(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行時の車両の挙動を示すピッチレート、ロールレート及びヨーレートの3軸の角速度と、前後加速度、横加速度及び上下加速度の3軸の加速度とを検出可能な慣性計測装置と、
前記3軸の角速度を用いた姿勢角の変化率に関する運動方程式と、前記3軸の角速度を用いた前記3軸の加速度に関する運動方程式とに基づき、前記車両の運動パターンに応じて、前記慣性計測装置が検出したピッチレート、ロールレート、前後加速度、横加速度及び上下加速度の各々の誤差を推定する誤差推定部と、
を含むセンサ誤差補正装置。
前記誤差推定部は、前記車両のヨーレートが小さい場合に、前記車両のロールレートが、前記慣性計測装置が検出した横加速度の微分値から前記補正部により補正された前後速度と前記補正されたヨーレートの微分値との積を減算して得た値と重力加速度との商で表されることに基づき前記慣性計測装置が検出したロールレートの誤差を推定する請求項3又は4に記載のセンサ誤差補正装置。
前記誤差推定部は、前記車両のヨーレートが小さい場合に、前記車両のピッチレートが、前記慣性計測装置が検出した前後加速度の微分値から前記補正部により補正された前後速度の2階微分値を減算して得た値と重力加速度との商で表されることに基づき前記慣性計測装置が検出したピッチレートの誤差を推定する請求項3又は4に記載のセンサ誤差補正装置。
前記誤差推定部は、前記車両のヨーレートが大きい場合に、前後加速度が、ロールレートと重力加速度との積から、前記慣性計測装置が検出した横加速度の微分値を減算し、前記補正部により補正されたヨーレートの微分値と前記補正された前後速度との積を加算し、前記補正されたヨーレートと前記補正された前後速度の微分値との積を加算して得た値と前記補正されたヨーレートとの商で表されることに基づき前記慣性計測装置が検出した前後加速度の誤差を推定し、横加速度が、ピッチレートと重力加速度との積から、前記慣性計測装置が検出した前後加速度の微分値を減算し、前記補正された前後速度の2階微分値を加算し、前記補正されたヨーレートの二乗と前記補正された前後速度との積を加算して得た値と前記補正されたヨーレートとの商で表されることに基づき前記慣性計測装置が検出した横加速度の誤差を推定し、上下加速度が、重力加速度からロールレートと前記補正された前後速度との積を減算して得た値で表されることに基づき前記慣性計測装置が検出した上下加速度の誤差を推定する請求項4に記載のセンサ誤差補正装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るセンサ誤差補正装置10は、後述する演算装置14の演算に必要なデータ及び演算装置14による演算結果を記憶する記憶装置18と、車両が備えたセンシング装置及びGPS等によって取得した車両周辺の情報から車両の現在位置及び現在のヨー角(方位角)を算出する位置計測装置20と、位置計測装置20が算出した車両の現在位置及び現在のヨー角、車速センサ24が検出した車両前後速度、IMU26が検出した車両の方位角の角速度及び加速度、並びに操舵角センサが検出した車両の操舵角が入力される入力装置12と、入力装置12から入力された入力データ及び記憶装置18に記憶されたデータに基づいて車両位置の推定の演算を行なうコンピュータ等で構成された演算装置14と、演算装置14で演算された車両の位置等を表示するCRT又はLCD等で構成された表示装置16と、で構成されている。
【0022】
本実施の形態に係る位置計測装置20のセンシング装置は、一例として、車載カメラ等の撮像装置、LIDAR(Light Detection and Ranging)及びソナーのいずれかである。車載カメラ等の撮像装置を車載のセンシング装置とした場合は、一例として、当該撮像装置で取得した車両周辺の画像情報を解析して道路の白線等を検出する。LIDARを車載のセンシング装置とした場合は、一例として、車両周辺に照射したパルス状のレーザの散乱光から道路の白線等を検出する。ソナーを車載のセンシング装置とした場合は、一例として、アスファルトの路面とペイントされた白線との、超音波の反射率の差を利用して、当該白線を識別する。また、位置計測装置20はGPSにより、車両200の緯度及び経度の各々の方向の速度情報を含む測位情報を取得可能に構成されている。
【0023】
続いて、車両200の挙動に係る座標系を
図2に示したように定義する。地球座標系204は地球平面を基準として重力加速度方向とz
eとが平行で、y
eが北方向を向いている座標系である。路面座標系206は、z
rが車両200の重心を通り路面に垂直な方向に向き、x
rは車両進行方向に向いている座標系である。車体座標系208は車体バネ上に固定された座標系で、z
vは車体鉛直上方向、x
vは車体進行方向を向いている。従って、車両200の前後方向は、車体座標系208のx軸に平行な方向となる。本実施の形態では、車体座標系208の基準点を車両200の重心ではなく、車両200の後輪の車軸の車幅方向の中心とする。
【0024】
また、オイラー姿勢角であるロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψは、地球座標系204に対して、
図2に示したように定義される。例えば、ロール角φはx軸まわりの回転角であり、ピッチ角θは、y軸まわりの回転角であり、ヨー角ψは、z軸まわりの回転角である。また、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψの各々は、右ネジの方向(
図2では、各々の矢印方向)の回転で正の値を示す。本実施の形態では、便宜上、後述するヨー角偏差は基準座標系を路面座標系206とし、さらに、本来は地球座標系204に対して定義されるオイラー姿勢角を、車体座標系208に対して、ロール角φ
v、ピッチ角θ
v及びヨー角ψ
vと定義する。以後、単に、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψと記した場合は、基本的に、車体座標系208に対して定義された姿勢角であるとする。
【0025】
図3は、本実施の形態における変数の一例を示した説明図である。本実施の形態では、車両200の前後速度U、車両200の横速度V及び車両200の上下速度Wの各々を定義する。Uはx軸、Vはy軸及びWはz軸に各々平行する。
【0026】
また、車両200のロール角φ、ピッチ角θ、ヨー角ψに対応するIMU26の出力値は、角速度であるロールレートP、ピッチレートQ、ヨーレートRと定義する。
【0027】
従来はIMU26、ジャイロセンサ等の精度が不十分であったこともあり、ヨーレートRの推定にも車両運動モデルを活用していた。しかし近年、安価なIMU26に用いられるMEMSジャイロの精度が向上していると共に、車速センサ及び操舵角センサ等の複数センサが車両200に搭載されることで特にヨーレートRについては補正が容易になった。
【0028】
本実施の形態では、車両運動モデルのヨーレートは使用せず、IMU26が検出したヨーレートRの値を後述するように補正して使用する。
【0029】
図4は、演算装置14の一例を示した概略図である。本実施の形態に係る演算装置14は、GPSの測位情報又はセンシング装置が検出した車両20の位置情報によりIMU26が検出したヨーレートR及び車速センサ24が検出した車両200の前後速度Uを補正するGPS補正部42と、IMU26が検出したロールレートP及びピッチレートQの各々の誤差を推定する第1推定部44と、IMU26が検出した車両200の進行方向(x軸方向)の前後加速度、車両200の横方向(y軸方向)の横加速度及び車両200の上下方向の上下加速度の各々の誤差を推定する第2推定部46と、を含む。演算装置14は、車両200の位置推定の演算を行うが、本実施の形態では、位置推定の演算に用いるIMU26の検出値のゼロ点誤差を推定する場合に特化した説明を行い、位置推定の演算について詳細な説明は省略する。
【0030】
ヨーレートRは、鉛直軸であるz軸周りの回転運動の角速度であるから、x軸及びy軸を含む平面座標系での回転運動の角速度である。また、車両200の前後速度Uも、ヨーレートRと同様にx軸及びy軸を含む平面座標系での運動に係る変化量である。GPSを用いると、平面座標系での運動による車両200の位置の変化を精度よく検出できるので、GPS補正部42では、GPSによって得た測位情報に基づいて車速センサ24が検出した前後速度U及びIMU26が検出したヨーレートRを補正する。衛星からの電波が遮蔽される等によりGPSによる測位情報を得られない場合、GPS補正部42では、車載カメラ等の撮像装置、LIDAR(Light Detection and Ranging)及びソナー等のセンシング装置によって得た車両200の位置情報に基づいて車速センサ24が検出した前後速度U及びIMU26が検出したヨーレートRを補正する。
【0031】
第1推定部44では、状態方程式f(x)を用いてIMU26が検出したピッチレート、ロールレートの各々の誤差を推定する。第2推定部46では、第1推定部44とは別の状態方程式f(x)を用いてIMU26が検出した前後加速度、横加速度及び上下加速度の各々の誤差を推定する。状態方程式f(x)を用いた第1推定部44及び第2推定部46での処理は、後述する。
【0032】
続いて、姿勢角推定部40における処理について説明する。本実施の形態では、下記の式(1)により、車両200の姿勢角の変化率である姿勢角の角速度を定義する。式(1)は、ピッチレートP
v、ロールレートQ
v及びヨーレートR
vの3軸の角速度に係る方程式である。
【0033】
さらに上記式(1)及び重力加速度gとに基づくと、IMU26による各軸の加速度は下記の式で表される。なお、下記の式(2)は、ロールレートP
v、ピッチレートQ
v、ヨーレートR
v、前後速度U
v、横速度V
v及び上下速度W
vの各変数を含む、前後加速度A
x、横加速度A
y及び上下加速度A
zの3軸の加速度に係る方程式である。上記の式(1)と下記の式(2)とを用いることにより、前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
z、ピッチレートP
v、ロールレートQ
v及びヨーレートR
vに係る6自由度の車両の平面運動を記述できる。
【0034】
上記の式(1)、(2)が成立するという条件の下、IMU26の出力のゼロ点誤差の推定を行う。ただし、車両200が常に路面上を走行することを鑑みると、式(2)において、横速度V
v及び上下速度W
vの各々の長時間での平均値は0になると仮定できる。従って、横速度V
v及び上下速度W
v、並びに横速度V
vの微分値及び上下速度W
vの微分値を各々0とみなすと、上記の式(2)は、下記の式(3)のようになる。
【0035】
また、車両姿勢角であるロール角φ
v及びピッチ角θ
vの各々が十分に小さいと仮定すると、sinφ
v≒φ
v、cosφ
v≒1、sinθ
v≒θ
v、cosθ
v≒1とみなすことが可能なので、式(1)、(3)は、下記の式(4)のように縮退される。
【0036】
前述のように、車両200の運動パターンであるヨーレートR
vは、GPS補正部42で補正されるので、補正済みの既知情報として扱える。また、IMU26による前後加速度A
xの微分値、及び横加速度A
yの微分値の各々はゼロ点誤差を含まず既知情報として扱えるので、上記の式(4)から、下記の式(5)、(6)、(7)が導かれる。式(5)、(6)、(7)において、左辺は既知な変数のみを含み、右辺は未知の変数を含む。
【0037】
上記の式(5)、(6)、(7)において、未知の変数はロールレートP
v、ピッチレートQ
v、前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
zの5つである。3つの線形方程式に対して未知の変数が5つ存在するので、式(5)、(6)、(7)から一意に5つの変数を算出することはできない。従って、車両200の走行条件によって推定する変数を変化させる。例えば、ヨーレートR
vが十分に小さい場合を想定し、R
v≒0とすると、上記の式(5)、(6)、(7)は、下記の式(8)、(9)のようになる。
【0038】
式(8)、(9)では未知の変数は角速度であるロールレートP
v及びピッチレートQ
vのみになるので、ロールレートP
v及びピッチレートQ
vの各々を推定することができ、ロールレートP
s及びピッチレートQ
sの各々のゼロ点誤差を推定することが可能になる。角速度のゼロ点誤差の推定が完了すると、式(5)、(6)、(7)における未知の変数は加速度のみになるので、ヨーレートR
vが大きい走行区間を想定して、前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
zの各々の値を算出する。
【0039】
以上の計算プロセスをまとめると下記のようになる。まず、ヨーレートR
v≒0の走行条件において、ロールレートP
v及びピッチレートQ
vの各々を下記の式(10)を用いて推定し、推定されたロールレートP
v及びピッチレートQ
vと、IMU26が検出したピッチレートPs、ロールレートQsとの差分を、ロールレートP
s及びピッチレートQ
sの各々のゼロ点誤差として推定する。式(10)は、加速度センサであるIMU26の出力の微分値と、補正済みの車両200の前後速度U
vと、ゼロ点誤差を補正済みのヨーレートR
vとで表される。より具体的には、ロールレートP
vは、IMU26が検出した横加速度A
yの微分値から補正済みの前後速度U
vとゼロ点誤差を補正済みのヨーレートR
vの微分値との積を減算して得た値と重力加速度gとの商で表されることを示す。また、ピッチレートQ
vは、IMU26が検出した前後加速度A
xの微分値から補正済みの前後速度U
vの2階微分値を減算して得た値と重力加速度gとの商で表される。
【0040】
次いで、ヨーレートR
vが大きい区間で前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
zの各々の値を下記の式(11)を用いて算出し、推定された前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
zと、IMU26が検出した前後加速度A
s、横加速度A
s、上下加速度A
sとの差分を、前後加速度A
s、横加速度A
s、上下加速度A
sの各々のゼロ点誤差として推定する。式(10)は、上記の式(10)等に基づいて補正されたロールレートP
v及びピッチレートQ
vと、加速度センサであるIMU26の出力の微分値と、補正済みの前後速度U
vと、ゼロ点誤差を補正済みのヨーレートR
vとで表される。
【0041】
上記の式(11)は、より具体的には、前後加速度A
xは、誤差を補正したロールレートP
vと重力加速度gとの積から、IMU26が検出した横加速度A
yの微分値を減算し、誤差を補正したヨーレートR
vの微分値と補正済みの前後速度U
vとの積を加算し、誤差を補正したヨーレートR
vと補正済みの前後速度U
vの微分値との積を加算して得た値と誤差を補正したヨーレートR
vとの商で表されることを示している。また、上記の式(11)は、横加速度A
yは、誤差を補正したピッチレートQ
vと重力加速度gとの積から、補正済みの前後加速度A
xの微分値を減算し、補正済みの前後速度U
vの2階微分値を加算し、誤差を補正したヨーレートR
vの二乗と補正済みの前後速度U
vとの積を加算して得た値と誤差を補正したヨーレートR
vとの商で表されることを示している。また、上記の式(11)は、上下加速度A
zは、重力加速度gから誤差を補正したロールレートR
vと補正済みの前後速度U
vとの積を減算して得た値で表されることを示している。
【0042】
式(10)を用いた処理は第1推定部44で、式(11)を用いた処理は第2推定部で、各々実行される処理に相当する。
変形例では、状態量である変数xと状態方程式f(x)とに基づき、非線形方程式を扱うことが可能なアンセンティッドカルマンフィルタ(以下、「UKF」と略記)を用いた演算により、上記のような方程式の縮退を行わずに、IMU26のゼロ点誤差の推定を行う。
【0043】
以下に、変形例における、第1推定部44で行われるUKFを用いた角速度誤差推定について説明する。UKFを用いる場合も、式(10)を用いる場合と同様に、第1推定部44は、ヨーレートR
vが十分に小さい走行条件において、IMU26が検出したロールレートP
v及びピッチレートQ
vのゼロ点誤差を推定する。UKFを用いた角速度誤差推定に係る状態変数x
gを下記の式(12)のように定義する。下記の式(12)中のε
1はロールレートP
vのゼロ点誤差、ε
2はピッチレートQ
vのゼロ点誤差である。
【0044】
上記の状態量x
gに対して、dx/dt=f
g(x
g)の関係が成り立つ状態方程式f
g(x
g)を下記の式(13)、(14)、(15)のように立式する。式(14)、(15)は、上述の式(1)に含まれる状態方程式である。
【0045】
また、各状態量x
gに対するシステムノイズQ
gを下記のように定義する。本実施の形態では、U
vの微分、P
v、Q
v、R
v、ε
1、ε
2については、白色ノイズによって駆動されるランダムウォークモデルとし、1次のマルコフモデルを採用してもよい。
【0046】
次に観測量を下記のように観測行列として定義する。式(16)の右辺のU
sは車速センサ24が検出した車速の値であり、P
s、Q
s、R
sの各々は角速度センサとして機能するIMU26が検出したロールレート、ピッチレート、ヨーレートの各々の値である。また、A
x、A
yの各々は加速度センサとして機能するIMU26が検出した前後加速度、横加速度の各々の値である。
【0047】
本実施の形態では、IMU26が検出したヨーレートR
sはGPS等によってゼロ点誤差が補正可能なので、ロールレートP
sとピッチレートQ
sとにゼロ点誤差が存在すると仮定する。従って、観測値であるロールレートP
sとピッチレートQ
sとに対する観測方程式h
g(x
g)は、下記の式(17)、(18)のようになる。前述のように、ε
1はロールレートP
sのゼロ点誤差、ε
2はピッチレートQ
sのゼロ点誤差である。
【0048】
ただし、各観測量に対する観測ノイズR
gを下記のように定義する。
【0049】
UKFでは、式(13)、(14)、(15)で示した状態方程式f
g(x
g)の各々を離散化して使用する。従って、関数f
g(x
g)の入出力関係を、時間t=k、k−1に対して、x
g(k)=f
g(x
g(k−1))となる形で使用する。
【0050】
図5は、本実施の形態に係る演算装置14の第1推定部44の機能ブロック図の一例である。
図5に示したように、第1推定部44は、状態方程式f
g(x
g)と観測方程式h
g(x
g)とを用いて、IMU26の検出値を推定する事前推定部102と、事前推定部102が出力した事前推定値を、IMU26の検出値を用いて補正するフィルタリング部104と、を含む。
【0051】
カルマンフィルタは線形・非線形を含め種々の手法が提案されている。本実施の形態では、前述のように状態方程式f
g(x
g)が非線形である事を踏まえ、非線形カルマンフィルタを活用する例を示す。中でも状態方程式f
g(x
g)についての線形化を要さず、かつ計算負荷が比較的小さいUKFを一例として採用する。状態方程式f
g(x
g)が線形の場合は、線形カルマンフィルタを用いてもよいし、UKF以外の非線形カルマンフィルタを用いてもよい。
【0052】
図6は、事前推定部102の機能ブロック図の一例である。
図6に示したように、事前推定部102は、第1アンセンティッド変換部102Aと第2アンセンティッド変換部102Bとを含む。
【0053】
第1アンセンティッド変換部102Aは、状態方程式f
g(x
g)に基づいて状態量を更新する1回目のアンセンティッド変換(Unscented transfer)を行って、x
gの平均及びx
gの共分散行列を出力する。
【0054】
第2アンセンティッド変換部102Bは、第1アンセンティッド変換部102Aが出力した状態量x
gの平均及び状態量x
gの共分散行列を用いて、観測方程式h
g(x
g)に従って、対応する観測量y
gに変換する2回目のアンセンティッド変換を行う。
【0055】
なお、アンセンティッド変換の目的は、ある非線形関数y=f(x)による変換において、下記の観測量yの平均及び共分散行列を精度よく求めることにある。
【0056】
従って、本実施の形態は、平均値と標準偏差とに対応する2n+1個のサンプル(シグマポイント)を用いて、確率密度関数を近似することを特徴とする。
【0057】
図6に示したように、第1アンセンティッド変換部102Aは、シグマポイント重み係数部102A1と、関数変換部102A2と、U変換部102A3と、を含む。また、第2アンセンティッド変換部102Bは、シグマポイント重み係数部102B1と、関数変換部102B2と、U変換部102B3と、を含む。
【0058】
第1アンセンティッド変換部102Aのシグマポイント重み係数部102A1及び第2アンセンティッド変換部102Bのシグマポイント重み係数部102B1では、シグマポイントX
i:i=0、1、2、…2nが、下記のように選択される。
【0059】
ただし、スケーリングファクタκは、κ≧0となるように選択する。また、シグマポイントに対する重みは下記のように定義する。
【0060】
第1アンセンティッド変換部102Aの関数変換部102A2における、非線形関数f(x)による各シグマポイントの変換は下記のようになる。下記は、第1アンセンティッド変換部102Aの関数変換部102A2での状態方程式f
g(x)による変換だが、第2アンセンティッド変換部102Bの関数変換部102B2での観測方程式h
g(x)を用いた変換では、観測値が得られる。
【0061】
第1アンセンティッド変換部102AのU変換部102A3では、関数f
g(x
g)によって変換された値と、前述の重み係数とを用いて、下記のように状態量x
gの平均値と状態量x
gの共分散行列を算出する。なお、下記式中のQ
gはシステムノイズである。
【0062】
第2アンセンティッド変換部102BのU変換部102B3では、下記の計算を行う。
【0063】
図7は、フィルタリング部104の機能ブロック図の一例である。フィルタリング部104では、U変換部102B3で計算された、状態量の事前予測値に対応する観測値と、実際に観測された観測値との差を比較し、状態量の予測値を補正する処理を行う。
【0064】
状態量の予測値を実際に観測された値でフィードバックする処理はカルマンゲイン(Kalman Gain)と呼ばれ、次式で計算される。なお、次式のR
gは観測ノイズである。
【0065】
次に、このカルマンゲインを用いて、状態量の事前予測値を補正する処理を次のように行う。
【0066】
以上の事前推定部102及びフィルタリング部104の処理を各タイムステップごとに繰り返すことにより、ロールレートP
v及びピッチレートQ
vの推定値を算出することにより、IMU26が検出したロールレートP
sのゼロ点誤差ε
1及びピッチレートQ
sのゼロ点誤差ε
2を推定することができる。
【0067】
IMU26が検出したロールレートP
sのゼロ点誤差ε
1及びピッチレートQ
sのゼロ点誤差ε
2を推定する場合、フィルタリング部104が出力したx
g(k)、P
xg(k)を前回値として事前推定部102に入力し、上述のように2段階のアンセンティッド変換を行って状態量の事前予測値及び対応する観測値を計算する。計算した状態量の予測値は、フィルタリング部104でカルマンゲイン及び実際に観測された最新の観測値を用いて補正される。フィルタリング部104が出力したx
g(k)、P
xg(k)は、記憶装置18に一時的にホールドし、記憶装置18にホールドしたx
g(k)、P
xg(k)を前回値として事前推定部102に入力する。
【0068】
第1推定部44は、ヨーレートR
vが十分に小さい走行条件において、この状態量の事前予測値の計算と実際に観測された最新の値での補正を繰り返すことにより、IMU26が検出したロールレートP
sのゼロ点誤差ε
1及びピッチレートQ
sのゼロ点誤差ε
2を推定する。UKFを用いることにより、非線形の方程式を近似によって縮退することを要しないので、ロールレートP
sのゼロ点誤差ε
1及びピッチレートQ
sのゼロ点誤差ε
2を精度よく推定できる。
【0069】
続いて、第2推定部46におけるUKFを用いた加速度誤差推定について説明する。UKFを用いる場合も、式(11)を用いる場合と同様に、第2推定部46は、車両200が旋回中等のヨーレートR
vが比較的大きい走行条件において、IMU26が検出した前後加速度A
x及び横加速度A
yのゼロ点誤差を推定する。
【0070】
UKFを用いた角速度誤差推定に係る状態変数x
aを下記の式(19)のように定義する。下記の式(19)中のε
3は前後加速度A
xのゼロ点誤差、ε
4は横加速度A
yのゼロ点誤差、ε
5は上下加速度A
zのゼロ点誤差である。
【0071】
上記の状態量x
aに対して、dx/dt=f
a(x
a)の関係が成り立つ状態方程式f
a(x
a)を下記の式(20)、(21)、(22)のように立式する。式(21)、(22)は、上述の式(1)に含まれる状態方程式である。
【0072】
また、各状態量x
aに対するシステムノイズQ
aを下記のように定義する。本実施の形態では、U
vの微分、P
v、Q
v、R
v、ε
3、ε
4、ε
5については、白色ノイズによって駆動されるランダムウォークモデルとし、1次のマルコフモデルを採用してもよい。
【0073】
次に観測量を下記のように観測行列として定義する。式(23)の右辺のU
sは車速センサ24が検出した車速の値であり、P
s、Q
s、R
sの各々は角速度センサとして機能するIMU26が検出したロールレート、ピッチレート、ヨーレートの各々の値である。また、A
x、A
yの各々は加速度センサとして機能するIMU26が検出した前後加速度、横加速度の各々の値である。
【0074】
観測値である前後加速度A
x、横加速度A
y、上下加速度A
zに対する観測方程式h
a(x
a)は、下記の式(24)、(25)、(26)のようになる。前述のように、ε
3は前後加速度A
xのゼロ点誤差、ε
4は横加速度A
yのゼロ点誤差、ε
5は上下加速度A
zのゼロ点誤差である。
【0075】
ただし、各観測量に対する観測ノイズR
aを下記のように定義する。
【0076】
以上の状態方程式である式(20)、(21)、(22)、観測方程式である式(24)、(25)、(26)を用いて、上述の角速度誤差推定の場合と同様にUKFにより加速度誤差推定を行う。
第2推定部46は、ヨーレートR
vが比較的大きい走行条件において、この状態量の事前予測値の計算と実際に観測された最新の値での補正を繰り返すことにより、IMU26が検出した前後加速度A
xのゼロ点誤差ε
3、横加速度A
yのゼロ点誤差ε
4、上下加速度A
zのゼロ点誤差ε
5を推定する。UKFによる演算は、上述の角速度誤差推定の場合と同様なので、詳細な説明は省略する。UKFを用いることにより、非線形の方程式を近似によって縮退することを要しないので、角速度の誤差及び加速度の誤差を精度よく推定できる。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態に係るセンサ誤差補正装置によれば、ロールレートP
sのゼロ点誤差ε
1、ピッチレートQ
sのゼロ点誤差ε
2、前後加速度A
xのゼロ点誤差ε
3、横加速度A
yのゼロ点誤差ε
4及び上下加速度A
zのゼロ点誤差ε
5を精度よく推定できる。ゼロ点誤差を補正したロールレートP
v、ピッチレートQ
v、ヨーレートR
v、前後加速度A
x、横加速度A
y及び上下加速度A
zを用いることにより、車両200の位置推定の精度を向上させることが可能となる。
【0078】
また、本実施の形態に係るセンサ誤差補正装置10は、非線形モデルであるUKFを用いるので、IMU26が検出した値の直接微分又は近似を用いることを要しない。従って、本実施の形態に係るセンサ誤差補正装置10は、IMU26が検出した角速度及び加速度のゼロ点誤差を高精度で推定することができる。