(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のピークは、前記半導体基板のおもて面側から2番目の深さ位置に設けられた第2ピークであって、前記平坦部のドーピング濃度の2倍以下である第2ピークを有する
請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は
特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面をおもて面、他方の面を裏面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0028】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板のおもて面と平行な面をXY面とし、X軸およびY軸と右手系をなす方向であって、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。なお、本明細書において、Z軸方向に半導体基板を視た場合について平面視と称する。
【0029】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0030】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。
【0031】
本明細書では、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれ、それが付されていない層や領域よりも高ドーピング濃度および低ドーピング濃度であることを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0032】
本明細書において、化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される元素の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatoms/cm
3、または、/cm
3を用いる。この単位は、半導体基板内の化学濃度、または、ドナーまたはアクセプタ濃度に用いられる。atoms表記は省略してもよい。本明細書における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0033】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化したドーパントの濃度を指す。ドーピング濃度の単位には、化学濃度と同様に/cm
3が用いられる。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。ネット・ドーピング濃度は、電圧−容量測定法(CV法)により測定できる。あるいは、拡がり抵抗測定法(SR法)で測定できるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてもよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、ドーピング濃度として、ドナーおよびアクセプタの化学濃度を用いてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。特に限定していなければ、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。
【0034】
ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
【0035】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度か99%以上である。
【0036】
また、本明細書においてドーズ量とは、イオン注入を行う際に、ウェハに注入される単位面積あたりのイオンの個数をいう。したがって、その単位は、/cm
2である。なお、半導体領域のドーズ量は、その半導体領域の深さ方向にわたってドーピング濃度を積分した積分濃度とすることができる。その積分濃度の単位は、/cm
2である。したがって、ドーズ量と積分濃度とを同じものとして扱ってよい。積分濃度は、半値幅までの積分値としてもよく、他の半導体領域のスペクトルと重なる場合には、他の半導体領域の影響を除いて導出してよい。
【0037】
よって、本明細書では、ドーピング濃度の高低をドーズ量の高低として読み替えることができる。即ち、一の領域のドーピング濃度が他の領域のドーピング濃度よりも高い場合、当該一の領域のドーズ量が他の領域のドーズ量よりも高いものと理解することができる。
【0038】
後述の半導体基板10には水素イオンが注入される。半導体基板10において、水素イオンが通過した通過領域には、水素が通過したことにより、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成される。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。本明細書において格子欠陥と称する場合には、空孔を主体とする格子欠陥を含み、格子間原子や転位等も含み、広義にはドナーやアクセプタも含み得る。
【0039】
半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。半導体基板10の内部では、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、半導体基板10を熱処理することで水素が拡散し、VOH欠陥の形成が促進される。VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーと称する場合がある。水素ドナーのドーピング濃度は、水素の化学濃度よりも低い。例えば、シリコンの半導体において、水素の化学濃度に対する水素ドナーのドーピング濃度の割合を活性化率とすると、活性化率は0.1%〜30%の値であってよい。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナーの化学濃度のばらつきは比較的に大きいが、水素イオンのドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、水素イオンを注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、通過領域のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0040】
図1Aは、実施例に係る半導体装置100の構成の一例を示す。本例の半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80を備える半導体チップである。例えば、半導体装置100は、逆導通IGBT(RC−IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。
【0041】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面側に設けられたコレクタ領域22を半導体基板10のおもて面21に投影した領域である。コレクタ領域22は、第2導電型を有する。本例のコレクタ領域22は、一例としてP+型である。トランジスタ部70は、IGBT等のトランジスタを含む。
【0042】
ダイオード部80は、カソード領域82を半導体基板10のおもて面21に投影した領域であってよい。ダイオード部80は、半導体基板10のおもて面21においてトランジスタ部70と隣接して設けられた還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。
【0043】
図1Aにおいては、半導体装置100のエッジ側であるチップ端部周辺の領域を示しており、他の領域を省略している。例えば、本例の半導体装置100のX軸方向の負側の領域には、エッジ終端構造部が設けられてよい。エッジ終端構造部は、半導体基板10のおもて面21側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部は、例えばガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有する。なお、本例では、便宜上、X軸方向の負側のエッジについて説明するものの、半導体装置100の他のエッジについても同様である。
【0044】
半導体基板10は、シリコン基板である。本例の半導体基板10は、磁場を適用したチョクラルスキー(MCZ;Magnetic field applied Czochralski)法により作製されるMCZ基板である。MCZ基板は、FZ(Floating Zone)法によるFZ基板と比較して、より大口径のウェハを製造するのに適している。
【0045】
本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面21において、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面21の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート金属層50を備える。
【0046】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で作製される。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、アルミニウム−シリコン合金、またはアルミニウム−シリコン−銅合金で作製されてよい。ゲート金属層50の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、アルミニウム‐シリコン合金、またはアルミニウム−シリコン−銅合金で作製されてよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で作製されたバリアメタルを有してよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、互いに分離して設けられる。
【0047】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、層間絶縁膜を挟んで、半導体基板10の上方に設けられる。層間絶縁膜は、
図1Aでは省略されている。層間絶縁膜には、コンタクトホール49、コンタクトホール54およびコンタクトホール56が層間絶縁膜を貫通するように設けられている。
【0048】
コンタクトホール49は、ゲート金属層50とゲートトレンチ部40内のゲート導電部44とを接続する。ゲート導電部44については後述する。コンタクトホール49の内部には、タングステン等で形成されたプラグが形成されてもよい。
【0049】
コンタクトホール56は、エミッタ電極52とダミートレンチ部30内のダミー導電部33とを接続する。ダミー導電部33については後述する。コンタクトホール56の内部には、タングステン等で形成されたプラグが形成されてもよい。
【0050】
ゲートトレンチ部40は、予め定められた配列方向(本例では
X軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21に平行であって配列方向に対して垂直な延伸方向(本例では
Y軸方向)に沿って延伸する2つの延伸部分39と、2つの延伸部分39を接続する接続部分41とを有してよい。
【0051】
接続部分41は、少なくとも一部が曲線状に形成されることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分39の端部を接続することで、延伸部分39の端部における電界集中を緩和することができる。ゲートトレンチ部40の接続部分41において、ゲート金属層50がゲート導電部44と接続されてよい。
【0052】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、予め定められた配列方向(本例では
X軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に少なくとも一部が曲線形状で形成されてよい。ダミートレンチ部30は、一例として半導体基板10のおもて面21においてU字形状を有してよい。即ち、ダミートレンチ部30は、延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分29と、2つの延伸部分29を接続する接続部分31とを有してよい。
【0053】
なお、ここでは、トランジスタ部70においてゲートトレンチ部40の間に
1本のダミートレンチ部30を設けているが、ゲートトレンチ部40に対するダミートレンチ部30の本数や配置は設計上の都合に応じて設定してよい。また、トランジスタ部70においてダミートレンチ部30を設けず、全てゲートトレンチ部40としたいわゆるフルゲート構造としてもよい。
【0054】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に形成される。エミッタ電極52は、エミッタ電位に設定される。エミッタ電位は、一例として接地電位であってもよい。
【0055】
ウェル領域11は、後述するドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面21側に設けられた第2導電型の領域である。ウェル領域11は、半導体装置100のエッジ側に設けられるウェル領域の一例である。ウェル領域11は、一例としてP+型である。ウェル領域11は、ゲート金属層50が設けられる側の活性領域の端部から、予め定められた範囲で形成される。ウェル領域11におけるドーパントの拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深く設定されてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部は、ウェル領域11に形成される。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の延伸方向における端部は、それぞれのトレンチの深さ方向の底部において、ウェル領域11に覆われてよい。
【0056】
コンタクトホール54は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12およびコンタクト領域15の各領域の上方に形成される。また、コンタクトホール54は、ダイオード部80において、第2メサ部62の上方に形成される。コンタクトホール54は、
Y軸方向両端に設けられたベース領域14およびウェル領域11の上方には設けられていない。このように、層間絶縁膜には、1又は複数のコンタクトホール54が形成されている。1又は複数のコンタクトホール54は、延伸方向に延伸して設けられてよい。
【0057】
第1メサ部61および第2メサ部62は、半導体基板10のおもて面21と平行な面内において、
X軸方向には各トレンチ部に隣接して設けられたメサ部である。メサ部とは、各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部とした場合に、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板10の部分である。即ち、隣り合うトレンチ部の2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。また、メサ部の深さとしては、半導体基板10のおもて面21から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。
【0058】
第1メサ部61は、トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の少なくとも1つに隣接して設けられる。また、第1メサ部61は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界部において、
ダミートレンチ部30に隣接して設けられている。第1メサ部61は、半導体基板10のおもて面21において、ウェル領域11と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15とを有する。第1メサ部61では、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が延伸方向において交互に設けられている。
【0059】
第2メサ部62は、ダイオード部80において、ダミートレンチ部30に隣接して設けられる。第2メサ部62は、半導体基板10のおもて面21において、ウェル領域11と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、コンタクト領域15とを有する。第2メサ部62では、エミッタ領域12およびコンタクト領域15が延伸方向において交互に設けられている。
【0060】
ベース領域14は、トランジスタ部70において、半導体基板10のおもて面21側に設けられた第2導電型の領域である。ベース領域14は、一例としてP−型である。ベース領域14は、半導体基板10のおもて面21において、第1メサ部61および第2メサ部62の
Y軸方向における両端部に設けられてよい。なお、
図1Aは、当該ベース領域14の
Y軸方向の一方の端部のみを示している。
【0061】
ベース領域14−eは、各メサ部のY軸方向における両端部に配置されている。本例のベース領域14−eは、第1メサ部61および第2メサ部62に設けられている。ベース領域14−eは、各メサ部の中央側において、コンタクト領域15と接している。ベース領域14−eは、コンタクト領域15とは反対側において、ウェル領域11と接している。
【0062】
エミッタ領域12は、第1メサ部61のおもて面21において、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12は、第1メサ部61を挟んで
Y軸方向に延伸する2本のトレンチ部の一方から他方まで、
X軸方向に設けられてよい。エミッタ領域12は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。
【0063】
また、エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してよく、接しなくてもよい。本例においては、エミッタ領域12がダミートレンチ部30と接する。本例のエミッタ領域12は第1導電型である。本例のエミッタ領域12は、一例としてN+型である。
【0064】
コンタクト領域15は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のコンタクト領域15は、一例としてP+型である。コンタクト領域15は、
Y軸方向に延伸する2本のトレンチ部の一方から他方まで、
X軸方向に設けられてよい。コンタクト領域15は、第1メサ部61および第2メサ部62の両方に設けられてよい。コンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40と接してよく、接しなくてもよい。また、コンタクト領域15は、ダミートレンチ部30と接してよく、接しなくてもよい。コンタクト領域15は、コンタクトホール54の下方にも設けられている。
【0065】
カソード領域82は、ダイオード部80において、半導体基板10の裏面側に設けられた第1導電型の領域である。本例のカソード領域82は、一例としてN+型である。平面視でカソード領域82が設けられる領域は、一点鎖線で示されている。
【0066】
図1Bは、
図1Aにおけるa−a'断面の一例を示す図である。a−a'断面は、トランジスタ部70およびダイオード部80において、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を通過する
XZ面である。本例の半導体装置100は、a−a'断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10のおもて面21および層間絶縁膜38のおもて面に形成される。
【0067】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた第1導電型の領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN−型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0068】
バッファ領域90は、ドリフト領域18の下方に設けられた第1導電型の領域である。本例のバッファ領域90は、一例としてN型である。バッファ領域90のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域90は、ベース領域14の裏面側から広がる空乏層が、第2導電型のコレクタ領域22および第1導電型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0069】
バッファ領域90の上面は、一例として、半導体基板10の深さ方向において、半導体基板10のおもて面21から深さZfの位置に設けられる。本例のバッファ領域90は、複数のピーク91を有する。複数のピーク91は、一例として、半導体基板10に対する複数回のプロトンのイオン注入によって形成される。
【0070】
コレクタ領域22は、トランジスタ部70において、半導体基板10の裏面側に設けられる第2導電型の領域である。コレクタ領域22は、一例としてP+型である。本例のコレクタ領域22は、バッファ領域90の下方に設けられる。
【0071】
カソード領域82は、ダイオード部80において
、半導体基板10の裏面側に設けられる第1導電型の領域である。カソード領域82は、一例としてN+型である。本例のカソード領域82は、バッファ領域90の下方に設けられる。
【0072】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に設けられる。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成される。
【0073】
蓄積領域16は、ドリフト領域18の上方に設けられる第1導電型の領域である。本例の蓄積領域16は、一例としてN型である。蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してよく、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(Injection Enhancement Effect;IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減することができる。
【0074】
ベース領域14は、蓄積領域16の上方に設けられる第2導電型の領域である。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。ベース領域14は、一例として、P−型である。
【0075】
エミッタ領域12は、第1メサ部61において、ベース領域14とおもて面21との間に設けられる。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してよく、接さなくてもよい。エミッタ領域12のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。エミッタ領域12のドーパントの一例はヒ素(As)またはリン(P)である。なお、エミッタ領域12は、第2メサ部62に設けられなくてよい。
【0076】
コンタクト領域15は、蓄積領域16の上方に設けられる。本例のコンタクト領域15は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。コンタクト領域15は、一例として、P+型である。
【0077】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30は、おもて面21に設けられる。各トレンチ部は、おもて面21からドリフト領域18まで設けられる。エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられる領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0078】
ゲートトレンチ部40は、おもて面21に形成されたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0079】
ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40は、一例として、半導体基板10の深さ方向において、半導体基板のおもて面21から各トレンチ部の底部までの深さZtを有するように設けられる。ただし、各トレンチ部の底部が設けられる深さは、設計上のばらつきを有していてもよい。
【0080】
ゲート導電部44は、半導体基板10の深さ方向において、ゲート絶縁膜42を挟んで第1メサ部61側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0081】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、おもて面21側に形成されたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って形成される。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に形成され、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に形成される。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0082】
層間絶縁膜38は、半導体基板10のおもて面21の上方に設けられている。層間絶縁膜38は、エミッタ領域12と
エミッタ電極52とを電気的に接続するための1又は複数のコンタクトホール54が設けられている。他のコンタクトホール49およびコンタクトホール54も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。ダミー導電部34は、ゲート導電部44とは異なる電位にて制御されてよい。他の例として、ダミー導電部34は、コンタクトホール54を介してエミッタ電極52に接続され、エミッタ電位に設定される。
【0083】
図1Cは、実施例に係る半導体装置100のバッファ領域90のドーピング濃度プロファイルの一例を示す。本例のグラフにおいて、縦軸はドーピング濃度[/cm
3]を示し、横軸は裏面23からの深さ[μm]を示し、横軸負側は、横軸正側に対して半導体基板10のより深い深さ位置を示す。本例のグラフは、縦軸のスケールを対数目盛で表した片対数グラフである。本例のグラフの当該ドーピング濃度プロファイルは、
図1Bのb−b'断面について描かれたプロファイルである。
【0084】
ドーピング濃度プロファイル110は、バッファ領域90のドーピング濃度のプロファイルを示す。本例のバッファ領域90は、複数のピーク91と、平坦部92と、緩勾配領域93とを有する。
【0085】
複数のピーク91は、半導体基板10の裏面23
側に設けられる。複数のピーク91は、おもて面21側から深さ方向に、順にピーク91a、ピーク91b、ピーク91c、およびピーク91dを有する。
【0086】
ピーク91aは、複数のピーク91のうち、半導体基板10の最もおもて面21側に設けられた第1ピークの一例である。例えば、ピーク91aの深さ位置は、25μm以上、35μm以下である。複数のピーク91と、平坦部92との間のドーピング濃度の変化量を低減することにより、コレクタ電極24およびエミッタ電極52の間で短絡した場合での電圧値における発振を抑制できる。特に、半導体基板10のおもて面からバッファ領域の深さ位置が浅いピーク91aと平坦部92との間のドーピング濃度の変化量を小さくすることにより、発振をより抑制しやすくなる。例えば、ピーク91aは、平坦部92のドーピング濃度の2倍以下である。
【0087】
ピーク91bは、複数のピーク91のうち、半導体基板10のおもて面21側から2番目の深さ位置に設けられた第2ピークの一例である。例えば、ピーク91bのドーピング濃度は、平坦部92のドーピング濃度の2倍以下である。
【0088】
ピーク91cは、複数のピーク91のうち、半導体基板10のおもて面21側から3番目の深さ位置に設けられた第3ピークの一例である。ピーク91cのドーピング濃度は、ピーク91aおよびピーク91bよりも大きくてよい。
【0089】
ピーク91dは、複数のピーク91のうち、半導体基板10のおもて面21側から4番目の深さ位置に設けられた第4ピークの一例である。ピーク91dのドーピング濃度は、ピーク91a、ピーク91bおよびピーク91cよりも大きくてよい。
【0090】
平坦部92は、半導体基板10の深さ方向において複数のピーク91の間に設けられる。本例の平坦部92は、平坦部92aおよび平坦部92bを含む。平坦部92は、ほぼ平坦あるいは実質的に平坦なドーピング濃度プロファイルを有する領域である。
【0091】
所定の領域におけるドーピング濃度分布が「平坦」とは、一例として当該領域におけるドーピング濃度分布の変動幅が、当該領域の両端における濃度の平均値の30%以下である場合を指す。ドーピング濃度がこの範囲で変動する場合に、グラフで示される当該領域における当該分布が平坦であるとしてよい。上述した割合は、20%以下であってよく、10%以下であってもよい。濃度分布の変動幅は、当該領域内におけるドーピング濃度の最大値と最小値との差分である。
【0092】
平坦部92aは、ピーク91aとピーク91bとの間に設けられる。平坦部92aは、第1平坦部の一例である。
【0093】
平坦部92bは、ピーク91
bとピーク91
cとの間に設けられる。平坦部92bは、第2平坦部の一例である。平坦部92bは、平坦部92aとは異なるドーピング濃度を有する。例えば、平坦部92bのドーピング濃度は、平坦部92aのドーピング濃度の±10%以内である。平坦部92は、半導体基板10の基板濃度の2.5倍以上のドーピング濃度を有してよい。また、平坦部92は、半導体基板10の基板濃度の10倍以下のドーピング濃度を有してよく、5倍以下のドーピング濃度を有してよい。
【0094】
緩勾配領域93は、深さ方向のドーピング濃度勾配がピーク91aよりも緩やかな領域である。緩勾配領域93は、ピーク91aよりも半導体基板10のおもて面21側に設けられる。
【0095】
緩勾配領域93の傾きαは、片対数傾きを用いて表されてよい。所定の領域の一方の端の位置をx1[cm]、他方の端の位置
をx2[cm]とする。x1におけるドーピング濃度をN1[/cm
3]、x2におけるドーピング濃度をN2[/cm
3]とする。所定の領域における片対数傾きα[/cm]を、α=(log
10(N2)−lоg
10(N1))/(x2−x1)と定義する。ここで、αの分子は対数を含み、無次元である。緩勾配領域93におけるドーピング濃度の傾きαは、750以上、1500以下である。例えば、緩勾配領域93の厚さは、5μm以上、10μm以下である。緩勾配領域93の厚さを5μm以上とすることにより、サージ電圧を低減しやすくなる。
【0096】
平坦部92の傾きの指標として、片対数傾きを用いてもよい。平坦部92の一方の端の位置をx3[cm]、他方の端の位置
をx4[cm]とする。x3における濃度をN3[/cm
3]、x4における濃度をN4[/cm
3]とする。平坦部92における片対数傾きη[/cm]を、η=(log
10(N
4)−lоg
10(N
3))/(x4−x3)と定義する。平坦部92における直線近似分布の片対数傾きηの絶対値は、0以上、50以下であってよく、0以上、30以下であってもよい。さらに、平坦部92における直線近似分布の片対数傾きηの絶対値は、0以上、20以下であってよく、0以上、10以下であってもよい。
【0097】
例えば、複数のピーク91の少なくとも1つのドーピング濃度は、平坦部92のドーピング濃度の2倍以下である。また、複数のピーク91のうちの少なくとも1つのドーピング濃度は、平坦部92のドーピング濃度の1.5倍以下であってよい。一例として、平坦部92bを挟んで接する両側のピーク91cおよびピーク91bのうち、
おもて面側のピーク91bは、平坦部92のドーピング濃度の1.5倍以下であってよい。また、他の例として、平坦部92aを挟んで接する両側のピーク91bおよびピーク91aのうち、少なくとも
おもて面側のピーク91aは、平坦部92のドーピング濃度の1.5倍以下であってよい。さらに
裏面側のピーク91bも平坦部92のドーピング濃度の1.5倍以下であってよい。これにより、ピーク91の大きさを抑制しつつ、バッファ領域90全体のドーピング濃度を確保できる。
【0098】
ここで、バッファ領域90のピーク91のドーピング濃度を大きくすると、短絡発振が生じやすくなる。一方、バッファ領域90のドーピング濃度自体を下げてしまうと、リーチスルーが発生しやすくなる場合がある。
【0099】
本例の半導体装置100は、ピーク91のドーピング濃度を抑えつつも、平坦部92のドーピング濃度を増加させることにより、バッファ領域90全体において、ドーピング濃度の傾きを抑制しつつ、ドーパントの積分濃度を確保できる。これにより、半導体装置100は、低コレクタ−エミッタ間電圧での短絡発振を抑制するとともにリーチスルーを抑制することができる。
【0100】
基板濃度の裏面側の立ち上がりから、平坦部92bの裏面側の端部までのドーパントの積分濃度が、0.8×10
11cm
−2以上、5.0×10
11cm
−2以下であってよく、1.0×10
11cm
−2以上、4.0×10
11cm
−2以下であってよく、2.0×10
11cm
−2以上、3.0×10
11cm
−2以下であってもよい。
【0101】
水素化学濃度プロファイル120は、半導体装置100における水素化学濃度のプロファイルを示す。水素化学濃度プロファイル120のピークの深さは、複数のピーク91の深さ方向の位置に対応する。即ち、ドーピング濃度プロファイルは、プロトンのイオン注入によって形成されている。
【0102】
基板濃度プロファイル130は、半導体基板10のドーピング濃度(即ち、基板濃度)を示す。半導体基板10の基板濃度は、1×10
12cm
−3以上であってよく、1×10
13cm
−3以上であってもよい。例えば、半導体基板10の基板濃度は、7×10
13cm
−3である。
【0103】
酸素化学濃度プロファイル140は、半導体基板10における酸素化学濃度のプロファイルを示す。本例の酸素化学濃度プロファイル140は、半導体基板10の深さ方向に略一定である。例えば、バッファ領域90における酸素化学濃度は、1×10
17cm
−3以上、6×10
17cm
−3以下である。バッファ領域90における酸素化学濃度を1×10
17cm
−3以上、6×10
17cm
−3以下とすることにより、平坦部92のドーピング濃度を調整しやすくなる。
【0104】
平坦部92の水素化学濃度分布は、ドーピング濃度分布と異なり、平坦ではない。平坦部92の水素化学濃度分布は、隣り合うピーク91の間の位置で濃度が減少し、かつ谷部を有する。平坦部92のドーピング濃度分布が、水素化学濃度分布と異なり平坦となる理由は、下記の通りである。ピーク91部を形成するために、
裏面側から水素イオンを注入すると、水素イオンの停止部がピーク91部となり、停止部よりも
裏面側は水素イオンの通過部分となる。通過部分には空孔を主体とする格子欠陥が形成される。この格子欠陥を形成する空孔の濃度分布が、ほぼ平坦となる。熱処理により、水素が空孔に起因するダングリング・ボンドを終端する。このため、VOH欠陥(水素ドナー)も略平坦に形成される。さらに、本例では酸素化学濃度が1×10
17cm
−3以上、6×10
17cm
−3以下である。このため、平坦部のVOH欠陥(水素ドナー)の濃度が半導体基板の濃度よりも高い濃度で分布する。
【0105】
なお、半導体基板10には、炭素が含まれていてもよい。例えば、バッファ領域90における炭素化学濃度は、1×10
13cm
−3以上、3×10
16cm
−3以下である。また、バッファ領域90における炭素化学濃度は、1×10
13cm
−3以上、1×10
16cm
−3以下であってもよい。
【0106】
平坦部92の位置は、裏面23から深い位置に設けられてもよく、水素化学濃度のピークよりも裏面側に設けられてよい。これにより、バッファ領域90全体のドーパントの積分濃度を向上できる。また、平坦部92は、組成として、VOH欠陥を有する。さらに平坦部92は、空孔(V、VV等)、C、O、Hを含む格子欠陥のうち2つ以上を含む複合欠陥を有してよい。
【0107】
さらに、平坦部92の厚さの合計が、平坦部92より下方の半導体基板10の厚さより厚く設けられてよい。これにより、バッファ領域90のおもて面21側においてドーピング濃度が一定である領域の割合が増えるので、サージ電圧を低減しやすくなり、ピーク濃度を抑制しつつドーパントの積分濃度を向上しやすくなる。
【0108】
図2は、実施例および比較例のドーピング濃度プロファイルの一例を示す。縦軸はドーピング濃度[/cm
3]を示し、横軸は裏面23からの深さ[μm]を示す。本例のグラフでは、実施例のドーピング濃度プロファイル110と、比較例のドーピング濃度プロファイル510とが示される。本例では、異なる基板に対して同一の製造条件でバッファ領域90を設けた場合を比較している。
【0109】
ドーピング濃度プロファイル110は、
図1Cのドーピング濃度プロファイル110と同一である。ドーピング濃度プロファイル110は、半導体基板10としてMCZ基板を用いた場合のドーピング濃度の濃度プロファイルを示す。
【0110】
ドーピング濃度プロファイル510は、半導体基板としてFZ基板を用いた場合のドーピング濃度の濃度プロファイルを示す。ドーピング濃度プロファイル510のピークも、ドーピング濃度プロファイル110のピーク91と同様、半導体基板10のバッファ領域90へのプロトンのイオン注入により形成される。
【0111】
MCZ基板は、カーボンヒータを利用した石英(SiO2)ルツボ中での結晶成長により半導体基板10が成長する。よって、FZ基板と比較して、酸素化学濃度および炭素化学濃度全体が高くなる。従って、ドーピング濃度プロファイル110は、全体的にドーピング濃度プロファイル510より高いドーピング濃度を与えやすい。
【0112】
ドーピング濃度プロファイル510では、全体のドーピング濃度が低いので、スイッチング時に空乏層がコレクタ電極24に到達しやすくなる。これにより、リーチスルー電流が生じやすくなる。
【0113】
ドーピング濃度プロファイル110およびドーピング濃度プロファイル510は、半導体基板の種類が異なっているものの、ドーパントの注入条件等の他の条件は同一である。本例のドーピング濃度プロファイル110は、ドーピング濃度プロファイル510よりもピークが低減されている。
【0114】
図3は、実施例および比較例のドーピング濃度プロファイルの他の例を示す。縦軸はドーピング濃度[/cm
3]を示し、横軸は裏面23からの深さ[μm]を示す。本例では、異なる基板に対してバッファ領域90が同一の積分濃度となるように条件を調整した場合を示している。
【0115】
本例のグラフでは、実施例のドーピング濃度プロファイル110と、比較例のドーピング濃度プロファイル550とが示される。比較例のドーピング濃度プロファイル550は、ドーパントの積分濃度、即ちドーパントの総ドーズ量が、実施例のドーピング濃度プロファイル110と同一となるように調整されている。比較例は半導体基板にFZ基板を用いている。比較例における半導体基板の酸素化学濃度は、1×10
16cm
−3である。
【0116】
これにより、実施例のドーピング濃度プロファイル110では、平坦部92のドーピング濃度が比較例のドーピング濃度プロファイル550の平坦部のドーピング濃度よりも高くなる。従って、ドーピング濃度プロファイル110では、同一の積分濃度とするために必要なピーク91のドーピング濃度を小さくできる。
【0117】
特に、ドーピング濃度プロファイル110では、第1ピーク91aおよび第2ピーク91bにおいて、比較例のドーピング
濃度プロファイルより低いピークを示す。ドーピング濃度プロファイル110は、第3ピーク91cおよび第4ピーク91dではわずかにドーピング濃度プロファイル550より高いピーク値を示すが、これはドーパントの積分濃度を同一に調整したことによるものである。
【0118】
ドーピング濃度プロファイル110は、全体的にピーク濃度が低く、特に第1ピーク91aおよび第2ピーク91bの濃度のように、半導体基板10の浅い深さ位置におけるピークにおいて低いピーク濃度を与えている。これにより、第3ピーク91cを与える傾きに至るまでのドーピング
濃度プロファイルが平坦になり、短絡発振を抑制できる。
【0119】
半導体装置100のコレクタとエミッタが短絡した状態が発生すると、短絡の初期において、ゲート−エミッタ間電圧で発振する。当該発振が、半導体装置100を破壊する場合がある。
【0120】
図4は、実施例に係る半導体装置100のバッファ領域90のドーピング濃度プロファイルの変形例を示す。本例のグラフにおいて、縦軸はドーピング濃度[/cm
3]を示し、横軸は裏面23からの深さ[μm]を示し、横軸負側は、横軸正側に対して半導体基板10のより深い深さ位置を示す。本例のグラフは、縦軸のスケールを対数目盛で表した片対数グラフである。本例のグラフの当該ドーピング濃度プロファイルは、
図1Bのb−b'断面について描かれたプロファイルの変形例である。本例では、
図1Cと相違する点について特に説明する。
【0121】
本例の半導体装置100は、平坦部92aよりもおもて面21側に、ピーク間に平坦領域を有さない複数のドーピング濃度のピークを有する。平坦領域とは、平坦部92aと同様に、ドーピング濃度分布が実質的に平坦である領域であってよい。ピーク91a、ピーク91e、ピーク91fおよびピーク91gは、平坦部92aよりもおもて面21側に設けられた複数のドーピング濃度のピークの一例である。本例の半導体装置100は、平坦部92aよりもおもて面21側に4つのピークを有するが、平坦部92aよりもおもて面21側のピークの個数は2つであってもよく、3つであってもよく、5つ以上であってもよい。
【0122】
ピーク間に平坦領域を有さない複数のドーピング濃度のピークにおいては、ピーク間にそれぞれ谷部が設けられてよい。平坦領域を有さない複数のドーピング濃度のピーク間には、平坦部92のような領域を有さない。例えば、ピーク91aとピーク91eとの間、ピーク91eとピーク91fとの間、およびピーク91fとピーク91gとの間には谷部が設けられている。それぞれの谷部では、裏面23からおもて面21に向かう方向において、ドーピング濃度分布の勾配が負の値から正の値に連続的に変化してよい。一方、平坦部92においては、裏面23からおもて面21に向かう方向において、ドーピング濃度分布の勾配が実質的に0の値が連続してよい。なお、ドーピング濃度分布の勾配は、CV法またはSR法による測定点について、予め定められた測定範囲における複数の測定点の平均値であってよく、当該平均値は周知のフィッティングにより算出された値であってよい。
【0123】
また、ピーク間に平坦領域を有さない複数のドーピング濃度のピークの深さ方向の位置は、水素化学濃度のピークの深さ方向の位置に対応している。ピーク間に平坦領域を有さない複数のドーピング濃度
のピークと、当該複数のドーピング濃度
のピークに対応する水素化学濃度とに関し、C
Hv/C
HpがN
v/N
pよりも小さくてよい。C
Hv/C
Hpは、水素化学濃度の予め定められたピーク(例えば、C
Hp)に対する、当該ピークと隣接する谷部の水素化学濃度(例えば、C
Hv)の比である。N
v/N
pは、ドーピング濃度の予め定められたピーク(例えば、N
p)に対する、当該ピー
クと隣接する谷部のドーピング濃度(例えば、N
v)の比である。N
v/N
pは、平坦部92aよりもおもて面21側の複数のピークが徐々に基板濃度プロファイル130まで落ちるように設定されてよい。C
Hv/C
Hpは、N
v/N
pの0.8倍以下であってよく、0.5倍以下であってよく、0.2倍以下であってよく、0.1倍以下であってよく、0.01倍以下であってよい。C
Hv/C
Hpは、N
v/N
pの0.001倍以上であってよく、0.01倍以上であってよく、0.1
倍以上であってよい。
【0124】
半導体装置100は、平坦部92aよりもおもて面21側に、ピーク間に平坦領域を有さない複数のピークを有することにより、ドーピング濃度の分布を緩やかにして、バッファ領域90に空乏層が到達したときの電界強度の変化を緩やかにできる。これにより、電圧波形の急激な変化を抑えることができる。
【0125】
図5は、比較例に係る半導体装置の短絡時の特性を示す。縦軸は任意単位における電流および電圧を示し、横軸は時刻t[μs]を示す。V'
GEは、比較例に係る半導体装置のゲート−エミッタ間電圧を示す。V'
CEは、比較例に係る半導体装置のコレクタ−エミッタ間電圧を示す。I'
CEは、比較例に係る半導体装置のコレクタ−エミッタ間電流を示す。比較例に係る半導体装置では、短絡の初期でコレクタ−エミッタ間電圧が低い時点において、V'
GEの波形に大きく発振箇所OScが生じている。
【0126】
図6は、実施例に係る半導体装置100の短絡時の特性を示す。縦軸は任意単位における電流および電圧を示し、横軸は任意の時刻t[μs]を示す。V
GEは、半導体装置100のゲート−エミッタ間電圧を示す。V
CEは、半導体装置100のコレクタ−エミッタ間電圧を示す。I
CEは、半導体装置100のコレクタ−エミッタ間電流を示す。半導体装置100では、短絡の初期でコレクタ−エミッタ間電圧が低い時点において、
VGEの波形に大きな発振箇所OScが生じていない。このように、本例の半導体装置100は、短絡時におけるV
GEの発振を抑制できる。
【0127】
図7は、裏面ボロンイオン注入濃度とラッチアップ耐量破壊前電流との関係を示す。FZ基板に対して、バッファ領域におけるドーピング濃度のピークを半導体基板の裏面からのボロン(B)イオンの注入により形成している。裏面ボロンイオン注入濃度が低下することで、空乏層が伸びやすくなりラッチアップ耐量が低下する。
【0128】
図8は、実施例と比較例における短絡時のラッチアップ耐量破壊前電流を示す。
比較例においては、短絡時の発振を低減するために、ピーク91aよりも裏面23側の水素イオン注入量を低減し、ドーピングプロファイル濃度の低減を試行している。これにより、平坦部のドーピング積分濃度が低減するので、空乏層が伸びやすくなることでラッチアップ耐量を破壊する直前の電流[A]も低下し、比較例の半導体装置がラッチアップしやすくなる。
【0129】
比較例と比べて、
図8に示す実施例の半導体装置100ではラッチアップ耐量破壊前電流が向上している。本例の半導体装置100においては、ピーク91のドーピング濃度を低減し、平坦部の積分濃度を高くすることで、短絡時の発振を抑制しつつ、裏面ボロンイオン注入濃度の低下による高速スイッチングを両立し、十分なラッチアップ耐量も提供できる。
【0130】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、
特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0131】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。