特許第6981374号(P6981374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981374
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20211202BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-134737(P2018-134737)
(22)【出願日】2018年7月18日
(65)【公開番号】特開2020-14108(P2020-14108A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2020年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】上村 真史
【審査官】 辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−050647(JP,A)
【文献】 実開昭55−031320(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0019728(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0347194(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0071320(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の曲率半径で弧状に形成されたヘッドパッドと、
前記ヘッドパッドの端部から前記第1の曲率半径とは異なる第2の曲率半径で弧状に延出し、スピーカユニットを収容したハウジングをハンガー部を介して支持するバンドと、
前記第1の曲率半径で弧状に形成され、前記バンドを覆うように前記ヘッドパッドに対しスライドすると共に、前記バンドを覆った部分の曲率半径を前記第1の曲率半径に近くなるよう変形させるスリーブと、
を備えたヘッドホン。
【請求項2】
前記スリーブの曲げ剛性は、前記バンドの曲げ剛性よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記スリーブは、前記ヘッドパッドの内部に少なくとも一部が収容可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記スリーブは、前記ヘッドパッドに対するスライド量を把握可能なマークを有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側圧調整可能なヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
頭部装着時の側圧を調整可能なヘッドホンが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−098869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたヘッドホンは、本来のヘッドバンドに対応し左右の耳の付近を両端として頭部に掛け渡される板ばねと、その板ばねに加えて側圧を調整するための、側圧調整用ばね,アジャスタ部,及び両部材間に介在させるスペーサを備えている。
【0005】
そのため、特許文献1に記載されたヘッドホンは、側圧を調整するための部品数が多いという点で改善の余地がある。
また、側圧の調整量を視覚的に把握しにくいので、例えばヘッドホンを複数の使用者で共同使用した場合、各使用者の最適側圧に即時に調整しにくい、など、側圧調整が容易ではないという点で改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、部品数が少なく側圧調整が容易なヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は次の1)の構成を有する。
1) 第1の曲率半径で弧状に形成されたヘッドパッドと、
前記ヘッドパッドの端部から前記第1の曲率半径とは異なる第2の曲率半径で弧状に延出し、スピーカユニットを収容したハウジングをハンガー部を介して支持するバンドと、
前記第1の曲率半径で弧状に形成され、前記バンドを覆うように前記ヘッドパッドに対しスライドすると共に、前記バンドを覆った部分の曲率半径を
が前記第1の曲率半径に近くなるよう変形させるスリーブと、
を備えたヘッドホンである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部品数が少なく側圧調整が容易である、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係るヘッドホンの実施例であるヘッドホン51の第1の状態を示す面図である。
図2図2は、ヘッドホン51が備えるバンド12を示す前面図である。
図3図3は、ヘッドホン51の第2の状態を示す面図である。
図4図4は、ヘッドホン51の第3の状態を示す面図である。
図5図5は、ヘッドホン51が有するヘッドパッド11の縦断面図である。
図6図6は、図5におけるS6−S6位置での断面図である。
図7図7は、ヘッドホン51の第1の状態におけるバンド12を示す部分斜視図である。
図8図8は、ヘッドホン51の第2の状態におけるバンド12を示す部分斜視図である。
図9図9は、第2変形例のヘッドホン52Aの第1の状態を示す前面図である。
図10図10は、ヘッドホン52Aの第2の状態を示す前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係るヘッドホンを、実施例のヘッドホン51などにより説明する。
【0011】
(実施例)
ヘッドホン51の構成を、図1図4を参照して説明する。
図1に示されるように、ヘッドホン51は、ヘッドバンド1と、ヘッドバンド1の左端に取り付けられた左耳用のハンガー部21及びハウジング31と、右端に取り付けられた右耳用のハンガー部21及びハウジング31と、を有する。
【0012】
ヘッドバンド1はヘッドパッド11を有し、ヘッドパッド11にはスリーブ13が出入り自由に収容される。スリーブ13は、指により、ヘッドパッド11から延出するバンド12に沿ってスライドさせて、ヘッドパッド11から任意の量で引き出し可能になっている。
図1は、スリーブ13を最もヘッドパッド11側にスライドさせて収容した第1の状態のヘッドホン51を示す。
上下左右の各方向を、便宜的に図1に示された矢印の方向で規定する。また、図1の紙面手前側を後方とする。
ヘッドホン51は、スリーブ13の引き出し量に応じた側圧が得られる。側圧は、イヤーパッド32を介してヘッドホン51の使用者の側頭部へ付与される圧力である。これにより、ヘッドホン51の使用者は、スリーブ13の引き出し量を調整して側圧の大きさを調整することができる。
【0013】
ハンガー部21は、下部にハウジング31をピボット支持するピボット支持部211を有する。ハウジング31は、内部にスピーカユニットSPを収容し、図1に示される状態で他方のハウジング31に向け音を放出する。ハウジング31における音放出面側には、ヘッドホン51を頭部に装着したときに耳当てとなるイヤーパッド32が取り付けられている。
【0014】
ハンガー部21は、一般的なヘッドホンとして周知の構造により、バンド12に対し上下位置を調整可能となっている。図1図3,及び図4は、ハンガー部21がバンド12に対し最上位置にある状態を示している。
【0015】
ヘッドバンド1は、ヘッドパッド11,バンド12,及びスリーブ13を有する。
ヘッドパッド11は、ヘッドホン51を頭部に装着した際に、例えば頭頂部に位置する部材であり、前面視で概ね半径R1の円弧状となる鞘状の筒体として形成されている。ヘッドパッド11は、例えば樹脂製の複数の部材が組み合わされて構成されている。
【0016】
図2は、バンド12の前面図である。
バンド12は、金属又は樹脂で形成され、湾曲した帯状部材である。バンド12は、曲率半径の拡縮方向に可撓性を有する。
バンド12は、前面視において、半径R1で円弧状に形成された中央部124と、中央部124の両端に接続し、前面視において半径R2で円弧状に形成された一対の延出部125,125と、延出部125それぞれの先端から平板状に延びる一対の端部126,126と、を有する。半径R1は、一般的な人の頭部の平均曲率半径に近い値とされる。
【0017】
中央部124は、ヘッドパッド11と同じ半径R1で形成されており、ヘッドパッド11内に挿通して固定される部分である。
延出部125は、ヘッドパッド11の長手方向端部から外部に延出する部分であって、半径R1と異なる半径R2で円弧状に形成されている。
端部126は、平板状に形成され、ハンガー部21に連結しその内部に収められる部分である。
バンド12の曲げ剛性は、スリーブ13の曲げ剛性よりも小さくなっている。
以下、半径R2を半径R1よりも小さくした場合を説明する。
【0018】
ヘッドパッド11の構成及びスリーブ13の動作の詳細を、図5及び図6を主に参照して説明する。図5は、ヘッドパッド11の前後方向中央位置での縦断面図であり、図6は、図5におけるS6−S6位置での断面図である。
【0019】
スリーブ13は、前面視でヘッドパッド11及びバンド12の中央部124と同じく、半径R1を平均半径とする円弧状の鞘状筒体として、樹脂又は金属により形成されている。既述のように、スリーブ13は、その曲げ剛性がバンド12の曲げ剛性よりも大きいものとして形成されている。
【0020】
スリーブ13は、鞘状のヘッドパッド11の内部に少なくとも一部が出入り可能に収容される。
また、鞘状のスリーブ13は、バンド12に対し、その曲率をスリーブ13の曲率に合わせるように矯正しながら、バンド12から受ける弾性反発力に抗して長手方向にスライド可能に取り付けられている。
スリーブ13のバンド12の曲率を矯正しながらのスライド動作は、使用者の指によって可能となるように、バンド12及びスリーブ13の曲げ剛性、並びに、バンド12の弾性反発力などが調整されている。
【0021】
この構造により、ヘッドバンド1は、スリーブ13の位置によって次の第1〜第3の状態をとる。
第1の状態は、スリーブ13がヘッドパッド11に最も深く収容された状態(図1)である。第2の状態は、スリーブ13がヘッドパッド11からバンド12に沿って最も引き出された状態(図3)である。第3の状態は、第1の状態と第2の状態との中間の、スリーブ13が第1の状態から最大を除く任意の量だけ引き出された状態(図4)である。
【0022】
図5に示されるように、ヘッドパッド11は、前面視でバンド12の中央部124が挿通される径位置で半径R1となる同心円弧状に形成されたパッド基部111を有する。
パッド基部111は、横断面形状が矩形で左右対称の鞘状筒体として形成されている。
パッド基部111は、左右方向の中央部に形成された仕切り壁としての固定壁部113と、固定壁部113により左右に区切られた内部空間であって、それぞれ左端,右端を開口部とする一対の収容部112,112と、を有する。
収容部112,112は左右対称形状であり、以下、代表として左側の収容部112を説明する。
【0023】
収容部112は、横断面形状が矩形を呈する(図6参照)。
収容部112の上側の内壁112bには、左端部に近い位置に下方に突出するストッパ112aを有する。
収容部112の下側の内壁112cには、ストッパ112aに対向した位置に上方に突出する係合腕部114が形成されている。
係合腕部114は、上下方向に可撓性を有する腕片部114aと、腕片部114aの先端に、前後方向に延びる半円柱状で上方に突出した係合凸部114bと、を有する。
【0024】
固定壁部113には、左右の収容部112,112を連通する貫通孔113aを有する。貫通孔113aにはバンド12が挿通され、バンド12は、その中央部が貫通孔113aに接着剤などによって固定され、ヘッドパッド11と一体化されている。
【0025】
次に、スリーブ13を説明する。
スリーブ13は、ヘッドバンド1において2個用いられ、左右一対の収容部112,112それぞれに左右対称となる姿勢で収容されている。
以下、左側の収容部112に収容されるスリーブ13を代表として説明する。
【0026】
スリーブ13は、前面視が円弧状で横断面形状が矩形の鞘状部材である。
スリーブ13は、両端面に開口し半径R1で形成された円弧状の貫通孔138を有する。貫通孔138にはバンド12が摺動自在に挿通されている。
スリーブ13は、基部132とスリーブ頭部131と、を有する。基部132は、その全体が収容部112に収容され得る。スリーブ頭部131は、基部132の一方(左方)の端部において全周で外方向に張り出し、パッド基部111の端面115に突き当てられる。
【0027】
スリーブ13は、外側溝部135を有する。外側溝部135は、基部132における、ヘッドバンド1の外径側となる面において、前後方向の中央部にヘッドバンド1の内径側に向け抉られた部位である。外側溝部135は、スリーブ頭部131の根本から基部132の右側端部近傍まで形成され、外側溝部135の右側端は、壁としての当て部134となっている。
当て部134は、スリーブ13をスライドさせてヘッドパッド11から引き出したときに、設定された最大引き出し位置でストッパ112aに当接し、それ以上のスライドを規制する。
【0028】
外側溝部135の底面には、わずかな凹部として形成されたマーク137a(図6及び図8参照)が、複数所定間隔で形成され、スリーブ長指示部137を構成している。
スリーブ長指示部137は、図8に示されるように、スリーブ13の長手方向に所定間隔で例えば凹部として形成されたマーク137aの群であり、使用者が調整量を視覚で把握できる調整量把握部THである。
【0029】
スリーブ13は、内側溝部136を有する。内側溝部136は、基部132における、ヘッドバンド1の内径側となる面において、前後方向の中央部にヘッドバンド1の外径側に向け抉られた部位である。内側溝部136は、基部132の全長手、すなわち、スリーブ頭部131の根本から基部132の右側端部まで連続して形成されている。
内側溝部136の底面には、半円断面で前後方向に抉り延びる係合凹部133が、左右方向に所定ピッチで複数形成されている。この複数の係合凹部133をまとめて係合凹部群133Gと称する。
各係合凹部133は、スリーブ13をヘッドパッド11の収容部112に挿入移動した際に、ヘッドパッド11の係合凸部114bが係合可能となるように形成されている。
【0030】
図7及び図8は、それぞれヘッドバンド1の第1の状態及び第2の状態におけるバンド12及びその近傍を示す部分斜視図である。
図7に示されるように、バンド12の外面122にはハンガー位置指示部121が形成されている。ハンガー位置指示部121は、わずかに凹んだマーク121a,121bの複数個の群として、ハンガー部21の上下方向の調整位置の目印として形成されている。ハンガー位置指示部121は、調整位置を使用者が視覚で把握できるための調整量把握部THとして形成されている。
目印は、例えば図に示されている、線状のマーク121a或いは数字のマーク121bである。
これにより、図7に示されるように、ハンガー部21を矢印DR3方向に上方移動して上下位置を調整したときに、ハンガー部21に隠れずに残る目盛りによって、ハウジング31を支持したハンガー部21の移動後の位置を容易に視覚で把握できる。
【0031】
上述のヘッドパッド11の構造により、ヘッドホン51の使用者は、スリーブ13を指でスライドしてパッド基部111に対し出入りさせることができる(図8:矢印DR5参照)。
また、スリーブ13をパッド基部111に対して出入り移動させると、スリーブ13の係合凹部群133Gのうちの、スリーブ13の出入り量に対応した係合凹部133に、パッド基部111の係合凸部114bが弾性的に係合する。係合凸部114bと係合凹部133との係合は、スリーブ13を、ある程度の力をかけて移動させることで解消できる。
これにより、使用者は、スリーブ13をパッド基部111からの出入り移動させた際に、所定の移動間隔でクリック感が得られる。また、スリーブ13は、任意の引き出し位置において、指で解除可能な程度で保持される。
【0032】
調整量把握部THとしてのスリーブ長指示部137は、図8に示されるように、所定の間隔で形成された複数のマーク137aの群である。これにより、使用者は、スリーブ13の引き出し位置、すなわち引き出し量を視覚で把握することが容易であるし、再現性の高い調整を行うことができる。
また、スリーブ13における内側溝部136の底面に形成された複数の係合凹部133の所定ピッチと、複数のマーク137aの所定の形成間隔とを一致させると、スリーブ13の引き出し位置と引き出し量との関連性が高くなるので、調整作業がより容易になる。
【0033】
このように、ヘッドホン51は、バンド12に対するハンガー部21の上下調整位置とバンド12に対するスリーブ13の引き出し位置とが、それぞれハンガー位置指示部121とスリーブ長指示部137との設置により視覚で把握可能となっている。
【0034】
上述のヘッドバンド1を有するヘッドホン51は、既述のように、スリーブ13のヘッドパッド11からの引き出し量を変えることで側圧を調整することができる。この側圧の調整について次に詳述する。
【0035】
図1図3,及び図4において、ヘッドホン51は、それぞれ第1の状態,第2の状態,及び第3の状態において力の付与されていない自然状態が示されている。
ヘッドホン51を使用する場合、使用者は、一対のハウジング31,31を左右方向に広げた状態で自身の頭部に装着する。
これにより、ヘッドバンド1は、外側に広がって曲率が小さくなる方向に弾性変形する。そのため、その弾性変形で生じたヘッドバンド1の弾性反発力がイヤーパッド32を介して耳或いは側頭部を押し、使用者に側圧として知覚される。
【0036】
ここで、図1に示されたハンガー部21におけるハウジング31の支持位置を基準点P21として、ヘッドバンド1の拡張変形を評価する。
この場合、図1に示される一対のハウジング31,31において、それぞれの基準点P21間の左右距離を距離L0とする。
【0037】
図1に示される第1の状態のヘッドホン51を頭部に装着した場合、基準点P21は、ヘッドバンド1が広がって元々の基準点P21よりも外側の使用時基準点P2αに移動する(矢印DR1参照)。
基準点P2の使用時基準点P2αまでの移動距離L1は、ヘッドバンド1の先端部位の変形量に概ね相当する。
使用時基準点P2αは、バンド12の延出部125が半径R1で形成されていたとした場合の基準点P21の位置よりも外側に設定される。
【0038】
ヘッドバンド1の変形は、ヘッドパッド11,ハンガー部21,及びスリーブ13の曲げ剛性がバンド12の曲げ剛性よりも十分大きいことから、実質的にバンド12の延出部125のみが変形する。この場合、バンド12におけるスリーブ頭部131の根本位置が変形支点P1となる。
そして、バンド12の延出部125は、半径R1よりも小さい半径R2から半径R1よりも大きい使用時の半径(以下、使用時半径と称する)まで変形するので、使用状態での延出部125の弾性反発力は、少なくとも半径R1から使用時半径まで変形する場合よりも大きい。
【0039】
一方、図3に示される第2の状態のヘッドホン51の自然状態では、バンド12の延出部125の大分部がスリーブ13により覆われ、覆われた部分の曲率半径が半径R1となるように矯正されている。
従って、この場合の一対の基準点P22間の距離L2は、第1の状態の基準点間の距離L0よりも大きい。すなわち、基準点P22は、第1の状態の基準点P21と比べて距離L22だけ使用時基準点P2αに近い位置にある。
そのため、第2の状態のヘッドホン51を頭部に装着したとき、延出部125の変形は、半径R1から使用時半径までとなり、第1の状態の場合よりも変形度合いが小さくなる。
従って、第2の状態のヘッドホンを使用状態にした場合の延出部125の弾性反発力は、第1の状態の同様の場合よりも小さく、使用者が感じる側圧も小さくなる。
【0040】
図4に示される第3の状態のヘッドホン51の自然状態では、バンド12の延出部125の第2の状態よりも少ない部分がスリーブ13により覆われ、覆われた部分の曲率半径が半径R1に矯正されている。
そのため、第3の状態の延出部125全体としての矯正量は、第2の状態の矯正量よりも小さい。
従って、第3の状態における一対の基準点P23間の距離L3は、第1の状態での距離L0より大きく第2の状態での距離L2よりも小さい。
従って、第3の状態のヘッドホン51を使用状態にした際に使用者が感じる側圧は、第1の状態と第2の状態との間にあり、使用者はスリーブ13のスライド量に応じて側圧を最大と最小との間の任意の大きさに調整することができる。
【0041】
上述のように、ヘッドホン51は、スリーブ13をスライドさせることによって、バンド12の延出部125の曲率半径を調整できる。
延出部125の第2の状態における曲率半径は、第1の状態における曲率半径よりも大きい。
そのため、各状態のヘッドホン51を頭部に装着したときの延出部125の変形度合いは、第2の状態の場合の方が、第1の状態の場合よりも小さく弾性反発力が小さくなる。すなわち、使用者が感じる側圧が小さくなる。
【0042】
ヘッドホン51は、この側圧調整を、ハンガー部21の上下位置の調整を伴わずに独立して行える。そのため、使用者は、自身の頭部形状或いは好みの装着感に応じた側圧調整を、きめ細かく、かつ容易に行える。
また、ヘッドホン51は、ハンガー位置指示部121及びスリーブ長指示部137を有している。そのため、使用者は、ハンガー部21の上下調整位置及びスリーブ13のヘッドパッド11からの引き出し量を視覚で把握でき、側圧調整をより容易に行える。
このように、ヘッドホン51は、少ない部品数で側圧調整が可能になっている。
【0043】
また、ヘッドホン51は、側圧調整作業を、スリーブ13のヘッドパッド11からの出入りのみで行うことができ、ねじを回すなどの回転操作が不要である。そのため、ヘッドホン51は、側圧調整の時間が短くて済み、その調整作業が容易である。
【0044】
また、ヘッドホン51は、左耳用及び右耳用のハウジングそれぞれについて独立して側圧を調整できる。そのため、使用者は、左右の装着側圧のバランスを意図的に変えたい場合や、左右異なる形状の髪型でヘッドホン51を装着したい場合においても、左耳及び右耳に対する側圧それぞれを、好みの圧力に調整して、ヘッドホン51をより良好な感触で装着することができる。
【0045】
以上詳述した実施例は、上述の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形してもよい。
【0046】
ヘッドホン51は、バンド12の延出部125に設定された半径R2を、スリーブ13及びヘッドパッド11に設定された半径R1よりも大きいように変形したヘッドホン52としてもよい。
この変形例のヘッドホン52では、スリーブ13をヘッドパッド11に最も入れ込んだ状態で一対のハウジング31,31が最も開き、スリーブ13をヘッドパッド11から最も引き出した状態で一対のハウジング31,31が最も接近する。
すなわち、ヘッドホン52は、スリーブ13をヘッドパッド11に最も入れ込んだ状態で、使用状態での延出部125の変形が最も少ない実施例のヘッドホン51における第2の状態に相当する状態となる。また、ヘッドホン52は、スリーブ13をヘッドパッド11から最も引き出した状態が、使用状態での延出部125の変形が最も大きい実施例のヘッドホン51における第1の状態に相当する状態となる。
【0047】
また、ヘッドホン52は、延出部125がスリーブ13で覆われた場合に延出部125の曲率半径が半径R1に矯正される点は、ヘッドホン51と同じである。そのため、図3はスリーブ13を最も引き出した状態のヘッドホン52でもある。
【0048】
このように、ヘッドホン51,52は、スリーブ13をスライドさせることで側圧調整が可能である。スリーブ13をヘッドパッド11から引き出すことで、ヘッドホン51は側圧が小さくなり、ヘッドホン52は側圧が大きくなる。
ヘッドホン51,52は、バンド12の延出部125の曲率半径の設定のみが異なり、実質的に構造は同じである。
そのため、ヘッドホン52は、ヘッドホン51と同様に、部品数が少なく側圧調整が容易となる効果が得られる。
【0049】
ハンガー位置指示部121及びスリーブ長指示部137は、調整量把握部THであって、視覚に限らず触覚で把握可能に形成されていてもよい。
ヘッドホン51,52は、上述の左右一対のハウジング31を有するいわゆるステレオタイプに限定されず、頭部に装着するヘッドバンドと頭部の一方側の耳に対応するハウジング31と頭部の他方側に当接させる当てパッドと、を有し、他方側の耳が開放される態様のいわゆる片耳タイプであってもよい。
ヘッドホン51は、ヘッドバンド1を頭部の頭頂部に掛け渡す態様のものを説明したが、ヘッドバンド1を後頭部或いは首の後方側へ掛け渡すタイプであってもよい。ヘッドホン52についても同様である。
【0050】
ヘッドホン51は、ヘッドパッド11に挿通され左右端部がヘッドパッド11から延出した一つのバンド12を有するものとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ヘッドホン51は、ヘッドパッド11の固定壁部113を貫通せずに一端側が固定され他端側にハンガー部21及びハウジング31が取り付けられた片耳用のバンドを、左右一対として備えたものであってもよい。ヘッドホン52についても同様である。
【0051】
ヘッドホン51,52において、スリーブ13は、バンド12を完全に露出させずに覆うものに限定されない。
スリーブ13は、例えば、軽量化或いは意匠品質向上のために、基部132にバンド12を露出させる開口部を有していてもよい。開口部は、例えば、丸孔、角孔、細長孔などの孔、或いは端部から切り込まれて基部132の長手方向に延びるスリットであってもよい。
【0052】
ヘッドホン51,52において、スリーブ13は、ヘッドパッド11の内部の収容部112に収容され、バンド12に沿って出入りするものに限定されない。
例えば、スリーブ13は、ヘッドパッド11のパッド基部111の外側に嵌合してバンド12に沿って移動可能なものであってもよい。
この変形をヘッドホン51に対し施したヘッドホン51A及びヘッドホン52に対し施したヘッドホン52Aのうちのヘッドホン52Aを、第2変形例として図9及び図10を参照して説明する。
図9は、ヘッドホン52Aにおいて、スリーブ13Aをハンガー部21から遠い側にスライド移動させた第1の状態の前面図である。図10は、図に示されるヘッドホン52Aの第1の状態に対し、スリーブ13Aを最もハンガー部21側にスライド移動させた第2の状態の前面図である。
【0053】
ヘッドホン52Aは、ヘッドバンド1Aと、ハンガー部21及びハウジング31と、を有する。ヘッドバンド1Aは、ヘッドパッド11Aと、バンド12Aとスリーブ13Aと、を有する。
スリーブ13Aはヘッドパッド11Aにおけるパッド基部111Aの外側に嵌合している。そのため、図9の第1状態でヘッドパッド11Aはスリーブ13Aに覆われている。また、ヘッドパッド11Aは、スリーブ13Aが図10の矢印DR6のようにスライドすることで露出する。スリーブ13Aは、ヘッドパッド11Aとしての機能を有して長手方向にスライド可能となっている。
バンド12Aは、ヘッドパッド11A内に収められた部分が半径R1の円弧形状に形成され、ヘッドパッド11Aの両端から延出した延出部125A(図9)が、半径R1よりも大きい半径R2の円弧形状に形成されている。
【0054】
第1の状態からスリーブ13Aを矢印DR6のようにスライドさせることで、スリーブ13Aよりも曲げ剛性が小さく設定されている延出部125Aは、スリーブ13Aによって曲率半径がスリーブ13Aと同等の半径R1になるように矯正される(図10)。
これにより、自然状態のハウジング31,31間距離を小さくする方向に調整でき、実施例のヘッドホン51と同様に、側圧調整をスリーブ13Aのスライド操作のみで行うことができる。
【0055】
次に、ヘッドホン52Aにおけるバンド12Aの延出部125Aに設定された半径R2を、スリーブ13A及びヘッドパッド11Aに設定された半径R1よりも小さくしたヘッドホン51Aを、第3変形例として説明する。
この第3変形例のヘッドホン51Aでは、自然状態において、スリーブ13Aをヘッドパッド11Aに最も深く被せたときに一対のハウジング31,31間の距離が最小となり、スリーブ13Aをヘッドパッド11Aから最も引き出したときに一対のハウジング31,31間の距離が最大となる。
すなわち、ヘッドホン51Aは、スリーブ13Aをヘッドパッド11Aに最も被せ込んだ状態で、使用状態での延出部125Aの変形が最も大きい実施例のヘッドホン51における第1の状態に相当する状態となる。また、ヘッドホン51Aは、スリーブ13Aをヘッドパッド11Aから最も引き出した状態が、使用状態での延出部125Aの曲率が最も小さい実施例のヘッドホン51における第2の状態に相当する状態となる。
【0056】
また、ヘッドホン51Aは、延出部125Aがスリーブ13Aで覆われた場合に延出部125Aの曲率半径が半径R1に矯正される点は、ヘッドホン52Aと同じである。そのため、図10はスリーブ13Aを最も引き出した状態のヘッドホン51Aでもある。
【0057】
このように、ヘッドホン51A,52Aは、スリーブ13Aをスライドさせることで側圧調整が可能である。スリーブ13Aをヘッドパッド11Aから引き出すことで、ヘッドホン51Aは側圧が小さくなり、ヘッドホン52Aは側圧が大きくなる。
ヘッドホン51A,52Aは、バンド12Aの延出部125Aの曲率半径の設定のみが異なり、実質的に構造は同じである。
そのため、ヘッドホン51Aは、ヘッドホン52Aと同様に、部品数が少なく側圧調整が容易となる効果が得られる。
【0058】
ヘッドパッド11及びヘッドパッド11に対しスライドするスリーブ13は、円弧状に形成されることで良好にスライド可能であるが、完全に円弧でなくてもスライド可能であればよい。
また、スリーブ13によって矯正されるバンド12の延出部125は、矯正されるため、円弧状でなくてもよく、弧状に形成されていればよい。
従って、ヘッドパッド11,スリーブ13,及びバンド12の形状を、半径R1及び半径R2と説明しているが、これは、各形状が円弧状でない弧状の場合、半径を曲率半径と置き換えることができる。また、部材それぞれの曲率半径が部位によって(例えば端部と中央部とで)大きく異なる場合は、平均の曲率半径と置き換えてよい。
【0059】
以上詳述したように、スリーブ13がヘッドパッド11に内嵌するヘッドホン51,52及び外嵌するヘッドホン51A,52Aは、スリーブ13,13Aの指によるスライド操作で側圧調整を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1,1A ヘッドバンド
11,11A ヘッドパッド
111,111A パッド基部
112 収容部
112a ストッパ
112b,112c 内壁
113 固定壁部
113a 貫通孔
114 係合腕部
114a 腕片部
114b 係合凸部
115 端面
12,12A バンド
121 ハンガー位置指示部
121a,121b マーク
122 外面
124 中央部
125,125A 延出部
126 端部
13,13A スリーブ
131 スリーブ頭部
132 基部
133 係合凹部
133G 係合凹部群
134 当て部
135 外側溝部
136 内側溝部
137 スリーブ長指示部
137a マーク
138 貫通孔
21 ハンガー部
211 ピボット支持部
31 ハウジング
32 イヤーパッド
51,52,51A,52A ヘッドホン
L0,L2,L22,L3 距離
L1 移動距離
P1 変形支点
P21,P22,P23 基準点
P2α 使用時基準点
R1,R2 半径
SP スピーカユニット
TH 調整量把握部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10