(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記触媒が担持された状態における上記隔壁の平均気孔径が10μm以上28μm以下であり、気孔率が46%以上66%以下である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
上記触媒が担持された状態における、上記隔壁の厚みTμmに対する上記連通気孔の平均流路長Lμmの比で定義される屈曲度L/Tが、1.4以上である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
上記触媒が担持された状態における上記隔壁の平均気孔径が10μm以上28μm以下であり、気孔率が46%以上66%以下である、請求項9に記載の排ガス浄化フィルタ。
上記触媒が担持された状態における、上記隔壁の厚みTμmに対する上記連通気孔の平均流路長Lμmの比で定義される屈曲度L/Tが、1.4以上である、請求項9または10に記載の排ガス浄化フィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
実施形態1のハニカム構造体について、
図1〜
図13を用いて説明する。
図1〜
図3に例示されるように、本実施形態のハニカム構造体1は、排ガス浄化フィルタの基材に用いられる、触媒が担持される前のものである。
【0018】
ハニカム構造体1は、例えば、コージェライト等から形成されることができ、外皮11と、隔壁12と、セル13と、を有する。外皮11は、例えば、円筒状のような筒状に形成されることができる。本実施形態では、この筒状の外皮11の軸方向Yをハニカム構造体1の軸方向Yとして以下説明する。また、
図2における矢印は、ハニカム構造体1を排ガス管などの排ガスの通り道に配置した際の排ガスの流れを示す。
【0019】
図1および
図2に例示されるように、隔壁12は、外皮11の内側を区画する。隔壁12は、一般に、セル壁とも呼ばれる。隔壁12は、例えば、格子状に設けられることができる。ハニカム構造体1は多孔質体であり、
図3に例示されるように、隔壁12には多数の気孔121が形成されている。したがって、隔壁12の表面や気孔121内に排ガス中に含まれるPMを堆積させて捕集することができる。PMは、粒子状物質、パティキュレート・マタ、パティキュレートなどと呼ばれる微小粒子である。
【0020】
隔壁12の平均気孔径は、12μm以上30μm以下、好ましくは、13μm以上28μm以下、より好ましくは、15μm以上25μm以下の範囲で調整することができる。隔壁12の気孔率は、55%以上75%以下、好ましくは、58%以上73%以下、より好ましくは、60%以上70%以下の範囲で調整することができる。隔壁12の平均気孔径が12μm以上30μm以下であり、気孔率が55%以上75%以下である場合には、気孔121への触媒の担持を確実なものとすることができる。また、隔壁12の気孔率が75%以下であれば、ハニカム構造体1の構造信頼性を確保しやすくなる。なお、隔壁12の平均気孔径、気孔率は、実験例で後述するように水銀圧入法により測定できる。
【0021】
図1および
図2に例示されるように、ハニカム構造体1は、多数のセル13を有する。セル13は、隔壁12に囲まれガス流路を形成する。セル13の伸長方向は、通常、軸方向Yと一致する。
【0022】
図1に例示されるように、軸方向Yと直交方向のフィルタ断面におけるセル形状は、例えば、四角形状であるが、これに限定されない。セル形状は、三角形状、四角形状、六角形状などの多角形や円形状などであってもよい。また、セル形状は、2種以上の異なる形状の組み合わせであってもよい。
【0023】
ハニカム構造体1は、例えば、円柱状等の柱状体であり、その寸法は適宜変更可能である。ハニカム構造体1は、軸方向Yの両端に第1端面14と第2端面15とを有する。ハニカム構造体1を有する排ガス浄化フィルタが排ガス管等の排ガス経路内に配置されると、第1端面14が上流側端面となり、第2端面15が下流側端面となる。
【0024】
セル13としては、第1セル131と第2セル132とを有することができる。
図2に例示されるように、第1セル131は、第1端面14に開口し、第2端面15においては栓部16により閉塞されている。第2セル132は、第2端面15に開口し、第1端面14においては栓部16により閉塞されている。栓部16は、封止部とも称され、例えば、コージェライト等のセラミックスにより形成できるが、その他の材質であってもよい。
【0025】
第1セル131と第2セル132とは、軸方向Yに直交する横方向においても、軸方向Yおよび横方向の双方に直交する縦方向においても、例えば、互いに隣り合うよう、交互に並んで形成される。つまり、軸方向Yからハニカム構造体1の第1端面14または第2端面15を見たとき、第1セル131と第2セル132とが、例えば、チェック模様状に配される。
【0026】
隔壁12は、
図2に例示されるように、互いに隣接する第1セル131、第2セル132を隔てている。隔壁12内には、
図3(a)(b)に例示されるように、多数の気孔121が形成されている。隔壁12内の気孔121は、
図3(a)(b)に例示されるように、互いに隣接する第1セル131、第2セル132間を連通させる連通気孔122以外にも、互いに隣接する第1セル131、第2セル132間を連通させない非連通気孔123を含んでいてもよい。なお、
図4は、
図3の気孔121をさらに簡略的に示したものである。また、これら
図3および
図4においては、気孔121が二次元に簡略化されて描かれているが、少なくとも連通気孔122は三次元に交差するものが大半を占めると考えられる。
【0027】
隔壁12において、隣接するセル13間を連通させる連通気孔122の数である連通気孔数は、18000[本/0.25mm
2]以上とされる。なお、ここで述べる連通気孔数は、連通気孔122に触媒が担持される前の状態における値である。触媒担持前の連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満になると、触媒担持によって捕集率および圧損が悪化する。これは、触媒担持時に連通気孔122当たりの触媒量が多くなり、その結果、触媒によって埋まってしまう連通気孔122が多くなるためなどの理由による。また、触媒担持前の連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満になると、捕集率の悪化率、圧損の悪化率が高止まりする。これは、触媒担持前の連数気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満の領域は、触媒担持時に触媒により連通気孔122が閉塞されて排ガスが流れ難い領域となるため、捕集率の悪化率、圧損の悪化率はハニカム構造体1の構造による寄与が支配的となり、触媒担持後の隔壁12内の気孔の寄与が僅少となるためであると考えられる。
【0028】
連通気孔数は、捕集率の悪化率、圧損の悪化率を低い値で留めやすくなるなどの観点から、好ましくは、19000[本/0.25mm
2]以上、より好ましくは、20000[本/0.25mm
2]以上、さらに好ましくは、20600[本/0.25mm
2]以上、さらにより好ましくは、21000[本/0.25mm
2]以上、さらに一層好ましくは、21500[本/0.25mm
2]以上、さらにより一層好ましくは、22000[本/0.25mm
2]以上、特に好ましくは、22600[本/0.25mm
2]以上、もっとも好ましくは、23000[本/0.25mm
2]以上とすることができる。なお、ハニカム構造体1、ハニカム構造体1を適用した排ガス浄化フィルタの強度などの観点から、連数気孔数は、30000[本/0.25mm
2]以下とすることができる。
【0029】
連通気孔数の測定にあたっては、各気孔121における気孔経路長を一つ一つ算出し、気孔121が交差する場合には、より圧損が低くなる短い経路を選択し、気孔経路長の頻度分布を求めることが重要になる。しかし、例えば、水銀ポロシメータによる気孔径分布の測定では、気孔経路長の測定や気孔121が交差する時の経路の選択が不可である。その結果、水銀ポロシメータによる気孔径分布では、気孔経路長の頻度分布の解析ができない。
【0030】
そこで、ここでは、CTスキャンで三次元解析した画像データを用いて隔壁12における各気孔121が細線化処理される。そして、画像解析ソフトにより隔壁12内で交差する気孔121については、経路長が短い方を選択する処理を行うことにより、狙いのデータを算出することができる。以下、連通気孔数の測定方法について詳述する。
【0031】
図5に例示されるように、ハニカム構造体1から採取した測定サンプルについて、隔壁12をCTスキャンすることにより、隔壁12のスキャン画像を撮影する。CTスキャン装置としては、ZEISS社製のXradia520 Versaを用いる。測定条件は、管電圧80kV、管電流87mAである。撮影画像の解像度は1.6μm/pixelである。なお、
図5では、測定サンプルにおける一部を示している。
【0032】
CTスキャンにおけるスキャン方向Sは、隔壁12の厚み方向に沿う方向であって、上流側端面となる第1端面14に開口する第1セル131側の隔壁12の面(以下、適宜、隔壁表面12aという。)から下流側端面となる第2端面15に開口する第2セル132側の隔壁12の面(以下、適宜、隔壁裏面12bという。)に向かう方向とされる。
図6および
図7にスキャン画像の例を示す。
図7は、
図6を拡大したものである。
図6および
図7では、軸方向Yに沿う方向がY方向とされ、Y方向に垂直で、第2セル132を囲む4つの隔壁12うちの一つに沿う方向がX方向とされ、X方向およびY方向に垂直な方向がZ方向とされている。なお、記号Mは、第1端面14における栓部16を意味している。
【0033】
したがって、
図6および
図7におけるスキャン方向Sは、−Z方向である。この方向のスキャン画像の一例を示したものが、
図6および
図7における、左上の画像sである。この−Z方向のスキャン画像は、X−Y平面に沿っている。なお、参考のため、Y方向のスキャン画像(X−Z平面に沿う画像)を
図6および
図7の左下に、−X方向のスキャン画像(Y−Z平面に沿う画像)を
図6および
図7の右下に併せて示す。
【0034】
次いで、スキャン方向Sの撮影画像の群(スキャン方向Sの撮影画像を撮影枚数分(=隔壁12の厚みμm/1pixelの大きさである1.6μm))を用いて解析を行う。以下の例では、解析画像サイズは、X、Y平面の範囲が500μm×500μmであり、−Z方向については、隔壁12の厚みμm/1.6μmの枚数を用いている。
【0035】
次いで、スキャン方向Sの撮影画像について二値化処理を行う。二値化処理には画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所(NIH)製)を用いる。二値化は、隔壁12における気孔部分と骨格部分とを区別することを目的とする。気孔部分と骨格部分とで輝度が異なるため、二値化処理では、撮影画像に残るノイズの除去を施し、任意の閾値を設定した後に二値化処理を行う。各測定サンプルによって閾値は異なるため、CTスキャンにて撮影された全体画像を目視にて確認しながら、気孔部分と骨格部分とを分離できる閾値を撮影画像ごとに設定する。二値化処理前の撮影画像の一例を
図8(a)に、二値化処理後の撮影画像の一例を
図8(b)に示す。
図8(b)においては、黒色領域が気孔部分であり、灰色領域が骨格部分である。
【0036】
次いで、二値化処理後の撮影画像に基づいて各気孔121の気孔経路長を測定する。気孔経路長の測定は、ヒューリンクス社製のIGORLを用いる。先ず、二値化処理後の撮影画像の気孔121の細線化処理を実施する。
図9に、細線化処理の結果の一例を示す。
図9に例示されるように、各気孔121のピクセル中央(画素の中に数字が書いてある部分)を線で結ぶことが細線化処理であり、細線化処理によって得られた、各気孔121のピクセル中央を線で結んでなる経路が細線化経路120である。
【0037】
図9に例示される細線化処理された画像に基づいて、互いに隣り合う第1セル131、第2セル132を隔てる隔壁12について、一方の第1セル131に面する隔壁表面12a側に開口する気孔121の入口からスタートし、遠回りすることなく他方の第2セル132に面する隔壁裏面12b側に開口する気孔121の出口に到達するまでに通過したピクセル数を経路長として算出する。
図9における破線で囲われた領域のように、細線化経路120に交点が生じた場合には、経路長が短い方を選択する。三次元解析にて、隔壁表面12aから隔壁裏面12bに至る全ての経路について経路長を算出する。
【0038】
図9の例示において、経路長を算出すべき経路の数は3(本)である。また、ピクセル数によって表される経路長は、左からそれぞれ52、51、47である。実際の気孔経路長は、撮影画像の解像度1.6μm/pixelに基づいて、ピクセル数の経路長を1.6倍することにより算出することができる。なお、
図9は細線化処理された画像の一例を示すものであり、実際の隔壁12の厚みとは異なっている。
【0039】
また、
図10、
図11に、細線化処理された画像の他の例を示す。なお、
図10、
図11は、
図9に比べて簡略化されて描かれている。
図10に例示される細線化処理された画像において、細線化経路120の入口120aに対応する出口は、出口120f、120gとなる。そして、隔壁裏面12b側には、出口120f、120g以外の出口がない。そのため、
図10においては、経路長を算出すべき経路の数は2(本)となる。なお、細線化経路120の入口120bに対応する出口は、出口120f、120gとなり上記と同様なので経路長を算出すべき経路としてカウントされない。細線化経路120の入口120cは、隔壁裏面12b側に出口がなく隔壁12を連通していないので、経路長を算出すべき経路としてカウントされない。細線化経路120の入口120d、120eについても、隔壁裏面12b側に出口がなく隔壁12を連通していないので、経路長を算出すべき経路としてカウントされない。また、
図11に例示される細線化処理された画像において、細線化経路120の入口120hに対応する出口は、出口120j、出口120kとなる。細線化経路120の入口120iに対応する出口は、出口120m、出口120nとなる。細線化経路120の出口120lに通じる経路は、スキャン途中から出現しており隔壁12を連通しないため、経路長を算出すべき経路としてカウントされない。そのため、
図11においては、経路長を算出すべき経路の数は4(本)となる。
【0040】
上記のようにして隔壁12の気孔経路長を測定することにより、気孔経路長分布、つまり、頻度ヒストグラムが得られる。気孔経路長分布は、算出される全ての気孔経路長についてヒストグラムにて頻度(本)を算出することにより得られる。頻度ヒストグラムは、気孔経路長を10μm毎の階級に区切ったデータの棒グラフとして表される。気孔経路長分布における各頻度を合計したものが、測定サンプルにおける連通気孔数となる。
【0041】
隔壁12の気孔経路長を上記のごとく10μm毎の階級に区切る理由は、気孔経路長の最小単位となる気孔径相当に区切ることが好ましいからである。そして、隔壁12内には気孔径が例えば1〜100μmの大小様々な気孔が存在するが、中でも気孔径が10〜20μmの気孔の割合が多い。これは、気孔径が気孔形成材料である原料シリカ等の粒径に由来するからであると考えられる。したがって、上記のようにヒストグラムの間隔を10μm毎に区切ることにより、気孔経路長を精度よく分離できると考えられる。
【0042】
図12に、隔壁12の気孔経路長分布を示す頻度ヒストグラムの一例を示す。
図12に例示されるように、例えば、隔壁12の厚みが240μmの場合には、気孔経路長は240μmから開始される。次いで、240μm以上かつ250μm未満の気孔経路長の総数(本)をカウントする。以降については、10μm毎の気孔経路長の総数(本)をカウントすればよい。
【0043】
なお、ハニカム構造体1における連通気孔数は、ハニカム構造体1から採取した6か所の測定サンプルについて上述のように求めた連通気孔数の平均値とされる。測定サンプルは、具体的には、
図13に示されるように、ハニカム構造体1における直径の中心部を通る軸方向Yの、中央部分1a、第1端面14側の栓部16の直ぐ内側部分1b、第2端面15側の栓部16の直ぐ内側部分1c、ハニカム構造体1における半径の中心部を通る軸方向Yの、中央部分1d、第1端面14側の栓部16の直ぐ内側部分1e、および、第2端面15側の栓部16の直ぐ内側部分1fの6か所から採取する。測定サンプルの形状は、軸方向Yと直交方向の寸法が縦5mm×横5mm、軸方向Yの長さが5mmである立方体である。
【0044】
ハニカム構造体1において、隔壁12の厚みは、例えば、100μm以上400μm以下の範囲で調整することができる。なお、隔壁12の厚みは、
図13に示されるように、ハニカム構造体1における直径の中心部を通る軸方向Yの、中央部分1a、第1端面14側の栓部16の直ぐ内側部分1b、第2端面15側の栓部16の直ぐ内側部分1cの3か所について測定した厚み測定値の平均値とされる。
【0045】
ハニカム構造体1は、連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]以上とされている。そのため、ハニカム構造体1は、触媒担持に寄与する連通気孔数が上記特定値以上に増えることで、排ガス浄化フィルタに用いるために触媒を担持させた場合であっても、触媒担持による捕集率および圧損の悪化を抑制することができる。なお、ハニカム構造体1は、触媒を担持させなくても排ガス中のPMを捕集できるため、排ガス浄化フィルタとして機能させることが可能である。
【0046】
次に、実施形態1の排ガス浄化フィルタについて、
図14を用いて説明する。
図14に例示されるように、本実施形態の排ガス浄化フィルタ3は、実施形態1のハニカム構造体1と、連通気孔122の孔壁122aに担持された触媒2と、を有している。触媒2は、少なくとも連通気孔122の孔壁122aに担持されておればよく、隔壁12の表面(セルに面する隔壁12の面)にも担持されていてよい。連通気孔122の孔壁122aに触媒2を担持させる方法としては、例えば、吸引により触媒含有スラリーを隔壁12の連通気孔122内に導入する公知のインウォールコート法などを挙げることができる。また、触媒2の種類は用途により異ならせることができるが、例えば、Pt、Rh、Pd等の触媒貴金属を助触媒と同時に担持させることができる。
【0047】
なお、排ガス浄化フィルタ3は、触媒2が担持された状態においても隣接するセル13間を連通させる連通気孔122が存在している。つまり、排ガス浄化フィルタ3は、ハニカム構造体1への触媒担持後に触媒2によって閉塞されずに残った連通気孔122が存在している。
【0048】
排ガス浄化フィルタ3によれば、ハニカム構造体1を用いているので、触媒担持による捕集率および圧損の悪化を抑制することができる。排ガス浄化フィルタ3は、ガソリンエンジンから出される排ガスの浄化用途に好適に用いることができる。
【0049】
排ガス浄化フィルタ3において、触媒2の担持量は30g/L以上とすることができる。ハニカム構造体1における連通気孔122内に触媒2が担持されると、排ガス浄化フィルタ3の気孔121の形状が変化する。しかし、上記構成によれば、上記触媒2の担持量であっても、上述したハニカム構造体1を用いているので、触媒担持による捕集率および圧損の悪化の抑制効果を得やすい排ガス浄化フィルタ3が得られる。
【0050】
触媒2の担持量は、HC、CO、NOxの浄化性能確保および吸蔵酸素量確保などの観点から、好ましくは、30g/L以上、より好ましくは、50g/L以上、さらに好ましくは、60g/L以上とすることができる。また、触媒2の担持量は、インウォールコート法による触媒担持における連通気孔122の閉塞抑制、触媒反応熱に起因する熱応力によるハニカム構造体1の破損抑制などの観点から、好ましくは、200g/L以下、より好ましくは、150g/L以下、さらに好ましくは、100g/L以下とすることができる。
【0051】
排ガス浄化フィルタ3は、触媒2が担持された状態において隣接するセル13間を連通している連通気孔122の数が4500[本/0.25mm
2]以上であるとよい。この構成によれば、触媒担持による捕集率および圧損の悪化の抑制を確実なものとすることができる。また、この構成によれば、強度低下を招く気孔の量低減により、排ガス浄化フィルタ3の排ガス管への組み付け時における破壊を抑制しやすくなるなどの利点がある。触媒2が担持された状態において隣接するセル13間を連通している連通気孔122の数は、好ましくは、4800[本/0.25mm
2]以上、より好ましくは、5000[本/0.25mm
2]以上、さらに好ましくは、5200[本/0.25mm
2]以上、さらにより好ましくは、5300[本/0.25mm
2]以上、さらにより一層好ましくは、5400[本/0.25mm
2]以上、もっとも好ましくは、5800[本/0.25mm
2]以上とすることができる。なお、上記にある強度確保などの観点から、触媒2が担持された状態において隣接するセル13間を連通している連通気孔122の数は、8500[本/0.25mm
2]以下とすることができる。
【0052】
触媒2が担持された状態において隣接するセル13間を連通している連通気孔122の数は、触媒2が担持されたハニカム構造体1を用い、上述した測定方法に準じて測定することができる。
【0053】
触媒2が担持された状態における隔壁12の平均気孔径は、10μm以上28μm以下、好ましくは、11μm以上26μm以下、より好ましくは、13μm以上23μm以下の範囲で調整することができる。触媒2が担持された状態における隔壁12の気孔率は、46%以上66%以下、好ましくは、49%以上64%以下、より好ましくは、51%以上61%以下の範囲で調整することができる。触媒2が担持された状態における隔壁12の平均気孔径が10μm以上28μm以下であり、気孔率が46%以上66%以下である場合には、気孔121への触媒2の担持が確実なものとなる。また、触媒担持による捕集率および圧損の悪化の抑制を確実なものとすることができる。なお、触媒2が担持された状態における隔壁12の平均気孔径、気孔率は、実験例で後述するように水銀圧入法により測定できる。
【0054】
(実施形態2)
実施形態2のハニカム構造体および排ガス浄化フィルタについて、実施形態1で用いた
図1〜
図14を適宜参照しつつ説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0055】
本実施形態のハニカム構造体1は、隔壁12の厚みTμmに対する連通気孔122の平均流路長Lμmの比で定義される屈曲度L/Tが、1.2以上とされている。連通気孔122の平均流路長Lμmは、次のようにして求められる。実施形態1と同様にして、二値化処理後の撮影画像を準備する。当該二値化処理後の撮影画像を、解析ソフトGeoDict(SCSK社製)に読み込ませ、1Voxel当たり0.685μmの条件で、気孔部分および骨格部分の構造を三次元モデル化した仮想モデルを作成する。そして、得られた仮想モデルにつき、全ての連通気孔122の流路長(μm)を測定する。ここで、PMは、ガスの流れに沿って流れる。ガスは、流体として、連通気孔122内で最短流路を通って流れようとする。上記にて長さを測定する流路は、連通気孔122内をガスが流れていく最短流路である。つまり、連通気孔122における流路長は、連通気孔122の孔径の中央を結んだ線の長さとは必ずしも一致しないパラメータであるといえる。得られた全ての連通気孔122の流路長の平均値が、連通気孔122の平均流路長Lμmとされる。また、仮想モデルの厚み(μm)が、屈曲度を算出する際の隔壁12の厚みTμmとされる。そして、上記のようにして求めた連通気孔122の平均流路長Lμmを隔壁12の厚みTμmで除することにより、測定サンプルの屈曲度が算出される。ハニカム構造体1における屈曲度は、ハニカム構造体1から採取した6か所の測定サンプルについて、上述のように求めた各測定サンプルの屈曲度の平均値から算出される。なお、各測定サンプルは、実施形態1にて上述した連通気孔数の測定サンプルと同じ採取位置から採取される。
【0056】
本実施形態のハニカム構造体1は、屈曲度が上記範囲とされている。当該屈曲度が上記範囲であれば、連通気孔122の流路構造が複雑になり、連通気孔122の抵抗である管路摩擦により生じる管路抵抗が上昇する。そのため、ハニカム構造体1に触媒2を担持させる際に、触媒2を含有する触媒含有スラリーの流動性が低下し、連通気孔122の孔壁122aに触媒2を所定量担持させやすくなる。
【0057】
ハニカム構造体1において、屈曲度は、連通気孔122への触媒2の担持性向上等の観点から、好ましくは、1.25以上、より好ましくは、1.30以上、さらに好ましくは、1.35以上とすることができる。なお、当該屈曲度が過度に高くなると、排ガス浄化フィルタ製造時における触媒担持工程において、触媒含有スラリーの管路抵抗が大きくなり、触媒2により気孔121の閉塞が増加する傾向が見られる。そのため、当該屈曲度は、好ましくは、1.8以下、より好ましくは、1.7以下、さらに好ましくは、1.6以下とすることができる。
【0058】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ3は、本実施形態のハニカム構造体1を有している点で、実施形態1の排ガス浄化フィルタ3と異なっている。本実施形態の排ガス浄化フィルタ3は、本実施形態のハニカム構造体1を用いているので、所定量の触媒2の保持を確実なものとしやすい。
【0059】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ3において、ハニカム構造体1の連通気孔122に触媒2が担持された状態における屈曲度は、1.4以上とされている。連通気孔122に触媒2が担持された状態における屈曲度は、連通気孔122に触媒2が担持されたハニカム構造体1を用い、上述した方法にて求めることができる。
【0060】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ3は、触媒2が担持された状態における屈曲度が上記範囲とされている。当該屈曲度が上記範囲であれば、連通気孔122の孔壁122aへの所定量の触媒2の担持を確実なものとすることができる。
【0061】
排ガス浄化フィルタ3において、触媒2が担持された状態における屈曲度は、捕集率の向上と圧損の抑制などの観点から、好ましくは、1.45以上、より好ましくは、1.50以上、さらに好ましくは、1.55以上、さらにより好ましくは、1.60以上とすることができる。なお、当該屈曲度が過度に高くなると、圧損が上昇する傾向が見られる。そのため、当該屈曲度は、好ましくは、2.2以下、より好ましくは、2.1以下、さらに好ましくは、2.0以下とすることができる。その他の構成および作用効果は、実施形態1の排ガス浄化フィルタ3と同様である。
【0062】
(実施形態3)
実施形態3の排ガス浄化フィルタについて、実施形態1で用いた
図1〜
図14を適宜参照しつつ説明する。排ガス浄化フィルタ3は、ハニカム構造体1と、触媒2と、を有している。ハニカム構造体1は、外皮11と、外皮11の内側を区画し、多数の気孔121が形成された隔壁12と、隔壁12に囲まれたセル3と、を有している。隔壁12は、隣接するセル3間を連通させる連通気孔122を有している。触媒2は、連通気孔122の孔壁122aに担持されている。触媒2の担持量は、30g/L以上である。触媒2が担持された状態において隣接するセル3間を連通している連通気孔122の数は、4500[本/0.25mm
2]以上である。
【0063】
なお、本実施形態の排ガス浄化フィルタ3は、実施形態1、実施形態2で示した連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]以上であるハニカム構造体1を用い、気孔121内に触媒2を担持させるインウォールコート法により触媒2を30g/L以上担持させることによって得ることができる。
【0064】
本実施形態の排ガス浄化フィルタ3によれば、触媒担持による捕集率および圧損の悪化を抑制することができる。なお、本実施形態の排ガス浄化フィルタ3の構成および作用効果については、実施形態1、実施形態2の記載を適宜参照し、当てはめることができる。
【0066】
ハニカム構造体は、コージェライトを主成分とすることができる。この場合、ハニカム構造体の製造にあたっては、コージェライト組成が生成するように、Si源、Al源、およびMg源を含むコージェライト形成原料が用いられる。コージェライト形成原料は、焼成によりコージェライト組成を生成できる原料のことである。コージェライト形成原料としては、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、アルミナ、カオリン等を適宜混合した混合物を用いることができる。シリカとしては、多孔質シリカを用いることが好ましい。また、気孔率を高めることができるという観点から、Al源としては、水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。ハニカム構造体の製造においては、コージェライト形成原料に、水、バインダ、潤滑油、造孔材等を適宜混合し、コージェライト形成原料を含む坏土を準備することができる。なお、坏土作製時のコージェライト形成原料の混合条件については、実験例2にて詳述する。そして、準備した坏土を押出成形し、焼成した後、栓部を形成することにより、ハニカム構造体を得ることができる。
【0067】
製造されるハニカム構造体の隔壁における連通気孔数を上述した特定の範囲まで高めるためには、連通気孔数と関係のある隔壁の気孔経路長分布を均一にすることが有効である。気孔経路長分布を均一にできる原料条件について以下の通り検討した。
【0068】
シリカ、タルクは、高温で溶融して気孔を形成できるため、気孔形成材料と呼ぶことができる。この気孔形成材料の粒子数割合が高いほど、粒子同士の接触性が向上し、気孔経路長分布を均一にすることが可能になる。そこで、コージェライト形成原料を含む坏土を押出成形したときにおいて、坏土中に含まれるシリカとタルクの粒子数割合を制御すればよい。
【0069】
しかし、粒子数割合は、測定が困難であり、さらに成形条件によって測定値がばらつくことが想定される。そのため、シリカ、タルク、Al源などの原料粉末の条件制御により気孔経路長分布を調整できる指標が望まれる。このような観点から、原料粉末の加圧嵩密度に着目して以下の検討を行った。
【0070】
具体的には、表1に示される配合の坏土を考える。ここでは、表1に示されるように多孔質シリカまたは溶融シリカ、タルク、水酸化アルミニウムを適宜配合することにより、コージェライト形成原料が調整される。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザ回折・散乱法によって求められた粒度分布における体積積算値50%での粒径のことである。コージェライト形成原料には、適宜、グラファイトからなる造孔材、水、潤滑油、メチルセルロースからなるバインダが添加される。このような混合原料から坏土を作製することを考える。
【0072】
一方で、坏土を模擬した評価方法を検討すべく、原料粉末の加圧嵩密度を測定した。具体的には、先ず、島津製作所社製の加圧測定機「オートグラフ」における直径25mm、長さ20mmの測定器内に原料粉末の混合粉を投入し、混合粉の加圧を開始した。加圧速度は1mm/minである。圧力15MPaに相当する荷重7kNに到達した際に、リミット制御で加圧を停止した。この加圧により、混合粉からなる円柱状のペレットが得られる。このペレットの重量及び高さを測定した。
【0073】
ペレットの高さの測定は、ノギス、マイクロメータ、三次元測定機などによって行うことができる。ここでは、マイクロメータを用いて測定を行った。ペレットの直径は25mmとなるため、直径と高さとの積からペレットの体積を算出した。
【0074】
また、ペレットの体積と重量から密度を算出した。密度は、重量を体積で割ることにより算出される。この密度を加圧嵩密度とした。なお、原料の混合粉には、バインダとして松本油脂製薬社製のメチルセルロース「65MP−4000」が添加されている。バインダは、ペレット状の混合粉を取り扱いやすくするためのものであり、他のバインダを用いることも可能である。具体的には、原料粉末1.5g、バインダ0.5gの合計2gを用いている。
【0075】
一般に、粒子径と嵩密度には相関があり、粒子径が小さい程、粒子間に空間が形成されるため、嵩密度は小さくなる。ある体積内に配置される粒子数は、粒子径が小さいほど粒子数が多くなる。したがって、嵩密度が小さいほど粒子数は多くなる。すなわち、嵩密度と粒子数とは反比例の関係にある。
【0076】
混合粉における気孔形成材料の粒子数割合Rは、シリカとタルクの粒子数N
STと、ハニカム構造体の製造に用いられるすべての原料混合粉の粒子数N
Mとから、以下の式(x)により算出される。
R=N
ST/N
M ・・・(x)
【0077】
式(x)に、上述の嵩密度と粒子数の関係を適用すると、気孔形成材料の粒子数割合Rは、すべての原料混合粉の加圧嵩密度ρ
Mと、シリカとタルクの混合粉の加圧嵩密度ρ
STとから、以下の式(xi)で表される。
R=ρ
M/ρ
ST ・・・(xi)
【0078】
本実験例において、原料混合粉は、シリカ、タルク、水酸化アルミニウムであるため、加圧嵩密度ρ
Mは、シリカとタルクと水酸化アルミニウムとの混合粉の加圧嵩密度である。したがって、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度を大きくすること、シリカとタルクとの混合粉の加圧嵩密度を小さくすることにより、粒子数割合Rを増大できることになる。
【0079】
そこで、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度をρ
Aとし、シリカとタルクからなる気孔形成材料の粒子数割合Rの指標として、ρ
A/ρ
STを算出した。これらの加圧嵩密度は、上述の方法により測定される。その結果を表2に示す。
【0080】
また、表1に示した多孔質シリカ、溶融シリカの種類とタップデンサによる嵩密度を表3に示す。測定は、タップ密度法流動性付着力測定器によって行われる。具体的には、セイシン企業社製のタップデンサを用いた。そして、測定器のシリンダに測定対象粉末である各シリカを充填した。次いで、シリカをタッピングにより圧縮させ、圧縮状態のシリカの質量とシリンダの体積とから嵩密度を算出した。その結果を表3に示す。
【0083】
表2および表3から分かるように、試料2〜4においては、タップデンサでの嵩密度が低い多孔質シリカBおよび多孔質シリカCを用いている。これらの試料2〜4においては、多孔質シリカとタルクの混合粉の加圧嵩密度ρ
STが低いことがわかる。
【0084】
また、水酸化アルミニウムとして、平均粒子径が相対的に大きな大径粉と、平均粒子径が相対的に小さな小径粉とを併用することにより、充填性が向上して水酸化アルミニウムの嵩密度が大きくなる。大径粉と小径粉とからなる水酸化アルミニウムにおいては、一般に、小径粉の混合割合を5〜35質量%に調整することが充填性の向上に適していると言われている。
【0085】
しかし、粒子径の組み合わせや粒子形状、分布等によって、大径粉と小径粉との最適な配合比は変わる。表1に示されるように、試料1および試料5においては、平均粒子径5μmの水酸化アルミニウムを単独で用いている。試料2および試料3においては、平均粒子径3μmの小径粉の水酸化アルミニウムと平均粒子径8μmの大径粉の水酸化アルミニウムとを小径粉:大径粉=3:7の比で混合した混合粉を用いている。試料4においては、平均粒子径3μmの小径粉の水酸化アルミニウムと平均粒子径8μmの大径粉の水酸化アルミニウムとを小径粉:大径粉=5:5の比で混合した混合粉を用いている。
【0086】
表2に示されるように、このような水酸化アルミニウムの粒子径の組み合わせでは、小径粉の配合割合が30〜50質量%において加圧嵩密度が同程度になることがわかる。異なる平均粒子径の水酸化アルミニウムをブレンドせずに、単独のものを用いた試料1および試料5に比べて、試料2〜4は、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度が大きくなっていることがわかる。
【0087】
表2に示されるように、各試料における加圧嵩密度から、多孔質シリカとタルクの粒子数割合を算出した結果、粒子数割合の大小関係は、試料1および試料5<試料3および試料4<試料2で表される。この結果によれば、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度を大きくし、多孔質シリカとタルクとの混合物の加圧嵩密度を小さくすることにより、原料混合粉における気孔形成材料の粒子数割合を高められることがわかる。つまり、Al源の加圧嵩密度、気孔形成材料の加圧嵩密度を制御し、気孔形成材料の粒子数割合を高めることにより、粒子同士の接触性を向上させ、気孔経路長分布を均一にすることが可能になるといえる。
【0088】
なお、本実験例においては、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度ρ
A/多孔質シリカとタルクとの混合原料の加圧嵩密度ρ
STにより、気孔形成材料の多孔質シリカとタルクの粒子数割合を算出したが、水酸化アルミニウムの加圧嵩密度に代えて、コージェライト形成原料全体の加圧嵩密度を用いることもできる。つまり、気孔形成材料の多孔質シリカとタルクの粒子数割合を、(コージェライト形成原料の加圧嵩密度ρ
M)/(多孔質シリカとタルクとの混合原料の加圧嵩密度ρ
ST)により算出してもよい。
【0089】
具体的には、コージェライト形成原料として、例えば、カオリンやアルミナを用いた場合には、これらを含めた混合粉の加圧嵩密度を用いることができる。また、造孔材を用いる場合には、造孔材を含めた混合粉の加圧嵩密度を用いることができる。また、隔壁の気孔率が減少してもよい場合には、水酸化アルミニウムの混合物に、水酸化アルミニウムとは平均粒子径が異なるアルミナを添加することができる。水酸化アルミニウムとアルミナとの混合物において、水酸化アルニウムとしては、1種類の平均粒子径のものを用いてもよいし、2種以上の平均粒子径のものを併用してもよい。アルミナについても同様である。また、Al源として、水酸化アルミニウムの代わりにアルミナを用いてもよい。これらの組み合わせは、成形性、収縮率、コスト等の観点から適宜選択することができる。
【0090】
(実験例2)
本実験例においては、隔壁の連通気孔数が異なる12種類のハニカム構造体を製造する。これらのハニカム構造体をそれぞれ、試験体H1〜H12という。先ず、各ハニカム構造体の製造方法について説明する。
【0091】
各試験体のハニカム構造体の製造にあたっては、表4および表5に示すように所定のシリカ、タルク、水酸化アルミニウムを適宜配合することにより、コージェライト形成原料を調整した。
【0092】
表4および表5に示すように、コージェライト形成原料には、適宜、グラファイトからなる造孔材、水、潤滑油、メチルセルロースからなるバインダを添加した。このような混合原料から坏土を作製した。試験体H1、H4、および、H7については、一般的に坏土の混練時間が30分〜2時間程度であるのに対して、粒子同士の接触性向上による連通性および屈曲度向上のため、坏土の混練時間を長くした。但し、坏土の混練時間が長くなり過ぎると水分が蒸発し、十分な成形性が得られなくなることから、本実験例では、1.3〜1.6倍程度、坏土の混練時間を長くした。これらにより作製された坏土を押出成形し、1410℃で焼成した後、栓部を形成することにより、各ハニカム構造体を得た。各ハニカム構造体は、直径132mm、軸方向の長さ101mmの円柱形状であり、隔壁の厚みは、後述の表6に示される通りである。また、セル形状は、
図1に例示されるような四角形状とした。
【0095】
「気孔率および平均気孔径」
各ハニカム構造体の隔壁における気孔率および平均気孔径を、水銀圧入法の原理を用いた水銀ポロシメータにより測定した。水銀ポロシメータとしては、島津製作所社製のオートポアIV9500を用いた。測定条件は、以下の通りである。
【0096】
まず、ハニカム構造体から試験片を切り出した。試験片は、軸方向と直交方向の寸法が縦15mm×横15mmであり、軸方向の長さが20mmである直方体である。次いで、水銀ポロシメータの測定セル内に試験片を収納し、測定セル内を減圧した。その後、測定セル内に水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片の気孔内に導入された水銀の体積より、気孔径と気孔容積とを測定した。
【0097】
測定は、圧力0.5〜20000psiaの範囲で行った。なお、0.5psiaは、0.35×10
-3kg/mm
2に相当し、20000psiaは14kg/mm
2に相当する。この圧力範囲に相当する気孔径の範囲は0.01〜420μmである。圧力から気孔径を算出する際の常数として、接触角140°および表面張力480dyn/cmを使用した。平均気孔径は、気孔容積の積算値50%での気孔径のことである。気孔率は、次の関係式より算出した。なお、コージェライトの真比重は2.52である。
気孔率(%)=総気孔容積/(総気孔容積+1/コージェライトの真比重)×100
【0098】
「連通気孔数および屈曲度L/T(触媒担持前)」
触媒を担持させる前の各ハニカム構造体における隔壁の連通気孔数および屈曲度L/Tを、実施形態1で説明した方法により測定した。なお、二値化処理には、アメリカ国立衛生研究所(NIH)製の画像解析ソフトImageJ バージョン1.46を用いた。気孔経路長の測定には、ヒューリンクス社製のIGORL バージョン6.0.3.1を用いた。屈曲度を算出する際の流路長の測定には、SCSK社製の解析ソフトGeoDict バージョン 2017を用いた。
図15に試験体H2の気孔経路長分布、
図16に試験体H3の気孔経路長分布、
図17に試験体H4の気孔経路長分布、
図18に試験体H5の気孔経路長分布、
図19に試験体H6の気孔経路長分布、
図20に試験体H7の気孔経路長分布を示す。
【0099】
「捕集率の悪化率および圧損の悪化率」
隔壁内まで触媒含有スラリーを満たした後、ハニカム構造体の一方端面または両端面から触媒含有スラリーを吸引する、公知のインウォールコート法を用い、各ハニカム構造体における隔壁の気孔内に触媒を担持させた。触媒の担持量は、60g/Lとした。そして、触媒担持前後のハニカム構造体を用い、触媒担持前後でのPM捕集率、圧損を測定した。
【0100】
PM捕集率および圧損は、具体的には、次のように測定した。触媒担持前後のハニカム構造体をガソリン直噴エンジンの排気管内に取り付け、ハニカム構造体にPMを含む排ガスを流した。このとき、ハニカム構造体に流入する前の排ガス中のPM数、ハニカム構造体から流出する排ガス中のPM数を測定し、PM捕集率を算出した。測定条件は、温度450℃、排ガス流量2.8m
3/minである。また、圧損は、捕集率の測定と同時に圧力センサによりハニカム構造体前の圧力とハニカム構造体後の圧力とを測定し、その差分を圧力損失として計測した。測定条件は、温度720℃、排ガス流量11.0m
3/minとした。いずれの測定も、ハニカム構造体内にPMが堆積していない初期状態について行った。PM数の測定は、AVL社製のPM粒子数カウンタを用いて行った。
【0101】
そして、100×(触媒担持後のPM捕集率[%]−触媒担持前のPM捕集率[%])/(触媒担持前のPM捕集率[%])より算出される値の絶対値を、捕集率の悪化率として求めた。また、100×(触媒担持後の圧損[kPa]−触媒担持前の圧損[kPa])/(触媒担持前の圧損[kPa])より算出される値の絶対値を、圧損の悪化率として求めた。
【0102】
表6に、上記の測定結果をまとめて示す。また、
図21に触媒担持前のハニカム構造体における連通気孔数と捕集率の悪化率との関係、
図22に触媒担持前のハニカム構造体における連通気孔数と圧損の悪化率との関係を示す。
【0104】
これらの結果によれば、以下のことがわかる。試験体H2、試験体H3は、触媒担持前の連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満である。そのため、試験体H2、試験体H3は、触媒を担持させた場合に、捕集率の悪化率、圧損の悪化率がいずれも高い値となった。これらに対し、試験体H1、試験体H4〜H12は、触媒を担持させた場合であっても、試験体H2、試験体H3に比べ、捕集率の悪化率、圧損の悪化率が低くなり、触媒担持による捕集率および圧損の悪化を抑制することができた。これは、試験体H1、試験体H4〜H12では、触媒担持に寄与する連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]以上に増大されているため、同量の触媒を担持させる場合に、連通気孔当たりの触媒量が少なくなった結果、触媒担持時に触媒によって埋まってしまう連通気孔が少なくなり、触媒担持による捕集率および圧損の悪化を抑制できたためである。
【0105】
また、
図21、
図22に示されるように、触媒担持前の連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満の領域では、捕集率の悪化率および圧損の悪化率が高止まりしていることがわかる。これは、触媒担持前の連数気孔数が18000[本/0.25mm
2]未満の領域は、触媒担持時に触媒により連通気孔が閉塞されて排ガスが流れ難い領域となるため、捕集率の悪化率、圧損の悪化率はハニカム構造体の構造による寄与が支配的となり、触媒担持後の隔壁内の気孔の寄与が僅少となるためであると考えられる。また、
図21、
図22に示されるように、触媒担持前の連通気孔数が18000[本/0.25mm
2]以上の領域において、捕集率の悪化率および圧損の悪化率が低く維持される領域が見られた。これは、連通気孔数が多い領域は、触媒の担持がされない連通気孔が生じる領域であり、捕集率、圧損の絶対値としては向上していくが、触媒担持前後における変化率という観点では、触媒の担持がなされない連通気孔の捕集率・圧損への寄与が大きくなり、悪化率としては僅少にとどまるためであると考えられる。なお、捕集率および圧損の悪化率の挙動は、いずれもガス流れに起因するため、サチュレートする理由はどちらも同じとなる。
【0106】
(実験例3)
実験例2に示した、触媒担持前のハニカム構造体である試験体H1〜試験体H12に触媒を担持させたもの(触媒の担持量60g/L)を、それぞれ試験体F1〜試験体F12の排ガス浄化フィルタとする。
【0107】
実施形態1で上述した方法により、実験例2と同様にして、触媒担持後の気孔率、平均気孔径、連通気孔数、および、屈曲度L/Tを測定した。その結果を、表7に示す。なお、表7には、実験例2にて求めた捕集率の悪化率および圧損の悪化率を再度掲載した。また、表7には、便宜上、実験例4にて後述するNOx浄化率も併せて示してある。実験例2の結果と本実験例の結果とから、触媒担持前のハニカム構造体における連通気孔数と触媒担持後のハニカム構造体における連通気孔数との関係を整理した。その結果を、
図23に示す。
【0109】
表7に示されるように、触媒量60g/Lにおいては、触媒により連通気孔が埋まり、気孔率、気孔径ともに低減することがわかる。また、触媒で気孔が埋まることで、連通気孔数が減り、その結果、隔壁を最短距離で連通する連通気孔の流路と相関のある屈曲度L/Tは上昇する。触媒量が増加すれば、この影響は大きくなり、触媒量が減れば、この影響は小さくなる。
【0110】
また、
図23に示されるように、触媒担持前の連通気孔数と触媒担持後の連通気孔数とは、正の線形関係があることがわかる。触媒担持前の連通気孔数を18000[本/0.25mm
2]以上とすれば、触媒担持後に残存する連通気孔の数を4500[本/0.25mm
2]以上とすることができる。
【0111】
(実験例4)
本実験例では、上述した実験例3における試験体の排ガス浄化フィルタを用い、触媒担持前のハニカム構造体における屈曲度L/T、触媒担持後の触媒層厚さ、および、排ガス浄化フィルタのNOx浄化性能の関係を調査するため、以下の実験を行った。
【0112】
図24に示されるように、配管部91と、排ガス浄化フィルタ3が内部に収容されるケース部92と、配管部91とケース部92との間を繋ぐコーン部93と、を有する評価コンバータ9を準備した。ケース部92の上流側の配管部91は、排ガスを発生させるエンジンEに接続されている。本実験例では、エンジンEには、排気量2.0L、自然吸気、4気筒のガソリンエンジンを用いた。また、ケース部92の上流側の配管部91および下流側の配管部91には、
図24に示す配置となるように、それぞれA/Fセンサ94、ガス濃度計「入」95、ガス濃度計「出」96を設置した。ガス濃度計「入」95、ガス濃度計「出」96には、堀場製作所社製、MEXA−7500を用いた。
【0113】
NOx浄化率の評価にあたっては、A/Fを14.4にコントロールし、吸入空気量50g/s、3500rpmにてガス濃度を評価した。窒素酸化物(NOx)の浄化率は、以下の式により算出した。
NOx浄化率=100×(ガス濃度計「入」で示されるNOx濃度[ppm]−ガス濃度計「出」で示されるNOx濃度[ppm])/(ガス濃度計「入」で示されるNOx濃度[ppm])
【0114】
また、実験例2で上述した水銀圧入法による平均気孔径を用い、以下の式から触媒層の厚さを求めた。
触媒層厚さ=0.5×(触媒担持前の平均気孔径−触媒担持後の平均気孔径)
【0115】
連通気孔数の増加は、触媒を担持することができる面積を向上させる。連通気孔数が、十分なNOx浄化率を発現させるための触媒層厚さを担保することができるかは、さらに好ましくは触媒担持前の屈曲度L/Tが影響する。
図25に示されるように、触媒担持前の屈曲度L/Tが低いと、排ガス浄化フィルタに求められるNOx浄化性能が低下していく。
図26に示されるように、NOx浄化率に関し、触媒層の厚さが薄い場合、NOxガスが触媒層へ十分な拡散をしないため、NOx浄化性能は低下する傾向になる。
図27に示されるように、触媒担持前の屈曲度L/Tが低くなり、連通気孔における管路抵抗が低下すると、触媒担持時の触媒担持性が下がり、触媒層が薄く形成されやすくなる。したがって、NOx浄化性能の確保を確実なものとするには、
図25〜
図27の結果に示されるように、触媒担持前の屈曲度L/Tを1.2以上とすることが有効であるといえる。なお、触媒担持前の屈曲度L/T=1.2に明確な境界が存在するのは、NOxを浄化する触媒との反応時間は物性値として一定値であるため、ある反応時間が担保される、すなわち、反応距離が担保できる触媒層厚さであれば反応が十分に完了するためであると考えられる。
【0116】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。