(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0036】
<<< §1. 車載型の照明装置の特徴 >>>
本発明に係る照明装置は、特定の被照明領域を照明する役割をもった装置であり、特に、路面上に所望の照明パターンを形成する機能をもった車載型の照明装置などへの用途に適している。このような用途では、照明光の光軸と被照明平面とのなす角が非常に小さくなるために照明パターンが不鮮明になりやすく、また、歩行者等への安全対策も必要になる。本発明に係る照明装置では、このような用途においても、被照明領域上に鮮明な照明パターンを形成するとともに、必要な安全対策を施すことが可能になる。
【0037】
そこで、この§1では、本発明の典型的な適用例として、路面上に所望の照明パターンを形成するための車載型の照明装置の特徴を簡単に述べ、続く§2〜§4では、本発明を車載型の照明装置に適用した基本的な実施形態を述べることにする。もっとも、§5で変形例として述べるとおり、本発明に係る照明装置は、必ずしも車載型の照明装置に限定されるものではない。
【0038】
図1は、車載型の照明装置からの照明により、路面10上に被照明領域20を形成した一例を示す運転席からの俯瞰図である。この図は、車両(自動車)前方の路面10を、運転中の運転手から見た状態を示しており、前方の左側には、歩行者30が立っている。図示の例の場合、被照明領域20は、路面10の進行方向を長手方向とする細長い矩形領域を構成しており、その内部には、照明パターンを構成する矢印21〜26が配置されている。具体的には、6つの矢印21〜26はいずれも直進方向を示している。
【0039】
図示の例は、車両のナビゲーションシステムに連動した照明態様を示しており、矢印21〜26からなる照明パターンは、ナビゲーションシステムが、運転手に対して次の交差点を直進する旨の誘導を行う際に、路面上に現れる補助表示として機能する。この例の場合、矢印21〜26の内部は高輝度で照明されており、被照明領域20の内部かつ矢印21〜26の外部は低輝度で照明されている。したがって、運転手から見ると、路面10上にうっすらと細長い矩形からなる被照明領域20が確認でき、その内部により明るい6つの矢印21〜26が確認できる。運転手は、この矢印による照明パターンにより、次の交差点を直進すべきことを認識できる。
【0040】
一般に夜間であれば、路面10上の照明パターンは認識しやすいが、昼間の場合は、ある程度高い輝度で照明パターンが表示されるように、十分な照明強度を確保する必要がある。後述するように、本発明に係る照明装置では、レーザ光のようなコヒーレント光を放射する光源が用いられているため、十分な照明強度を確保することが可能である。但し、照明装置からの照明光は、歩行者30や対向車の運転手の目にも入るため、目に障害を及ぼすほどの照明強度は避ける必要がある。後述するように、本発明に係る照明装置では、コヒーレント光源から放射された光ビームは、コリメート光学系によってビーム径が拡大された上でコリメートされるため、光ビームのエネルギー密度が低減し、観察者の目を保護するための安全対策を施すことが可能になる。
【0041】
また、一般的な車載型の照明装置は、前掲の特許文献3などにも開示されているが、照明光の光軸と被照明平面(図示の例の場合、路面10)とのなす角が非常に小さくなるため、形成される照明パターンが不鮮明になりやすい。本発明に係る照明装置は、このような問題に対処する機能も備えている。
【0042】
図2は、車載型の照明装置100からの照明により、路面10上に被照明領域20(太線部分)を形成した一例を示す側面図である。この例では、車両(自動車)40は、路面10上を図の左から右へ向けて進行している。図示のとおり、車両40の前方には、本発明に係る照明装置100が取り付けられており、光軸Cに沿って路面10の前方が照明されている。ここに示す実施例における照明装置100は、ヘッドライト等とは別の装置であり、路面10上の所定の被照明領域20を照明して、所定の照明パターンを提示する役割を果たす。たとえば、
図1の例の場合は、矩形状の被照明領域20を照明することにより、6つの矢印21〜26からなる照明パターンが提示されている。もちろん、必要があれば、照明装置100をヘッドライトとして用いることも可能である。
【0043】
このように、
図2に示す車載型の照明装置100は、平面からなる路面10上に被照明領域20を形成し、路面10上に車両40の運転手に対して提示すべき情報からなる照明パターン(被照明領域20内に投影されるパターン)を表示させる機能を有している。
【0044】
運転中の運転手は、路面10の進行方向に視線を向けているため、上例のような用途では、路面10上のかなり遠方に被照明領域20を形成する必要がある。たとえば、
図2には、車両40の前方50m先の位置に、長手方向が10mにわたる被照明領域20(太線部分)を形成した例が示されている。このような位置に被照明領域20を形成するには、照明装置100の設置高さを75cmとすると、光軸Cと路面10とのなす角θ(被照明平面に対する照射角)は、0.7°程度になる。
図2では、便宜上、θの大きさをデフォルメして描いているが、実際には、光軸Cと路面10とのなす角度は極めて小さい。
【0045】
図3は、一般的なプロジェクタによる投影形態を示す側面図である。プロジェクタ50からの投影光によって、スクリーン60上に投影像が形成される。図示の例は、スクリーン60の投影面(被照明平面)とプロジェクタ50の光軸とのなす角θを90°に設定した例である。もちろん、スクリーン60を上下左右にずらして配置した場合、照射角θは90°より小さくなるが、それでも大幅に小さくなるような使用態様は稀である。このように、一般的なプロジェクタでは、照射角θが上例のように0.7°程度になるような使用形態は想定外であり、一般的なプロジェクタに用いられている照明機構をそのまま車載用の照明装置に転用すると、投影面(被照明平面)上に鮮明な投影像を得ることが困難になる。
【0046】
特に、
図1や
図2に示す例の場合、車両の進行方向を長手方向とする細長い矩形状の被照明領域20上に6つの矢印21〜26を含む照明パターンが形成される。このような用途では、被照明領域20の横幅は数10cm程度で十分であるが、長手方向の寸法は、少なくとも、図示の例のように10m程度が必要になる。このため、手前の矢印21と奥の矢印26との距離も10m程度になり、照明パターンに位置ずれが生じることにより、すべての矢印21〜26を鮮明に表示することが困難になる。実際、特許文献3に開示されている照明装置を用いて、放射光の安全性に配慮してホログラムに入射させるビーム径を拡げた状態で、
図1に例示するような照明パターンを投影したところ、運転手や歩行者30から見ると、路面10上の投影像がボケているように観察される。本発明に係る照明装置100では、後述するように、複数の要素回折光学部を有する回折光学素子が用いられているため、投影像のボケを解消する効果が得られる。
【0047】
このように、本発明に係る照明装置100を用いれば、路面10上に鮮明な投影像を得るとともに、歩行者30等に安全対策を施すことが可能になる。以下、本発明を図示する基本的な実施形態に基づいて説明する。
【0048】
<<< §2. 本発明の基本的な実施形態 >>>
図4は、本発明の基本的な実施形態に係る照明装置100の構成を示す斜視図である。この照明装置100は、
図2に示す例のように、車両40の前方に取り付けて用いられ、路面10上の所定の被照明領域20を照明して、所定の照明パターンを提示する役割を果たす。
【0049】
図示の照明装置100は、自動車のヘッドライト等とは別の装置であるが、ヘッドライトとして利用することも可能であるし、ヘッドライトに組み込んで用いることも可能である。もちろん、この照明装置100は、自動車のテールライトやサーチライトなどの種々の照明灯として利用することも可能であり、これら種々の照明灯に組み込んで用いることも可能であるし、バンパー部などに取り付けて利用してもかまわない。
【0050】
図示のとおり、照明装置100は、光源110と、コリメート光学系120と、回折光学素子130と、を備えている。なお、
図4には示されていないが、このような車載型の照明装置100には、車両40に取り付けるための取付部が設けられており、車両40の前方、後方、側方等に取り付けることにより、車両40から路面10に対して照明を行うことが可能になる。
【0051】
光源110は、コヒーレント光を放射する光源であり、たとえば、レーザ光を放射するレーザ光源を用いることができる。レーザ光源には、半導体レーザやガスレーザなどの種々のタイプがあるが、いずれのタイプのレーザ光源でもよい。
【0052】
コリメート光学系120は、光源110から放射されたコヒーレント光のビーム径を拡大した上で、コリメートする構成要素である。ここで、コリメートとは、光源110から射出されたコヒーレント光を平行化することである。図示の例の場合、コリメート光学系120は、光源110から射出されたコヒーレント光のビーム径を広げる第1レンズ121と、この第1レンズ121を通過した光を平行化する第2レンズ122とを有している。
【0053】
回折光学素子130は、コリメート光学系120によってコリメートされたコヒーレント光を所定の拡散角度空間内に回折させて、予め定めた位置に定義され、かつ、予め定めたサイズおよび形状をもつ被照明領域20を照明する役割を果たす。また、この回折光学素子130によって、被照明領域20の内部に、任意の照明パターンを表示することができる。図には、この回折光学素子130からの回折光によって、矩形状の被照明領域20の内部に、照明パターンの一部をなす矢印21が表示されている状態が示されている。
【0054】
後述するように、回折光学素子130には、回折光によって被照明領域20が照明されるように、ホログラムが形成されている。前述したとおり、被照明領域20は、車両40の進行方向のかなり遠方位置に形成する必要があるため、回折光学素子130によって回折されて被照明領域20を照明する照明光の像は、フラウンホーファ回折像となるようにするのが好ましい。
【0055】
図示の例の場合、コリメート光学系120によって拡幅され、コリメートされたコヒーレント光の光ビームは、平行光として、回折光学素子130の入射面に対して垂直に入射している。もっとも、回折光学素子130の入射面に対する角度は必ずしも90°である必要はなく、斜めから入射させるようにしてもかまわない。ただ、回折光学素子130に対する入射光は、平行光にするのが好ましい。これは、入射光が非平行光であると、回折光学素子と光学系の緻密な位置合わせが必要になり、回折光学素子の設置位置のわずかなずれが意図しない回折角度のずれを生じ、結果として、照明パターンが意図したものより不鮮明になる要因になるためである。
【0056】
本発明に用いる回折光学素子130は、複数の要素回折光学部131を有している。図には、7行10列に配置された70組の要素回折光学部131を有する回折光学素子130が示されている。要するに、
図4に示す実施例に係る回折光学素子130は、所定の配置平面上(この例では、XY平面上)に二次元マトリックス状に配置された複数の要素回折光学部131を有している。後述するように、各要素回折光学部131は、それぞれが被照明領域20の少なくとも一部を照明する機能を有しており、しかも、ここで述べる実施例の場合、各要素回折光学部131の回折特性は互いに異なっている。
【0057】
図示の実施例の場合、各要素回折光学部131の平面寸法は、縦2mm、横2mmとなっており、このような要素回折光学部を7行10列に配置することにより構成される回折光学素子130の寸法は、縦14mm、横20mmになる。もちろん、本発明を実施する上で、各要素回折光学部の面積は限定されることはない。ただ、路面10(被照明平面)に形成される照明パターンをより鮮明にするためには、回折光学素子130をできるだけ細かく分割して各要素回折光学部131を構成するのが好ましい。
【0058】
各要素回折光学部131としては、典型的には、ホログラム素子を用いることができる。この場合、回折光学素子130は、それぞれ固有の回折特性をもったホログラム素子の集合体によって構成できる。回折光学素子130としてホログラム素子を用いると、回折特性を設計しやすくなり、予め定めた位置に定義され、予め定めたサイズおよび形状をもつ被照明領域20の全域を照明するような回折光学素子130の設計も比較的容易に行うことができる。
【0059】
このように、本発明に係る照明装置100によって形成される被照明領域20は、回折光学素子130に対して予め定めた相対位置に定義され、予め定めたサイズおよび形状をもった領域になる。被照明領域20の位置、サイズおよび形状は、回折光学素子130の回折特性に依存しており、回折光学素子130の回折特性を調整することで、被照明領域20の位置、サイズおよび形状を任意に調整でき、被照明領域20内に表示される照明パターンも任意に調整できる。
【0060】
したがって、回折光学素子130を設計する際には、まず被照明領域20の位置、サイズおよび形状、ならびに、被照明領域20内に表示する照明パターンを設定して、設定した被照明領域20の全域を、設定した照明パターンに応じて照明できるように、回折光学素子130の回折特性を調整すればよい。
図1および
図2に示す例は、照明装置100の前方50mの位置に、長さ10m、横幅数10cmのサイズをもった矩形形状の被照明領域20を設定し、その内部に、6つの矢印21〜26を有する照明パターンを設定した例である。後述するように、このような設定に応じた固有の回折特性を有する回折光学素子130(各要素回折光学部131)は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)の技術を用いて、コンピュータにより設計することができる。
【0061】
なお、
図4に示す基本的実施形態に係る照明装置100では、所定の照明パターンを結像するための光学系は用いられておらず、回折光学素子130によって回折された1次回折光によって、所定の照明パターン(図示の例では、矢印21)を有する被照明領域20が形成されている。すなわち、回折光学素子130上の各点における回折光は、所定の拡散角度範囲内を進行して被照明領域20内を照明し、所定の照明パターンを提示することになる。
【0062】
もちろん、回折光学素子130の回折光射出側に、結像系光学素子(レンズなど)を配置して、路面10に所定の照明パターンを結像させるような構成を採ることも可能である。
図3に示す一般的なプロジェクタ50では、通常、スクリーン60上に鮮明な投影像を形成するために、結像系光学素子が利用されている。ただ、一般的なプロジェクタ50では、スクリーン60に対する照射角θが90°近くの値に設定されるのに対して、
図2に示す照明装置100では、照射角θは0.7°程度であるため、結像系光学素子を利用しても、路面10上に結像される照明パターンのボケを効果的に解消することは困難である。
【0063】
したがって、本発明に係る照明装置では、結像系光学素子によって照明パターンを結像させる構成を採ることは、あまり意味がない。もっとも、§5−1で述べる変形例のように、必要に応じて、非結像系の光学素子(たとえば、4f光学系)を配置するようにしてもかまわない。
【0064】
図4に示す実施形態に係る照明装置100の第1の特徴は、コリメート光学系120によってコヒーレント光源110から放射されたコヒーレント光のビーム径が拡大される点である。一般に、レーザ光源などのコヒーレント光源110から放射されたコヒーレント光の光ビームは、断面のエネルギー密度が非常に高く、このような光ビームをそのまま回折させて路面上に照明パターンを形成した場合、歩行者や対向車の運転手の目に損傷を与えるおそれがある。
【0065】
本発明では、コヒーレント光源110から放射されたコヒーレント光のビーム径が拡大されるため、光ビームのエネルギー密度が低減する。このため、照明光を直視した観察者の目を保護する安全対策が施される。要するに、被照明領域20内に表示する照明パターンとして、予め設計された光量を得るのに必要な回折光学素子130上の放射輝度または輝度は、この回折光学素子130に入射されるコリメート光学系120からのコヒーレント光の回折光学素子130上の入射面積をより拡げることにより低減されることになる。
【0066】
そして、
図4に示す実施形態に係る照明装置100の第2の特徴は、回折光学素子130が複数の要素回折光学部131を有し、各要素回折光学部131の回折特性が互いに異なるように設定されている点である。前述した特許文献3に記載されている照明装置では、レーザ光を単一のホログラム素子で回折して照明を行っているため、路面10上に形成された照明パターンは不鮮明になり、観察者の目には、ボケた投影像が観察される。これに対して、本発明に係る照明装置では、後述するように、個々の要素回折光学部131のそれぞれが、所望の被照明平面(路面10)上に所望の照明パターンを別個独立して形成できるように、それぞれ所定の回折角で回折させる機能を果たすため、投影像のボケを防止し、鮮明な照明パターンを形成することが可能になる。
【0067】
なお、
図4に示す本発明に係る照明装置100において、コヒーレント光の取扱いについての安全対策をより向上させる上では、実用上、以下に述べるような工夫を施すのが好ましい。
【0068】
まず、回折光学素子130からの射出光を人間が直視したときに、人間の目を損傷することがないようにする必要がある。前述したように、照明装置100では、光源110と回折光学素子130との間にコリメート光学系120を設けることで、光源110から射出されたコヒーレント光の強度を、人間の目を損傷しにくい程度の強度にまで弱めている。コリメート光学系120は、第1レンズ121にて光源110からのコリメート光のビーム径を拡大させ、第2レンズ122にて第1レンズ121を通過後のコヒーレント光を平行化している。もちろん、平行化の手段は上述した方法に限らず、凹面レンズを用いてもよいし、1枚のレンズで達成してもよい。また3枚以上のレンズ群を用いてもよい。
【0069】
安全対策をより向上させる上では、第2レンズ122を経て回折光学素子130に入射するコヒーレント光のビーム径が、人間の瞳面積よりも大きくなるようにするのが好ましい。すなわち、人間の目の瞳の直径は、最大でも7mm程度であるため、瞳の面積は最大でも約38.5平方mmである。よって、回折光学素子130に入射するコヒーレント光のビーム面積が、38.5平方mm以上になるように、コリメート光学系120内の第1レンズ121と第2レンズ122を設計するのが望ましい。これにより、観察者の瞳に入射する光量は、回折光学素子130から射出する射出光の一部分に制限されるため、観察者の瞳に入射するコヒーレント光の光量を低減することができる。
【0070】
また、指向性拡散板としての回折光学素子130を用いることにより、コヒーレント光が網膜上で一点に集光することを防止することもでき、眼に対する安全性は更に向上する。さらに、位相型フーリエ変換ホログラムとして作成した回折光学素子130を、複数の要素回折光学部131,132,… をタイリングして構成することにより、回折光学素子130の面積を大きく取ることが可能となり、結果として回折光学素子130上の放射照度分布を平均化し弱めることが可能となる。
【0071】
<<< §3. 要素回折光学部の回折特性 >>>
続いて、
図4に示す照明装置100において、回折光学素子130に含まれる個々の要素回折光学部の回折特性について説明する。
図5は、この回折特性を示すための回折光学素子130および被照明領域20の斜視図である。ここでは、説明の便宜上、図示のようなXYZ三次元直交座標系を定義し、図のZ軸正方向を進行方向とする車両に搭載された照明装置100(
図4に示す構成を有するもの)について、回折光学素子130の回折面がXY平面上に位置するものとして、以下の説明を行うことにする。なお、図示の座標系は、Z軸の正方向を車両の進行方向にとったため、一般的なXYZ三次元直交座標系とはZ軸の向きが逆になっている。
【0072】
図3に示すプロジェクタ50の場合、内蔵されている回折光学素子の射出面の法線方向とスクリーン60上の被照明領域の法線方向とが、平行もしくは平行に近くなるように設置するのが一般的である。これに対して、本発明に係る照明装置100は、
図2に示すように、車両に搭載して、路面10の前方を照明するような用途に適しており、この場合、回折光学素子130の射出面の法線方向(
図5の例の場合、Z軸方向)と平面上に設定された被照明領域20の法線方向(
図5の例の場合、Y軸方向)とは、非平行になる。特に、
図2に示す例の場合、両法線のなす角は90°近くになる。このような利用環境では、前述したとおり、被照明領域20上に表示する照明パターンが不鮮明になりやすい。この問題は、回折光学素子130を複数の要素回折光学部によって構成することにより低減させることができる。
【0073】
§2で説明したとおり、回折光学素子130には、7行10列に配置された70組の要素回折光学部が含まれている。ここでは、これらの要素回折光学部のうち、図示された第1の要素回折光学部131と第2の要素回折光学部132とを代表として、これらの回折特性を説明する。また、ここでは、
図4に示す例のように、コリメート光学系120によってコリメートされた光ビームが、平行光として、回折光学素子130の入射面に対して垂直に入射しているものとする。したがって、
図5において、コリメートされた平行光は、Z軸負方向から回折光学素子130の裏面に垂直に入射し、その1次回折光が、Z軸正方向に向かって所定の回折角をもって射出する。
【0074】
前述したとおり、回折光学素子130からの1次回折光は、所定の照明パターン(図示の例では、矢印21)を有する被照明領域20を形成する。換言すれば、回折光学素子130を構成する各要素回折光学部131は、予め定めた所定の位置に、所定サイズおよび所定形状をもった被照明領域20を形成し、当該被照明領域20内に所定の照明パターンが表示されるように、入射した平行光を回折する回折特性を有していることになる。ここでは、説明の便宜上、被照明領域20がXZ平面上に形成されるような設計がなされているものとする。したがって、図示する矢印21も、XZ平面上に形成された照明パターンということになる。
【0075】
図5に一点鎖線で示すように、第1の要素回折光学部131からの1次回折光は、XZ平面上で被照明領域20を照明し、内部に矢印21を有する照明パターンを表示する。同様に、
図5に破線で示すように、第2の要素回折光学部132からの1次回折光は、やはりXZ平面上で被照明領域20を照明し、内部に矢印21を有する照明パターンを表示する。
【0076】
なお、
図5では便宜上、第1の要素回折光学部131の中心位置に代表点P1をとり、第2の要素回折光学部132の中心位置に代表点P2をとり、これら代表点P1,P2から1次回折光が射出するようなイメージが示されているが、実際には、1次回折光は、各要素回折光学部131,132の全面に形成されている干渉縞によって生じることになり、代表点P1,P2のみから射出するわけではない。
【0077】
また、
図5には、2つの要素回折光学部131,132からの1次回折光のみが描かれているが、実際には、回折光学素子130を構成する70組すべての要素回折光学部から1次回折光が射出し、いずれもXZ平面上で被照明領域20を照明し、内部に矢印21を有する照明パターンを表示する。このように、各要素回折光学部は、XZ平面上に同一の被照明領域20を形成することになるが、それぞれ座標空間上での位置が異なるため、被照明領域20を望む角度も異なっている。このため、各要素回折光学部の回折特性も互いに異なっている。
【0078】
このように、本発明で用いる回折光学素子130は、コリメート光学系120でコリメートされたコヒーレント光を所定の拡散角度空間内に回折させて、予め定めた位置に定義され、予め定めたサイズおよび形状をもつ被照明領域20を照明する機能を有している。しかも、この回折光学素子130は、複数の要素回折光学部131,132,... を有し、各要素回折光学部は、それぞれが被照明領域20の少なくとも一部を照明する。また、ここで述べる実施例の場合、各要素回折光学部の回折特性は互いに異なっている。
【0079】
このような構成を採ることにより、所望の被照明領域20上に、ボケを抑制した鮮明な照明パターンを形成することができる。回折光学素子130を複数の要素回折光学部131,132,... によって構成することにより、上記効果が得られる理論的な理由については、本願発明者は、複数の要素回折光学部131,132,... からの回折光によってそれぞれ得られる独立した個別照明パターンの集合体によって被照明領域20が形成され、しかも独立した個別照明パターンが、それぞれ異なる回折特性によって得られたものになっていることにより、個別照明パターン相互の位置ずれが抑制され、その結果、鮮明な投影像が形成されるためと考えている。すなわち、要素回折光学部のそれぞれが、予め定められた三次元空間内の被照明領域20に対して照明パターンのボケを最小にするような個別の回折特性を有しており、個々の要素回折光学部からの回折角度がそれぞれ適切な値に補正されるためと考えられる。
【0080】
図6は、第1の要素回折光学部131から、XZ平面上に定義された各参照点Q1〜Q4に向かう1次回折光L1〜L4を示す斜視図である。上述したとおり、図では便宜上、代表点P1から破線で示す1次回折光L1〜L4が射出するイメージが示されているが、実際には、要素回折光学部131の全面に形成されている干渉縞によって1次回折光が生じる。
【0081】
ここでは、被照明領域20の内部のうち、矢印21の内部は高輝度で照明され、矢印21の外部は低輝度で照明されるものとし、被照明領域20の外部は全く照明されないものとする。したがって、観察者がXZ平面を観察すると、薄明るい矩形状の被照明領域20の内部に、明るい矢印21が認識できる。被照明平面となるXZ平面上に、このような照明パターンを表示するためには、各1次回折光L1〜L4の強度を、当該照明パターンに応じて調節する必要がある。具体的には、明るい矢印21内の参照点Q1,Q2を照らす回折光L1,L2の強度は強く、薄明るい照明領域20内の参照点Q3を照らす回折光L3の強度は弱く、照明領域20外の参照点Q4を照らす回折光L4は強度ゼロ(すなわち、回折光L4は実在しない)とすればよい。
【0082】
以上、XZ平面上の4つの参照点Q1〜Q4に向かう回折光L1〜L4の強度を例示したが、実際には、XZ平面上に存在する無数の点に向かう回折光について、それぞれ所定の強度を定めた回折特性を設定すればよい。すなわち、要素回折光学部131については、明るい矢印21内を照らす方向には強い強度をもった1次回折光が向かい、薄明るい照明領域20内を照らす方向には弱い強度をもった1次回折光が向かい、それ以外の方向には、回折しない、という固有の回折特性が設定される。そして、要素回折光学部131内には、そのような固有の回折特性に応じた1次回折光が得られるようなホログラムを形成すればよい。もちろん、他の要素回折光学部についても、同様の方法で回折特性を設定し、これに応じたホログラムを形成することになる。実際には、所定の干渉縞を記録することにより、各要素回折光学部が所定の回折特性をもつホログラムとして機能することになる。
【0083】
このように、各要素回折光学部に固有の回折特性は、1次回折光の回折方向と強度との組み合わせとして定義することができる。そこで、ここに示す実施例では、1次回折光の回折方向を、垂直方向変位角θVと水平方向変位角θHという2組の角度によって表現することにする。ここで、垂直方向変位角θVは、要素回折光学部の代表点Pに立てた法線に対する垂直方向(図の座標系におけるY軸方向)の変位角を示し、水平方向変位角θHは、当該法線に対する水平方向(図の座標系におけるX軸方向)の変位角を示している。たとえば、
図6には、要素回折光学部131の代表点P1に立てた法線として、法線Np1が描かれており、各回折光L1〜L4の回折方向は、この法線Np1に対する垂直方向の変位を示す垂直方向変位角θVと、水平方向の変位を示す水平方向変位角θHと、によって表現される。
【0084】
図7は、このような変位角θV,θHを用いて、1次回折光強度の角度空間分布を表現する方法を示すグラフである。
図7(a) は、
図6に示すXYZ三次元直交座標系の側面図であり、1次回折光Lの光路(破線)をYZ平面に投影した図に相当し、図の上方がY軸正方向、図の右方がZ軸正方向になる。この図には、XY平面上に配置された回折光学素子130を構成する要素回折光学部の代表点P(xp,yp,zp)から射出される1次回折光L(破線)が、被照明領域上の参照点Q(xq,yq,zq)に向かう様子が示されている。図示の例の場合、1次回折光Lは、参照点Pに立てた法線Np(Z軸に平行)に対して垂直方向変位角θVをなす方向に射出されている。図において実線で挟まれた角度範囲は、代表点Pから1次回折光が向かう拡散角度空間を示しており、1次回折光は、この拡散角度空間内の光路を進んで被照明平面上に所定の被照明領域20を形成することになる。
【0085】
一方、
図7(b) は、
図6に示すXYZ三次元直交座標系の上面図であり、1次回折光Lの光路(破線)をXZ平面に投影した図に相当し、図の下方がX軸正方向、図の右方がZ軸正方向になる。この図には、XY平面上に配置された回折光学素子130を構成する要素回折光学部の代表点P(xp,yp,zp)から射出される1次回折光L(破線)が、被照明領域上の参照点Q(xq,yq,zq)に向かう様子が示されている。図示の例の場合、1次回折光Lは、参照点Pに立てた法線Np(Z軸に平行)に対して水平方向変位角θHをなす方向に射出されている。この図においても、実線で挟まれた角度範囲は、代表点Pから1次回折光が向かう拡散角度空間を示しており、1次回折光は、この拡散角度空間内の光路を進んで被照明平面上に所定の被照明領域20を形成することになる。
【0086】
なお、この
図7(a) ,(b) においても、図示の便宜上、すべての1次回折光が代表点Pのみから射出するようなイメージが示されているが、実際には、1次回折光は、1つの要素回折光学部の全面に形成されている干渉縞によって生じることになり、代表点Pのみから射出するわけではない。ただ、便宜上、同一の要素回折光学部から射出する1次回折光を、当該要素回折光学部内の代表点P(たとえば、中心点)から射出する光として取り扱うようにすれば、その進行方向(回折方向)を、垂直方向変位角θVと水平方向変位角θHという2組の角度によって表現することができる。たとえば、代表点P(xp,yp,zp)から参照点Q(xq,yq,zq)に向かう回折光の向きは、(θV,θH)なる2組の角度によって表現できる。
【0087】
このように、代表点Pから様々な方向に向かう1次回折光の向きは、(θV,θH)なる2組の角度によって表現できるので、ある1つの要素回折光学部から射出する1次回折光の向きは、
図7(c) に示すように、二次元直交座標系θH−θVで表現される角度空間分布上の分布点Dの位置座標によって示すことができる。したがって、この二次元直交座標系θH−θV上の各分布点Dについて、それぞれ所定の強度を定めたものは、当該要素回折光学部から射出する1次回折光強度の角度空間分布を示す情報になり、これは当該要素回折光学部の回折特性を示す情報に他ならない。
【0088】
たとえば、
図7(c) に示すグラフおいて、分布点Dについて強度A(D)が定義されていた場合、代表点Pから、垂直方向変位角θV(D)、水平方向変位角θH(D)をなす方向に射出される1次回折光の強度がA(D)となる回折特性が示されていることになる。こうして、特定の要素回折光学部について、1次回折光強度の角度空間分布(回折特性)が定義できたら、当該要素回折光学部には、定義した回折特性が得られるようなホログラム(干渉縞)を形成すればよい。もちろん、要素回折光学部に入射する光は、
図4に示すコリメート光学系120によってコリメートされた平行光ということになるので、このような平行光を、定義した回折特性に応じて回折する機能を有するホログラムを形成することになる。
【0089】
図8は、
図6に示す要素回折光学部131に形成された干渉縞と、その回折特性を示す図である。具体的には、
図8(a) は、要素回折光学部131の平面図であり、代表点Pはその中心位置に定義されている。ここで、要素回折光学部131の内部に描かれた波形模様は、特定の回折特性を有する干渉縞が記録されていることを示している。このように、要素回折光学部131には、予め定めた被照明領域20の全部もしくは一部を照明する1次回折光を生じさせる特定の回折特性をもった干渉縞が記録されていることになる。
【0090】
図8(b) は、この干渉縞によって定まる特定の回折特性を示す1次回折光強度の角度空間分布を示すグラフ(二次元直交座標系θH−θV上のグラフ)である。ここで、格子状に配列されたx印、黒丸、白丸は、いずれも(θV,θH)なる2組の角度によって表現された所定の回折方向を示す分布点であり、個々の分布点には、それぞれ所定の強度Aが対応づけられている。具体的には、白丸は高強度A(high)を示し、黒丸は低強度A(low)を示し、x印は強度0を示している。強度0は、当該方向には回折光が存在しないことを意味する。別言すれば、この要素回折光学部131からは、x印の分布点が示す方向には1次回折光が向かわないことを示している。
【0091】
図8(b) のグラフにおいて、第1象限,第2象限,第4象限に位置する分布点がすべてx印(強度0)となっているのは、
図6に示すように、被照明領域20を照明するためには、要素回折光学部131を正面から見たときに、左下方に回折する1次回折光(第3象限に位置する分布点に対応する回折光)があれば足りるためである。したがって、要素回折光学部131からは、上方や右下方に向かう1次回折光は発生しないことになる。
【0092】
図8(c) は、
図6に示す被照明領域20を示す上面図であり、Npは、代表点Pに立てた法線である。
図8(b) に示す角度空間分布は、
図6においてXY平面上に配置された要素回折光学部131を正面(Z軸正方向)から見た分布に相当し、
図8(c) に示す被照明領域20は、
図8(b) に示す角度空間分布に応じた回折特性をもつ回折光によって照明される領域である。したがって、
図8(b) に示す各分布点のもつ強度は、
図8(c) に示す被照明領域20内の照明パターン(矢印21)に合致したものになっている。
【0093】
具体的には、
図8(b) に白丸で示された方向に向かう高強度の回折光は、XZ平面(被照明平面)上において高輝度表示される矢印21を形成し、
図8(b) に黒丸で示された方向に向かう低強度の回折光は、XZ平面上において低輝度表示される被照明領域20(但し、矢印21の内部を除く)を形成する。また、
図8(b) にx印で示された方向には、1次回折光は存在しないため、XZ平面上における被照明領域20の外部の領域は照明されないことになる。
【0094】
結局、被照明平面上に、
図8(c) に示すような照明パターンをもった被照明領域20を形成したい場合には、当該照明パターンに応じて、
図8(b) に示すような1次回折光強度の角度空間分布を定義し、当該角度空間分布に応じた回折特性を有するホログラムを媒体に干渉縞として記録することにより、
図8(a) に示すような要素回折光学部131を用意すればよい。このような方法で、多数の要素回折光学部のそれぞれに所定の回折特性を有するホログラムを記録すれば、本発明に用いる回折光学素子130を作成することができる。
【0095】
なお、これまで述べた例は、
図5に示すように、共通した被照明領域20を、各要素回折光学部のそれぞれによって照明する例であり、いずれの要素回折光学部にも、同じ被照明領域20の全体を照明するための回折特性をもったホログラムが記録されていた。ただ、本発明で用いられる複数の要素回折光学部は、必ずしもすべてが同じ被照明領域20全体を照明する機能を有している必要はなく、それぞれが被照明領域の少なくとも一部を照明する機能を有していれば足りる。
【0096】
図9は、個々の要素回折光学部が、それぞれ被照明領域20の一部のみを照明するようにした実施例を示す斜視図である。この図には、第1の要素回折光学部131によって部分的被照明領域20(P1)が照明され、第2の要素回折光学部132によって部分的被照明領域20(P2)が照明される例が示されている。もちろん、それ以外の要素回折光学部も、同様に、部分的被照明領域を照明する機能を有しており、複数の要素回折光学部を有する回折光学素子130全体として、矩形状の被照明領域20が照明されることになる。
【0097】
ここで、部分的被照明領域20(P1)は、図にドットによるハッチングを施して示す矩形領域であり、代表点P1をもつ第1の要素回折光学部131には、1次回折光を、この部分的被照明領域20(P1)内に向かわせるような回折特性をもったホログラムが記録されている。同様に、部分的被照明領域20(P2)は、図に斜線によるハッチングを施して示す矩形領域であり、代表点P2をもつ第2の要素回折光学部132には、1次回折光を、この部分的被照明領域20(P2)内に向かわせるような回折特性をもったホログラムが記録されている。同様に、他の各要素回折光学部にも、1次回折光を、それぞれ所定の部分的被照明領域内に向かわせるような回折特性をもったホログラムが記録されている。
【0098】
結局、
図9に示す実施例の場合、個々の要素回折光学部は、被照明領域20の一部の領域を受け持って、当該受け持ち領域内のみを照明する役割を果たせばよいことになる。したがって、個々の要素回折光学部についての1次回折光の角度空間分布は、より狭められることになり、入射光を無理な方向にまで回折させる必要はなくなる。要するに、この
図9に示す実施例では、個々の要素回折光学部が、それぞれ所定の部分的被照明領域を照明する機能を有し、これら部分的被照明領域の集合体によって、予め定めた位置に定義され、予め定めたサイズおよび形状をもつ被照明領域が形成されることになる。
【0099】
なお、
図9に示す実施例では、第1の要素回折光学部131の受け持ちとなる部分的被照明領域20(P1)と、第2の要素回折光学部132の受け持ちとなる部分的被照明領域20(P2)とは、互いに離隔した領域となっているが、両領域は、部分的に重なるようにしてもよい。要するに、個々の要素回折光学部によって照明される部分的被照明領域が、相互に重なりを生じているようにしてもよい。
【0100】
図10は、このような重なりを生じさせた実施例を示す斜視図である。
図9に示す実施例と同様に、第1の要素回折光学部131によって部分的被照明領域20(P1)が照明され、第2の要素回折光学部132によって部分的被照明領域20(P2)が照明されているが、図にドットによるハッチングを施して示す部分的被照明領域20(P1)と、図に斜線によるハッチングを施して示す部分的被照明領域20(P2)とは、部分的に重なりを生じている。このように、個々の要素回折光学部に受け持たせる部分的被照明領域は、相互に重なりを生じていてもかまわない。この
図10に示す実施例でも、複数の要素回折光学部を有する回折光学素子130が全体として、矩形状の被照明領域20を照明することになる。
【0101】
なお、
図9や
図10に示す例のように、個々の要素回折光学部131,132,... に、それぞれ異なる部分的被照明領域20(P1),20(P2),... を照明する機能をもたせ、これら部分的被照明領域の集合体によって被照明領域20を形成する実施態様を採る場合は、被照明領域20上に形成される照明パターンの各部に輝度ムラが生じないように、個々の要素回折光学部131,132,... から射出される1次回折光の強度を調整するのが好ましい。特に、
図10に示す例のように、部分的被照明領域に重なりが生じる部分と、重なりを生じない部分とが混在するケースでは、重なりが生じる部分を照明する1次回折光の強度を低く設定し、重なりを生じない部分との間での輝度差が生じないようにするのが好ましい。
【0102】
以上述べたとおり、本発明の基本的な実施形態に係る照明装置100では、回折光学素子130に対して予め定めた位置に、予め定めたサイズおよび形状の被照明領域20を照明するべく、回折光学素子130の回折特性を設計して、回折光学素子130で回折されたコヒーレント光で直接被照明領域20を照明するため、任意の角度空間に設けられる被照明領域20を鮮明に照明できる。また、この実施形態では、回折光学素子130の光軸後方側にレンズを設けないため、レンズの焦点面に回折光学素子130と平行に被照明領域20を配置する必要がなくなり、被照明領域20の位置、サイズおよび形状についての制限が緩和される。
【0103】
また、この実施形態では、光源110から射出されたコヒーレント光のビーム径をコリメート光学系120で広げた上で、回折光学素子130に入射させるため、回折光学素子130の入射面上のコヒーレント光の光強度を低下させることができ、回折光学素子130を人間が直視したとしても、人間の目を損傷するおそれがなく、コヒーレント光の取扱についての安全性を向上できる。
【0104】
更に、この実施形態では、回折光学素子130を複数に分割した複数の要素回折光学部131,132,… が設けられているため、被照明領域20でのボケ量を低減できる。
【0105】
<<< §4. 要素回折光学部に形成するホログラムの作成方法 >>>
本発明に係る照明装置100に用いられる回折光学素子130を構成する要素回折光学部131には、
図8(a) に示すように、予め定めた被照明領域20の全部もしくは一部を照明する1次回折光を生じさせるホログラムが記録されている。このホログラムは、コリメート光学系120から照射される平行光に対して、
図8(b) に示した1次回折光強度の角度空間分布に応じた特定の回折特性に基づく回折現象を生じさせる機能を有している。別言すれば、回折光学素子130に含まれる個々の要素回折光学部は、それぞれが特定の回折特性に基づく回折現象を生じさせる独立したホログラムを構成することになる。
【0106】
したがって、本発明に用いる回折光学素子130を製造するためには、その構成要素となる個々の要素回折光学部について、それぞれ特定の回折特性を定義し、当該回折特性に基づく回折現象を生じさせるホログラムを形成する必要がある。このようなホログラムは、通常、光学的な手法によって感光性原版上に作成するか、あるいは、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)の技術を用いて、コンピュータを利用して作成することができる。
【0107】
たとえば、
図6に示す例のように、XZ平面上の所定位置に、矢印21をもった照明パターンからなる像(被照明領域20)を形成するには、要素回折光学部131に、そのような像を再生する機能をもったホログラムを記録しておけばよい。
【0108】
このようなホログラムを、光学的な手法で作成するには、
図6に示す要素回折光学部131の位置に感光性原版を配置し、被照明領域20に何らかの方法で矢印21をもった照明パターンを原画として表示させ、この照明パターンからの光を物体光として感光性原版に照射し、コリメート光学系120からの平行照明光を参照光として感光性原版に照射し、物体光と参照光との干渉によって生じる干渉縞を感光性原版に記録し、当該干渉縞が記録された感光性原版を要素回折光学部131として用いればよい。一方、このようなホログラムを、CGHの典型的な手法で作成するには、上記光学現象をコンピュータ上でシミュレートすることにより、要素回折光学部131に記録すべき干渉縞を演算によって求めればよい。
【0109】
ただ、
図2に例示するような車載型の照明装置100の回折光学素子130として用いるホログラムは、光学的な手法を用いても、CGHの典型的な手法(光学現象のシミュレート)を用いても、商業ベースで作成することは困難である。すなわち、光学的な手法を用いて回折光学素子130として用いるホログラムを作成するためには、
図2に示すように、長さ60m以上の空間を確保した光学系が必要になるので、感光性原版に高精度の干渉縞を形成することは困難である。一方、CGHの典型的な手法により、長さ60m以上の空間に生じる光学現象をシミュレートするには、膨大なデータに基づく演算が必要になり、商業ベースでホログラムを作成することは困難である。
【0110】
そこで本願発明者は、本発明に係る照明装置100の回折光学素子130を構成する個々の要素回折光学部に記録するホログラムを作成する方法として、一般に「反復フーリエ変換法」と呼ばれている手法を利用することに想到した。そこで、以下、この「反復フーリエ変換法」を利用して、個々の要素回折光学部に記録するホログラムを作成する具体的な手順を述べる。この手順は、コンピュータを利用してホログラムを作成する手順であり、CGHの技術の範疇に入るものであるが、物体光と参照光との干渉によって干渉縞が形成されるという光学的な現象をシミュレートするCGHの典型的な手順とは全く異なるものである。したがって、被照明領域20内の各点から生じる波面を合成して物体波を作成しているわけではない。
【0111】
図11は、
図8(a) に示す要素回折光学部131に記録すべきホログラム(干渉縞)についての固有の回折特性を決定する具体的な手順を示す流れ図である。この手順は、上述した「反復フーリエ変換法」を利用した手順であり、実際には、コンピュータを用いた演算処理として実行される。以下、この流れ図を参照しながら、個々の要素回折光学部に記録するホログラムを作成する具体的な手順を説明する。なお、
図11に示されている各ステップS1〜S7の処理は、実際には、所定のプログラムが組み込まれたコンピュータによって実行される。
【0112】
この
図11に示す手順は、被照明領域20が回折光学素子130から遠方にあることを前提とした場合の処理であり、被照明領域20上の回折像は、フラウンホーファ回折像になる。したがって、被照明領域20の法線方向が回折光学素子130の射出面の法線方向に対して非平行であっても、被照明領域20の全域にわたって、照明強度を均一化することができ、被照明領域20内のボケを抑制できる。
【0113】
まず、ステップS1では、被照明領域20に定義された所定の設計照明強度分布D00に基づいて、要素回折光学部131から射出する1次回折光の強度の角度空間分布D10を生成する処理が行われる。ここで、設計照明強度分布D00とは、この照明装置100によって照明すべき被照明領域20内に表示すべき照明パターンの輝度分布であり、予め設計者によって定められる二次元の照明強度分布である。
【0114】
図12は、ステップS1において強度の角度空間分布D10を生成するプロセスの具体例を示す図である。ここでは、この
図12に示す例に基づいて、ステップS1で行われる処理を具体的に説明しよう。
【0115】
まず、
図12(a) は、
図6と同様に、XY平面上に配置された要素回折光学部131からの1次回折光が、被照明平面となるXZ平面上に向かう様子を示す斜視図である。回折光学素子130は、入射したコヒーレント光を所定の拡散角度空間内に回折させて、予め定めた位置に定義され、予め定めたサイズおよび形状をもつ被照明領域20を照明する機能を果たす。この例では、被照明平面となるXZ平面上の所定の位置に、矩形からなる被照明領域20が定義されており、要素回折光学部131からの1次回折光(たとえば、L1〜L3)は、この被照明領域20へ向かうことになる。
【0116】
なお、図には、説明の便宜上、被照明領域20外へ向かう1次回折光L4が描かれているが、前述したとおり、実際には、1次回折光L4は存在せず、参照点Q4へ向かう方向には回折現象は起こらない。別言すれば、要素回折光学部131は、入射したコヒーレント光を、矩形からなる被照明領域20内に向かう拡散角度空間内にのみ回折させることになる。その結果、被照明領域20内のみが照明されることになり、XZ平面上に路面10が位置していれば、路面10上に図示のような照明パターン(矩形状の被照明領域20内に矢印21が描かれたパターン)が表示される。
【0117】
このような照明パターンは、設計者によって任意に設計されるパターンであり、設計者は、任意の図形や文字を含む照明パターンを定義することができる。もちろん、当該パターンを構成する各部の輝度分布も任意に設定できる。本願では、このように設計者が任意に設定した照明パターンの輝度分布を、設計照明強度分布D00と呼んでいる。ここでは、矢印21の内部(たとえば、参照点Q1,Q2の位置)の設計輝度を高輝度とし、被照明領域20の内部かつ矢印21の外部(たとえば、参照点Q3の位置)の設計輝度を低輝度とする設計がなされていたものとして、以下の説明を行う。なお、参照点Q4の位置は、設計上、照明の対象外であり、設計輝度は0になる。
【0118】
設計照明強度分布D00は、被照明平面となるXZ平面上における設計輝度の分布を示すものであり、上例の場合、各位置に応じて、高輝度,低輝度,輝度0の3通りの輝度が設定される。設計照明強度分布D00は、たとえば、
図12(b) に示すようなテーブルとして定義することができる。図示されているテーブルは、説明の便宜上、XZ平面上に位置する4つの参照点Q1〜Q4について、それぞれ座標と設計照明強度を示すデータを収録したものになっているが、実際のテーブルには、XZ平面上に定義された多数の参照点について、同様のデータが収録されている。
【0119】
図示の例の場合、参照点Q1(xq1,yq1,zq1)には設計照明強度A11が定義され、参照点Q2(xq2,yq2,zq2)には設計照明強度A12が定義され、参照点Q3(xq3,yq3,zq3)には設計照明強度A13が定義され、参照点Q4(xq4,yq4,zq4)には設計照明強度は定義されていない。ここで、A11およびA12は高輝度を示すデータ(たとえば、輝度値100%)であり、A12は低輝度を示すデータ(たとえば、輝度値30%)である。設計照明強度が未定義の参照点Q4については、たとえば、輝度値0%が定義されているものとして取り扱えばよい。
【0120】
図12(a) において、各参照点の符号Q1〜Q4に隣接して括弧書きで示す符号A11,A12,A13,0は、
図12(b) のテーブルに収録されている各設計照明強度を示している。
【0121】
もちろん、設計照明強度分布D00のデータ形式は、
図12(b) に示すように、多数の参照点について所定の輝度値を定義したテーブルの形式に限定されるものではなく、被照明領域20内に表示すべき照明パターンの輝度分布を示すことができれば、どのような形式のデータであってもかまわない。たとえば、被照明領域20を構成する矩形や矢印21の図形を、その輪郭線を示すベクターデータで表現し、矢印21の内側は輝度値100%、その外側かつ被照明領域20の内側は輝度値30%、更にその外側は輝度値0%であることを示すデータによって設計照明強度分布D00を構成してもよい。
【0122】
また、上述した照明パターンは、輝度値0%,30%,100%の3段階のバリエーションをもつパターンであるが、輝度値のバリエーションを増やして、より豊かな階調表現ができるようにすれば、濃淡のグラデーションをもった照明パターンを設計することもできる。この場合、設計照明強度分布D00は、輝度値を画素値とするグラデーション画像の画像データとして用意することができる。
【0123】
ステップS1では、このようにして定義された設計照明強度分布D00に基づいて、要素回折光学部131から射出する1次回折光の強度の角度空間分布D10が生成される。ここに示す実施例では、
図12(a) に示すように、要素回折光学部131内の所定の代表点P1(たとえば、中心点)に法線Np1を立て、この法線Np1に対する垂直方向(Y軸方向)の角度変位を示す垂直方向変位角θVと、水平方向(X軸方向)の角度変位を示す水平方向変位角θHとをそれぞれ座標軸にとった二次元直交座標系θH−θVを定義している。既に§3において
図7(c) を参照しながら説明したとおり、このような座標系を用いれば、1次回折光強度の角度空間分布を示すことができる。
【0124】
図12(c) は、この二次元直交座標系θH−θVを用いて、強度の角度空間分布D10を定義した例であり、
図12(a) に示す4本の1次回折光L1〜L4(前述したとおり、実際には、1次回折光L4は存在しない)に対応する分布点D1〜D4がx印で示されている。
図7(c) に示すとおり、座標系θH−θV上の任意の分布点Dの位置は、特定の垂直方向変位角θV(D)および水平方向変位角θH(D)を示しており、代表点Pから射出される1次回折光の向きを示している。したがって、
図12(c) にx印で示された各分布点D1〜D4の位置は、それぞれ1次回折光L1〜L4の向きを示している。
【0125】
ステップS1で生成される1次回折光強度の角度空間分布D10は、これら各分布点D1〜D4に、それぞれ所定の強度(1次回折光強度)を付与したものである。
図12(c) に示す例は、
図12(b) に示すテーブル(設計照明強度分布を示すテーブルD00)に対応した強度を付与したものであり、各分布点の符号D1〜D4に隣接して括弧書きで示す符号A21,A22,A23,0は、
図12(b) のテーブルに収録されている各設計照明強度A11,A12,A13,0に対応するものである。
【0126】
たとえば、
図12(c) に示す分布点D1には、A21なる強度が付与されているが、当該強度は、次のような方法によって定義することができる。まず、座標系θH−θV上における分布点D1の座標値に基づいて、垂直方向変位角θV(D1)および水平方向変位角θH(D1)を定め、これらの変位角に基づいて、代表点P1から射出される1次回折光L1の向きを定める。そして、この1次回折光L1とXY平面(設計照明強度分布D00が定義されている被照明平面)との交点位置に存在する参照点Q1を決定し、設計照明強度分布D00を参照して、この参照点Q1に付与されている設計照明強度A11を求める。
図12(c) に示す分布点D1に付与すべき強度A21は、この参照点Q1に付与されている設計照明強度A11に基づいて定義できる。
【0127】
なお、分布点D1に付与すべき強度A21の値は、参照点Q1に付与されている設計照明強度A11の値と同一にするようにしてもよいが、必要に応じて、設計照明強度A11の値に所定の係数を乗じた値を1次回折光強度A21として定義するようにしてもよい。たとえば、
図12(a) に示す例において、1次回折光L2の光路長は、1次回折光L1の光路長よりも若干長くなっている。一般に、光路長が長くなれば、それだけ光の伝播経路において強度が減衰するので、図示の例の場合、1次回折光L1,L2の強度を等しく設定すると、参照点Q1に比べて参照点Q2の輝度は若干低くなる。このような光路長に基づく輝度低下は、通常、無視できる程度であるが、輝度ムラのない鮮明な照明パターンを形成する必要がある場合には、設計照明強度A11の値に光路長を考慮した補正係数を乗じた値を1次回折光強度A21とする運用を行えばよい。
【0128】
あるいは、
図10に示す例のように、部分的被照明領域に重なりが生じる部分と、重なりを生じない部分とが混在するケースでは、重なりが生じる部分を照明する1次回折光の強度を低く設定し、重なりを生じない部分との間での輝度差が生じないようにする必要が生じることがある。このようなケースでは、部分的被照明領域の重なりの有無に応じて、設計照明強度A11の値に所定の補正係数を乗じた値を1次回折光強度A21とする運用を行えばよい。
【0129】
図12(c) に示す他の分布点D2〜D4についても、同様の方法でそれぞれ強度A22,A23,0が定義される。もちろん、実際には、座標系θH−θV上には、
図12(c) に例示されている分布点D1〜D4だけでなく、たとえば、
図8(b) に示すような多数の分布点が定義され(分布点の密度は、設計された照明パターンの解像度と演算負担とを考慮して適切な値に設定すればよい)、個々の分布点のそれぞれについて、所定の強度が定義されることになる。結局、ステップS1で生成される1次回折光強度の角度空間分布D10は、要素回折光学部131から各方向に射出する様々な1次回折光の強度を定義する情報ということになる。
【0130】
ただ、回折光学素子130として機能するホログラムを形成するためには、1次回折光の強度(振幅)だけでなく、位相の情報も必要になる。これは、光が強度(振幅)と位相の双方をもった電磁波であり、その挙動を把握するには、強度の角度空間分布D10だけでは不十分であり、強度と位相の双方を示す電場の複素振幅分布として把握する必要があるためである。
【0131】
図13は、回折光学素子130上の1点Pから射出される1次回折光L1,L2の波形を概念的に示す側面図である。図示の例は、回折光学素子130の左側から、コリメートされた平行照明光L0が照射され、回折光学素子130の右側から、1次回折光L1,L2が射出される様子を示している(前述したとおり、実際には、1次回折光は、点Pの近傍に形成された干渉縞によって生じることになり、1点Pのみから射出するわけではない。)。ここで、1次回折光L1,L2は、回折光学素子130の回折面に立てた法線Npに対して、それぞれ所定の垂直方向変位角θVをなす方向に射出する光であり、それぞれ所定の強度および位相を有している。具体的には、1次回折光L1は、強度A1,位相φ1をもって射出される光であり、1次回折光L2は、強度A2,位相φ2をもって射出される光である。
【0132】
図11に示すステップS2の処理は、ステップS1で作成された1次回折光強度の角度空間分布D10に、ランダムな位相分布を組み合わせることにより、回折光学素子上の複素振幅分布D20を生成する処理である。
図12(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10は、個々の分布点Dについて、所定の強度Aを付与したものであるが、個々の分布点Dについて、位相φは定義されていない。このため、要素回折光学部131として機能するホログラムの回折特性を定義する情報としては不十分である。ただ、設計照明強度分布D00には、設計照明強度の情報しか含まれておらず、位相の情報は含まれていない。
【0133】
そこで、ステップS2では、
図12(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10に含まれる個々の分布点Dについて、それぞれランダムな位相を付与することにより、複素振幅分布を生成する。本願では、このステップS2で生成される複素振幅分布を、ステップS3で生成される複素振幅分布と区別するため、「回折光学素子上の複素振幅分布D20」と呼んでいる。
【0134】
図14は、
図12(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10に基づいて生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20を示す図である。
図12(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10では、各分布点D1,D2,D3,D4に対して、それぞれ所定の強度A21,A22,A23,0が付与されているが、
図14に示す回折光学素子上の複素振幅分布D20では、それぞれ所定の強度と位相の組み合わせとして、(A21,φ21),(A22,φ22),(A23,φ23),(0,0)が付与されている。なお、1次回折光L4は実在しないため、実際には、分布点D4については、強度も位相も定義する必要はない(ここでは、便宜上、強度と位相の組み合わせとして、(0,0)なる表記を行っている)。
【0135】
ここで、位相φ21,φ22,φ23としては、0〜2πの間の全くランダムな値を選択すればよい。実際のコンピュータによる処理では、乱数を用いて発生させたランダムな値を各分布点に付与すればよい。もちろん、この段階では、位相φはデタラメな値であるため、ステップS2で生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20は、本来の正しい複素振幅分布を示すものではない。こうして生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20は、1次回折光強度の角度空間分布D10と同様に、二次元座標系上に定義された複数の分布点について、それぞれ強度および位相の双方を付与したデータによって定義される。
【0136】
図15は、
図11に示す流れ図におけるステップS3およびステップS4の処理手順を具体的に示す図である。まず、ステップS3では、
図15(a) の右に示すように、ステップS2で生成した回折光学素子上の複素振幅分布D20(
図14参照)に対して逆フーリエ変換を行い、被照明領域上の複素振幅分布D30を生成する処理が行われる。
図15(a) の左には、ステップS3で生成された被照明領域上の複素振幅分布D30の概念図を示す。
【0137】
図14に示す回折光学素子上の複素振幅分布D20は、要素回折光学部131から各方向に拡散してゆく1次回折光の強度Aおよび位相φを示すものであり、これに対する逆フーリエ変換の処理は、XZ平面(被照明平面)に到達した各1次回折光に基づいて、XZ平面上の位置における強度Aおよび位相φを求める処理になる。
【0138】
結局、
図15(a) の左に示す被照明領域上の複素振幅分布D30は、XZ平面上の各位置について、電場の強度Aおよび位相φを定義した情報ということになる。図示の例の場合、各参照点の符号Q1〜Q4に括弧書きで示した強度Aおよび位相φが定義されている。すなわち、参照点Q1には、強度A31,位相φ31が定義され、参照点Q2には、強度A32,位相φ32が定義され、参照点Q3には、強度A33,位相φ33が定義されている。なお、参照点Q4には、1次回折光は届かないので、強度および位相は定義されない(図では、便宜上、(0,0)なる表示がなされている)。もちろん、実際には、被照明領域20内の多数の参照点について、それぞれ強度Aおよび位相φが定義されることになる。
【0139】
この図には、便宜上、矢印21を含む被照明領域20内の照明パターンが描かれているが、この照明パターンは、この段階では、
図12(a) に示す設計照明強度分布D00に応じたパターンにはなっていない。これは、ステップS2において、各分布点にランダムな位相を与えたためである。
【0140】
図15(b) の左には、
図12(a) に示す設計照明強度分布D00の平面図が示されている。
図15(a) の被照明領域上の複素振幅分布D30によって示された照明パターンと、
図15(b) の設計照明強度分布D00に示された照明パターンは、いずれも矩形状の被照明領域20の内部に矢印21を配置したパターンになっているが、両者の各部における強度は異なっている。すなわち、
図15(a) に示す各参照点Q1,Q2,Q3に定義されている強度A31,A32,A33は、
図15(b) に示す各参照点Q1,Q2,Q3に定義されている強度A11,A12,A13とは異なっている。これは、ステップS2で生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20が、ランダムな位相を含む不完全なものになっているためである。
【0141】
そこで、ステップS4において、ステップS3で生成された被照明領域上の複素振幅分布D30(
図15(a) )の強度を、設計照明強度分布D00(
図15(b) )に合わせて修正して、被照明領域上の修正複素振幅分布D40(
図15(c) )を生成する処理が行われる。この処理は、
図15(a) に示す被照明領域上の複素振幅分布D30において各参照点Qに定義されている強度Aを、
図15(b) に示す設計照明強度分布D00において各参照点Qに定義されている強度Aに修正する処理である。このような修正処理により、
図15(c) に示すような被照明領域上の修正複素振幅分布D40が生成される。
図15(c) の左に示すとおり、各参照点Q1,Q2,Q3についての強度Aは、
図15(a) に示すA31,A32,A33から、
図15(b) に示すA11,A12,A13に修正されている。なお、位相φ31,φ32,φ33はそのままである。
【0142】
図16は、
図11に示す流れ図におけるステップS5およびステップS6の処理手順を具体的に示す図である。まず、ステップS5では、
図16(a) の右に示すように、ステップS4で生成した被照明領域上の修正複素振幅分布D40(
図15(c) 参照)に対してフーリエ変換を行い、回折光学素子上の修正複素振幅分布D50を生成する処理が行われる。
図16(a) の左には、ステップS5で生成された回折光学素子上の修正複素振幅分布D50の概念図を示す。
【0143】
図15(c) に示す被照明領域上の修正複素振幅分布D40は、XZ平面(被照明平面)の位置における回折光の強度Aおよび位相φを示すものであり、これに対するフーリエ変換の処理は、要素回折光学部131から各方向に拡散してゆく1次回折光の強度Aおよび位相φを求める処理になる。
【0144】
結局、
図16(a) の左に示す回折光学素子上の修正複素振幅分布D50は、要素回折光学部131の代表点Pから各方向に拡散してゆく1次回折光の強度Aおよび位相φを定義した情報ということになる。図示の例の場合、各分布点の符号D1〜D4に括弧書きで示した強度Aおよび位相φが定義されている。すなわち、分布点D1には、強度A51,位相φ51が定義され、分布点D2には、強度A52,位相φ52が定義され、分布点D3には、強度A53,位相φ53が定義されている。なお、分布点D4に対応する方向には1次回折光は発生しないので、強度および位相は定義されない(図では、便宜上、(0,0)なる表示がなされている)。もちろん、実際には、座標系θH−θV上の多数の分布点について、それぞれ強度Aおよび位相φが定義されることになる。
【0145】
ここで、
図16(a) の左に示す回折光学素子上の修正複素振幅分布D50上に定義されている強度A51,A52,A53等は、この段階では、
図12(a) に示すように、XZ平面(被照明平面)上に設計照明強度分布D00を形成するための正確な強度にはなっていない。これは、ステップS2において、各分布点にランダムな位相を与え、このランダムな位相を用いて、ステップS3,S4,S5の処理を行ったためである。
【0146】
図16(b) の左には、
図12(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10(ステップS1で生成したもの)が示されている。
図16(a) の回折光学素子上の修正複素振幅分布D50によって示された強度分布と、
図16(b) の1次回折光強度の角度空間分布D10に示された強度分布は、いずれも座標系θH−θV上の多数の分布点についての強度を示すものであるが、両者の各分布点における強度は異なっている。すなわち、
図16(a) に示す各分布点D1,D2,D3に定義されている強度A51,A52,A53は、
図16(b) に示す各分布点D1,D2,D3に定義されている強度A21,A22,A23とは異なっている。これは、ステップS2において、ランダムな位相を含む回折光学素子上の複素振幅分布D20を生成したためである。
【0147】
そこで、ステップS6において、ステップS5で生成された回折光学素子上の修正複素振幅分布D50の強度を、ステップS1で生成した1次回折光強度の角度空間分布D10に示された強度に置換して、回折光学素子上の置換複素振幅分布D60を生成する処理が行われる。この処理は、
図16(a) に示す回折光学素子上の修正複素振幅分布D50において各分布点Dに定義されている強度Aを、
図16(b) に示す1次回折光強度の角度空間分布D10において各分布点Dに定義されている強度Aに置換する処理である。このような置換処理により、
図16(c) に示すような回折光学素子上の置換複素振幅分布D60が生成される。
【0148】
図16(c) の左に示すとおり、各分布点D1,D2,D3についての強度Aは、
図16(a) に示すA51,A52,A53から、
図16(b) に示すA21,A22,A23に置換されている。なお、位相φ51,φ52,φ53はそのままである。ステップS5において生成された回折光学素子上の修正複素振幅分布D50およびステップS6において生成された回折光学素子上の置換複素振幅分布D60は、いずれも1次回折光強度の角度空間分布D10と同様に、二次元座標系上に定義された複数の分布点について、それぞれ強度および位相の双方を付与したデータによって定義されているため、上記置換は容易に行うことができる。
【0149】
以上、
図11に示す流れ図におけるステップS1〜S6の手順を、具体例を挙げながら説明した。こうして、ステップS6の手順まで完了したら、ステップS7を経て、ステップS3へ戻る処理が行われる。すなわち、ステップS3〜S6の処理が、必要な回数だけ繰り返して実行される。より具体的には、ステップS2で生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20(ランダムな位相分布を含むもの)の代わりに、ステップS6で生成された回折光学素子上の置換複素振幅分布D60を用いて、ステップS3が再び実行される。こうして、ステップS7により、ステップS3からステップS6までのプロセスが必要回数だけ繰り返され、最終的にステップS6において得られた回折光学素子上の置換複素振幅分布D60を最終複素振幅分布とする処理が行われる。
【0150】
前述したとおり、ステップS2で生成された回折光学素子上の複素振幅分布D20は、ランダムな位相を含む不完全なものであるが、ステップS3からステップS6までのプロセスを繰り返すことによって得られる回折光学素子上の置換複素振幅分布D60に含まれる位相は、徐々に適正値へと収束してゆくことになる。ステップS7における必要回数は、位相が適正値に到達したと判断できる妥当な回数に設定すればよい。具体的には、予め「10回」というような規定回数を設定しておいてもよいし、「ステップS6において置換対象となる両強度値の差が所定の許容値以下になるまで」というような条件を設定しておいてもよい。
【0151】
こうして、最後に実行されたステップS6において生成された回折光学素子上の置換複素振幅分布D60は、最終複素振幅分布とされ、この最終複素振幅分布に対応した1次回折光が射出される固有の回折特性が、要素回折光学部131に必要な回折特性ということになる。したがって、要素回折光学部131には、コリメート光学系120から入射するコヒーレント光を回折するために、上記必要な回折特性をもつホログラムを記録するようにすればよい。
【0152】
そのためには、
図11に示す流れ図におけるステップS7が完了した後、コリメート光学系120から入射するコヒーレント光に基づいて、最終複素振幅分布に対応した1次回折光が射出されるように、固有の回折特性をもつホログラムを構成する干渉縞を所定の媒体上に形成するステップS8(図示せず)を実行して、要素回折光学部131を作成すればよい。他の要素回折光学部132,… ,についても同様である。本発明に係る回折光学素子130は、このような手順により作成することができる。
【0153】
なお、ある特定の回折特性(
図16(c) に示すような回折光学素子上の置換複素振幅分布D60として定義される回折特性)をもつホログラムを構成するための具体的な干渉縞パターンを求める方法は、CGHの手法として公知であるため、ここでは具体的な手順の説明は省略する。また、特定の干渉縞パターンを所定の媒体上に形成する方法としては、凹凸構造として干渉縞を構成する方法や、濃淡模様として干渉縞を構成する方法など、様々な方法が知られており、どのような形成方法を採ってもかまわない。
【0154】
また、回折光学素子130となるべき記録媒体への干渉縞の形成方法は、恒久的な固定構造として形成する方法に限定されず、一時的に所望の干渉縞を形成する方法を採ることも可能である。たとえば、回折光学素子130として、液晶ディスプレイと、この液晶ディスプレイに画像を表示させる駆動装置と、を有する装置を用いるようにしてもよい。この場合、この液晶ディスプレイに所定の干渉縞を画像として表示させることにより、被照明領域20内に所定の照明パターンをホログラム再生像として形成することができる。なお、液晶ディスプレイの代わりに、DMD(デジタルミラーデバイス)や、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)などの光学素子を用いることも可能である。いずれのデバイスを用いる場合でも、高精細な干渉縞を形成できるように、画素のピッチは細ければ細いほど好ましい。
【0155】
<<< §5. 本発明の変形例 >>>
これまで、本発明を車載型の照明装置として利用した基本的な実施形態を述べた。ここでは、本発明のいくつかの変形例を述べておく。
【0156】
<5.1 4f光学系を設けた変形例>
図4に示す基本的な実施形態に係る照明装置100は、回折光学素子130と被照明領域20の間にレンズを設けていないことが一つの特徴である。回折光学素子130の光軸後方側にレンズがある場合、回折光学素子130に入射したコリメート光学系120からのコヒーレント光のビーム断面が大きくてボケていても、レンズの焦点面では、そのボケの影響を受けずに、所望の回折像を結像でき、鮮明な像が得られる。すなわち、レンズの焦点面では、遠方に形成される回折像を縮小した回折像が得られる。
【0157】
ところが、レンズの焦点面から外れた場所では、回折光学素子130に入射したコヒーレント光の照射面積の影響を受けて、回折像がボケてしまう。特に、
図2に示す例のように、回折光学素子130の射出面の法線方向と被照明領域20が定義された路面10の法線方向とが非平行の場合、レンズの焦点面の配置方向が被照明領域20の配置方向と一致しないため、被照明領域20がボケやすくなる。
【0158】
このような事情から、
図4に示す基本的な実施形態に係る照明装置100では、回折光学素子130で回折されて照明装置100から射出したコヒーレント光によって、被照明領域20を直接照明する方法を採っている。ここで、「直接」とは、照明装置100と被照明領域20の間に、照明装置100から射出したコヒーレント光の進行方向を制御し、照明装置100と被照明領域20の間の特定の平面に光学像を結像させる光学部材が存在しないことを意味する。
【0159】
したがって、
図4に示す構成において、照明装置100と被照明領域20の間に、たとえば、カバーガラス等のコヒーレント光の進行方向を制御しない光学部材を設けるようにしても問題ない。また、照明装置100内の回折光学素子130の回折光の進行方向を変化させるリレー光学系、たとえば、4f光学系などを設けるようにしてもかまわない。このような4f光学系を設けると、高次光の除去等を行う際に中間像が生成されることになるが、このような中間像は照明装置100内での結像であり、照明装置100から射出するコヒーレント光によって、直接、被照明領域20を照明している点では変わりはない。
【0160】
図17は、4f光学系140を設けた変形例に係る照明装置100Aの斜視図、
図18は、
図17に示す照明装置100Aの部分側面図である。
図17に示す4f光学系140は、4f−1レンズ141と、遮光板142と、4f−2レンズ143と、を有している。回折光学素子130と遮光板142は、4f−1レンズ141の位置を基準として、4f−1レンズ141の焦点距離fの位置に対向して配置されている。また、回折光学素子130からの1次回折光によって形成される回折像150と遮光板142は、4f−2レンズ143の位置を基準として、4f−2レンズ143の焦点距離fの位置に対向して配置されている。
【0161】
遮光板142は、ほぼ中央部に、回折光学素子130からの1次回折光を透過させる開口部Hを有しており、開口部H以外はコヒーレント光を通さないようにされている。回折光学素子130からの回折光のうち、1次回折光以外の0次回折光や多次回折光は、1次回折光とは回折角度が異なるため、遮光板142の開口部Hを透過することはできない。よって、遮光板142を設けることで、1次回折光以外の回折光をカットすることができ、観察者に対するコヒーレント光の安全性が向上する。
【0162】
図19は、
図17に示す照明装置100Aの更なる変形例に係る照明装置100Bの斜視図であり、
図20は、この照明装置100Bの部分側面図である。
図19に示す4f光学系160は、
図17に示す4f−1レンズ141および4f−2レンズ143を、それぞれ4f−1レンズアレイ161および4f−2レンズアレイ163に置換したものである。4f−1レンズアレイ161および4f−2レンズアレイ163は、それぞれ多数のレンズで構成されており、
図17に示す4f−1レンズ141および4f−2レンズ143と比べて焦点距離が短い。よって、
図19に示す照明装置100Bは、
図17に示す照明装置100Aよりも外形サイズを小型化できる。遮光板162には、これらレンズアレイを構成する個々のレンズに応じた位置に開口部(
図19では図示省略)が設けられている。
【0163】
<5.2 カラー表示を行う変形例>
図4に示す基本的な実施形態に係る照明装置100は、単一波長のコヒーレント光を用いて被照明領域20を照明する例であるが、本発明に係る照明装置では、照明領域20にカラー表示を行うことも可能である。
図21および
図22は、このようなカラー表示を行う機能を備えた照明装置100C,100Dの構成を示す斜視図である。
【0164】
図21に示す照明装置100Cは、それぞれ波長の異なる複数のコヒーレント光を用いて被照明領域20を照明する機能をもった装置であり、赤色波長帯域のコヒーレント光を発生させる光源110R、緑色波長帯域のコヒーレント光を発生させる光源110G、青色波長帯域のコヒーレント光を発生させる光源110Bを有している。また、これら3つの光源にそれぞれ対応させて、3つのコリメート光学系120R,120G,120Bと、3つの回折光学素子130R,130G,130Bとが設けられている。
【0165】
ここで、コリメート光学系120Rは、第1レンズ121Rおよび第2レンズ122Rを有し、コリメート光学系120Gは、第1レンズ121Gおよび第2レンズ122Gを有し、コリメート光学系120Bは、第1レンズ121Bおよび第2レンズ122Bを有する。3つの光源130R,130G,130B、3つのコリメート光学系120R,120G,120B、3つの回折光学素子130R,130G,130Bは、図示のとおり、それぞれ鉛直方向に並べて配置されている。
【0166】
一方、
図22に示す照明装置100Dは、
図21に示す照明装置100Cにおける3つの光源130R,130G,130B、3つのコリメート光学系120R,120G,120B、3つの回折光学素子130R,130G,130Bを、それぞれ水平方向に並べて配置したものであり、その他の構成は照明装置100Cと同様である。
【0167】
これら照明装置100C,100Dでは、それぞれ赤、緑、青の波長帯域のコヒーレント光が生成され、これら各波長帯域のコヒーレント光を調光することにより、種々の色で被照明領域20を照明することができ、カラーの照明パターンを表示できる。照明装置100C,100Dでは、図示のとおり、3つの回折光学素子130R,130G,130Bが、鉛直方向または水平方向に並べて配置されているため、それぞれの被照明領域20に対する相対位置は異なっている。しかしながら、各回折光学素子の回折特性を、§4で説明した手順で設計することにより、各回折光学素子130R,130G,130Bからの回折光によって、共通した被照明領域20の全域を照明することができる。
【0168】
したがって、被照明領域20は、3つの回折光学素子130R,130G,130Bからの回折光が重なり合った色で照明される。たとえば、3つの光源130R,130G,130Bが同一放射強度のコヒーレント光を射出した場合は、被照明領域20は白色で照明される。また、3つの光源130R,130G,130Bのうち1つか2つをオフさせたり、各光源から射出されるコヒーレント光の放射強度を調整することにより、被照明領域20の照明色を必要に応じて切り替えることができる。
【0169】
また、3つの回折光学素子130R,130G,130Bとして、それぞれ液晶ディスプレイ、デジタルミラーデバイス、または、LCOSを有する光学素子を用い、任意の干渉縞を形成できるようにしておけば、被照明領域20に形成する照明パターンの内容を適宜変更することができる。
【0170】
<5.3 照明パターンのバリエーション>
これまで述べてきた基本的な実施形態では、
図1や
図4に示すように、路面10上の被照明領域20内に、矢印21〜26を含む照明パターンを表示する例を説明したが、被照明領域20内に表示する照明パターンは、設計者が任意に設計できるものである。すなわち、
図12(a) に示すように、設計者が、所望の位置に、所望のサイズおよび形状をもつ被照明領域20を定義し、この被照明領域20内に表示すべき照明パターンを、設計照明強度分布D00として定義すれば、所望の位置に所望の照明パターンを表示する機能をもった照明装置を設計することができる。
【0171】
たとえば、
図1に示す例は、矢印21〜26の内部は高輝度、照明領域20の内部かつ矢印21〜26の外部は低輝度という2段階の輝度設定がなされた照明パターンの例であり、観察者には、うっすらとした細長い矩形からなる被照明領域20の内部に、より明るい6つの矢印21〜26が提示される。これに対して、矢印21〜26の内部のみを高輝度で表示し、それ以外の部分は全く照明しないようにする(1次回折光が向かわないようにする)、という設計も可能である。この場合、暗い路面10上に、6つの矢印21〜26のみが明るく表示されることになる。別言すれば、個々の矢印21〜26の内部のみが、被照明領域として設定されていることになる。
【0172】
図23は、本発明に係る照明装置による被照明領域20の照明態様の具体的なバリエーションを示す図である。いずれも、被照明領域20内にグレーで示されている領域が高輝度で表示される領域である。被照明領域20内の白色領域は、低輝度で表示してもよいし、全く照明を行わないようにしてもよい。
【0173】
図23(a) はライン状の照明パターン71,72を示している。照明パターン71は、細長い矩形状の被照明領域20の内部全域を均一の輝度で表示するパターンであり、照明パターン72は、細長い楕円状の被照明領域20の内部全域を均一の輝度で表示するパターンである。図示のように、照明パターンの輪郭は、矩形状でも、楕円形状でもよい。このような単純な照明パターンは、自動車のヘッドライトに用いるのに適しており、路面を鮮明な輪郭を有するパターンで照明することができる。
図23(b) は、矩形状の被照明領域20内に、三角形と五角形と星形の図形を配置してスポット照明を行った例である。
【0174】
図23(c) は、同一の図形を間隔を空けて複数個、所定方向に沿って配置して照明するものである。本発明に係る照明装置は、車載型装置としての利用に限定されるものではなく、たとえば、路面や建物に設置して路面、床面、壁面を照明する用途にも利用可能である(路面設置型の照明装置については、§5.4で詳述する)。
図23(c) に示す各照明パターンは、建物に設置した照明装置を用いて、床面や壁面を照明して誘導灯照明として利用するのに適している。照明パターン74は三角形を配置した例、照明パターン75は5角形を配置した例、照明パターン76はブーメラン状の図形を配置した例、照明パターン77は矢印を配置した例である。いずれも、各図形の先端部を誘導方向に向けることで、誘導方向をわかりやすくしている。
【0175】
図23(d) は、境界線を示す用途に適した照明パターン78,79である。いずれも、同一の図形を複数個、同一間隔で配置したパターンになっており、境界線に沿って配置すれば、境界を示す標識として利用できる。また、複数の図形が同一間隔で配置されているため、距離測定の用途にも応用できる。
【0176】
図23(e) に示す照明パターン80は、離隔して配置された複数の三角形状の図形の輪郭を、それぞれ円形のスポットで照明したものである。また、
図23(f) に示す照明パターン81は、中抜きのパターンであり、矩形状の被照明領域20の内部かつ三角形の外部に相当する領域が照明される。各三角形の内部は照明されないことになるが、影部として認識される各三角形によって、右方向を示す標識として機能する。照明パターン80,81は、いずれも上述した誘導灯照明として利用可能である。
【0177】
以上、
図23を用いて、本発明に係る照明装置によって形成される被照明領域20の照明態様をいくつか示したが、これらの照明態様は一例に過ぎず、図示した以外の種々の照明態様で照明してもよい。たとえば、文字や記号等の情報表示と組み合わせて
図23に示す照明態様あるいはそれ以外の照明態様で照明を行ってもよい。
【0178】
また、
図23(b) 〜
図23(e) に示す例のように、複数の図形を含む照明パターンについては、すべての要素回折光学部によって共通の被照明領域20内を照明するようにしてもよいし、
図9や
図10に示す実施例のように、個々の要素回折光学部が、それぞれ特定の図形を受け持って、当該受け持ち領域内のみを照明するようにしてもよい。
【0179】
<5.4 路面設置型の照明装置>
本発明に係る照明装置は、自動車や自転車等の車両だけでなく、船舶や飛行機、列車などを含む種々の乗物に搭載して利用することができる。また、本発明に係る照明装置は、このような乗物に搭載する用途だけでなく、様々な構造物に取り付けて、様々な情報を提示する用途にも利用可能である。
【0180】
たとえば、本発明に係る照明装置は、乗物に対する誘導や注意喚起、情報表示等の目的に利用することもできる。具体例を挙げれば、乗物の運転手や操縦士に、乗物の進行方向や通行禁止エリアを報知したり、通行上の注意を喚起する目的にも利用できる。この場合、本発明に係る照明装置は、乗物に搭載してもよいし、乗物とは別の場所、例えば乗物の走行経路上などに設置してもよい。
【0181】
もちろん、§5.3で述べたように、本発明に係る照明装置は、誘導灯等にも適用可能である。本発明に係る照明装置は、被照明領域20を任意の照明態様で鮮明かつ長距離にわたって照明できるため、避難誘導灯に適用すれば、緊急時に多数の人間を惑わすことなく、所望の方向に誘導できる。
【0182】
本発明に係る照明装置に、路面もしくは路面近傍に設置された構造物、または建物に取り付けるための取付部を設けておけば、路面もしくは路面近傍に設置された構造物、または建物から、路面もしくはその近傍、床面もしくは壁面に対して照明を行うことが可能になり、様々な情報を提示することが可能になる。ここでは、特に、本発明を路面設置型の照明装置として用い、自動車の運転手に様々な情報を提示する例を説明する。
【0183】
図24は、交差点の近傍に本発明に係る照明装置を設置して、路面上を所定の照明パターンで照明し、運転手に対して有効な情報を提示する用途を示す平面図である。
図24(a) に示す例は、道路11と道路12の交差点の近傍に、一対の照明装置201,202を設置した例である。照明装置201は、図に太線で示すように、道路12を横断するような細長い線状の照明パターン91によって路面を照明する機能を有する。同様に、照明装置202は、図に太線で示すように、道路12を横断するような細長い線状の照明パターン92によって路面を照明する機能を有する。
【0184】
このような照明パターン91,92は、道路11を走行中の車両40の運転手に対して、当該交差点が右折禁止や左折禁止であること、あるいは、道路12が侵入禁止であることを報知する機能を果たす。たとえば、右折禁止、左折禁止、侵入禁止となる時間帯に、これら照明パターン91,92による照明を行うようにすれば、車両40の運転手が誤って道路12へ侵入することを防止できる。照明パターン91,92として、たとえば赤色ラインからなるパターンを用いれば、運転手に対する注意喚起を行う上では効果的である。
【0185】
一方、
図24(b) に示す例は、道路11と道路12の交差点の近傍に、一対の照明装置203,204を設置した例である。照明装置203は、図に太線で示すように、道路11を横断するような細長い線状の照明パターン93によって路面を照明する機能を有する。同様に、照明装置204は、図に太線で示すように、道路11を横断するような細長い線状の照明パターン94によって路面を照明する機能を有する。
【0186】
このような照明パターン93,94は、道路11を走行中の車両40の運転手に対して、交差点内への侵入ができないことを報知する機能を果たす。たとえば、信号機のある交差点の場合、道路11を走行中の車両40に対する信号が赤になったときに、図に太線で示すように、照明パターン93,94として赤色ラインからなるパターンを路面上に表示すれば、運転手に対する注意喚起を行うことができる。
【0187】
あるいは、道路11を走行する車両40が交差点に接近したことを自動的に検出するセンサを設置しておくようにすれば、当該センサによって車両40の接近が検出されたときにのみ、上記照明が行われるようにすることもできる。
【0188】
なお、照明装置201〜204は、道路11や道路12の路肩を構成する路面上に直接設置することもできるし、路面近傍に設置された構造物(たとえば、信号機や道路標識)に取り付けることもできる。
【0189】
図25は、道路の合流地点に本発明に係る照明装置を設置して、路面上を所定の照明パターンで照明し、運転手に対して有効な情報を提示する用途を示す平面図である。図示のような主要道路13と側道14との合流地点では、側道14から主要道路13に合流しようとする車両40の運転手に、合流時の進行方向を報知し、かつ主要道路13を走行中の他の車両の運転手に、側道14から車両40が合流してくることを報知するため、主要道路13上を何らかの照明態様で照明するのが望ましい。
【0190】
図25(a) に示す例は、主要道路13と側道14との合流地点近傍に、照明装置205を設置した例である。照明装置205は、図に太線で示すように、主要道路13を斜めに横断するような細長い線状の照明パターン95によって路面を照明する機能を有する。この照明パターン95は、たとえば、赤色ラインからなるパターンであり、車両40の運転手に対して合流時の進行方向を報知するとともに、主要道路13を走行中の他の車両の運転手に対して、側道14から車両40が合流してくることを報知する役割を果たす。
【0191】
照明装置205は、側道14から主要道路13に進入しようとする車両40の存在を検出する進入検出センサを備えており、このセンサで車両40の存在が検出されると、この車両40の進行方向に沿って、図に照明パターン95として示されているライン状の照明を行う。あるいは、主要道路13上の側道14の近くを走行する他の車両を検出する別のセンサを設けてもよい。この場合、当該センサによって、主要道路13上の合流地点近傍に車両40以外の車両が走行していないと判断されたときに、図に照明パターン95として示されているライン状の照明を、たとえば、青色ラインとして行うようにすればよい。車両40の運転者は、この青色ラインの照明を見て、近くに他の車両が存在せず、安全に合流を行うことができることを認識できる。
【0192】
なお、
図25(a) に示す例では、合流しようとする車両40の進行方向左側のみにライン状の照明を行う例を示しているが、右側にもライン状の照明を行ってもよい。これにより、主要道路13の右側から左側に向かって進行する他の車両にも注意を喚起することができる。
【0193】
一方、
図25(b) に示す例は、やはり主要道路13と側道14との合流地点近傍に、照明装置206を設置した例である。この照明装置206は、図に太線で示すように、主要道路13の側道14からの侵入箇所を遮るような細長い線状の照明パターン96によって路面を照明する機能を有する。この照明パターン96は、たとえば、赤色ラインからなるパターンであり、車両40の運転手に対して車両侵入禁止を報知するとともに、主要道路13を走行中の他の車両41,42の運転手に対して、側道14から車両40が合流してくる可能性があることを報知する役割を果たす。
【0194】
照明装置206は、主要道路13の合流地点近傍を走行している車両41,42の存在を検出するセンサを備えており、このセンサで車両41,42の存在が検出されると、主要道路13と側道14との境界付近に、図に照明パターン96として示されているライン状の照明を行う。このライン状の照明は、赤色ラインのような目立つ色にするのが望ましい。あるいは、照明装置206に、側道14から主要道路13に進入しようとする車両40の存在を検出する進入検出センサを更に設け、側道14上に車両40の存在が検出され、かつ、主要道路13上に車両41,42の存在が検出されたときに、照明パターン96として示されているライン状の照明を行うようにしてもよい。
【0195】
照明装置205や206は、合流地点近傍の路面上に直接設置することもできるし、路面近傍に設置された構造物(たとえば、信号機や道路標識)に取り付けることもできる。もちろん、照明装置205と206の両方の機能をもった照明装置を設置するようにしてもよい。
【0196】
図26は、道路の工事現場等に本発明に係る照明装置を設置して、路面上を所定の照明パターンで照明し、運転手に対して有効な情報を提示する用途を示す平面図である。図示のように、道路15の一部が工事等により通行禁止エリア(網目のハッチング部分)となっている場合、道路15を走行中の車両40が、この通行禁止エリアに達する前に、運転手に通行禁止エリアの存在を報知し、右側車線に移るように誘導するのが好ましい。
【0197】
図26(a) に示す例は、通行禁止エリアの手前に、照明装置207を設置した例である。照明装置207は、図に太線で示すように、車両40を右側車線に誘導するための細長い線状のバーおよび複数の矢印からなる照明パターン97によって路面を照明する機能を有する。この照明パターン97は、たとえば、赤色ラインおよび赤色矢印からなるパターンであり、車両40の運転手に対して、右側車線に移動する必要があることを報知する役割を果たす。
【0198】
一方、
図26(b) に示す例は、網目のハッチングを施して示す通行禁止エリア(工事現場等)が存在する場合に、この通行禁止エリアを迂回するように、車両40の運転手に注意喚起する例である。図示の照明装置208は、この通行禁止エリアの境界線に沿って、通行禁止エリアを囲むように配置されたライン状の照明パターン98によって路面を照明する機能を有する。この例の場合も、照明装置208によって、車両40の運転手に対して、通行禁止エリアを避ける運転を促すことができる。
【0199】
照明装置207や208は、通行禁止エリアの近傍の路面上に直接設置することもできるし、通行禁止エリアの近傍に設置された構造物(たとえば、信号機や道路標識)に取り付けることもできる。照明装置に着脱自在な取付部を設けておくようにすれば、工事現場等の通行禁止エリアが変更された場合にも、設置場所を容易に変更することができる。
【0200】
図27は、道路16の脇に位置する道路外の敷地17(たとえば、駐車場)の出入口近傍に本発明に係る照明装置を設置して、路面上を所定の照明パターンで照明し、運転手に対して有効な情報を提示する用途を示す平面図である。図示のように、車両40が道路外の敷地17から道路16に侵入しようとする場合、道路16上を走行中の他の車両、特に、左側通行を採用している国において、車線16aを図の右側に向かって走行する車両に対して、道路外の敷地17から車両40が侵入することを報知するのが好ましい。
【0201】
そこで、図示の例の場合、道路16と敷地17との境界近傍(たとえば、道路16の路肩付近)に、照明装置209を設置している。照明装置209は、図に楕円で示すように、車線16aを横断するような照明パターン99によって路面を照明する機能を有する。この照明パターン99は、たとえば、赤色の楕円状パターンであり、車線16aを走行してくる別な車両の運転手に対して、敷地17から車両40が侵入してくる可能性があることを報知する役割を果たす。
【0202】
照明装置209は、道路16に進入しようとしている車両40を自動的に検出する進入検出センサを備えており、このセンサで車両40の存在が検出されると、図に示す照明パターン99によって、道路16の少なくとも一部を所定期間照明する。
【0203】
照明パターン99の形状や大きさは任意であるが、これから道路16に車両40が進入してくることを、道路16を走行中の別な車両の運転手に知らせることが可能な態様で照明を行う必要がある。図示の例では、照明パターン99として、楕円状のパターンが用いられているが、この他にも、たとえば、赤色等の目立つ色のライン状の照明パターンで照明を行ってもよいし、「車両進入注意」などの文字や記号を含む情報を特定の色で表示するような照明パターンで照明を行ってもよい。
【0204】
照明装置209は、進入検出センサが車両40の存在をいったん検出してから検出されなくなるまでの期間は照明を継続させるのが望ましい。また、朝夕と昼間などの時間帯によって、照明色や照明強度を可変させてもよい。
【0205】
あるいは、車両40の方向指示器の点滅を検出して車両40の進行方向を自動推定する機能を持たせて、車両40の進行方向に応じた車線を照明してもよい。たとえば、車両40が左折することが推定できたときには、左側通行を採用している国においては、車線16aを図の右側方向に走行中の別な車両の進路を妨げることになるので、図示のように、車線16aを遮るような照明パターン99による照明を行えばよい。これに対して、車両40が右折することが推定できたときには、左側通行を採用している国においては、車線16a,16bのいずれを走行中の別な車両の進路を妨げることになるので、道路16全体を遮るような照明パターンによる照明を行えばよい。
【0206】
以上、
図24〜
図27を参照しながら説明した照明態様は、乗物に対する誘導や注意喚起、情報表示等の目的を意図した一例であり、実際には、上述した以外の種々の照明態様が考えられる。本発明に係る照明装置によれば、回折光学素子130の回折特性の設計と、光源110の点灯制御とによって、任意の場所への任意の照明態様での照明および情報表示が可能となる。
【0207】
また、
図9や
図10に示す実施例のように、個々の要素回折光学部が、それぞれ特定の受け持ち領域を照明する運用を採用する場合には、一部の要素回折光学部を被照明領域20全体の照明用途に使用し、残りの要素回折光学部を被照明領域20内に特定の絵柄、文字、記号、模様などの各種情報を表示する用途に使用してもよい。これにより、任意の照明態様で照明される被照明領域20内の任意の場所に、任意の情報を表示でき、広告用途や情報提供用途など、種々の用途で被照明領域20を活用できる。
【0208】
<5.5 演算負担を軽減させる変形例>
§4では、
図11に示す流れ図を参照しながら、コンピュータによる演算によって、個々の要素回折光学部に形成するホログラムを作成する手順を述べた。この手順では、個々の要素回折光学部ごとに、それぞれ別個独立した演算が行われ、別個独立したホログラムが形成される。別言すれば、各要素回折光学部には、それぞれ異なる回折特性をもった干渉縞が形成され、それぞれが特定の回折特性に基づく回折現象を生じさせる独立したホログラムを構成することになる。そして、このような構成を採用することにより、ボケを抑制した鮮明な照明パターンを得ることができる。
【0209】
しかしながら、個々の要素回折光学部ごとに、それぞれ別個独立して
図11の流れ図に示すホログラムの形成演算を行うと、演算負担がかなり重くなることは否めない。そこで、ここでは、この演算負担を軽減させる変形例を述べる。
【0210】
図5に示すように、本発明の基本的な実施形態では、回折光学素子130は、所定の配置平面(XY平面)に二次元マトリックス状に配置された複数の要素回折光学部131,132,... を有しており、各要素回折光学部は、それぞれ異なる回折特性を有している。すなわち、各要素回折光学部は、それぞれ異なるホログラムを構成しており、それぞれ異なる干渉縞が記録されている。具体的には、図示の例の場合、回折光学素子130は、7行10列に配置された70組の要素回折光学部を有しており、この70組の要素回折光学部のそれぞれについて、
図11の流れ図に示すホログラムの形成演算を行うことになる。
【0211】
ここで述べる変形例は、このような演算の負担を軽減する手法を開示するものである。まず、互いに隣接して配置された一群の要素回折光学部を回折光学群と定義し、回折光学素子130を、二次元マトリックス状に配置された複数の回折光学群の集合体によって構成する。たとえば、3行3列に配置された9組の要素回折光学部を、1つの回折光学群と定義し、回折光学素子130を、この回折光学群の集合体によって構成してみよう。
【0212】
たとえば、回折光学素子130が、9行12列に配置された108組の要素回折光学部を有している場合であれば、これを縦方向に3分割、横方向に4分割して、合計12分割すれば、個々の分割領域は、それぞれ3行3列に配置された9組の要素回折光学部を有する回折光学群を構成することになる。別言すれば、この回折光学素子130は、3行4列に配置された12組の回折光学群の集合体によって構成され、個々の回折光学群には、3行3列に配置された9組の要素回折光学部が含まれていることになる。
【0213】
図5に示す例は、7行10列に配置された70組の要素回折光学部を有しているため、行数も列数も3では割り切れない。このような場合、3行3列に配置された9組の要素回折光学部を有する回折光学群だけで回折光学素子130を構成することはできないので、端部については、3行1列に配置された3組の要素回折光学部を有する回折光学群や、1行3列に配置された3組の要素回折光学部を有する回折光学群など、半端な回折光学群を配置する必要があるが、いずれにしても、回折光学素子130を、複数の回折光学群に分割することができる。
【0214】
そうしたら、ある1つの回折光学群に含まれる複数の要素回折光学部については、いずれか1つを代表として、この代表となる要素回折光学部についてのみ、
図11の流れ図に示すホログラムの形成演算を行い、代表以外の要素回折光学部については、代表についての演算で求められたホログラムをそのまま流用する。たとえば、3行3列に配置された9組の要素回折光学部が含まれている回折光学群については、まず、たとえば中央に位置する1つの要素回折光学部を代表として、この代表について、ホログラムの形成演算を行って固有の干渉縞を求め、これを記録する。そして、残りの8組の要素回折光学部については、中央の要素回折光学部に形成した干渉縞と全く同じ干渉縞を記録すればよい。
【0215】
図5に示す例において、たとえば、第4行〜第6行、かつ、第4列〜第6列に所属する9組の要素回折光学部(3行3列に配置された9組の要素回折光学部)によって、1つの回折格子群が構成されていたとすると、その中心に位置する要素回折光学部132を代表と定め、この代表についてホログラムの形成演算を行って固有の干渉縞を求め、これを要素回折光学部132内に記録すればよい。そして、要素回折光学部132の周囲に位置する残り8組の要素回折光学部内には、要素回折光学部132内の干渉縞と全く同じ干渉縞を記録する。
【0216】
このような方法をすべての回折光学群に採用すれば、全体の演算負担を1/9程度に軽減することができる。その結果、同一の回折光学群に属する要素回折光学部は互いに同一の回折特性を有し、異なる回折光学群に属する要素回折光学部は互いに異なる回折特性を有することになる。たとえば、
図5において、要素回折光学部132およびその周囲に位置する8組の要素回折光学部は、同一の回折光学群に属する要素回折光学部であるから、互いに同一の回折特性を有している(同一の干渉縞が記録されている)が、要素回折光学部131と要素回折光学部132とは、異なる回折光学群に属する要素回折光学部であるから、互いに異なる回折特性を有している(異なる干渉縞が記録されている)。
【0217】
もちろん、要素回折光学部132と、その周囲に位置する8組の要素回折光学部とは、三次元空間上での配置が異なるため、被照明領域20を望む角度も異なっている。したがって、要素回折光学部132に記録した干渉縞を、そのまま流用して周囲に位置する8組の要素回折光学部に記録してしまうと、9組の要素回折光学部からの回折光によってXZ平面上に形成される再生像の位置は、それぞれ少しずつずれることになり、ボケを生じる要因になる。
【0218】
結局、被照明領域20上に形成される再生像のボケを抑制し、鮮明な照明パターンを形成するという本発明の目的を達成する上では、ここで述べる変形例の採用は逆効果になる。しかしながら、本変形例を採用すれば、個々の要素回折光学部に形成するホログラム(干渉縞)の演算負担を大幅に軽減できるというメリットが得られる。よって、多少のボケを甘受しても、高速な処理を必要とする利用形態では、本変形例を採用する価値が十分にある。
【0219】
前述したように、回折光学素子130としては、液晶ディスプレイなどの表示装置を利用することができるので、任意の照明パターンのデータを作成し、これに基づいて即座に干渉縞の演算を行い、これを液晶ディスプレイ上に形成すれば、任意の照明パターンをリアルタイムで表示することができる。このようなリアルタイム表示の用途では、高速な処理が必須であり、本変形例が効果を発揮することになる。
【0220】
上述したように、本変形例は、潜在的に照明パターンにボケを生じさせる要因をもつことになるが、要素回折光学部の配置ピッチが小さければ、隣接する要素回折光学部間の位置ずれも小さなものになり、ボケの程度も小さくなる。また、回折光学群に属する要素回折光学部の総数を小さくしても同様である。このため、具体的な利用態様によっては、本変形例を採用してもしなくても、照明パターンのボケの程度に差が認められないケースも少なくない。よって、実用上、本変形例は十分に利用価値がある。
【0221】
<5.6 コヒーレント光の断面積を減少させた変形例>
図4に示す基本的な実施形態では、コリメート光学系120でコリメートされたコヒーレント光の断面(光軸に対して垂直な面における断面)が、回折光学素子130の全面を包含する面積を有し、すべての要素回折光学部131に対してコヒーレント光が照射されている。たとえば、コリメート光学系120でコリメートされたコヒーレント光が円もしくは楕円形の断面を有しており、回折光学素子130が矩形形状を有している場合、円もしくは楕円形の断面をもつコヒーレント光が、矩形形状をもつ回折光学素子130をそっくり含むことになり、すべての要素回折光学部131から回折光を得ることができる。この場合、回折光学素子130からはみ出たコヒーレント光の部分は、アパチャーでカットするのが好ましい。
【0222】
ただ、本発明を実施する上では、必ずしも回折光学素子130の全面にコヒーレント光を照射する必要はない。すなわち、コリメート光学系120でコリメートされたコヒーレント光の断面が、回折光学素子130の一部のみを包含する面積を有するようにし、一部の要素回折光学部131のみに対してコヒーレント光を照射するようにしてもかまわない。
【0223】
各要素回折光学部131は、入射したコヒーレント光をそれぞれ所定の回折特性に基づいて回折する機能を有しているが、もちろん、コヒーレント光の入射がなければ、回折光を射出することはできない。したがって、たとえば、回折光学素子130の縁部に位置する一部の要素回折光学部131にコヒーレント光が照射されなかった場合、この一部の要素回折光学部131は、本来の役割を果たすことができない。
【0224】
しかしながら、回折光学素子130に入射するコヒーレント光の断面を大きくすればするほど、被照明領域20に形成される照明パターンのボケを大きくする要因になる。よって、ボケをできるだけ抑制する必要がある利用態様では、コリメート光学系120でコリメートされたコヒーレント光の断面を小さくし、回折光学素子130の一部の要素回折光学部131のみを用いて被照明領域20を照明するようにしてもかまわない。
【0225】
但し、コヒーレント光の断面積を小さくする場合は、1つの要素回折光学部131の面積を最小限度とし、要素回折光学部131の面積が、常に、コヒーレント光の断面の面積以下になるようにするのが好ましい。別言すれば、コヒーレント光の断面が、1つの要素回折光学部131をそっくりカバーできるようにするのが好ましい。そうしないと、1つの要素回折光学部131からの回折光によって十分な照明パターンを形成することができなくなり、また、コヒーレント光のエネルギー密度が高くなりすぎ、観察者の目を保護するための安全対策が不十分になる。
【0226】
以上、本発明のいくつかの変形例を説明したが、これらの変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの変形例を含めて、本発明は、その他の様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0227】
<<< §6. 本発明を実施する上で参考となる技術情報 >>>
最後に、本発明を実施する上で参考となる技術情報をいくつか述べておく。
【0228】
<6.1 被照明領域20に生じるボケ量に関する考察>
図28は、回折光学素子130上の任意の点Pから射出した回折光Lと平面上に定義された被照明領域20の法線N20とのなす角を示す図である。
図28(a) は、YZ平面上への投影図であり、点Pから射出した回折光Lは、法線Npに対して垂直方向変位角θVをなす方向に進み、被照明領域20に到達する。このとき、被照明領域20に立てた法線N20と回折光Lとの投影図上でのなす角はξVになる。一方、
図28(b) は、XZ平面上への投影図であり、点PがYZ平面上にある場合が示されている。点Pから射出した回折光Lは、法線(Z軸)に対して水平方向変位角θHをなす方向に進み、被照明領域20に到達する。このとき、被照明領域20に立てた法線N20と回折光Lとの投影図上でのなす角はξHになる。ここで、角度θVとθHは、
図7(c) に示す座標系θH−θVで示される角度である。
【0229】
図28(a) では、平面上に定義された被照明領域20をYZ平面に投影した場合に、被照明領域20を含む平面とZ軸とのなす角をαとしている。このとき、回折光学素子130からの回折光Lと被照明領域20に立てた法線N20とのなす角ξVは、単位として度(°)を用いれば、以下の式(1)で表される。
ξV=90°−(α+ξV) (1)
【0230】
一方、
図28(b) では、平面上に定義された被照明領域20をXZ平面に投影した場合に、被照明領域20を含む平面とZ軸とのなす角をβとしている。このとき、回折光学素子130からの回折光Lと被照明領域20に立てた法線N20とのなす角ξHは、単位として度(°)を用いれば、以下の式(2)で表される。
ξH=90°−(β−ξH) (2)
【0231】
ここで、仮に、回折光学素子130上の隣接する2つの要素回折光学部が同一の回折特性を持っていたとすると、これらの要素回折光学部からの回折光Lは互いに平行な方向に進行する。
図29は、隣接する2つの要素回折光学部の各代表点P1,P2からの回折光L1,L2を示す図である。
図29(a) に示すように、回折光L1,L2は平行な方向に進行している。これら2つの回折光L1,L2の距離をaとすると、これら2つの回折光L1,L2の被照明領域20上の到達点同士の距離a′は、回折光L1,L2の進行方向と被照明領域20に立てた法線N20とのなす角をγとすると、以下の式(3)で表される。この式(3)に示されているとおり、距離a′は、距離aよりも大きな値となり、これがボケの要因になる。
a′=a/cos γ (3)
【0232】
図29(b) は、被照明領域20上で許容されるボケ量を説明する図である。被照明領域20の一方向の長さをGとすると、a′/Gによってボケ量を定量化できる。許容されるボケ量は、照明装置の照明用途によっても異なるが、一般的には、a′/Gを1/3以下にするのがよく、より望ましくはa′/Gを1/4以下にするのがよい。a′/Gを所望の値に設定するには、回折光学素子130を構成する各要素回折光学部のサイズ(代表点P1,P2の間隔)を調整することでa′を調整でき、また、回折光学素子130の回折特性を調整することで、長さGを調整できる。よって、a′とGの少なくとも一方を調整することで、a′/Gを1/3または1/4以下に設定でき、被照明領域20のボケを低減できる。
【0233】
前述したように、回折光学素子130を構成する複数の要素回折光学部131,132,… のそれぞれは、被照明領域20の全域を照明するものであってもよいし、被照明領域20内の一部のみの領域を照明するものであってもよい。ここで、各要素回折光学部が被照明領域20内の一部のみの領域を照明する場合、隣接した2以上の要素回折光学部が同一の回折特性をもっていたとしても、上述したa′/Gを1/3以下に設定し、望ましくは1/4以下に設定することにより、実用上支障のない範囲内にボケ量を低減できる。
【0234】
<6.2 回折光学素子130からの回折光に関する考察>
回折光学素子130は、被照明領域20の位置、サイズおよび形状に合わせて、所定の拡散角度空間内にコヒーレント光を回折させる回折特性を有する。よって、回折光学素子130の射出面の法線方向が被照明領域20の法線方向と非平行であっても、回折光学素子130にて回折されたコヒーレント光は、被照明領域20の全域を照明でき、必要に応じて、被照明領域20の全域にわたって照明強度を均一化することもできる。
【0235】
被照明領域20の照明強度すなわち光量D1は、以下の式(4)で表すことができる。
D1=lo−Ao−Dx (4)
ここで、loは光源110から射出されるコヒーレント光の光量、Aoは照明装置の内部で損失される光量であり、たとえば、コヒーレント光の反射、吸収および遮光により損失される光量や、これまで図示されていないフィルタによる減光分の光量などである。Dxは、回折光学素子130で回折されずに透過する0次光や2次以上の多次の回折光の光量である。そして、D1は、回折光学素子130で回折されたコヒーレント光の1次回折光の光量である。被照明領域20上には、1次回折光以外に、0次光や多次光が入射される場合もありうるが、回折光学素子130を設計する際には、1次回折光のみが考慮に入れられる。
【0236】
図30は、回折光学素子130の1点Pからの1次回折光によって被照明領域20上の微小領域dSを照明している状態を示す斜視図である。回折光学素子130からの1次回折光の全放射光量D1は、
図30に示すように、被照明領域20上の放射照度または照度分布から求めた回折光学素子130上のコヒーレント光の1次回折光の放射強度(W/sr)または光度(cd)分布を、回折光学素子130から被照明領域20を見込む立体角で積分したものであり、以下の式(5)で表される。
【0237】
D1=積分記号
ω(S)・I dω (5)
但し、設計時点では、回折光学素子130上のコヒーレント光の1次回折光の放射強度(W/sr)または光度(cd)分布については、回折光学素子130を面積を持たない点とみなした場合の放射強度(W/sr)または光度(cd)分布として算出する。なお、式(5)におけるIは、回折光学素子130での放射強度((W/sr)または光度(cd)である。
【0238】
このように、回折光学素子130での1次回折光の光量D1は、式(5)に示すように、被照明領域20上のコヒーレント光の放射照度や照度、そこから導出される回折光学素子130での放射強度または光度分布から求めることができる。実際には回折光学素子130は面積を有するため、上記放射強度または光度については回折光学素子130への入射光の面積分だけ平均化された値となり、回折光学素子130上の各点での放射輝度(W/sr/m
2)または輝度(cd/m
2)は、回折光学素子130の面積を考慮しない設計時よりも大幅に抑えることが可能となり、観察者が照明装置を観察した場合の光安全性向上に大きく寄与する。このように、被照明領域130の設計光量を得るのに必要な回折光学素子130の放射輝度または輝度は、回折光学素子130に入射するコリメート光学系120からのコヒーレント光の回折光学素子130上の入射面積をより拡げることにより低減される。
【0239】
前述したように、本発明の基本的な実施形態に係る照明装置100は、回折光学素子130の光軸後方側に結像のためのレンズを備えておらず、回折光学素子130からの回折光によって被照明領域20を直接照明する。回折光学素子130上の各点における回折光は、被照明領域20の少なくとも一部を照明する。すなわち、回折光学素子130上の各点における回折光は、所定の拡散角度範囲内を進行して、被照明領域20を照明する。
【0240】
図7を用いて説明したように、回折光学素子130上の点Pから進行する1次回折光の拡散角度は、座標系θH−θVを用いた角度空間分布によって示すことができる。
図5に示す例は、回折光学素子130がXY平面上に位置し、被照明領域20がXZ平面上に位置する例である。回折光学素子130上の任意の点Pの座標値を(lx,ly,lz)とし、被照明領域20上の任意の点Qの座標値を(x,y,z)とすると、回折光学素子130から被照明領域20を見込む角度情報は、
図7(c) に示す座標系θH−θVでは、以下の式(6)と式(7)で表される。
tan θH=(x−lx)/(z−lz) (6)
tan θV=(y−ly)/(z−lz) (7)
【0241】
ここで、上記式(5),式(6),式(7)は、
図11に示す流れ図のステップS1における1次回折光強度の角度空間分布D10を生成する際の演算に利用することができる。
【0242】
<6.3 要素回折光学部を設けない参考例に係る照明装置>
図31は、要素回折光学部を設けない参考例としての照明装置300を示す斜視図である。
図4に示す本発明の基本的な実施形態に係る照明装置100と、
図31に示す参考例の照明装置300との相違は、前者では、回折光学素子130が複数の要素回折光学部131を有しており、個々の要素回折光学部131を構成するホログラムの回折特性は互いに異なっており、それぞれ別個独立した演算によって干渉縞が形成されているのに対して、後者では、回折光学素子180が、単一のホログラムによって構成されている点だけである。
【0243】
既に述べたとおり、回折光学素子130を複数の要素回折光学部131の集合体によって構成し、個々の要素回折光学部131について、それぞれ別個独立した演算によって干渉縞を形成するようにすると、被照明領域20に、より鮮明な照明パターンを得ることができる。したがって、
図4に示す本発明に係る照明装置100を用いれば、
図31に参考例として示す照明装置300を用いた場合に比べて、より鮮明な照明パターンを得ることができる