(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981335
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】溶銑予備処理方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
C21C1/02 110
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-58026(P2018-58026)
(22)【出願日】2018年3月26日
(65)【公開番号】特開2019-167610(P2019-167610A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2020年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 光彦
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 剛司
(72)【発明者】
【氏名】田口 潤
(72)【発明者】
【氏名】後藤 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】矢野 諒一
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−126742(JP,A)
【文献】
特開2001−032007(JP,A)
【文献】
特開昭60−165311(JP,A)
【文献】
特開2003−082410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00−1/04
C21C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑予備処理吹錬中に累積送酸量を測定し、累積送酸量原単位が7.0Nm3/t−p以上11.0Nm3/t−p未満の範囲でスラグフォーミング鎮静剤を炉に投入することを特徴とするスラグスロッピングを抑制する溶銑予備処理方法。
【請求項2】
前記スラグフォーミング鎮静剤の嵩密度は、200kg/m3以上4000kg/m3未満であることを特徴とする請求項1に記載の溶銑予備処理方法。
【請求項3】
前記スラグフォーミング鎮静剤として、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の溶銑予備処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑予備処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑脱りん工程では、精錬剤としてCaOおよび酸化鉄を含有する副原料を使用する。溶銑に添加した副原料は、溶銑に由来するSiO
2と混合してスラグを生成する。また、脱りん反応と並行して、スラグ中の酸化鉄と溶銑中の炭素が反応してCOガスが発生し、スラグの泡立ち(フォーミング)が起こる。
【0003】
溶銑予備処理吹錬中のスラグフォーミング挙動は以下のとおりである。初期は、鉄鉱石や焼結鉱、ダストなどの固体酸素源投入により、溶銑に含有するSiが酸化され、粘度の高いスラグが生成する。吹錬中期に溶銑[Si]濃度が0.01%を下回るまでSiの酸化が進行すると、次第に溶銑に含有する炭素の酸化速度が増大し、COガス発生量が増加する。発生したガスはスラグ中に気泡として蓄積され、見かけの体積を膨張させる。フォーミングが著しく、膨張したスラグの高さが溶銑予備処理反応容器の炉口を超えると、スロッピングと呼ばれるスラグ漏出が起こる。
【0004】
1400℃以上と高温のスラグが大量に容器外に溢れることは、重機による清掃を要し、操業を阻害するばかりか、安全上の懸念もあり、スロッピングの抑制は必須である。そこで、特許文献1に記載されているように、フォーミングを鎮静させるフォーミング鎮静剤を使用することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−29212号公報
【0006】
ところで、フォーミング対策を研究することにより、いわゆるフォーミング鎮静剤の投入タイミングにより、フォーミングやスロッピングの抑制効果に優劣があることが判明した。スラグフォーミングおよび鎮静のメカニズムを詳細に検討したところ、鎮静効果発現は鎮静剤からのガス発生により、スラグ中の気泡が凝集合体してガスが抜けること(破泡)によると推定された。従って、鎮静効果を十分に発揮するためには、鎮静剤を投入する時点で、ある程度のフォーミングが起こり、気泡がスラグに蓄積されていることが必要である。本発明者は、このフォーミング鎮静剤の投入タイミングを適切に行うための指標を検討した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景でなされた発明であり、本発明の課題は、スロッピング発生による稼働率低下の回避、およびスロッピング鎮静剤の使用量削減によるコスト削減を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、溶銑予備処理吹錬中に累積送酸量を測定し、累積送酸量原単位が7.0Nm
3/t−p以上11.0Nm
3/t−p未満の範囲でスラグフォーミング鎮静剤を炉に投入することを特徴とするスラグスロッピングを抑制する溶銑予備処理方法とする。
【0009】
また、前記スラグフォーミング鎮静剤の嵩密度は、200kg/m
3以上4000kg/m
3未満であることが好ましい。
【0010】
また、前記スラグフォーミング鎮静剤として、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムのうち1種以上を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いると、スロッピング発生による稼働率低下の回避、およびスロッピング鎮静剤の使用量削減によるコスト削減を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】鎮静剤投入時の気泡体積分率とスラグ鎮静速度との関係を表す図である。
【
図2】累積送酸量原単位とスラグ中気泡体積分率との関係を表す図である。
【
図3】鎮静剤密度と鎮静剤を炉に投入してから30秒後の鎮静深さとの関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に発明を実施するための形態を示す。本実施形態の溶銑予備処理方法は、溶銑予備処理吹錬中に累積送酸量を測定し、累積送酸量原単位が7.0Nm
3/t−p以上11.0Nm
3/t−p未満の範囲でスラグフォーミング鎮静剤を炉に投入する。このため、スロッピング発生による稼働率低下の回避、およびスロッピング鎮静剤の使用量削減によるコスト削減を提供することができる。
【0014】
ここで、発明の経緯を更に説明する。発明者らは試験転炉、および実機転炉のオフライン実験による研究調査により、鎮静剤投入時のスラグ中気泡体積分率が63%以上である場合に、鎮静速度が0.3%毎秒以上となることを
図1のごとく見出した。なお、鎮静速度とは、フォーミングしていないスラグの高さから炉口までの距離を100%とし、1秒あたりのスラグ高さ低減速度を百分率で表したものである。実機操業においては一般的に、炉口から少量のスラグが溢れ始めてから、大量のスラグが溢れて炉下に落下しはじめるまで30秒程度の時間がかかる。鎮静速度が0.3%毎秒以上であれば、30秒間でスラグフォーミング高さを10%以上低下させることができるため、スロッピングの発生を抑えることができる。
【0015】
発明者はさらに、試験転炉および実機転炉の脱りん吹錬において、累積送酸量原単位VO
2(Nm
3/t−p:t−pは、ton - pig ironを表している)とスラグ中気泡体積分率Fg(体積%)の関係を
図2のごとく見出した。尚、累積送酸量原単位VO
2(Nm
3/t−p)とは、吹錬開始から吹錬終了までの上吹き酸素の累積体積、および副原料として投入する鉄鉱石やマンガン鉱石などの低級酸化物から供給される酸素を標準状態の気体に換算した体積の合計を、炉内の溶銑重量で除したものである。
図2によれば、累積送酸量原単位VO
2が7.0以上であるときに、スラグ中気泡体積分率が63%以上となり、高いスラグフォーミング鎮静効果が期待できる。
【0016】
一方、投入が遅すぎると、スラグが炉口付近までフォーミングしてしまい、鎮静剤がスラグ上面に乗った状態で反応容器外に排出されてしまうため効果が発揮されない。通常の精錬では、吹錬中に一定量の副原料を炉内に投入し、これが溶融してスラグを形成する。一般的な条件では、フォーミングしていないスラグの体積は、転炉フリーボード体積、すなわち転炉内容積から溶銑の体積を除いた部分の約5%程度である。スラグが炉口付近までフォーミングしたとすると、スラグ体積は転炉フリーボード体積の100%を占めることになり、スラグ中の気泡が占める体積分率は100−5=95%となる。
図2より、このときの累積送酸量原単位は11.0(Nm
3/t−p)である。以上より、累積送酸量原単位が7.0以上11.0未満で鎮静剤を投入することにより、高いスラグフォーミング鎮静効果を発揮できることを明らかにした。
【0017】
また、投入する鎮静剤の嵩密度は、200kg/m
3以上4000kg/m
3未満が好適である。
図3に、上述した30秒間に鎮静剤が沈降する深さに対して鎮静剤の密度が及ぼす影響を示す。スロッピングが発生する限界である、炉口までフォーミングしたスラグの嵩密度、すなわちフォーミングスラグの最小嵩密度は約200kg/m
3であるが、鎮静剤の嵩密度が200kg/m
3未満であると、投入した鎮静剤の浮力が重力に勝るため、フォーミングスラグの表面に鎮静剤が乗った状態になり、内部に侵入しない。この場合、鎮静剤の密度が200kg/m
3以上の場合に比べて、鎮静剤のガス発生によるフォーミングの破泡効果が小さい。
【0018】
また、鎮静剤の嵩密度が4000kg/m
3以上では、鎮静剤のフォーミングスラグ中の沈降速度が著しく速く、30秒間で炉口までフォーミングしたスラグ高さである5m以上沈降してしまう。この場合、スラグと接触する時間が短いため、鎮静効果が少ない。更に溶銑とスラグの界面に到達した鎮静剤は、ガス発生によってフォーミングを却って助長する現象を起こすために、好ましくない。このため、鎮静剤の嵩密度上限を4000kg/m
3未満とした。尚、鎮静剤の嵩密度は、表面を樹脂フィルムなどで覆った後、密度既知の液体(水など)に浸漬させたときの浮力から体積を求め(アルキメデス法)、空気中で測定した重量を用いて算出することができる。
【0019】
また、投入する鎮静剤にはペーパースラッジ(パルプ屑と製鋼スラグの混合物)、人工大理石(水酸化アルミニウムと樹脂の混合物)などが用いられるが、好ましくはガス発生物質として、石灰石などの炭酸カルシウム、ソーダ灰などの炭酸ナトリウムのうち1種以上を用いることが望ましい。これらはいずれも工業的に安価かつ大量に入手可能な物質であるため、大きくコストを増大させずに効果を得ることが可能である。なお、ソーダ灰とは、炭酸ナトリウム水和物の鉱物としての名称である。
【0020】
ここで、本発明者が行った実験結果における、各種鎮静剤を投入した際の累積送酸量原単位と炉口からのスラグの逸出量との関係を表1に示す。
【0022】
表1を見て理解されるように、累積送酸量原単位が7.0Nm
3/t−p以上11.0Nm
3/t−p未満の範囲でスラグフォーミング鎮静剤を炉に投入することで、炉口からのスラグの逸出量を抑制できた。したがって、スロッピング発生による稼働率低下の回避を行えた。本発明者の試験結果ではスロッピング発生比率は従来の約四分の一程度とすることができた。また、スロッピング鎮静剤の使用量削減によるコスト削減が行えた。本発明者の試験結果では鎮静剤の利用効率向上により、鎮静剤の使用量を従来の約四分の一程度とすることができた。
【0023】
以上、実施形態を中心として本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、各種の態様とすることが可能である。