(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粉砕装置は、前記フィルタに対して相対的に回転する粉砕部材であり、前記粉砕部材と前記フィルタ部材との間で前記コンパウンドに外力を付与して前記コンパウンドを粉砕する該粉砕部材を備える、請求項4に記載の乾式回転バレル研磨システム。
前記メディアは、砥粒同士がビトリファイド系の結合体で結合した焼結体であって、前記結合体を構成する粒子は、酸化アルミニウム若しくは二酸化珪素が主成分であり、該粒子の平均粒子径が0.1μm〜20μmである、請求項7に記載の乾式回転バレル研磨方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バレル研磨のうち、回転バレル研磨は、バッチ式であり、水とコンパウンドとを添加した湿式研磨で利用されることが多い。乾式の回転バレル研磨に特許文献2の技術を適用することにより、湿式の回転バレル研磨と同程度の仕上げ性能を得ることができるが、バレル研磨の過程においてメディアの表面に形成されたコーティングが削り取られることによってメディアの性状が悪化し、研磨力が低下することがある。
【0007】
そこで、本開示は、乾式回転バレル研磨の仕上げ性能を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、一側面に係る乾式回転バレル研磨装置は、被加工物、メディア及びコンパウンドを収容するためのバレル槽であり、回転軸線を中心に回転可能な該バレル槽と、バレル槽を回転軸線を中心に回転駆動させる駆動装置と、バレル槽の内部から粉塵を吸引する集塵機と、を備え、バレル槽は、回転軸線の方向において互いに対面する第1の面及び第2の面と、第1の面及び第2の面に接続する側面とを含み、バレル槽には、該バレル槽の内部と外部とを連通する第1の開口部及び第2の開口部が形成され、第2の開口部は、第1の面、又は、側面の第2の面よりも第1の面に近い位置に形成され、集塵機は、第2の開口部を介してバレル槽の内部から粉塵を吸引する。
【0009】
上記側面に係る乾式回転バレル研磨装置では、集塵機によってバレル槽の内部から粉塵が吸引されているので、バレル槽内には第1の開口部から第2の開口部に向かう気流が生成される。このような気流がバレル槽内に生成されることによって、バレル研磨中にバレル槽内に浮遊するコンパウンドがバレル槽の内部で拡散される。拡散されたコンパウンドは、バレル槽内のメディアと接触してコーティングを形成する。これにより、メディアに高い均一性でコーティングが形成されるので、乾式回転バレル研磨の仕上げ性能を向上させることができる。
【0010】
一実施形態では、第1の開口部は第2の面に形成されていてもよい。
【0011】
上記実施形態では、第2の面に形成された第1の開口部からバレル槽内に供給された外気が第1の面、又は、側面の第2の面よりも第1の面に近い位置に設けられた第2の開口部を介して回収されるので、バレル槽の内部を横断するような気流を発生させることができる。このような気流を発生させることによって、バレル槽内に浮遊するコンパウンドの均一性を向上させることができる。
【0012】
一実施形態では、第1の面及び第2の面には、回転軸線に沿って延びる第1の回転軸及び第2の回転軸がそれぞれ接続され、第1の回転軸は管状をなし、第2の開口部は、第1の面に形成されており、集塵機は、第1の回転軸及び第2の開口部に対して挿入された吸引管を介してバレル槽の内部から粉塵を吸引してもよい。
【0013】
一側面では、上記乾式回転バレル研磨装置と、コンパウンドを第1の開口部を介してバレル槽の内部に供給するコンパウンド供給装置と、を備える乾式回転バレル研磨システムが提供される。このコンパウンド供給装置は、コンパウンドを貯留するホッパと、ホッパから供給されるコンパウンドの量を調整する供給量調整部と、供給量調整部から供給されるコンパウンドをバレル槽に向けて案内するシュートと、シュートに外気を導入するための通気部と、シュートと第1の開口部との間に設けられるフランジと、を含む。
【0014】
上記乾式回転バレル研磨システムでは、集塵機の作動により生じる気流によりコンパウンドをバレル槽内に搬送して供給することができるので、バレル槽を停止することなく、乾式回転バレル研磨を行いながら必要量のコンパウンドをバレル槽に供給することができる。これにより、メディアの表面がコンパウンドでコーティングされた状態を維持することができる。その結果、被加工物の仕上げ性能を向上させることが可能となる。
【0015】
一実施形態では、バレル槽に導入されるコンパウンドの粒度を調整する粒度調整部を更に備えていてもよい。
【0016】
上記実施形態によれば、コンパウンドの粒度のばらつきを小さくすることができるので、バレル槽の内容物に対してコンパウンドを均等に分散させることができる。
【0017】
一実施形態では、粒度調整部は、コンパウンドに外力を付与して粉砕する粉砕装置と、第1の開口部を覆うようにバレル槽に設けられ、所定の寸法よりも小さな寸法のコンパウンドを通過させるフィルタ部材と、を備えていてもよい。
【0018】
上記実施形態によれば、粉砕手段によりコンパウンドを粉砕し、フィルタ部材により所定の寸法以下のコンパウンドを通過させることができるので、あらかじめコンパウンドの粒度を調整しておくことなく、メディア表面のコーティングに適した大きさのコンパウンドをバレル槽内に供給することができる。なお、この「粉砕」とは広義の粉砕であり、破砕や解砕も含まれる。
【0019】
一実施形態では、粉砕装置は、フィルタに対して相対的に回転する粉砕部材であり、粉砕部材とフィルタ部材との間でコンパウンドに外力を付与してコンパウンドを粉砕する該粉砕部材を備えていてもよい。
【0020】
上記実施形態では、バレル槽の回転を利用して、粉砕部材をフィルタ部材に対して相対的に回転させて、フィルタ部材との間でコンパウンドに外力を付与して粉砕することができる。これにより、粉砕装置に駆動源を設けることなく、簡単な構成でコンパウンドを粉砕することができる。
【0021】
一側面では、上記乾式回転バレル研磨システムを用いて被加工物を研磨する乾式回転バレル研磨方法が提供される。この方法は、被加工物及びメディアをバレル槽内に装入する工程と、バレル槽を回転中心を中心に回転させる工程と、集塵機によってバレル槽の内部から粉塵を吸引する工程と、コンパウンドを第1の開口部からバレル槽の内部に供給する工程と、を含む。
【0022】
上記側面に係る乾式回転バレル研磨方法では、集塵機の作動により生じる気流によりコンパウンドをバレル槽内に搬送して供給することができるので、バレル槽を停止することなく、乾式回転バレル研磨を行いながら必要量のコンパウンドをバレル槽に供給することができる。これにより、メディアの表面がコンパウンドでコーティングされた状態を維持することができる。その結果、被加工物の仕上げ性能を向上させることが可能となる。
【0023】
一実施形態では、メディアは、セラミックスを主成分とし、多孔質に形成されていてもよい。
【0024】
上記実施形態のように、セラミックスを主成分とし、多孔質に形成されているメディアは、研磨力が大きく、研磨中に表面が削れても、新たな砥材が出現するので、研磨の経過にかかわらず研磨力を持続することができる。また、表面の細孔によりワークと衝突する際の衝撃力が緩衝されるので、ワークに過度な研磨力が付与されることを抑制することができる。このため、メディアがワークの表面を必要以上に粗くすることが抑えられ、表面粗さを小さくすることができる。また、多孔質のメディアは、表面全体に細孔を有しているため、コンパウンドの保持力を大きくすることができる。これにより、メディアを湿潤させることなくコンパウンドをメディアの表面に長時間保持することができるので、ワークの表面が必要以上に粗らされることを抑制する効果をより長く持続することができる。更に、バレル研磨中において粉塵などによる目詰まりが生じるのを改善することができるので、研磨力を長時間にわたって維持することができる。
【0025】
一実施形態では、メディアは、砥粒同士がビトリファイド系の結合体で結合した焼結体であって、結合体を構成する粒子は、酸化アルミニウム若しくは二酸化珪素が主成分であり、該粒子の平均粒子径が0.1μm〜20μmであってもよい。
【0026】
上記実施形態によれば、メディアの圧潰強度が高いので、長時間研磨を行っても破損が少なく、メディアの性状を維持することができる。
【0027】
一実施形態では、前記コンパウンドが、脂肪酸又はその塩を含んだコンパウンドであってもよい。
【0028】
脂肪酸又はその塩を含んだコンパウンドは、低コストでコーティングの効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一側面及び種々の実施形態によれば、被加工物の仕上げ性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一実施形態の乾式回転バレル研磨システム100について、図を参照して説明する。以下の説明では、コンパウンドCは粒子状であってその一部が凝集しているものとして説明する。
【0032】
図1に示すように、乾式回転バレル研磨システム100は、被加工物であるワークWを乾式回転バレル研磨する乾式回転バレル研磨装置1と、メディアMに滑り性を付与するコンパウンドCを乾式回転バレル研磨装置1に供給するコンパウンド供給装置2と、バレル槽10に導入されるコンパウンドCの粒度を調整する粒度調整部3と、を備えている。
【0033】
乾式回転バレル研磨装置1は、ワークW、メディアM及びコンパウンドCを収容するためのバレル槽10と、バレル槽10を回転駆動する駆動装置11と、バレル槽10の内部を吸引する集塵機12と、を備えている。なお、説明の便宜上、
図1では、乾式回転バレル研磨装置1の主要構成のみを図示しており、台座などは省略している。
【0034】
バレル槽10は、第1の面40a、第2の面40b及び側面40cを含んでおり、回転軸線RAを中心に回転可能に構成されている。第1の面40a及び第2の面40bは、回転軸線RAの方向において互いに対面している。側面40cは、回転軸線RAを中心とする筒状をなしている。側面40cの両端部には、第1の面40a及び第2の面40bが接続されており、これら第1の面40a、第2の面40b及び側面40cによってバレル槽10の内部空間40sが画成されている。一実施形態では、内部空間40sの縦断面は多角形状(例えば六角形状)に形成されていてもよい。バレル槽10の上面は開閉可能となっており、開蓋してワークW、メディアM及びコンパウンドCを挿入できるようになっていてもよい。一実施形態では、第1の面40aには吸引孔(第2の開口部)10pが形成されている。吸引孔10pは、バレル槽10の回転軸線RAと重なる位置において第1の面40aを貫通している。
【0035】
一実施形態では、第1の面40a及び第2の面40bには、バレル槽10を回転可能に支持する一対の回転軸10a、10b(第1の回転軸、第2の回転軸)がそれぞれ取り付けられていてもよい。一対の回転軸10a、10bは、回転軸線RAに沿って延在している。回転軸10a、10bは、それぞれベアリング10c、10dにより軸支されている。
【0036】
一実施形態では、一対の回転軸10a、10bのうち回転軸10aは管状をなしている。回転軸10aには、吸引管10gが挿入されている。吸引管10gは、その一端が吸引孔10pに挿入されることによって、バレル槽10の内部空間40sに連通している。吸引管10gの他端には、ホース12aが接続されている。すなわち、集塵機12は、バレル槽10の内部空間40sに連通する吸引管10g及びホース12aを介してバレル槽10に接続されている。バレル槽10の内部空間40sに露出する吸引管10gの一端は、ワークW及びメディアMが吸引されないようにするためのフィルタ10iによって覆われている。
【0037】
集塵機12は、吸引孔10pを介してバレル槽10の内部空間40sから粉塵を吸引する装置である。集塵機12としては、バレル研磨により生じた粉塵を排気除去する公知の集塵機を採用することができる。
【0038】
集塵機12と反対側、つまり、回転軸10bが設けられている第2の面40bには、バレル槽10の内部と外部とを連通する開口部(第1の開口部)10fが形成されている。本実施形態では、開口部10fは、回転軸10bを取り囲むように6箇所に形成されている。これらの開口部10fは、第2の面40bを貫通している。
【0039】
また、第2の面40bの内面には、フィルタ10hが設けられている。フィルタ10hは、ワークW及びメディアMが開口部10fからバレル槽10の外部に排出されないようにするためのものであり、開口部10fをバレル槽10の内側から覆うように設けられている。
【0040】
駆動装置11は、バレル槽10を回転軸線RAを中心に回転駆動する機構であり、公知の駆動装置を用いることができる。本実施形態では、駆動装置11は、モータ11a、モータ11aの回転軸に接続されるプーリ11b、回転軸10aに取り付けられたプーリ11c及びプーリ11bとプーリ11cとに張り渡され、モータ11aの回転を伝達するベルト11dを備えている。モータ11aが駆動することによって、駆動力が、プーリ11b、プーリ11c及びベルト11dを介してバレル槽10に伝達され、バレル槽10が回転駆動される。一実施形態では、モータ11aは、後述する制御装置CNTに接続されており、制御装置CNTからの制御信号によって制御され得る。
【0041】
乾式回転バレル研磨装置1は、上記の構成を備えているので、開口部10fから外気を取り込みながら、乾式回転バレル研磨によって発生した粉塵を集塵機12により回収することができる。
【0042】
コンパウンド供給装置2は、ホッパ20と、供給量調整部21と、シュート22と、フランジ23を備えている。ホッパ20は、コンパウンドCを貯留する。供給量調整部21は、ホッパ20から供給されるコンパウンドCの量を調整する。シュート22は、供給量調整部21から供給されるコンパウンドCをバレル槽10に向けて案内する。フランジ23は、シュート22とバレル槽10との間に設けられ、シュート22と開口部10fとを接続する。
【0043】
供給量調整部21としては、公知の供給量調整部を採用することができるが、本実施形態では、供給量調整部21が歯車を備えている。この歯車の回転速度、タイミングなどが制御されることによりコンパウンドCの供給量が調整される。一実施形態では、供給量調整部21は、制御装置CNTに接続されており、制御装置CNTからの制御信号によってコンパウンドCの供給量が制御され得る。
【0044】
シュート22は、供給量調整部21の下方に設けられている。シュート22は、バレル槽10の第2の面40bに近づくにつれて下降する傾斜面を有している。シュート22は、供給量調整部21から落下するコンパウンドCを受け、バレル槽10に向けて案内する。一実施形態では、シュート22には、外部と連通し、外気を取り入れ可能な通気部22aが形成されていてもよい。シュート22とバレル槽10との間には、フランジ23が設けられている。フランジ23は、シュート22からのコンパウンドCを受け、そのコンパウンドCを開口部10fに案内する機能を有している。
【0045】
フランジ23の内部には、粒度調整部3が設けられている。
図2及び
図3に示すように、粒度調整部3は、フィルタ部材30及び円板32を備えている。
【0046】
図2に示すように、フィルタ部材30は、網目状の部材であり、開口部10fを第2の面40bの外側から覆うように第2の面40bに取り付けられている。フィルタ部材30の網目の目(開口)の大きさは、所定の寸法(粒度)よりも小さな寸法に解砕(粉砕)されたコンパウンドCのみが通過することができる大きさに設定されている。
【0047】
円板32には、シュート22の端部が接続されている。
図3(A)及び(B)に示すように、円板32には、その板厚方向に貫通し、コンパウンドCが通過可能な開口部32aが形成されている。ホッパ20から供給され、シュート22によって案内されたコンパウンドCは開口部32aを介してフランジ23内に導入される。
【0048】
また、円板32には、羽根状の粉砕部材31が設けられている。粉砕部材31は、円板32から第2の面40bに向けて延びている。粉砕部材31の先端とフィルタ部材30との間には、開口部32aから導入されたコンパウンドCがフランジ23内で移動し、所望の寸法に解砕可能なような隙間(例えば、1mm)が設けられている。
【0049】
一実施形態では、円板32の中心には貫通孔が形成されている。この貫通孔には、回転軸10bが挿入されている。一実施形態では、円板32には、当該円板32の周方向に沿って回転軸10bを囲むように複数の粉砕部材31が設けられている。これらの粉砕部材31は、円板32から第2の面40bに向けて延びている。粉砕部材31の第2の面40b側の端部とフィルタ部材30との間には、コンパウンドCを所望の寸法に解砕するための隙間が形成されている。円板32の開口部32aから導入されたコンパウンドCは、粉砕部材31によって案内されてフィルタ部材30側に移動される。ここで、フィルタ部材30はバレル槽10に固定され、バレル槽10とともに回転するが、粉砕部材31は動かないので、粉砕部材31は、フィルタ部材30に対して相対的に回転することとなる。したがって、コンパウンドCは、粉砕部材31とフィルタ部材30との間で外力が付与され解砕されることとなる。上述のように、フィルタ部材30及び粉砕部材31はコンパウンドCに外力を付与して解砕する粉砕装置として機能する。
【0050】
一実施形態では、粉砕部材31は、コンパウンドCを効率的に解砕するために、先端に向けて、相対的な回転方向に向かって傾斜するように配置することができる。
【0051】
一実施形態では、乾式回転バレル研磨システム100は、制御装置CNTを更に備えている。この制御装置CNTは、プロセッサ、記憶部、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータであり、乾式回転バレル研磨システム100の各部を制御する。具体的には、制御装置CNTは、乾式回転バレル研磨装置1、コンパウンド供給装置2及び粒度調整部3に接続されており、例えばバレル槽10の回転速度、ホッパ20からのコンパウンドCの供給量等を制御し得る。
【0052】
(バレル研磨方法)
以下、乾式回転バレル研磨システム100を用いたバレル研磨方法について
図4を参照して説明する。
図4は、一実施形態に係るバレル研磨方法MTを示すフローチャートである。
【0053】
方法MTでは、まず工程ST1において、バレル槽10の内部空間40sに、ワークW、メディアM及びコンパウンドCが装入される。これらが装入された後、バレル槽10の蓋が閉じられ密閉される。
【0054】
次いで、研磨時間などの加工条件、コンパウンドの投入時間、コンパウンドの投入量などの運転条件を設定し、乾式回転バレル研磨システム100を作動させる。
【0055】
次いで、工程ST2において、駆動装置11が作動され、回転軸線RAを中心にバレル槽10が回転される。これにより、ワークW、メディアM及びコンパウンドCがバレル槽10内で流動し、メディアMによりワークWが研磨される。
【0056】
続く工程ST3では、集塵機12が作動される。集塵機12が作動されると、その吸引力によってバレル槽10内が負圧となる。その結果、
図1及び
図5の矢印で示すように、シュート22の通気部22aからバレル槽10の開口部10fを介してバレル槽10内部に外気が導入され、集塵機12に向かう気流が発生する。バレル研磨中には流動するコンパウンドCの一部がバレル槽10内で浮遊することとなるが、バレル槽10内に発生する気流によって、バレル槽10内に浮遊するコンパウンドCがバレル槽10の内部で拡散される。このようにコンパウンドCがバレル槽10内で拡散されることによって、コンパウンドCが一部に偏って滞留することが抑制される。拡散されたコンパウンドCは、バレル槽10内のメディアMと接触し、高い均一性でメディアMにコーティングを形成する。したがって、コンパウンドCのコーティングの均一性を高めることができ、その結果、乾式回転バレル研磨の仕上げ性能を向上させることができる。
【0057】
また、工程ST3では、バレル研磨により生じた切削粉や過剰なコンパウンドがバレル槽10内から吸引除去される。なお、工程ST3は、工程ST1又は工程ST2と同時に行われてもよい。
【0058】
バレル研磨が進むにつれて、メディアMのコーティングに剥離が生じる場合には、次いで工程ST4が行われてもよい。工程ST4では、コンパウンド供給装置2からバレル槽10内にコンパウンドCが供給される。具体的に、コンパウンド供給装置2は、コンパウンドCの供給量やコンパウンドの投入のタイミングの制御が行われて、所定量のコンパウンドCをホッパ20からシュート22に供給する。シュート22に到達したコンパウンドCは、集塵機12により生じた気流によりバレル槽10に向かって搬送される。
【0059】
そして、気流に乗って搬送されたコンパウンドCは、開口部32aからフランジ23の内部に導入される。
【0060】
ここで、粉砕部材31が固定されているのに対して、フィルタ部材30はバレル槽10の回転に伴い回転している。つまり、粉砕部材31はフィルタ部材30に対して相対的に回転している。したがって、コンパウンドCは、この粉砕部材31に案内され、
図5に示すように、粉砕部材31とフィルタ部材30との間で相対的な回転運動により力が付加されて解砕される。これにより、粉砕部材31を駆動するための駆動源を別途設けることなく、簡単な構成でコンパウンドCを解砕することができる。
【0061】
集塵機12は、回転軸10aに内装された吸引管10gを介して、開口部10fから離れた領域からバレル槽10の内部を吸引するため、バレル槽10の内部を横断する気流を発生させることができる。
【0062】
解砕されてフィルタ部材30を通過可能な寸法(粒度)になったコンパウンドCは、フィルタ部材30を通過してバレル槽10内に導入される。これにより、あらかじめコンパウンドCの粒度を調整しておくことなく、コンパウンドCの粒度のばらつきを小さくすることが可能となる。これにより、メディアM表面のコーティングに適した大きさのコンパウンドCをバレル槽10内に供給し、バレル槽10の内容物に対してコンパウンドを均等に分散させることができる。
【0063】
ここで、集塵機12は、必要十分な量のコンパウンドCがバレル槽10内に搬送されるとともに、滞留するように、吸引速度が制御されていてもよい。
【0064】
コンパウンドCは、バレル槽10内でワークW及びメディアMとともに攪拌される。これにより、コンパウンドCによりメディアM表面が非湿潤の状態でコーティングされて、メディアMの表面に滑り性が付与される。
【0065】
表面に滑り性が付与されたメディアMを用いてワークWを研磨した場合には、メディアMの流動性(滑り性能)が向上しているので、ワークWに対してメディアMが滑るように接触することとなり、ワークWに対して過度の研磨荷重が付加されることが抑制される。これにより、ワークWの表面を湿式研磨と同様の平滑な研磨面に加工することができる。
【0066】
なお、研磨の進行によってメディアMに生じるコンパウンドCの剥離の具合に応じて、加工時間内にコンパウンドCの供給を繰り返してもよい。
【0067】
これにより、ワークWとの衝突によってメディアMからコンパウンドCが徐々に削り落とされても、メディアMの表面は新たに供給されたコンパウンドCによりコーティングされる。これにより、コンパウンドCの効果を維持することができるので、ワークWの表面が必要以上に粗くなることを抑制することができる。
【0068】
バレル研磨が終了すると、工程ST5が行われる。工程ST5では、駆動装置11及びコンパウンド供給装置2の作動が停止される。バレル研磨後のバレル槽10内には、研磨により発生した粉塵などが滞留しているので、駆動装置11及びコンパウンド供給装置2の停止後も所定の時間にわたって集塵機12の作動が継続される。粉塵などが十分に吸引除去された後に、集塵機12が停止され、バレル槽10を開蓋してワークW、メディアM等の内容物を取り出される。この内容物を分別してワークWを回収し、方法MTが終了される。
【0069】
一実施形態では、メディアMとして、セラミックスを主成分とし、細孔を有し多孔質に形成されているメディアを用いてもよい。ここで、細孔の形態は、独立気泡構造でも連続気泡構造のどちらであってもよい。
【0070】
このようなメディアMによれば、研磨力が大きく、研磨中に表面が削れても、新たな砥材が出現するので、研磨の経過にかかわらず研磨力を維持することができる。また、表面の細孔によりワークWと衝突する際の衝撃力が緩衝されるので、ワークWに過度の研磨力が付与されることを抑制することができる。このため、メディアMがワークWの表面を必要以上に粗くすることが抑えられ、表面粗さを小さくすることができる。
【0071】
また、多孔質のメディアMは、表面全体に細孔を有しているため、コンパウンドCの保持力を大きくすることができる。これにより、コンパウンドCを表面に長時間保持することができる。
【0072】
多孔質構造を持たないメディアを用いると、バレル研磨中に研磨により発生した粉塵などがメディア表面に堆積して目詰まりを起こし、研磨能力が低下することがあるが、多孔質のメディアMを用いると、バレル研磨中における粉塵などによる目詰まりを改善することができるので、研磨力を維持することができる。
【0073】
多孔質のメディアMとして、セラミックスからなる砥粒同士をビトリファイド系の結合体で結合した焼結体を用いることができる。また、この焼結体は、分散された空隙を有している(以降、「ビトリファイド系多孔質メディア」と記す)。
【0074】
ビトリファイド系多孔質メディアは、具体的には以下のようにして得られる。(1)砥粒と結合体を構成する粒子(以降、「結合体粒子」と記す)と加熱により焼失する粒子(以降、「消失粒子」と記す)とが所定の配合比となるように秤量する。(2)加水等で含水率を調整しながらこれらを混練し、混合材料を得る。(3)混合材料を成形手段により所定の形状に成形して成形品を得る。なお、成形は押し出し成形や鋳込み成形などの他ペレタイザー等の造粒機による造粒も含む。成形は、その他公知の方法からも適宜選択してもよい。(4)成形品を所定の水分率となるよう乾燥させる。(5)乾燥させた成形品または造粒品を加熱炉にて焼成する。所定のヒートパターンとなるように温度及び時間を制御しながら焼成することで、消失粒子が消失すると共に、結合体粒子が溶融または半溶融の状態になり、結合体粒子同士が結合して結合体となる。砥粒同士は結合体を介して結合し、焼結体となる。(6)焼成後、所定のヒートパターンで冷却する。(7)冷却後、これらを回転容器またはバレル研磨機に投入し、共ずりを行う。なお、この工程は必要に応じて行うものであり、省略してもよい。
【0075】
結合体粒子は、ビトリファイド系であるが、特に酸化アルミニウム若しくは二酸化珪素を主成分とすることができる。そして、平均粒子径を0.1μm〜20μmとすることができる。このような結合体粒子は、溶融または半溶融となった際に砥粒同士をより強固に結合することができる。その結果、粘土や陶料を結合体としたメディアに比べてメディア自体の圧潰強度が高くなるので、長時間研磨を行ってもチッピングやクラックといった破損が少なく、メディアの性状を維持することができる。
【0076】
消失粒子は、焼成の過程で少なくともその一部が焼失する材料であれば特に限定されない。例えば、水酸化アルミニウムの粉末を消失粒子として用いることができる。水酸化アルミニウムは、焼成の過程で酸化アルミニウムと水蒸気に分解される。水蒸気は蒸発するので、残留した酸化アルミニウムは体積が減少している。水酸化アルミニウムは成形品の全体に分散されているので、結果としてメディアMの全体的に細孔が形成される。
【0077】
砥粒としては、アルミナ系砥粒(アランダム)、炭化珪素系砥粒(カーボランダム)、ジルコニアアルミナ砥粒、ダイヤモンド砥粒、又はCBN砥粒、等を用いることができる。
【0078】
一実施形態では、コンパウンドCとしては、脂肪酸又はその塩を含むコンパウンドを用いることができる。このようなコンパウンドを用いると、コストを低減することができる。特に、脂肪酸又はその塩が脂肪酸ナトリウムを含む場合には、低コストで良好な滑り性を付与することができる。また、コンパウンドCが脂肪酸ナトリウムを滑り性付与材料の主成分とする場合には、ワークWに油脂がほとんど付着しないので、洗浄工程を不要又は簡略化することができる。また、コンパウンドCとして、粉体状、不定形、ペレットなど各種形状のものを用いることができる。
【0079】
(変更例)
一実施形態では、供給量調整部21が解砕機能を有していてもよい。例えば、コンパウンドCがホッパ20を通過する際に、歯車状に形成され回転する供給量調整部21とホッパ20との隙間により力を付与することでコンパウドCを解砕してもよい。
【0080】
別の実施形態では、例えば、
図6に示すように、コンパウンド供給装置2が供給量調整部21として2つの歯車を含んでおり、これらの歯車が互いに噛み合うように設けられていてもよい。2つの歯車が、コンパウンドCが下方に付勢されるように反対方向に回転することで、コンパウンドCは、供給量調整部21、21の間を通過するときに力が付与されて解砕される。なお、コンパウンド供給装置2は、3個以上の供給量調整部21を備えていてもよい。
【0081】
これらの解砕手段をフィルタ部材30及び粉砕部材31と併用すると、上記解砕手段によりコンパウンドCをあらかじめ解砕したのちに、更にフィルタ部材30及び粉砕部材31によりコンパウンドCを解砕することができるので、より効率的に確実にコンパウンドCを解砕することができる。したがって、コンパウンドCをペレット状で供給する場合など、粒子同士が比較的強固に結合しているコンパウンドを使用する場合にも確実にコンパウンドCを解砕することができる。
【0082】
粒度調整部3は、コンパウンドCがバレル槽10に供給される際に所望の粒子径にすることができればよく、例えば上述のような供給量調整部21によりコンパウンドCが所望の粒子径とすることができれば、フィルタ部材30及び粉砕部材31を省略することもできる。
【0083】
また、粉砕部材31に駆動装置を設けて、バレル槽10の回転方向に対して反対方向に粉砕部材31を回転駆動するようにしてもよい。このような構成によれば、コンパウンドCをより早く解砕することができるとともに、コンパウンドCがフランジ23内で流動するので、より確実にコンパウンドCを解砕することができる。
【0084】
さらに、フィルタ部材30は、突起部を備えるなど解砕機能を有していてもよい。
【0085】
バレル槽10内に気流を発生させるために、ホッパ20の上部の開口部から外気を導入する構成を採用することもできる。この場合には、ホッパ20の開口部がシュート22に外気を導入するための通気部に相当する機能を有することとなる。
【0086】
上記実施形態では、吸引管10gがバレル槽10の第1の面40aに接続されているが、集塵機12が開口部10fから離れた位置でバレル槽10の内部を吸引して、バレル槽10の内部を横断する気流を発生させることができれば、吸引管10gは任意の位置でバレル槽10に接続することができる。例えば、吸引管10gが、第2の面40bよりも第1の面40aに近い位置でバレル槽10の側面40cに接続されるようにしてもよい。
【0087】
以下、
図7を参照して別の変形例に係る乾式回転バレル研磨システム200について説明する。乾式回転バレル研磨システム200は、
図7に示すように、バレル槽10を外部から隔離して収容する回転しない容器13を備えている。容器13には、貫通孔13aが形成されている。容器13とバレル槽10との間には空間SPが形成され、この空間SPに連通するように貫通孔13a及び吸引管10gを介して集塵機12が接続されている。バレル槽10の側面40cの第2の面40bよりも第1の面40aに近い位置には、吸引孔(第2の開口部)14が形成されている。吸引孔14はワークW及びメディアMが空間SPに飛び出さないようにフィルタ15に覆われている。この乾式回転バレル研磨システム200では、集塵機12が作動されることによって、吸引孔14、貫通孔13a及び吸引管10gを介してバレル槽10の内部から粉塵が吸引される。この構成によれば、バレル槽10内部を開口部10fから離れた領域から吸引することができるので、バレル槽10の内部を横断する気流を発生させることができる。
【0088】
また、フランジ23及び開口部10fと同様の構成のフランジ及び開口部を、バレル槽10の第1の面40a側に設けて、このフランジと集塵機12とを接続し、バレル槽10内部を吸引するようにしてもよい。
【0089】
開口部10fの配置、形状は、バレル槽10の形状、集塵機12の性能などに応じて、適宜設定することができる。
【0090】
以上、種々の実施形態に係る乾式回転バレル研磨システム及び乾式回転バレル研磨方法について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。上述した種々の実施形態及び変形例は、矛盾のない範囲で組み合わせることができる。
【0091】
(実施形態の効果)
上記実施形態の乾式回転バレル研磨システム100及び乾式回転バレル研磨方法によれば、集塵機12の作動により生じる気流によりコンパウンドCをバレル槽10内に供給することができるので、バレル槽10を停止することなく、乾式回転バレル研磨を行いながら必要量のコンパウンドCをバレル槽10内に供給することができる。これにより、メディアMの表面がコンパウンドCでコーティングされて流動性が向上させることができるので、メディアMの衝突によってワークWに過度の研磨荷重が付加されることが抑制される。したがって、被加工物の仕上げ性能を向上させることができ、ワークWの表面を湿式研磨と同様の平滑な研磨面に加工することができる。また、ワークWとの衝突によってメディアMからコンパウンドが徐々に削り落とされても、メディアMの表面は新たに供給されたコンパウンドCによりコーティングされる。これにより、コンパウンドCの効果を長時間維持することができるので、ワークWの表面が必要以上に粗くなることを抑制することができる。このように、上記実施形態によれば、連続的にコンパウンドを供給することにより、メディアMの性状が低下することを抑制し、研磨力の低下を防止することができる。上述のとおり、乾式回転バレル研磨システム100及び乾式回転バレル研磨方法によれば、メディアMがコンパウンドCによりコーティングされた状態を長時間維持し、湿式バレル研磨方法と同程度の仕上げ性能を確保することができる。
【0092】
また、上記実施形態では、粉砕部材31によりコンパウンドCを解砕し、フィルタ部材30により所定の寸法以下のコンパウンドCを通過させているので、あらかじめコンパウンドCの粒度を調整しておくことなく、コンパウンドCの粒度のばらつきを小さくすることが可能となる。したがって、メディアM表面のコーティングに適した大きさのコンパウンドCをバレル槽10内に供給し、バレル槽10の内容物に対してコンパウンドを均等に分散させることができる。
【0093】
上記実施形態では、メディアMとして、ビトリファイド系多孔質メディアを用いているので、メディアMがワークWの表面を必要以上に粗くすることが抑えられ、表面粗さを小さくする研磨を行うことができる。また、ビトリファイド系多孔質メディアは、表面全体に細孔を有しているため、コンパウンドCの保持力を大きくすることができる。更に、バレル研磨中における粉塵などによる目詰まりを改善することができる。
【0094】
(実施例)
従来の乾式回転バレル研磨方法(比較例1)及び湿式回転バレル研磨方法(比較例2)と、上記実施形態に係る乾式回転バレル研磨方法(実施例)とを比較した。評価項目は、ワークの累積研磨量及び表面粗さとした。
【0095】
試験条件を下記表1に示す。累積研磨量は加工時間に対するワークの重量の累積減少量として、表面粗さは加工時間に対するワーク(評価片)表面の算術平均粗さRa(JIS(Japanese Industrial Standards) B0601:2001)として、評価した。SS400は一般構造用圧延鋼材(JIS−G3101)、S45Cは機械構造用炭素鋼鋼材(JIS−G4051)である。
【0097】
実験結果を
図8及び
図9に示す。
図8に示すように、累積研磨量に関しては、比較例2は比較例1よりも研磨力が大きく、累積研磨量が大きくなる傾向が認められた。実施例は、比較例2と同程度の傾向を示し、長時間にわたり同程度の研磨力を維持していた。
【0098】
図9に示すように、表面粗さに関しては、比較例1、2及び実施例それぞれの場合において、加工開始後1時間までは増大し、その後ほぼ一定となる傾向が認められた。また、一定値に到達した表面粗さは、比較例2では比較例1よりも大きく、研磨力が大きくなった。実施例は、比較例2と同程度の傾向を示し、同程度の研磨力を維持していた。
【0099】
以上より、上記実施形態に係る乾式回転バレル研磨では、メディアMがコンパウンドCによりコーティングされた状態を長時間維持し、湿式回転バレル研磨方法と同程度の仕上げ性能を確保することができることが確認された。