特許第6981541号(P6981541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981541液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981541
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20211202BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20211202BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08L79/08 A
   C08L101/00
【請求項の数】8
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2020-511630(P2020-511630)
(86)(22)【出願日】2019年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2019006154
(87)【国際公開番号】WO2019193854
(87)【国際公開日】20191010
【審査請求日】2020年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-73137(P2018-73137)
(32)【優先日】2018年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
【審査官】 磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/012316(WO,A1)
【文献】 特開2014−211525(JP,A)
【文献】 特開2005−351924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08F 212/14
C08G 73/10
C08L 25/18
C08L 79/08
C08L 83/06
C08L 101/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体成分と、下記式(1)又は式(2)で表される部分構造を一分子内に2個以上有するα,β−不飽和化合物と、を含有し、
前記重合体成分は、下記式(7−1)〜式(7−3)のそれぞれで表される部分構造を有する重合体を含む、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、Lは、前記重合体成分が有する基との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。一分子内の複数のX、R、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【化2】
(式(7−1)中、A21は、単結合又は炭素数1以上の2価の有機基であり、Yは保護基であり、R21〜R23は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。mは0〜6の整数である。式(7−2)中、Yは保護基である。式(7−3)中、R24及びR25は、それぞれ独立に2価の炭化水素基であり、Yは保護基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記α,β−不飽和化合物は、下記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物(ただし、互変異性体を含む。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式(4−1)〜式(4−4)、式(5)及び式(6)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、R〜R及びR〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基であり、Rは、炭素数2〜5のアルカンジイル基又は当該アルカンジイル基の炭素−炭素結合間に−O−又は−S−を有する基である。L及びLは上記式(1)、(2)と同義である。一分子内の複数のX、R〜R10、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項3】
前記重合体成分は、1級アミノ基を末端に有する重合体を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体成分の少なくとも一部が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項6】
請求項に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を一対の基板における各基板面に塗布し、該塗布した基板面に光照射することにより液晶配向能を付与して液晶配向膜を形成する工程と、
前記液晶配向膜を形成した一対の基板を、液晶層を介して前記基板の塗布面が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、
を含む、液晶素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布する工程と、
前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を介して前記基板の塗布面が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、
前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、
を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2018年4月5日に出願された日本出願番号2018−73137号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶配向剤、液晶配向膜、液晶素子及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶素子は、液晶分子を一定の方向に配向させる機能を有する液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は、一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板表面に塗布し、好ましくは加熱することによって基板上に形成される。また、液晶配向剤を用いて基板上に形成された有機膜に対しては、必要に応じてラビング処理や光配向処理が施され、これにより液晶配向能が付与される。
【0004】
近年、大画面で高精細な液晶テレビが主体となり、またスマートフォンやタブレットPC等といった小型の表示端末の普及が進み、液晶素子に対する高品質化の要求は従来よりも増してさらに高まっている。こうした背景から、液晶配向膜の性能を改善し、液晶素子の各種特性(例えば、液晶配向性や電圧保持率、残像特性等)をより優れたものとするべく種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1には、ポリイミドと共に、窒素原子を有するエポキシ化合物(例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等)を含有する液晶配向剤が開示されている。この特許文献1に記載の液晶配向剤によれば、ラビング傷に起因する表示不良を抑制でき、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を得ることが可能である。また、特許文献2には、ポリアミック酸又はポリイミドと共に、イミド結合と2個以上のエポキシ基とを含有する化合物(例えば、モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸、トリグリシジルイソシアヌル酸等)を液晶配向剤に含有させることが開示されている。特許文献3には、ポリアミック酸又はポリイミドと共に、3,4−エポキシシクロヘキサン環を2個以上有する多官能エポキシ化合物を液晶配向剤に含有させることが開示されている。架橋剤を含有する液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成する場合、通常、膜形成時の加熱(ポストベーク)によって架橋が進み、膜の硬化が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−333153号公報
【特許文献2】特開2007−139949号公報
【特許文献3】特開2016−170409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
架橋剤の添加により膜の硬化を十分に進行させ、膜硬度を高くするためには、膜形成時の加熱を高温で(例えば、200℃以上で)行うことが望ましい。しかしながら、液晶配向膜を形成する際に高温での加熱が必要になると、基板の材料が制約される等の不都合が生じ、液晶素子の基板としてフィルム基材を適用することが制限されることがある。また、カラー液晶表示素子において、カラーフィルタ用の着色剤として用いられる染料は熱に比較的弱く、膜形成時の加熱を高温で行う必要がある場合には染料の使用が制限されることが懸念される。一方、膜の硬化が十分でないと膜硬度が十分でなく、液晶配向性や電圧保持率が低下することが懸念される。
【0008】
また、架橋剤の添加によって重合体成分の溶解性が低下したり、架橋剤が配向剤中に析出したりした場合、液晶配向剤の基板に対する塗布性が劣ることとなる。また、得られる液晶素子の液晶配向性や電圧保持率が低下したり、製品歩留まりが低下したりすることが懸念される。
【0009】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、基板に対する塗布性が良好であり、膜形成を低温で行った場合にも、膜硬度が高く、かつ液晶配向性及び電圧保持率に優れた液晶素子を得ることができる液晶配向剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示によれば、以下の手段が提供される。
[1] 重合体成分と、下記式(1)又は式(2)で表される部分構造を一分子内に2個以上有するα,β−不飽和化合物と、を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、Lは、前記重合体成分が有する基との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子であり、Rは、水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。一分子内の複数のX、R、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] 上記[1]の液晶配向剤を一対の基板における各基板面に塗布し、該塗布した基板面に光照射することにより液晶配向能を付与して液晶配向膜を形成する工程と、前記液晶配向膜を形成した一対の基板を、液晶層を介して前記基板の塗布面が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、を含む、液晶素子の製造方法。
[5] 上記[1]の液晶配向剤を、導電膜を有する一対の基板のそれぞれの前記導電膜上に塗布する工程と、前記液晶配向剤を塗布した一対の基板を、液晶層を介して前記基板の塗布面が相対するように対向配置して液晶セルを構築する工程と、前記導電膜間に電圧を印加した状態で前記液晶セルに光照射する工程と、を含む、液晶素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の液晶配向剤によれば、膜形成時の加熱を低温(例えば170℃以下の温度)で行った場合にも、液晶配向性及び電圧保持率に優れた液晶素子を得ることができる。また、本開示の液晶配向剤は、基板に対する塗布性に優れており、よって製品歩留まりの低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、重合体成分と、添加剤成分とを含有する。また、添加剤成分として、上記式(1)又は式(2)で表される部分構造を一分子内に2個以上有するα,β−不飽和化合物(以下、「化合物[V]」ともいう。)を含有する。以下に、本開示の液晶配向剤に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0013】
<重合体成分>
液晶配向剤に含有される重合体成分は、化合物[V]により架橋される限り、その主骨格は特に限定されない。重合体成分の具体例としては、例えばポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリオルガノシロキサン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリベンゾオキサゾール前駆体、ポリベンゾオキサゾール、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリマレイミド、スチレン−マレイミド系共重合体、又はポリ(メタ)アクリレートを主骨格とし、かつ化合物[V]と反応(架橋反応)する官能基を有する重合体が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。ポリエナミンとは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素−炭素二重結合を有する重合体であり、例えばポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。
【0014】
重合体成分としては、これらのうち、得られる液晶素子の性能(例えば、液晶配向性や電気特性、機械的強度、耐候性等)を十分に高くできる点で、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリマレイミド、スチレン−マレイミド系共重合体、及びポリオルガノシロキサンよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。化合物[V]による上記の改善効果がより高い点で、ジアミンに由来する構造単位を有する重合体を含むことが好ましく、具体的には、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、及びポリアミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0015】
重合体成分は、1級アミノ基を末端に有する重合体を含むことが好ましい。この場合、化合物[V]による架橋がより促進され、得られる液晶素子の電圧保持率をより高くできる点で好ましい。1級アミノ基を末端に有する重合体は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリアミン、ポリエナミン、及びポリアミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、化合物[V]による液晶配向性及び電圧保持率の改善効果をより高くできる点、及び合成しやすい点で、重合体成分は、その少なくとも一部が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0016】
(ポリアミック酸)
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0017】
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−8−メチル−3a,4,5,9b−テトラヒドロナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物などを;芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’−カルボニルジフタル酸無水物などを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0018】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸の合成に使用するジアミン化合物としては、公知のジアミン化合物を用いることができ、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサン等を挙げることができる。加熱した際に化合物[V]との反応性が高く、架橋をより促進させることができる点、及び重合体の溶剤に対する溶解性を改善できる点で、下記式(7−1)〜式(7−3)のそれぞれで表される部分構造を有するジアミン化合物(以下、「保護基含有ジアミン」ともいう。)を好ましく用いることができる。
【化2】
(式(7−1)中、A21は、単結合又は炭素数1以上の2価の有機基であり、Yは保護基であり、R21〜R23は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基である。mは0〜6の整数である。式(7−2)中、Yは保護基である。式(7−3)中、R24及びR25は、それぞれ独立に2価の炭化水素基であり、Yは保護基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0019】
上記式(7−1)〜式(7−3)において、Y〜Yの保護基は、熱により脱離する基であることが好ましく、例えばカルバメート系保護基、アミド系保護基、イミド系保護基、スルホンアミド系保護基等が挙げられる。保護基としては、中でもカルバメート系保護基が好ましく、その具体例としては、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−ハロエチルオキシカルボニル基、1,1−ジメチル−2−シアノエチルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、2−(トリメチルシリル)エトキシカルボニル基等が挙げられる。これらのうち、熱による脱離性が高い点、及び脱保護された部分の膜中での残存量をより少なくできる点で、tert−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
21及びR22の1価の有機基は、炭素数1〜10の1価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基又はシクロアルキル基であることがより好ましい。
23の1価の有機基は、炭素数1〜10の1価のアルキル基又は保護基であることが好ましい。保護基は、好ましくはカルバメート系保護基であり、tert−ブトキシカルボニル基が特に好ましい。
24及びR25の2価の炭化水素基は、炭素数1〜10の2価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルカンジイル基であることがより好ましい。
21の2価の有機基としては、例えば2価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−、−CO−、−COO−、−NH−を有する基等が挙げられる。A21は、芳香環に結合していることが好ましく、ベンゼン環に結合していることが特に好ましい。
【0020】
保護基含有ジアミンの具体例としては、例えば下記式(d−7−1)〜式(d−7−14)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化3】
(式中、TMSはトリメチルシリル基を示す。)
【0021】
保護基含有ジアミンを使用する場合、その使用割合は、重合体の合成に使用するジアミン化合物の合計量に対して、2モル%以上とすることが好ましく、3〜80モル%とすることがより好ましく、5〜70モル%とすることが更に好ましい。なお、保護基含有ジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
ポリアミック酸の合成に使用するジアミンとしては、上記のほか、脂肪族ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などを;
芳香族ジアミンとして、例えば、ドデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,4−ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ−2,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−3,5−ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ−2,4−ジアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5−ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5−ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6−ビス(4−アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6−ビス(4−アミノフェノキシ)コレスタン、2,4−ジアミノ−N,N−ジアリルアニリン、4−(4’−トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル−3,5−ジアミノベンゾエート、1,1−ビス(4−((アミノフェニル)メチル)フェニル)−4−ブチルシクロヘキサン、3,5−ジアミノ安息香酸=5ξ−コレスタン−3−イル、下記式(E−1)
【化4】
(式(E−1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、−O−、*−COO−又は*−OCO−(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)であり、Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、RIIは単結合又は炭素数1〜3のアルカンジイル基であり、aは0又は1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜20の整数であり、dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物、桂皮酸構造を側鎖に有するジアミン、下記式(d−8−1)〜式(d−8−7)のそれぞれで表される化合物などの側鎖型ジアミン:
【0023】
p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、4,4’−ジアミノビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、1,2−ビス(4−アミノフェノキシ)エタン、1,6−ビス(4−アミノフェノキシ)ヘキサン、ビス[2−(4−アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ベンゼンジアミン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチル−1,4−ベンゼンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)アミン、ビス(4−アミノフェニル)メチルアミン、2,6−ジアミノピリジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−[4,4’−プロパン−1,3−ジイルビス(ピペリジン−1,4−ジイル)]ジアニリン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノスチルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニルアミン、1,3−ビス(4−アミノフェネチル)ウレア、1,3−ビス(4−アミノベンジル)ウレア、1,4−ビス(4−アミノフェニル)−ピペラジン、N−(4−アミノフェニルエチル)−N−メチルアミン、下記式(d−8−8)〜式(d−8−16)のそれぞれで表される化合物等の主鎖型ジアミンなどを;ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを;それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。
【化5】
【化6】
【0024】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2〜2当量となる割合が好ましい。分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、1級アミノ基を末端に有する重合体としてポリアミック酸を得るには、(1)テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応において、テトラカルボン酸二無水物よりもジアミン化合物の使用量を多くする(例えば、テトラカルボン酸二無水物の使用量の1.1〜1.5モル当量にする)方法、(2)分子量調整剤として上記モノアミン化合物を反応させる方法、等が挙げられる。
【0026】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は−20℃〜150℃が好ましく、反応時間は0.1〜24時間が好ましい。
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m−クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1〜50質量%になる量とすることが好ましい。
以上のようにして、ポリアミック酸を溶解してなる反応溶液が得られる。この反応溶液はそのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸を単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0027】
(ポリアミック酸エステル)
ポリアミック酸エステルは、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミン化合物とを反応させる方法、などによって得ることができる。液晶配向剤に含有させるポリアミック酸エステルは、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。なお、ポリアミック酸エステルを溶解してなる反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれるポリアミック酸エステルを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。
【0028】
(ポリイミド)
ポリイミドは、例えば上記の如くして合成されたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、その前駆体であるポリアミック酸が有していたアミック酸構造のすべてを脱水閉環した完全イミド化物であってもよく、アミック酸構造の一部のみを脱水閉環し、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する部分イミド化物であってもよい。反応に使用するポリイミドは、そのイミド化率が20〜99%であることが好ましく、30〜90%であることがより好ましい。このイミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ここで、イミド環の一部がイソイミド環であってもよい。
【0029】
ポリアミック酸の脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0〜180℃である。反応時間は、好ましくは1.0〜120時間である。このようにして得られる、ポリイミドを含有する反応溶液は、そのまま液晶配向剤の調製に供してもよく、ポリイミドを単離したうえで液晶配向剤の調製に供してもよい。ポリイミドは、ポリアミック酸エステルのイミド化により得ることもできる。
【0030】
液晶配向剤を用いて形成した有機膜に対し光配向法を用いて液晶配向能を付与する場合、重合体成分の少なくとも一部を、光配向性基を有する重合体とすることが好ましい。光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応又は光分解反応等の光反応によって膜に異方性を付与可能な官能基をいう。
【0031】
光配向性基の具体例としては、例えば、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造、スチルベン又はその誘導体を基本骨格とするスチルベン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基等が挙げられる。これらのうち、光配向性基は、アゾベンゼン含有基、桂皮酸構造含有基、カルコン含有基、スチルベン含有基、シクロブタン含有構造、及びフェニルベンゾエート含有基よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、光に対する感度が高い点、及び重合体中に導入しやすい点で、桂皮酸構造含有基又はシクロブタン含有構造であることが好ましい。
【0032】
光配向性基を有する重合体は、例えば、(1)光配向性基を有するモノマーを用いた重合により得る方法、(2)エポキシ基を側鎖に有する重合体を合成し、そのエポキシ基含有重合体と、光配向性基を有するカルボン酸とを反応させる方法、等により得ることができる。重合体における光配向性基の含有割合は、塗膜に対し所望の液晶配向能を付与するように光配向性基の種類に応じて適宜設定されるが、例えば桂皮酸構造含有基の場合、光配向性基を有する重合体の全構成単位に対して、光配向性基の含有割合を5モル%以上とすることが好ましく、10〜60モル%とすることがより好ましい。光配向性基がシクロブタン含有構造である場合、光配向性基を有する重合体の全構成単位に対して、光配向性基の含有割合を50モル%以上とすることが好ましく、80モル%以上とすることがより好ましい。なお、光配向性基を有する重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
液晶配向剤に含有させる重合体成分は、1種単独でもよいが、2種以上のブレンド系としてもよい。例えば、第1の重合体と、第1の重合体よりも極性が高い第2の重合体とを液晶配向剤に含有させる。この場合、極性が高い第2の重合体が下層に偏在し、第1の重合体が上層に偏在して相分離を生じさせることが可能な点で好ましい。液晶配向剤の重合体成分の好ましい態様としては、以下の(I)〜(III)が挙げられる。
(I)第1の重合体及び第2の重合体が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる重合体である態様。
(II)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる一種の重合体であり、他方がポリオルガノシロキサンである態様。
(III)第1の重合体及び第2の重合体のうち一方が、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体であり、他方が、重合性不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体(以下、「重合体(Q)」ともいう。)である態様。
【0034】
(ポリオルガノシロキサン)
液晶配向剤に含有させるポリオルガノシロキサンは、例えば、加水分解性のシラン化合物を加水分解・縮合することにより得ることができる。加水分解性のシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のアルコキシシラン化合物;3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−シクロヘキシルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等の窒素・硫黄含有アルコキシシラン化合物;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有アルコキシシラン化合物;トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物などを挙げることができる。加水分解性シラン化合物は、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、「(メタ)アクリロキシ」は、「アクリロキシ」及び「メタクリロキシ」を含む意味である。
【0035】
上記の加水分解・縮合反応は、上記の如きシラン化合物の1種又は2種以上と水とを、好ましくは適当な触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行う。反応に際し、水の使用割合は、シラン化合物(合計量)1モルに対して、好ましくは1〜30モルである。使用する触媒としては、例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物などを挙げることができる。触媒の使用量は、触媒の種類、温度などの反応条件などにより異なり、適宜に設定されるべきであるが、例えばシラン化合物の合計量に対して、好ましくは0.01〜3倍モルである。使用する有機溶媒としては、例えば炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコールなどが挙げられ、これらのうち、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の使用割合は、反応に使用するシラン化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10〜10,000質量部である。
【0036】
上記の加水分解・縮合反応は、例えば油浴などにより加熱して実施することが好ましい。その際、加熱温度は130℃以下とすることが好ましく、加熱時間は0.5〜12時間とすることが好ましい。反応終了後において、反応液から分取した有機溶媒層を、必要に応じて乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするポリオルガノシロキサンが得られる。なお、ポリオルガノシロキサンの合成方法は上記の加水分解・縮合反応に限らず、例えば加水分解性シラン化合物をシュウ酸及びアルコールの存在下で反応させる方法などにより行ってもよい。
【0037】
ポリオルガノシロキサンを、光配向性基を有する重合体とする場合、その合成方法は特に限定されないが、原料の少なくとも一部にエポキシ基含有シラン化合物を用いて、エポキシ基を側鎖に有するポリオルガノシロキサン(以下、「エポキシ基含有ポリオルガノシロキサン」ともいう。)を合成し、次いで、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンと、光配向性基を有するカルボン酸とを反応させる方法などが挙げられる。この方法は簡便であって、しかも感光性基及び液晶性構造の導入率を高くできる点で好ましい。その他、光配向性基を有する加水分解性のシラン化合物をモノマーに含む反応によって、光配向性基を側鎖に有するポリオルガノシロキサンを合成してもよい。ポリオルガノシロキサンにつき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100〜50,000の範囲にあることが好ましく、200〜10,000の範囲にあることがより好ましい。
【0038】
(重合体(Q))
重合体(Q)の合成に用いる、重合性不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、マレイミド基等を有する化合物が挙げられる。こうした化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α−エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸:(メタ)アクリル酸アルキル(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルグリシジルエーテル等の不飽和カルボン酸エステル:無水マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸無水物:などの(メタ)アクリル系化合物;スチレン、メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物;N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド基含有化合物;などが挙げられる。また、重合体(Q)を、光配向性基を有する重合体とする場合には、受合成不飽和結合を有するモノマーとして、光配向性基を有する化合物を用いることもできる。なお、重合性不飽和結合を有するモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
重合体(Q)は、例えば、重合性不飽和結合を有するモノマーを重合開始剤の存在下で重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が好ましい。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01〜30質量部とすることが好ましい。上記重合反応は、好ましくは有機溶媒中で行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素化合物などが挙げられ、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが好ましい。反応温度は、30℃〜120℃とすることが好ましく、反応時間は、1〜36時間とすることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1〜60質量%になるような量にすることが好ましい。重合体(Q)につき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、250〜500,000であることが好ましく、500〜100,000であることがより好ましい。
【0040】
上記(II)及び(III)の態様において、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドの合計の含有割合は、得られる液晶配向膜の膜硬度を十分に高め、液晶素子の液晶配向性及び電圧保持率を十分に高くする点から、液晶配向剤に含まれる重合体成分の合計量に対して、20質量%以上とすることが好ましく、30%質量以上とすることがより好ましく、50〜90質量%とすることがさらに好ましい。液晶配向剤を用いて形成された有機膜に対し光配向法によって液晶配向能を付与する場合、ポリオルガノシロキサン、ポリ(メタ)アクリレート又はスチレン−マレイミド系共重合体を、光配向性基を有する重合体とすることにより、より良好な液晶配向性を有する配向膜が得られる点で好ましい。
【0041】
<化合物[V]>
次に、化合物[V]について説明する。上記式(1)及び式(2)において、Xは、化合物の設計の自由度が高い点で、カルボニル基であることが好ましい。上記式(1)のLは、重合体成分が有する官能基との反応により脱離する脱離基であれば特に限定されない。Lは、好ましくは、熱又は光により重合体成分中のアミノ基(1級アミノ基又は2級アミノ基)と反応して脱離する脱離基である。
の好ましい具体例としては、炭素数1〜5のアルコキシ基、ピロリジニル基、ハロゲン原子、水酸基、置換又は無置換のフェノキシ基、複素環基、複素環の環部分に水酸基又はチオール基が導入されてなる1価の基等が挙げられる。Lが置換フェノキシ基である場合、フェノキシ基が有する置換基としては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)などが挙げられる。なお、本明細書において「複素環基」とは、複素環(例えば、窒素含有複素環、酸素原子複素環、硫黄含有複素環等)の環からn個(nは整数)の水素原子を取り除いたn価の基を意味する。
【0042】
化合物[V]の好ましい具体例としては、下記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有する化合物、下記式(5)で表される化合物、及び下記式(6)で表される化合物(ただし、互変異性体を含む。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、下記式(4−1)、式(4−2)、式(4−4)、式(5)及び式(6)のそれぞれで表される構造又は化合物が、上記式(1)で表される部分構造を有する構造又は化合物に該当し、下記式(4−3)で表される構造が、上記式(2)で表される部分構造を有する構造に該当する。
【化7】
(式(4−1)〜式(4−4)、式(5)及び式(6)中、Xは、カルボニル基又はスルホニル基であり、R〜R及びR〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1以上の1価の有機基であり、Rは、炭素数2〜5のアルカンジイル基又は当該アルカンジイル基の炭素−炭素結合間に−O−又は−S−を有する基である。Lは、重合体成分が有する基との反応により脱離する脱離基であり、Lは、酸素原子又は硫黄原子である。一分子内の複数のX、R〜R10、L及びLは、それぞれ独立して上記定義を有する。「*」は結合手であることを示す。)
【0043】
上記式(4−1)、式(4−2)、式(4−4)及び式(5)中のLの具体例については、上記式(1)中のLの説明が適用される。
〜R及びR〜R10の1価の有機基は、好ましくは炭素数1〜20の1価のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基又は炭素数4〜20のシクロアルキル基であり、より好ましくは1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルコキシ基である。
化合物[V]が上記式(4−1)〜式(4−4)のそれぞれで表される部分構造の1種を一分子内に2個以上有する場合、一分子内における当該部分構造の数は、好ましくは2〜4個であり、より好ましくは2個である。具体的には、下記式(M−1)〜式(M−4)のそれぞれで表される化合物を好ましく用いることができる。
【化8】
(式(M−1)〜式(M−4)中、B〜Bは、単結合又は2価の有機基である。X、R〜R、L及びLは、上記式(4−1)〜式(4−4)と同義である。)
【0044】
上記式(M−1)〜式(M−4)において、B〜Bの2価の有機基としては、例えば炭素数1〜20の2価の炭化水素基、当該炭化水素基の炭素−炭素結合間に−O−、−S−、−NH−等を有する2価の基等が挙げられる。B〜Bが2価の有機基である場合、B〜Bは、上記式(4−1)〜式(4−4)に対して芳香環基で結合する基であることが好ましい。当該芳香環基は、好ましくはフェニレン基又はナフタレン基であり、フェニレン基であることが特に好ましい。この芳香環基は、環部分にメチル基、エチル基、アルコキシ基等を置換基として有していてもよい。
【0045】
化合物[V]の具体例としては、下記式(A−1)〜式(A−14)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化9】
【0046】
なお、「α,β−不飽和化合物」が互変異性を示す化合物である場合、「α,β−不飽和化合物」はその互変異性体を含む意味である。例えば、上記式(4−1)のLが水酸基である部分構造は、下記式(4−1A)で表される部分構造との間で相互に変換する。よって、上記式(4−1)のLが水酸基である部分構造を一分子内に2個以上有する化合物として、下記式(4−1A)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物が液晶配向剤中に存在していてもよい。上記式(4−2)のLが水酸基である部分構造及び上記式(6)で表される化合物についても同様であり、下記式(4−2A)で表される部分構造、下記式(6A)で表される化合物との間でそれぞれ相互に変換する。上記式(A−5)、式(A−9)及び式(A−10)のそれぞれで表される化合物の互変異性体を下記に示す。
【化10】
【化11】
【0047】
なお、上記で例示した化合物[V]のうち、上記式(A−8)、(A−9)、(A−11)、(A−12)及び(A−14)のそれぞれで表される化合物が、上記式(4−1)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当し、上記式(A−10)で表される化合物が、上記式(4−2)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当する。また、上記式(A−13)で表される化合物が、上記式(4−3)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当し、上記式(A−6)及び(A−7)のそれぞれで表される化合物が、上記式(4−4)で表される部分構造を一分子内に2個以上有する化合物に相当する。また、上記式(A−1)〜式(A−3)のそれぞれで表される化合物が上記式(5)で表される化合物に相当し、上記式(A−4)及び式(A−5)のそれぞれで表される化合物が上記式(6)で表される化合物に相当する。
【0048】
化合物[V]の含有割合は、得られる液晶素子の液晶配向性及び電圧保持率の改善効果を十分に得る観点から、液晶配向剤中に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、0.001質量部以上とすることが好ましく、0.003質量部以上とすることがより好ましく、0.005質量部以上とすることがさらに好ましい。また、化合物[V]の含有割合は、ポストベーク後の膜中に残存する化合物[V]による電気特性の低下を抑制する観点から、液晶配向剤中に含有される重合体成分の合計量100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることがより好ましく、1質量部以下とすることがさらに好ましい。なお、化合物[V]としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
<その他の添加剤成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、化合物[V]以外のその他の添加剤成分を含有していてもよい。その他の添加剤成分は、本開示の効果を損なわない限り特に限定されない。その他の添加剤成分の具体例としては、化合物[V]とは異なる化合物であって架橋性基を有する化合物(以下、「架橋性基含有化合物」ともいう。)、官能性シラン化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤、溶剤等が挙げられる。その他の添加剤成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0050】
(架橋性基含有化合物)
架橋性基含有化合物は、液晶配向膜の基板との接着性、液晶素子の信頼性をさらに向上させるために使用されてもよい。架橋性基含有化合物としては、例えば、シクロカーボネート基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、オキセタニル基、トリアルコキシシリル基、及び重合性不飽和結合基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性基を有する化合物等が挙げられる。重合性不飽和結合基としては、(メタ)アクリロイル基、エチレン性炭素−炭素二重結合、ビニルフェニル基、ビニルオキシ基(CH=CH−O−)、ビニリデン基、マレイミド基等が挙げられ、光又は熱による反応性が高い点で、シクロカーボネート基、エポキシ基又は(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0051】
架橋性基含有化合物の具体例としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、N,N−ジグリシジル−アミノメチルシクロヘキサン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、下記式(11−1)〜式(11−10)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。なお、架橋性基含有化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【化12】
【0052】
架橋性基含有化合物を液晶配向剤に配合する場合、その配合割合は、化合物[V]の配合による効果、すなわち、ポストベーク温度を低温(例えば170℃以下)にした場合にも液晶配向性及び電圧保持率が十分に高い液晶素子とする効果を得る観点から、液晶配向剤中に含有される化合物[V]100質量部に対し、150質量部以下とすることが好ましく、120質量部以下とすることがより好ましく、100質量部以下とすることがさらに好ましい。化合物[V]と架橋性基含有化合物とを併用する場合、架橋性基含有化合物の配合割合は、化合物[V]と架橋性基含有化合物との合計量が、液晶配向剤中に含まれる重合体の合計100質量部に対して、10質量部以下となるような量とすることが好ましく、0.001〜5質量部とすることがより好ましく、0.001〜1質量部とすることがさらに好ましい。
【0053】
<溶剤成分>
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、化合物[V]、及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の重合体組成物として調製される。当該有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。溶剤成分は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0054】
本開示の液晶配向剤の溶剤成分としては、重合体の溶解性及びレベリング性が高い溶剤(以下、「第1溶剤」ともいう。)、濡れ広がり性が良好な溶剤(以下、「第2溶剤」ともいう。)、及びこれらの混合溶剤が挙げられる。
溶剤の具体例としては、第1溶剤として、例えばN−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、γ−ブチロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、ジイソブチルケトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−エチル−2−ピロリドン、N−(n−ペンチル)−2−ピロリドン、N−(t−ブチル)−2−ピロリドン、N−メトキシプロピル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド等を;
第2溶剤として、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ダイアセトンアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−1−ブタノール、シクロペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル等を、それぞれ挙げることができる。なお、溶剤は、これらの1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1〜10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%未満である場合には、塗膜の膜厚が過小となって良好な液晶配向膜が得にくくなる。一方、固形分濃度が10質量%を超える場合には、塗膜の膜厚が過大となって良好な液晶配向膜が得にくく、また、液晶配向剤の粘性が増大して塗布性が低下する傾向にある。
【0056】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA−MVA型、VA−PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)など種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1〜工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0057】
<工程1:塗膜の形成>
先ず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム−酸化スズ(In−SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0058】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30〜200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25〜10分である。その後、溶剤を完全に除去し、必要に応じて、重合体成分中のアミック酸構造を熱イミド化することを目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80〜250℃であり、より好ましくは80〜200℃である。また、架橋剤として化合物[V]を用いた液晶配向剤は、170℃以下の比較的低い温度でポストベークを行った場合にも、良好な液晶配向性及び電圧保持率を示す液晶素子を得ることができる点で好ましい。ポストベーク時間は、好ましくは5〜200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001〜1μmである。
【0059】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。配向処理としては、基板上に形成した塗膜を例えばナイロン、レーヨン、コットンなどの繊維からなる布を巻き付けたロールで一定方向に擦るラビング処理や、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理等を用いることができる。一方、垂直配向(VA)型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施してもよい。垂直配向型の液晶素子に好適な液晶配向膜は、PSA型の液晶素子にも好適に用いることができる。
【0060】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200〜400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0061】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー等が挙げられる。基板面に対する放射線の照射量は、好ましくは400〜50,000J/mであり、より好ましくは1,000〜20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0062】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0063】
PSA型の液晶素子を製造する場合には、導電膜を有する一対の基板間に、液晶と共に光重合性化合物を注入又は滴下する点以外は上記と同様にして液晶セルを構築する。その後、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する。ここで印加する電圧は、例えば5〜50Vの直流又は交流とすることができる。また、照射する光としては、例えば150〜800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができるが、300〜400nmの波長の光を含む紫外線が好ましい。照射光の光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマレーザーなどを使用することができる。光の照射量としては、好ましくは1,000〜200,000J/mであり、より好ましくは1,000〜100,000J/mである。
【0064】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0065】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。また、本開示の液晶素子は、カラーフィルタ層の着色剤として染料を用いた液晶素子に対しても好適に用いられる。ここで染料としては、液晶素子に使用され得る公知の染料を用いることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により具体的に説明するが、本開示の内容は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例において、重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)、並びに重合体の溶液粘度は、以下の方法により測定した。
<重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でMw及びMnを測定した。また、分子量分布(Mw/Mn)は、得られたMw及びMnより算出した。
GPCカラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
移動相:リチウムブロミド及びリン酸含有のN,N−ジメチルホルムアミド溶液
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
圧力:68kgf/cm
<重合体の溶液粘度>
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
【0067】
下記の例で使用した化合物の略称を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と示す場合がある。
【0068】
(テトラカルボン酸二無水物)
【化13】
【0069】
(ジアミン化合物)
【化14】
【0070】
(化合物[V])
【化15】
【0071】
(その他の架橋剤)
【化16】
【0072】
<化合物[V]の合成>
[合成例1−1〜1−8]
化合物(VL−1)〜(VL−8)を下記文献に記載の方法に従ってそれぞれ合成した。
・化合物(VL−1):佐藤良和,武者義彦,雨宮康裕,片山将道,日本大学工学部紀要,16,A,113 (1975)
・化合物(VL−2):M. Ueda, K. Kino, T. Hirono, Y. Imai, J. Polym. Sci., Polym. Chem. Ed., 14, 931 (1976)
・化合物(VL−3):S. Kimura, Makromol. Chem., 117, 203 (1968)
・化合物(VL−4):S. J. Huang, J. Pavlisko, E. Hong, Am. Chem. Soc. Polym. Preprints, 19 [2], 57 (1978)
・化合物(VL−5):J. A. Moore, T. D. Mitchell, Am. Chem. Soc. Polym. Preprints, 19 [2], 13 (1978)
・化合物(VL−6):谷本重夫,黒崎正雄,小田良平,有合化,26, 361 (1968)
・化合物(VL−7):M. Ueda, M. Funayama, Y. Imai, Polym. J., 11, 491 (1979)
・化合物(VL−8):Y. Imai, N. Sakai, J. Sasaki, M. Ueda, Makromol. Chem., 180, 1797 (1979)
【0073】
<重合体の合成>
[合成例2−1:ポリアミック酸の合成]
窒素下、100mL二口フラスコに、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物50モル部及び1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物50モル部をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、続いて、化合物(DA−1)10モル部及び化合物(DA−2)90モル部を加えて、60℃で4時間反応を行い、重合体(P−1)を20質量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は1020mPa・sであった。
【0074】
[合成例2−2〜2−14]
使用するモノマーの種類及び量を下記表1に示すように変更した以外は合成例2−1と同様の操作を行い、ポリアミック酸(それぞれ重合体(P−2)〜(P−14)とする。)を含有する溶液を得た。なお、表1中の「−」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを意味する。
【0075】
【表1】
【0076】
[合成例2−15]
窒素下、100mL二口フラスコに、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(化合物(AH−2))100モル部をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し、続いて、(E)−4−(3−(2,4−ジアミノフェネトキシ)−3−オキソプロパ−1−エン−1−イル)フェニル4−(4,4,4−トリフルオロブトキシ)ベンゾエート100モル部を加えて、60℃で24時間反応を行い、重合体(P−15)を30質量%含有する溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液を少量分取し、NMPを加えてポリアミック酸濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は640mPa・sであった。
【0077】
[合成例3−1:ポリオルガノシロキサンの合成]
下記スキーム1に従って重合体(ES−1)を合成した。
【化17】
【0078】
1000ml三口フラスコに2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン90.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗から30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応を行った。反応終了後、有機層を取り出し、これを0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄した後、減圧下で溶媒及び水を留去した。メチルイソブチルケトンを適量添加し、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(E−1)の50質量%溶液を得た。
500ml三口フラスコに、下記に示す側鎖カルボン酸(ca−1)26.69g(0.3mol当量)、テトラブチルアンモニウムブロミド2.00g、ポリオルガノシロキサン(E−1)含有溶液80g、及びメチルイソブチルケトン239gを加え、110℃で4時間撹拌した。室温まで冷却した後、蒸留水で分液洗浄操作を10回繰り返した。その後、有機層を回収し、ロータリーエバポレータにより濃縮とNMP希釈を2回繰り返し、重合体(ES−1)中間体の15質量%NMP溶液を得た。この中間体溶液50gに、トリメリット酸無水物0.45g(0.1mol当量)を加えた後、NMPを用いて固形分濃度が10質量%になるように調製した後、室温で4時間撹拌することで、重合体(ES−1)のNMP溶液を得た。
【化18】
【0079】
[合成例3−2]
合成例3−1において、側鎖カルボン酸(ca−1)の代わりに、下記に示す側鎖カルボン酸(ca−2)を用いた以外は合成例3−1と同様の操作を行うことにより、重合体(ES−2)を含有するNMP溶液を得た。
【化19】
【0080】
[合成例4−1:スチレン−マレイミド系共重合体の合成]
1.化合物(MI−1)の合成
下記スキーム2に従って化合物(MI−1)を合成した。
【化20】
【0081】
攪拌子を入れた100mLナスフラスコに(E)−3−(4−((4−(4,4,4−トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ)フェニル)アクリル酸11.8g、塩化チオニル20g、N,N−ジメチルホルムアミド0.01gを加え,80℃で1時間攪拌した。その後、過剰の塩化チオニルをダイヤフラムポンプで除去し、テトラヒドロフランを100g加え、溶液Aとした。新たに、攪拌子を入れた500mL三口フラスコに4−ヒドロキシフェニルマレイミドを5.67g、テトラヒドロフラン200g、トリエチルアミン12.1gを加え、氷浴した。そこに溶液Aを滴下し、室温で3時間撹拌した。反応液を水800mLで再沈殿し、得られた白色固体を真空乾燥することで化合物(MI−1)を13.3g得た。
【0082】
2.重合体の合成
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、上記で得られた化合物(MI−1)5.00g(8.6mmol)、4−ビニル安息香酸0.64g(4.3mmol)、4−(2,5−ジオキソ−3−ピロリン−1−イル)安息香酸2.82g(13.0mmol)、及び4−(グリシジルオキシメチル)スチレン3.29g(17.2mmol)、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.31g(1.3mmol)、連鎖移動剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.52g(2.2mmol)、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン25mlを加え、70℃で5時間重合した。n−ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(StMI−1)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2であった。
【0083】
[合成例4−2]
合成例4−1において、化合物(MI−1)の代わりに、下記に示すマレイミド化合物(MI−2)を用いた以外は合成例4−1と同様の操作を行うことにより重合体(StMI−2)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは35000、分子量分布Mw/Mnは2であった。
【化21】
【0084】
<ラビングFFS型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例1]
1.液晶配向剤(AL−1)の調製
上記合成例2−1で得た重合体(P−1)100質量部を含む溶液に、上記合成例2−11で得た重合体(P−11)200質量部、化合物(VL−1)5質量部、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL−1)を調製した。
【0085】
2.塗布性の評価
上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間加熱(ポストベーク)することにより、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜を倍率100倍及び10倍の顕微鏡で観察して膜厚ムラ及びピンホールの有無を調べた。評価は、100倍の顕微鏡で観察しても膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されなかった場合に「良好(A)」、100倍の顕微鏡では膜厚ムラ及びピンホールの少なくともいずれかが観察されたが、10倍の顕微鏡では膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されなかった場合に「可(B)」、10倍の顕微鏡で膜厚ムラ及びピンホールの少なくともいずれかが明確に観察された場合に「不良(C)」とした。この実施例では、100倍の顕微鏡でも膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されず、塗布性は「良好(A)」の評価であった。
【0086】
3.膜硬度の評価
ガラス基板上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、150℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜につき、JIS−K5400に準拠して鉛筆硬度(表面硬度)を評価した。鉛筆硬度が4H以上であった場合を「A」、2H又は3Hであった場合を「B」、Hであった場合を「C」、H未満であった場合を「D」と評価したところ、この液晶配向膜の鉛筆硬度は「A」の評価であった。
【0087】
4.ラビング水平型液晶表示素子の製造(1)
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−1)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜に対し、レーヨン布を巻き付けたロールを有するラビングマシーンにより、ロール回転数400rpm、ステージ移動速度3cm/秒、毛足押し込み長さ0.1mmでラビング処理を行った。その後、超純水中で1分間超音波洗浄を行い、次いで100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を得た。この一連の操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネマチック液晶(メルク社製、MLC−6221)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることにより、ラビング水平型の液晶表示素子Aを製造した。
【0088】
5.ラビング水平型液晶表示素子の製造(2)
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した点以外は、上記4.と同様の操作を行うことにより、ラビング水平型の液晶表示素子Bを製造した。
【0089】
6.液晶配向性の評価
上記で製造したラビング水平型液晶表示素子A,Bのそれぞれにつき、5Vの電圧をON・OFF(印加・解除)したときの明暗の変化における異常ドメインの有無を光学顕微鏡により観察し、異常ドメインがない場合を「A」、一部に異常ドメインがある場合を「B」、全体的に異常ドメインがある場合を「C」として液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、ポストベーク温度を230℃とした素子A、及び150℃とした素子Bのいずれについても液晶配向性は「A」であった。
【0090】
7.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したラビング水平型液晶表示素子A,Bのそれぞれにつき、5Vの電圧を60マイクロ秒の印加時間、167ミリ秒のスパンで印加した後、印加解除から167ミリ秒後の電圧保持率を測定した。測定装置は(株)東陽テクニカ製VHR−1を使用した。このとき、電圧保持率が98%以上の場合に「S」、95%以上98%未満の場合に「A」、80%以上95%未満の場合に「B」、50%以上80%未満の場合に「C」、50%未満の場合に「D」とした。その結果、この実施例では、ポストベーク温度を230℃とした素子A、及び150℃とした素子Bのいずれについても電圧保持率は「A」の評価であった。
【0091】
[実施例5,8及び9]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性及び膜硬度の評価を行うとともに、実施例1と同様にしてラビング水平型液晶表示素子A,Bを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。
【0092】
<光FFS型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例2]
1.液晶配向剤(AL−2)の調製
使用する重合体及び架橋剤の種類及び量を下記表2に記載のとおりに変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−2)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−2)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
3.膜硬度の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−2)を用いた以外は上記実施例1と同様にして膜硬度の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
【0093】
4.光FFS型液晶表示素子の製造(1)
平板電極、絶縁層及び櫛歯状電極がこの順で片面に積層されたガラス基板と、電極が設けられていない対向ガラス基板とのそれぞれの面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−2)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間加熱(プレベーク)した。その後、庫内を窒素置換した230℃のオーブンで30分間乾燥(ポストベーク)を行い、平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この塗膜表面に、Hg−Xeランプを用いて、直線偏光された254nmの輝線を含む紫外線1,000J/mを基板法線方向から照射して光配向処理を行い、基板上に液晶配向膜を形成した。
次いで、液晶配向膜を有する一対の基板につき、液晶配向膜を形成した面の縁に液晶注入口を残して直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷塗布した後、光照射時の偏光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように基板を重ね合わせて圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、一対の基板間に液晶注入口よりネマチック液晶(メルク社製、MLC−7028)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを120℃で加熱してから室温まで徐冷し、液晶セルを製造した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と90°の角度をなすように貼り合わせることにより光FFS型液晶表示素子Aを製造した。
5.光FFS型液晶表示素子の製造(2)
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した点以外は、上記4.と同様の操作を行うことにより光FFS型の液晶表示素子Bを製造した。
【0094】
6.液晶配向性の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子A,Bにつき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、光FFS型液晶表示素子A,B共に液晶配向性は「A」であった。
7.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造した光FFS型液晶表示素子A,Bにつき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、光FFS型液晶表示素子A,B共に電圧保持率は「A」の評価であった。
【0095】
[実施例10〜12]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性及び膜硬度の評価を行うとともに、実施例2と同様にして光FFS型液晶表示素子A,Bを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。
【0096】
<VA型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例3]
1.液晶配向剤(AL−3)の調製
使用する重合体及び架橋剤の種類及び量を下記表2に記載のとおりに変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−3)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−3)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
3.膜硬度の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−3)を用いた以外は上記実施例1と同様にして膜硬度の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
【0097】
4.VA型液晶表示素子の製造(1)
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−3)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。この操作を繰り返すことにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうち1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、それぞれの液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より、一対の基板間にネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止し、基板の外側の両面に偏光板を貼り合わせることによりVA型液晶表示素子Aを製造した。
5.VA型液晶表示素子の製造(2)
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した点以外は、上記4.と同様の操作を行うことによりVA型の液晶表示素子Bを製造した。
【0098】
6.液晶配向性の評価
上記で製造したVA型液晶表示素子A,Bにつき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、VA型液晶表示素子A,B共に、液晶配向性は「A」であった。
7.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したVA型液晶表示素子A,Bにつき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、VA型液晶表示素子A,B共に、電圧保持率は「A」の評価であった。
【0099】
[実施例4]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤を得た。また、得られた液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性及び膜硬度の評価を行うとともに、実施例3と同様にしてVA型液晶表示素子A,Bを製造して各種評価を行った。その結果を下記表3に示した。
【0100】
<PSA型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例6]
1.液晶配向剤(AL−6)の調製
使用する重合体及び架橋剤の種類及び量を下記表2に記載のとおりに変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−6)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−6)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
3.膜硬度の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−6)を用いた以外は上記実施例1と同様にして膜硬度の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
【0101】
4.液晶組成物の調製
ネマチック液晶(メルク社製、MLC−6608)10gに対し、下記式(L1−1) で表される液晶性化合物を5質量%、及び下記式(L2−1)で表される光重合性化合物 を0.3質量%添加して混合することにより液晶組成物LC1を得た。
【化22】
【0102】
5.PSA型液晶表示素子の製造(1)
上記で調製した液晶配向剤(AL−6)を、ITO電極からなる導電膜をそれぞれ有するガラス基板2枚の各電極面上に、液晶配向膜印刷機(日本写真印刷(株)製)を用いて塗布し、80℃のホットプレート上で2分間加熱(プレベーク)して溶媒を除去した後、230℃のホットプレート上で10分間加熱(ポストベーク)して、平均膜厚0.06μmの塗膜を形成した。これら塗膜につき、超純水中で1分間超音波洗浄を行った後、100℃クリーンオーブン中で10分間乾燥することにより、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)得た。なお、使用した電極のパターンは、PSAモードにおける電極パターンと同種のパターンである。
次いで、上記一対の基板のうち一方の基板の液晶配向膜を有する面の外縁に、直径5.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤を塗布した後、液晶配向膜面が相対するように重ね合わせて圧着し、接着剤を硬化した。次いで、液晶注入口より一対の基板間に、上記で調製した液晶組成物LC1を充填した後、アクリル系光硬化接着剤で液晶注入口を封止することにより、液晶セルを製造した。その後、液晶セルの導電膜間に周波数60Hzの交流10Vを印加し、液晶が駆動している状態で、光源にメタルハライドランプを使用した紫外線照射装置を用いて、100,000J/mの照射量にて紫外線を照射した。なお、この照射量は、波長365nm基準で計測される光量計を用いて測定した値である。その後、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることによりPSA型液晶表示素子Aを製造した。
6.PSA型液晶表示素子の製造(2)
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した点以外は、上記5.と同様の操作を行うことによりPSA型液晶表示素子Bを製造した。
【0103】
7.液晶配向性の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子A,Bにつき、実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、PSA型液晶表示素子A,B共に、液晶配向性は「A」であった。
8.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造したPSA型液晶表示素子A,Bにつき、実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、PSA型液晶表示素子A,B共に、電圧保持率は「A」の評価であった。
【0104】
[実施例7,13,14]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、得られた液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性及び膜硬度の評価を行うとともに、実施例6と同様にしてPSA型液晶表示素子A,Bを製造し、実施例1と同様にして各種評価を行った。評価結果を下記表3に示した。
【0105】
<光垂直型液晶表示素子の製造及び評価>
[実施例15]
1.液晶配向剤(AL−15)の調製
使用する重合体及び架橋剤の種類及び量を下記表2に記載のとおりに変更した以外は上記実施例1と同じ溶媒組成及び固形分濃度で液晶配向剤(AL−15)を調製した。
2.塗布性の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−15)を用いた以外は上記実施例1と同様にして塗布性の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
3.膜硬度の評価
液晶配向剤を(AL−1)の代わりに(AL−15)を用いた以外は上記実施例1と同様にして膜硬度の評価を行った。その結果、この実施例では「A」であった。
【0106】
4.光垂直型液晶表示素子の製造(1)
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記で調製した液晶配向剤(AL−15)を、スピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った。その後、庫内を窒素置換したオーブン中、230℃で1時間加熱して膜厚0.1μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg−Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて313nmの輝線を含む偏光紫外線1,000J/mを、基板法線から40°傾いた方向から照射して液晶配向能を付与した。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を有する基板を一対(2枚)作成した。
上記基板のうちの1枚の液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板の紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙にネガ型液晶(メルク社製、MLC−6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止した。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、これを130℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜の紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせることにより光垂直型液晶表示素子Aを製造した。
5.光垂直型液晶表示素子の製造(2)
ポストベーク温度を230℃から150℃に変更した点以外は、上記4.と同様の操作を行うことにより光垂直型液晶表示素子Bを製造した。
【0107】
6.液晶配向性の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子A,Bにつき、上記実施例1と同様にして液晶配向性を評価した。その結果、この実施例では、光垂直型液晶表示素子A,B共に、液晶配向性は「A」であった。
7.電圧保持率(VHR)の評価
上記で製造した光垂直型液晶表示素子につき、上記実施例1と同様にして電圧保持率の評価を行った。その結果、この実施例では、光垂直型液晶表示素子A,B共に、電圧保持率は「A」の評価であった。
【0108】
[実施例16〜25及び比較例1〜6]
配合組成を下記表2に示す通り変更した以外は実施例1と同じ固形分濃度で調製を行い、液晶配向剤をそれぞれ得た。また、それぞれの液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶配向剤の塗布性及び膜硬度の評価を行うとともに、実施例15と同様にして光垂直型液晶表示素子A,Bを製造して各種評価を行った。それらの結果を下記表3に示した。なお、表2中、「−」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを意味する。
【0109】
【表2】
【0110】
【表3】
【0111】
表3に示すように、架橋剤として化合物[V]を含む液晶配向剤を用いた実施例1〜125のうち、実施例12以外は、塗布性はいずれも「A」の評価であり、実施例12は「B」の評価であった。また、実施例1〜25は、得られた液晶表示素子の液晶配向性及び電圧保持率についても良好であり、「S」、「A」又は「B」の評価であった。特に、ジアミンリッチである重合体(P−12)を用いた実施例17は、ポストベーク温度を150℃とした場合に電圧保持率が「S」の評価であり、特に優れていた。一方、酸無水物がリッチの重合体(P−13)を用いた実施例22は、ポストベーク温度を150℃とした場合に、電圧保持率の評価が「B」であった。
これに対し、架橋剤を含まない比較例1、及び化合物[V]とは異なる架橋剤のみを含む比較例2〜6は、ポストベーク温度を230℃とした場合には、液晶配向性及び電圧保持率は「A」又は「B」の評価であったが、ポストベーク温度を150℃とすると「C」又は「B」の評価であり、実施例より劣る結果であった。
これらの結果から、化合物[V]を含む液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜及び液晶素子は、塗布性、膜硬度、液晶配向性及び電圧保持率に優れていることが分かった。