(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記絶縁性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポチエチレンテレフタレート、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、およびシリコーンゴムから成る群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
さらに、前記正極活物質層上に絶縁性フィラーを含む多孔質層形成用塗料を塗布し、これをプレスして正極を得る工程を含む、請求項14に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の一例を、構成要素ごとに説明する。
【0009】
[正極]
正極は、正極集電体と、正極活物質および正極結着剤を含む正極活物質層と、絶縁性フィラーを含む多孔質層とを備える。
【0010】
正極活物質は、いくつかの観点から選ぶことができる。高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物を含むことが好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)またはニッケル酸リチウムのNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物が挙げられ、下式(C)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。
【0011】
Li
yNi
(1−x)M
xO
2 (C)
(但し、0≦x<1、0<y≦1.2、MはCo、Al、Mn、Fe、Ti及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。)
【0012】
高容量の観点では、Niの含有量が高いこと、即ち式(C)において、xが0.5未満が好ましく、さらに0.4以下が好ましい。このような化合物としては、例えば、Li
αNi
βCo
γMn
δO
2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、Li
αNi
βCo
γAl
δO
2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)等が挙げられ、特に、LiNi
βCo
γMn
δO
2(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi
0.8Co
0.05Mn
0.15O
2、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2、LiNi
0.8Co
0.1Al
0.1O
2等を好ましく用いることができる。
【0013】
また、熱安定性の観点では、Niの含有量が0.5を超えないこと、即ち、式(C)において、xが0.5以上であることも好ましい。また特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物としては、Li
αNi
βCo
γMn
δO
2(0<α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi
0.4Co
0.3Mn
0.3O
2(NCM433と略記)、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2(NCM523と略記)、LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2(NCM532と略記)等(但し、これらの化合物においてそれぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む)を挙げることができる。
【0014】
また、式(C)で表される化合物を2種以上混合して使用してもよく、例えば、NCM532またはNCM523とNCM433とを9:1〜1:9の範囲(典型的な例として、2:1)で混合して使用することも好ましい。さらに、式(C)においてNiの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上、例えばNCM433)とを混合することで、高容量で熱安定性の高い電池を構成することもできる。
【0015】
層状リチウムニッケル複合酸化物はその他の金属元素でさらに置換されてもよい。例えば、下式(D)で表される層状リチウムニッケル複合酸化物も好ましく使用され得る。
【0016】
Li
aNi
bCo
cM1
dM2
eO
f (D)
(0.8≦a≦1.2、0.5≦b<1.0、0.005≦c≦0.4、0.005≦d≦0.4、0≦e<0.1、1.8≦f≦2.3、b+c+d+e=1、M1はMnまたはAlであり、M2はB、Na、Mg、Al、S、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Sn、Pb、およびWから成る群より選択される1種以上の金属である。)
【0017】
上記以外にも正極活物質として、例えば、LiMnO
2、Li
xMn
2O
4(0<x<2)、Li
2MnO
3、xLi
2MnO
3−(1−x)LiMO
2(xは、0.1<x<0.8、Mは、Mn、Fe、Co、Ni、Ti、AlおよびMgから成る群より選択される1種以上の元素である)、Li
xMn
1.5Ni
0.5O
4(0<x<2)等の層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO
2またはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの;及びLiFePO
4等のオリビン構造を有するもの等が挙げられる。さらに、これらの金属酸化物をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等により一部置換した材料も使用することができる。上記に記載した正極活物質はいずれも、1種を単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0018】
正極結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。また、正極結着剤は、前記の複数の樹脂の混合物、共重合体およびその架橋体、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等であってもよい。さらに、SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。正極結着剤の量は、正極活物質100重量部に対して、下限として好ましくは1重量部以上、より好ましくは2重量部以上、上限として好ましくは30重量部以下、より好ましくは25重量部以下である。
【0019】
正極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電材を添加してもよい。導電材としては、鱗片状、煤状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0020】
正極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびそれらの合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特に、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン系のステンレスを用いた正極集電体が好ましい。
【0021】
正極は、例えば、正極活物質、正極結着剤及び溶媒を含む正極スラリーを調製し、これを正極集電体上に塗布し、正極活物質層を形成することにより作製できる。正極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。予め正極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を正極集電体として形成して、正極を作製してもよい。
【0022】
本実施形態においては、正極上に絶縁性フィラーを含む多孔質層(以降、絶縁層とも呼ぶ)を設ける。絶縁層は、好ましくは正極活物質層上に積層される。正極に設けられた絶縁層は、正極活物質による電解液の分解を抑制できる。さらには、ハロゲン化環状酸無水物を使用する電池の場合、正極に絶縁層を設けることにより抵抗上昇が大きく抑制され得る。
【0023】
絶縁性フィラーとしては、例えば、金属の酸化物や窒化物、具体的には、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の無機粒子、およびポリプロピレン、ポリエチレン、ポチエチレンテレフタレート等ポリエステル、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーンゴム等の有機粒子が挙げられる。
【0024】
絶縁層は、絶縁性フィラーに加えて、絶縁性フィラーを結着する結着剤を含んでよい。結着剤は、特に限定されないが、フッ素や塩素等ハロゲンを含有するポリマーが挙げられる。これらは耐酸化性に優れるため絶縁層に使用される結着剤に適している。より具体的には、このような結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリパーフルオロアルコキシフルオロエチレン等のフッ素または塩素を含有するポリオレフィンが挙げられる。
【0025】
後述する絶縁層形成用塗料に水系の溶媒(結着剤の分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)を使用する場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーを結着剤に用いることができる。水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーを1種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、アクリル系樹脂は、2種以上の上記モノマーを重合した共重合体であってもよい。さらに、上記単独重合体及び共重合体の2種類以上を混合したものであってもよい。上述したアクリル系樹脂のほかに、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらポリマーは、一種のみを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。結着剤の形態は特に制限されず、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよく、溶液状あるいはエマルジョン状に調製したものを用いてもよい。2種以上の結着剤を、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
【0026】
この他にも電極に使用する結着剤として例示されるものを絶縁層の結着剤に使用してもよい。
【0027】
絶縁層は、上述した絶縁性フィラーおよび結着剤以外の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等の絶縁層形成用塗料の増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。特に水系溶媒を使用する場合、増粘剤として機能するポリマーを含有することが好ましい。
【0028】
絶縁層中の絶縁性フィラーの割合は、好ましくは80重量%以上であり、より好ましくは90重量%以上である。絶縁層中の絶縁性フィラーの割合は、好ましくは99重量%以下であり、より好ましくは97重量%以下である。また、絶縁層中の結着剤の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。絶縁層中の結着剤の割合は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。上記結着剤の割合が少なすぎると、絶縁層自体の強度(保形性)が低下して、ヒビや剥落等の不具合が生じることがある。上記結着剤の割合が多すぎると、絶縁層の粒子間の隙間が不足し、絶縁層のイオン透過性が低下する場合がある。絶縁層と結着剤の比率を上記範囲内とすることで適切な空孔率を得ることができる。
【0029】
絶縁性フィラー及び結着剤以外の絶縁層形成成分、例えば増粘剤を含有する場合は、絶縁層における該増粘剤の含有割合をおよそ10重量%以下とすることが好ましく、およそ5重量%以下が好ましく、2重量%以下(例えばおよそ0.5重量%〜1重量%)とすることが好ましい。
【0030】
絶縁層の空孔率(空隙率)(見かけ体積に対する空孔体積の割合)は、イオンの電導性を維持するために、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。しかしながら、空孔率が高すぎると絶縁層の摩擦や衝撃等による脱落や亀裂が生じることから、絶縁層の空孔率は、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。
【0031】
なお、空孔率は、絶縁層の単位面積当たりの重量、絶縁層を構成する材料の比率と真比重および塗工厚みから、理論密度と見掛けの密度を計算することにより求められる。
【0032】
次に、絶縁層の形成方法について説明する。絶縁層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、絶縁層形成用塗料を正極に塗布することにより形成できる。絶縁層形成用塗料には、絶縁性フィラーおよび結着剤等の絶縁層の構成成分、および溶媒を混合分散したペースト状(スラリー状またはインク状を含む。)のものを用いることができる。
【0033】
絶縁層形成用塗料に用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。あるいは、N−メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の有機系溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。絶縁層形成用塗料における溶媒の含有率は特に限定されないが、塗料全体の30〜90重量%、特には50〜70重量%程度が好ましい。
【0034】
上記絶縁性フィラーおよび結着剤等の構成成分成分を溶媒に混合させる操作は、ボールミル、ホモディスパー、ディスパーミル(登録商標)、クレアミックス(登録商標)、フィルミックス(登録商標)、超音波分散機等の適当な混練機を用いて行うことができる。
【0035】
絶縁層は、絶縁層形成用塗料を正極活物質層上に塗布することにより作製できる。正極スラリーの正極集電体への塗布と同時に、絶縁層形成用塗料を塗布してもよい。絶縁層形成用塗料を塗布する操作は、従来の一般的な塗布手段を使用することができる。例えば、適当な塗布装置(グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコート等)を使用して、所定量の絶縁層形成用塗料を均一な厚さにコーティングすることにより、絶縁層を塗布してよい。塗布後に、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥することによって、溶媒を除去できる。乾燥温度は、例えば30℃〜110℃等140℃以下であってよい。絶縁層が結着剤を含まない場合、絶縁性フィラーが固定されるように、絶縁性フィラーを焼結または融着する工程をさらに設けてもよい。
【0036】
[負極]
負極は、負極集電体と、負極活物質および負極結着剤を含む負極活物質層とを備える。
【0037】
負極活物質としては、充放電に伴いリチウムイオンを可逆的に受容、放出可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、金属、金属酸化物、炭素材料等を挙げることができる。
【0038】
金属としては、例えば、Li、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La、またはこれらの2種以上の合金等が挙げられる。また、これらの金属または合金は2種以上混合して用いてもよい。また、これらの金属または合金は1種以上の非金属元素を含んでもよい。
【0039】
金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウム、またはこれらの複合物等が挙げられる。本実施形態では、金属酸化物の負極活物質として酸化スズもしくは酸化シリコンを含むことが好ましく、酸化シリコンを含むことがより好ましい。これは、酸化シリコンが、比較的安定で他の化合物との反応を引き起こしにくいからである。酸化シリコンとしては、組成式SiO
x(ただし、0<x≦2)で表されるものが好ましい。また、金属酸化物に、窒素、ホウ素および硫黄の中から選ばれる1種または2種以上の元素を、例えば0.1〜5重量%添加することもできる。こうすることで、金属酸化物の電気伝導性を向上させることができる。
【0040】
金属や金属酸化物の表面には、炭素を被覆してもよい。炭素の被覆によりサイクル特性を改善できる場合がある。炭素被膜の形成方法は、例えば、炭素源を用いたスパッタ法または蒸着法等により行うことができる。
【0041】
炭素材料としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、グラフェン、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、またはこれらの複合物等が挙げられる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅等の金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
【0042】
負極結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。また、前記の複数の樹脂からなる混合物や、共重合体、さらにその架橋体であるスチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。さらに、SBR系エマルジョンのような水系の結着剤を用いる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を用いることもできる。負極結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、負極活物質100重量部に対して、0.5〜20重量部が好ましい。
【0043】
負極活物質層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電材を添加してもよい。導電材としては、鱗片状、煤状、線維状の炭素質微粒子等、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、気相法炭素繊維等が挙げられる。
【0044】
負極集電体としては、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、クロム、銅、銀、およびそれらの合金を使用できる。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る負極は、例えば、負極活物質、負極結着剤および溶媒を含む負極スラリーを調製し、これを負極集電体上に塗布し、負極活物質層を形成することにより作製できる。負極活物質層の形成方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を負極集電体として形成して、負極を作製してもよい。正極と同様に、負極上に絶縁層を設けてもよい。
【0046】
[電解液]
電解液は、非水溶媒および支持塩に加えて、添加剤としてハロゲン化環状酸無水物を含む。
【0047】
本実施形態におけるハロゲン化環状酸無水物としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸の無水物、スルホン酸の無水物、カルボン酸とスルホン酸との無水物等が挙げられる。
【0048】
酸無水物の少なくとも1つの水素原子をハロゲンで置換することにより、酸無水物の耐酸化性が向上し、正極における酸化分解を抑制することができるものと推定される。ハロゲン化環状酸無水物のハロゲン置換率(ハロゲン原子数/水素原子とハロゲン原子の原子数の和)は高い方が好ましい。ハロゲン化環状酸無水物のハロゲン置換率は、25%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。
【0049】
ハロゲンは、好ましくはフッ素である。酸無水物の少なくとも1つの水素原子をフッ素原子で置換することにより、酸無水物の耐酸化性が向上し、正極における酸化分解を抑制することができるものと推定される。フッ素化酸無水物のフッ素置換率(フッ素原子数/水素原子とフッ素原子の原子数の和)は高い方が好ましい。フッ素化酸無水物のフッ素置換率は、25%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、100%が最も好ましい。
【0050】
本実施形態において、ハロゲン化環状酸無水物は、好ましくは下記式(1)で表されるカルボン酸無水物である。
【0051】
【化1】
(式(1)において、R
11は、置換若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数2〜5のアルケニレン基、置換若しくは無置換の炭素数5〜12のシクロアルカンジイル基、置換若しくは無置換の炭素数5〜12のシクロアルケンジイル基、置換若しくは無置換のベンゼンジイル基、またはエーテル結合を介してアルキレン基が結合した炭素数2〜6の2価の基を示し、ただし、R
11の水素原子の少なくとも一部がハロゲンで置換されている。)
【0052】
式(1)において、R
11のアルキレン基およびアルケニレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0053】
式(1)において、R
11のアルキレン基の炭素数は、1,2,3または4であることが好ましい。R
11のアルケニレン基の炭素数は、2,3または4であることが好ましい。
【0054】
式(1)において、R
11のシクロアルカンジイル基およびシクロアルケンジイル基の炭素数は、5,6,7,8,9または10であることが好ましい。なお、シクロアルカンジイル基およびシクロアルケンジイル基は、ビシクロアルキレン基またはビシクロアルケニレン基のように複数の環構造を有する2価の基であってもよい。
【0055】
式(1)において、エーテル結合を介してアルキレン基が結合した炭素数2〜6の2価の基は、エーテル結合(−O−)を介して2個以上のアルキレン基が結合した2価の基を表し、2個以上のアルキレン基は、同じであっても異なっていてもよい。アルキレン基は分岐鎖を有していてもよい。2個以上のアルキレン基の炭素数の合計は2,3,4または5であることが好ましく、2,3または4であることがより好ましい。
【0056】
式(1)において、R
11は、置換若しくは無置換の炭素数2〜5のアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数2〜5のアルケニレン基であることがより好ましい。置換若しくは無置換の炭素数2〜3のアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数2〜3のアルケニレン基であることがさらに好ましい。
【0057】
また、式(1)において、R
11中の炭素骨格(炭素−炭素間結合)が全て単結合で構成されていることがより好ましい。これは、R
11が二重結合を含む場合と比較して、過剰な反応によるガス発生が抑制されるためと考えられる。例えば、R
11は、アルキレン基であることがより好ましい。
【0058】
式(1)において、R
11の置換基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基)、炭素数2〜6のアルケニル基(例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−ブテニル基)、アリール基(例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基およびキシリル基)、炭素数1〜5のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基)、アミノ基(ジメチルアミノ基、メチルアミノ基を含む)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ビニル基、またはシアノ基が挙げられる。R
11は、1つの置換基を有していてもよく、複数の置換基を有していてもよい。
【0059】
式(1)で表されるハロゲン化環状酸無水物の具体例としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、フェニルコハク酸無水物、2−フェニルグルタル酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水フタル酸、無水ピロメリット酸等のハロゲン化物が挙げられるがこれらに限定されない。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0060】
式(1)において、水素を置換するハロゲンはフッ素であることが好ましい。フッ素化環状カルボン酸無水物の具体例としては、上で挙げた環状酸無水物のフッ素化物が挙げられる。特に、無置換の環状カルボン酸無水物の水素が全てフッ素で置換された化合物が好ましい。
【0061】
式(1)で表されるハロゲン化環状酸無水物の中で、無水グルタル酸のフッ素化物が好ましく、ヘキサフルオロ無水グルタル酸が特に好ましい。無水グルタル酸のフッ素化物を使用した電池において、抵抗上昇の抑制効果が特に大きい。また、無水グルタル酸のフッ素化物を使用することにより、高い容量維持率を有する電池を得ることができる。
【0062】
ハロゲン化環状酸無水物の電解液中の濃度は、0.005〜10重量%である。ハロゲン化環状酸無水物の濃度が0.005重量%以上の場合、ハロゲン化環状酸無水物の被膜を効果的に形成することができる。また、負極中の水分を効果的に捕捉することができる。ハロゲン化環状酸無水物の濃度が10重量%以下の場合、ハロゲン化環状酸無水物の分解による被膜が厚く形成されることを抑制でき、被膜による抵抗増加を抑制できる。ハロゲン化環状酸無水物の電解液中の濃度は、0.01重量%以上であることが好ましく、0.05重量%以上であることがより好ましい。また、ハロゲン化環状酸無水物の電解液中の濃度は、8重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。
【0063】
非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;カーボネート誘導体;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等のエーテル類;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類等の非プロトン性有機溶媒、および、これらの化合物の水素原子の少なくとも一部をフッ素原子で置換したフッ素化非プロトン性有機溶媒等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の環状または鎖状カーボネート類を含むことが好ましい。
【0065】
非水溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】
支持塩は、Liを含有すること以外は特に限定されない。支持塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、LiBF
4、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiC(CF
3SO
2)
3、LiN(FSO
2)
2(略称:LiFSI)、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiB
10Cl
10等が挙げられる。また、支持塩としては、他にも、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl等が挙げられる。このうち、耐酸化性、耐還元性、安定性、溶解のしやすさ、等からLiPF
6、LiFSIが特に好ましい。支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。支持塩の量は、電解液溶媒1Lに対して、好ましくは0.4mol以上1.5mol以下、より好ましくは0.5mol以上1.2mol以下である。
【0067】
[セパレータ]
絶縁層を有する正極を使用することにより、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は必ずしもセパレータを備えなくてよい。絶縁層を有する正極とともにセパレータを使用してもよい。
【0068】
セパレータは、電解液に対して耐久性を有するものであれば、いずれであってもよい。具体的な材質としては、ポリプロピレンおよびポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデンならびにポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド等の芳香族ポリアミド(アラミド)等が挙げられる。これらは、多孔質フィルム、織物、不織布等として用いることができる。
【0069】
[二次電池の構造]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば、
図1および
図2のような構造を有する。この二次電池は、電池要素20と、それを電解質と一緒に収容するフィルム外装体10と、正極タブ51および負極タブ52(以下、これらを単に「電極タブ」ともいう)とを備えている。
【0070】
電池要素20は、
図2に示すように、複数の正極30と複数の負極40とがセパレータ25を間に挟んで交互に積層されたものである。正極30は、金属箔31の両面に電極材料32が塗布されており、負極40も、同様に、金属箔41の両面に電極材料42が塗布されている。なお、本発明は、必ずしも積層型の電池に限らず捲回型等の電池にも適用しうる。
【0071】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は
図1および
図2のように電極タブが外装体の片側に引き出された構成であってもよいが、電極タブが外装体の両側に引き出されたものであってもいい。詳細な図示は省略するが、正極および負極の金属箔は、それぞれ、外周の一部に延長部を有している。負極金属箔の延長部は一つに集められて負極タブ52と接続され、正極金属箔の延長部は一つに集められて正極タブ51と接続される(
図2参照)。このように延長部どうし積層方向に1つに集めた部分は「集電部」等とも呼ばれる。
【0072】
フィルム外装体10は、この例では、2枚のフィルム10−1、10−2で構成されている。フィルム10−1、10−2どうしは電池要素20の周辺部で互いに熱融着されて密閉される。
図1では、このように密閉されたフィルム外装体10の1つの短辺から、正極タブ51および負極タブ52が同じ方向に引き出されている。
【0073】
当然ながら、異なる2辺から電極タブがそれぞれ引き出されていてもよい。また、フィルムの構成に関し、
図1、
図2では、一方のフィルム10−1にカップ部が形成されるとともに他方のフィルム10−2にはカップ部が形成されていない例が示されているが、この他にも、両方のフィルムにカップ部を形成する構成(不図示)や、両方ともカップ部を形成しない構成(不図示)等も採用しうる。
【0074】
[二次電池の製造方法]
本実施形態によるリチウムイオン二次電池は、通常の方法に従って作製することができる。積層ラミネート型のリチウムイオン二次電池を例に、リチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。まず、乾燥空気または不活性雰囲気において、正極および負極を、セパレータを介して対向配置して、電極素子を形成する。次に、この電極素子を外装体(容器)に収容し、電解液を注入して電極に電解液を含浸させる。その後、外装体の開口部を封止してリチウムイオン二次電池を完成する。
【0075】
[組電池]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を複数組み合わせて組電池とすることができる。組電池は、例えば、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を2つ以上用い、直列、並列またはその両方で接続した構成とすることができる。直列および/または並列接続することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。組電池が備えるリチウムイオン二次電池の個数については、電池容量や出力に応じて適宜設定することができる。
【0076】
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池またはその組電池は、車両に用いることができる。本実施形態に係る車両としては、ハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バス等の商用車、軽自動車等)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。なお、本実施形態に係る車両は自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば電車、船舶、潜水艦、衛星等の移動体の各種電源として用いることもできる。
【実施例】
【0077】
<実施例1>
本実施例の電池の作製、および作製した電池の評価について説明する。
【0078】
(正極)
正極活物質としてのリチウムニッケル複合酸化物(LiNi
0.80Mn
0.15Co
0.05O
2)、導電材としてのカーボンブラック、正極結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを、90:5:5の重量比で計量し、それらをN−メチルピロリドンを用いて混練し、正極スラリーとした。調製した正極スラリーを、正極集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔に塗布し乾燥し、さらにプレスすることで正極を得た。
【0079】
(絶縁層形成用塗料の作製)
次にアルミナ(平均粒径1.0μm)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、90:10の重量比で計量し、それらをN−メチルピロリドンを用いて混練し、絶縁層形成用塗料とした。
【0080】
(正極への絶縁層コート)
作製した絶縁層形成用塗料を正極上にダイコーターで塗布し乾燥し、さらにプレスすることで絶縁層がコートされた正極を得た。断面を電子顕微鏡で観察したところ、絶縁層の平均厚みは5μmであった。絶縁層の平均厚みと、絶縁層を構成する各材料の真密度と組成比から絶縁層の空孔率は、55%であると算出された。
【0081】
(負極)
負極活物質としての人造黒鉛粒子(平均粒径8μm)と、導電材としてのカーボンブラック、負極結着剤としてのスチレン−ブタジエン共重合ゴム:カルボキシメチルセルロースの重量比1:1混合物を、97:1:2の重量比で計量し、それらを水を用いて混練し、負極スラリーとした。調製した負極スラリーを、負極集電体としての厚み15μmの銅箔に塗布し乾燥し、さらにプレスすることで負極を得た。
【0082】
(電解液)
非水溶媒としてエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(3:1:6(体積比))を用いた。LiPF
6の濃度が0.9mol/l、ヘキサフルオロ無水グルタル酸(FGA)の濃度が0.1mol/l(1.86重量%)となるように、LiPF
6およびヘキサフルオロ無水グルタル酸をこの混合溶媒に混合して、電解液を調製した。
【0083】
(二次電池の組み立て)
作製した正極および負極を、セパレータを介して重ね合わせて電極積層体を作製した。セパレータには単層のポリプロピレン多孔質フィルムを用いた。ここで、電極積層体の初回放電容量が100mAhになるように積層数を調整した。次に、正極および負極それぞれの集電部分を束ねて、アルミニウム端子、ニッケル端子を溶接し、電極素子を作製した。電極素子をラミネートフィルムで外装し、ラミネートフィルム内部に電解液を注入した。その後、ラミネートフィルム内部を減圧しながらラミネートフィルムを熱融着して封止した。これにより初回充電前の平板型リチウムイオン二次電池を作製した。ラミネートフィルムにはアルミニウムを蒸着したポリプロピレンフィルムを用いた。
【0084】
(容量維持率)
得られた平板型リチウムイオン二次電池を、充放電試験装置(ACD−100M:アスカ電子社製)を用いて、45℃環境下で、4.2Vから2.5Vの範囲で充放電を行った。充電は、4.2Vまでは1Cの一定電流、4.2Vに達した後は、一定電圧で1時間行うCCCV方式で行った。放電は、1Cの一定電流で行うCC方式で行い、初回放電容量を測定した。ここで、1Cは、最大限充電した状態の電池に対し、一定電流で1時間で放電を終了させたときの一定電流値を意味する。その後、この方式で充放電を1150サイクル行い、その間の所定のサイクル数において、それぞれ放電容量を測定した。初回放電容量(0サイクル)に対する各サイクルの放電容量の割合(%)を容量維持率として求めた。
【0085】
(インピーダンス特性)
得られた平板型リチウムイオン二次電池を、4.2VまでCCCV充電後、25℃環境下で、交流インピーダンス法によりインピーダンス測定を行い、Rsol(液抵抗)およびRct(電荷移動抵抗)を求めた。容量維持率の測定と同様に所定のサイクル数において、それぞれインピーダンス測定を実施した。
【0086】
<比較例1>
正極に絶縁層をコートしなかった。その他は実施例1と同様である。
【0087】
<比較例2>
電解液にヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加しなかった。その他は実施例1と同様である。
【0088】
<比較例3>
正極に絶縁層をコートしなかった。さらに、電解液にヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加しなかった。その他は実施例1と同様である。
【0089】
<比較例4>
ヘキサフルオロ無水グルタル酸に替えて、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を、濃度が0.1mol/l(0.87重量%)となるように電解液に添加して、電池を作製した。その他は実施例1と同様である。
【0090】
<比較例5>
正極に絶縁層をコートしなかった。その他は比較例4と同様である。
【0091】
実施例1および比較例1〜5の電池の容量維持率の推移を以下の表1に記載する。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1および比較例1〜5の電池のRsolおよびRctの推移を以下の表2に記載する。
【0094】
【表2】
【0095】
表1に示される通り、絶縁層を設けた電池の方が、容量維持率は改善される傾向にある。ヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加した電池も、容量維持率の改善効果が高い傾向にある。
【0096】
表2に示すように、初期のRsolは添加剤種類にかかわらず、絶縁層有りの場合に上昇が明確にみられる。これは、絶縁層を正極に設けたことにより、リチウムイオンが正極と負極の間を移動する経路が延長されたことが原因である。1150サイクルでのRsolは、添加剤が無しおよび添加剤がフルオロエチレンカーボネートの場合では、サイクル初期と同じく絶縁層を設けた電池の方が高いが、添加材がヘキサフルオロ無水グルタル酸の場合では、サイクル初期と異なり絶縁層を設けた電池の方が低くなった。絶縁層有りの場合、1150サイクルでは、ヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加した電池のRsolは、添加剤無しよりも0.12Ωも低くなり、最小のフルオロエチレンカーボネートとの差も0.02Ωとほぼ同等に抑えられた。一方で、絶縁層無しの場合、1150サイクルでは、ヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加した電池のRsolが一番高く、添加剤無しよりも0.06Ωも高い結果となった。1150サイクルでのRctも、絶縁層有りとヘキサフルオロ無水グルタル酸の組み合わせが最も低い値となった。
【0097】
これらの結果から、ヘキサフルオロ無水グルタル酸を添加した電池では、寿命特性が改善する反面、Rsolの上昇が大きくなるという問題があったが、絶縁層を正極に設けることで、寿命特性がさらに改善され、ヘキサフルオロ無水グルタル酸の添加によるRsolの上昇も大幅に抑えられ、抵抗上昇の小さな電池が得られることが分かる。
【0098】
この出願は、2017年4月25日に出願された日本出願特願2017−86233を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0099】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる
。
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、本出願の開示事項は以下の付記に限定されない。
(付記1)
絶縁性フィラーを含む多孔質層が形成された正極、および0.005〜10重量%のハロゲン化環状酸無水物を含む電解液を含む、リチウムイオン二次電池。
(付記2)
前記ハロゲン化環状酸無水物がハロゲン化環状カルボン酸無水物である、付記1に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記3)
前記ハロゲン化環状酸無水物が下記式(1)で表される、付記1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【化2】
(式(1)において、R11は、置換若しくは無置換の炭素数1〜5のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数2〜5のアルケニレン基、置換若しくは無置換の炭素数5〜12のシクロアルカンジイル基、置換若しくは無置換の炭素数5〜12のシクロアルケンジイル基、置換若しくは無置換のベンゼンジイル基、またはエーテル結合を介してアルキレン基が結合した炭素数2〜6の2価の基を示し、ただし、R11の水素原子の少なくとも一部がハロゲンで置換されている。)
(付記4)
前記ハロゲン化環状酸無水物がフッ素化環状酸無水物である、付記1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記5)
前記フッ素化環状酸無水物における水素原子とフッ素原子の原子数の和に対するフッ素原子数の比率が25%以上である、付記4に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記6)
前記フッ素化環状酸無水物が無水グルタル酸のフッ素化物である、付記4または5に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記7)
前記フッ素化環状酸無水物がヘキサフルオロ無水グルタル酸である、付記6に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記8)
前記絶縁性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポチエチレンテレフタレート、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、およびシリコーンゴムから成る群より選択される、付記1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
(付記9)
付記1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を搭載した車両。
(付記10)
正極と負極とをセパレータを介して積層して電極素子を製造する工程と、
前記電極素子と電解液とを外装体に封入する工程と、
を含み、
前記正極が、絶縁性フィラーを含む多孔質層を有し、
前記電解液が、0.005〜10重量%のハロゲン化環状酸無水物を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法。