(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記取付ステーは、上記アタッチと接合された上部プレートと、上記上部プレートとの間でシート状の電気絶縁部材を隔てて上記アーム底部を挟み込むブラケットと、を有し、上記上部プレート及び上記ブラケットが電気絶縁性を有するボルトで締結固定されるように構成されている、請求項2に記載の電着塗装用ハンガー。
上記取付ステーは、上記アタッチと接合された上部プレートと、外周面が電気絶縁部材で被覆された上記アーム底部を上記上部プレートとの間で挟み込むブラケットと、を有し、上記上部プレート及び上記ブラケットがボルトで締結固定されるように構成されている、請求項2に記載の電着塗装用ハンガー。
上記アーム底部は中実軸状のウエイト部を有し、このウエイト部が上記取付ステーの上記上部プレートと上記ブラケットとの間に挟み込まれるように構成されている、請求項4に記載の電着塗装用ハンガー。
上記集電子は、上記ハンガー本体との間に電気絶縁体を介装させた状態で上記ハンガー本体に取付けられるように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電着塗装用ハンガー。
電着塗料が貯留され且つ導電性のワークの対極となる電極が浸漬された電解槽と、上記ワークを搬送しながら上記電解槽に浸漬するためのハンガーと、上記電解槽に浸漬された上記ワークと上記電極との間に電着用の直流電圧を印加する電源と、を備え、
上記ハンガーは、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電着塗装用ハンガーによって構成されている、電着塗装装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述の各態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0017】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記ハンガー本体は、上記ワークを支持する少なくとも1つの支持アームを有し、上記通電部は、上記支持アームのうち上記ワークよりも下方に位置するアーム底部に上記ワークと接触可能に設けられ且つ上記支持アームに対して電気絶縁された導電性のアタッチと、上記集電子と上記アタッチとを電気的に接続する導線が電気絶縁性の被覆材で被覆されてなる配線ケーブルと、を有するのが好ましい。
【0018】
この電着塗装用ハンガーによれば、既存の要素であるアタッチ及び配線ケーブルを利用して、集電子とワークとをハンガー本体をバイパスして電気的に接続する通電部を構築できる。このため、ハンガーに要するコストを低く抑えることができる。
【0019】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記支持アームは、上記集電子と上記アタッチとの間に延在する筒状部を有し、この筒状部に上記配線ケーブルを収容するように構成されているのが好ましい。
【0020】
この電着塗装用ハンガーによれば、配線ケーブルを支持アームの筒状部に収容することによって、この配線ケーブルを保護するのに効果的である。
【0021】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記ハンガー本体は、上記支持アームとしての第1支持アーム及び第2支持アームと、上記第1支持アームと上記第2支持アームのそれぞれの上記アーム底部に上記アタッチと一体に設けられる取付ステーと、上記第1支持アーム側の上記取付ステーと上記第2支持アーム側の上記取付ステーとを上記ワークよりも低所で連結する連結アームと、を有するのが好ましい。
【0022】
この電着塗装用ハンガーによれば、第1支持アーム側のアタッチと第2支持アーム側のアタッチは取付ステー及び連結アームを介して間接的に接続される。このため、連結アームを設けない場合に比べて、アタッチにおけるワークの支持強度を高めることができる。
また、ハンガー本体に連結アームを設けることにより、第1支持アームと第2支持アームをワークよりも高所で直接的に連結するような連結部材を省略することができる。この場合、連結部材に付着した付着物が剥離するとその下方に位置するワークが影響を受け易いが、この連結部材に代えてワークよりも下方に位置する連結アームを用いると、ワークは連結アームから剥離した付着物の影響を受けにくい。
【0023】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記取付ステーは、上記アタッチと接合された上部プレートと、上記上部プレートとの間でシート状の電気絶縁部材を隔てて上記アーム底部を挟み込むブラケットと、を有し、上記上部プレート及び上記ブラケットが電気絶縁性を有するボルトで締結固定されるように構成されているのが好ましい。
【0024】
この電着塗装用ハンガーによれば、取付ステーの一部にシート状の電気絶縁部材を使用する場合に生じる剛性の低下を連結アームによって補うことができる。
【0025】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記取付ステーは、上記アタッチと接合された上部プレートと、外周面が電気絶縁部材で被覆された上記アーム底部を上記上部プレートとの間で挟み込むブラケットと、を有し、上記上部プレート及び上記ブラケットがボルトで締結固定されるように構成されているのが好ましい。
【0026】
この電着塗装用ハンガーによれば、アーム底部の外周面を電気絶縁部材で被覆することによって、上部プレートとブラケットを締結固定するのに汎用の安価なボルトを使用することができる。
【0027】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、このウエイト部が上記取付ステーの上記上部プレートと上記ブラケットとの間に挟み込まれるように構成されているのが好ましい。
【0028】
この電着塗装用ハンガーによれば、第1支持アームのうち高重量のウエイト部を挟み込む取付ステーと、第2支持アームのうち高重量のウエイト部を挟み込む取付ステーと、を連結アームを介して互いに連結することによって、ハンガー全体の強度を高めることができる。
【0029】
上記の電着塗装用ハンガーにおいて、上記集電子は、上記ハンガー本体との間に電気絶縁体を介装させた状態で上記ハンガー本体に取付けられるように構成されているのが好ましい。
【0030】
この電着塗装用ハンガーによれば、集電子とハンガー本体との間に電気絶縁体を介装させることによって、集電子を電気絶縁状態でハンガー本体に取付けるための構造を簡素化できる。
【0031】
上記の電着塗装装置は、上記ワークに対して上記電着塗料の電着前に脱脂液による前処理を行う前処理槽と、上記電解槽と上記前処理槽との間で上記ハンガーを上記ワークとともに循環させる駆動部と、を備えるのが好ましい。
【0032】
この電着塗装装置において、ハンガーは駆動部によって電解槽と前処理槽との間を循環する。ここで、電解槽でハンガー本体に通電しないためその外表面に塗膜が形成されにくい。従って、ハンガー本体の外表面に前処理槽のアルカリ性の脱脂液と電解槽の酸性の電着塗料とがゲル化した凝集物の発生量を少なく抑えることができ、ワークから凝集物を取り除く修正処理に要する工数を下げることができる。
【0033】
上記の電着塗装方法において、上記ワークに上記電着塗料を電着させる上記電解槽と、このワークに対して上記電着塗料の電着前に脱脂液による前処理を行う前処理槽と、の間で上記ハンガーを循環させるのが好ましい。
【0034】
この電着塗装方法によれば、ハンガーを電解槽と前処理槽との間で循環させる場合でも、ハンガー本体の外表面に前処理槽のアルカリ性の脱脂液と電解槽の酸性の電着塗料とがゲル化した凝集物の発生量を少なく抑えることができる。
【0035】
以下、ワークの電着塗装にかかる電着塗装装置及び電着塗装方法の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0036】
この実施形態を説明するための図面において、特にことわらない限り、ワークの搬送方向に沿った第1方向を矢印Xで示し、第1方向と直交する水平方向である第2方向を矢印Yで示し、第1方向と直交する垂直方向(高さ方向)である第3方向を矢印Zで示すものとする。
【0037】
(
参考形態1)
図1に示されるように、
参考形態1の電着塗装用ハンガー(以下、単に「ハンガー」という。)1は、導電性のワークWを電着塗装時に搬送するためのものである。
本形態では、このワークWは、自動車ボディと、この自動車ボディを載置するためのトレー(図示省略)と、によって構成されている。
【0038】
ハンガー1は、ハンガー本体10と、集電子20と、通電部30と、を備えている。
【0039】
ハンガー本体10は、ワークWを保持するものであり、2つの支持アーム11,12を有する。これら2つの支持アーム11,12は、いずれも略C字形状(或いは、一部が開口した矩形であるステープル形状ともいう。)の筒状管によって構成されている。
【0040】
一方の第1支持アーム11は、ワークWの搬送方向Dの前側に配置され、他方の第2支持アーム12は、ワークWの搬送方向Dの後側に配置されている。第1支持アーム11を「前アーム」といい、第2支持アーム12を「後アーム」ということもできる。
【0041】
2つの支持アーム11,12は、第1方向Xに延在する連結アーム16によってアーム上部11a,12aが互いに連結され、且つ第1方向Xに平行に延在する2つの連結アーム17によってアーム底部11b,12bが互いに連結されている。
【0042】
アーム上部11a及びアーム上部12aのそれぞれの被駆動部13は、後述の駆動部(
図4中の駆動部50を参照)によって搬送方向Dに駆動される。アーム上部11aの被駆動部13には、導電バー2に電気的に接続される集電子20が取付けられている。
【0043】
通電部30は、集電子20とハンガー本体10に保持されたワークWとをこのハンガー本体10をバイパスして電気的に接続するように構成されている。この通電部30は、2つの支持アーム11,12のアーム底部11b,12bのそれぞれに取付けられた導電性のアタッチ31と、集電子20とアタッチ31とを電気的に接続する配線ケーブル32と、を有する。
【0044】
第1支持アーム11側の通電部30は、アーム上部11aの集電子20が、第1支持アーム11を通ることなく配線ケーブル32を通じて2つのアタッチ31と電気的に接続された通電経路Cを有する。同様に、第2支持アーム12側の通電部30は、アーム上部11aの集電子20が、第2支持アーム12を通ることなく配線ケーブル32から分岐した配線ケーブル32aを通じて2つのアタッチ31と電気的に接続された通電経路Cを有する。
【0045】
ハンガー1にワークWがセットされた保持状態で、このワークWは、第1支持アーム11のアーム底部11bから第3方向Zに沿って上方へ突出している2つのアタッチ31と、第2支持アーム12のアーム底部12bから第3方向Zに沿って上方へ突出している2つのアタッチ31と、の計4つのアタッチ31によって下方から支えらえるように構成されている。
【0046】
図2に示されるように、第1支持アーム11のアーム上部11aにおいて、被駆動部13は金属製のブラケット14に締結固定されている(
図1中のA部分を参照)。また、特に図示しないものの、第2支持アーム12のアーム上部12aの被駆動部13も同様に、金属製のブラケット14に締結固定されている。そして、各ブラケット14は、電気絶縁体15を挟み込んだ状態で電気絶縁ボルト(図示省略)によって、対応する集電子20に締結固定されている。
【0047】
このため、各集電子20は、ハンガー本体10との間に電気絶縁体15を介装させた状態でハンガー本体10に取付けられている。このとき、集電子20は、ハンガー本体10に対して電気的に絶縁された電気絶縁状態となっている。
【0048】
一方で、集電子20は、配線ケーブル32,32aのそれぞれの導線33の一端部33aに電気的に接続されている。ここで、第1支持アーム11は、全ての部位が中空の筒状部である筒状管であり、集電子20とアタッチ31との間に延在する筒状部に配線ケーブル32を収容するように構成されている。このため、集電子20から延出した配線ケーブル32は、第1支持アーム11のアーム上部11aに設けられた貫通孔(図示省略)を通じて管内に導入され、この管内をアーム底部11b側に向けて配線されている。
【0049】
また、配線ケーブル32から分岐した配線ケーブル32aは、第1支持アーム11のアーム上部11aの管内を通り、また連結アーム16の管内を通った後に、第2支持アーム12のアーム上部12aの管内に導入され、この管内をアーム底部12b側に向けて配線されている(
図1参照)。
【0050】
図3に示されるように、ハンガー本体10は、第1支持アーム11のアーム底部11bにアタッチ31と一体に設けられる取付ステー40を備えている(
図1中のB部分を参照)。この取付ステー40は、第1支持アーム11のアーム底部11bにおいて第2方向Yに離間した2箇所のそれぞれに設けられている。
【0051】
また、特に図示しないものの、第2支持アーム12のアーム底部12bにおいても、この取付ステー40と同一形状の2つの取付ステー40がアタッチ31と一体に設けられている。
【0052】
このため、以下では、第1支持アーム11側のアタッチ31及び取付ステー40についてのみ説明し、第2支持アーム12側のアタッチ31及び取付ステー40についての説明を省略する。以下の説明を参照することによって、第2支持アーム12側のアタッチ31及び取付ステー40の具体的な構造が明確になる。また、特に説明しないものの、第2支持アーム12側の配線ケーブル32aの構造は、第1支持アーム11側の配線ケーブル32の構造と同一である。
【0053】
アタッチ31は、第1支持アーム11のうちワークWよりも下方に位置するアーム底部11bにワークWと接触可能に設けられている。このアタッチ31は、第1方向Xを板幅とし且つ第2方向Yを板厚としたときに、板厚が概ね一定であるプレート状の金属板として構成されている。このアタッチ31は、第2方向Yについての側面視で取付ステー40側の基端部31aからワークW側の先端部31bに向けて板幅が漸減する形状を有する。このアタッチ31は、先端部31bにてワークWに接触し且つこのワークWを下方から支持するようになっている。
【0054】
なお、アタッチ31の形状はこのような形状に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に変更可能である。例えば、トレーを使用せずに自動車ボディ自体がワークWとなる場合には、アタッチ31に自動車ボディが直に載せられることになるため、自動車ボディ側の形状に応じてアタッチ31の形状が決められる。
【0055】
取付ステー40は、アタッチ31の基端部31aと溶接によって接合された金属製の上部プレート41と、この上部プレート41との間でシート状の電気絶縁部材43を隔ててアーム底部11bを挟み込むブラケット42と、を有する。そして、これら上部プレート41及びブラケット42が電気絶縁性能を有するボルト(電気絶縁ボルト)44で締結固定されている。
【0056】
このため、第1支持アーム11側のアタッチ31は、電気絶縁部材43及びボルト44を介して、第1支持アーム11のアーム底部11bに対して電気絶縁されている。同様に、第2支持アーム12側のアタッチ31は、電気絶縁部材43及びボルト44を介して、第2支持アーム12のアーム底部12bに対して電気絶縁されている。
【0057】
一方で、配線ケーブル32は、上部プレート41を貫通し、導線33の他端部33bがアタッチ31に電気的に接続されている。このため、集電子20とアタッチ31が、配線ケーブル32の導線33を通じて電気的に接続されている。
【0058】
アタッチ31は、配線ケーブル32の導線33の他端部33bに電気的に接続されている。ここで、配線ケーブル32は、集電子20とアタッチ31とを電気的に接続する導線33が電気絶縁性の被覆材34で被覆されてなる。
【0059】
上述の電気絶縁体15、被覆材34、電気絶縁部材43はいずれも、電気絶縁性を有する樹脂材料やゴム材料などからなるのが好ましい。また、上述のボルト44は、金属製のボルト部材が電気絶縁性を有する樹脂材料やゴム材料などによって被覆されているのが好ましい。
【0060】
図1に示されるように、ハンガー本体10は、第1支持アーム11側の取付ステー40と第2支持アーム12側の取付ステー40とをワークWよりも低所で連結する2つの連結アーム17を備えている。一方の連結アーム17が第1支持アーム11側の一方の取付ステー40と第2支持アーム12側の一方の取付ステー40とを連結し、且つ他方の連結アーム17が第1支持アーム11側の他方の取付ステー40と第2支持アーム12側の他方の取付ステー40とを連結している。
【0061】
次に、
図4及び
図5を参照しながら、ワークWの工場生産ラインでこのワークWの塗装にかかる工程の概要について説明する。
【0062】
図4に示されるように、前処理工程P1は、概して電着処理が施される前のワークWの表面処理及び洗浄処理を行う工程である。ワークWの表面処理は、アルカリ性の脱脂液L1が貯留された前処理槽61を備えた前処理装置60によって実施される。前処理槽61にワークWを浸漬することによって、このワークWに対して脱脂液L1による前処理が施され、このワークWの表面の油、ゴミ等が除去される。
【0063】
電着工程P2は、概してワークWの電着処理及び洗浄処理を行う工程である。ワークWの電着処理は、酸性の電着塗料L2が貯留された電解槽71を備えた電着塗装装置70によって実施される。電解槽71にワークWを浸漬することによって、このワークWに電着塗料L2を電着させる。
【0064】
電着塗装装置70は、電解槽71と前処理槽61との間でハンガー1をワークWとともに循環させる駆動部50を備えている。この駆動部50は、具体的には図示しないものの、前処理工程P1と電着工程P2との間の循環経路を形成する搬送レール51と、この搬送レール51に沿ってハンガー1を動かすための電動モータ等のアクチュエータ52と、によって構成されている。アクチュエータ52が作動することによって、ハンガー1の被駆動部13(
図1参照)が搬送レール51に沿ってガイドされる。
【0065】
この駆動部50によれば、前処理工程P1においてワークWをハンガー1で搬送しながら前処理槽61に浸漬させた後、このワークWを引き続き電着工程P2においてハンガー1で搬送しながら電解槽71に浸漬させることができる。そして、このハンガー1からワークWを降ろして乾燥炉81に移送する一方で、このハンガー1は駆動部50によって前処理工程P1に戻されて別のワークWの搬送に使用される。このように、ハンガー1は、前処理工程P1及び電着工程P2でのワークWの搬送に兼用されている。
【0066】
焼き付け乾燥工程P3は、概して電着処理が施された後のワークWの乾燥処理を行う工程である。この乾燥処理は、ワークWが導入される乾燥炉81を備えて乾燥装置80によって実施される。
【0067】
図5に示されるように、電着塗装装置70は、上記構成のハンガー1と、電着塗料L2が貯留され且つ導電性のワークWの対極となる電極72が浸漬された電解槽71と、電解槽71に浸漬されたワークWと電極72との間に電着用の直流電圧を印加する電源73と、を備えている。
【0068】
この電着塗装装置70において、ハンガー1は、ワークWを搬送しながら電着塗料L2が貯留された電解槽71に浸漬するためのものである。ワークWが電解槽71に浸漬された状態で、ハンガー1は、2つの支持アーム11,12のアーム上部11a,12aがいずれも電着塗料L2よりも上方に露出するように保持される。
【0069】
電解槽71でワークWに電着塗装を施すときには、電源73によってワークWと電極72との間にワークW側が負極となる直流電圧を印加して通電部30に通電する。このとき、
図5中の矢印で示されるような電流の流れが形成される。従って、陽に荷電した電着塗料L2の粒子は、電気泳動によりワークWに向けて移動して、ワークWの表面に析出して電着する。これにより、ワークWに塗膜が形成される。
【0070】
一方で、通電部30の通電経路Cには、ハンガー本体10をバイパスしてアタッチ31から集電子20に向けて電流が流れる。このとき、ハンガー本体10には通電されないため、このハンガー本体10の2つの支持アーム11,12の表面に塗膜が形成されない。
【0071】
なお、必要に応じて、ワークW側が負極となる直流電圧を印加する本形態に代えて、ワークW側が正極となる直流電圧を印加する形態を採用することもできる。
【0072】
上述の
参考形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0073】
参考形態1において、ワークWを電着塗装時にハンガー1によって搬送するときに、ハンガー本体10を通電経路に使用せずに、集電子20とワークWとを直接的につなげる通電部30の通電経路Cを使用してワークWに通電する。即ち、ハンガー1は、集電子20とワークWとの間に電流を流すための通電機能を有しておらず、ワークWの搬送機能のみを有している。
【0074】
このため、ハンガー1がワークWとともに電着塗料L2が貯留された電解槽71に浸漬されてこのワークWと電極72との間に電着用の直流電圧が印加されたとき、集電子20とワークWとの間に通電されるのみであり、ハンガー本体10には通電されない。従って、ワークWの電着塗装時に、ワークW自体に塗膜が形成される一方で、ハンガー本体10の2つの支持アーム11,12の外表面には電着作用による塗膜は形成されない。
【0075】
これにより、ワークWの電着塗装時にこのワークWを搬送するハンガー1の外表面に塗膜が形成されるのを防ぐことができ、ハンガー1の清掃作業に要する工数を下げることができる。
【0076】
なお、ハンガー1の外表面に電着塗料や水垢などの付着物が物理的に付着することが想定されるが、このような付着物は、電着作用によって強固に形成された被膜とは異なり、洗浄水シャワーなどを用いた洗浄処理によって容易に除去可能であるため、ハンガー1の清掃作業の負担になることがない。
【0077】
また、ハンガー1は駆動部50によって電解槽71と前処理槽61との間を循環する。ここで、電解槽71でハンガー本体10に通電しないためその外表面に塗膜が形成されにくい。従って、ハンガー1を電解槽71と前処理槽61との間で循環させる場合でも、ハンガー本体10の外表面に前処理槽61のアルカリ性の脱脂液と電解槽71の酸性の電着塗料とがゲル化した凝集物の発生量を少なく抑えることができ、ワークWから凝集物を取り除く修正処理に要する工数を下げることができる。
【0078】
上述の
参考形態1によれば、ハンガー1の既存の要素であるアタッチ31及び配線ケーブル32,32aを利用して、集電子20とワークWとをハンガー本体10をバイパスして電気的に接続する通電部30を構築できる。このため、ハンガー1に要するコストを低く抑えることができる。
【0079】
上述の
参考形態1によれば、配線ケーブル32,32aを2つの支持アーム11,12の筒状部にそれぞれ収容することによって、この配線ケーブル32,32aを保護するのに効果的である。
【0080】
上述の
参考形態1によれば、第1支持アーム11側のアタッチ31と第2支持アーム12側のアタッチ31は取付ステー40及び連結アーム17を介して間接的に接続される。このため、連結アーム17を設けない場合に比べて、アタッチ31におけるワークの支持強度を高めることができる。
特に、取付ステー40の一部にシート状の電気絶縁部材43を使用する場合に生じる剛性の低下を連結アーム17によって補うことができる。
【0081】
また、ハンガー本体10に連結アーム17を設けることにより、第1支持アーム11と第2支持アーム12をワークWよりも高所で直接的に連結するような連結部材を省略することができる。この場合、連結部材に付着した付着物が剥離するとその下方に位置するワークWが影響を受け易いが、この連結部材に代えてワークWよりも下方に位置する連結アーム17を用いると、ワークWは連結アーム17から剥離した付着物の影響を受けにくい。
【0082】
上述の
参考形態1によれば、集電子20とハンガー本体10との間に電気絶縁体15を介装させることによって、集電子20を電気絶縁状態でハンガー本体10に取付けるための構造を簡素化できる。
【0083】
なお、上述の
参考形態1に特に関連する変更例として、2つの支持アーム11,12のうち配線ケーブル32,32aを配線する一部のみを中空の筒状部とし、その他の部位を中実部とした構造を採用することもできる。
【0084】
以下、上述の
参考形態1に関連する他
の形態について図面を参照しつつ説明する。他
の形態において、
参考形態1の要素と同一の要素には同一の符号を付しており、当該同一の要素についての説明は省略する。
【0085】
(
参考形態2)
図6に示されるように、
参考形態2のハンガー101は、通電部30を構成する配線ケーブル32,32aがハンガー本体10の外部に配置している点で
参考形態1のハンガー1と相違している。
【0086】
図6及び
図7に示されるように、第1支持アーム11側の配線ケーブル32は、集電子20から第1支持アーム11の管内に導入されることなく、第1支持アーム11の外表面に沿って配線されている(特に、
図6中のA1部分を参照)。また、
図6に示されるように、第2支持アーム12側の配線ケーブル32aは、集電子20から第2支持アーム12の管内に導入されることなく、第2支持アーム12の外表面に沿って配線されている。そして、配線ケーブル32,32aは、樹脂製の結束部材35によって第1支持アーム11或いは第2支持アーム12に結束されている。
【0087】
図8に示されるように、第1支持アーム11側の配線ケーブル32は、集電子20から第1支持アーム11の外表面に沿ってアーム底部11bまで配線された後、取付ステー40の上部プレート41とアーム底部11bとを順次貫通して、アーム底部11bの管内へ導入されるように構成されている(
図6中のB1部分を参照)。
【0088】
その他の構成は、
参考形態1と同様である。
【0089】
参考形態2によれば、
参考形態1のハンガー1に比べて通電部30のメンテナンス時の作業が容易なハンガー101を提供できる。
その他、
参考形態1と同様の作用効果を奏する。
【0090】
なお、上述の
参考形態2に特に関連する変更例として、2つの支持アーム11,12の外表面に配線ケーブル32,32aを配線する方向に沿って延在する溝部を設け、この溝部に配線ケーブル32,32aの一部或いは全部を入れ込んだ構造を採用することもできる。
【0091】
(実施形態
1)
図9に示されるように、実施形態
1のハンガー201は、第1支持アーム11のアーム底部11bには、
参考形態1と同一構造の取付ステー40と、この取付ステー40とは構造の異なる取付ステー240と、が設けられている。同様に、第2支持アーム12のアーム底部12bには、取付ステー40及び取付ステー240が設けられている。
【0092】
また、第1支持アーム11側の取付ステー240と第2支持アーム12側の取付ステー240が連結アーム17で連結されている。一方で、第1支持アーム11側の取付ステー40と第2支持アーム12側の取付ステー40は、連結アーム17のような部材で連結されていない。即ち、第1支持アーム11のアーム底部11bと第2支持アーム12のアーム底部12bは、1つの連結アーム17のみを用いて連結されている。
参考形態1のハンガー1と相違している。
【0093】
図10及び
図11に示されるように、取付ステー240は、アタッチ31の基端部31aと溶接によって接合された金属製の上部プレート41と、外周面がリング状の電気絶縁部材243で被覆されたアーム底部11bを上部プレート41との間で挟み込むブラケット42と、を有する。電気絶縁部材243は、
参考形態1の電気絶縁部材43と同様に、電気絶縁性を有する樹脂材料やゴム材料などからなるのが好ましい。そして、これら上部プレート41及びブラケット42が金属製のボルト244で締結固定されている。
【0094】
このため、第1支持アーム11側のアタッチ31は、電気絶縁部材243を介して第1支持アーム11のアーム底部11bに対して電気絶縁されている。特に図示しないものの、第2支持アーム12側のアタッチ31は、電気絶縁部材243を介して第2支持アーム12のアーム底部12bに対して電気絶縁されている。
【0095】
ここで、第1支持アーム11のアーム底部11bは、中実軸状のウエイト部11cを有し、このウエイト部11cが取付ステー240の上部プレート41とブラケット42との間に挟み込まれている。このウエイト部11cは、金属製の無垢材からなるのが好ましい。特に図示しないものの、第2支持アーム12のアーム底部12bも、ウエイト部11cと同様のウエイト部を有し、このウエイト部が取付ステー240の上部プレート41とブラケット42との間に挟み込まれている。
【0096】
電気絶縁部材243の外周には、リング状のプレート部材245が設けられている。このプレート部材245は、金属材料からなり、電気絶縁部材243が上部プレート41及びブラケット42に直に接触するのを防止することによって、電気絶縁部材243の摩耗を防止する機能を果たす。
【0097】
配線ケーブル32は、アーム底部11bの中空部11dを配線された後、ウエイト部11cを貫通し、導線33の他端部33bが上部プレート41とブラケット42との間に挟み込まれている。このため、アタッチ31は、配線ケーブル32の導線33の他端部33bに電気的に接続されている。一方で、ウエイト部11cは、配線ケーブル32の導線33の他端部33bに電気的に接続されない。
【0098】
この場合、配線ケーブル32がウエイト部11cを貫通するように構成することによって、中空部11dへの液体の浸入を抑制できる。また、この抑制の効果を高めるために、アーム底部11bには、中空部11dへの液体の侵入を防止するための仕切壁11eや、中空部11dに滞留したドレインを排出するのに使用するドレイン止めのボルト11fを設けるのが好ましい。
【0099】
その他の構成は、
参考形態1と同様である。
【0100】
実施形態
1によれば、第1支持アーム11のアーム底部11bと第2支持アーム12のアーム底部12bのそれぞれの外周面を電気絶縁部材243で被覆することによって、上部プレート41とブラケット42を締結固定するのに汎用の安価なボルト244を使用することができる。
【0101】
また、第1支持アーム11のうち高重量のウエイト部11cを挟み込む取付ステー240と、第2支持アーム12のうち高重量のウエイト部を挟み込む取付ステー240と、を連結アーム17を介して互いに連結することによって、ハンガー201全体の強度を高めることができる。この場合、連結アーム17の数を1つに抑えることができる。
その他、
参考形態1と同様の作用効果を奏する。
【0102】
本発明は、上述の実施形
態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、
上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0103】
上述の実施形態では、ハンガー本体10が2つの支持アーム11,12を有する場合について例示したが、ワークWの形状などに応じて、支持アーム11に相当する部材の数を1つに或いは3つ以上に設定することもできる。
【0104】
上述の実施形態では、第1支持アーム11側の取付ステー40,240と第2支持アーム12側の取付ステー40,240が連結アーム17によって連結される場合について例示したが、取付ステー40,240のみでワークWに対するアタッチ31の支持強度を確保できる場合には、この連結アーム17に代えて第1支持アーム11のアーム底部11bと第2支持アーム12のアーム底部12bを直に連結する連結部材を用いることもできる。
【0105】
上述の実施形態では、集電子20がアタッチ31及び配線ケーブル32,32aを介してワークWに電気的に接続される場合について例示したが、
参考形態では、集電子20がアタッチ31及び配線ケーブル32,32aを介さずに、別の接続手段を介してワークWに直に電気的に接続される構造を採用することもできる。このような構造も、「集電子とハンガー本体に保持されたワークとをハンガー本体をバイパスして電気的に接続する。」という形態にかかる構造に相当する。
【0106】
上述の実施形態では、ハンガー1,101,201を前処理工程P1及び電着工程P2でワークWの搬送に兼用する場合について例示したが、このハンガー1,101,201を電着工程P2のみの専用の搬送手段に使用できることは勿論である。
【0107】
上述の実施形態では、自動車ボディの工場生産ラインにおける電着塗装技術について例示したが、この技術を、自動車ボディ以外のワーク、例えば家電製品や建材などを生産する工場生産ラインにおける電着塗装技術に適用することもできる。