特許第6981587号(P6981587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6981587銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、放熱基板
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  • 特許6981587-銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、放熱基板 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981587
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月15日
(54)【発明の名称】銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、放熱基板
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20211202BHJP
   C22F 1/02 20060101ALI20211202BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20211202BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20211202BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211202BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/02
   C22F1/08 B
   C22F1/08 S
   H01B1/02 A
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2021-546818(P2021-546818)
(86)(22)【出願日】2020年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2020044244
(87)【国際公開番号】WO2021107102
(87)【国際公開日】20210603
【審査請求日】2021年8月11日
(31)【優先権主張番号】特願2019-216553(P2019-216553)
(32)【優先日】2019年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
(72)【発明者】
【氏名】松川 浩之
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−179490(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/189558(WO,A1)
【文献】 国際公開第2019/189534(WO,A1)
【文献】 特開2019−178399(JP,A)
【文献】 特開2019−178398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00
C22F 1/02
C22F 1/08
H01B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であり、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満であり、
導電率が90%IACS以上であり、
EBSD法により10000μm以上の測定面積を、0.25μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、Area Fractionにより平均結晶粒径Aを求め、平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで測定して、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で10000μm以上となる測定面積で、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、
LB/(LLB+LHB)>20%
の関係を有することを特徴とする銅合金。
【請求項2】
0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
残留応力率が150℃、1000時間で50%以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金からなることを特徴とする銅合金塑性加工材。
【請求項6】
厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板であることを特徴とする請求項5に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項7】
表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の銅合金塑性加工材。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴とする電子・電気機器用部品。
【請求項9】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴とする端子。
【請求項10】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴とするバスバー。
【請求項11】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載された銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴とする放熱基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー、端子、放熱基板等の電子・電気機器用部品に適した銅合金、この銅合金からなる銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品、端子、バスバー、及び、放熱基板に関する。
本願は、2019年11月29日に、日本に出願された特願2019−216553号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、バスバー、端子、放熱基板等の電子・電気機器用部品には、導電性の高い銅又は銅合金が用いられている。
電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品の大型化、厚肉化が図られている。
【0003】
大電流に対応するために導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用される。しかしながら、純銅材においては、耐応力緩和特性に劣っており、高温環境下での使用ができないといった問題があった。
そこで、特許文献1には、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含む銅圧延板が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載された銅圧延板においては、Mgを0.005mass%以上0.1mass%未満の範囲で含み、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有しているので、Mgを銅の母相中に固溶させることができ、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−056414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、エンジンルーム等の高温環境下で使用されることが多く、従来にも増して耐応力緩和特性を向上させる必要がある。さらに、大電流が流された際の発熱をさらに抑制するために、導電率をさらに向上させる必要がある。すなわち、導電率と耐応力緩和特性とをバランス良く向上させた銅材が求められている。
厚肉化した場合には、電子・電気機器用部品を成形する際の曲げ加工条件が厳しくなるため、優れた曲げ加工性、強度も求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性、強度に優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、放熱基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、導電率と耐応力緩和特性をバランス良く向上させるためには、組成の制御のみでは十分ではなく、組成に合わせた組織制御を行うことが必要であることが明らかになった。すなわち、最適な組成と組織制御とを両立することにより、従来よりも高い水準で導電率と耐応力緩和特性とをバランス良く向上させることが可能となるとの知見を得た。また、最適な組成と組織制御とを両立することにより、曲げ加工性、強度の向上を図ることが可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の一態様である銅合金は、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされており、導電率が90%IACS以上とされ、EBSD法により10000μm以上の測定面積を、0.25μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、Area Fractionにより平均結晶粒径Aを求め、平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで測定して、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で10000μm以上となる測定面積で、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)>20%の関係を有することを特徴としている。
【0010】
この構成の銅合金によれば、Mg,Ag,Pの含有量を上述のように規定するとともに、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さLLBと大傾角粒界の長さLHBとがLLB/(LLB+LHB)>20%の関係を有しているので、導電率を大きく低下させることなく耐応力緩和特性を向上させることができ、90%IACS以上の高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを両立することが可能となる。また、曲げ加工性、強度についても向上させることが可能となる。
【0011】
本発明の一態様である銅合金においては、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされているので、厚さ0.5mmを超える板条材としてコイル状に巻き取っても、巻き癖がつくことがなく、取り扱いが容易となり、高い生産性を達成することができる。このため、大電流・高電圧向けの端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品用の銅合金として特に適している。
【0012】
本発明の一態様である銅合金においては、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされているので、原子の拡散経路となる結晶粒界が必要以上に存在せず、耐応力緩和特性を確実に向上させることが可能となる。
【0013】
本発明の一態様である銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされていることが好ましい。
この場合、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされており、耐応力緩和特性に優れており、高温環境下で使用される電子・電気機器用部品を構成する銅合金として特に適している。
【0014】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金からなることを特徴としている。
この構成の銅合金塑性加工材によれば、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性、強度に優れており、厚肉化した端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0015】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材においては、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板であってもよい。
この場合、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板であることから、この銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
【0016】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することが好ましい。
この場合、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有しているので、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。本発明において、「Snめっき」は、純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は、純Agめっき又はAg合金めっきを含む。
【0017】
本発明の一態様である電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。本発明における電子・電気機器用部品とは、端子、バスバー、放熱基板等を含む。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0018】
本発明の一態様である端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。
この構成の端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0019】
本発明の一態様であるバスバーは、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0020】
本発明の一態様である放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。すなわち、放熱基板の少なくとも半導体と接合される一部が、上述の銅合金塑性加工材で形成されている。
この構成の放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性、強度に優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、放熱基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態である銅合金の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金について説明する。
本実施形態である銅合金は、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされている。
【0024】
本発明の一実施形態である銅合金においては、EBSD法により10000μm以上の測定面積を、0.25μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、Area Fractionにより平均結晶粒径Aを求め、平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで測定して、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で10000μm以上となる測定面積で、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間である小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さをLLB、隣接する測定点間の方位差が15°を超える測定点間である大傾角粒界の長さをLHBとしたときに、LLB/(LLB+LHB)>20%の関係を有している。
本発明の一実施形態である銅合金においては、導電率が90%IACS以上とされている。
【0025】
本実施形態である銅合金においては、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内であることが好ましい。
本実施形態である銅合金においては、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましい。
本実施形態である銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされていることが好ましい。
【0026】
本実施形態の銅合金において、上述のように成分組成、結晶組織、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0027】
(Mg:70massppm以上400massppm以下)
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度及び耐応力緩和特性を向上させる作用効果を有する元素である。Mgを母相中に固溶させることにより、優れた曲げ加工性が得られる。
Mgの含有量が70massppm未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が400massppmを超える場合には、導電率が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を70massppm以上400massppm以下の範囲内に設定している。
【0028】
強度および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Mgの含有量を100massppm以上とすることが好ましく、150massppm以上とすることがさらに好ましく、200massppm以上とすることがより好ましく、250massppm以上とすることがより一層好ましい。導電率の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量を380massppm以下とすることが好ましく、360massppm以下とすることがさらに好ましく、350massppm以下とすることがより好ましい。
【0029】
(Ag:5massppm以上20massppm以下)
Agは、250℃以下の通常の電子・電気機器の使用温度範囲ではほとんどCuの母相中に固溶することができない。このため、銅中に微量に添加されたAgは、粒界近傍に偏析する。これにより粒界での原子の移動は妨げられ、粒界拡散が抑制されるため、耐応力緩和特性が向上する。
Agの含有量が5massppm未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Agの含有量が20massppmを超える場合には、導電率が低下するとともにコストが増加する。
以上のことから、本実施形態では、Agの含有量を5massppm以上20massppm以下の範囲内に設定している。
【0030】
耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Agの含有量を6massppm以上とすることが好ましく、7massppm以上とすることがさらに好ましく、8massppm以上とすることがより好ましい。導電率の低下及びコストの増加を確実に抑制するためには、Agの含有量を18massppm以下とすることが好ましく、16massppm以下とすることがさらに好ましく、14massppm以下とすることがより好ましい。
【0031】
(P:3.0massppm未満)
銅中に含まれるPは、高温での熱処理中に、一部結晶粒の再結晶を促進させ、粗大な結晶粒を形成させる。粗大な結晶粒が存在すると曲げ加工時に表面の肌荒れが大きくなり、その部分で応力集中が起きるため、曲げ加工性が劣化する。さらにPはMgと反応して鋳造中に晶出物を形成し、加工時の破壊の起点となるため、冷間加工時や曲げ加工時に割れが発生しやすくなる。
以上のことから、本実施形態において、Pの含有量を3.0massppm未満に制限している。
Pの含有量は2.5massppm未満であることが好ましく、2.0massppm未満であることがより好ましい。
【0032】
(不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,B,Ba,Be,Bi,Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Fe,Se,Te,Ru,Sr,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,As,Sb,Tl,N,C,Si,Sn,Li,H,O,S等が挙げられる。これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、より少ないことが好ましい。
【0033】
(小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率:LLB/(LHB+LLB))
小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーは加工時に導入された転位の密度が高い領域であるため、全粒界中の小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)が20%を超えるように組織制御することで、転位密度の増加に伴う加工硬化により、強度(耐力)を向上させることが可能となる。全粒界中の小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)における「全粒界」には、小傾角粒界、サブグレインバウンダリー、大傾角粒界が含まれる。小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)は、大傾角粒界の長さLHBと小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さLLBの合計長さに占める小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さLLBの割合である。
【0034】
小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)は、上記の範囲内でも25%以上が好ましく、さらには30%以上が好ましい。一方、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)が高すぎると、転位を経路とした原子の高速拡散が起こりやすく、応力緩和が起こりやすくなるおそれがあるため、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)は80%以下とすることが好ましく、70%以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態では、EBSD装置の解析ソフトOIM Analysis(Ver.7.3.1)にて測定される値であるCI(Confidence Index)値が0.1以下の測定点を除き小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)を算出している。CI値はある解析点から得られたEBSDパターンを指数付けする際に、Voting法を用いることで算出され、0から1の値を取る。CI値は指数付けと方位計算の信頼性を評価する値であるため、CI値が低い場合、すなわち解析点の明瞭な結晶パターンが得られない場合には組織中にひずみ(加工組織)が存在しているといえる。特にひずみが大きい場合、CI値が0.1以下の値を取る。
【0035】
(導電率:90%IACS以上)
本実施形態である銅合金においては、導電率が90%IACS以上とされている。導電率を90%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、純銅の代替として端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
導電率は92%IACS以上であることが好ましく、93%IACS以上であることがさらに好ましく、95%IACS以上であることがより好ましく、97%IACS以上であることがより一層好ましい。
【0036】
(0.2%耐力:150MPa以上450MPa以下)
本実施形態である銅合金において、0.2%耐力が150MPa以上である場合には、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適する。本実施形態では、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の0.2%耐力を150MPa以上とすることが好ましい。プレスによって端子、バスバー、放熱基板等を製造する際には、生産性を向上させるため、コイル巻きされた条材が用いられるが、0.2%耐力が450MPaを超えるとコイルの巻き癖がつき生産性が低下する。このため、0.2%耐力は450MPa以下とすることが好ましい。
0.2%耐力は、200MPa以上であることがさらに好ましく、225MPa以上であることがより好ましく、250MPa以上であることがより一層好ましい。0.2%耐力は、440MPa以下であることがさらに好ましく、430MPa以下であることがより好ましい。
【0037】
(平均結晶粒径:10μm以上100μm以下)
本実施形態である銅合金において、平均結晶粒径を10μm以上とした場合には、原子の拡散経路となる結晶粒界が必要以上に存在せず、耐応力緩和特性をさらに向上させることが可能となる。
一方、本実施形態である銅合金において、平均結晶粒径を100μm以下とした場合には、再結晶のための熱処理を高温、長時間とする必要がなく、製造コストの増加を抑制することができる。
平均結晶粒径は15μm以上であることが好ましく、80μm以下であることが好ましい。
【0038】
(残留応力率(150℃、1000時間):50%以上)
本実施形態である銅合金において、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている場合には、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、接圧の低下を抑制することができる。よって、本実施形態である銅合金は、自動車のエンジンルーム周りのような高温環境下で使用される端子として適用することが可能となる。
残留応力率は、150℃、1000時間で、60%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがさらに好ましく、75%以上がより一層好ましい。
【0039】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅合金の製造方法について、図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0040】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、Mgを添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。Mgの添加には、Mg単体やCu−Mg母合金等を用いることができる。また、Mgを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。溶解工程では、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、HOの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、かつ溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0041】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりする。この均質化/溶体化工程S02は、10分以上100時間以下の保持時間で非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上900℃以下の範囲に設定している。
後述する粗加工の効率化と組織の均一化のために、均質化/溶体化工程S02の後に熱間加工を実施してもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。熱間加工温度は、300℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
(粗加工工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。この粗加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0043】
(中間熱処理工程S04)
粗加工工程S03後に、加工性向上のための軟化、または再結晶組織にするために熱処理を実施する。
この際、Agの粒界への偏析の局所化を防ぐためには、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。加えて、Agの粒界への偏析をより均一にするために、中間熱処理工程S04と後述する仕上加工工程S05を繰り返し実施してもよい。
この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の平均結晶粒径は最終的な平均結晶粒径にほぼ等しくなる。このため、最終製品である銅合金(銅合金塑性加工材)における平均結晶粒径が所定の範囲内となるように熱処理条件を設定することが好ましい。例えば、最終製品である銅合金(銅合金塑性加工材)における平均結晶粒径を10μm以上100μm以下の範囲内とする場合には、好ましくは400℃以上900℃以下の保持温度、10秒以上10時間以下の保持時間で、例えば700℃で1秒から120秒程度保持することが好ましい。
【0044】
(仕上加工工程S05)
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上加工を行う。この仕上加工工程S05における温度条件は特に限定はないが、加工時の再結晶を抑制するため、または軟化を抑制するために冷間、または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。
【0045】
加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されるが、仕上加工工程S05において小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率を高め、加工硬化によって強度を向上させるためには、加工率を10%以上とすることが好ましい。さらなる強度の向上を図る場合には、加工率を15%以上とすることがより好ましく、加工率を20%以上とすることがさらに好ましい。一方、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの過剰な増加による曲げ加工性の劣化を抑制させるため、加工率を95%以下とすることが好ましく、加工率を90%以下とすることがより好ましい。一般に加工率は、圧延や伸線の減面率である。
【0046】
(仕上熱処理工程S06)
次に、仕上加工工程S05によって得られた塑性加工材に対して、Agの粒界への偏析、および残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。
この際、熱処理温度が高すぎると小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LHB+LLB)が大きく低下することから、熱処理温度は、100℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。この仕上熱処理工程S06においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件(温度、時間)を設定する必要がある。例えば600℃では0.1秒から10秒程度保持、250℃では1時間から100時間とすることが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
上述の仕上加工工程S05と仕上熱処理工程S06とを、繰り返し実施してもよい。
【0047】
このようにして、本実施形態である銅合金(銅合金塑性加工材)が製出される。圧延により製出された銅合金塑性加工材を銅合金圧延板という。
銅合金塑性加工材の板厚を0.5mm以上とした場合には、大電流用途での導体としての使用に適している。銅合金塑性加工材の板厚を8.0mm以下とすることにより、プレス機の荷重の増大を抑制し、単位時間あたりの生産性を確保することができ、製造コストを抑えることができる。
このため、銅合金塑性加工材の板厚は0.5mm以上8.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
銅合金塑性加工材の板厚は1.0mm超えとすることが好ましく、2.0mm超えとすることがより好ましい。一方、銅合金塑性加工材の板厚は7.0mm未満とすることが好ましく、6.0mm未満とすることがより好ましい。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金においては、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされており、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーの長さLLBと大傾角粒界の長さLHBとがLLB/(LLB+LHB)>20%の関係を有しているので、導電率を大きく低下させることなく耐応力緩和特性を向上させることができ、90%IACS以上の高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを両立することが可能となる。また、曲げ加工性、強度についても向上させることが可能となる。
【0049】
本実施形態である銅合金において、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされている場合には、厚さ0.5mmを超える板条材としてコイル状に巻き取っても、巻き癖がつくことがなく、取り扱いが容易となり、高い生産性を達成することができる。このため、大電流・高電圧向けの端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の銅合金として特に適している。
【0050】
本実施形態である銅合金において、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされている場合には、原子の拡散経路となる結晶粒界が必要以上に存在せず、耐応力緩和特性を確実に向上させることが可能となる。また、再結晶のための熱処理を高温、長時間とする必要がなく、製造コストの増加を抑制することができる。
【0051】
本実施形態である銅合金において、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている場合には、耐応力緩和特性に十分に優れており、高温環境下で使用される電子・電気機器用部品を構成する銅合金として特に適している。
【0052】
本実施形態である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性、強度に優れており、厚肉化した端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0053】
本実施形態である銅合金塑性加工材を、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板とした場合には、銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を比較的容易に成形することができる。
本実施形態である銅合金塑性加工材の表面にSnめっき層又はAgめっき層を形成した場合には、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0054】
本実施形態である電子・電気機器用部品(端子、バスバー、放熱基板等)は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたので、大型化および厚肉化しても優れた特性を発揮することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品(端子、バスバー、放熱基板等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金(銅合金塑性加工材)の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
帯溶融精製法により、P濃度を0.001massppm以下に精製した純度99.999mass%以上の純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯内に、6N(純度99.9999mass%)以上の高純度銅と2N(純度99mass%)以上の純度を有する純金属を用いて作製した各種添加元素を1mass%含む母合金を添加して成分調製し、断熱材(イソウール)鋳型に注湯することにより、表1、2に示す成分組成の鋳塊を製出した。
鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約60mm×長さ約150〜200mmとした。
【0057】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、800℃で1時間の加熱(均質化/溶体化処理)を行い、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。その後、適宜最終厚みになる様に厚みを調整して切断を行った。
切断されたそれぞれの試料は表1,2に記載された条件にて粗圧延(粗加工)、中間熱処理を実施し、更にその後仕上圧延、仕上熱処理を行い、それぞれ表1,2に記載された厚さ×幅約60mmの特性評価用条材を製出した。
【0058】
以下の項目について評価を実施した。
【0059】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mgは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。測定は試料中央部と幅方向端部の二カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
【0060】
(小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率/平均結晶粒径)
圧延面、すなわちND面(Normal direction)を観察面として、EBSD測定装置及びOIM解析ソフトによって、次のように結晶粒界および結晶方位差分布を測定した。
耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)によって、電子線の加速電圧15kV、10000μm以上の測定面積を、0.25μmの測定間隔のステップでCI値が0.1以下である測定点を除いて、各結晶粒の方位差の解析を行い、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界とし、解析ソフトによって算出されるArea Fractionにより平均結晶粒径Aを求めた。その後、平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで測定して、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で10000μm以上となる測定面積で、データ解析ソフトOIMにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除いて解析し、隣接する測定点間の方位差が2°以上15°以下となる測定点間を小傾角粒界およびサブグレインバウンダリーとし、その長さをLLB、15°を超える測定点間を大傾角粒界としその長さをLHBとすることで、全粒界における小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率LLB/(LLB+LHB)を求めた。
【0061】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。
【0062】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0063】
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、150℃の温度で1000時間保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して平行な方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が0.2%耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ0/Ls2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ:初期たわみ変位(mm)
:スパン長さ(mm)
である。
150℃の温度で、1000時間保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、耐応力緩和特性を評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δt0)×100
ただし、
δ:150℃で1000時間保持後の永久たわみ変位(mm)−常温で24時間保持後の永久たわみ変位(mm)
δ:初期たわみ変位(mm)
である。
【0064】
(曲げ加工性)
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。
圧延方向と試験片の長手方向が垂直になるように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.05mmのW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
曲げ部の外周部を目視で確認し割れが観察された場合は「C」、大きなしわが観察された場合は「B」、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を「A」として判定を行った。「B」までを許容できる曲げ加工性と判断した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
比較例1は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例2は、Pの含有量が本発明の範囲を超えており、曲げ加工性がC判定となり、不十分であった。
比較例3は、小傾角粒界およびサブグレインバウンダリー長さ比率が本発明の範囲よりも少ないため、0.2%耐力が低く、強度が不十分であった。
比較例4は、Agの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例5は、Mgの含有量が本発明の範囲を超えており、導電率が低くなった。
【0068】
これに対して、本発明例1−30においては、導電率と耐応力緩和特性とがバランス良く向上されており、曲げ加工性にも優れていた。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性に優れた銅合金を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性、強度に優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、放熱基板を提供することが可能となる。
図1