(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内であり、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満であり、
平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内であり、
導電率が90%IACS以上であり、
残留応力率が150℃、1000時間で50%以上であることを特徴とする銅合金。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、エンジンルーム等の高温環境下で使用されることが多く、従来にも増して耐応力緩和特性を向上させる必要がある。さらに、大電流が流された際の発熱をさらに抑制するために、導電率をさらに向上させる必要がある。すなわち、導電率と耐応力緩和特性とをバランス良く向上させた銅材が求められている。
厚肉化した場合には、電子・電気機器用部品を成形する際の曲げ加工条件が厳しくなるため、優れた曲げ加工性も求められている。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性に優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、放熱基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、導電率と耐応力緩和特性をバランス良く向上させるためには、組成の制御のみでは十分ではなく、組成に合わせた組織制御を行うことが必要であることが明らかになった。すなわち、最適な組成と組織制御とを両立することにより、従来よりも高い水準で導電率と耐応力緩和特性とをバランス良く向上させることが可能となるとの知見を得た。また、最適な組成と組織制御とを両立することにより、曲げ加工性の向上を図ることが可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の一態様である銅合金は、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされており、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされ、導電率が90%IACS以上とされ、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成の銅合金によれば、Mg,Ag,Pの含有量を上述のように規定するとともに、平均結晶粒径を上述の範囲に規定しているので、導電率を大きく低下させることなく耐応力緩和特性を向上させることができ、具体的には導電率を90%IACS以上、残留応力率を150℃、1000時間で50%以上とすることができ、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを両立することが可能となる。また、曲げ加工性についても向上させることが可能となる。
【0011】
本発明の一態様である銅合金においては、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされているので、厚さ0.5mmを超える板条材としてコイル状に巻き取っても、巻き癖がつくことがなく、取り扱いが容易となり、高い生産性を達成することができる。このため、大電流・高電圧向けの端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品用の銅合金として特に適している。
【0012】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金からなることを特徴としている。
この構成の銅合金塑性加工材によれば、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性に優れており、厚肉化した端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0013】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材においては、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板であってもよい。
この場合、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板であることから、この銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
【0014】
本発明の一態様である銅合金塑性加工材においては、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有することが好ましい。
この場合、表面にSnめっき層又はAgめっき層を有しているので、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。本発明において、「Snめっき」は、純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は、純Agめっき又はAg合金めっきを含む。
【0015】
本発明の一態様である電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。本発明における電子・電気機器用部品とは、端子、バスバー、放熱基板等を含む。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0016】
本発明の一態様である端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。
この構成の端子は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0017】
本発明の一態様であるバスバーは、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【0018】
本発明の一態様である放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたことを特徴としている。すなわち、放熱基板の少なくとも半導体と接合される一部が、上述の銅合金塑性加工材で形成されている。
この構成の放熱基板は、上述の銅合金塑性加工材を用いて製造されているので、大電流用途に対応して大型化および厚肉化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性に優れた銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電子機器用部品、端子、バスバー、放熱基板を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金について説明する。
本実施形態である銅合金は、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされている。
【0022】
本発明の一実施形態である銅合金においては、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされている。
本発明の一実施形態である銅合金においては、導電率が90%IACS以上とされ、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。
【0023】
本実施形態である銅合金においては、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
本実施形態の銅合金において、上述のように成分組成、結晶組織、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0025】
(Mg:70massppm以上400massppm以下)
Mgは、銅の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度及び耐応力緩和特性を向上させる作用効果を有する元素である。Mgを母相中に固溶させることにより、優れた曲げ加工性が得られる。
Mgの含有量が70massppm未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Mgの含有量が400massppmを超える場合には、導電率が低下するおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を70massppm以上400massppm以下の範囲内に設定している。
【0026】
強度および耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Mgの含有量を100massppm以上とすることが好ましく、150massppm以上とすることがさらに好ましく、200massppm以上とすることがより好ましく、250massppm以上とすることがより一層好ましい。導電率の低下を確実に抑制するためには、Mgの含有量を380massppm以下とすることが好ましく、360massppm以下とすることがさらに好ましく、350massppm以下とすることがより好ましい。
【0027】
(Ag:5massppm以上20massppm以下)
Agは、250℃以下の通常の電子・電気機器の使用温度範囲ではほとんどCuの母相中に固溶することができない。このため、銅中に微量に添加されたAgは、粒界近傍に偏析する。これにより粒界での原子の移動は妨げられ、粒界拡散が抑制されるため、耐応力緩和特性が向上する。
Agの含有量が5massppm未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなるおそれがある。一方、Agの含有量が20massppmを超える場合には、導電率が低下するとともにコストが増加する。
以上のことから、本実施形態では、Agの含有量を5massppm以上20massppm以下の範囲内に設定している。
【0028】
耐応力緩和特性をさらに向上させるためには、Agの含有量を6massppm以上とすることが好ましく、7massppm以上とすることがさらに好ましく、8massppm以上とすることがより好ましい。導電率の低下及びコストの増加を確実に抑制するためには、Agの含有量を18massppm以下とすることが好ましく、16massppm以下とすることがさらに好ましく、14massppm以下とすることがより好ましい。
【0029】
(P:3.0massppm未満)
銅中に含まれるPは、高温での熱処理中に、一部結晶粒の再結晶を促進させ、粗大な結晶粒を形成させる。粗大な結晶粒が存在すると曲げ加工時に表面の肌荒れが大きくなり、その部分で応力集中が起きるため、曲げ加工性が劣化する。さらにPはMgと反応して鋳造中に晶出物を形成し、加工時の破壊の起点となるため、冷間加工時や曲げ加工時に割れが発生しやすくなる。
以上のことから、本実施形態において、Pの含有量を3.0massppm未満に制限している。
Pの含有量は2.5massppm未満であることが好ましく、2.0massppm未満であることがより好ましい。
【0030】
(不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,B,Ba,Be,Bi,Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mo,Ni,W,Mn,Re,Fe,Se,Te,Ru,Sr,Ti,Os,Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,As,Sb,Tl,N,C,Si,Sn,Li,H,O,S等が挙げられる。これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、より少ないことが好ましい。
【0031】
(平均結晶粒径:10μm以上100μm以下)
本実施形態である銅合金においては、結晶粒の粒径が微細になりすぎると、原子の拡散経路となる結晶粒界が多数存在することとなり、耐応力緩和特性は低下する。一方、平均結晶粒径を必要以上に粗大化するには再結晶のための熱処理を高温、長時間とする必要があるため、製造コストの増加が懸念される。
以上のことから、本実施形態では、最適な耐応力緩和特性を得るため、平均粒径を10μm以上100μm以下としている。本実施形態では、双晶境界も粒界として平均結晶粒径を測定している。
平均結晶粒径は15μm以上であることが好ましく、80μm以下であることが好ましい。
【0032】
(導電率:90%IACS以上)
本実施形態である銅合金においては、導電率が90%IACS以上とされている。導電率を90%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、純銅の代替として端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
導電率は92%IACS以上であることが好ましく、93%IACS以上であることがさらに好ましく、95%IACS以上であることがより好ましく、97%IACS以上であることがより一層好ましい。
【0033】
(残留応力率(150℃、1000時間):50%以上)
本実施形態である銅合金においては、残留応力率が150℃、1000時間で50%以上とされている。この条件における残留応力率が高い場合には、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができ、接圧の低下を抑制することができる。よって、本実施形態である銅合金は、自動車のエンジンルーム周りのような高温環境下で使用される端子として適用することが可能となる。
残留応力率は、150℃、1000時間で、60%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがさらに好ましく、73%以上とすることがより好ましく、75%以上とすることがより一層好ましい。
【0034】
(0.2%耐力:150MPa以上450MPa以下)
本実施形態である銅合金において、0.2%耐力が150MPa以上である場合には、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適する。本実施形態では、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の0.2%耐力を150MPa以上とすることが好ましい。プレスによって端子、バスバー、放熱基板等を製造する際には、生産性を向上させるため、コイル巻きされた条材が用いられるが、0.2%耐力が450MPaを超えるとコイルの巻き癖がつき生産性が低下する。このため、0.2%耐力は450MPa以下とすることが好ましい。
0.2%耐力は、200MPa以上であることがさらに好ましく、220MPa以上であることがより好ましい。0.2%耐力は、440MPa以下であることがさらに好ましく、430MPa以下であることがより好ましい。
【0035】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅合金の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0036】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、Mgを添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。Mgの添加には、Mg単体やCu−Mg母合金等を用いることができる。また、Mgを含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。溶解工程では、Mgの酸化を抑制するため、また水素濃度低減のため、H
2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気溶解を行い、かつ溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0037】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりする。この均質化/溶体化工程S02は、10分以上100時間以下の保持時間で非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中にCuとMgを主成分とする金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が900℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上900℃以下の範囲に設定している。
後述する粗加工の効率化と組織の均一化のために、均質化/溶体化工程S02の後に熱間加工を実施してもよい。この場合、加工方法に特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。熱間加工温度は、300℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(粗加工工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。この粗加工工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率については、20%以上が好ましく、30%以上がさらに好ましい。加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0039】
(中間熱処理工程S04)
粗加工工程S03後に、加工性向上のための軟化、または再結晶組織にするために熱処理を実施する。
この際、Agの粒界への偏析の局所化を防ぐためには、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。加えて、Agの粒界への偏析をより均一にするために、中間熱処理工程S04と後述する仕上加工工程S05を繰り返し実施してもよい。
この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の平均結晶粒径は最終的な平均結晶粒径にほぼ等しくなる。そのため、この中間熱処理工程S04では、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内となるように熱処理条件を選定する必要がある。好ましくは400℃以上900℃以下の保持温度、10秒以上10時間以下の保持時間で、例えば700℃では1秒から120秒程度保持することが好ましい。
【0040】
(仕上加工工程S05)
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上加工を行う。この仕上加工工程S05における温度条件は特に限定はないが、加工時の再結晶を抑制するため、または軟化を抑制するために冷間、または温間加工となる−200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。加工率は、最終形状に近似するように適宜選択されるが、加工硬化によって強度を向上させるため5%以上とすることが好ましい。圧延加工を選択した場合、コイルに巻き取った際の巻き癖を防止するために0.2%耐力を450MPa以下とするには圧延率は90%以下とすることが好ましい。一般に加工率は、圧延や伸線の減面率である。
加工方法については、特に限定はなく、例えば圧延、引抜、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。
【0041】
(仕上熱処理工程S06)
次に、仕上加工工程S05後の銅素材に対して、Agの粒界への偏析および残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。
熱処理温度は、100℃以上500℃以下の範囲内とすることが好ましい。この仕上熱処理工程S06においては、再結晶による強度の大幅な低下を避けるように、熱処理条件(温度、時間)を設定する必要がある。例えば500℃では0.1秒から10秒程度保持、250℃では1時間から100時間とすることが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。上述の仕上加工工程S05と仕上熱処理工程S06とを、繰り返し実施してもよい。
【0042】
このようにして、本実施形態である銅合金(銅合金塑性加工材)が製出される。圧延により製出された銅合金塑性加工材を銅合金圧延板という。
銅合金塑性加工材の板厚を0.5mm超えとした場合には、大電流用途での導体としての使用に適している。銅合金塑性加工材の板厚を8.0mm以下とすることにより、プレス機の荷重の増大を抑制し、単位時間あたりの生産性を確保することができ、製造コストを抑えることができる。
このため、銅合金塑性加工材の板厚は0.5mm超え8.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
銅合金塑性加工材の板厚は1.0mm超えとすることが好ましく、2.0mm超えとすることがより好ましい。一方、銅合金塑性加工材の板厚は7.0mm未満とすることが好ましく、6.0mm未満とすることがより好ましい。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金においては、Mgの含有量が70massppm以上400massppm以下の範囲内、Agの含有量が5massppm以上20massppm以下の範囲内とされ、残部がCu及び不可避不純物とした組成を有し、Pの含有量が3.0massppm未満とされており、平均結晶粒径が10μm以上100μm以下の範囲内とされているので、導電率を大きく低下させることなく耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。具体的には、導電率を90%IACS以上、残留応力率を150℃、1000時間で50%以上とすることができ、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを両立することが可能となる。また、曲げ加工性についても向上させることが可能となる。
【0044】
本実施形態である銅合金において、0.2%耐力が150MPa以上450MPa以下の範囲内とされている場合には、厚さ0.5mmを超える板条材としてコイル状に巻き取っても、巻き癖がつくことがなく、取り扱いが容易となり、高い生産性を達成することができる。このため、大電流・高電圧向けの端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の銅合金として特に適している。
【0045】
本実施形態である銅合金塑性加工材は、上述の銅合金で構成されていることから、導電性、耐応力緩和特性、曲げ加工性に優れており、厚肉化した端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
本実施形態である銅合金塑性加工材を、厚さが0.5mm以上8.0mm以下の範囲内の圧延板とした場合には、銅合金塑性加工材(圧延板)に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を比較的容易に成形することができる。
本実施形態である銅合金塑性加工材の表面にSnめっき層又はAgめっき層を形成した場合には、端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0046】
本実施形態である電子・電気機器用部品(端子、バスバー、放熱基板等)は、上述の銅合金塑性加工材を用いて作製されたので、大型化および厚肉化しても優れた特性を発揮することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金塑性加工材、電子・電気機器用部品(端子、バスバー、放熱基板等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、銅合金(銅合金塑性加工材)の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
帯溶融精製法により、P濃度を0.001massppm以下に精製した純度99.999mass%以上の純銅からなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯内に、6N(純度99.9999mass%)以上の高純度銅と2N(純度99mass%)以上の純度を有する純金属を用いて作製した各種添加元素を1mass%含む母合金を添加して成分調製し、断熱材(イソウール)鋳型に注湯することにより、表1、2に示す成分組成の鋳塊を製出した。
鋳塊の大きさは、厚さ約30mm×幅約60mm×長さ約150〜200mmとした。
【0049】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、800℃で1時間の加熱(均質化/溶体化処理)を行い、酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。その後、適宜最終厚みになる様に厚みを調整して切断を行った。
切断されたそれぞれの試料は表1,2に記載された条件にて常温での粗圧延(粗加工)、中間熱処理を実施し、更にその後常温での仕上圧延、仕上熱処理を行い、それぞれ表1,2に記載された厚さ×幅約60mmの特性評価用条材を製出した。
【0050】
そして、以下の項目について評価を実施した。
【0051】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、Mgは誘導結合プラズマ発光分光分析法で、その他の元素はグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて測定した。測定は試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、含有量の多い方をそのサンプルの含有量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
【0052】
(平均結晶粒径測定)
得られた特性評価用条材から20mm×20mmのサンプルを切り出し、SEM−EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、平均結晶粒径を求めた。
圧延面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。その後、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を大角粒界とし、15°未満を小角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成し、JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径として記載した。
【0053】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。
【0054】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。
【0055】
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性試験は、日本伸銅協会技術標準JCBA−T309:2004の片持はりねじ式に準じた方法によって応力を負荷し、150℃の温度で1000時間保持後の残留応力率を測定した。
試験方法としては、各特性評価用条材から圧延方向に対して平行な方向に試験片(幅10mm)を採取し、試験片の表面最大応力が0.2%耐力の80%となるよう、初期たわみ変位を2mmと設定し、スパン長さを調整した。上記表面最大応力は次式で定められる。
表面最大応力(MPa)=1.5Etδ
0/L
s2
ただし、
E:ヤング率(MPa)
t:試料の厚さ(mm)
δ
0:初期たわみ変位(mm)
L
s:スパン長さ(mm)
である。
150℃の温度で、1000時間保持後の曲げ癖から、残留応力率を測定し、耐応力緩和特性を評価した。なお残留応力率は次式を用いて算出した。
残留応力率(%)=(1−δ
t/δ
0)×100
ただし、
δ
t:150℃で1000時間保持後の永久たわみ変位(mm)−常温で24時間保持後の永久たわみ変位(mm)
δ
0:初期たわみ変位(mm)
である。
【0056】
(曲げ加工性)
日本伸銅協会技術標準JCBA−T307:2007の4試験方法に準拠して曲げ加工を行った。
圧延方向と試験片の長手方向が垂直になるように、特性評価用条材から幅10mm×長さ30mmの試験片を複数採取し、曲げ角度が90度、曲げ半径が0.05mmのW型の治具を用い、W曲げ試験を行った。
そして、曲げ部の外周部を目視で確認し割れが観察された場合は「C」、大きなしわが観察された場合は「B」、破断や微細な割れ、大きなしわを確認できない場合を「A」として判定を行った。「B」までを許容できる曲げ加工性と判断した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
比較例1は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例2は、Pの含有量が本発明の範囲を超えており、曲げ加工性がC判定となり、不十分であった。
比較例3は、平均結晶粒径が本発明の範囲よりも小さいため、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例4は、Agの含有量が本発明の範囲よりも少ないため、残留応力率が低く、耐応力緩和特性が不十分であった。
比較例5は、Mgの含有量が本発明の範囲を超えており、導電率が低くなった。
【0060】
これに対して、本発明例1−30においては、導電率と耐応力緩和特性とがバランス良く向上されており、曲げ加工性にも優れていた。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率と優れた耐応力緩和特性とを有するとともに、曲げ加工性に優れた銅合金を提供可能であることが確認された。