促進されることが期待される。その結果、デンドライト金属が再溶解することが期待される。
【0016】
第2金属は、第1金属(負極活物質)と合金化する金属または合金である。本明細書において「合金化」とは、第1金属と第2金属とが、ある規則性をもって存在している状態を示す。具体的には、第1金属が、第2金属を種(seed)として成長することを示す。少なくとも炭素繊維集合体の厚み方向中央部には、第2金属が担持されている。粒子状の第2金属は、第1金属の核生成の種(seed)として働くことが期待される。粒子状の第2金属を種として第1金属の核生成が起こることにより、少なくとも第1金属の核生成が炭素繊維集合体の厚み方向中央部で選択的に起こることが期待される。少なくとも炭素繊維集合体の厚み方向中央部において選択的に第1金属を析出させることにより、デンドライト金属の成長が抑制されると期待される。
【0017】
以上の作用の相乗により、本開示の金属二次電池では、デンドライト金属の成長が抑制されると考えられる。デンドライト金属の成長が抑制されることにより、充放電サイクル後の容量維持率の低下が抑制されると期待される。
【0018】
本開示の金属二次電池用の負極では、炭素繊維集合体自体が負極の集電体として機能する。さらに炭素繊維集合体において、複数の炭素繊維が互いに結合されているため、支持体が無くても、炭素繊維集合体が自立し得ると考えられる。したがって本開示の金属二次電池用の負極は、導電性支持体(銅箔等)を含まなくてもよいと考えられる。
【0019】
〔2〕第2金属は、第1金属に対して0.0046モル%以上1.39モル%以下の量で炭素繊維内に担持されていてもよい。
【0020】
負極に含まれる第2金属の量を上記範囲とすることにより、デンドライト金属の成長が抑制されると期待される。
【0021】
〔3〕第1金属は、Liであってもよい。
【0022】
Liイオンは、炭素繊維集合体自体にも吸蔵されるものと考えられる。一部のLiイオンが炭素繊維に吸蔵されることにより、Li金属の核生成および核成長が均一になると考えられる。これにより、デンドライトLiの成長が抑制されると期待される。
【0023】
〔4〕第2金属は、金、白金、マグネシウム、亜鉛、タングステン、モリブデン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛、ヒ素、アンチモン、およびビスマスからなる金属群より選択された1種の金属を含んでもよい。なお、本明細書において「金属」とは、単一金属、および合金を意味する。
【0024】
上記の金属群から選択された1種の金属を含む第2金属を用いることにより、デンドライト金属の成長が抑制されると期待される。
【0025】
〔5〕第2金属は、金を含んでもよい。
【0026】
第2金属が金を含むことにより、デンドライト金属の成長が顕著に抑制されると期待される。
【0027】
〔6〕金属二次電池は、電解質を含有するイオン伝導性高分子層をさらに含んでもよい。イオン伝導性高分子層は、炭素繊維集合体の表面の少なくとも一部を被覆している。
【0028】
電解質を含有するイオン伝導性高分子層が炭素繊維集合体の表面の少なくとも一部を被覆することにより、デンドライト金属の成長を抑制することが可能となる。これは、イオン導電性高分子層と炭素繊維の界面で金属Liが析出する際に、物理的に抑えられていることでデンドライト成長しにくいことが影響している。
【0029】
〔7〕上記〔6〕の構成を備える金属二次電池用の負極において、イオン伝導性高分子層は、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロペン共重合体(PVDF−HFP)を含んでもよい。
【0030】
PVDF−HFPは保液性が高くいため、高いイオン伝導度を発現させると考えられる。PVDF−HFPを含むイオン伝導性高分子層により炭素繊維集合体の少なくとも一部を被覆した場合、析出した第1金属(すなわち、デンドライト金属)の先端へ電流が集中することが抑制されるものと考えられる。これにより、デンドライト金属の成長がより抑制されると期待される。
【0031】
〔8〕本開示の金属二次電池は、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかの負極と、正極と、電解質とを少なくとも含む。本開示の金属二次電池は、充放電サイクル後の容量維持率の低下が抑制されていると期待される。
【0032】
〔9〕金属二次電池の製造方法は、以下の(A)〜(E)を少なくとも含む。
(A)上記〔1〕〜〔7〕のいずれかの負極を準備する。
(B)正極を準備する。
(C)電解質を準備する。
(D)正極と、負極と、電解質とを少なくとも含む金属二次電池を組み立てる。
(E)金属二次電池を充電する。
該製造方法によれば、上記〔8〕の構成を備える金属二次電池が製造され得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本実施形態の金属二次電池の構成の一例を示す第1概略図である。
図2図2は、本実施形態の金属二次電池の構成の一例を示す第2概略図である。
図3図3は、本実施形態の負極の構成を示す断面概念図である。
図4図4は、参考形態の負極の構成を示す断面概念図である。
図5図5は、本実施形態の金属二次電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図6図6は、充電後の炭素繊維集合体の外側(表面)を示すSEM像である。
図7図7は、充電後の炭素繊維集合体の内側(中央部)を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示の実施形態(本明細書では「本実施形態」とも記される)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定するものではない。以下金属二次電池は「電池」と略記され得る。
【0035】
<金属二次電池>
図1は、本実施形態の金属二次電池の構成の一例を示す概略図である。
電池100は、外装材50を含む。外装材50は、アルミラミネートフィルム製である。すなわち電池100は、ラミネート型電池である。ただし本実施形態において、電池100の型式(type)および形式(shape)は特に限定されるべきではない。電池100は、たとえば角形電池であってもよい。電池100は、たとえば円筒形電池であってもよい。正極タブ51および負極タブ52は、それぞれ外装材50の内外を連通している。正極タブ51は、たとえばアルミニウム(Al)薄板である。負極タブ52は、たとえば銅(Cu)薄板である。
【0036】
図2は本実施形態の金属二次電池の構成の一例を示す第2概略図である。
外装材50は、電極群40および電解質(図示せず)を収納している。電極群40は積層(スタック)型である。ただし電極群40は巻回型であってもよい。電極群40は、正極10、負極20およびセパレータ30を含む。すなわち電池100は、正極10、負極20および電解質を少なくとも含む。
【0037】
電極群40は、正極10および負極20が積層されることにより形成されている。電極群40は、正極10および負極20が交互にそれぞれ1層以上積層されることにより形成されていてもよい。正極10および負極20の各間には、それぞれセパレータ30が配置される。正極タブ51は正極10と接合されている。負極タブ52は負極20と接合されている。
【0038】
<負極>
図3は本実施形態の負極の構成を示す断面概念図である。
負極20はシート状であり得る。電池100の満充電状態において、負極20は炭素繊維集合体21、第1金属22、および第2金属23を含む。炭素繊維集合体21は複数の炭素繊維を含む。複数の炭素繊維はそれぞれ互いに接触している。炭素繊維集合体21の内部には複数の空孔24が形成されている。第1金属22はアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。第2金属23は、第1金属22と合金化する金属または合金である。
【0039】
図3に示されるように、第2金属23は少なくとも炭素繊維集合体21の厚み方向中央部に担持されている。また、第2金属23は粒子状である。ここで、本明細書における「炭素繊維集合体21の厚み方向中央部」とは、炭素繊維集合体21における厚み方向の中間点を示す。なお、電池100の充電状態により、負極20の状態は異なる。すなわち、電池100が満充電ではない状態の際に負極20に含まれる第1金属22の量は、電池100が満充電状態の際に負極20に含まれる第1金属22の量と比較して、少なくなり得る。
【0040】
第1金属22は、電池100が第1金属22の析出電位に達するまで充電されることにより析出する。ここで、上述したように第2金属23は第1金属22と合金化する金属または合金である。そのため、図3に示されるように、少なくとも炭素繊維集合体21の厚み方向中央部において、第2金属23を種として第1金属22の核生成が起こると考えられる。少なくとも炭素繊維集合体21の厚み方向中央部において選択的に第1金属22を析出させることにより、第1金属22がデンドライト状に成長することが抑制されると考えられる。すなわち、充放電サイクル後の容量維持率の低下が抑制されると期待される。
【0041】
図4は参考形態の負極の構成を示す断面概念図である。
負極200では銅箔201が基材である。銅箔201の表面にLi金属202が析出している。該構成では、Li金属202がデンドライト状に成長すると考えられる。
【0042】
(炭素繊維集合体)
炭素繊維集合体21は、負極20の基材である。炭素繊維集合体21は、たとえばシート状であってもよい。炭素繊維集合体21は、たとえば50μm以上500μm以下の厚さを有してもよい。炭素繊維集合体21の厚さは、たとえばマイクロメータ等により測定される。厚さは少なくとも3箇所で測定される。少なくとも3箇所の算術平均が炭素繊維集合体21の厚さとされる。
【0043】
炭素繊維は、炭素繊維集合体21を構成している。炭素繊維は、たとえばPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長炭素繊維等であってもよい。PAN系炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)を原料とする炭素繊維を示す。ピッチ系炭素繊維は、たとえば石油ピッチ等を原料とする炭素繊維を示す。セルロース系炭素繊維は、たとえばビスコースレーヨン等を原料とする炭素繊維を示す。
【0044】
炭素繊維は、黒鉛化されていることが望ましい。第1金属22がLiである場合、炭素繊維が黒鉛化されていることにより、Liイオンが炭素繊維に吸蔵されやすくなることが期待される。Liイオンが炭素繊維に吸蔵されることにより、Li金属の核生成が均一になることが期待される。これにより、第1金属22であるLiがデンドライト状に成長することが抑制されると考えられる。
【0045】
炭素繊維集合体21において、複数の炭素繊維はそれぞれ互いに結合されていてもよい。炭素繊維は、たとえば次の方法により結合され得る。複数の炭素繊維およびバインダが混合されることにより、混合物が調製される。不活性雰囲気下で混合物が加熱されることにより、炭素繊維およびバインダが黒鉛化される。これにより複数の炭素繊維がそれぞれ互いに結合され得る。バインダは、たとえばコールタール、石油ピッチ、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等であってもよい。複数の炭素繊維がそれぞれ互いに結合されていることにより、炭素繊維集合体21が自立可能な強度を有することが期待される。
【0046】
炭素繊維は、たとえば1μm以上50μm以下の平均直径を有してもよい。平均直径は、たとえば100本以上の炭素繊維の平均値であってもよい。炭素繊維は、たとえば1mm以上50mm以下の数平均繊維長を有してもよい。数平均繊維長は、たとえば100本以上の炭素繊維の平均値であってもよい。
【0047】
(空孔率)
炭素繊維集合体21は70%以上90%以下の空孔率を有することが望ましい。空孔率が70%未満である場合、炭素繊維集合体21の内側に空間が少ないため、炭素繊維集合体21の外表面に第1金属22が析出すると考えられる。これにより、充放電サイクル後の容量維持率の低下を抑制することが困難となる可能性がある。空孔率が90%を超える場合、炭素繊維集合体21の表面積が減少することにより、局所的な電流集中が起こりやすくなるため、放電サイクル後の容量維持率の低下を抑制することが困難となる可能性がある。
【0048】
本明細書において「空孔率」とは、は炭素繊維集合体21における空孔体積の比率を示す。空孔率は一般的な水銀ポロシメータにより測定される。空孔率は少なくとも3回測定される。少なくとも3回の算術平均が炭素繊維集合体21の空孔率とされる。
【0049】
(第1金属)
第1金属22は、金属二次電池の満充電状態において、負極20に含まれている。第1金属22は負極活物質である。第1金属22はアルカリ金属またはアルカリ土類金属である。アルカリ金属は、たとえば、Li、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)であってもよい。アルカリ土類金属は、たとえば、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)であってもよい。すなわち第1金属22は、Li、Na、K、MgまたはCaであってもよい。第1金属22は、Liであることが望ましい。
【0050】
電池100の満充電時における負極20の容量は、正極10(すなわち、正極合材層12)が有する理論容量と同等であると考えられる。たとえば図2に示すように正極10と負極20とが同等の面積を有する場合、電池100の満充電時における負極20における単位面積あたりの容量(mAh/cm)は、正極合材層12が有する単位面積あたりの容量(mAh/cm)と同等であると考えられる。したがって、電池100の満充電状態における、負極20に含まれる第1金属22の量は、以下のように算出され得る。
【0051】
正極合材層12の単位面積あたりの質量をA(g/cm)とし、正極合材層12の単位質量あたりの理論容量をB(mAh/g)とする。係る場合、AとBとの積が正極合材層12の単位面積あたりの理論容量C(mAh/cm)となる。
【0052】
次に、第1金属22の単位質量あたりの理論容量をD(mAh/g)とする。ここで負極20の単位面積あたりの理論容量(mAh/cm)は、正極合材層12の単位面積あたりの理論容量C(mAh/cm)と同等であると考えられる。係る場合、CをDで除した値が、負極20単位面積あたりの第1金属22の含有量E(g/cm)となる。
【0053】
第1金属22の1モルあたりの重量をF(g/モル)とする。係る場合、EをFで除することにより、負極20の単位面積当たりに含まれる第1金属22のモル数(モル/cm)が算出される。これにより、負極20に含まれる第1金属22の量(モル数)を算出することができる。
【0054】
(第2金属)
第2金属23は、金属二次電池の満充電状態において、負極20に含まれている。第2金属23は、少なくとも炭素繊維集合体21の厚み方向中央部に担持されている。第2金属23は、第1金属22と合金化する金属または合金であるため、第1金属22の核生成の種として働くことが期待される。第2金属23を種として第1金属22の核生成が起こることにより、第1金属22の析出が少なくとも炭素繊維集合体21の厚み方向中央部において選択的に起こることが期待される。すなわちデンドライト金属の成長の抑制が期待される。
【0055】
電池100の満充電状態において、第2金属23は、負極20に含まれる第1金属22(100モル%)に対して、0.0046モル%以上1.39モル%以下の量で炭素繊維集合体21に担持されていてもよい。
【0056】
電池100の満充電状態において、第2金属23が負極20に含まれる第1金属22(100モル%)に対して、0.0046モル%未満の量で炭素繊維21内に担持されている場合、第2金属23の絶対量が不足していると考えられる。そのため、第2金属23を種とした第1金属22の核生成が不十分となり、デンドライト金属の成長の抑制が不十分となるおそれがある。
【0057】
電池100の満充電状態において、第2金属23が負極20に含まれる第1金属22(100モル%)に対して、1.39モル%を超える量で炭素繊維21内に担持されている場合、第2金属23の絶対量が過剰であると考えられる。そのため、負極20の形成が困難になる可能性がある。
【0058】
第2金属23の形態は粒子状である。第2金属23の形態を粒子状とすることにより、第1金属22の核生成の種(seed)として働くことが期待される。第2金属23は粒子状であればよく、形状は特に限定されない。第2金属23の形状は、たとえば不定形状、球状、楕円球状等であってもよい。また、第2金属23のサイズは特に限定されるべきではない。第2金属23の粒径は、ナノサイズであってもよい。すなわち第2金属23はナノ粒子であってもよい。該ナノ粒子は、たとえば1nm以上200nm以下の粒子径を有してもよい。
【0059】
第2金属23は、たとえば金、白金、マグネシウム、亜鉛、タングステン、モリブデン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛、ヒ素、アンチモン、およびビスマスからなる金属群より選択された1種の金属を含んでもよい。第2金属23が該金属群から選択された1種の金属を含む場合、第1金属22の核生成の種(seed)として働くと考えられる。これにより、第1金属22の核成長が促進されるため、デンドライト金属の成長の抑制が期待される。
【0060】
第2金属23は金を含むことが望ましい。第2金属23が金を含む場合、デンドライト金属の成長の抑制が期待される。
【0061】
(イオン伝導性高分子層)
負極20は、電解質を含有するイオン伝導性高分子層(以下、単に「イオン伝導性高分子層」とも記される)をさらに含んでもよい。炭素繊維集合体21の少なくとも一部が該イオン伝導性高分子層で被覆されていてもよい。炭素繊維集合体21に含まれる炭素繊維の全てが、該イオン伝導性高分子層で被覆されることが望ましい。炭素繊維集合体21の表面の少なくとも一部がイオン伝導性高分子層により被覆されることにより、析出したデンドライト金属の表面において、不均一な被膜の形成が抑制され得る。これにより、デンドライト金属の成長の抑制が期待される。イオン伝導性高分子層による被覆厚さは、たとえば1μm以上20μm以下であってもよい。
【0062】
イオン伝導性高分子材料は、たとえば、PVDF−HFP、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等であってもよい。1種の高分子材料が単独で使用されてもよい。2種以上の高分子材料が組み合わされて使用されてもよい。高分子材料は架橋されていてもよい。
【0063】
イオン伝導性高分子材料は、それ自体がイオン伝導性を有してもよい。イオン伝導性高分子材料は電解質を吸収することにより、イオン伝導性を有してもよい。イオン伝導性高分子材料はPVDF−HFPであることが望ましい。すなわち、イオン伝導性高分子層がPVDF−HFPを含むことが望ましい。PVDF−HFPは電解質を吸収することにより、高いイオン伝導性を発現することが期待される。イオン伝導性高分子層が高いイオン伝導性を有することにより、析出した第1金属22の先端への電流集中が抑制され、デンドライト金属の成長の抑制が期待される。
【0064】
<正極>
正極10はシートであり得る。正極10は、たとえば正極集電体11および正極合材層12を含む。正極集電体11は、たとえばAl箔、Al合金箔等であってもよい。正極集電体11は、たとえば10μm以上50μm以下の厚さを有してもよい。
【0065】
正極合材層12は、正極集電体11の表面に形成されている。正極合材層12は正極集電体11の表裏両面に形成されていてもよい。正極合材層12は、たとえば10μm以上200μm以下の厚さを有してもよい。正極合材層12は正極活物質を少なくとも含む。すなわち正極10は正極活物質を少なくとも含む。
【0066】
正極活物質は、第1金属22のイオンが可逆的に挿入され得る物質である。第1金属22がLiである場合、正極活物質は、たとえば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(Ni,Co,Mn)O(たとえばLiNi1/3Co1/3Mn1/3等)、LiFePO等であってもよい。第1金属22がNaである場合、正極活物質は、たとえば、NaCoO、NaFeO等であってもよい。1種の正極活物質が単独で使用されてもよい。2種以上の正極活物質が組み合わされて使用されてもよい。
【0067】
正極合材層12は、導電材およびバインダをさらに含んでもよい。導電材は、たとえばカーボンブラック等であってもよい。導電材の含量は、100質量部の正極活物質に対して、たとえば1質量部以上10質量部以下であってもよい。バインダも特に限定されるべきではない。バインダは、たとえばPVDF等であってもよい。バインダの含量は、100質量部の正極活物質に対して、たとえば1質量部以上10質量部以下であってもよい。
【0068】
<電解質>
電解質は、第1金属22のイオンが伝導し得る物質である。電解質は液体電解質であってもよい。電解質はゲル電解質であってもよい。電解質は固体電解質であってもよい。液体電解質は、たとえば電解液であってもよい。電解液は、支持塩および溶媒を含み得る。第1金属22がLiである場合、支持塩は、たとえば、LiPF、LiBF4、LiN(SOF)等であってもよい。第1金属22がNaである場合、支持塩は、たとえば、NaClO等であってもよい。電解液は、たとえば0.5mоl/l以上2mоl/l以下の支持塩を含んでもよい。電解液は、たとえば3mоl/l以上5mоl/l以下の支持塩を含んでもよい。
【0069】
溶媒は、たとえば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、アセトニトリル(AN)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等であってもよい。1種の溶媒が単独で使用されてもよい。2種以上の溶媒が組み合わされて使用されてもよい。
【0070】
<セパレータ>
セパレータ30はフィルムであり得る。セパレータ30は、たとえば10μm以上50μm以下の厚さを有してもよい。セパレータ30は多孔質である。セパレータ300は電気絶縁性である。セパレータ30は、たとえば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製等の多孔質フィルムであってもよい。
【0071】
セパレータ30は単層構造を有してもよい。セパレータ30は、たとえばPE製の多孔質フィルムのみから形成されていてもよい。セパレータ30は多層構造を有してもよい。セパレータ30は、たとえば、PP製の多孔質フィルム、PE製の多孔質フィルムおよびPP製の多孔質フィルムがこの順序で積層されることにより形成されていてもよい。
【0072】
<金属電池の製造方法>
本実施形態の金属二次電池は、たとえば以下の製造方法により製造され得る。
図5は、本実施形態の金属二次電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、「(A)炭素繊維集合体21の準備」、「(B)負極の準備」、「(C)組み立て」および「(D)初回充電」を少なくとも含む。
【0073】
《(A)炭素繊維集合体21の準備》
本実施形態の製造方法は、負極20の基材として炭素繊維集合体21を準備することを含む。炭素繊維集合体21は、たとえば2つ準備される。これら2つの炭素繊維集合体21は、同一の長さ、幅および厚みを有してもよい。炭素繊維集合体21は購入されてもよい。東レ株式会社製の「TGP−H−030」、三菱レイヨン株式会社製の「MFL−L」、大阪ガスケミカル株式会社製の「S−259P」等が炭素繊維集合体21として準備されてもよい。
【0074】
《(B)負極20の準備》
粒子状の第2金属23準備される。2つの炭素繊維集合体21の表面(片面)に、第2金属23が担持される。これにより、表面(片面)に粒子状の第2金属23が担持された炭素繊維集合体21(以下、「片面第2金属担持基材」とも記される)が2つ準備され得る。なお第2金属23は、たとえばマグネトロンスパッタリング、真空蒸着法、CVD法、イオンプレーティング法、メッキ法等により2つの炭素繊維集合体21の表面に担持されてもよい。該2つの片面第2金属担持基材が、金属を担持している面どうしが接するように積層される。これにより、厚み方向中央部に粒子状の第2金属23が担持された炭素繊維集合体21(すなわち、負極20)を得ることができる。
【0075】
《(C)電池100の組み立て》
本実施形態の電池の製造方法は、上記で得られた負極20と、正極10と、電解質とを少なくとも含む電池100を組み立てることを含む。
【0076】
たとえば、正極10およびセパレータ30が準備される。正極10およびセパレータ30の詳細は前述のとおりである。正極10および負極20の間にセパレータ30が挟まれつつ、正極10および負極20が交互に積層されることにより、電極群40が形成され得る。
【0077】
外装材50および電解質が準備される。外装材50および電解質の詳細は前述のとおりである。電極群40および電解質が外装材50に収納される。外装材50が密閉される。以上より、電池100が組み立てられる。
【0078】
《(D)初回充電》
本実施形態の電池の製造方法は、電池100を充電することを含む。電池100は、第1金属22の析出電位に達するまで充電される。これにより第1金属22が炭素繊維集合体21に担持されることになる。たとえば第1金属22がLiである場合、電池100が4.2Vまで充電され得る。充電時の電流密度は特に限定されるべきではない。たとえば電流密度は、1/10C程度に相当する電流密度であってもよい。「1C」は、電池1000の定格容量を1時間で充電する電流レートを示す。電流密度は、たとえば1mA/cm程度であってもよい。
【0079】
充電後、電池100が放電されてもよい。たとえば第1金属22がLiである場合、電池100が3.0Vまで放電され得る。以上より、電池100が製造され得る。
【実施例】
【0080】
以下、本開示の実施例が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0081】
<電池の製造>
《実施例1》
1.正極の製造
正極集電体11(Al箔)の表面にペーストが塗布されることにより、正極合材層12が形成された。これにより正極10が製造された。正極10が所定の大きさに裁断された。正極合材層12は、片面で16mg/cmの目付を有する。正極合材層12は、正極
活物質〔Li(Ni,Co,Mn)O〕、導電材(カーボンブラック)およびバインダ
(PVDF)を含む。すなわち、第1金属22としてLiを含む。
【0082】
2.負極の製造
《炭素繊維集合体21の準備》
負極20の基材として、炭素繊維集合体21(PAN系炭素繊維、シート状、厚さ 110μm、空孔率 80%)が2つ準備された。炭素繊維集合体21はそれぞれ所定の大きさに裁断された。
【0083】
《第2金属の担持》
第2金属23として、粒子状の金が形成された。マグネトロンスパッタリング法により粒子状の金(すなわち、粒子状の第2金属23)が2つの炭素繊維集合体21の表面(片面)にそれぞれ担持された。これにより、片面に粒子状の金(第2金属23)が担持された炭素繊維集合体21(片面第2金属担持基材)が2つ準備された。該2つの片面第2金属担持基材が、金を担持している面どうしが接するように積層された。これにより、厚み方向中央部に粒子状の金が担持された炭素繊維集合体21(すなわち、負極20)を得た。負極20に担持されている金の量は、0.07μモル/cmとされた。
【0084】
3.組み立て
負極20、セパレータ30および正極10がこの順序で積層された。これにより電極群40が形成された。セパレータ30はポリエチレン製の多孔質フィルム(厚さ20μm)である。
【0085】
電極群40が外装材50に収納された。外装材50に電解液が注入された。電解液は以下の成分を含む。外装材50が密封された。以上より電池100が組み立てられた。
【0086】
Li塩:LiPF(1mоl/l)
溶媒:[EC:DMC:EMC=3:4:3(体積比)]
【0087】
4.初回充放電
電池100が4.2Vまで充電された。すなわち電池100が満充電状態にされた。充電により、炭素繊維集合体21において、第1金属22であるLiが析出した。すなわち炭素繊維集合体21、第1金属22(Li)および第2金属23(金)を含む負極20が形成された。負極20において、炭素繊維集合体21の厚み方向中央部に担持されている粒子状の第2金属23(金)を種として、第1金属22(Li)の核生成が生じていることを確認するため、3.5Vまで充電した電池を解体して得られた負極である炭素繊維集合体21について、金非担持面(外側)および金担持面(中央部)を光学顕微鏡で観察した(図6および図7)。図7に示されるように、金担持面(中央部)のみに金属リチウムが析出していることが確認された。
【0088】
電池100の満充電状態における、負極20に含まれる第1金属22(Li)の量は、以下に示す条件から107.5μモル/cmと算出された。当該数値は、以下に示す負極20の単位面積あたりのLiの含有量Eを、Liの1モルあたりの重量Fで除した値である。すなわち、金属二次電池100の満充電状態において、負極20に含まれる第1金属22(Li)に対して、炭素繊維集合体21に担持されている第2金属23(金)の量は、0.065モル%であった。
【0089】
(A)正極合材層12の単位面積あたりの質量:16(mg/cm
(B)正極合材層12の単位質量あたりの容量:180(mAh/g)
(C)正極合材層12の単位面積あたりの容量:2.88(mAh/cm
(D)Liの単位質量あたりの理論容量:3861(mAh/g)
(E)負極20の単位面積あたりのLiの含有量:745.9(μg/cm
(F)Liの1モルあたりの重量:6.941(g/モル)
【0090】
《実施例2》
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)にPVDF−HFPが溶解された。これにより高分子溶液が調製された。高分子溶液において、PVDF−HFPの含量は5質量%である。高分子溶液に2つの炭素繊維集合体21が浸漬された。浸漬後、炭素繊維集合体21がそれぞれ高分子溶液から引き上げられた。2つの炭素繊維集合体21が乾燥された。走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により、2つの炭素繊維集合体21が分析された。これによりPVDF−HFPが炭素繊維の表面を被覆していることが確認された。被覆厚さは数μm程度であった。被覆後の2つの炭素繊維集合体21が使用されて負極20が製造されることを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0091】
《実施例3》
表1に示すように、真空蒸着法を用いて炭素繊維集合体21全体に均一に粒子状の金を担持させたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0092】
《実施例4〜実施例6》
表1に示すように、負極20に担持されている金の担持量を変化させたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0093】
《実施例7》
表1に示すように、負極20に担持される第2金属23として、粒子状のマグネシウム(Mg)が用いられたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0094】
《比較例1》
表1に示すように、負極20の製造において2つの片面第2金属担持基材が、金を担持してない面どうしが接するように積層されたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。すなわち、負極20の厚み方向の両表面に粒子状の金が担持されている。すなわち、負極20の中央部に粒子状の金が担持されていない態様である。
【0095】
《比較例2》
表1に示すように負極20の基材に担持されている金の担持量を変化させたこと、および金の形態を非粒子状(金箔)としたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0096】
《比較例3》
表1に示すように、負極20の基材に金を担持しなかったことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0097】
《比較例4》
表1に示すように負極20の基材に金を担持しなかったこと、および実施例2と同様にPVDF−HFPにて炭素繊維集合体21を被覆したことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0098】
《比較例5》
表1に示すように、炭素繊維集合体21に代えて銅箔が負極20の基材として使用されること、および負極20の基材に金を担持しなかったことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0099】
《比較例6》
炭素繊維集合体21に代えて銅箔が負極20の基材として使用されること、および該銅箔の表面にマグネトロンスパッタリング法で粒子状の金を担持したことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0100】
《比較例7》
表1に示すように、負極20に担持される第2金属23として、粒子状のニッケルが用いられたことを除いては、実施例1と同様に電池100が製造された。
【0101】
<評価>
《初回充放電効率》
以下の条件により電池が充電された。これにより初回充電容量が測定された。さらに以下の条件により電池が放電された。これにより初回放電容量が測定された。初回放電容量が初回充電容量で除されることにより、初回充放電効率が算出された。結果は下記表1の「充放電効率」の欄に示されている。値が高いほど、初回充放電効率が高いことを示している。
【0102】
充電:定電流方式、充電電圧 4.2V、電流密度、1mA/cm
放電:定電流方式、放電電圧 3.0V、電流密度、1mA/cm
【0103】
《10サイクル後容量維持率》
25℃環境において、以下の条件により充放電が10サイクル実施された。10サイクル目の放電容量が1サイクル目の放電容量で除されることにより、10サイクル後の容量維持率が算出された。結果は下記表1の「容量維持率」の欄に示されている。値が高いほど、充放電サイクル後の容量維持率が高いことを示している。
【0104】
充電:定電流方式、充電電圧 4.2V、電流密度 5mA/cm
放電:定電流方式、放電電圧 3.0V、電流密度 5mA/cm
【0105】
【表1】
【0106】
<結果>
上記表1の実施例1〜実施例7に示されるように、少なくとも厚み方向中央部に粒子状の金または粒子状のマグネシウムが担持されている炭素繊維集合体21を負極20の基材として用いることにより、10サイクル後容量維持率が向上する傾向が認められる。粒子状の金がLiの核生成の種として働き、Liの核生成が炭素繊維集合体21の厚み方向中央部で選択的に起こったものと考えられる。炭素繊維集合体21の厚み方向中央部において選択的にLiを析出させることにより、デンドライトLiの成長が抑制されたため、10サイクル後容量維持率が向上したものと考えられる。
【0107】
実施例2の結果から、PVDF−HFPを含むイオン伝導性高分子層が炭素繊維集合体21の表面を被覆していることにより、10サイクル後容量維持率が顕著に向上することが確認された。PVDF−HFP(イオン伝導性の高分子材料)により、炭素繊維集合体21の外表面におけるデンドライトLiの成長が抑制されたためと考えられる。
【0108】
実施例5および実施例6の結果から、第2金属23は、第1金属22に対して0.0046モル%以上1.39モル%以下の量で炭素繊維集合体21内に担持されてもよいことが示された。
【0109】
比較例1の結果から、外表面に粒子状の金が担持されている炭素繊維集合体21を負極20の基材として用いると、10サイクル後容量維持率に改善の余地が生じることが確認された。炭素繊維集合体21の表面部において選択的にLiの析出が生じたため、デンドライトLiの成長が促進されたものと考えられる。
【0110】
比較例2の結果から、非粒子状の金(金箔)を炭素繊維集合体21の厚み方向中央部に担持した場合、10サイクル後容量維持率に改善の余地が生じることが確認された。このことから、粒子状の金がLiの核生成の種として働くことが確認された。
【0111】
比較例3および比較例4の結果から、炭素繊維集合体21に金を担持しない場合、10サイクル後容量維持率に改善の余地が生じることが確認された。Liと合金化する金を担持していないため、炭素繊維集合体21の表面部におけるデンドライトLiの成長を抑制することができなかったものと考えられる。
【0112】
比較例5および比較例6の結果から、炭素繊維集合体21に代えて銅箔を負極20の基材として用いた場合、10サイクル後容量維持率に改善の余地が生じることが確認された。このことから、炭素繊維集合体21が有する三次元構造が10サイクル後容量維持率の改善に寄与しているものと考えられる。
【0113】
比較例7の結果から、第1金属22と合金化しないニッケルを第2金属23として用いた場合、10サイクル後容量維持率に改善の余地が生じることが確認された。第1金属22の核生成が、炭素繊維集合体21の厚み方向中央部で発生しなかったためと考えられる。
【0114】
今回開示された実施例および実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特許請求の範囲の記載によって確定される技術的範囲は、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0115】
10 正極、11 正極集電体、12 正極合材層、20,200 負極、21 炭素繊維集合体、22 第1金属、23 第2金属、24 空孔、30 セパレータ、40 電極群、50 外装材、51 正極タブ、52 負極タブ、100 電池(金属二次電池)、201 銅箔、202 リチウム金属。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7