(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るアンテナ装置について詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
まず、
図1を用いて実施形態に係るアンテナ装置の概要について説明する。
図1は、アンテナ装置の概要を示す図である。なお、
図1では、説明を分かりやすくするために、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標をあわせて示す。なお、かかる直交座標は、以下の説明で用いる他の図面においても示す場合がある。
【0012】
図1に示すように、アンテナ装置1は、基板2と、レドーム5と、吸収部30とを備える。基板2は、電波Wを送信する複数の送信アンテナ10が配置される。なお、送信アンテナ10は、アンテナの一例である。また、基板2は、電波Wを受信する受信アンテナが配置されてもよい。また、基板2は、電波Wを送信及び受信する送受信アンテナが配置されてもよい。
【0013】
送信アンテナ10は、いわゆるマイクロストリップアンテナである。送信アンテナ10から送信される電波Wは、レドーム5を介してアンテナ装置1の外部に照射される。かかる電波Wが物標により反射した反射波を図示しない受信アンテナで受信することで物標の位置や相対速度等を検出することが可能となる。
【0014】
しかしながら、
図1に示すように、全ての電波Wがレドーム5を通過するのではなく、電波Wの一部がレドーム5で基板2側に反射する場合がある。この場合に、電波Wが基板2で反射し、基板2とレドーム5間で電波Wの多重反射が発生する。
【0015】
かかる多重反射によって隣接する送信アンテナ10から送信される電波Wが互いに干渉しあう電波干渉が起こり、電波Wの位相や振幅が乱れる。また、かかる多重反射によって直接波と多重反射波が互いに干渉し合うことで、放射指向性が歪む現象が生じる場合がある。アンテナの放射指向性の歪みを抑制するうえで、さらなる改善の余地があった。このため、従来技術においては、多重反射を抑制するために電波Wを吸収する吸収部材を備えるものがある。
【0016】
かかる吸収部材として、AMC(Artificial Magnetic Conductor)が用いられる。かかるAMCは、基板上に銅箔等が所定の周期で設置される、いわゆる周期構造となるようにプリントされたものであり、AMCに入射した電波と共振することでかかる電波を減衰させる。
【0017】
ここで、AMCは、電波の入射角や、周波数によって電波を吸収する効率(以下、吸収特性という)が異なる。しかしながら、従来技術では、基板上に単一のAMCを配置していた。このため、従来技術では、かかるAMCの吸収特性と合致する一部の電波のみしか吸収することができなかった。
【0018】
そこで、実施形態に係るアンテナ装置1では、吸収特性が異なる複数の吸収部材31が配列される吸収部30を備えることとした。つまり、アンテナ装置1は、異なる吸収特性を有する吸収部材31を組み合わせて用いることで、電波Wを効率よく吸収することが可能となる。
【0019】
例えば、アンテナ装置1は、電波Wの入射角に対して異なる吸収特性を有する吸収部材31を組み合わせて用いることで、吸収可能な電波Wの入射角を広げることが可能となる。かかる点の詳細については、
図2A〜
図2C、
図3Aおよび
図3Bを用いて後述する。
【0020】
また、アンテナ装置1は、周波数に対する吸収特性が異なる吸収部材31を組み合わせて用いることで、吸収可能な電波Wの周波数を広げることも可能である。かかる点の詳細については、
図4A〜
図4Cを用いて後述する。
【0021】
このように、実施形態に係るアンテナ装置1では、吸収特性が異なる吸収部材31が配列された吸収部30を備えることで、電波Wを効率よく吸収することが可能となる。このため、実施形態に係るアンテナ装置1では、隣接する送信アンテナ10間に生じる電波干渉を抑制することができる。また、レドームと基板との間の多重反射によって生じるアンテナの放射指向性の歪みを抑制することができる。
【0022】
なお、実施形態に係るアンテナ装置1では、レドーム5に微細な凹凸を形成し、レドーム5における電波Wの透過率を向上させることも可能である。言い換えれば、レドーム5から基板2側への電波Wの反射を抑制することで、電波Wの多重反射を抑えることもできる。かかる点の詳細については、
図5Aおよび
図5Bを用いて後述する。
【0023】
次に、
図2A〜
図2Cを用いて吸収部材31の吸収特性の詳細について説明する。
図2A、
図2Bは、吸収部材31の入射角に対する吸収特性の具体例を示す図であり、
図2Cは、吸収部材31を組み合わせた吸収特性の具体例を示す図である。
【0024】
なお、
図2Aには、吸収部材31aの電波Wの入射角に対する吸収特性を示し、
図2Bには、吸収部材31bの電波Wの入射角に対する吸収特性を示す。また、
図2A〜
図2Cでは、横軸に電波Wの吸収部材31に対する入射角を示し、縦軸にかかる入射角における電波Wの反射損失を示す。
【0025】
また、
図2A〜
図2Cでは、吸収部材31に対して鉛直上方向(Z軸)を0degとし、吸収部材31に対して電波Wが負方向側から入射した場合の吸収特性を示す。なお、正方向側の吸収特性については、負方向側の吸収特性と0degを境に線対称であるものとする。
【0026】
なお、ここでは、送信アンテナ10(
図1参照)が76GHz〜77GHz帯の電波Wを送信するものとし、
図2A〜
図2Cでは、中間周波数となる76.5GHzに対する吸収特性を示す。
【0027】
図2Aに示すように、吸収部材31aは、例えば、反射損失がー10dB以下となる入射角θ1〜θ2の範囲r1で電波Wを効率よく減衰させることが可能である。
【0028】
また、
図2Bに示すように、吸収部材31bは、入射角θ3〜θ4の範囲r2で電波Wの反射損失がー10dB以下となるため、かかる範囲r2で電波Wを効率よく減衰させることが可能である。
【0029】
このため、アンテナ装置1は、吸収部材31aおよび吸収部材31bを組み合わせて用いることで、より広範囲の入射角を有する電波Wを吸収することが可能となる。
【0030】
具体的には、
図2Cに示すように、吸収部材31aおよび吸収部材31bを組み合わせて用いる場合、入射角θ2〜θ3の範囲r3で反射損失がー10dB以下となる。
【0031】
すなわち、範囲r3は、吸収部材31aの範囲r1、吸収部材31bの範囲r2に比べて広い範囲となる。つまり、より広範囲の入射角を有する電波Wを吸収することが可能となる。
【0032】
次に、
図3Aおよび
図3Bを用いて吸収部材31aおよび吸収部材31bの配置位置について説明する。
図3Aは、吸収部材31の配置位置の決定方法を示す図である。
図3Bは、送信アンテナ10と吸収部30の配置例を示す図である。
【0033】
なお、ここでは、
図2Aに示した吸収部材31aを例に挙げて配置位置の決定方法について説明する。
図3Aに示すように、送信アンテナ10からレドーム5の上面5aまでの高さh1と、送信アンテナ10からレドーム5の下面5bまでの高さh2に基づき、吸収部材31aを配列する配列範囲R1が決定される。
【0034】
つまり、送信アンテナ10から送信された電波Wがレドーム5で反射した場合に、かかる電波Wが範囲r1(入射角θ1〜θ2;
図2A参照)内で基板2に入射する位置を吸収部材31aの配列範囲R1に決定する。
【0035】
具体的には、電波Wが上面5aで反射し、入射角θ1で基板2に入射する場合の基板2上の位置から送信アンテナ10まで距離d1が配列範囲R1の最小値となる。
【0036】
また、電波Wが下面5bで反射し、入射角θ2で基板2に入射する場合の基板2上の位置から送信アンテナ10までの距離d2が配列範囲R1の最大値となる。
【0037】
すなわち、配列範囲R1は、距離d2から距離d1を差し引いた範囲とすることで、吸収部材31aで電波Wを効率よく吸収することが可能である。ここで、距離d1=2×h1×tan(θ1)で求めることができ、距離d2=2×h2×tan(θ2)で求めることができる。
【0038】
高さh1および高さh2は、既知であるため、上記の式に基づき、距離d1および距離d2を算出することができる。また、かかる距離d1および距離d2から配列範囲R1を算出することが可能である。
【0039】
なお、
図2Bに示す吸収特性を有する吸収部材31bについても同様に配列範囲を算出することができ、以下、吸収部材31bの配列範囲について配列範囲R2と記載する。
【0040】
次に、
図3Bを用いて上記の配列範囲に基づく吸収部材31aおよび吸収部材31bの実際の配列例について説明する。なお、
図3Bでは、レドーム5を取り外した場合における基板2の一部をZ軸正方向から見た図を示す。
【0041】
図3Bに示すように、吸収部材31aおよび吸収部材31bは、送信アンテナ10の配列向きについて交互に配列される。また、吸収部材31aは、配列範囲R1内に配列して形成され、吸収部材31bは、配列範囲R2内に配列して形成される。
【0042】
これにより、隣接する送信アンテナ10から送信された電波Wがレドーム5で基板2側に反射した場合であっても、吸収部材31aおよび吸収部材31bで効率よく電波Wを吸収することが可能となる。
【0043】
ここで、吸収部材31であるAMCは、電波Wを効率よく吸収させるために所定回数以上の繰り返し構造を有する必要がある。言い換えれば、それぞれの吸収部材31は、所定の面積を有する必要がある。このため、アンテナ装置1は、送信アンテナ10の配列向きについてAMCである吸収部材31を繰り返して配列することにしている。
【0044】
つまり、各吸収部材31を配列範囲に配列させて形成することにより、吸収部材31が有する本来の吸収特性を損なうことなく、電波Wを効率よく吸収することが可能となる。
【0045】
なお、ここでは、2種類の吸収部材31を組み合わせて用いる場合について示したが、吸収部材31は、2種類に限られず、3種類以上であってもよい。また、
図3Bに示した吸収部材31の配置は一例であり、例えば、異なる吸収部材31を千鳥状に配列したり、送信アンテナ10の配列向きと対向する向きに吸収部材31を配列したりするなど、適宜変更可能である。
【0046】
ところで、アンテナ装置1では、異なる周波数の電波Wを送信アンテナ10から送信することが可能である。すなわち、入射角に加えて、周波数を考慮して吸収部材31を配列する必要がある。
【0047】
このため、電波Wの各周波数に対して異なる吸収特性を有する吸収部材31を用いることも可能である。ここで、かかる点の詳細について
図4A〜
図4Cを用いて説明する。
【0048】
図4Aおよび
図4Bは、吸収部材31の周波数に対する吸収特性の具体例を示す図であり、
図4Cは、吸収部材31を組み合わせた吸収特性の具体例を示す図である。
【0049】
なお、上述したように、送信アンテナ10は、76GHz〜77GHzまでの周波数帯の電波Wを送信する。このため、
図4A〜
図4Cでは、周波数76GHzにおける吸収特性と、周波数77GHzにおける吸収特性をそれぞれ示す。また、
図4Aでは、吸収部材31cの吸収特性を示し、
図4Bには、吸収部材31dの吸収特性を示す。
【0050】
図4Aに示すように、吸収部材31cは、周波数76GHzの電波Wに対して所定の入射角において良好な吸収特性を示すものの、周波数77GHzの電波Wに対しては、いずれの入射角についても十分な吸収特性を示さない。
【0051】
一方、
図4Bに示すように、吸収部材31dは、周波数76GHzの電波に対して十分な吸収特性を示さないものの、周波数77GHzの電波Wに対しては、良好な吸収特性を示す。
【0052】
すなわち、
図4Cに示すように、吸収部材31cで周波数76GHzの電波Wを吸収し、吸収部材31dで周波数77GHzの電波Wを吸収することで、双方の周波数を有する電波Wを効率よく吸収することが可能となる。
【0053】
つまり、いずれの周波数を有する電波Wであっても多重反射を抑制することが可能となる。言い換えれば、いずれの周波数を有する電波Wであっても隣接する送信アンテナ10間に生じる電波干渉を抑制することができる。
【0054】
なお、例えば、吸収部材31cおよび吸収部材31dは、
図3Bに示した吸収部材31aおよび吸収部材31bの間にそれぞれ配置することにしてもよいし、あるいは、吸収部材31aおよび吸収部材31bの一部を吸収部材31cおよび吸収部材31dで置き換えることにしてもよい。
【0055】
つまり、吸収部30における吸収部材31a、吸収部材31b、吸収部材31cおよび吸収部材31dの配置については、実験やシミュレーション等により最適な配置を導出することが可能である。
【0056】
次に、
図5を用いてレドーム5の表面構造について説明する。
図5は、レドーム5の断面模式図である。なお、
図5では、レドーム5の下面5bの一部を拡大した拡大図を併せて示す。
【0057】
図5に示すように、レドーム5の上面5aおよび下面5bには、凹凸状の凹凸部51をそれぞれ有する。かかる凹凸部51によって、電波Wの透過率を向上させることで、レドーム5側での電波Wの反射を抑制することが可能となる。
【0058】
ここで、電波Wが誘電率の異なる媒体間を通過する際に電波Wが反射することが知られている。言い換えれば、媒体間の誘電率の差を少なくすることで、電波Wの反射を抑制することができ、透過率を向上させることが可能となる。
【0059】
本実施形態では、かかる点に着目し、レドーム5の電波Wに対する透過率を向上させる。具体的には、空気の誘電率ε0とし、レドーム5の誘電率ε1(ε0<ε1)とする。
【0060】
かかる場合に、凹凸部51では、空気と、レドーム5とが混在して存在するため、凹凸部51における誘電率ε2とすると、各誘電率の大きさは、ε0<ε2<ε1となる。
【0061】
すなわち、凹凸部51における誘電率ε2は、空気の誘電率ε0と、レドーム5の誘電率ε1との中間の値となる。つまり、凹凸部51は、電波Wを空気層からレドーム5で効率よく通過させるための緩衝材として機能する。
【0062】
これにより、空気―レドーム5間の誘電率の差が緩和されるため、電波Wの透過率を向上させることが可能となる。つまり、レドーム5から基板2側への電波Wの反射を抑制することが可能となる。なお、
図5Aに示すように、レドーム5の上面5aについても同様に凹凸部51が形成される。このため、上面5aの凹凸部51によっても同様の効果を得ることが可能となる。
【0063】
つまり、アンテナ装置1は、レドーム5の上面5aおよび下面5bの双方に凹凸部51を設けることで、レドーム5の上面5aにおける電波Wの反射、下面5bにおける電波Wの反射の双方を抑制することが可能となる。
【0064】
ところで、凹凸部51における隣接する凹凸の間隔は、電波Wの波長よりも短く形成される。仮に隣接する凹凸の間隔が電波Wの波長よりも長い場合、電波Wが凹凸の側面に反射し、電波Wが乱反射するおそれがある。つまり、隣接する凹凸の間隔を電波Wの波長よりも短くすることで、上記の乱反射を抑制することが可能となる。上述の例では、アンテナ装置1は、76〜77GHzの帯域の電波Wを送信する。かかる場合の送信波の波長は、約3.9mmであるため、隣接する凹凸の間隔は、3.9mm以下であることが好ましい。
【0065】
なお、かかる凹凸は、例えば、紙面奥行方向(Y軸)に沿って均一に形成してもよいし、あるいは、格子状などその他の形状に形成することにしてもよい。また、ここでは、レドーム5の上面5aおよび下面5bの双方に凹凸部51を設ける場合について説明したが、一方の面のみに凹凸部51を設けることにしてもよい。
【0066】
ところで、凹凸部51は、形状(凹凸の間隔、凹凸の高さ等)によって電波Wの透過率を変更することが可能である。そこで、アンテナ装置1では、吸収部材31による電波Wの吸収特性が十分でない電波Wについて透過させることにしている。
【0067】
ここで、かかる点の詳細について
図5Bを用いて説明する。
図5Bは、吸収部材31および凹凸部51の吸収特性を示す図である。なお、
図5Bに示す凹凸部51の反射損失が小さいほど、電波Wが凹凸部51に入射した際の電波Wの透過量は多くなる。
【0068】
図5Bに示すように、凹凸部51は、吸収部材31の吸収特性が低い入射角の電波Wを積極的に透過させるように設計される。すなわち、同図に示す範囲r4の入射角を有する電波Wについては、レドーム5側で反射を前もって抑制する。
【0069】
つまり、かかる電波Wは、レドーム5から基板2側へ反射しないため、吸収部材31で吸収する必要がなく、かかる電波Wによる多重反射を抑制することができる。
【0070】
このように、アンテナ装置1では、凹凸部51および吸収部材31が互いに吸収特性を補完しあうことで、電波Wの多重反射を効率よく抑制することが可能となる。
【0071】
上述したように、実施形態に係るアンテナ装置1は、基板2と、レドーム5と、吸収部30とを備える。基板2は、電波Wを送信または受信する複数のアンテナ(送信アンテナ10)が配置される。レドーム5は、アンテナの出射面側から基板2を覆う。吸収部30は、基板2におけるアンテナ間に設けられ、電波Wの吸収特性が異なる複数の吸収部材31が配列される。したがって、実施形態に係るアンテナ装置1によれば、隣接するアンテナ間に生じる電波干渉を抑制することができる。また、レドームと基板との間の多重反射によって生じる送信アンテナ10の放射指向性の歪みを抑制することができる。
【0072】
ところで、上述した実施形態では、吸収部材31がAMCである場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、吸収部材31は、異なる吸収特性を有するものであればその形態は問わない。また、アンテナ装置1は、例えば、レーダ装置や、無線LAN(Local Area Network)など、種々のアンテナ装置に適用することが可能である。
【0073】
また、上述した実施形態では、電波Wを送信する送信アンテナである場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、電波Wを受信する受信アンテナでもよく、電波Wを送信および受信する送受信アンテナであってもよい。
【0074】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な様態は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲および、その均等物によって定義される統括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変化が可能である。