特許第6981552号(P6981552)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6981552-熱可塑性樹脂組成物および塗装成形品 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981552
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物および塗装成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20211202BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20211202BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20211202BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20211202BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20211202BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L67/00
   C08L51/04
   C08L25/12
   C08L23/08
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-535004(P2020-535004)
(86)(22)【出願日】2020年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2020013486
(87)【国際公開番号】WO2020203590
(87)【国際公開日】20201008
【審査請求日】2020年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2019-68395(P2019-68395)
(32)【優先日】2019年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 正典
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特表平05−506264(JP,A)
【文献】 特開平05−271422(JP,A)
【文献】 特開平06−192554(JP,A)
【文献】 特開2012−171989(JP,A)
【文献】 特開2013−224406(JP,A)
【文献】 特開2015−168814(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/083975(WO,A1)
【文献】 特開2019−006920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 67/00 − 67/08
C08L 51/00 − 51/10
C08L 25/00 − 25/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)を50〜70重量部、
ジエン系ゴム質重合体(a)40〜65重量%の存在下に、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b)およびシアン化ビニル系単量体(c)を含有する単量体混合物35〜60重量%をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)を10〜30重量部、
芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を共重合してなるビニル系共重合体(C)を10〜30重量部含有してなり、
前記ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量が130,000〜320,000の範囲であり、
前記ビニル系共重合体(C)の平均シアン化ビニル含有率が22〜42重量%の範囲であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A)とゴム質含有グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)の合計100重量部に対し、さらにエラストマー成分(D)としてエチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体(D−1)、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(グラフト共重合体を除く)(D−2)、ポリエステルエラストマー(D−3)から選択される少なくとも一種を1〜5重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
塗装用成形品に用いられる請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる塗装用成形品。
【請求項4】
請求項に記載の塗装用成形品が塗装されてなる塗装成形品。
【請求項5】
請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械特性、耐熱性に優れ、塗装不良が大幅に低減できる熱可塑性樹脂組成物およびその塗装成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れていることから、自動車分野、家電分野、OA機器分野、建材分野をはじめとする多岐の分野にわたって幅広く使用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂単体では、射出成形時の成形加工性、めっきや塗装等の二次加工性に劣るため、ポリカーボネート樹脂の欠点を補う目的で、ABS樹脂等のゴム強化スチレン樹脂とアロイ化することが知られている。
【0003】
ABS樹脂やPC/ABS樹脂は、特に自動車分野において、内外装部品の塗装に供されることが多く、その塗装工程において「ワキ」と呼ばれる気泡状の塗装不良が発生することがある。気泡状塗装不良は成形時の残留ひずみと密接な関係があり、塗料のシンナーが浸透した際にひずみ部でクラックを生じ、そのクラックを介してシンナーが揮発することで気泡状の不良を生じると考えられている。気泡の発生対策として塗装前の成形品をアニール処理し、残留ひずみを除去する等の対策が知られているが、このアニール処理には専用の設備が必要となるため、コスト増の理由から、アニールが不要となる材料が望まれていた。
【0004】
塗装性を向上させる技術として、例えば特許文献1には高シアン化ビニル共重合体を使用することで塗装不良の一種である「吸い込み」が抑制できることが示されている。また、特許文献2には低シアン化ビニル共重合体を使用することで流動性が向上することが示されている。さらに、特許文献3では、耐熱ABSにエチレン/(メタ)アクリル酸エステル/一酸化炭素共重合体を添加することで、気泡発生が抑制されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2019−6920号公報
【特許文献2】日本国特開2015−168814号公報
【特許文献3】日本国特開2012−36384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では気泡発生の抑制には不十分であった。
また、特許文献3に記載の技術では、気泡発生の抑制にはある程度効果があるものの、射出成形工程において金型からの離型時に成形品が表層剥離するという課題があった。
【0007】
本発明は、機械特性、耐熱性に優れ、かつ塗装時の気泡発生を大幅に抑制できる熱可塑性樹脂組成物および成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂、ゴム質含有グラフト共重合体、ビニル系共重合体にエチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、ポリエステルエラストマーから選択される少なくとも一種を含有する熱可塑性樹組成物とすることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の(1)〜(7)で構成される。
(1)ポリカーボネート樹脂(A)を50〜70重量部、
ジエン系ゴム質重合体(a)40〜65重量%の存在下に、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b)およびシアン化ビニル系単量体(c)を含有する単量体混合物35〜60重量%をグラフト共重合してなるゴム質含有グラフト共重合体(B)を10〜30重量部、
芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を共重合してなるビニル系共重合体(C)を10〜30重量部含有してなり、
前記ポリカーボネート樹脂(A)とゴム質含有グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)の合計100重量部に対し、さらにエラストマー成分(D)としてエチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体(D−1)、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(グラフト共重合体を除く)(D−2)、ポリエステルエラストマー(D−3)から選択される少なくとも一種を1〜5重量部を含有してなる熱可塑性樹脂組成物。
(2)前記ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量が130,000〜340,000の範囲である上記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記ビニル系共重合体(C)の平均シアン化ビニル含有率が22〜42重量%の範囲である上記(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)塗装用成形品に用いられる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる塗装用成形品。
(6)上記(5)に記載の塗装用成形品が塗装されてなる塗装成形品。
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる自動車部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、機械特性、耐熱性に優れ、かつ気泡状塗装不良の発生を大幅に抑制できる成形品を得ることができる。また、塗装不良の抑制のみならず、従来気泡発生として実施されていたアニール処理のための設備費用削減、工程削減が可能となり、塗装成形品としてのトータルコストダウンを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、塗装性試験に用いた平板試験片の平面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す平板試験片の矢視A−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物とその成形品について、具体的に説明する。
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂(A)とは、下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を有する樹脂である。nは繰り返し単位数である。
【0012】
【化1】
【0013】
ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ジヒドロキシ化合物と、カーボネート前駆体との反応によって得られる。
【0014】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と記載することがある。)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等で例示されるビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等で例示されるカルド構造含有ビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル等で例示されるジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等で例示されるジヒドロキシジアリールスルホン類;ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。
【0015】
これらの中で好ましいのは、ビス(ヒドロキシアリール)アルカン類であり、特に好ましいのは、ビスフェノールAである。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種類でも2種類以上を組み合わせ、共重合されたものを用いてもよい。
【0016】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル、ハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン;ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。中でもホスゲンが好ましく用いられることが多い。これらカーボネート前駆体もまた1種類でも2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている方法によって製造することができる。製造方法としては、界面重合法(ホスゲン法)、溶融エステル交換法、溶液重合法(ピリジン法)、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等を挙げることができる。
【0018】
代表的な製造方法として界面重合法による製造方法を例示する。反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物、ならびに必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)及び芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミン又は第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。分子量調節剤の添加はホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば特に限定されない。なお反応温度は例えば、0〜40℃で、反応時間は例えば2〜5時間である。
【0019】
ここで、界面重合に適用できる有機溶媒としては、界面重合反応に不活性であり、水と混ざり合わず、ポリカーボネート樹脂を溶解することができれば特に制限されるものではない。例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。またアルカリ水溶液に用いられるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0020】
分子量調節剤としては、一価のフェノール性水酸基を有する化合物やフェニルクロロフォルメートが挙げられる。一価のフェノール性水酸基を有する化合物としては、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール及びp−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。分子量調節剤の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物100モルに対して、好ましくは0.1〜1モルである。
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂(A)の配合量は、50〜70重量部の範囲である。ポリカーボネート樹脂(A)の配合量を50重量部以上とすることで耐衝撃性と耐熱性が向上し、一方、配合量を70重量部以下とすることで、流動性を損なわず、成形性に優れる。
【0022】
本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、特に制限は無いが、好ましくは15,000以上、26,000以下、より好ましくは16,000以上、25,000以下である。Mvを15,000以上とすることで、耐衝撃性などの機械特性、耐熱性が向上し、一方、Mvを26,000以下とすることで流動性に優れ、成形性が向上する。
【0023】
本明細書において、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、次の方法により求めることができる。まず、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂(A)0.7gを20℃で溶解した溶液(濃度c=0.7)から、オストワルド粘度計を用いて、次式にて算出される比粘度(ηSP)を求める。
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
続いて、求められた比粘度(ηSP)から次のSchnellの式により粘度平均分子量Mvを算出することができる。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4Mv0.83
【0024】
本発明に用いられるゴム質含有グラフト共重合体(B)とは、ジエン系ゴム質重合体(a)40〜65重量%の存在下に、少なくとも芳香族ビニル系単量体(b)およびシアン化ビニル系単量体(c)を含有する単量体混合物35〜60重量%をグラフト共重合して得られるものである。かかるゴム質含有グラフト共重合体(B)を含有することにより、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。ここでいうゴム質含有グラフト共重合体(B)とは、ゴム質重合体に単量体混合物をグラフト共重合したものの他に、グラフトしていないビニル系単量体混合物の共重合体を含んでもよい。かかるグラフトしていないビニル系単量体混合物の共重合体は、アセトンに溶解する。
【0025】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するジエン系ゴム質重合体(a)としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体およびアクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などが挙げられる。これらを単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0026】
ジエン系ゴム質重合体(a)のガラス転移温度は0℃以下が好ましく、その下限値は実用上−80℃程度である。本発明においては、ジエン系ゴム質重合体(a)としては、耐衝撃性の観点からポリブタジエンが好ましく用いられる。
【0027】
ジエン系ゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は、特に制限しないが、成形品の耐衝撃性をより向上させる観点から、0.10μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましい。ここで、重量平均粒子径は、ゴム質重合体のラテックスを純水にて300〜500倍に希釈し、レーザー回析・散乱法による粒子径分布測定装置により測定することができる。
【0028】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するジエン系ゴム質重合体(a)の重量分率は、40〜65重量%の範囲で調整することが好ましい。ゴム質重合体の重量分率を40重量%以上とすることで耐衝撃性が向上し、一方、65重量%以下とすることで耐熱性が向上する。
【0029】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体(b)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレンおよびブロモスチレンなどが挙げられる。これらを単独で用いても、2種以上を用いてもよい。なお本明細書において、芳香族ビニル系単量体(b)はαメチルスチレンを含まないものとする。成形加工時の流動性をより向上させる観点から、スチレンが好ましく用いられる。
【0030】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)における芳香族ビニル系単量体(b)の重量分率は、好ましくは26〜43重量%である。芳香族ビニル系単量体(b)の重量分率を26重量%以上とすることで着色を抑制でき、一方、43重量%以下とすることでグラフト重合が進行しやすく、グラフト率が向上し、耐衝撃性が向上する。
【0031】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成するシアン化ビニル系単量体(c)としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。特に耐衝撃性の観点からアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0032】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)におけるシアン化ビニル系単量体(c)の重量分率は、好ましくは9〜17重量%である。シアン化ビニル系単量体(c)の重量分率を9重量%以上とすることでグラフト重合が進行しやすく、グラフト率が向上し、耐衝撃性が向上でき、一方、17重量%以下とすることで着色を抑制できる。
【0033】
また、本発明におけるゴム質含有グラフト共重合体(B)には、本発明の効果を失わない程度に他の共重合可能な単量体を用いてもよい。他の共重合可能な単量体としては、例えば、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミドおよびメタクリル酸メチルなどが挙げられ、それぞれの目的に応じて選択することができる。これらは単独でも複数でも用いることが可能である。耐熱性や難燃性を向上させる意図があれば、N−フェニルマレイミドが好ましい。また、硬度を向上させる目的であれば、メタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0034】
ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率は特に制限はないが、耐衝撃性と耐熱性のバランスから、グラフト率は7〜40%が好ましく、より好ましくは20〜28%、さらに好ましくは22〜26%である。なお、ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率(%)は、次式で示される。
【0035】
グラフト率(%)={[ゴム質重合体にグラフト重合した共重合体量]/[ゴム質含有グラフト共重合体のゴム質含有量]}×100
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ゴム質含有グラフト共重合体(B)の配合量は、10〜30重量部の範囲が好ましい。ゴム質含有グラフト共重合体(B)の配合量を10重量部以上とすることで耐衝撃性が向上し、一方、配合量を30重量部以下とすることで、流動性や耐熱性が向上する。
【0037】
本発明に用いられるビニル系共重合体(C)は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を共重合してなる共重合体である。
【0038】
ビニル系共重合体(C)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、前述のゴム質含有グラフト共重合体(B)での芳香族ビニル系単量体(b)と同様に、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、複数種を併用して使用してもよい。これらの中で特に成形時の流動性の観点からスチレンが好ましく採用される。
【0039】
ビニル系共重合体(C)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、前述のゴム質含有グラフト共重合体(B)でのシアン化ビニル系単量体(c)と同様に、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、複数種を併用して使用してもよい。これらの中で特に耐衝撃性の観点からアクリロニトリルが好ましく採用される。
【0040】
また、ビニル系共重合体(C)には、上記以外にも本発明の効果を失わない程度に他の共重合可能な単量体を用いてもよい。共重合可能な他の単量体としては、前述のゴム質含有グラフト共重合体(B)を構成する共重合可能な他の単量体として例示したものが挙げられる。
【0041】
本発明に用いられるビニル系共重合体(C)の重量平均分子量は、130,000〜340,000が好ましく、150,000〜320,000がより好ましい。また、分子量の異なる2種以上のビニル系共重合体を組み合わせてもよい。ビニル系共重合体の重量平均分子量を130,000以上とすることで、気泡状塗装不良を抑制でき、また340,000以下とすることで流動性を損なうことなく、成形性が向上する。
【0042】
また、ビニル系共重合体(C)に含まれるシアン化ビニル系単量体の含有率は組成分布を持つことができ、その組成分布はシャープでもブロードでも良い。組成全体の平均シアン化ビニル含有率は、22〜42重量%が好ましく、24〜40重量%がより好ましく、25〜40重量%が特に好ましい。ビニル系共重合体(C)の平均シアン化ビニル含有率を22重量%以上とすることで、気泡状塗装不良を抑制でき、また42重量%以下とすることでポリカーボネート樹脂(A)との相溶性が損なわれず、耐衝撃性が向上する。
なお、平均シアン化ビニル含有率とは、組成分布を持つビニル系共重合体(C)全体のシアン化ビニル含有率であることを意味し、以下の方法により算出できる。
ビニル系共重合体(C)1gを加熱プレスにより40μm程度のフィルム状にし、フーリエ変換赤外分光光度計(日本光学株式会社製、“FT/IR4100”)で分析して得られるチャートに現れる各ピークの高さの比から、ビニル系共重合体(C)の組成を求めることができる。各構造単位とピークとの対応関係は次の通りである。
スチレン由来の構造単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク。
アクリロニトリル由来の構造単位:−C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(C)の配合量は、10〜30重量部の範囲である。ビニル系共重合体(C)の配合量を10重量部以上とすることで塗装性が向上し、一方、配合量を30重量部以下とすることで、耐衝撃性や流動性が向上する。
【0044】
本発明において、ゴム質含有グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)の製造方法としては、例えば、塊状重合、懸濁重合、塊状懸濁重合、溶液重合、乳化重合、沈殿重合などの重合方法が挙げられ、これらを2種以上組み合わせてもよい。各共重合体を構成する単量体の仕込み方法も特に制限はなく、初期に一括して仕込んでもよいし、共重合体の組成分布を所望の範囲に調整するために、単量体を数回に分けて仕込んでもよい。
【0045】
本発明では前記ポリカーボネート樹脂(A)とゴム質含有グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)の合計100重量部に対し、さらにエラストマー成分(D)として、エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体(D−1)、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(グラフト共重合体を除く)(D−2)、ポリエステルエラストマー(D−3)から選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【0046】
エチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体(D−1)の例としては、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル/無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの中でも、気泡状塗装不良の抑制の観点から、エチレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸共重合体が好ましい。また、これらの共重合体は、単独、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0047】
エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(グラフト共重合体を除く)(D−2)の例としては、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル/酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらの中でも、気泡状塗装不良の抑制の観点から、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸エステル共重合体が好ましい。また、これらの共重合体は、単独、あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0048】
ポリエステルエラストマー(D−3)としては、芳香族ポリエステルをハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび/又は脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエーテルエステルブロック共重合体、ポリエステル・エステルブロック共重合体、ポリエーテルエステル・エステルブロック共重合体が挙げられる。ここでハードセグメントを構成する芳香族ポリエステルとは、通常60モル%以上がテレフタル酸成分であるジカルボン酸成分とジオール成分を縮重合して得られる重合体である。
【0049】
芳香族ポリエステル成分の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)などが好ましく挙げられる。
また、ここでソフトセグメントを構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−および1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、エチレンオキシドとヒドロフランの共重合体、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケートなどが好ましく挙げられる。
【0050】
ポリエステルエラストマーのポリエステルハードセグメント対ソフトセグメントの占める割合は、重量比で95/5〜10/90、特に90/10〜30/70であることが好ましい。
【0051】
ポリエステルエラストマー樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体などが好ましく挙げられる。
【0052】
これらのポリエステルエラストマー樹脂のなかでも、気泡状塗装不良の抑制の観点から、特にポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体が好ましく用いられる。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、エラストマー成分(D)の配合量は、前記ポリカーボネート樹脂(A)とゴム質含有グラフト共重合体(B)とビニル系共重合体(C)の合計100重量部に対し、1〜5重量部の範囲である。エラストマー成分(D)の配合量を1重量部以上とすることで、気泡状塗装不良が抑制でき、5重量部以下とすることで、耐熱性が向上する。
【0054】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ナイロン樹脂やポリエステル樹脂などの他の熱可塑性樹脂、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤、可塑剤、滑剤、ドリップ防止剤、離型剤、帯電防止剤、顔料および染料、水やシリコーンオイル、流動パラフィンなどの液体を配合することもできる。
【0055】
また、各種充填材を配合することもできる。
充填材としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などの形状のものが挙げられ、本発明においてはいずれを用いてもよい。具体的には、ポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状またはウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ポリリン酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状または板状の充填材などが挙げられる。これらを単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0056】
熱可塑性樹脂組成物は、構成する各樹脂成分を溶融混合して得ることができる。溶融混合方法に関しては、特に制限は無いが、加熱装置、ベントを有するシリンダーで単軸または2軸のスクリューを使用して溶融混合する方法などが採用可能である。溶融混合の際の加熱温度は、好ましくは230〜300℃の温度範囲から選択されるが、本発明の目的を損なわない範囲で、溶融混合時の温度勾配等を自由に設定することも可能である。また、2軸のスクリューを用いる場合は、同一回転方向でも異回転方向でも良い。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、ガスアシスト成形などの公知の方法によって成形することができる。特に制限されるものではないが、好ましくは、射出成形により成形される。射出成形時のシリンダー温度は230〜270℃の温度範囲が好ましく、金型温度は30〜80℃の温度範囲が好ましい。
【0058】
得られた成形品の表面に塗装を施すことにより、塗装層を有する塗装成形品を得ることができる。この塗装成形品は、塗装時の気泡の発生が抑制され、塗装外観が優れる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、機械特性、耐熱性に優れ、気泡状塗装不良の発生を抑制できる成形品を得ることができるため、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、自動車部品などの塗装用部品に好適に用いることができる。特に、自動車部品であるインストルメントパネル、センターコンソール、センタークラスター、ナビパネルなどに代表される内装部品や、リヤスポイラー、ガーニッシュ、ルーフレールなどに代表される外装部品の塗装用途には極めて有用である。
【実施例】
【0060】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例を挙げるが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。ここで特に断りのない限り「%」は重量%を表し、「部」は重量部を表す。
【0061】
まず、各実施例および比較例における評価方法を以下に説明する。
(1)ゴム質重合体の重量平均粒子径
ゴム質重合体の重量平均粒子径は、ゴム質重合体を水媒体で希釈、分散させ、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置“LS 13 320”(ベックマン・コールター株式会社製)により体積平均粒子径を測定した。
【0062】
(2)ゴム質含有グラフト共重合体(B)のグラフト率
ゴム質含有グラフト共重合体の所定量(m;約1g)にアセトン200mlを加え、70℃の温度の湯浴中で3時間還流した。この溶液を8800r/m(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過した。この不溶分を60℃の温度で5時間減圧乾燥し、その重量(n)を測定した。グラフト率は、下記式より算出した。ここでLは、ゴム質含有グラフト共重合体のゴム質含有量である。
グラフト率(%)={[(n)−((m)×L)]/[(m)×L]}×100
【0063】
(3)ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量
各参考例により得られたビニル系共重合体について、Water社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を用い、検出器として示差屈折計(Water2414)、カラムとしてポリマーラボラトリーズ社製MIXED−B(2本)、留出液としてアセトンを用いて、流速1ml/min、カラム温度40℃の条件で、ポリスチレン(PS)換算の重量平均分子量を測定した。
【0064】
(4)ビニル系共重合体(C)における平均シアン化ビニル含有率
各参考例により得られたビニル系共重合体(C)1gを加熱プレスにより40μm程度のフィルム状にし、フーリエ変換赤外分光光度計(日本光学株式会社製、“FT/IR4100”)で分析して得られたチャートに現れた各ピークの高さの比から平均シアン化ビニル含有率を求めた。各構造単位とピークとの対応関係は次の通りである。
スチレン由来の構造単位:ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク。
アクリロニトリル由来の構造単位:−C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク。
【0065】
(5)流動性(メルトフローレート(MFR))
ISO1133(2011年)(温度:240℃、荷重:98N)に準拠してMFRを測定した。
MFRが20g/10分以上であれば、流動性が良好である。
【0066】
(6)耐熱性
熱変形温度:ISO75−2(2013年)(1.8MPa条件で測定)に準拠して測定した。試験片は、シリンダー温度を250℃、金型温度を60℃に設定した射出成形機を用いて、JIS K 7139(2009年)に規定される多目的試験片タイプA1を成形して得た。
熱変形温度が100℃以上であれば、耐熱性が良好である。
【0067】
(7)耐衝撃性
各実施例および比較例により得られたペレットから、シリンダー温度を250℃、金型温度を60℃に設定した射出成形機を用いて、JIS K 7139に規定される多目的試験片タイプA1を成形し、これを切り出したタイプB2試験片を用いて、ISO179/1eA(2012年)に準拠してシャルピー衝撃強さを測定した。
シャルピー衝撃強さが35kJ/m以上であれば、耐衝撃性が良好である。
【0068】
(8)塗装性(エッジ付成形品の気泡状塗装不良)
図1(a),(b)に模式的に示す、長手方向の両端に角度45°のエッジを有する幅70mm、長さ150mm、厚さ3mmの平板試験片を使用した(図1(a)は、平板試験片の平面図、図1(b)は、平板試験片の矢視A−A断面図である。)。平板試験片の片面にスプレーガンを用いて2液アクリルウレタン樹脂系塗料(ウレタンPG60、関西ペイント(株)製)を塗膜厚み30μmで塗装した後、温度80℃に設定した熱風乾燥機で30分間乾燥させた。乾燥後の塗装成形品表面に発生した気泡数をカウントし、以下の指標にて1点(劣)〜5点(優)の点数付けを行った。なお、2点以下は実用上、アニールなどの気泡発生対策なしでの塗装は不可と判断できるレベルである。
5点:気泡発生なし(優)
4点:気泡発生数が1〜10個(良)
3点:気泡発生数が11〜30個(可)
2点:気泡発生数が31〜100個(不可)
1点:気泡発生数が100個以上(不可)
【0069】
次に、各実施例および比較例に用いた原料を以下に示す。
(参考例1)ポリカーボネート樹脂(A)
(A−1)出光興産(株)製“タフロン”A1700(Mv=17,000)
【0070】
(参考例2)[ゴム質含有グラフト共重合体の製造(B)]
(B−1)ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径が350nmであるポリブタジエンラテックスと800nmであるポリブタジエンラテックスを、質量比率8:2で混合したもの)45重量%(固形分換算)の存在下で、スチレン40重量%とアクリロニトリル15重量%からなる単量体混合物を、ステアリン酸カリウムを使用して乳化重合してゴム強化スチレン樹脂ラテックスを得た。これを、90℃の0.3重量%希硫酸水溶液中に添加して凝集させた後、水酸化ナトリウム水溶液により中和し、洗浄・脱水・乾燥工程を経て、ゴム質含有グラフト共重合体(B−1)を調製した。グラフト率は25重量%であった。
【0071】
(参考例3)[ビニル系共重合体の製造(C)]
(C−1)容量が20Lで、バッフルおよびファウドラ型攪拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、0.05重量%のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体(日本国特公昭45−24151号公報記載)を165重量%のイオン交換水に溶解した溶液を400rpmで攪拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、アクリロニトリル33重量%、スチレン67重量%、t−ドデシルメルカプタン0.22重量%、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル0.30重量%の混合溶液を反応系にて攪拌しながら添加し、70℃にて共重合反応を開始した。共重合開始から3時間かけて100℃に昇温して30分間保持し、その後冷却して得られたスラリーを洗浄・脱水・乾燥工程を経て、ビニル系共重合体(C−1)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−1)の重量平均分子量は、200,000であった。また、平均シアン化ビニル含有率は30.5重量%であった。
(C−2)アクリロニトリル27重量%、スチレン73重量%、t−ドデシルメルカプタン0.25重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−2)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−2)の重量平均分子量は150,000、平均シアン化ビニル含有率は25.4重量%であった。
(C−3)アクリロニトリル45重量%、スチレン55重量%、t−ドデシルメルカプタン0.25重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−3)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−3)の重量平均分子量は150,000、平均シアン化ビニル含有率は40.0重量%であった。
(C−4)アクリロニトリル27重量%、スチレン73重量%、t−ドデシルメルカプタン0.15重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−4)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−4)の重量平均分子量は320,000、平均シアン化ビニル含有率は25.5重量%であった。
(C−5)アクリロニトリル45重量%、スチレン55重量%、t−ドデシルメルカプタン0.15重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−5)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−5)の重量平均分子量は320,000、平均シアン化ビニル含有率は40.7重量%であった。
(C−6)アクリロニトリル27重量%、スチレン73重量%、t−ドデシルメルカプタン0.30重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−6)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−6)の重量平均分子量は130,000、平均シアン化ビニル含有率は25.4重量%であった。
(C−7)アクリロニトリル24重量%、スチレン76重量%、t−ドデシルメルカプタン0.25重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−7)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−7)の重量平均分子量は150,000、平均シアン化ビニル含有率は24.0重量%であった。
(C−8)アクリロニトリル27重量%、スチレン73重量%、t−ドデシルメルカプタン0.010重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−8)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−8)の重量平均分子量は340,000、平均シアン化ビニル含有率は25.4重量%であった。
(C−9)アクリロニトリル45重量%、スチレン55重量%、t−ドデシルメルカプタン0.25重量%とする以外はビニル系共重合体(C−1)と同様の工程により、ビニル系共重合体(C−9)を調製した。アセトン溶媒(温度40℃)で測定したビニル系共重合体(C−9)の重量平均分子量は150,000、平均シアン化ビニル含有率は40.7重量%であった。
【0072】
(参考例4)[エラストマー成分(D)]
(D−1)アルケマ(株)製“ロタダー”4613(エチレン/アクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体)
(D−2)アルケマ(株)製“ロタダー”AX8900(エチレン/メタクリル酸グリシジル/アクリル酸メチル共重合体)
(D−3)東レ・デュポン(株)製“ハイトレル”2401(ポリエステルエラストマー)
【0073】
以下、実施例および比較例について説明する。
(実施例1〜9、11〜21、比較例1〜9、参考例5
前記ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム質含有グラフト共重合体(B)、ビニル系共重合体(C)、エラストマー成分(D)としてエチレン/アクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合体(D−1)、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(D−2)、ポリエステルエラストマー(D−3)を表1、表2ならびに表3に示した重量部で配合し、さらに酸化防止剤として(株)ADEKA製“アデカスタブ”135Aを0.1重量部加え、ヘンシェルミキサーを用いて23℃で混合した。得られた混合物を、スクリュー径30mmのベント付二軸押出機((株)池貝製PCM30)を用いて、シリンダー設定温度250℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを100℃に設定した箱形熱風乾燥機にて3時間以上乾燥させた後、射出成形機を用いてシリンダー温度250℃、金型温度60℃にて各種試験片を作製し、各種評価を実施した。実施例、参考例の結果を表1および表2、比較例の結果を表3に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
表1および表2の評価結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜9、11〜21)は、いずれも流動性、耐熱性、耐衝撃性および塗装性が優れていることが分かる。
【0078】
一方、比較例1はポリカーボネート樹脂(A)の配合量が少ないため、耐熱性や耐衝撃性が低く、比較例2はポリカーボネート樹脂(A)の配合量が多すぎるため、流動性が低く、成形性が悪い。比較例3はゴム質含有グラフト共重合体(B)の配合量が少ないため、耐衝撃性が低く、比較例4はゴム質含有グラフト共重合体(B)の配合量が多いため、耐熱性が低い。比較例5はビニル系共重合体(C)の配合量が少ないため、流動性と塗装性が低い。比較例6はエラストマー成分(D)であるエチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体(グラフト共重合体を除く)(D−2)が配合されていないため塗装性に劣る。比較例7〜9はエラストマー成分(D−1〜D−3)の配合量が多すぎるため、耐熱性が低い。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年3月29日出願の日本特許出願(特願2019−68395)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械特性、耐熱性に優れ、かつ塗装時の気泡発生を大幅に抑制できる熱可塑性樹脂組成物および成形品を得ることができる。かかる特性を活かして、自動車外装、内装などの塗装部品に好適に利用することができる。
図1