(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、「き電回路」の電圧と比べて低圧の直流電圧、例えば直流100Vのバッテリー電源などによって動作する設備が増えている。従来、このような設備においては、メンテナンスの際などに接触型の検電器を用いて充電部(例えば電線路)の充電状態を検出することが行われている。接触型の検電器を用いた場合、プローブが充電部の電極と意図しない金属部分とに触れて充電部をショートさせてしまうなど、電気事故を引き起こす潜在的な危険性がある。
そこで、本発明者らは、先に開発した「き電回路」を検出対象とする直流用の非接触型検電器を用いて、直流100Vのような低圧の直流電圧が印加される充電部の充電状態を、非接触で検出できないか検証を行った。しかしながら、このような充電部では、思ったような感度で充電状態を検出することは困難であった。
【0006】
検証実験においては、検出用電極(静電アンテナとも呼ぶ)を充電部(陽極側の電線路など)に近づけ、非接触型検電器の筐体を基準電位点(陰極側の電線路など)に近づけたときに、検電器に電圧検出の反応が生じることが分かった。また、検証実験においては、検出対象の充電部に誤って検出用電極が接触した場合に、両者が絶縁被覆されていた場合でも、検出用電極の帯電状態や内部回路の状態に変化が生じ、その後、回路を初期化しないと、正常な回路動作が得られなくなることが分かった。これは絶縁被覆のわずかな衝突により、ピエゾ効果或いは摩擦によって僅かな帯電が生じることに起因すると推定される。
本発明は、例えば直流100Vのような低圧の電圧が印加される充電部の充電状態を非接触に且つ感度良く検出することができる非接触型検電器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、
直流電圧によって充電される充電部の充電状態を非接触で検出する非接触型検電器であって、
静電誘導により帯電する静電アンテナと、
前記静電アンテナの帯電状態を検出する検出回路と、
前記検出回路の検出結果に基づいて前記静電アンテナが近づけられた前記充電部の充電状態を判定する判定部と、
を備え、
前記静電アンテナは、前記検出回路の入力部に導通される第1検出用電極と、前記検出回路の接地電位と導通される第2検出用電極とを有することを特徴としている。
【0008】
ここで、「充電部」とは、例えば直流電圧が印加される電線路や電極のようなもののことである。
この構成によれば、静電アンテナに、検出回路の入力部に導通される第1検出用電極に加えて、検出回路の接地電位と導通される第2検出用電極が含まれる。よって、検出対象の充電部とその陰極側の配線又は電極に対して、第1検出用電極と第2検出用電極とを適宜に配置することで、静電アンテナに充電部の充電状態を検出可能な大きさの帯電を発生させることができる。これにより、充電部の充電状態を非接触に且つ高感度に検出することができる。また、高感度に検出できることから、検出時に充電部と静電アンテナとの距離を大きくとることができ、両者が接触して正常な回路動作が阻害されるという課題を回避できる。
【0009】
ここで、前記第1検出用電極および前記第2検出用電極は共に一方に長い平面形状部を含み、
前記第1検出用電極の前記平面形状部と前記第2検出用電極の前記平面形状部とは、長手方向に見てV字形状となるように、互いの長辺部が近接し、互いのもう一方の長辺部が離間しているとよい。
この構成によれば、検出対象の充電部として陽極側の電線路があり、この電線路と陰極側の電線路とが離間して配置されている場合に、これら2つの電線路の間に第1検出用電極と第2検出用電極とを挿入するように配置することができる。このような配置により、充電部に直流電圧が印加されている場合に、静電アンテナに検出可能な大きさの帯電を発生させて、その充電状態を高感度に検出することができる。
【0010】
また、前記第1検出用電極および前記第2検出用電極は共に一方に長い平面形状部を含み、
前記第1検出用電極の前記平面形状部と前記第2検出用電極の前記平面形状部とは、前記充電部を双方の間へ挿入可能なように離間しているとよい。
この構成によれば、検出対象の充電部として陽極側の電線路があり、この電線路と陰極側の電線路とが近接して配置されている場合に、これら2つの電線路の両側を囲うように第1検出用電極と第2検出用電極とを配置することができる。このような配置により、充電部に直流電圧が印加されている場合に、静電アンテナに検出可能な大きさの帯電を発生させて、その充電状態を高感度に検出することができる。
【0011】
また、前記第1検出用電極および前記第2検出用電極は共に一方に長い1つ又は複数の平面形状部を含み、
前記静電アンテナは、
前記第1検出用電極の何れかの前記平面形状部と前記第2検出用電極の何れかの前記平面形状部とが、長手方向に見てV字形状となるように、互いの長辺部が近接し、互いのもう一方の長辺部が離間した第1形態と、
前記第1検出用電極の何れかの前記平面形状部と前記第2検出用電極の何れかの前記平面形状部とが、前記充電部を双方の間へ挿入可能なように離間した第2形態と、
に変形可能に構成されているとよい。
この構成によれば、検出対象の形態が異なる場合(例えば、接近した平行線と離間した平行線)に、対象の形態に応じて、静電アンテナの形態を変えることで、充電部の充電状態を高感度に検出することができる。
【0012】
さらに、前記検出回路は、
前記入力部から電荷を導く第1伝送路と、
前記第1伝送路に接続された第1可変容量手段と、
前記第1可変容量手段の容量を周期的に変化させる発振器と、
を有し、
前記第1可変容量手段の容量の変化により前記静電アンテナの帯電状態に応じて振幅が変化する交流信号を前記第1伝送路に生成し、
前記判定部は、前記交流信号の振幅変化が位相変化に拡大変換された信号の位相に基づいて前記充電部の充電状態を判定するように構成するとよい。
【0013】
一般に、静電誘導により生じた微小な帯電状態をそのまま検出しようとすると、静電アンテナから検出回路への電荷の移動によって、検出用電極の帯電状態が時間の経過に伴って薄まってしまい、安定した検出が阻害される。しかしながら、上記構成によれば、発振器と第1可変容量手段との作用によって交流信号を生成して静電アンテナの帯電状態が薄まることを回避できる。さらに、第1可変容量手段の容量を周期的に変化させて生成した交流信号は、静電アンテナの帯電状態に応じて振幅と位相が変化するが、これらは微小な変化である。そこで、上記構成によれば、判定部は交流信号の振幅変化が位相変化に拡大変換された信号の位相に基づいて充電部の充電状態を判定する。これにより、微小帯電領域すなわち弱電界領域において、充電部の充電状態を正しく判定することができる。また、振幅変化を直接検出する場合と異なり、位相変化に拡大変換された信号の位相を検出するために、高い分解能のAD変換器とフーリエ変換などのディジタル信号処理のための高速処理能力を持つCPU(中央演算処理装置)が不要であり、部品コストの低減を図れる。
【0014】
さらに、前記検出回路は、
前記第1伝送路と並列に接続される第2伝送路と、
前記第2伝送路に接続されて前記発振器により容量が周期的に変化する第2可変容量手段と、
前記第2伝送路上に接続されて直流成分の信号が伝わるのを阻止する直流阻止フィルタと、
前記第1伝送路に出力される交流信号と前記第2伝送路に出力される交流信号との差を出力する差動増幅器と、
を有し、
前記判定部は、前記差動増幅器の出力と前記第2伝送路に出力される交流信号との位相差に基づいて、前記静電アンテナが近づけられた前記充電部の充電状態を判定するとよい。
【0015】
この構成によれば、第2伝送路により出力される交流信号として、静電アンテナの帯電状態の影響がなく、回路の温度特性や手振れなどによる外的要因の影響が現れた交流信号が生成される。よって、第1伝送路の交流信号と第2伝送路の交流信号とに基づき判定を行うことで、外的要因による位相の変化をキャンセルして正確な判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば直流100Vのような低圧の電圧が印加される充電部の充電状態を非接触に且つ感度良く検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態の非接触型検電器を示す構成図である。
本発明の第1実施の形態の非接触型検電器100は、例えば直流100Vのような低圧の直流電圧が印加される充電部(例えばバッテリ電源の電線路など)の充電状態を非接触に検出する装置である。非接触型検電器100は、静電アンテナ120、検出回路110、判定部130、出力部140、および各部に動作電圧を供給する電源部150を備える。
【0019】
静電アンテナ120は、検出対象の充電部に近接したときに、充電部からの静電誘導によって帯電するアンテナである。静電アンテナ120は、検出回路110の入力部に導通される第1検出用電極121Aと、検出回路110の接地電位に導通される第2検出用電極121Bとを有する。静電アンテナ120の具体的な構造については後述する。
検出回路110は、帯域阻止フィルタとしてのノッチフィルタ115と、ノッチフィルタ115の出力端子側に設けられた一対の可変容量素子116A,116Bと、可変容量素子116A,116Bの容量値を周期的に変化させる発振器117と、可変容量素子116A,116Bの出力電圧(交流信号)の位相差を検出する位相差検出部118とを備える。また、ノッチフィルタ115と可変容量素子116Bとの間には、直流成分を遮断し交流成分のみを通過させるAC結合用の蓄電器(コンデンサ)119Cが設けられている。蓄電器(コンデンサ)119Cと可変容量素子116Bとの接続ノードと、検出回路110の接地電位GND1との間には抵抗器R5が接続され、この抵抗器R5とコンデンサCとによって直流阻止フィルタが構成されている。
【0020】
さらに、ノッチフィルタ115と可変容量素子116A,116Bとの間には、それぞれ高抵抗値(例えば10MΩ)を有する抵抗器R4a,R4bが接続されている。この抵抗器R4a,R4bは、ノッチフィルタ115の出力と可変容量素子116A,116Bとの間、さらには可変容量素子116A,116B相互間を、検出対象の信号の周波数を含む高い周波数領域において交流的に分離するためのものである。
さらに、可変容量素子116A,116Bと位相差検出部118の2つの入力端子の間には、それぞれ交流結合用の蓄電器119A,119Bが接続されている。
【0021】
図2は、
図1の検出回路の具体的な一例を示す回路図である。
図2に示すように、可変容量素子116A,116Bとしては、例えばMOS電界効果トランジスタのゲート容量(ゲート電極−半導体基板間の容量)を適用できる。MOS電界効果トランジスタのソース端子を基準電位点に接続し、ドレイン端子に発振器117で生成された電圧(サイン波)を印加することで、ゲート容量の容量値を変化させることができる。なお、MOS電界効果トランジスタの代わりにバラクタダイオードなど他の素子や回路を使用しても良い。
発振器117は、所定の周波数のサイン波(正弦波)を生成する。所定の周波数としては、商用交流電源の周波数(50Hzまたは60Hz)やその整数倍の周波数の影響を受けにくい周波数を選択するのが望ましい。
【0022】
ここで、可変容量素子116A,116Bを設け、発振器117によって容量値を変化させる構成を採用した理由を説明する。
図3は、
図1の検出回路の動作原理を説明する図を示す。
先ず、検出用電極に静電誘導された静的な電荷の量を検出することで充電部の充電状態(例えば電線路の停電/活線)を検出する電界検出方式の検電器について説明する。この方式では、検出用電極を充電部に近接した直後は検出用電極に電界の強さに応じた電荷が静電誘導される。しかしながら、検出用電極に接続される実際のアンプの入力インピーダンスは無限大にすることはできず有限の値を持つこととなる。そのため、時間が経過するとリークにより検出用電極から電荷が抜けてしまい、電界の強さを正確に検出することができない。
【0023】
一方、本実施の形態の非接触型検電器100では、
図3に示すように、第1検出用電極121Aに接続された可変容量素子116A,116Bを設け、その容量値が周期的に変化する。かかる構成によれば、可変容量素子116A,116Bの容量値が変化すると、第1検出用電極121Aに誘導された電荷が第1検出用電極121Aと可変容量素子116A,116Bとの間を往復移動することとなり、それによって可変容量素子116A,116Bとその駆動手段(発振器117)とが一種の静電式発電機として動作し、静電アンテナ120に生じた静電誘導の大きさに応じて振幅や位相が変化する交流信号が生成される。このような動作過程では、第1検出用電極121Aの帯電量が電荷の抜けによって次第に減少したりしないため、時間が経過しても静電誘導の大きさに応じた振幅や位相の交流信号が出力される。そして、このような交流信号によって、充電部の充電状態を正確に検出することができる。
【0024】
図4に、
図1のノッチフィルタ115として好適な2−T型フィルタの回路例を示す。
帯電状態に応じて変化する交流信号を生成して充電部の充電状態を正確に判定するには、ノイズとなるその他の交流成分が検出回路110に混入することを抑制する必要がある。一方、充電部に印加される直流電圧は、例えば商用交流電源などから生成していることが多く、それ故、検出回路110に商用交流電源の周波数成分又はその高調波成分がノイズとして混入する状況が生じやすい。
【0025】
ノッチフィルタ115は、このようなノイズの混入を防ぐために、商用交流電源の周波数成分とその高調波成分を除去もしくは低減するために設けられている。ノッチフィルタ115は、具体的には、
図4(A)に示すように3個の抵抗素子R1〜R3と3個の容量素子C1〜C3により構成された単段ノッチフィルタNFを、
図4(B)に示すように、3個縦続接続して構成したものである。
図4(A)の単段ノッチフィルタNFを構成する素子は、10MΩ1%品と100pF1%品の2種類のみであり、これらを直列あるいは並列に接続してフィルタを構成する。このように部品の種類を2種類に限定することで組立を容易し、なおかつ品質にやや不安の残る10MΩを超える抵抗器を用いずに済むという利点がある。また、かかる構成のノッチフィルタ115は、2−T型フィルタとしての正規の設計値から意図的にずらすことで中心周波数での減衰が劣る代わりに減衰帯域を広げることができるので、商用交流電源基本波の50、60Hzから第二次高調波の100、120Hzまでの領域で、妨害波を1/3000〜1/10000に大きく減衰させることができる。加えて、素子の誤差の影響を受けにくくなるという効果もある。
【0026】
位相差検出部118は、
図2に示すように、一方の可変容量素子116Aが接続される第1伝送路から交流信号を入力する抵抗分圧器15と、抵抗分圧器15の出力を増幅するアンプ17Aと、他方の可変容量素子116Bが接続される第2伝送路から交流信号を入力する抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16と、抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16の出力を増幅するアンプ17Bと、アンプ17Aの出力とアンプ17Bの出力の差動電圧を抽出する差動増幅器17Cと、差動増幅器17Cの出力を入力とするコンパレータ18Aと、アンプ17Bの出力を入力とするコンパレータ18Bと、ロジック回路19と、抵抗R21とコンデンサC21とからなるRC一次低域通過フィルタ21を備える。
【0027】
図5は、
図2の抵抗分圧器の一例を示す回路図を示す。
図6は、
図2の抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素の一例を示す回路図を示す。
抵抗分圧器15は、第1伝送路に直列に接続された抵抗R15と、第1伝送路と接地電位線との間に接続された抵抗R16とにより、第1伝送路に出力される交流信号を所定比で分圧する。
抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16は、第2伝送路に直列に接続された抵抗R17と第2伝送路と接地電位線との間に接続された抵抗R18とにより、第2伝送路に出力される交流信号を所定比で分圧する。また、抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16は、第2伝送路と接地電位線との間に直列に接続されたコンデンサC17と可変抵抗R19により、第2伝送路に出力される交流信号に遅延を与えて位相を調整する。
【0028】
ここで、抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16による位相の調整方法の一例を説明する。
第2伝送路に出力される交流信号の位相は、第1検出用電極121Aおよび第2検出用電極121Bを短絡し誘導電荷がゼロのときに、第1伝送路に出力される交流信号と位相差φがゼロでないゼロ近傍の値になるように調整する。
調整の際には、先ず、第1検出用電極121Aおよび第2検出用電極121Bを短絡し誘導電荷をゼロに保つ。さらに、位相差検出部118の2つの入力に同一振幅同一位相の交流電圧を加える。
図2の蓄電器119A,119Bの両方の出力端子を短絡すればよい。ここで、アンプ17A,17Bの一方の電圧利得を調整し差動増幅器17Cの出力Vdifがゼロになるように調整する。利得を調整する代わりに抵抗分圧器15あるいは抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16を構成する抵抗R16、R18の値を調整しても良い。
【0029】
次に、蓄電器119A,119Bの出力端子の短絡を開放し、抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16の可変抵抗R19の値を調整し、差動増幅器17Cの出力Vdifの振幅(ピーク間電圧)が例えば10mVp−pなどの小さい電圧になるように調整する。出力Vdifの振幅を小さく設定するほど位相差φが小さくなり振幅差Δに対する感度が向上するがゼロは望ましくない。位相差φおよび振幅差Δとは、第1伝送路に出力される交流信号と、第2伝送路に出力される交流信号との位相差と振幅差を示す。
このような調整方法により、目的の位相差φの調整が達成される。なお、位相の調整は、典型的には、例えば工場出荷前の調整段階で行われるが、検電前の回路リセット時、或いは較正処理の際に行うようにしてもよい。また、位相の調整は、調整装置によって自動的に行われるようにしてもよいし、人手により行ってもよい。
【0030】
なお、位相の調整は、次のような点に注意して行うのがよい。可変容量素子116Aが電界効果トランジスタの場合はドレイン・ソース間電圧およびゲート・ソース間電圧の増大とともにドレイン・ソース間容量およびゲート・ソース容量が減少する。このため帯電していない状態よりも帯電している状態において可変容量素子116Aの静電容量が減少するため検出側の交流信号Vd1(
図2を参照)が補正側の交流信号Vd2(
図2を参照)に比較して進み位相に変化する。この場合は、補正側の位相差調整器(
図6の可変抵抗R19)で交流信号Vd2を検出側の交流信号Vd1に対して遅れ位相側に、たとえば差動増幅器17Cの電圧利得が100倍の場合にはその出力である差電圧Vdifをたとえば10mVに設定する。可変容量素子116Aが帯電増加で静電容量が増加するなら補正側の交流信号Vd2を検出側の交流信号Vd1に対して進み位相側とし、差動増幅器17Cの出力(差電圧Vdif)の大きさを設定する。補正側の交流信号Vd2を遅れ位相に設定すると交流信号Vd1、Vd2の振幅は|Vd1|>|Vd2|となるが、差電圧Vdif=10mV程度では|Vd2|=|Vd1|に再調整する必要はない。なお検出側の交流信号Vd1に対して補正側の交流信号Vd2側を進み位相にするには検出側の抵抗分圧器15を構成する抵抗R16と並列にコンデンサC17の半分程度の静電容量を追加するなどしておく。
【0031】
ここでは、分圧比と増幅率との好適な設定例を示す。例えば、発振器117の出力電圧が0.3Vp−p、および抵抗分圧器15と抵抗分圧器兼位相差ゼロ点調整要素16との分圧比が共に11:1である場合、アンプ117Aおよび117Bの電圧利得は33倍、差動増幅器17Cの差動電圧利得は100倍に設定するとよい。差動電圧利得を100倍としているのは、アンプ17A,17Bの出力である交流信号Vd1、Vd2の差電圧Vdifが非常に小さくなるため、その振幅を大きくしてコンパレータ18Aを正常動作させるためである。ただし、上記の設定値は、誘導電荷を検出するセンサー素子として動作する可変容量素子116A、116Bに所定の電界効果トランジスタを用いた場合に適した設定であり、選定するセンサー素子によって適宜変更する必要がある。
【0032】
図7および
図8は、位相差検出部118の動作を説明する波形図を示す。
図7および
図8の(A)〜(F)には、
図2に示した位相差検出部118の各ノードの出力電圧の波形を示している。
図7および
図8の(G)には、交流信号Vd1の波形図の一部分Xを拡大して示している。ここでは、コンパレータ18A、18Bの極性は逆転している。
これらの波形図に示すように、一対のアンプ17A,17Bは、一方の可変容量素子116Aの容量の周期的な変化によって生成された交流信号と、他方の可変容量素子116Bの容量の周期的な変化によって生成された交流信号とを増幅して出力する(
図7、
図8の交流信号Vd1,Vd2)。差動増幅器17Cはアンプ17A,17Bから交流信号Vd1、Vd2を入力して差電圧Vdifを出力する。差電圧Vdifは、交流信号Vd1、Vd2の振幅と位相が完全に一致するとゼロになる。一方、交流信号Vd1、Vd2の振幅と位相の一方又は両方が異なれば差電圧Vdifは交流信号Vd1、Vd2と同じ周波数の交流信号となる。
【0033】
交流信号Vd1、Vd2の位相差φが小さくほぼ固定である場合、交流信号Vd1、Vd2の微小な振幅差Δの変化は、差電圧Vdifと交流信号Vd2との位相差θの大きな変化となって表れる。すなわち、差電圧Vdifは、交流信号Vd1、Vd2の微小な振幅差Δの変化が、位相の変化に拡大変換された信号となる。
図7では振幅差Δが小さいときを表わし、
図8では振幅差Δが大きいときを表わしている。振幅差Δの変化は、
図7および
図8のグラフ上で目視できない程度に非常に小さいが、
図7の振幅差Δが小さいときには位相差θは90度に近くなり、
図8の振幅差Δが大きいときには位相差θは0度に近くなる。この動作原理については後で詳細に説明する。
【0034】
コンパレータ18Aは差動増幅器17Cから出力された差電圧Vdifを基準電圧と比較して二値レベルの信号Vcdifを出力する。コンパレータ18Bは、交流信号Vd2を基準電圧と比較して二値レベルの信号Vc2を出力する。ロジック回路19は、これらの信号Vcdif,Vc2を入力とし、
図2の真理値表に示す論理演算を行って、その結果を示す2値レベルの信号Vxlgを出力する。
【0035】
ここで得られた出力信号Vxlgのデューティ比は、差電圧Vdifと交流信号Vd2との位相差θを反映した値となる。
図7および
図8の例では、出力信号Vxlgのデューティ比は位相差θに反比例した値となるが、出力信号Vxlgの極性を変えることでデューティ比を位相差θに比例した値とすることもできる。
図2の回路は、第1検出用電極121Aの誘導電荷が位相差φよりも振幅差Δに反映されるような電荷量の範囲において使用される。さらに、素子定数の最適化により、位相差φはゼロより大きいが、非常に小さい値に設定される。このような使用範囲と初期設定により、第1検出用電極121Aの誘導電荷の変化に応じて振幅差Δが僅かに変化すると、この微小な振幅差Δの変化が位相差θの大きな変化に拡大変換されて、出力信号Vxlgのデューティ比を連続的に変える。出力信号Vxlgは、RC一次低域通過フィルタ21によりデューティ比に比例した直流電圧Voutに変換されて、判定部130に出力される。
【0036】
なお、交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δが、大きく変化する領域を使えるのであれば、差電圧Vdifの振幅を検出して、第1検出用電極121Aの誘導電荷量を検出すればよい。これにより、充電部の充電状態(例えば電線路の停電/活線)を検出することができる。しかしながら、直流電圧を非接触で検電する場合、交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δの変化が小さく、振幅差Δの変化を直接に検出しにくい状況になるため、上述のように振幅差Δの変化を位相差θの大きな変化に拡大変換している。
【0037】
<回路の動作原理の説明>
ここで、
図2の回路の動作のうち、交流信号Vd1、Vd2の位相差φが小さくほぼ固定に設定されている場合に、交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δの微小な変化が、差電圧Vdifと交流信号Vd2との位相差θの大きな変化に拡大変換される動作原理について説明する。この説明は、静電容量変化型センサーを用いて物理量の変化を位相変化として出力する回路の性質についての説明でもあり、本原理は、ほぼ全ての静電容量変化型センサーを用いる回路に適用できるといってよい。以下では、可変容量素子116A、116Bのことを静電容量変化型センサーと呼んでいる。
【0038】
本実施形態では電界Eにより静電容量変化型センサー(116A、116B)が静電誘導され電荷qを蓄積する。この状態で、静電容量変化型センサー(116A、116B)を能動的に一定周波数f[Hz]で駆動することで交流信号Vd1、Vd2を得る。そして、交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δの変化を、差動増幅器17Cの出力である差電圧Vdif(=Vd1−Vd2)から拡大(増幅)された位相差θの変化として得る。
ここで、電界Eは検出対象の物理量である。また、静電容量変化型センサー(116A、116B)は一定周波数f[Hz]の交流電圧で能動的に駆動しているのでアクチュエータ、或いは静電式発電機と見なすこともできる。
【0039】
差動増幅器17Cで振幅差Δの変化が位相差θの変化に「拡大変換」されることは次のように説明される。
先ず、差動増幅器17Cの出力である差電圧Vdifは、次式(1)、(1b)のように表わすことができる。
【数1】
【0040】
ここで、
f:静電容量変化型センサーの駆動周波数[Hz]
π:円周率
t:時間[sec]
Vd2:補正側の交流信号[電圧]であり、振幅|Vd2|=1とする。
Vd1:検出側の交流信号[電圧]であり、振幅|Vd1|=1+Δとする。なお、Δは正の値にも負の値にもなるが、Δの増大といった場合には、絶対値|Δ|の増大を意味する。
Δ:検出側の交流信号Vd1の補正側の交流信号Vd2に対する振幅差
φ:検出側の交流信号Vd1の補正側の交流信号Vd2に対する位相差[rad]
Vdif:差動増幅器17Cの出力(差電圧)
A:差動増幅器17Cの電圧利得
α=2・π・f・t
β=φ
”・”(中黒):掛算記号
としている。
また、β=φ<<πであり、cosφ≒1、sinφ≒φと近似できるものとする。
【0041】
式(1b)の第2項”−sinφcos(2・π・f・t)”は、”sin(2・π・f・t)”に対してφ>0かφ<0で90度遅れ位相か進み位相の正弦波となることを表す。
回路はφ<<π[rad]の領域で動作するので、1+Δ−cosφ≒Δと見なしてもよく、これから差電圧Vdifは、次式(1c)のように表わすことができる。
【0042】
【数2】
φ=0つまり検出側の交流信号Vd1と補正側の交流信号Vd2の位相が完全に一致する場合において回路は機能しない。ただし、本実施形態のように静電容量変化型センサー(116A、116B)を用いる回路においては静電容量変化型センサーと抵抗との組み合わせが信号に遅延を及ぼして各信号経路の位相特性に影響を及ぼす。このため、物理量Eのゼロ点で完全に交流信号Vd1、Vd2が同一位相であっても物理量Eの変化によって静電容量変化型センサー(116A、116B)の静電容量に変化が起これば交流信号Vd1、Vd2の位相ずれは発生する。よって位相差φが完全にゼロになることは多く生じない。
【0043】
式(1b)、(1c)を見ると、検出側の交流信号Vd1と補正側の交流信号Vd2との振幅差Δがゼロであれば、差電圧Vdifは、”cos(2・π・f・t)”成分が優勢となることが分かる。よって、差電圧Vdifの位相は、交流信号Vd1、Vd2から90度異なる位相に近づく。なお、φ<<π[rad]の場合、sinφ≒φと見なしてもよいため、振幅差Δがゼロであれば、差電圧Vdifは位相差φに比例した小さな振幅となる。
一方、振幅差Δの増大に従い、次式(3)のように、式(1b)の各項の大小が決まる。
【数3】
この場合、式(1b)、(1c)は、sin(2・π・f・t)成分が優勢となるので、差電圧Vdifの位相は、交流信号Vd1、Vd2の位相に近づく。
【0044】
つまり差動増幅器17Cの出力(差電圧Vdif)の位相は、振幅差Δ=0のときから振幅差Δの増大にともない、+90度から0度の範囲、または0度から90度の範囲で変化する。このような回路の動作原理によって、交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δの微小な変化が、差電圧Vdifと交流信号Vd2との位相差θの大きな変化に拡大変換される。
【0045】
続いて、この回路の特性について説明する。
先ず、上記の式(1b)から、差電圧Vdifの位相差θと、検出側の交流信号Vd1の補正側の交流信号Vd2に対する振幅差Δとの関係式θ(Δ)を求める。
式(4−1)のように、同じ周波数ωのサイン波とコサイン波とが加算された信号Uは、同じ周波数ωの信号となり、その振幅|U|と位相δは、サイン波の係数Vとコサイン波の係数Wとから、次式(4−2)、(4−3)のように計算できる。
【数4】
【0046】
これを差電圧Vdifの式(1b)に当てはめれば、差電圧Vdifの振幅|Vdif|と位相δは、次式(5−1)、(5−2)のように求められる。
【数5】
【0047】
ここで、位相δは、コサイン波を基準波形とする極座標形式で表わした値を示している。本実施の形態では、信号波形のゼロクロス点を検出するため、位相差θ(Δ)は位相δからπ/2だけずらしてサイン波を基準波形とした表現とし、さらに、位相差の変化方向も
図7、8の波形図に合わせて逆向きに調整する。すると、位相差θ(Δ)は、次式(5-3)のように表わすことができ、差電圧Vdifは、次式(1d)のように表わすことができる。
【数6】
式(1d)、式(5−3)では、振幅差Δ=0のときに位相差θ(Δ)は90度となり、振幅差Δの増大に伴い位相差θ(Δ)は0度となり、
図7および
図8の波形と合致する。
【0048】
式(1b)からも分かるが式(5−3)から差動増幅器17Cの電圧利得Aは検出する位相差θに影響しないことがわかる。また、交流信号Vd1、Vd2の位相差φは一度設定したら固定したままなので定数となり、検出する位相差θは検出側電圧Vd1の振幅差Δだけの関数となる。
式(5−3)のアークタンジェントの括弧内は、式(1b)のサイン波成分と初期位相差φに依存するコサイン波成分との比を表している。式(5−3)から分かるように、初期設定の位相差φは小さいほど振幅差Δの変化が位相差θに大きく影響することが分かる。
【0049】
また、本回路は交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δと位相差φとが非常に小さな値となる領域で機能させるので、式(5−1)から分かるように、差動増幅器の出力(差電圧Vdif)の振幅|Vdif|も非常に小さくなる。このため、次段のコンパレータ18Aが所望の動作をしない場合も考慮すれば差動増幅器17Cの電圧利得Aは十分に大きな値に設定すべきと想定される。差動増幅器17Cの電圧利得Aは交流信号Vd1、Vd2の振幅差Δおよび位相差φに合わせて適宜に設定するとよい。特に静電容量変化型センサー(116A、116B)のゼロ点においては振幅差Δ=0に設定するので差動増幅器17Cの出力電圧の振幅|Vdif|がさらに小さくなることを考慮しなければならない。
【0050】
続いて、回路シミュレーションの結果と、理論式に基づく数値計算結果との比較を示す。
図9と
図10では、理論式に基づく結果として、差電圧Vdif(t,Δ)=0(ゼロクロス点)となる位相角θを、位相差φをパラメータとして振幅差Δの関数として描いている。回路シミュレーションの結果は、いわば実際に回路を組み立てての実験結果そのものに近く多くの場合ほぼ実験結果そのものになる。回路シミュレーションの振幅差Δはセンサーに加えた直流電圧であり、検出側の交流電圧Vd1の振幅差Δの変化を間接的に増大させる作用を持つ。一方、理論式の振幅差Δは検出側の交流電圧Vd1の振幅を直接増大させている点が異なる。
そこで、
図9と
図10の数値計算結果には、式(1b)、(1d)から得られる式(5−3)のθ(Δ)の代わりに、実際の回路に近づけた、補正式(1e)の計算結果を用いている。
【数7】
補正の詳細は次のごとくである。回路シミュレーションでは、差動増幅器17Cより前段の回路の影響と思われるが、位相差φが完全に固定とはならない。具体的には、交流信号Vd1の振幅差Δが0〜0.1の範囲で変化したときに、初期の位相差φ=0.5degが0.46degに減少(初期の8%減)していた。式(1e)では、このような位相差φの変化が反映されるように、位相差φを“φ+Δσ”と補正した。σは補正定数で、例えば−0.4degである。この補正によれば、振幅差Δが0〜0.1と変化すると、位相差φは”0.5+0×0.4”〜”0.5−0.1×0.4”となり、回路シミュレーションの実際の動作に近づく。なお、θ(Δ)は、式(1e)から前述の通り求めることができるので、詳細は省略する。
【0051】
先ず、
図9のグラフの説明を行う。
横軸Δは回路シミュレーションにおいて電極12Aに加えた電圧である。
図9のVxlgN[φ0.1deg]とVxlgN[φ0.5deg]のプロット線は、回路シミューレータで位相差φ=0.1度と0.5度の場合(パラメータ)をシミュレーションして得た結果であり、ロジック回路19の出力Vxlgの最大値(ロジックレベルH)を1に最小値(ロジックレベルL)を0に規格化して平均値をとった値である。この値は出力Vxlgの最大値の75%から約100%の間で変化している。これは出力Vxlgのデューティ比が75%から約100%に変化したことを表しているとともに位相差θ(Δ)が90度から0度までの間で変化したことを表している。
【0052】
θ(Δ)[φ0.1deg]とθ(Δ)[φ0.5deg]のプロット線は、それぞれ電圧利得A=1とし、φ=0.1度と0.5度とした場合に、式(1e)を用いて差電圧Vdifがゼロとなる点(ゼロクロス)の位相角をプロットしたシミュレーション結果であり、振幅差Δの変化に対する差動増幅器17Cの出力電圧の位相角の変化(位相差θ(Δ)の変化)を表す。
VdifN[φ0.5deg]のプロット線は、初期(あるいは設定)位相差φ=0.5度の場合で、振幅差Δに対する差電圧Vdifの変化Vdif(Δ)をVxlgNと同じく0〜1の範囲に規格化してプロットして示している。このプロット線は、比較のため振幅差Δをそのまま検出した場合の特性を表わしている。
【0053】
振幅差Δを直接検出する場合の特性線(VdifN[φ0.5deg]のプロット線)を見ると、振幅差Δ=0.003以下ではほとんど感度がなく、振幅差Δ=0.003〜0.01の領域で低い感度(勾配が緩い)が生じることがわかる。
それに対して、本実施の形態の回路の特性線であるVxlgN[φ0.1又は0.5deg]のプロット線を見ると、振幅差Δ=0.003以下の領域でも感度を有し(勾配を有する)、振幅差Δ=0.003〜0.01の領域では、VdifNのプロット線よりも高い感度が得られることが分かる。
本実施の形態の非接触型検電器のように、直流電圧を非接触で検電する場合、振幅差Δが0.003以下〜0.01(3mV以下〜10mVに相当)のような小さな値となる広い領域で感度が求められる。
図9から分かるように、本実施の形態の回路では、このような振幅差Δにおいて必要な感度が得られている。
【0054】
なお、
図9では、VxlgNのプロット線とθ(Δ)のプロット線とが一致していないように見える。これは、VxlgNのスケールを示す左縦軸と、θ(Δ)のスケールを示す右縦軸とが対応していないことに起因する。
図9では、回路シミュレーションのVxlgNの感度と、VdifNの感度との比較を行うため、VxlgNのプロット線を左縦軸のスケールで示していた。
【0055】
一方、
図10では、VxlgNとθ(Δ)とを比較できるように、VxlgNを右横軸の位相差のスケールで示している。先に述べたように、VxlgNの平均値が75%は位相差90度に対応し、100%は位相差0度に対応する。よって、VxlgNを位相角のスケールに変換すると、
図10に示されるように変換される。
図10のグラフから、位相差θ(Δ)の変化が、回路シミュレーションと理論式(1e)を用いた数値計算シミュレーションの特性において一致していて、理論式と回路の特性が一致していることが分かる。
本発明者が作成した理論式である式(1e)による数値計算は原理の確認程度になる。それは回路の全てを記述していないからであるが、
図10の比較結果を見る限り差動増幅器の動作を理論式に記述できている。
【0056】
続いて、
図1に戻って判定部130と出力部140について説明する。
判定部130は、AD変換器131と、判別器132とを備える。AD変換器131は、位相差検出部118の出力Voutを周期的にサンプリングして取り込む。判別器132は、位相差検出部118の出力信号Vxlgのデューティ比に基づく直流出力電圧Voutの大きさを判別し、静電アンテナ120の帯電の大きさを表わす判別信号(判定結果)を出力部140へ出力する。このような機能を有する判定部130は、AD変換回路を内蔵したシングルチップマイコンのような1個の半導体集積回路、あるいはAD変換ICや演算機能を有するマイクロプロセッサ、半導体メモリ(ROMやRAM)など複数の半導体集積回路によって構成することができる。本実施の形態においては出力電圧Voutは直流となる。よって、処理能力が要求される比較的高価なCPU(中央演算処理装置)が不要となり、例えば低価格な8〜12bitAD変換回路を内蔵したシングルチップマイコンを用いることが可能となる。よって、非接触型検電器100の部品コストを大幅に削減できる。
【0057】
出力部140は、複数のLED(発光ダイオード)ランプを用いて、判定部130の判定結果を複数レベルで表示する表示器141と、スピーカやブザーのような発音装置142と、表示器141と発音装置142とを駆動する駆動回路143等を備える。駆動回路143は、判別器132の判別信号により、静電アンテナ120の帯電の大きさに応じて表示レベルが変化するように表示器141を駆動する。また、駆動回路143は、判別信号が異常な値を示しているときに、アラーム音を出力するように発音装置142を駆動する。計測者は、表示器141の表示レベルを見て、充電部の充電状態を判断することができる。
【0058】
<静電アンテナ>
図11は、
図1の静電アンテナの構造を示す斜視図(A)と正面図(B)である。
静電アンテナ120は、2つの基板123A,123Bと、第1検出用電極121Aおよび第2検出用電極121Bと、検出回路110と電気的に接続されるコネクタ122とを備える。
基板123A,123Bは、共に長方形状の板面を有し、長手方向に見てV字状になるように、互いの長辺部が近接し、もう一方の長辺部がある他端側にかけて互いに離間するよう、固定具124によって連結されている。
第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとは、例えば長方形状の電極であり、基板123A,123B上にそれぞれ設けられている。
【0059】
コネクタ122は、基板123A,123Bの何れかの箇所に固定され、検出回路110に電気的に接続される。コネクタ122は、検出回路110の入力部(
図1のノッチフィルタ115の入力端子)を、導線122aを介して第1検出用電極121Aに導通させ、検出回路110の接地電位GND1を第2検出用電極121Bに導通させる。
ここで、検出対象の充電部として、陽極と陰極の一対の電線路31A,31Bが互いに離間して配置されていたとする(
図11(B)を参照)。このような場合、静電アンテナ120によれば、2本の電線路31A,31Bの間に挟まれるように第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとを配置することができる。電線路31A,31Bに直流電圧が印加されている場合、2本の電線路31A,31Bの間に比較的に大きな電界が生じるので、
図11(B)のような配置により、静電アンテナ120に大きな帯電を発生させることができる。よって、低圧の直流電圧が印加される電線路31A,31Bであっても、この直流電圧を高い感度で検出することができる。
【0060】
<第1変形例の静電アンテナ>
図12は、第1変形例の静電アンテナを示す斜視図(A)と正面図(B)である。
実施の形態の非接触型検電器100は、第1変形例の静電アンテナ220を備えていてもよい。静電アンテナ220は、2つの基板223A,223Bと、第1検出用電極221Aおよび第2検出用電極221Bと、検出回路110と電気的な接続を行うためのコネクタ222とを備える。
基板223A,223Bは、共に一部が屈曲した板形状をしており、一方の基板223Aの平板状の部分と、他方の基板223Bの平板状の部分とが、互いに離間して対向配置されるように固定具224によって連結されている。
【0061】
第1検出用電極221Aと第2検出用電極221Bとは、共に長方形状の電極であり、基板223A,223Bの互いに対向配置された平板状の部分にそれぞれ設けられている。
コネクタ222は、検出回路110の入力部(
図1のノッチフィルタ115の入力端子)を、第1検出用電極221Aに導通させ、検出回路110の接地電位GND1を第2検出用電極221Bに導通させる。
【0062】
ここで、検出対象の充電部として、陽極と陰極の一対の電線路31A,31Bが近接して配置されていたとする(
図12(B)を参照)。このような場合、静電アンテナ220によれば、第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとの間に2本の電線路31A,31Bを挟み込むように静電アンテナ220を配置することができる。このとき、2本の電線路31A,31Bは、第1検出用電極121Aおよび第2検出用電極121Bの長手方向に沿って延びる配置にできる。このような配置によって、2本の電線路31A,31Bの電界が第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとに作用して、第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとに検出可能な大きさの帯電を発生させることができる。これにより、低圧の直流電圧が印加される電線路31A,31Bであっても、この直流電圧を高い感度で検出することが可能となる。
【0063】
<第2変形例の静電アンテナ>
図13は、第2変形例の静電アンテナの第1形態を示す正面図(A)と第2形態を示す正面図(B)である。
図13(A),(B)は、静電アンテナ320を長手方向に見たときの図を示している。
実施の形態の非接触型検電器100は、第2変形例の静電アンテナ320を備えていてもよい。第2変形例の静電アンテナ320は、2つの基板323A,323Bと、第1検出用電極321Aおよび第2検出用電極321Bと、2つの基板323A,323Bを角度変更可能に連結するヒンジ324と、検出回路110と電気的に接続されるコネクタ322とを備える。
【0064】
2つの基板323A,323Bは、共に一部が屈曲した一方に長い板形状をしており、互いの長辺部がヒンジ324を介して連結されている。ヒンジ324を回動することで、
図13(A)に示す第1形態と、
図13(B)に示す第2形態とに変形可能である。
コネクタ322は、検出回路110の入力部(
図1のノッチフィルタ115の入力端子)を、第1検出用電極321Aに導通させ、検出回路110の接地電位GND1を第2検出用電極321Bに導通させる。
第1検出用電極321Aと第2検出用電極321Bとは、基板323A,323Bの屈曲した板面に沿って設けられ、共に第1平面形状部W1と第2平面形状部W2とを有する。
第1形態では、
図13(A)に示すように、第1検出用電極321Aの第1平面形状部W1と、第2検出用電極321Bの第1平面形状部W1とが、長手方向に見てV字状の配置となる。このような形態では、2本の電線路31A,31Bが離間して配置されている場合に、これらの間に第1検出用電極321Aと第2検出用電極321Bとを挿入するように配置できる。これにより、
図11(B)の場合と同様に、電線路31A,31Bの直流電圧の充電状態を高感度に検出することができる。
【0065】
第2形態では、
図13(B)に示すように、第1検出用電極321Aの第2平面形状部W2と第2検出用電極321Bの第2平面形状部W2とが互いに離間して対向した配置となる。このような形態では、2本の電線路31A,31Bが近接して配置されている場合に、第1検出用電極321Aの第2平面形状部W2と第2検出用電極321Bの第2平面形状部W2との間に電線路31A,31Bを挟み込むように静電アンテナ320を配置することができる。これにより、
図12(B)の場合と同様に、電線路31A,31Bの直流電圧の充電状態を高感度に検出することができる。
【0066】
以上のように、本実施の形態の非接触型検電器100によれば、静電アンテナ120に、検出回路110の入力部に導通される第1検出用電極121Aと、検出回路110の接地電位GND1と導通される第2検出用電極121Bとが設けられている。よって、検出対象の充電部(電線路など)とその陰極側の配線又は電極に対して、第1検出用電極121Aと第2検出用電極121Bとを適宜に配置することで、充電部に低圧の直流電圧が印加されていても、静電アンテナ120に比較的に大きな帯電を発生させることができる。よって、このような充電部を検出対象として、その充電状態を非接触に且つ高感度に検出することができる。
【0067】
また、本実施の形態の検出回路110によれば、可変容量素子116Aの容量を周期的に変更して、静電アンテナ120と可変容量素子116Aとが接続される第1伝送路に交流信号を生成するので、静電アンテナ120に生じた帯電状態が検出過程で薄まることを回避できる。よって、低圧の直流電圧が印加される充電部の充電状態を高感度に検出することができる。
さらに、直流阻止フィルタと可変容量素子116Bとが接続される第2伝送路の交流信号を基準に、第1伝送路の交流信号の位相差を判定に用いているので、回路の温度特性や手振れなどの外的要因による位相の変化をキャンセルして正確な判定を行うことができる。
【0068】
(第2実施の形態)
図14は、第2実施の形態の非接触型検電器の検出回路を示す構成である。
第2実施の形態は、
図14に示すように、可変容量素子116A,116Bの前段にそれぞれ別個にノッチフィルタ115A,115Bを設けるとともに、ノッチフィルタ115A,115Bと可変容量素子116A,116Bとの間にそれぞれ高抵抗値を有する抵抗器R4a,R4bを接続したものである。また、交流結合手段としての蓄電器(コンデンサ)119Cを、可変容量素子116Bの前段ではなく、ノッチフィルタ115Bの前段に設けている。また、ノッチフィルタ115A,115Bとして、
図6に示すような3個接続のものを使用する。それ以外は、
図1の検電器と同様である。蓄電器(コンデンサ)119Cの容量値としては、例えば2200pFのような値、また抵抗器R5の抵抗値としては、例えば30MΩのような値を採用できる。
【0069】
図14に示す検電器は、可変容量素子116Aおよび116Bの入力とノッチフィルタ115A,115Bとの間に、10MΩの抵抗器R4a,R4bを入れることで、ノッチフィルタ115A,115Bの3段目のフィルタの出力と可変容量素子116A,116B、さらには可変容量素子116A,116B相互間を交流的に分離している。そして、この抵抗器R4a,R4bと可変容量素子116A,116BとでRC一次低域通過濾波器を構成することで、変電所での6相および12相整流の脈流周波数や中波放送波の妨害を抑制する効果も持たせることができる。
また、2個のノッチフィルタ115A,115Bを用いることで可変容量素子116Aおよび116Bがノッチフィルタに及ぼす影響を軽減できる利点がある。
【0070】
さらに、手持ち揺らぎの影響を検出する可変容量素子116B側で直流に対する感度があると検電器としての感度が落ちるので、可変容量素子116B側の直流感度をなくさなければならない。
図14の例であれば蓄電器119Cと可変容量素子116Bとの接続点と回路内部の基準電位点との間に抵抗器R5が設けられ、直流感度をほぼゼロにする直流阻止フィルタ(RC一次高域通過フィルタ)が構成されている。
【0071】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られるものではない。例えば、上記実施の形態では、検出対象の充電部として陽極と陰極の一対の電線路を示し、このような電線路に適した静電アンテナの形態を示した。しかしながら、検出対象の充電部の形態が異なれば、それに適応させて静電アンテナの形態も様々に変更可能である。例えば、第1検出用電極と第2検出用電極とを互いに異なる大きさとしたり、非対称に配置してもよい。
また、上記実施の形態では、判定部が静電アンテナの帯電の大きさを表わす判別信号を出力する構成としているが、判定部は位相差検出部の検出結果を閾値と比較することで、充電部が直流電圧で充電されているか否かを判定する構成としてもよい。