特許第6981731号(P6981731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6981731
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】構造物及び構造物形成方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/12 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   E04H1/12 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-145933(P2021-145933)
(22)【出願日】2021年9月8日
【審査請求日】2021年9月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521396581
【氏名又は名称】北川 啓介
(74)【代理人】
【識別番号】100143111
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100189876
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 将晴
(72)【発明者】
【氏名】北川 啓介
【審査官】 伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6832035(JP,B1)
【文献】 特開2009−257080(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3163605(JP,U)
【文献】 特開2013−253401(JP,A)
【文献】 特開昭61−216622(JP,A)
【文献】 Лесной купол адвоката Егорова Bushcraft dome of twigs and stretch film,youtube,2015年10月23日,https://www.youtube.com/watch?v=D2a6mqYubZ4,特に,4分30秒〜5分50秒
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/00 − 1/14
E04H 15/12
A01G 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、表皮体とからなり、六面体をなす構造物において、
前記軸体が、前記六面体の少なくとも4つの稜線部に、垂直且つ平行に並ぶように、一体に結合されて配され、
自己付着性を有するストレッチフィルムが、垂直に配された4つの前記軸体を一連に囲み、前記六面体の周りを水平に一周する周面と、前記軸体を水平とさせた状態の六面体において、前記軸体を水平状態とさせる前の前記六面体の天面と底面を含んだ前記六面体の周りを一周する周面との、前記六面体の3軸方向のうちの、少なくとも2軸方向の周面に、夫々連続して巻き回されて、前記表皮体をなし、
前記六面体の全ての周面が、自己付着性により一体化された前記ストレッチフィルムに囲まれている、
ことを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記ストレッチフィルムが、前記六面体の3軸方向の全ての周面に巻き回されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記六面体の3軸方向の周面のうち、少なくとも一つの方向の周面に、前記ストレッチフィルムが複層に巻きまわされて、複層をなす内層と外層の間に補助部材が配され、
前記補助部材が、前記六面体の内部を不可視とする物である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記六面体の大きさが、人を内部に収容させる大きさとされ、
前記軸体の長さが、前記軸体を直立させた状態で、前記軸体の先端に人の手が届く長さとされ、
前記六面体の接地面から所定の高さが、隙間なく前記ストレッチフィルムで巻かれている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項5】
前記軸体の先方側又は基方側をなす前記六面体の面のうちの少なくとも一方の前記面が、前記軸体の方向に対して傾斜された傾斜面とされている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項6】
前記傾斜面を天面とし、底面から最も近い傾斜面の位置の下方に、
天面から垂れる雨水を貯留させる貯水手段を備えている、
ことを特徴とする請求項5に記載の構造物。
【請求項7】
前記軸体と前記ストレッチフィルムのうち、少なくとも前記ストレッチフィルムが生分解性素材からなっている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項8】
軸体とストレッチフィルムとからなる構造物形成方法において、
複数の軸体を、六面体の少なくとも4つの稜線部に平行に並ぶように、一体に結合させて配設し、枠体を組み立てる第1工程と、
前記六面体の3軸方向のうち、前記4つの稜線部に平行に並んだ軸体を一連に囲んだ前記六面体を一周する周面に、自己付着性を有するストレッチフィルムを巻き回す第2工程と、
前記枠体を横倒させる第3工程と、
更に、横倒させた枠体がなす六面体のうち開放面となっている向い合う一対の周面を含んだ前記六面体を一周する周面に、自己付着性を有するストレッチフィルムを巻き回す第4工程と、を含み、
前記六面体の全ての周面が前記ストレッチフィルムに囲まれている構造物を形成させる、
ことを特徴とする構造物形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己付着性を有するストレッチフィルムにより周囲が囲まれた六面体をなす構造物及び構造物形成方法に関する。詳細には、少なくとも4つの稜線部に軸体が平行に並んだ六面体において、少なくとも軸体の周囲方向と、直交する方向とにストレッチフィルムが巻き回されている構造物に関する。
【0002】
より詳細には、六面体の大きさが、人を収容できる大きさであり、ストレッチフィルムが生分解性素材からなり、自己付着作用により一体化されている構造物であり、更には接地面から所定の高さは外部との貫通孔がない構造物及び構造物形成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、2020年末時点において、全世界人口の1%は、紛争等により故郷を追われた難民であるといわれている。こうした難民又は災害等により一時的な滞在場所を必要とする人に、簡易、安価且つ早く構築できる雨風が凌げる構造物が必要とされている。
【0004】
また、石油資源の大量消費に伴う温暖化ガスの発生により異常気象が頻繁に発生すると共に、プラスチック廃材が微細化されたマイクロプラスチックにより、海洋生物の生息環境が悪化している。本発明は、持続化可能社会を実現しつつ、多くの一時的な滞在場所を必要とする人々に、雨露が凌げる構造物を少しでも簡易に、安価且つ早く提供することを目的としてなされた。
【0005】
特許文献1には、本願の発明者による、簡単に且つ早く構築できる構造物に関する技術が開示されている。この技術は、ナイロン等の樹脂材料のシートからなる薄膜体の内面に、ウレタン樹脂やスチロール樹脂の発泡材を吹き付けて一体化させた構造体である。具体的には、予め薄膜体の内部を加圧して膨らんだ状態とし、その内面にウレタン樹脂等を発泡・吹付けて硬化させた殻体である。
【0006】
この発明によれば、簡単に且つ早く構造体としての殻体が形成できるが、石油を原材料とする発泡樹脂剤は、殻体を廃棄した後に石油系素材に戻すには手間がかかり、石油系素材に戻して再利用するようにしなければ、長期間に亘って分解されず、自然界に樹脂系の残存物を発生させるという課題があった。
【0007】
特許文献2には、建設現場での実際の使用に耐え得る、柔軟性や強度についても良好な特性を有するとする生分解性シートの技術が開示されている。この技術によれば、建設現場でのシートの取り扱い性を良好にすべく、その弾性率が低くされている。弾性率が低く伸縮性がないために、シート同士を重ね合わせても、ファンデルワールス力による密着作用、静電気結合による密着作用、減圧吸着作用等による自己付着作用がえられにくいという課題があった。
【0008】
非特許文献1には、四角錐形状に木軸材を組み立てて、その外周に沿って水平に、ストレッチフィルムを下方から上方に至るように巻きまわして、屋根を設けたキャンプテントの技術が開示されている。この技術によれば、キャンプの後はストレッチフィルムを取り外して持ち帰れば、現地にストレッチフィルムのゴミは残さないが、別の場所でのストレッチフィルムの廃棄処理は必要であった。
【0009】
土に接する底面についてはストレッチフィルムを張ることができないため、テント内で腰かけて過ごすか、又は、水に濡れないようにするために、地面から上げた床を形成させる必要があるという課題があった。構造物の周囲に水溜まりができるような降雨時には、テント内に水が浸水することを防止することができないという課題があった。
【0010】
非特許文献2には、土に掘立て孔を掘り、その孔に木軸柱を立てて、複数の木軸柱の頂部に木軸梁を紐で結び付け、六面体をなす枠体の天面に屋根としてのテント材を載せて、木軸柱の周囲にストレッチフィルムを水平に巻き回して、下方から天面までを包んでテントとした技術が開示されている。この技術によっても、壁の周囲に防水処置をしておかなければ、水溜まりができるような降雨時には、テント内に雨水が浸水するという課題があった。
【0011】
一方、持続可能な社会の実現に向けて、樹脂系のごみを発生させないため、各種の生分解性プラスチックが開発されている。生分解性プラスチックとは、トウモロコシ等の再生可能な植物資源を原料とし、使用中は石油樹脂系プラスチックと同様に使えると共に、廃棄した際には自然界の微生物によって大部分が水と炭酸ガスに分解されるプラスチックをいう。
【0012】
本願の発明者は、生分解性プラスチックを使ったストレッチフィルムでも自己付着作用があり、それを活用して、構造物の全周囲を覆うことに想到した。まず、軸材が六面体の各辺部をなす枠体を組み立てておいて、その枠体を横倒しする工程を経て、枠体の外周面に順に3方向にストレッチフィルムを水平に巻き回して、一体化された構造物とすることにした。
【0013】
まず、ストレッチフィルムを水平方向に巻き回して、ストレッチフィルムの自己付着作用により、一体化された外壁面を形成させる。更に、その枠体を横倒させた状態の外壁面の位置に、ストレッチフィルムを水平方向に巻き回せば、枠体の外面に一体化された天井・壁・床を形成させられることを見出し本願に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2018−168606号
【特許文献2】特開2007−224115号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】https://www.youtube.com/watch?v=b-vZmfmeNbY&t=236s
【非特許文献2】https://www.youtube.com/watch?v=CcajKRmEWn8&t=184s
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、ロール状に巻かれて取り扱いが容易なストレッチフィルムと、構造物を構築する場所で容易に入手できる軸体とから、容易、安価且つ早く構築できる、雨風から凌ぐことができる大きさの人の収容空間をなす構造物及びその構造物形成方法を提供することを課題とした。
【0017】
具体的には、予め六面体をなす枠体を組み立てておき、その外周の一方向に自己付着性を有するストレッチフィルムを巻き回してから枠体を横倒させて、前記と異なる方向の外周にストレッチフィルムを巻き回すことを繰り返し、外周面全体にストレッチフィルムを一体化させた表皮体を構成させることを特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の発明は、軸体と、表皮体とからなり、六面体をなす構造物において、前記軸体が、前記六面体の少なくとも4つの稜線部に、垂直且つ平行に並ぶように、一体に結合されて配され、自己付着性を有するストレッチフィルムが、垂直に配された4つの前記軸体を一連に囲み、前記六面体の周りを水平に一周する周面と、前記軸体を水平とさせた状態の六面体において、前記軸体を水平状態とさせる前の前記六面体の天面と底面を含んだ前記六面体の周りを一周する周面との、前記六面体の3軸方向のうちの、少なくとも2軸方向の周面に、夫々連続して巻き回されて、前記表皮体をなし、前記六面体の全ての周面が、自己付着性により一体化された前記ストレッチフィルムに囲まれていることを特徴としている。
【0019】
軸体は六面体の稜線部の全てに配設されてもよく、側面視「ロ」字形状の枠を、中央で交差させて4つの稜線部に軸体が平行に並ぶように配設させてもよく、軸体が構成された枠体の形状・構成は限定されない。軸体の材質は、間伐材による軸体や樹木の小枝、廃棄した後には、大部分が水と炭酸ガスに分解される生分解性を有する素材が好適であるが、生分解性素材が入手困難な地域では、構築場所で入手できる、金属軸体、樹脂軸体等の筋状に伸びる素材等であってもよい。
【0020】
ストレッチフィルムは、主として冷蔵食材を保存するために、厚さ6μmから15μm、幅30cmから1m、長さ50mから1000mのものまでの各種が、ロール状の形態で流通している。その材質は、主として低密度ポリエチレンからなる樹脂フィルムであり、フィルム同士又はフィルムと平滑な食器とが、フィルムの自己付着性により付着・剥離可能な素材とされている。
【0021】
ストレッチフィルムは、自己付着性を有し、ロール状の形態とされたストレッチフィルムであればよく、トウモロコシ等の植物由来のデンプンを素材とした生分解性素材からなるのが好適であるが、石油系素材の樹脂フィルムであってもよく、素材は限定されない。ストレッチフィルムが、6面体の向い合う三対の面のうち、少なくとも二対の向い合う面に、夫々連続して巻き回されればよく、巻き回す回数も限定されず、幅が広いストレッチフィルムの方が、フィルムを巻く周回数が少ないのは勿論であり、作業が早くより簡易に構築でき好適である。
【0022】
軸体の周囲がなす一対の面と、軸体に沿った方向をなす二対の向い合う面の、六面体の全ての面にストレッチフィルムが巻き回されれば好適であるが、少なくとも六面体の二方向に、ストレッチフィルムが表皮体として巻き回されれば、表皮体により六面体の内側空間と外とを区画することができる。表皮体がストレッチフィルムであるため、カッター等により出入口、換気孔等を容易に形成することができる。
【0023】
第1の発明によれば、少ない種類の材料により全周囲が囲まれた簡易な構造物とされており、空気孔、出入口等の加工も容易であり、脚立等の建設機材を必要としないで、容易、安価且つ早く、人を収容させる収容体が提供できるという従来技術にはない有利な効果を奏する。特に、感染症の蔓延期において、緊急患者用の収容体とするに好適である。
【0024】
本発明の第2の発明は、第1の発明の構造体において、前記ストレッチフィルムが、前記六面体の3軸方向の全ての周面に巻き回されていることを特徴としている。第2の発明によれば、六面体の全ての周面に、交差するように少なくとも2回ずつストレッチフィルムが巻き回される。ストレッチフィルムが異なる方向に重ねて巻かれているため、構造物の表皮体に隙間が空きにくく、強度に優れ、破断しにくいという効果を奏する。
【0025】
本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明の構造体において、前記六面体の3軸方向の周面のうち、少なくとも一つの方向の周面に、前記ストレッチフィルムが複層に巻きまわされて、複層をなす内層と外層の間に補助部材が配され、前記補助部材が、前記六面体の内部を不可視とする物であることを特徴としている。
【0026】
補助部材の素材は、生分解性の素材であることが好適であるが限定されない。大きさ・形状は、例えばスキー板等を包装する長尺の袋体が好適であるが限定されず、ゴミ袋、買い物袋の大きさ・形状であってもよい。隙間をあけて袋体を並べれば、補助部材がない部分を採光部とすることができる。
【0027】
内層のストレッチフィルムを巻き回した後に、長尺の形態とした袋体を屋根面から周囲に垂らして、外周にストレッチフィルムを巻き回してもよく、下方から順に、袋体をストレッチフィルムに挟み込みながら、外周にストレッチフィルムを巻き回してもよい。
【0028】
第3の発明によれば、補助部材により、外から構造物の内部を見えなくすることもでき、断熱性・防音性も付与することができ、人の収容体としての快適性が増すと共に、プライバシーを保持することができるようになる。
【0029】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明の構造体において、前記六面体の大きさが、人を内部に収容させる大きさとされ、前記軸体の長さが、前記軸体を直立させた状態で、前記軸体の先端に人の手が届く長さとされ、前記六面体の接地面から所定の高さが、隙間なく前記ストレッチフィルムで巻かれていることを特徴としている。
【0030】
軸体の長さが、その先端に人の手が届く長さである、約1.8mから2.0mとされれば、軸体の周囲にストレッチフィルムを巻く作業が可能且つ容易であるだけでなく、一人の作業員で作業する場合でも、脚立等の建設機材を使わないでもよい。所定の高さとは、人が容易に跨ぐことができる高さであればよい。
【0031】
また、水が溜まりにくい深さの、例えば約20cmの高さを所定の高さに設定し、3つの方向ともにストレッチフィルムを隙間なく巻いた状態としておけば、外部を流れる雨水が浸入することがない。第4の発明によれば、足場や脚立等がなくても、人を収容できると共に水が浸入しない収容体が、容易、安価且つ早く提供されるという効果を奏する。
【0032】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明の構造体において、前記軸体の先方側又は基方側をなす前記六面体の面のうちの少なくとも一方の前記面が、前記軸体の方向に対して傾斜された傾斜面とされていることを特徴としている。
【0033】
第5の発明では、少なくとも一つの面が傾斜面とされている。傾斜面を天面とすれば、構造体を屋外に設置しても、屋根面が傾斜されているため、雨水が屋根面に沿って下方に排水される。降雨時に天面に雨水が溜まって、ストレッチフィルムが垂れ下がり大きな荷重がかかることがなく、屋外においても長期的な使用に耐えるという効果を奏する。
【0034】
本発明の第6の発明は、第5の発明の構造体において、前記傾斜面を天面とし、底面から最も近い傾斜面の位置の下方に、天面から垂れる雨水を貯留させる貯水手段を備えていることを特徴としている。第6の発明では、最も低い傾斜面の位置の下方に、貯水手段が設けられているため、水道施設がない場所においても、人が使う仮設構造物として機能される。
【0035】
貯水手段は、木軸で形成された桝の外面にストレッチフィルムを張ったものが好適であるが限定されず、現地で入手できる水槽や、凹部をなすように土を盛り上げる等して桝とし、その表面にストレッチフィルムを張ったものであってもよい。降雨が少ない時期、地域においても、雨水を水資源として有効に活用することができ、人の生活維持に寄与するという効果を奏する。
【0036】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明の構造体において、前記軸体と前記ストレッチフィルムのうち、少なくとも前記ストレッチフィルムが生分解性素材からなっていることを特徴としている。第7の発明では、ストレッチフィルムが生分解性素材であることにより、現地において構造物を廃棄する場合でも、地球環境を害する負荷を増加させず、持続可能化及びマイクロプラスチックの抑制に寄与するという効果を奏する。
【0037】
本発明の第8の発明は、軸体とストレッチフィルムとからなる構造物形成方法において、複数の軸体を、六面体の少なくとも4つの稜線部に平行に並ぶように、一体に結合させて配設し、枠体を組み立てる第1工程と、前記六面体の3軸方向のうち、前記4つの稜線部に平行に並んだ軸体を一連に囲んだ前記六面体を一周する周面に、自己付着性を有するストレッチフィルムを巻き回す第2工程と、前記枠体を横倒させる第3工程と、更に、横倒させた枠体がなす六面体のうち開放面となっている向い合う一対の周面を含んだ前記六面体を一周する周面に、自己付着性を有するストレッチフィルムを巻き回す第4工程と、を含み、前記六面体の全ての周面が前記ストレッチフィルムに囲まれている構造物を形成させることを特徴としている。
【0038】
まず、第1工程で六面体をなす4つの軸体が平行に並ぶように枠体を組み立てる。第2工程としては、2種類の方法を選択することができる。第1の方法としては、枠体の周りに、水平にストレッチフィルムを連続して巻き回す方法である。第2の方法としては、水平に広く一体にして敷き並べたストレッチフィルムの上を枠体を転がすようにして、連続して巻き回す方法である。
【0039】
第1の方法によれば、天面と底面とが開放された面となっているため、第3の工程で、枠体を横倒しして、天面と底面を側面の位置にして、第4の工程で天面と底面と2つの側面とに、水平にストレッチフィルムを巻き回せばよい。第2の方法によれば、枠体を転がした進行方向の両側面が、開放された面となる。そこで、第3の工程で、天面が開放された面となるように、枠体を横倒させて、第4の工程で、水平に広く一体にして敷き並べたストレッチフィルムの上を、天面と底面と2つの側面とにストレッチフィルムが巻き回されるように枠体を転がせばよい。
【0040】
第4工程において、4つの面に巻き回されたストレッチフィルムは、第2工程において巻き回されたストレッチフィルムが巻かれた面と、ストレッチフィルムがまかれていない面に、交互に巻き回される。更に、横倒させて、繰り返してストレッチフィルムを巻き回してもよいことは勿論のことである。
【0041】
第8の発明によれば、六面体を横倒させて、六面体の水平方向にストレッチフィルムを巻き回していくため、全周囲にストレッチフィルムを巻き回すことが容易であり、足場や建設機材を必要としないで、容易、安価且つ早く、人を収容させる収容体が提供できるという従来技術にはない有利な効果を奏する。
【発明の効果】
【0042】
・本発明の第1の発明によれば、空気孔、出入口等の加工も容易であり、建設機材を必要としないで、容易、安価且つ早く、人を収容させる収容体が提供できるという従来技術にはない有利な効果を奏する。
・第2の発明によれば、ストレッチフィルムが異なる方向に重ねて巻かれているため、構造物の表皮体に隙間が空きにくく、強度に優れ、破断しにくいという効果を奏する。
・第3の発明によれば、外から構造物の内部を見えなくすることもでき、断熱性・防音性も付与することができ、人を収容する収容体の快適性が増すと共に、プライバシーを保持することができるようになる。
・第4の発明によれば、足場や脚立等がなくても、人を収容できると共に水が浸入しない収容体が、容易、安価且つ早く提供されるという効果を奏する。
【0043】
・第5の発明によれば、傾斜面を天面とすれば、降雨時に天面に雨水が溜まって、大きな荷重がかかることがなく、屋外においても長期的な使用に耐えるという効果を奏する。
・第6の発明によれば、降雨が少ない時期、地域においても、水資源を有効に活用することができ、人の生活維持に寄与するという効果を奏する。
・第7の発明によれば、構造物を廃棄するときにも、地球環境を害する負荷を増加させず、持続可能化及びマイクロプラスチックの抑制に寄与するという効果を奏する。
・第8の発明によれば、全周囲にストレッチフィルムを巻き回すことが容易であり、足場や建設機材を必要としないで、容易、安価且つ早く、人を収容させる収容体が提供できるという従来技術にはない有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】ストレッチフィルムの巻き回し方法の説明図(実施例1)。
図2】ストレッチフィルムの巻き回し方向の説明図(実施例1)。
図3】構造物形成工程の説明図(実施例1)。
図4】補助部材の添着と出入口を形成の説明図(実施例1)。
図5】補助部材と出入口の断面図(実施例1)。
図6】屋根を傾斜した構造体(実施例2)。
図7】側面視「ロ」字の枠による構造体(実施例3)。
図8】3連構造体の平面図(実施例4)。
図9】4連構造体の説明図(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0045】
実施例1では、人を収容する立方体をなす構造体1を、六面体をなす軸体10と自己付着性を有するストレッチフィルム20とから構成させた。図1はストレッチフィルム20を巻き回す方法を示し、図2はストレッチフィルムの巻き回し方向を示し、図3は構造物形成工程を示している。図4は補助部材の添着と出入口の形成方法を示し、図5は補助部材と出入口の断面を示している。
【0046】
図1を参照して、軸体10にストレッチフィルム20を巻き回す作業を説明する。実施例1の構造体1は、立方体の稜線をなす位置に木軸が配され、端部が結合され一体化されている。端部の結合は、釘打ちされてもよく、紐で結束されてもよい。軸体10が一体化され、枠体として自立された状態で、ロール状とされたストレッチフィルム20が、枠体の周りに、作業員が枠体の周囲を移動しながら、水平に下方から上方に(図1白抜き矢印参照)連続して巻き回される。
【0047】
ストレッチフィルム20の幅は限定されず、ストレッチフィルム20が、側縁を約5cm重ね合わせた状態で巻き回されると、重ね合わせた部分がストレッチフィルム20の自己付着性により付着され、側面全体に一体化された表皮体が形成される。
【0048】
ここで、図2を参照して、ストレッチフィルム20を巻き回す3軸方向について説明する。図2実線で示された軸体30からなる立方体を直立させた状態とし、水平面方向をなす一つの方向(図2実線A矢印参照)と、水平面に交差する六面体をなす二つの方向(図2破線B矢印,一点鎖線C矢印参照)とにストレッチフィルムが巻き回される。
【0049】
A矢印方向は必須とされ、B矢印方向とC矢印方向については、少なくともいずれかが選択されればよい。交差するA矢印,B矢印,C矢印の全ての方向に、ストレッチフィルム20(図1参照)を巻き回せば、立方体の全ての面にストレッチフィルムが2回ずつ巻き回され、ストレッチフィルムが交差され、重ね合わされた状態となり、表皮体が強度に優れ、破断しにくくなる。
【0050】
更に、重ね合わせの回数が増えると、重ね合わされるストレッチフィルムの皺により内部が透視しにくくなると共に、より強度に優れ、より破断しにくくなる。なお、立方体をなす軸体の端部を、別の端部と斜めに紐40,40・・で結束し(図2破線参照)、変形防止手段とすれば、枠体を横倒させるときにも、枠体が変形しにくく、横倒させる作業が容易である。
【0051】
図3を参照して、枠体に、ストレッチフィルム20を2方向に巻き回す2つの方法を説明する。まず、第1の工程として、予め軸体により、立方体の枠体を組んでおくことは、2つの方法において共通している。第1の方法の第2の工程は、直立させた枠体に水平にストレッチフィルム20を、下方から上方に連続して、側縁部を重ねるようにして巻き進める(図3(A)図参照)。
【0052】
そして開放されていた天面50と底面51が側方になるように、B方向に横倒させ(図2破線B矢印、図3(B)図B矢印参照)、側面に位置された天面50と底面51とを覆うように、前記と同様にストレッチフィルムを巻き進める(図3(C)図参照)。この状態で、ストレッチフィルム20に平行に巻き回された面と面との接線部分52は、ストレッチフィルム20が重なっていない隣り合った状態とされるが、二つの面に被るように、接線部分52にストレッチフィルムを重ねれば(図を省略している)、立方体の内部空間と外とを完全に区画することができる。
【0053】
同一形状の枠体に、ストレッチフィルム20を巻き回す第2の方法を、図3(D)図を参照して簡単に説明する。予めストレッチフィルム20を側端縁を重ねるように長く敷いておいて、その上を枠体を転がすようにして(図3D矢印参照)、枠体の周りにストレッチフィルムを巻き回す。そして、ストレッチフィルムが巻かれていない面が上になるように横倒させて、長く敷いたストレッチフィルムの上を、同様に転がすようにしてストレッチフィルムを6面体の全周囲に巻き回す。
【0054】
図4図5を参照して、ストレッチフィルム20の外面に補助部材を添着させると共に出入口65を形成させた構造体を説明する。補助部材は、長尺をなす袋体61に、生分解性の素材、例えば木の葉を詰めたものが好適である。長尺の袋体が準備できない場合には、入手が容易なごみ袋、買い物袋62等の角隅部63を縛って連結させた長尺としてもよい。
【0055】
ストレッチフィルム20を巻き、直立させた構造体の外面に、出入口65をなす部分の両脇に、縦方向に切開するための隙間64をあけて、屋根面から袋体をぶら下げ、又は直立させるように並べてから(図4(A)図参照)、水平にストレッチフィルム20を下方から上方に巻き回していく(図4(B)図参照)。全体にストレッチフィルムを巻き回した状態で、出入口65をなす部分の両脇66を切開する(図4(C)図参照)。
【0056】
図5を参照して、出入口と連結させた袋体について説明する。図5(A)図は、図4(B)図のA−A位置の断面図を示している。図5(B)図は、買い物袋62等の角隅部を縛った状態を示し、図4(A)図のB部分の詳細図を示している。切開させた出入口65の両脇66は、切開部から内層と外層との間に挟み込んだ補助部材が脱落しないように切開した端部に、内層と外層のストレッチフィルムの端部を折り曲げて、その外面にストレッチフィルム21を付着させている(図5(A)図参照)。
【0057】
図5(B)図は、下方の買い物袋の手掛け部分67と、上方の買い物袋の下隅部分68とを縛り合わせた状態を示している。買物袋を縛り合わせても下方の買い物袋の投入口69は開放されたままである。この投入口69から生分解性をなす物が投入されてから投入口が閉じられる。生分解性をなす物が投入されてから構造体に垂れ下げられてもよく、構造体に垂れ下げてから生分解性をなす物が投入されてもよいことは勿論のことである。
【実施例2】
【0058】
実施例2では、屋根面が傾斜面とされた構造体2を、図6を参照して簡単に説明する。図6は、屋根面が傾斜面71とされ、地面から最も近い位置の下方に貯水手段70が設けられた構造体2の概要を示している。雨天時には、屋外に設置された構造体の屋根面に降った雨水は、屋根面の傾斜に沿って伝わって、壁面を伝って貯水手段70をなす貯水槽に溜まる。貯水槽は、土を盛り上げた凹部に、ストレッチフィルムを張り込んで貯水槽とすればよい。
【実施例3】
【0059】
実施例3では、図7を参照して、側面視「ロ」字形状をなす枠80,80を交差させて、六面体をなす4つの稜線部に平行に軸体81を並ばせた構造体3を説明する。予め同一形状に構成させた2つの「ロ」字形状の枠80,80を、外方の枠は水平部分を外に反らせて、内方の枠は水平部分を内に反らせて、内方の枠を外方の枠の中に挿し込み、交差した水平部分を紐83等で結束させて枠体82とさせる(図7(A)図参照)。
【0060】
軸体81を垂直に立てた状態で、水平にストレッチフィルム20を下方から上方に(図7(B)図白抜矢印参照)巻き回し、側面を表皮体で塞ぐ(図7(B)図参照)。そして天面84と底面85が側方となるように横倒させてから、水平にストレッチフィルム20を下方から上方に(図7(C)図白抜矢印参照)連続して巻き回す。
【0061】
この工程では、直立させた稜線部分86(図7(A)図一点鎖線参照)に軸体がないため、ストレッチフィルム20が水平に巻き回され、稜線部分の中央部が緊張されて縮んだ状態となるため、構造体の形状は側面視で中央が窪んだ「鼓」の形状のようになる。この構造体の場合には、ストレッチフィルムを3方向に巻き回すことにより、稜線部の隙間が空いていない形態となり好適である。この構造体の場合には、軸体が交差していない面を床面とすると、人が滞在しやすい空間となる。
【実施例4】
【0062】
実施例4では、ストレッチフィルムを巻き回した立方体形状の構造体1を横方向に3つ連ねて、感染症の患者の応急収容施設とした構造体4を説明する。立方体形状の構造体1は、先に説明した実施例による。構造体4は、構造体1を3つ連ねて、その外周に水平に、ストレッチフィルム20を下方から上方に連続して巻き回している。ストレッチフィルム20が連続して巻き回されることにより、3つの構造体は一体化される。
【0063】
3つの構造体を一体化してから、中央の構造体の側面を切開して、人の出入口90をあけ、中央の構造体の内部から、両隣の構造体との間の壁部分の表皮体91を切開して切除する。3つの構造体の外周がストレッチフィルムで巻かれ一体にされているため、隣り合う部分の壁の表皮体91が切除されても、形状は安定した状態となっている。
【0064】
中央の構造体から人を出入りさせ、応急処置設備を備えさせ、両隣の構造体に感染症の感染者92を収容するようにすれば、簡易、安価且つ早く、応急処理施設を提供することができる。ストレッチフィルム等を生分解性の素材を使った構造体としておけば、廃棄の際にも自然環境に負荷を生じさせない。
【実施例5】
【0065】
実施例5では、ストレッチフィルムを巻き回した略立方体形状の構造体93を水平に4つ連ねて、大きな平面とした構造体5を、図9を参照して説明する。図9(A)図は平面図を示し、図9(B)図は断面図を示している。構造体5は、略立方体の構造体93を水平方向に縦・横方向に2つずつ連ね、その外周に水平に、ストレッチフィルムを下方から上方に連続して巻き回している。ストレッチフィルムが連続して巻き回されることにより、4つの構造体が一体化されている。
【0066】
構造体5は、平面において、中央部の軸体94と、隣り合った表皮体95とが切除されて、大きな空間とされている。構造体5をなす、個々の構造体93は中央部の軸体94を切除して撤去しても、屋根面が垂れ下がらないように、中央部の上方の重ね合わせ部を残存させるために、中央部の位置をなす軸体の長さが、他の3本の軸体よりも長くされている。
【0067】
4つの構造体の軸体の長さが長い部分を中央部として接しさせ、周囲をストレッチフィルムで巻いて4つの構造体93を一体化させておき、一つの構造体に出入口96をあけ、個々の構造体の隣り合った表皮体95を切除させて、4つの構造体が連なった広い空間とさせる。空間の内部において、周囲の壁の低い位置に合わせて中央部の軸体94を切除させる。
【0068】
そうすると、ストレッチフィルムの重ね合わせ部が一体化されたまま、垂れ壁状に残存するので、下方からストレッチフィルム97を重ね合わせるように張り合わせて、ストレッチフィルムの自己付着力により補強して一体化させれば、中央部が垂れ下がることがなく好適である。
【0069】
(その他)
・実施例に示した構造体は、単なる例示に過ぎず、難民が多い地区等においては、ロール状の生分解性ストレッチフィルムのみを現地に搬送して、現地で入手できる資材を軸体、補助部材とすればよい。
・実施例においては、幅が30cmから50cmの生分解性のストレッチフィルムを使った例を示したが、幅が広い生分解性のストレッチフィルムが開発されれば、それに応じて、巻き回し回数、作業手間が軽減されることは勿論のことである。また、重ね巻きの層数は限定されず、層数を多くすると、手間はかかるが、表皮体の強度が増すとともに、外部から内部が透視しにくくなり好適である。
・ストレッチフィルムが途切れた場合には、次のロール状のストレッチフィルムを巻き足せばよく、周囲に巻き回されるとは、通気用のスリットを空けて巻き回してもよいことは勿論のことである。
・今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記した説明に限られず特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等などの意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1,2,3,4,5…構造体、
10,30…軸体、20…ストレッチフィルム、40…紐、
50…天面、51…底面、52…接線部分、61…袋体、
62…買い物袋、63…角隅部、65…出入口、66…両脇、
67…手掛け部分、68…下隅部分、69…投入口、
70…貯水手段、71…傾斜面、
80…枠、81…軸体、83…紐、84…天面、85…底面、86…稜線部分、
90…出入口、91…表皮体、92…感染者、
93…構造体、94…軸体、95…表皮体、96…出入口、97…ストレッチフィルム
【要約】      (修正有)
【課題】ストレッチフィルムと、構造物を構築する場所で容易に入手できる軸体とから、容易、安価且つ早く構築できる、人の収容空間の周囲全体が囲まれ、人が雨風から凌ぐことができる構造物及びその構造物形成方法を提供する。
【解決手段】予め六面体をなす枠体を組み立てておき、その外周の少なくとも2方向に、取り扱いが容易であると共に自己付着性を有するストレッチフィルム20を巻き回して表皮体をなし、外周をなす表皮体がストレッチフィルム20により囲まれ、一体となった構造体1とした。また、ストレッチフィルム20を巻き回す工程の一つとして、枠体を横倒させる工程を含め、建設機材を必要としないで、容易、安価且つ早く枠体の全周囲にストレッチフィルム20の表皮体が一体に形成できる構造物形成方法とした。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9