(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
広域的信号光を送光する第1のモードと、前記第1のモードにおいて送光した前記広域的信号光に対する応答信号光に応じて通信対象に向けて選択的信号光を送光する第2のモードとを切り替える制御をするとともに、前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する制御をする制御装置と、
前記制御装置の制御に応じて、前記第1のモードにおいて前記広域的信号光を送光し、前記第2のモードにおいて前記通信対象に向けて前記選択的信号光を送光し、前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する送受光装置とを備え、
前記送受光装置は、
光源と、受光器と、位相変調型の空間光変調素子とを含み、前記光源からの出射光を前記空間光変調素子の表示部によって反射させた光によって形成される前記広域的信号光および前記選択的信号光を送光するとともに、前記通信対象からの前記応答信号光を前記空間光変調素子の表示部によって反射させて前記受光器に向けて選択的に受光する移動体間通信システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。また、図面中の矢印の向きは、一例を示すものであり、ブロック間の信号の向きを限定するものではない。
【0015】
(第1の実施形態)
(構成)
まず、本発明の第1の実施形態に係る移動体間通信システム1の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の移動体間通信システム1の構成を示すブロック図である。
図1のように、本実施形態に係る移動体間通信システム1は、送受光装置10および制御装置50を備える。移動体間通信システム1は、車両などの移動体に搭載され、移動体間で通信し合うためのシステムである。移動体間通信システム1は、通信対象である他の移動体と通信し合うための光(信号光)を送受光し合うことによって互いに通信し合うシステムである。
【0017】
移動体間通信システム1は、他の移動体にも搭載されていることが好ましいが、他の移動体に搭載された他のシステムとも通信できればよい。例えば、移動体間通信システム1は、規格化された信号光を送受光し合って通信し合うように構成すればよい。ただし、他のシステムとの間で互換性を持たせない場合はその限りではない。
【0018】
送受光装置10は、通信対象である他の移動体と通信し合うための信号光を送受光するための装置である。送受光装置10は、光源と受光器とを有し、光源から出射される光(出射光)の照射形状を変形して信号光として任意の方向に向けて送光するとともに、他の移動体からの信号光を受光する。
【0019】
例えば、送受光装置10に空間光変調素子を適用すれば、空間光変調素子の表示部によって反射された光を信号光として送光するように構成できる。その場合、送受光装置10は、空間光変調素子の表示部に表示させるパターンを変化させて、様々な照射形状や照射範囲の信号光を任意の方向に送光できる。すなわち、送受光装置10は、機械的な動作機構を設けずに、任意の方向に向けて任意の信号光を送光できる。なお、これ以降、信号光の照射範囲も、信号光の照射形状の一様態に含めるものとする。
【0020】
また、送受光装置10は、通信対象である移動体からの信号光を選択的に受光器に導く。例えば、空間光変調素子を含む送受光装置10であれば、特定の通信対象と通信し合うように空間光変調素子が制御されている際に、その特定の通信対象からの信号光を選択的に受光器に導くことができる。このとき、通信対象ではない他の移動体(以下、非通信対象)からの信号光は、受光器とは異なる方向に導かれて受光器に受光されない。
【0021】
光源は、光を出射する。受光器は光を受光する。光源は、例えば、指向性の高い光を出射するレーザ光源やLED(Light Emitting Diode)などがある。特に、光源には、レーザ光源を用いることが好ましい。受光器には、フォトダイオードや、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)、CCD(Charge Coupled Device)などの素子を適用できる。なお、光源と受光器とは、光源の出射箇所と受光器の受光位置とを近接させて配置する。
【0022】
制御装置50は、送受光装置10に信号光を送光させる制御をする。制御装置50は、信号光を送光する方向を設定したり、送光する信号光の照射形状や照射範囲を設定したりする。また、制御装置50は、送受光装置10によって受光された信号光に基づいて、通信対象を特定したり、通信対象の位置を計算したりする。また、制御装置50は、通信対象との間で送受光し合う信号光の変復調を行う。
【0023】
制御装置50は、二つのモードを切り替える制御をする。
【0024】
第1のモードは、広域的に信号光を送光する探索モードである。なお、第1のモードで送光する広域的な信号光を広域的信号光とも呼ぶ。
【0025】
第2のモードは、探索モードにおいて送光した信号光に対する通信対象からの応答に応じて、通信対象に向けて選択的に信号光を送光する追従モードである。なお、広域的信号光に対する応答を含む信号光を応答信号光とも呼ぶ。また、第2のモードで通信対象に向けて選択的に送光する信号光を選択的信号光とも呼ぶ。
【0026】
探索モードにおいて、制御装置50は、送信側の移動体の位置情報や速度情報、運転情報、受光器の位置、送光時刻などの情報を含む信号光を通信対象に向けて広域的に送光するように送受光装置10を制御する。また、追従モードにおいて、制御装置50は、信号光の照射範囲や照射形状を変化させ通信対象に向けてピンポイントな信号光を選択的に送光するように制御する。
【0027】
例えば、位置情報は、GPS(Global Positioning system)やナビゲーションシステムと連動して取得すればよい。速度情報は、移動体の速度計などから取得すればよい。運転情報は、ナビゲーションシステムから取得すればよい。受光器の位置は、移動体の重心や特徴点に対する相対的な位置の情報として設定すればよい。
【0028】
図2は、移動体間通信システム1を搭載した移動体Aから、通信対象である移動体Bに向けて信号光を送光する場面の一例である。なお、以下の説明においては、移動体間通信システム1ではなく、移動体間通信システム1を搭載する移動体Aや移動体Bを主体として説明する。
【0029】
信号光の照射前(
図2の上段の場面A)、移動体Aには、移動体Bの大まかな位置が分かっているものとする。しかし、移動体Bの受光器との位置合わせが正確に行われていないため、移動体Aから小さなスポットで信号光を移動体Bに照射すると、移動体Bの受光部から外れる可能性がある。
【0030】
まず、探索モード(
図2の中段の場面B)において、移動体Aは、移動体Bが含まれる位置に向けて広域的に信号光を送光する。探索モードは、通信対象である移動体Bと移動体Aとの間で位置合わせをするためのモードである。なお、移動体Aは、探索モードの広域的送光によって移動体Bと通信し合ってもよい。
【0031】
移動体Aは、送光時刻や位置情報、速度情報、運転情報、受光部の位置などの情報を含む信号光を移動体Bに向けて広域的に送光する(探索モード)。移動体Bは、広域的な信号光を受光することによって、移動体Aの送光時刻や位置情報、速度情報、運転情報、受光部の位置などの情報を取得する。
【0032】
移動体Bは、移動体Aからの信号光に基づいて移動体Aの位置を計算し、移動体Aの受光器に向けて信号光を送光する。移動体Bは、送光時刻や位置情報、速度情報、運転情報、受光部の位置などの情報を含む信号光を移動体Aに向けて送光する。このとき、移動体Bは、移動体Aに向けて広域的な信号光を送光してもよいし、移動体Aの受光部に向けてスポット状の選択的な信号光を選択的に送光してもよい。移動体Aは、移動体Bから受光した信号光によって移動体Bの情報を取得する。
【0033】
次に、追従モード(
図2の下段の場面C)において、移動体Aは、移動体Bの受光器に向けてスポット状の選択的な信号光を送光する。追従モードでは、移動体Aと移動体Bとの間で相互に位置関係を把握しながら通信し合う環境を継続させるモードである。追従モードにおいて、移動体Aは、信号光の照射範囲や照射形状を変化させ、移動体Bの受光器に向けてピンポイントな信号光を送光する。
【0034】
図2のように、本実施形態によれば、探索モードにおいて通信対象を探索し、追従モードにおいて通信対象と通信し合うことが可能になる。
【0035】
ところで、
図2には、移動体の一側面で信号光を送受光する例を示しているが、信号光を送受光する箇所は移動体の一側面に限らない。実際には、移動体の周辺のどこに通信対象が位置しているのかを把握できているとは限らないため、信号光を送受光する箇所を複数設けることが好ましい。例えば、移動体の前後や両側面、角などを含む箇所で信号光を送受光するように構成すれば、周辺に位置する移動体を探索しやすくなる。
【0036】
移動体の前方および後方で信号光を送受光し合う場合であれば、移動体の前部および後部に少なくとも一箇所ずつ送受光箇所を設ければよい。また、移動体の側方でも信号光を送受光し合う場合であれば、移動体の前部、後部および両側部に少なくとも一箇所ずつ送受光箇所を設ければよい。また、移動体の四つの角の少なくともいずれかに送受光箇所を設けてもよい。また、移動体の天井の外側に送受光箇所を設ければ、一箇所の送受光箇所で四方をカバーすることも可能になる。
【0037】
このように、複数の送受光箇所から周辺に向けて広域的送光を行えば、位置を想定できていなかった通信対象を探索できる。その場合、制御装置50は、通信対象からの応答を受光した送受光箇所で選択的送光を行うように制御すればよい。
【0038】
ここで、
図3を用いて、探索モードを用いない場合の移動体間における信号光の送受光について説明する。例えば、
図3の上段のような位置関係で移動体Aが移動体Bの受光器に向けてピンポイントな信号光を送光すると、移動体Bの受光器から外れた位置に信号光が照射され、
図3の下段のように移動体Bに信号光が受光されない可能性がある。特に、移動体Aと移動体Bとの速度差が大きいと、互いの位置関係を把握しにくい。
【0039】
一方、
図2のような本実施形態の手法においては、探索モードでは移動体B全体を含むような信号光を送光し、追従モードでは移動体Bの受光器に向けて信号光を送光する。そのため、本実施形態によれば、探索モードにおいて移動体間で信号光を用いて送受光部の位置合わせをし、その位置合わせの結果に基づいて、追従モードにおいて移動体間で通信し合える。
【0040】
続いて、本実施形態の移動体間通信システム1の詳細な構成について図面を用いて説明する。
【0041】
〔送受光装置〕
図4は、送受光装置10の構成を示すブロック図である。
図4のように、送受光装置10は、入出力回路11、送受光器12、送受光設定部13および光学系14を有する。
【0042】
入出力回路11は、制御装置50との間でデータをやり取りするためのインターフェース回路である。
【0043】
送受光器12は、光信号の送受光を行う。送受光器12は、制御装置50の制御に応じた信号光を送光する。また、送受光器12は、通信対象から信号光を受光し、受光した信号光を電気信号に変換する。例えば、送受光器12は、空間光変調素子の表示部に照射した信号光を反射して送光し、送光した信号光の反射光を空間光変調素子の表示部に反射された光を受光する。なお、送受光器12の構成については後述する。
【0044】
送受光設定部13は、制御装置50の制御に応じて、送光する信号光の照射形状や照射範囲、送光方向を設定し、その設定に基づいて信号光を出射する。例えば、送受光設定部13は、空間光変調素子の表示部に表示させる表示パターンを制御することによって、送光する信号光の照射形状や照射範囲、送光方向を設定する。また、送受光設定部13は、通信対象から受光した信号光を受光器に向けて導き、非通信対象から受光した信号光を受光器から外すように導く。例えば、送受光設定部13は、空間光変調素子の表示部に表示させる表示パターンを制御することによって、通信対象からの信号光を受光器に向けて導き、非通信対象からの信号光を受光器から外すように導くように制御する。例えば、送受光設定部13は、空間光変調素子の表示部に、無反射の表示パターンを表示させたり、受光器から外れた位置に信号光を導光する表示パターンを表示させたりすることによって、非通信対象からの信号光を受光器から外すように制御する。
【0045】
光学系14は、送受光設定部13によって出射された光を通信対象に向けて信号光として投射するための投射光学系と、受光した信号光を対象に応じて受光器に導くための受光光学系とを兼ねる。
【0046】
また、送受光器12は、光源21、光源駆動部22、受光器23および受光回路24を含む。
【0047】
光源21は、光源駆動部22の駆動に伴って特定波長の光を出射する。光源21から出射される光は、位相がそろったコヒーレントな光であることが好ましい。例えば、光源21には、レーザ光源を用いることができる。光源21から出射されたレーザ光は、コリメータ(図示しない)によって平行光にすることが好ましい。
【0048】
光源21は、視認されない赤外領域の光を出射するように構成する。なお、光源21は、可視領域や紫外領域などの赤外領域以外の光を出射するように構成してもよい。場合によっては、光源21は、発光ダイオードや白熱電球、放電管などを用いてレーザ光以外の光を出射するものであってもよい。
【0049】
光源駆動部22は、制御装置50の制御に応じて光源21を駆動させて、光源21から光を出射させるための電源を含む。
【0050】
受光器23は、通信対象から受光した信号光を検出する光検出器である。受光器23は、受光した信号光を電気信号に変換する。例えば、フォトダイオードやフォトトランジスタ、光導電セル、イメージセンサ、放射用熱電対、サーモパイル、焦電検出器、光電管、光電子増倍管などを受光器23に用いることができる。
【0051】
受光回路24は、受光器23が信号光から変換した電気信号をデジタル信号に変換し、復号して制御装置50に送信する回路である。
【0052】
図5は、送受光装置10の送光に関する概念図である。送光時、送受光装置10は、光源21から出射した光を送受光設定部13によって出射光に変換し、光学系14を介して送光する。
【0053】
図6は、送受光装置10による信号光の受光に関する概念図である。送受光装置10は、信号光の受光時、光学系14を介して導入された光を送受光設定部13を制御することによって受光器23に導く。なお、非通信対象からの信号光は、送受光設定部13を制御することによって受光器23から外すように導く。
【0054】
〔制御装置〕
図7は、制御装置50の構成を示すブロック図である。
図7のように、制御装置50は、入出力回路51、送受光制御回路52、送光設定回路53、記憶回路54、通信設定回路55、インターフェース56、対象特定回路57および送光位置設定回路58を有する。
【0055】
入出力回路51は、送受光装置10との間でデータを入出力するためのインターフェース回路である。
【0056】
送受光制御回路52は、送光設定回路53によって設定される制御条件に基づいて、送受光装置10の光源駆動部22や送受光設定部13を制御する制御回路である。
【0057】
送光設定回路53は、送受光装置10の制御条件を設定する。送受光制御回路52は、インターフェース56を介して外部から取得された情報などに基づいた信号光を、送光位置設定回路58によって設定された位置に向けて送光するための制御条件を設定する。送光設定回路53によって設定された制御条件は、信号光の送光タイミングで光源21を駆動させるための光源駆動条件と、その送光タイミングに合わせて送光する信号光の照射形状や送光方向を制御するための送光制御条件とを含む。送光設定回路53は、通信対象とやり取りする通信情報に合わせて光源21の駆動タイミングをパルス状に制御することによって、通信対象とやり取りする通信情報を信号光に取り込ませる。
【0058】
送光設定回路53によって設定された制御条件は、送受光装置10に出力される。具体的には、光源駆動条件は光源駆動部22に出力され、送光制御条件は送受光設定部13に出力される。
【0059】
例えば、探索モードで信号光を送光する場合、送光設定回路53は、通信対象を含む広範囲をカバーする照射形状の信号光が送光されるような制御条件を設定する。追従モードで信号光を送光する場合、送光設定回路53は、通信対象の受光器に向けてスポット状の信号光が送光されるような制御条件を設定する。
【0060】
送光設定回路53は、記憶回路54に記憶されたデータを用いて、信号光の照射形状を設定する。送受光設定部13が位相変調型の空間光変調素子を含む場合、送光設定回路53は、以下の手順で送光制御条件を設定する。まず、送光設定回路53は、所望の照射形状の信号光に対応する位相分布を記憶回路54から取得する。信号光の照射範囲を変更する場合、送光設定回路53は、位相分布を加工して送信する信号光の照射範囲を所望の範囲に変更する。また、信号光の送光方向を変更する場合、送光設定回路53は、位相分布を加工して送信光の送光方向を所望の方向に変更する。送光設定回路53は、所望の照射形状や照射範囲の信号光が所望の方向に送光されるように変更された位相分布と、その位相分布を空間光変調素子の表示部に表示させるタイミングとを対応させた送光制御条件を設定すればよい。
【0061】
記憶回路54は、送受光装置10を制御するためのデータを格納するための記憶部である。
【0062】
送受光設定部13が位相変調型の空間光変調素子を含む場合、所望の照射形状の信号光に対応させて、空間光変調素子の表示部に表示させる位相分布を記憶回路54に格納させておけばよい。例えば、細長い矩形の信号光を送光する場合は、細長い矩形の信号光を形成するための位相分布を記憶回路54に記憶させておけばよい。例えば、円形の信号光を送光する場合は、円形の信号光を形成するための位相分布を記憶回路54に記憶させておけばよい。
【0063】
通信設定回路55は、どの通信対象に向けてどのような信号光を送光するのかといった設定をする回路である。通信設定回路55は、通信対象に送信する通信情報をインターフェース56を介して外部から取得する。また、通信設定回路55は、その通信対象への送光位置を送光位置設定回路58から取得する。そして、通信設定回路55は、通信対象に送信する通信情報と、その通信対象の送光位置とを関連付けて送光設定回路53に出力する。
【0064】
インターフェース56は、外部と情報をやり取りするための入出力部である。インターフェース56は、通信対象に送信する通信情報などの情報を外部から受け付ける。
【0065】
対象特定回路57は、受光器23が受光した信号光から、その信号光を送光した対象が通信対象であるか非通信対象であるのかを特定する回路である。例えば、信号光の送光元のID(Identifier)が信号光に含まれていれば、そのIDを用いて対象を特定できる。対象特定回路57は、信号を出射した対象が通信対象であると特定すると、その通信対象のIDを送光位置設定回路58に出力する。また、対象特定回路57は、信号を出射した対象が非通信対象であると特定すると、その非通信対象のIDを送光位置設定回路58に出力する。
【0066】
送光位置設定回路58は、対象特定回路57によって通信対象が特定されると、通信対象が送信した信号光に基づいて通信対象との相対的な位置関係を計算し、通信光の送光位置を設定する。送光位置設定回路58は、計算した送光位置を通信設定回路55に出力する。
【0067】
また、信号を出射した対象が非通信対象である場合、対象特定回路57は、その非通信対象のIDを通信設定回路55経由で送光設定回路53に出力する。
【0068】
ここで、
図8を用いて、本実施形態に係る移動体間通信システム1の制御系統を実現するハードウェア(制御基板70)について説明する。なお、制御基板70は、移動体間通信システム1を実現するための一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、制御基板70は、単一の基板であってもよいし、複数の基板に分割されていてもよい。
【0069】
図8のように、制御基板70は、プロセッサ71、主記憶装置72、補助記憶装置73、入出力インターフェース75およびネットワークアダプター76を備える。プロセッサ71、主記憶装置72、補助記憶装置73、入出力インターフェース75およびネットワークアダプター76は、バス79を介して互いに接続される。また、プロセッサ71、主記憶装置72、補助記憶装置73および入出力インターフェース75は、ネットワークアダプター76を介して、イントラネットやインターネットなどのネットワークに接続される。制御基板70は、ネットワークを介して、別のシステムや装置、センサに接続される。また、制御基板70は、無線ネットワークを介して、上位システムやサーバに接続されてもよい。なお、制御基板70の構成要素は、単一であってもよいし、複数であってもよい。
【0070】
プロセッサ71は、補助記憶装置73等に格納されたプログラムを主記憶装置72に展開し、展開されたプログラムを実行する中央演算装置である。本実施形態においては、制御基板70にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ71は、制御装置50による演算処理や制御処理を実行する。
【0071】
主記憶装置72は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置72は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置72として構成・追加してもよい。
【0072】
補助記憶装置73は、表示パターンなどのデータを記憶させる手段である。補助記憶装置73は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクとして構成される。なお、主記憶装置72にデータを記憶させる構成とし、補助記憶装置73を省略してもよい。
【0073】
入出力インターフェース75は、制御基板70と周辺機器とを接続規格に基づいて接続するインターフェース(I/F:Interface)である。
【0074】
制御基板70には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続できるように構成してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねるタッチパネルディスプレイとすればよい。プロセッサ71と入力機器との間のデータ授受は、入出力インターフェース75に仲介させればよい。
【0075】
ネットワークアダプター76は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース75およびネットワークアダプター76は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0076】
(動作)
次に、本実施形態に係る移動体間通信システム1の動作について
図9のフローチャートに沿って説明する。なお、
図9の動作は一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0077】
図9において、まず、送受光装置10は、制御装置50の制御に応じて、通信対象を含む範囲に向けて広域的に送光する(ステップS11)。なお、ステップS11において、送受光装置10は、送信側の移動体の位置情報や速度情報、受光器の位置等の情報を送信光に含ませた信号光を広域的に送光する。
【0078】
次に、送受光装置10は、通信対象から信号光を受光する(ステップS12)。なお、ステップS12において、送受光装置10は、送信光に含まれる送信側の移動体の位置情報や速度情報、受光器の位置等に基づいて通信対象側から送信された信号光を受光する。
【0079】
次に、制御装置50は、通信対象から受光した信号光に基づいて、通信対象との相対的な位置関係を計算し、通信対象に向けて信号光が送光されるように送受光装置10を制御する(ステップS13)。
【0080】
そして、送受光装置10は、制御装置50の制御に応じて、通信対象に向けて選択的に信号光を送光する(ステップS14)。
【0081】
以上のように、本実施形態に係る移動体間通信システムによれば、通信対象に投射する信号光の照射形状や照射範囲、送光方向を動的に変更することによって、送受光の位置合わせを容易にし、様々な方向や距離、対象の移動速度に合わせて信号光を送光できる。そのため、通信対象との相対的な位置関係を正確に把握できていない場合であっても、他の移動体との通信を継続できる。すなわち、本実施形態に係る移動体間通信システムによれば、通信対象との相対的な位置関係を正確に把握できていなくても、通信対象と確実に通信し合うことができる。
【0082】
〔変形例〕
ここで、本実施形態に係る移動体間通信システムによる信号光の照射に関する変形例について説明する。
【0083】
図10は、移動体Aと移動体Bとの距離に応じて信号光の照射範囲を変更する例である。
【0084】
移動体Aと移動体Bとの距離が遠距離(
図10の上段の場面A)のときは、移動体Aに対する移動体Bの相対的な位置が少し変わっただけで、移動体Aから送光した信号光が移動体Bの受光器から外れやすい。移動体Aと移動体Bとの距離が中距離(
図10の中段の場面B)のときは、遠距離の場合と比較すれば、移動体Aから送光した信号光は移動体Bの受光器から外れにくい。移動体Aと移動体Bとの距離が近距離(
図10の下段の場面C)のときは、遠距離および中距離の場合と比較して、移動体Aから送光した信号光は移動体Bの受光器から外れにくくなる。
【0085】
そのため、遠距離(場面A)では信号光の照射範囲を大きくし、中距離(場面B)、近距離(場面C)と距離が近くなるにつれて信号光の照射範囲を小さくすることによって、信号光の送受光の確度を一定に保つことができる。なお、次第に移動体間の距離が離れていく場合は、移動体間の距離が離れるにつれて信号光の照射範囲を大きくしていけばよい。
【0086】
図10の変形例は、前方を走行中の車との相対的な位置が次第に変化する状況に好適である。
【0087】
図11は、移動体Aと移動体Bとの相互の移動方向によって信号光の照射形状を変更する例である。
【0088】
移動体Aと移動体Bとの進行方向が互いに平行な場合(
図11の上段の場面A)は、移動体Bの進行方向に沿うように信号光の照射形状を細長くする。このとき、移動体Aは、自身の進行方向に沿って細長い信号光を送光する。
【0089】
また、移動体Aと移動体Bとの進行方向が互いに垂直な場合(
図11の下段の場面B)は、移動体Bの進行方向に沿うように信号光の照射形状を細長くする。このとき、移動体Aは、自身の進行方向に対して垂直な方向に細長い信号光を送光する。
【0090】
図11の変形例によれば、通信対象に対する信号光の照射面積が増えるので、特に探索モードで好適である。
【0091】
走行中においては、同一方向に進行する移動体間での通信の頻度が多くなる。そのため、場面Aのような信号光を投射する機会が多くなる。一方、交差点の先頭で信号待ちをしているような状況では、直交する道路を進行する移動体との間で通信し合う機会が増える。このような場合は、場面Bのような信号光を投射する機会が多くなる。また、通信対象が自分に対して弧を描くように移動している場合は、円弧状の信号光を送光するようにしてもよい。
【0092】
図12は、通信対象との相対的な速度差に応じて信号光の照射範囲を変化させる例である。
【0093】
移動体Aと移動体Bとの相対的な速度差が小さい(
図12の上段の場面A)場合、互いの位置関係の変化が小さいので、移動体Aは小さいスポットの信号光を送光すればよい。
【0094】
一方、移動体Aと移動体Bとの相対的な速度差が大きい(
図12の下段の場面B)場合、互いの位置関係の変化が大きく、移動体Bに信号光を追従させるのが難しくなるので、移動体Aは大きい信号光を送光すればよい。
【0095】
図12の変形例によれば、単純な移動速度ではなく、移動体間の相対的な速度関係に基づいて信号光の照射範囲や照射形状を変化させるので、通信対象に対してより確実に信号光を送光できる。
【0096】
本実施形態の移動体間通信システムによれば、
図10〜
図12のように、移動体間の相対的な位置関係や移動状況に合わせて送光する信号光の照射形状を変化させることによって、通信対象と確実に通信し合うことが実現される。
【0097】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る移動体間通信システムについて説明する。本実施形態の移動体間通信システムは、第1の実施形態とは送受光装置の構成が異なる。以下においては、第1の実施形態と同様の構成や機能については説明を省略する。なお、本実施形態においては、光学系の具体的な構成についても説明する。
【0098】
図13は、本実施形態の送受光装置10−2の構成を示すブロック図である。送受光装置10−2は、第1の実施形態に係る送受光設定部13の構成を具体化した送受光設定部13−2を有する。以下においては、送受光設定部13−2の構成・機能について詳細に説明する。
【0099】
送受光設定部13−2は、空間光変調素子31と、変調素子駆動部32とを含む。
【0100】
空間光変調素子31は、制御装置50の制御に応じて、送光される信号光に対応するパターンを自身の表示部に表示する。本実施形態においては、空間光変調素子31の表示部に所定のパターンが表示された状態で、光源21からその表示部に平行光を照射する。空間光変調素子31は、照射された平行光の変調光を光学系14に向けて反射する。
【0101】
空間光変調素子31は、シリコン基板などの基板上に形成させたアドレス回路の最上層にアルミニウムなどの電極によって画素を形成し、各画素の電位を独立して制御できるマトリックス回路を有する。空間光変調素子31は、透明電極を配したガラスなどの透明基板とマトリックス回路との間に液晶材料を介在させて配置した構造を有する。マトリックス回路の各画素の電圧を独立して制御すると、各画素上の液晶分子の状態が変化することによって屈折率の差が発生し、入射光の位相を変化させることができる。
【0102】
空間光変調素子31は、位相がそろったコヒーレントな平行光の入射を受け、入射された平行光の位相を変調する位相変調型の空間光変調素子によって実現できる。そのため、光源21は、レーザ光を出射する光源とすることが好ましい。位相変調型の空間光変調素子31は、フォーカスフリーであるため、複数の投射距離に光を投射することになっても、距離ごとに焦点を変える必要がない。なお、空間光変調素子31は、位相変調型とは異なる方式の素子であってもよいが、以下においては、位相変調型の素子であるものとして説明する。
【0103】
空間光変調素子31は、例えば、強誘電性液晶やホモジーニアス液晶、垂直配向液晶などを用いた素子によって実現される。空間光変調素子31は、具体的には、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)によって実現できる。また、空間光変調素子31は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)によって実現してもよい。
【0104】
位相変調型の空間光変調素子31を用いれば、信号光を送光する領域を順次切り替えるように動作させることによって、エネルギーを表示情報の部分に集中することができる。そのため、位相変調型の空間光変調素子31によれば、光源21の出力が同じであれば、表示領域全面に光を投射する方式のものよりも表示情報を明るく表示させることができる。
【0105】
変調素子駆動部32については、
図14を用いて詳細に説明する。
図14のように、変調素子駆動部32は、受信回路321、フレームメモリ322、タイミング生成回路323および変換回路324を有する。
【0106】
受信回路321は、空間光変調素子31の表示部に表示させる位相分布を入出力回路11から取得する。例えば、受信回路321は、位相分布をDVI(Digital Visual Interface)信号として受信する。受信回路321は、取得した位相画像をフレームメモリ322に格納する。なお、空間光変調素子31の表示部に表示させる位相分布は、制御装置50の記憶回路54に記憶させておけばよい。
【0107】
フレームメモリ322は、空間光変調素子31の表示部に表示させる位相分布を格納する。また、フレームメモリ322は、変換回路324の変換処理のタイミングに合わせて位相分布を出力する。
【0108】
タイミング生成回路323は、位相分布の取得や、フレームメモリ322に格納された位相分布をデジタル信号からアナログ信号に変換するタイミングを生成する。
【0109】
変換回路324は、タイミング生成回路323の生成したタイミングに基づいて、フレームメモリ322から位相分布を読み出し、読み出した位相分布をアナログ信号に変換し、空間光変調素子31に出力する。
【0110】
制御装置50によって、空間光変調素子31の表示部に位相分布を表示させるタイミングと、光源21を駆動させて光を出射するタイミングとを合わせることによって、任意の通信対象に向けて任意の照射形状や照射範囲の信号光を送光できる。
【0111】
図15は、本実施形態の移動体間通信システムの送受光装置10−2に含まれる光学系14の構成を示す概念図である。光学系14は、空間光変調素子31の変調光を信号光として投射するための構成である。また、光学系14は、任意の対象からの通信光を空間光変調素子31に受光させるための構成でもある。
【0112】
図15のように、光学系14は、コリメータ41、フーリエ変換レンズ43および投射レンズ45を有する。空間光変調素子31の変調光は、光学系14によって信号光として送光される。なお、信号光を投射することができれば光学系14の構成要素のうちいずれかを省略してもよいし、何らかの構成が必要であれば必要な構成を追加してもよい。
【0113】
コリメータ41は、送受光装置20の光源21から出射された光を平行光にする。
【0114】
フーリエ変換レンズ43は、空間光変調素子31の表示部で反射された変調光を無限遠に投射した際に形成される像を、投射レンズ45や空間光変調素子31の位置や近傍に結像させるための光学レンズである。
【0115】
投射レンズ45は、フーリエ変換レンズ43によって集束された光を拡大して投射する光学レンズである。投射レンズ45は、空間光変調素子31に表示させた位相分布に対応する信号光が送光先の位置で形成されるように送光する。なお、投射レンズ45がなくても所望の通信光を通信対象に送光できるのであれば、投射レンズ45を省略してもよい。
【0116】
また、フーリエ変換レンズ43と投射レンズ45との間にアパーチャを配置させてもよい。アパーチャを配置する場合、フーリエ変換レンズ43の焦点位置にアパーチャを配置すればよい。アパーチャは、フーリエ変換レンズ43によって集束された光に含まれる高次光を遮蔽し、表示領域を特定する機能を有する。例えば、表示領域の最外周よりも小さくアパーチャを開口させ、アパーチャの位置における表示情報の周辺領域を遮るように設置すればよい。例えば、アパーチャの開口部は、矩形状や円形状に形成される。アパーチャは、フーリエ変換レンズ43の焦点位置に設置されることが好ましいが、高次光を消去する機能を発揮できれば焦点位置からずれていても構わない。
【0117】
単純な記号などの線画を投射する用途に用いる場合、光学系14から送光された信号光は、通信対象に対して均一に送光されるのではなく、表示情報を構成する文字や記号、枠などの部分に集中的に投射される。そのため、光源21を駆動する光源駆動部22を低出力にでき、全体的な消費電力を低減できる。
【0118】
図16は、本実施形態の移動体間通信システムの送受光装置10−2の送光に関する概念図である。
図17は、本実施形態の移動体間通信システムの送受光装置10−2の受光に関する概念図である。なお、
図16および
図17において、光の進行方向を示す矢印は構成要素間の光の伝導を概念化したものであり、実際の進行方向を示すものではない。
【0119】
図16は、送受光装置10−2の送光に関する概念図である。送光時、送受光装置10−2は、光源21から出射した光を空間光変調素子31によって出射光に変換し、光学系14を介して形成される信号光を送光する。本実施形態においては、光源21にレーザ光源を用いることが好ましい。
【0120】
図17は、送受光装置10−2の受光に関する概念図である。受光時、制御装置50は、空間光変調素子31を制御することによって、光学系14を介して導入された通信対象の光を受光器23に導く。また、制御装置50は、空間光変調素子31を制御することによって、非通信対象からの信号光を受光器23から外すように制御する。
【0121】
ここで、本実施形態の移動体間通信システムによる送光に関する特徴を図面を用いて説明する。
図18は、本実施形態の移動体間通信システムによる送光および受光の一例を示す概念図である。
【0122】
図18において、広域的送光を行う探索モード(
図18の上段の場面A)において、移動体間通信システムは、通信対象101を含む範囲に向けて広域的に信号光を送光する。広域的送光において、本システムは、送光時刻や位置情報、速度情報、運転情報、受光器の位置などの情報を含む信号光を通信対象101に向けて広域的に送光する。
【0123】
この探索モードにおける広域的送光に対して、通信対象101は、本システムを搭載する移動体に向けて応答する(
図18の中段の場面B)。このとき、通信対象101は、本システムを搭載する移動体に向けて、通信対象101からの送光時刻や位置情報、速度情報、運転情報、受光器の位置などの情報を含む信号光を送光する。本システムは、通信対象101からの信号光によって、通信対象101の情報を取得する。なお、通信対象101は、本システムを搭載する移動体に対する応答を示す信号光を広域的に送光してもよいし、選択的に送光してもよい。
【0124】
選択的送光を行う追従モード(
図18の下段の場面C)において、本システムは、通信対象の受光部に向けて選択的に信号光を送光し、通信対象と互いに通信し合う環境を整える。
【0125】
また、本実施形態の移動体間通信システムによれば、非通信対象を含む複数の対象が存在する状況下で、通信対象のみと通信し合う選択受光が実現される。
図19は、本実施形態の移動体間通信システムの選択受光について説明するための概念図である。
図19の例においては、広域的送光において、通信対象101と非通信対象102とを含む範囲に向けて信号光を投射する。
【0126】
図19のように、通信対象101および非通信対象102を含む範囲に、本システムから信号光を広域的送光する(
図19の上段の場面A)。このとき、通信対象101および非通信対象102に本システムからの信号光が受光される。
【0127】
通信対象101および非通信対象102は、それぞれ本システムに対して応答を示す信号光を送信する。なお、広域的な送光の段階では、本システムは、通信対象101および非通信対象102からの信号光をともに受光し、通信対象101からの信号光を選択的に受光する環境を整える。通信対象101および非通信対象102からの信号光には、それぞれの対象に関するIDが含まれる。本システムは、信号光に含まれるIDによって通信対象101を特定し、通信対象101からの信号光を受光する(
図19の下段左の場面B)ように空間光変調素子31を制御する。また、本システムは、信号光に含まれるIDによって通信対象101を特定し、非通信対象102からの信号光を受光しない(
図19の下段右の場面C)ように空間光変調素子31を制御する。
【0128】
例えば、本システムは、広域的な送光の段階で、非通信対象102からの信号光が空間光変調素子の表示部に入射する位置を特定できる。そのため、本システムは、非通信対象102からの信号光が空間光変調素子の表示部に入射する位置に、信号光を受光器から外れるように導光する表示パターンを表示させることによって、非通信対象102からの信号光を受光しないように制御できる。その結果、本システムには、通信対象101からの信号光を選択的に受光する環境が整う。なお、本システムが通信対象101からの信号光を選択的に受光する環境を整える方法は、ここで挙げた方法に限定しない。
【0129】
以上のように、本実施形態に係る移動体間通信システムによれば、空間光変調素子を用いて送受光設定することによって、機械的な動作部を設けずに、任意の照射形状や照射範囲の信号光を任意の方向に向けて送光することができる。また、本実施形態に係る移動体間通信システムによれば、通信対象からの信号光のみを受光する選択受光が実現されるため、複数の対象からの送受光が干渉し合うことが防止され、目的とする通信対象と確実に通信し合うことができる。
【0130】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る移動体間通信システムについて説明する。本実施形態に係る移動体間通信システムは、第1および第2の実施形態に係る移動体間通信システムの制御装置に対象追従回路を追加した構成を有する。以下においては、第1および第2の実施形態と同様の構成や機能については説明を省略する。
【0131】
図20のように、本実施形態の移動体間通信システムは、対象追従回路61を含む制御装置50−3を備える。
【0132】
対象追従回路61は、追従モードにおいて、状況に応じて送光する信号光の照射形状を変えることで通信対象に追従し、通信対象が受光しやすいように信号光の照射形状を動的に変えることによって、通信対象の様々な移動方向や速度に対応する。例えば、追従モードにおいて通信対象との通信が突然途絶えた場合、対象追従回路61は、信号光の照射形状や照射範囲を変化させて通信対象との通信を再構築させればよい。また、追従モードにおいて通信対象との通信が再構築できない場合、対象追従回路61は、探索モードに立ち戻って通信対象を探索すればよい。
【0133】
ここで、
図21に、追従モードにおいて通信対象との通信が途絶えた場合に対応する動作を含むフローチャートを示す。なお、以下の説明においては、第2の実施形態の送受光装置10−2を用いて説明する。
【0134】
図21において、まず、送受光装置10−2は、通信対象を含むと推定される範囲に向けて広域的に信号光を送光する(ステップS31)。
【0135】
通信対象から応答がない場合(ステップS32でNo)、送受光装置10−2は、信号光の送光方向を変更し(ステップS33)、ステップS31に戻る。
【0136】
一方、通信対象から応答があった場合(ステップS32でYes)、制御装置50−3は、通信対象との相対的な位置関係を計算する(ステップS34)。
【0137】
そして、送受光装置10−2は、通信対象に向けて選択的に信号光を送光する(ステップS35)。
【0138】
ここで、通信対象を追従している場合(ステップS36でYes)、通信を継続するのであれば(ステップS37でYes)ステップS35に戻り、通信を終了するのであれば(ステップS37でNo)、
図21のフローチャートに沿った処理を終了する。
【0139】
一方、通信対象を追従できなくなった場合(ステップS36でNo)、ステップS31に戻って探索モードを実行する。
【0140】
以上のように、本実施形態に係る移動体通信システムによれば、通信対象との通信が途絶えた場合であっても、探索モードに立ち返って通信対象と再通信する環境を構築できる。また、本実施形態によれば、通信対象に追従させて信号光の照射形状や照射範囲を動的に変化させることによって、より確実に通信対象との通信環境を維持することができる。
【0141】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る移動体間通信システムについて説明する。本実施形態に係る移動体間通信システムは、第1および第2の実施形態に係る移動体間通信システムの制御装置に対象選択回路を追加した構成を有する。なお、第3の実施形態に係る移動体間通信システムに対象選択回路を追加してもよい。以下においては、第1および第2の実施形態と同様の構成や機能については説明を省略する。
【0142】
図22のように、本実施形態の移動体間通信システムは、対象選択回路62を含む制御装置50−4を備える。対象選択回路62は、複数の対象から信号光を受信する環境において、通信対象との通信環境を選択的に構築するように制御する回路である。
【0143】
〔選択受光〕
図23は、本実施形態の移動体間通信システムが通信対象からの信号光を選択的に受光する一例を示す概念図である。
【0144】
図23の左の枠内は、本システムが、複数の対象(対象A、B、C)から信号光を受光した状態である。なお、
図23の例では、通信環境を構築すべき対象は対象Aである。
【0145】
対象選択回路62は、複数の対象から受光した信号に含まれるIDを解析し、通信対象のIDを含む信号を選択し、その信号の送信先である対象Aからの信号光を受光することを示す指示信号を送光位置設定回路58に出力する。一方で、非通信対象のIDを含む信号を選択し、その信号の送信先である対象Bおよび対象Cからの信号光を受光しないことを示す指示信号を送光位置設定回路58に出力する。
【0146】
送光位置設定回路58は、対象選択回路62からの指示信号に応じて、信号光の送光位置を設定する。すなわち、対象Aからの信号光は、送受光装置20に導かれる(
図23の右側上段の場面A)。一方、対象Bおよび対象Cからの信号光は、送受光装置20から外れるように導かれる(
図23の右側中段の場面Bおよび右側下段の場面C)。その結果、本実施形態に係る移動体間通信システムは、通信対象である対象Aからの信号光を選択的に受光する。
【0147】
ここで、
図24に、複数の対象から信号光を受信する環境下において、通信対象との通信環境を選択的に構築する動作を含むフローチャートを示す。なお、以下の説明においては、第2の実施形態の送受光装置10−2と本実施形態の制御装置50−4とを主体として説明する。
【0148】
図24において、まず、送受光装置10−2は、複数の対象からの通信要求を含む信号光を受光する(ステップS411)。
【0149】
非通信対象からの要求を含む場合(ステップS412でYes)、制御装置50−4は、信号光の送光方向を非通信対象からずらす制御条件を生成する(ステップS413)。
【0150】
一方、非通信対象からの要求を含まない場合(ステップS412でNo)、ステップS414に進む。
【0151】
通信対象からの要求を含む場合(ステップS414でYes)、制御装置50−4は、信号光の送光方向を通信対象に向けて選択的に送光する制御条件を生成する(ステップS415)。
【0152】
一方、通信対象からの要求を含まない場合(ステップS414でNo)、
図24のフローチャートに沿った処理を終了とする。
【0153】
送受光装置10−2は、制御装置50−4が生成した制御条件に基づいて、通信対象に向けて選択的に送光する(ステップS416)。
【0154】
通信を継続する場合(ステップS417でYes)、ステップS416の処理を継続する。通信を終了する場合(ステップS417でNo)、
図24のフローチャートに沿った処理を終了とする。
【0155】
〔時分割〕
また、本実施形態の移動体間通信システムは、
図25のように、複数の通信対象のうち時間によって通信対象を切り替える時分割処理を可能とする。
図25は、本実施形態の移動体間通信システムが複数の通信対象から干渉なしに受光する一例を示す概念図である。
【0156】
図25の上段のように、対象Aが通信対象の期間、制御装置50−4は、対象Aからの信号光の受光を許可し、対象Bおよび対象Cからの信号光の受光を拒否する。また、
図25の中段のように、対象Bが通信対象の期間、制御装置50−4は、対象Bからの信号光の受光を許可し、対象Aおよび対象Cからの信号光の受光を拒否する。同様に、
図25の下段のように、対象Cが通信対象の期間、制御装置50−4は、対象Cからの信号光の受光を許可し、対象Aおよび対象Bからの信号光の受光を拒否する。
【0157】
図25のような処理によって、本実施形態の移動体間通信システムは、複数の通信対象との間で干渉なく通信し合う環境を構築できる。
【0158】
ここで、
図26に、複数の通信対象との間で干渉なく通信し合う環境を構築する動作を含むフローチャートを示す。なお、以下の説明においては、第2の実施形態の送受光装置10−2と本実施形態の制御装置50−4とを主体として説明する。
【0159】
図26において、まず、送受光装置10−2は、複数の対象からの通信要求を受光する(ステップS421)。
図26の例では、全ての対象が通信対象に該当するものとする。
【0160】
制御装置50−4は、複数の通信対象の中からいずれかの通信対象を選択する(ステップS422)。通信対象の選択は、通信対象との通信の至急度や優先度などの設定に従って行われればよい。
【0161】
制御装置50−4は、この期間において通信を許可する通信対象に送光方向を向ける制御条件を生成する(ステップS423)。
【0162】
送受光装置10−2は、制御装置50−4が生成した制御条件に基づいて、この期間において通信許可する通信対象に向けて信号光を選択的に送光する(ステップS424)。
【0163】
現在の通信対象との通信を継続する場合(ステップS425でYes)、ステップS424の処理を継続する。
【0164】
一方、現在の通信対象との通信を終了する場合(ステップS425でNo)、通信を継続する場合(ステップS426でYes)は、ステップS422に戻って通信対象を選択し直す。また、通信を終了する場合(ステップS426でNo)、
図26のフローチャートに沿った処理を終了とする。
【0165】
〔空間分割〕
複数の通信対象に信号光を送光する場合、
図25のような時分割ではなく、
図27のように空間分割の手法を選択してもよい。
【0166】
図27の例では、広域的送光(
図27の上段左の場面A)、応答受光(
図27の上段中央の場面B)までは、
図23や
図25と同様である。異なる点は、複数の通信対象から信号光を受光して各通信対象の情報を取得し、各通信対象に向けた信号光を方向制御によって一度に選択的送光(
図27の上段右の場面C)する点である。このような制御は、位相変調型の空間光変調素子を用いた送受光装置によれば、機械的に動作する機構なしに実現できる。選択的送光においては、状況に応じて、
図27の下段の場面Dのように信号光の照射形状を変化させてもよい。
【0167】
図27のように、本実施形態によれば、複数の通信対象に対して信号光をマルチキャストすることができる。例えば、複数の通信対象に対して、一度に緊急情報を含む信号光を一方的に送信する場面では、マルチキャストが有効である。
【0168】
ここで、
図28に、複数の通信対象に対してマルチキャストを実現する動作を含むフローチャートを示す。なお、以下の説明においては、第2の実施形態の送受光装置10−2と本実施形態の制御装置50−4とを主体として説明する。
【0169】
図28において、まず、送受光装置10−2は、通信対象を含むと推定される範囲に向けて広域的に信号光を送光する(ステップS431)。
【0170】
通信対象から応答がない場合(ステップS432でNo)、ステップS435に進む。
【0171】
一方、通信対象から応答があった場合(ステップS432でYes)、制御装置50−4は、この期間において、複数の通信対象に送光方向を向ける制御条件を生成する(ステップS433)。なお、非通信対象が存在する場合、制御装置50−4は、非通信対象から送光方向をずらす制御を合わせて行ってもよい。
【0172】
送受光装置10−2は、制御装置50−4が生成した制御条件に基づいて、複数の通信対象に向けて選択的に送光する(ステップS434)。
【0173】
マルチキャストを継続する場合(ステップS435でYes)、ステップS431に戻る。一方、マルチキャストを終了する場合(ステップS435でNo)、
図28のフローチャートに沿った処理を終了する。
【0174】
本実施形態においては、位相変調型の空間光変調素子を用いて信号光の送光方向および受光方向を制御するため、非通信対象からの信号光は受光器とは異なる方向に回折される。そのため、本実施形態によれば、信号光の受信側で対象を特定し、通信対象との間で通信環境を構築することによって信号光が干渉することを防止できる。
【0175】
一般に、複数の移動体と光を用いて通信を行う場合、他の移動体の投射光により干渉を受けて通信を行うことができなくなる場合がある。この問題を解決するためには、時分割で多重化する方法がある。時分割で多重化する方法では、一定時間ごとに通信対象を切り替えて順番に通信を行えばよい。しかし、本実施形態の手法を用いずに時分割で多重化する方法は、複数の移動体間で相互に通信し合える環境を全ての移動体間で共有させて構築・制御する必要があるため、不特定多数の移動体が存在する通信環境に適用することは困難である。
【0176】
本実施形態においては、通信対象および非通信対象から受光する光の回折方向を受信側で制御することによって、空間多重と時間多重とを組み合わせた制御を可能とする。その結果、本実施形態によれば、複数の対象間において信号光が干渉し合うことを防止できる。また、本実施形態によれば、空間分割して信号光を送光することによって、複数の通信対象に対して一斉に信号光を送信するマルチキャストを実現できる。
【0177】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
〔付記〕
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
広域的信号光を送光する第1のモードと、前記第1のモードにおいて送光した前記広域的信号光に対する応答信号光に応じて通信対象に向けて選択的信号光を送光する第2のモードとを切り替える制御をするとともに、前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する制御をする制御装置と、
前記制御装置の制御に応じて、前記第1のモードにおいて前記広域的信号光を送光し、前記第2のモードにおいて前記通信対象に向けて前記選択的信号光を送光し、前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する送受光装置とを備える移動体間通信システム。
(付記2)
前記送受光装置は、
光源と、受光器と、位相変調型の空間光変調素子とを含み、前記光源からの出射光を前記空間光変調素子の表示部によって反射させた光によって形成される前記広域的信号光および前記選択的信号光を送光するとともに、前記通信対象からの前記応答信号光を前記空間光変調素子の表示部によって反射させて前記受光器に向けて選択的に受光し、
前記制御装置は、
前記空間光変調素子の表示部に表示されるパターンを制御することによって送光する前記広域的信号光および前記選択的信号光の照射形状および送光方向を設定するとともに、前記受光器が受光する前記応答信号光を選択する付記1に記載の移動体間通信システム。
(付記3)
前記制御装置は、
前記通信対象との距離に応じて送光する前記広域的信号光および前記選択的信号光の照射形状を変化させる制御をし、
前記送受光装置は、
前記制御装置の制御に応じた照射形状の前記広域的信号光および前記選択的信号光を送光する付記1または2に記載の移動体間通信システム。
(付記4)
前記制御装置は、
前記通信対象の移動方向に合わせて送光する前記広域的信号光および前記選択的信号光の照射形状を変化させる制御をし、
前記送受光装置は、
前記制御装置の制御に応じた照射形状の前記広域的信号光および前記選択的信号光を送光する付記1乃至3のいずれか一項に記載の移動体間通信システム。
(付記5)
前記制御装置は、
前記通信対象との相対的な速度差に応じて送光する前記広域的信号光および前記選択的信号光の照射形状を変化させる制御をし、
前記送受光装置は、
前記制御装置の制御に応じた照射形状の前記広域的信号光および前記選択的信号光を送光する付記1乃至4のいずれか一項に記載の移動体間通信システム。
(付記6)
前記制御装置は、
前記第2のモードによって通信中の前記通信対象からの前記応答信号光を追従できなくなった場合、前記第1のモードによって前記通信対象を探索する付記1乃至5のいずれか一項に記載の移動体間通信システム。
(付記7)
前記制御装置は、
前記通信対象からの前記応答信号光を前記受光器に向けて導き、非通信対象からの前記応答信号光を前記受光器から外れるように導くように制御する付記2乃至6のいずれか一項に記載の移動体間通信システム。
(付記8)
前記制御装置は、
複数の対象から前記応答信号光を受光した際に、前記通信対象からの前記応答信号光を前記受光器に向けて導き、前記非通信対象からの前記応答信号光を前記受光器から外れるように導くように制御する付記7に記載の移動体間通信システム。
(付記9)
前記制御装置は、
複数の前記通信対象と通信し合う際に、複数の前記通信対象のうちいずれかの前記通信対象を選択する期間において、選択した前記通信対象からの前記応答信号光を前記受光器に導いて通信を許可し、通信を許可していない前記通信対象からの前記応答信号光を前記受光器から外れるように導いて拒否することによって通信を許可する前記通信対象を任意のタイミングで切り替える付記7または8に記載の移動体間通信システム。
(付記10)
前記制御装置は、
複数の前記通信対象に前記選択的信号光を送光する際に、複数の前記通信対象のそれぞれに向けて前記選択的信号光を送光する制御をする付記7乃至9のいずれか一項に記載の移動体間通信システム。
(付記11)
広域的信号光を送光する第1のモードと、前記第1のモードにおいて送光した前記広域的信号光に対する応答信号光に応じて通信対象に向けて選択的信号光を送光する第2のモードとを切り替える制御をし、
前記第1のモードにおいて前記広域的信号光を送光し、
前記第2のモードにおいて前記通信対象に向けて前記選択的信号光を送光し、
前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する移動体間通信方法。
(付記12)
広域的信号光を送光する第1のモードと、前記第1のモードにおいて送光した前記広域的信号光に対する応答信号光に応じて通信対象に向けて選択的信号光を送光する第2のモードとを切り替える制御をする処理と、
前記第1のモードにおいて前記広域的信号光を送光する処理と、
前記第2のモードにおいて前記通信対象に向けて前記選択的信号光を送光する処理と、
前記通信対象からの前記応答信号光を選択的に受光する処理とをコンピュータに実行させる移動体間通信プログラムを記録するプログラム記録媒体。
【0178】
この出願は、2016年3月29日に出願された日本出願特願2016−65876を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。