【文献】
小松 正貴 ほか,実現理論による近接固有値を有する構造物の振動特性推定,構造工学論文集,土木学会,2013年,Vol. 59A,p. 340-352,ISSN 1881-820X
【文献】
中溝 高好,信号解析とシステム同定,東京: コロナ社,1988年,p. 22-24, 49-53, 121-127,ISBN 4-339-03081-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分析対象を励振させた位置において計測された入力信号及び出力信号に基づいて自己周波数応答関数を算出し、算出された前記自己周波数応答関数から得られるインパルス応答関数と、前記分析対象がモデル化された仮想二自由度モデルのインパルス応答関数とを用いて前記分析対象のシステム同定を行う分析部、
を備えるシステム同定装置。
前記分析部は、多変数ニュートン法により仮想二自由度モデルの前記インパルス応答関数を推定し、推定により得られた前記インパルス応答関数に基づいて前記分析対象のシステム同定を行う、
請求項1に記載のシステム同定装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
観測データに基づく物理システムの数理的なモデリング手法は、「システム同定問題」と呼ばれている。本問題では大別して、(1)システムの入力および出力の信号が既知の場合と、(2)入力が未知の場合とに分類される。さらには、時間領域信号又は周波数領域信号を用いた技術も知られている。
【0012】
時間領域情報を用いた技術では、ARモデル(Autoregressive model:自己回帰モデル)やMAモデル(Moving Average model:移動平均モデル)、ARMAモデル(Autoregressive moving average model:自己回帰移動平均モデル)、ARXモデル(Auto-Regressive eXogeneous model)などの多項式モデルが用いられる。多項式モデルでは、周波数領域が平坦化され、異なる固有値が近接している近接固有値を有する系への適用が困難であった。一方で、周波数領域情報を用いた場合には、固有値双方のピーク位置が不明瞭となる場合が多く、曲線適合法を適用することができない。特に、フーリエ変換による周波数領域のサンプル数によっては、ピーク位置を視認することすらできない。
【0013】
上記のことから、近接固有値を有する系では固有値が近接するため、周波数領域同定法および時間領域同定法では、システム同定が困難となる。このように、近接固有値を有する系のシステム同定問題は未だ十分に解決されていない問題である。本実施形態のシステム同定装置等は、このような問題を解決し、近接固有値を有する系(固有値が重なる重根を有する系も含む)のシステム同定を行う。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態によるシステム同定装置1の構成を示すブロック図である。システム同定装置1は、設置位置決め部101、加振部102、計測部103、信号収集部104及び分析部105を有する。対象物理システム106は、システム同定装置1による同定対象である。設置位置決め部101は、対象物理システム106に、加振部102及び計測部103を設置する。加振部102は、設置位置決め部101を介して対象物理システム106を励振させる。計測部103は、加振部102が設置位置決め部101を介して対象物理システム106を励振させたときの、対象物理システム106への入力信号と出力信号を検知する。信号収集部104は、計測部103が検知した入力信号及び出力信号をデータ化する。分析部105は、信号収集部104により得られたデータを分析し、対象物理システム106のシステム同定を行う。
【0015】
図2は、システム同定装置1の処理を示すフローチャートである。測定者は、対象物理システム106に対し、設置位置決め部101を介して加振部102及び計測部103を設置する(ステップS110)。このとき、入力位置と出力位置とを一致させるようにする。入力位置とは、加振部102が設置される、すなわち、振動の原因が入力される位置である。出力位置とは、計測部103が設定される、すなわち、対象物理システム106の振動を計測する位置である。
【0016】
自己周波数応答関数を計測するため、加振部102により、設置位置決め部101を介して対象物理システム106を励振させる。計測部103は、対象物理システム106への振動の入力信号と対象物理システム106からの振動の出力信号を検知する。信号収集部104は、計測部103が検知した入力信号及び出力信号をデータ化し、分析部105に出力する。分析部105は、得られたデータを分析する。具体的には、分析部105は、最初に、入力信号と出力信号をそれぞれ高速フーリエ変換(FFT:fast fourier transform)する。分析部105は、周波数領域で出力信号を入力信号により除算することにより、自己周波数応答関数を求める(ステップS120)。
【0017】
次いで、分析部105は、自己周波数応答関数において、対象とする近接固有値が存在する周波数帯域のみズーミングを行う(ステップS130)。分析部105は、ズーミングした自己周波数応答関数に逆フーリエ変換(Inverse fourier transform)を施すことにより、自己周波数応答関数のインパルス応答関数を求める(ステップS140)。
【0018】
分析部105は、次のステップS160において用いられる初期値及びステップ幅の入力を受ける(ステップS150)。分析部105は、ステップS140で得られたインパルス応答関数に対し、後述する仮想二自由度系のインパルス応答関数を用いた多変数ニュートン法を適用する(ステップS160)。分析部105は、多変数ニュートン法の実行時に、ステップS150において入力された初期値及びステップ幅を用いる。
【0019】
分析部105は、解が収束しないと判定した場合(ステップS170:NO)、ステップS150に戻って、新たに使用する初期値及びステップ幅の入力を受け、ステップS160の処理を行う。分析部105は、解が収束したと判定した場合(ステップS170:YES)、その収束したときの仮想二自由度系のインパルス応答関数に基づいて対象物理システム106の系の質量、剛性定数及び減衰係数を求め、システム同定を行う(ステップS180)。
本実施形態によれば、近接固有値を有する系のシステム同定が可能である。
【0020】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1の実施形態を管路のシステム同定に適用する。
図3は、第2の実施形態によるシステム同定装置3の構成を示すブロック図である。システム同定装置3は、設置位置決め部301、加振部302、計測部303、信号収集部304、分析部305、記憶部306及び初期値設定部307を有する。対象物理システム308は、管路であり、システム同定装置3による同定対象である。
【0021】
設置位置決め部301、加振部302、計測部303及び信号収集部304はそれぞれ、第1の実施形態の設置位置決め部101、加振部102、計測部103及び信号収集部104と同様の機能を有する。記憶部306は、管路管理台帳データを記憶する。管路管理台帳データは、対象物理システム308の物理データである口径、材種、管厚の情報を含む。初期値設定部307は、記憶部306から読み出した口径、材種、管厚のデータに基づいて、分析部305において用いられる多変数ニュートン法のパラメータの初期値を算出する。分析部305は、初期値設定部307が算出した初期値を多変数ニュートン法において用いる点以外は、第1の実施形態の分析部105と同様の機能を有する。
【0022】
図4は、システム同定装置3の処理を示すフローチャートである。測定者は、対象物理システム308に対し、設置位置決め部301を介して加振部302及び計測部303を設置する(ステップS310)。加振部302により、設置位置決め部301を介して対象物理システム308を励振させる。計測部303は、加振位置における対象物理システム308への入力信号と対象物理システム308からの出力信号を検知する。信号収集部304は、計測部303が検知した入力信号及び出力信号をデータ化する。分析部305は、入力信号と出力信号を用いて自己周波数応答関数を求める(ステップS320)。分析部305は、自己周波数応答関数において、対象とする近接固有値が存在する周波数帯域のみズーミングを行う(ステップS330)。分析部305は、ズーミング部分を逆フーリエ変換し、自己周波数応答関数のインパルス応答関数を求める(ステップS340)。
【0023】
初期値設定部307は、記憶部306から対象物理システム308の口径、材種、管厚のデータを読み出す(ステップS350)。初期値設定部307は、読み出したデータに基づいて多変数ニュートン法のパラメータの初期値を算出する(ステップS360)。分析部305は、ステップ幅の入力を受ける(ステップS370)。分析部305は、ステップS340において得られたインパルス応答関数に対し、後述する仮想二自由度系のインパルス応答関数を用いた多変数ニュートン法を適用する(ステップS380)。多変数ニュートン法においては、ステップS360において算出された初期値と、ステップS370において入力されたステップ幅とを用いる。
【0024】
分析部305は、解が収束しないと判定した場合(ステップS390:NO)、ステップS370に戻って、新たに使用するステップ幅の入力を受け、ステップS380の処理を行う。分析部305は、解が収束したと判定した場合(ステップS390:YES)、その収束したときの仮想二自由度系のインパルス応答関数に基づいて対象物理システム308の系の質量、剛性定数及び減衰係数を求め、システム同定を行う(ステップS400)。
本実施形態によれば、管路のシステム同定が可能である。
【0025】
[第3の実施形態]
ここでは、第1の実施形態を水道管路のシステム同定に適用する。
図5は、本実施形態のシステム同定装置5の構成を示すブロック図である。システム同定装置5は、消火栓カプラ501、ハンマー502、センサ503、データロガー504及び同定処理部505を有する。管路506は、システム同定装置5によるシステム同定対象の水道管路である。ハンマー502として、力センサを内蔵したインパルスハンマー、市販ハンマーに加速度ピックアップを設置したもの、電磁式加振器などが例示できる。センサ503として、加速度ピックアップ、レーザードップラー型速度計、レーザー変位計、接触式変位計などが例示できる。同定処理部505は、例えば、プロセッサ、メモリ及びHDD(Hard disk drive)により実現される。プロセッサは、処理をコンピュータに実行させるための同定処理プログラムをHDDから読み出して実行することにより同定処理部505として動作する。
【0026】
図6は、管路506に設置された消火栓カプラ501の状況を示す図である。計測者は、管路506に消火栓カプラ501及びセンサ503を設置する(
図2のステップS110)。計測者は、ハンマー502により
図6に示す消火栓カプラ501を打撃し、管路506を励振する。センサ503は、打撃位置(Tapping Point)と同じ測定位置(Measurements point for vibration response)における励振後の出力信号を検出する。データロガー504は、ハンマー502の入力信号及びセンサ503の出力信号を収集する。データロガー504は、収集した入力信号及び出力信号をデータ化して同定処理部505に出力する。
【0027】
同定処理部505は、入力信号と出力信号それぞれに高速フーリエ変換(FFT)処理を行う。FFTにより得られた入力信号のスペクトルをX(ω)、出力信号のスペクトルをY(ω)とそれぞれ表す。ωは周波数である。同定処理部505は、各周波数領域のスペクトルを除し、自己周波数応答関数L(ω)=Y(ω)/X(ω)を求める(
図2のステップS120)。ここで、自己周波数応答関数の算出にあたり、L(ω)=(Y(ω)・X
*(ω))/(X(ω)・X
*(ω))をH
1推定、L(ω)=(Y(ω)・Y
*(ω))/(X(ω)・Y
*(ω))をH
2推定と呼ぶが、どちらを用いても良い。なお、X
*(ω)はX(ω)の複素共役、Y
*(ω)はY(ω)の複素共役である。
【0028】
同定処理部505は、得られた自己周波数応答関数L(ω)において、着目する近接固有値が存在する周波数帯域のみをズーミングする(
図2のステップS130)。着目する近接固有値が存在する周波数帯域にはピークが現れる。そこで、同定処理部505は、自己周波数応答関数L(ω)におけるピークを検出することにより、着目する近接固有値が存在する周波数帯域を特定する。あるいは、同定処理部505は、自己周波数応答関数L(ω)をシステム同定装置5が備える表示装置に表示し、表示を確認したユーザが、ピークが現れる周波数帯域を入力してもよい。同定処理部505は、特定された周波数帯域の自己周波数応答関数L(ω)を抽出し、閾値よりも小さい値については0に置き換えるズーミングを行う。同定処理部505は、ズーミングした結果を逆FFTすることにより、インパルス応答関数g
e(t)を得る。なお、tは時間を表す(
図2のステップS140)。
【0029】
ここで、システム同定用モデルとして仮想二自由度モデルを仮想する。なお、仮想二自由度モデルは、対称型二自由度ばね質量系とも呼ばれる。
図7は、仮想二自由度モデルを示す図である。仮想二自由度モデルは、等しい質量、ばね定数、及び、減衰係数からなる一自由度ばね質量系が、ばね及びダッシュポットによって接続された系である。Mは質量、Kはばね定数、Cは減衰係数、Fは外力ベクトル、x
1、x
2は変位ベクトルである。また、Δ
Kはばね定数の変化、Δ
Cは減衰係数の変化を示す。仮想二自由度モデルは、運動方程式を表す質量行列、剛性行列、減衰行列が対称行列となるシステムであり、固有ベクトルが対称となる性質を有しており、近接固有値を有する系のシステム同定に好適となる。
【0030】
図7に示す仮想二自由度モデルの自己周波数応答関数L
11を求めると、以下の式(1)となる。sは複素数を表す。sはs=i・ωで表される(ただし、ωは周波数、iは虚数単位)。
【0032】
式(1)をラブラス逆変換し、仮想二自由度モデルのインパルス応答関数g
11を求めると、式(2)となる。なお、s=i・ωを式(1)に代入した場合、これを逆フーリエ変換すると、式(2)となる。
【0034】
δ(t)はディラックのデルタ関数である。第1項の(1/M)・δ(t)は、無視できる程度に他の項よりも小さな値である。
なお、ここで、各パラメータω
d1、ω
d2、α、β、γを式(3)とした。
【0036】
これより、未知パラメータは計5つとなる。実験値のインパルス応答関数g
e(t)と式(2)の差の二乗和Jを目的関数とした多変数ニュートン法によって、パラメータ推定を行う更新式を求める。目的関数Jを式(4)に示し、更新式を式(5)に示す。iはサンプリングの番号、t
iはi番目のサンプリングを行った時間を表す。
【0039】
ここで、λはステップ調整用パラメータであり、パラメータ推定アルゴリズムが発散する場合に0.001〜0.1の間で調整すると、収束性が改善される。特に、管路系のシステム同定では、λを0.01程度に設定することが好ましい。g^
11は、現在のパラメータ値を用いて式(2)を算出したものである。
図2のステップS150においては、各パラメータ(ω
d1、ω
d2、α、β、γ)の初期値、及び、ステップ幅となるλの値が入力される。なお、同定処理部505は、初期値の算出に用いられる情報の入力を受け、入力された情報に基づいて初期値を算出してもよい。
【0040】
同定処理部505は、ステップS140により得られたインパルス応答関数g
e(t
i)と、現在の各パラメータの値を用いて式(2)により算出したg^
11(t
i)とに基づいて、式(4)により二乗和Jを算出する。同定処理部505は、二乗和Jが閾値以下となるように、式(5)により各パラメータの値を更新する(
図2のステップS160)。
【0041】
同定処理部505は、パラメータの更新を繰り返し、Jの値やその値の変化によって収束したか否かを判断する。同定処理部505は、収束しないと判断した場合(
図2のステップS170:NO)、新たな初期値及びλの入力を受ける(ステップS150)。同定処理部505は、収束したと判断した場合、そのときのパラメータ値を用い、式(5)の関係に基づいて、質量M、ばね定数K及び減衰係数Cを算出する(ステップS180)。
【0042】
数値実験により、本実施形態によるシステム同定法の動作検証をおこなった。口径100mmのダクタイル鋳鉄管で構成された管路を模擬するため、真値がM=13.3070kg、K=2.8994×10
9N/m、C=1000Ns/m、Δ
K=5.7989×10
7N/m、Δ
C=666.6667Ns/mとした。本条件よりサンプリング周波数50kHzで20msのインパルス応答関数を生成し、さらに平均0、分散1の正規性白色雑音をインパルス応答関数に加算し、試験用のテストデータとした。初期値は各真値に0.95を乗じた値を用い、ステップ調整用パラメータは0.01を用いた。
【0043】
図8は、上記の条件によるシステム同定結果を示す図である。同図において横軸は周波数を表し、縦軸はアクセレランス(Accelerance)を表す。同図には、同定したパラメータを用いて計算した自己周波数応答関数(Identified)と、真値の自己周波数応答関数(Experiment)をそれぞれ示している。同図によれば、真値と、同定結果の両者の良い一致が確認できる。なお、推定値は、M=13.3073kg、K=2.8980×10
9N/m、C=999.9312Ns/m、Δ
K=6.0652×10
7N/m、Δ
C=666.6730Ns/mであった。以上により、本実施形態による同定アルゴリズムの動作が確認できる。
【0044】
なお、第2の実施形態のように管路のシステム同定を行う場合、パラメータω
d1、ω
d2、α、β、γの初期値は以下のように算出される。これらの初期値を決める主たるパラメータである質量M及びばね定数Kは、以下の式(6)を用いて算出される。
【0046】
ここで、Rは半径、Aは断面積である。管長をL、管厚をhとした場合、A=hLの関係がある。半径R、管厚hは管路管理台帳データから読み出した口径、管厚から求められる。管長Lは、管路管理台帳データから読み出してもよく、ユーザが入力してもよい。Eは管の弾性係数、Iは断面二次モーメントであり、I=L・h
3/12である。ρは、管の密度である。弾性係数E及び管の密度ρは、管路管理台帳データから読み出した材種に応じた値としてもよく、予め決められた値としてもよい。Δ
Kはばね定数Kの1/100、Δ
Cは減衰係数Cの1/3程度が望ましい。初期値の算出に用いる減衰係数C、減衰係数の変化Δ
Cは、管路管理台帳データから読み出した口径、管厚、材種のうち一以上に応じた値としてもよく、予め決められた値としてもよい。初期値設定部307は、これらの値を用いて式(3)により各パラメータω
d1、ω
d2、α、β、γの初期値を算出する。
以上が初期値設定部の具体的な表式である。
【0047】
[実験]
供用後の水道管を試験用管路に設置し、通水環境下でシステム同定実験を実施した。供試管路は口径100mm、肉厚10mmの普通鋳鉄管で供用済みの管を用いた。管路の上部には消火栓を設置し、カプラ上に加速度センサを設置した。
【0048】
図9は、システム同定実験の結果を示す図である。同図において横軸は周波数を表し、縦軸はアクセレランス(Accelerance)を表す。また図中の丸のプロットは自己周波数応答関数の実験値(Experiment)を表し、実線は同定結果(Identified)を表している。同図に示すように、実験値と推定値のピーク位置やスペクトル形状について、良好な一致が確認された。なお、得られた推定値はM=14.8446kg、K=3.4346×10
9N/m、C=903.5491Ns/m、Δ
K=1.2877×10
8N/m、Δ
C=903.5491Ns/mであった。
【0049】
関連技術と比較した優位性を示すため、特許文献1で用いられているARモデルを用いた同定を行った。
そして、ARモデルを用いた同定方法と本実施形態による同定方法と
を比較
した。
【0050】
その結果、AR法による同定結果は、実験値との大きな乖離が確認され、同定困難であることが
わかった。これは、インパルス応答関数がうなり波形をともなっており、時間領域同定法で用いる多項式モデルでは、本波形の特徴を記述するのに限界が生じていることを示している。以上の検討により、本実施形態が優れた効果を奏する
ことがわかった。
【0051】
図
10は、本発明の実施形態によるシステム同定装置の最小構成を示すブロック図である。同図に示す最小構成のシステム同定装置1aは、上述した第1の実施形態の分析部105を少なくとも備えればよい。分析部105は、分析対象を励振させた位置において計測された入力信号及び出力信号に基づいて自己周波数応答関数を算出する。そして、分析部105は、算出された自己周波数応答関数から得られるインパルス応答関数と、分析対象がモデル化された仮想二自由度モデルのインパルス応答関数とを用いて、分析対象のシステム同定を行う。
【0052】
本実施形態によれば、仮想二自由度モデルの自己周波数応答関数に対応するインパルス応答関数を用いて、近接固有値を有する系のシステム同定を行うことができる。
【0053】
上述した実施形態におけるシステム同定装置1、1a、3、5は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、システム同定プログラムを実行することによって上述した実施形態におけるシステム同定装置1、1a、3、5の一部の機能を実現する。なお、システム同定装置1、1a、3、5の一部の機能は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されても良い。システム同定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されても良い。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD−ROM(Compact Disc Read only memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。システム同定プログラムは、電気通信回線を介して送信されても良い。
【0054】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0055】
(付記1)分析対象を励振させた位置において計測された入力信号及び出力信号に基づいて自己周波数応答関数を算出し、算出された前記自己周波数応答関数から得られるインパルス応答関数と、前記分析対象がモデル化された仮想二自由度モデルのインパルス応答関数とを用いて前記分析対象のシステム同定を行う分析部、を備えるシステム同定装置。
【0056】
(付記2)前記分析部は、多変数ニュートン法により仮想二自由度モデルの前記インパルス応答関数を推定し、推定により得られた前記インパルス応答関数に基づいて前記分析対象のシステム同定を行う、付記1に記載のシステム同定装置。
【0057】
(付記3)前記分析対象の物理データに基づいて多変数ニュートン法に用いられる初期値を算出する初期値設定部をさらに備える、付記2に記載のシステム同定装置。
【0058】
(付記4)前記分析対象は、管路である、付記1に記載のシステム同定装置。
【0059】
(付記5)前記分析対象を励振させる加振部と、前記加振部により前記分析対象を励振させた位置における入力信号及び出力信号を計測する計測部と、前記加振部が前記分析対象を励振させる位置と前記計測部が前記分析対象を計測する位置とを揃えるように前記加振部及び前記計測部を設置する設置位置決め部とをさらに備える、付記1に記載のシステム同定装置。
【0060】
(付記6)前記加振部は、力センサを内蔵したインパルスハンマー又は電磁式加振器である、付記5に記載のシステム同定装置。
【0061】
(付記7)前記計測部は、加速度ピックアップ、レーザー変位計、レーザードップラー型速度計又は接触式変位計である、付記5に記載のシステム同定装置。
【0062】
(付記8)前記設置位置決め部は、消火栓カプラである、付記5に記載のシステム同定装置。
【0063】
(付記9)前記分析部は、前記システム同定により前記分析対象の系の質量、剛性定数及び減衰係数を得る、付記1に記載のシステム同定装置。
【0064】
(付記10)分析対象を励振させる加振ステップと、前記加振ステップにおいて前記分析対象を励振させた位置における入力信号及び出力信号を計測する計測ステップと、前記計測ステップにおいて計測された前記入力信号及び前記出力信号に基づいて自己周波数応答関数を算出し、算出された前記自己周波数応答関数から得られるインパルス応答関数と、前記分析対象がモデル化された仮想二自由度モデルのインパルス応答関数とを用いて前記分析対象のシステム同定を行う分析ステップと、を有するシステム同定方法。
【0065】
(付記11)コンピュータに、分析対象を励振させた位置において計測された入力信号及び出力信号に基づいて自己周波数応答関数を算出し、算出された前記自己周波数応答関数から得られるインパルス応答関数と、前記分析対象がモデル化された仮想二自由度モデルのインパルス応答関数とを用いて前記分析対象のシステム同定を行う分析ステップ、を実行させるプログラム。
以上、実施形態(及び実施例)を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態(及び実施例)に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2018年2月21日に出願された日本出願特願2018−029218を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。