特許第6981730号(P6981730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6981730
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】荷役車
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/22 20060101AFI20211206BHJP
   B66F 9/24 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   B66F9/22 X
   B66F9/24 W
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-163817(P2020-163817)
(22)【出願日】2020年9月29日
【審査請求日】2020年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】三菱ロジスネクスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 治和
(72)【発明者】
【氏名】樋口 真伍
【審査官】 加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−63072(JP,A)
【文献】 特開2013−139317(JP,A)
【文献】 特開2013−189291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/22
B66F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降対象を昇降させるための昇降体と、
作動油によって伸縮し、前記昇降体を昇降させる油圧シリンダと、
前記作動油を収容するタンクと、
前記油圧シリンダと前記タンクとの間に設けられた前記作動油の給排路と、
前記給排路に設けられ、開閉させられる切換弁と、
前記昇降体の昇降を指令する昇降指令部と、
下降指令に応じて前記切換弁を開放させる切換弁制御部と、
前記切換弁の下流に設けられ、前記昇降体を上昇させるとき正転させられ前記タンク内の前記作動油を前記油圧シリンダに供給し、前記昇降体が下降するとき反転させられるポンプと、
前記ポンプに連結され発生させたトルクを供給するモータと、
前記昇降対象の重量を検出する重量検出部と、
前記ポンプに供給され前記昇降体の位置を上昇させずに実質的に保持させる第1トルクを、前記昇降対象の重量に基づいて算出するトルク算出部と、
前記モータに電力を供給する電源と、
前記第1トルクを発生させる第1モータ供給電力を算出する電力算出部と、
前記下降指令がなされると、前記モータに供給される電力を第1モータ供給電力に制御する電力制御部と、を備える
ことを特徴とする荷役車。
【請求項2】
前記昇降体の下降速度を指令する下降速度指令部と、
前記昇降体を指令された下降速度で下降させるための前記モータの回転速度を決定する回転速度決定部と、
前記モータの回転速度を検出する回転速度検出部と、をさらに備え、
前記トルク算出部は、さらに、前記回転速度検出部によって検出された回転速度と、前記回転速度決定部によって決定された回転速度と、前記第1トルクとに基づいて、前記昇降体を指令された下降速度で下降させるための第2トルクを算出し、
前記電力算出部は、さらに、前記第2トルクを発生させる第2モータ供給電力を算出し、
前記電力制御部は、さらに、前記下降指令がなされてから所定の保持時間が経過すると、前記モータに供給される電力を前記第2モータ供給電力に制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の荷役車。
【請求項3】
前記トルク算出部は、前記決定された回転速度と、前記回転速度検出部によって検出された回転速度との速度偏差を算出し、前記速度偏差に比例ゲインを乗算して比例演算値を算出するとともに前記速度偏差に積分ゲインを乗算した後積分し積分演算値を算出し、かつ、前記比例演算値と前記積分演算値と前記第1トルクとを加算して前記第2トルクを算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の荷役車。
【請求項4】
前記電力制御部は、さらに、前記下降指令がなされてから所定の保持時間が経過するまで、前記モータに供給される電力を前記第1モータ供給電力に制御する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の荷役車。
【請求項5】
前記回転速度決定部は、前記下降指令がなされてから前記保持時間が経過するまで、前記モータの回転速度を前記モータが実質的に回転しない速度に制限し、
前記トルク算出部は、さらに、前記決定された回転速度と、前記回転速度検出部によって検出された回転速度とから前記第1トルクを補正する第3トルクを算出し、かつ、前記第3トルクを前記第1トルクに加算して第4トルクを算出し、
前記電力算出部は、さらに、前記第4トルクを発生させる第3モータ供給電力を算出し、
前記電力制御部は、さらに、前記下降指令がなされてから前記保持時間が経過するまで、前記モータに供給される電力を前記第3モータ供給電力に制御する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の荷役車。
【請求項6】
前記トルク算出部は、前記決定された回転速度と、前記回転速度検出部によって検出された回転速度との速度偏差を算出し、前記速度偏差に比例ゲインを乗算して比例演算値を算出するとともに前記速度偏差に積分ゲインを乗算した後積分し積分演算値を算出し、かつ、前記比例演算値と前記積分演算値とを加算して前記第3トルクを算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の荷役車。
【請求項7】
前記第3トルクの上限および下限が記憶された補正範囲記憶部をさらに備え、
前記トルク算出部は、さらに、前記算出した第3トルクが前記補正範囲記憶部に記憶された前記第3トルクの上限または下限を超えるとき、前記第3トルクを前記第3トルクの上限または下限に制限し前記第1トルクに加算して、前記第4トルクを算出する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の荷役車。
【請求項8】
前記昇降指令部および下降速度指令部を有し、荷役対象物およびユーザを乗せて昇降する運転台をさらに備え、
前記昇降対象には、前記ユーザもしくは前記荷役対象物またはその両方が含まれる
ことを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の荷役車。
【請求項9】
前記重量検出部は、前記油圧シリンダと前記切換弁と間の前記給排路に設けられ前記切換弁と前記油圧シリンダと間における前記給排路の油圧を検出する圧力センサを有する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の荷役車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降可能な荷役装置を備えた荷役車に関し、特に、油圧装置を備えた荷役車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フォークリフトといった荷役装置を備えた荷役車がある。例えば、特許文献1に記載の荷役車は、ピッキングリフトであって、図7に示すように、フォーク5cを有しユーザUが搭乗する運転台5(昇降体)と、運転台5を昇降させる荷役装置と、を備えている。この荷役装置は、リフトチェーン4を介して運転台5が連結され上下方向に平行に延びる一対のインナマストと、インナマストが連結され上下方向に平行に延びる一対のアウタマストと、伸縮して運転台5とともにインナマストを昇降させる左右一対の油圧シリンダ6と、油圧シリンダ6を伸縮させる油圧装置7と、を有する。
【0003】
図7に示すように、油圧装置7は、昇降指令部(レバー)5bと、作動油を収容するタンク70と、作動油の給排路71(71a、71b、71c)と、給排路71に設けられ開閉させられる切換弁72と、タンク70内の作動油を油圧シリンダ6に供給するポンプ74と、ポンプ74を駆動するモータ75と、昇降対象の重量を検出する圧力センサ(重量検出部)73と、を有する。また、荷役車は、油圧装置7を制御する制御部9を備える。制御部9は、モータ75に電力を供給する電力制御部を有する。制御部9は、ユーザUによるレバー5bの下降操作に基づいて切換弁72を開放させるとともに、レバー5bの下降操作量および昇降対象の重量に基づいてモータ75を速度制御し油圧シリンダ6を縮ませて運転台5を下降させる。
【0004】
ところで、この荷役車は、下降の際に切換弁72が開くと、切換弁72−油圧シリンダ6間の給排路71a内の油圧と、切換弁72−ポンプ74間の給排路71b内の油圧との油圧差から、作動油がタンク70に向かって急激に流れ、運転台5がずり下がるとともにずり下がりの際の衝撃が運転台5に発生する。そこで、従来、このずり下がりを防止するために、切換弁72を開放してから所定の間、モータ75を回転させて作動油を給排路71bに供給することにより、下降時における運転台5のずり下がりが防止されていた。
【0005】
図8は、従来の荷役装置の運転台5下降時におけるモータ75の回転速度を示すグラフである。モータ75の回転速度は、回転速度検出部によって検出され、実線Nfbで示されている。モータ75の回転速度指令値Nは、図8において一点鎖線で示されているように、従来、下降指令時T1から下降開始時T3まで正転方向に所定の値に設定されていた。そして、トルク指令値Tmは、昇降対象の重量にある程度応じた値に初期設定されて、モータ回転速度PI制御によって変動するよう構成されていた。すなわち、トルク指令値Tmは、モータ回転速度が回転速度指令値Nに近づくと減少し、モータ回転速度が回転速度指令値Nから遠ざかると増大するよう構成されていた。しかしながら、図8に示すように、運転台5は、モータ回転速度が切換弁72開放時T2から急激に加速することにより上昇し、上昇による衝撃が運転台5に発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−213954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、下降指令によって切換弁が開放されたときの昇降体のずり下がりを、昇降体の上昇なく防止することができる荷役車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る荷役車は、
昇降対象を昇降させるための昇降体と、
作動油によって伸縮し、昇降体を昇降させる油圧シリンダと、
作動油を収容するタンクと、
油圧シリンダとタンクとの間に設けられた作動油の給排路と、
給排路に設けられ、開閉させられる切換弁と、
昇降体の昇降を指令する昇降指令部と、
下降指令に応じて切換弁を開放させる切換弁制御部と、
切換弁の下流に設けられ、昇降体を上昇させるとき正転させられタンク内の作動油を油圧シリンダに供給し、昇降体が下降するとき反転させられるポンプと、
ポンプに連結され発生させたトルクを供給するモータと、
昇降対象の重量を検出する重量検出部と、
ポンプに供給され昇降体の位置を上昇させずに実質的に保持させる第1トルクを、昇降対象の重量に基づいて算出するトルク算出部と、
モータに電力を供給する電源と、
第1トルクを発生させる第1モータ供給電力を算出する電力算出部と、
下降指令がなされると、モータに供給される電力を第1モータ供給電力に制御する電力制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記荷役車は、好ましくは、
昇降体の下降速度を指令する下降速度指令部と、
昇降体を指令された下降速度で下降させるためのモータの回転速度を決定する回転速度決定部と、
モータの回転速度を検出する回転速度検出部と、をさらに備え、
トルク算出部が、さらに、回転速度検出部によって検出された回転速度と、回転速度決定部によって決定された回転速度と、第1トルクとに基づいて、昇降体を指令された下降速度で下降させるための第2トルクを算出し、
電力算出部が、さらに、第2トルクを発生させる第2モータ供給電力を算出し、
電力制御部が、さらに、下降指令がなされてから所定の保持時間が経過すると、モータに供給される電力を第2モータ供給電力に制御する。
【0010】
上記荷役車は、例えば、
トルク算出部が、決定された回転速度と、回転速度検出部によって検出された回転速度との速度偏差を算出し、速度偏差に比例ゲインを乗算して比例演算値を算出するとともに速度偏差に積分ゲインを乗算した後積分し積分演算値を算出し、かつ、比例演算値と積分演算値と第1トルクとを加算して第2トルクを算出する。
【0011】
上記荷役車は、好ましくは、
電力制御部が、さらに、下降指令がなされてから保持時間が経過するまで、モータに供給される電力を第1モータ供給電力に制御する。
【0012】
上記荷役車は、好ましくは、
回転速度決定部が、下降指令がなされてから保持時間が経過するまで、モータの回転速度をモータが実質的に回転しない速度に制限し、
トルク算出部が、さらに、決定された回転速度と、回転速度検出部によって検出された回転速度とから第1トルクを補正する第3トルクを算出し、かつ、第3トルクを第1トルクに加算して第4トルクを算出し、
電力算出部が、さらに、第4トルクを発生させる第3モータ供給電力を算出し、
電力制御部が、さらに、下降指令がなされてから保持時間が経過するまで、モータに供給される電力を第3モータ供給電力に制御する。
【0013】
上記荷役車は、例えば、
トルク算出部が、決定された回転速度と、回転速度検出部によって検出された回転速度との速度偏差を算出し、速度偏差に比例ゲインを乗算して比例演算値を算出するとともに速度偏差に積分ゲインを乗算した後積分し積分演算値を算出し、かつ、比例演算値と積分演算値とを加算して第3トルクを算出する。
【0014】
上記荷役車は、好ましくは、
第3トルクの上限および下限が記憶された補正範囲記憶部をさらに備え、
トルク算出部が、さらに、算出した第3トルクが補正範囲記憶部に記憶された第3トルクの上限または下限を超えるとき、第3トルクを第3トルクの上限または下限に制限し第1トルクに加算して、第4トルクを算出する。
【0015】
上記荷役車は、例えば、
昇降指令部および下降速度指令部を有し、荷役対象物およびユーザを乗せて昇降する運転台をさらに備え、
昇降対象には、ユーザもしくは荷役対象物またはその両方が含まれる。
【0016】
上記荷役車は、例えば、
重量検出部が、油圧シリンダと切換弁と間の給排路に設けられ切換弁と油圧シリンダと間における給排路の油圧を検出する圧力センサを有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る荷役車は、下降指令によって切換弁が開放されたときの昇降体のずり下がりを昇降体の上昇なく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る荷役車の概略全体図である。
図2】本発明の一実施形態に係る荷役車の油圧装置を示す全体図である。
図3図2に示された制御部の機能ブロック図である。
図4図2に示された荷役装置の運転台下降時におけるモータの回転速度を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態の変形例に係る荷役装置の運転台下降時におけるモータの回転速度を示すグラフである。
図6】本発明の一実施形態の変形例に係る制御部の機能ブロック図である。
図7】従来の荷役車の油圧装置を示す全体図である。
図8】従来の荷役車の荷役装置の下降時におけるモータの回転速度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る昇降装置について説明する。両矢印Xは水平方向を示し、両矢印Yは、上下方向を示す。
【0020】
図1に示すように、荷役車Pは、ピッキングリフトであって、本体部1と、本体部1に設けられた車輪2と、本体部1の前部に設けられた上下方向に平行に延びる左右一対のマスト3と、を備えている。左右一対のマスト3は、インナマスト30およびアウタマスト31をそれぞれ有する。
【0021】
荷役車Pは、さらに、リフトチェーン4(図2参照)を介してインナマスト30に連結された運転台5と、インナマスト30とともに運転台5を昇降させる左右一対の油圧シリンダ6と、油圧シリンダ6を油圧によって伸縮させる油圧装置7と、を備えている。
【0022】
運転台5は、ユーザUが搭乗する台座5aと、搭乗したユーザUの腰の高さに配置されたレバー5bと、左右一対のフォーク5cと、を有する。運転台5は、本発明の「昇降体」に相当する。
【0023】
レバー5bは、昇降指令を出力し、油圧シリンダ6を伸縮させて運転台5を昇降させる昇降指令部5bとしての機能を有する。また、レバー5bは、傾動可能であって、傾き角度に応じた下降速度指令を出力する下降速度指令部5bとしての機能も有する。
【0024】
フォーク5cは、運転台5から前方に水平に延在し、例えば、荷役用パレットのフォーク孔に挿入されるよう構成されている。
【0025】
荷役車Pは、運転台5を昇降させることにより、運転台5に搭乗するユーザUもしくはフォーク5cによって保持される荷役対象物またはその両方(以下、「昇降対象」という)を昇降させる。
【0026】
図2に示すように、油圧装置7は、作動油を収容するタンク70と、油圧シリンダ6とタンク70との間に設けられた作動油の給排路71(71a、71b、71c)と、給排路71に設けられ、昇降指令部5bの操作に基づいて開閉させられる切換弁72と、を有する。切換弁72は、本実施形態では、電磁弁であって、ユーザUによる昇降指令部5bの操作に応じて給排路71の開閉を切り換える。
【0027】
油圧装置7は、さらに、重量検出部73と、ポンプ74と、モータ75と、を有する。また、荷役車Pは、さらに、バッテリ8(電源)と、制御部9と、を備える。
【0028】
重量検出部73は、圧力センサを有する。圧力センサは、切換弁72と油圧シリンダ6と間の給排路71aに設けられており、切換弁72と油圧シリンダ6と間における給排路71aの油圧を検出する。切換弁72と油圧シリンダ6と間の油圧は、切換弁72が閉じられているとき、昇降対象の荷重に比例するので、重量検出部73は、圧力センサが検出した油圧に基づいて、昇降対象の重量を検出する。
【0029】
ポンプ74は、切換弁72の下流に設けられ、運転台5上昇時には、正転して作動油を油圧シリンダ6に送り、油圧によって油圧シリンダ6を作動させ、運転台5下降時には、油圧シリンダ6からタンク70に流れ込む作動油の流量を調整して下降速度を制御する。
【0030】
モータ75は、ポンプ74およびバッテリ8に連結されており、バッテリ8から供給される電力によって正転しトルクを発生する。発生させられたトルクは、ポンプ74に供給される。また、モータ75は、回生機能を有し、ポンプ74に連動して反転させられることにより発生した回生電力をバッテリ8に供給する。バッテリ8は、モータ75から供給された回生電力を蓄電する。
【0031】
図3に示すように、制御部9は、切換弁制御部90と、トルク算出部91と、電力算出部92と、電力制御部93と、を有する。
【0032】
切換弁制御部90は、昇降指令部5bから下降指令が出力されると、切換弁72を開放側に切り換える。下降指令がなされてから切換弁72が開放され始めるまでの時間は、切換弁72の仕様によって異なる。切換弁72の仕様には、切換弁72が開放指令を受けてから実際に開放し始めるまでの機械的な応答速度が含まれる。本実施形態では、切換弁72は、開放指令を受けてから100msec程度経過すると開放し始める。
【0033】
トルク算出部91は、昇降対象の重量に基づいて、ポンプ74に供給される第1トルクTを算出する。第1トルクTは、昇降体の位置を上昇させずに実質的に保持するためにポンプ74に供給されるトルクである。トルク算出部91は、例えば、次の式1によって第1トルクTを算出してもよい。
【0034】
(式1)中の各値の定義は、以下のとおりである。
:第1トルク[Nm]
p:油圧センサの計測値[Mpa]
q:ポンプ押しのけ容積[cm
ηm:機械効率
【0035】
電力算出部92は、トルク算出部91によって算出された第1トルクTを発生させる第1モータ供給電力を算出する。
【0036】
電力制御部93は、昇降指令部5bによって下降指令がなされると、所定の保持時間HTが経過するまで、モータ75に供給される電力を下降指令がなされたときの第1トルクTに基づいて算出された第1モータ供給電力に制御する。保持時間HTは、下降指令がなされてから油圧シリンダ6−切換弁72間の給排路71aおよび切換弁72−ポンプ74間の給排路71bの油圧が安定するまでの時間を考慮して、予め設定された時間である。また、保持時間HTは、切換弁72の仕様に基づき、切換弁72の応答遅れも考慮して設定されている。保持時間HTは、例えば、200msecでもよい。電力制御部93は、本実施形態では電流フィードバック制御によって第1モータ供給電力を制御するが、単なる一例であって、電力制御部93が第1モータ供給電力を制御する方法は、これに限定されない。
【0037】
これにより、制御部9は、モータ75によって発生させられるトルクが第1トルクTを超えないように制限する。このように、荷役車Pは、従来、下降指令がなされ切換弁72が開放されると、運転台5がずり下がっていたことを防止することができるとともに、第1トルクTを超えるトルクが発生しポンプ74が運転台5を上昇させることも防止することができる。したがって、運転台5に搭乗したユーザUは、下降の際に衝撃を受けることを防止される。
【0038】
制御部9は、さらに、回転速度決定部94と、回転速度検出部95と、を有する。
【0039】
回転速度決定部94は、昇降指令部5bによって出力された昇降体の下降速度指令に応じてモータ75の回転速度指令値Nを決定する。回転速度決定部94は、決定した回転速度指令値Nをトルク算出部91に出力する。
【0040】
回転速度検出部95は、モータ75に連結されており、モータ75のモータ回転速度フィードバック(以下、単に「モータ回転速度」という)Nfbを検出する。回転速度検出部95は、例えば、検出位置の単位時間あたりの変位量を演算するレゾルバといった公知の検出手段が用いられる。回転速度検出部95は、検出したモータ回転速度Nfbをトルク算出部91に出力する。
【0041】
トルク算出部91は、さらに、下降速度指令部5bによって指令された速度で運転台5を下降させるための第2トルクを算出する。トルク算出部91は、回転速度指令値Nと、モータ回転速度Nfbと、第1トルクTとに基づいて、第2トルクを算出する。
【0042】
トルク算出部91は、例えば、次の式2によって第2トルクを算出してもよい。
【0043】
(式2)中の各値の定義は、以下のとおりである。
Tm:運転台下降時のトルク指令値(第2トルク)[Nm]
△N:速度偏差(N*−Nfb)
:回転速度指令値[rpm]
Nfb:モータ回転速度フィードバック[rpm]
:速度PI制御比例ゲイン
:速度PI制御積分ゲイン
:第1トルク
【0044】
式2に示されているように、
(1)トルク算出部91は、回転速度指令値Nからモータ回転速度Nfbを減算して速度偏差△Nを算出するとともに、速度PI制御比例ゲインKを乗算し、比例演算値を算出する。
(2)また、トルク算出部91は、先程算出した速度偏差△Nに速度PI制御積分ゲインKを乗算した後積分し積分演算値を算出する。
(3)次いで、トルク算出部91は、比例演算値と、積分演算値と、第1トルクTとを加算し、第2トルクを算出する。すなわち、トルク算出部91は、第1トルクTをオフセットとして加算し第2トルクを算出する。
【0045】
このように、トルク算出部91は、第1トルクTをオフセットとして加算し、運転台5下降時のトルク指令値Tmを算出することにより、速度偏差△Nを従来よりも低く保つことが可能なトルク指令値Tmを随時算出することができる。
【0046】
電力算出部92は、トルク算出部91が算出した第2トルクを発生させる第2モータ供給電力を算出する。電力制御部93は、本実施形態では電流フィードバック制御によって第2モータ供給電力を制御するが、単なる一例であって、電力制御部93が第2モータ供給電力を制御する方法は、これに限定されない。
【0047】
図4は、昇降指令部5bから下降指令がなされたときの回転速度指令値N、モータ回転速度Nfb、トルク指令値Tmを概略的に示したグラフである。図4において、T1は下降指令時を示し、T2は切換弁72開放時を示し、T3は運転台下降開始時を示す。すなわち、T1−T3間は、保持時間HTを示している。右Y軸は、正転側の回転速度[rpm]を示し、−側はモータ75の反転を示している。すなわち、モータ回転速度Nfbが0より低いときには、運転台5が下降している状態を示している。
【0048】
図4に示すように、トルク指令値Tmは、T1−T3間において第1トルクTに設定されている。T1−T3間において、モータ回転速度Nfbは、モータ75が少し反転することを示している。ただし、電力制御部93が第1モータ供給電力を適切に制御しているので、第1モータ供給電力を超える電力がモータ75に供給され運転台5が上昇することが防止されている。
【0049】
図4に示すように、本実施形態に係る荷役車Pでは、トルク算出部91が第1トルクTをオフセットして下降開始時T3からのトルク指令値Tm(第2トルク)を算出しているので、図7に示された従来の荷役装置による速度偏差△Nよりも、速度偏差△Nが低くなっている。したがって、本実施形態に係る荷役車Pでは、運転台5下降時における速度偏差△Nが収束するまでの時間も短くなり、その結果、運転台5は、回転速度指令値Nにしたがって安定して下降することができる。
【0050】
以上、本発明に係る荷役車の一実施形態について説明してきたが、本発明に係る荷役車は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、以下の変形例によって実施されてもよい。
【0051】
荷役車Pは、運転台5を保持するための第1トルクTを回転速度検出部95によって検出されたモータ回転速度Nfbに基づいて補正してもよい。
【0052】
具体的には、この変形例では、回転速度決定部94は、保持時間HTが経過するまで、回転速度指令値Nをモータ75(すなわち、ポンプ74)が実質的に回転しない速度に制限する。ポンプ74が実質的に回転しない速度は、例えば、0rpmでもよい。トルク算出部91は、回転速度指令値Nと、回転速度検出部95によって検出されたモータ回転速度Nfbとから第1トルクTを補正する第3トルクを算出するとともに、第3トルクを第1トルクTに加算し第4トルクを算出する。第4トルクは、第1トルクTを補正して算出されたトルクであって、運転台5の上昇を防止するとともに運転台5をさらに安定して保持するためのトルク指令値Tmである。電力算出部92は、第4トルクを発生させる第3モータ供給電力を算出する。
【0053】
トルク算出部91は、上述の式2によって第4トルクを算出してもよい。すなわち、トルク算出部91は、回転速度指令値N(例えば、「0」)と、回転速度検出部95によって検出されたモータ回転速度Nfbとの速度偏差△Nを算出し、速度偏差△Nに比例ゲインKを乗算して比例演算値を算出するとともに速度偏差△Nに積分ゲインKを乗算した後積分し積分演算値を算出し、かつ、比例演算値と積分演算値とを加算して第3トルクを算出し、第3トルクを第1トルクTに加算して第4トルクを算出してもよい。電力制御部93は、T1−T3間において、バッテリ8からモータ75に供給される電力を第3モータ供給電力に制御する。
【0054】
この変形例では、運転台5保持時および運転台5下降時において比例ゲインKと積分ゲインKを同じ定数とした場合、運転台5保持時および運転台5下降時におけるトルク指令値Tmは、運転台5保持時および運転台5下降時においても同様の式2によって算出されることになる。したがって、下降指令後における運転台5保持から運転台5下降までシームレスな制御になるので、図5に示すように、モータ回転速度は、下降開始時T3の前後において回転速度指令値Nにさらに追従するので、運転台5は、回転速度指令値Nにしたがってさらに安定して下降し始めることができる。
【0055】
また、この場合、制御部9は、図6に示すように、運転台5の位置を保持させるために第1トルクTを補正する第3トルクの上限および下限が記憶された補正範囲記憶部96をさらに有してもよい。第3トルクの上限および下限は、第1トルクTを補正トルクの加算によって補正しても、運転台5が上昇することがないように設定される。第3トルクの範囲は、例えば、モータ75の回転速度を±数10rpm補正する範囲で設定されてもよい。トルク算出部91は、算出した第3トルクが補正範囲記憶部96に記憶された第3トルクの上限または下限を超えるとき、第3トルクを第3トルクの上限または下限に制限し第1トルクに加算して、第4トルクを算出する。これにより、荷役車Pは、第4トルクによって運転台5が上昇することを防止する。
【符号の説明】
【0056】
P 荷役車(ピッキングリフト)
U ユーザ(昇降対象)
1 本体部
2 車輪
3 マスト
30 インナマスト
31 アウタマスト
4 リフトチェーン
5 運転台(昇降体)
5a 台座
5b レバー(昇降指令部、下降速度指令部)
5c フォーク
6 油圧シリンダ
7 油圧装置
70 タンク
71 給排路
72 切換弁
73 重量検出部
74 ポンプ
75 モータ
8 バッテリ(電源)
9 制御部
90 切換弁制御部
91 トルク算出部
92 電力算出部
93 電力制御部
94 回転速度決定部
95 回転速度検出部
96 補正範囲記憶部
【要約】
【課題】下降指令によって切換弁が開放されたときの昇降体のずり下がりを昇降体の上昇なく防止することができる荷役車を提供する。
【解決手段】荷役車は、昇降対象を昇降させるための昇降体と、昇降体を昇降させる油圧装置と、昇降対象の重量を検出する重量検出部73と、油圧装置を制御する制御部9と、を備える。制御部9は、トルク算出部91と、電力算出部92と、電力制御部93と、を備える。トルク算出部91は、昇降対象の重量に基づいて、昇降体の位置を上昇させずに実質的に保持させる第1トルクを算出する。電力算出部92は、第1トルクを発生させる第1モータ供給電力を算出する。電力制御部93は、昇降指令部5bによって下降指令がなされると、モータに供給される電力を第1モータ供給電力に制御する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8