特許第6981739号(P6981739)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981739
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/06 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   F16H25/06 A
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-153111(P2016-153111)
(22)【出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2018-21604(P2018-21604A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月29日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】井木 泰介
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 孝志
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特表平6−508674(JP,A)
【文献】 特開2008−174213(JP,A)
【文献】 特表平2−503709(JP,A)
【文献】 特開昭60−205058(JP,A)
【文献】 特開2016−35325(JP,A)
【文献】 特開2009−185956(JP,A)
【文献】 特開平11−278084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のボール係合溝が形成された入力板を有する入力側回転部材と、この入力側回転部材の回転軸と同軸に配置され、第2のボール係合溝が形成された出力板を有する出力側回転部材と、軸方向に対向する前記入力板および前記出力板の両ボール係合溝に係合する複数のボールと、このボールを半径方向に移動可能に保持する複数のポケットを有する保持器とを備え、第1のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸中心に対して所定量だけ偏心し、第2のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸中心上に配設され、かつ、前記保持器が回転不能に設けられ、前記両ボール係合溝に係合する前記ボールを介して前記入力側回転部材の回転が減速されて前記出力側回転部材に伝達される減速装置において、
前記出力側回転部材の第2のボール係合溝の軌道中心線が波状曲線となって、第2のボール係合溝が、入力板の回転角に対して出力板の回転角が常時変速比との関係を保って回転する波状溝であり、当該波状曲線は、前記出力側回転部材の軸心と前記軌道中心線との距離が基準ピッチ円半径(PCR)に対して連続的に増減変動することにより、前記入力側回転部材の任意の回転角(θ)に対して前記出力側回転部材が減速されて同期回転する状態を可能にし、
前記入力側回転部材の回転角をθとし、前記出力側回転部材の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、i=ψ/θとなり、前記入力側回転部材から出力側回転部材に減速された回転運動が同期回転で伝達され、かつ、第1のボール係合溝の溝形状と第2のボール係合溝の溝形状の少なくともいずれかがゴシックアーチ形状をなすことを特徴とする減速装置。
【請求項2】
入力板の第1のボール係合溝は、装置回転軸に対して所定量だけ偏心した中心を持つ円形溝であることを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
入力板の第1のボール係合溝は、装置回転軸に対して所定量だけ偏心した中心を持ち、ボールの数と同じ数の多角円筒形状とすることを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項4】
前記入力板は、入力軸である回転軸に形成された偏心部に軸受を介して回転自在に装着されて、第1のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸に対して所定量だけ偏心していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の減速装置。
【請求項5】
前記入力板の軸心は入力軸である回転軸の同心軸であって、第1のボール係合溝の曲率中心が入力板の軸心に対して所定量だけ偏心していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の減速装置。
【請求項6】
ボールの数をnとし、出力板の波状溝の極数をNとし、減速比をiとしたときに、i=(N−n)/Nとなることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の減速装置。
【請求項7】
前記第1のボール係合溝の偏心量をaとし、ポケットの中心のピッチ円半径をrとし、出力板の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、出力板の波状溝の中心軌跡が、減速機回転軸からの距離Rで表され、この距離Rが次の数1の数式を満たすことを特徴とする請求項2に記載の減速装置。
【数1】
【請求項8】
前記第1のボール係合溝の偏心量をaとし、ポケットの中心のピッチ円半径をrとし、出力板の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、出力板の波状溝の中心軌跡が、減速機回転軸からの距離Rで表され、この距離Rが次の数2の数式を満たすことを特徴とする請求項3に記載の減速装置。
【数2】
【請求項9】
入力板及び出力板を回転可能に収納するとともに保持板を固定するケースを備え、入力板が、入力軸の偏心部に軸受を介して外嵌され、出力板がケースに軸受を介して回転自在に枢支された出力軸と一体化されていることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれが1項に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボール係合溝を備えた入力側の第1の円板と、ボール係合溝を備えた出力側の第2の円板と、ボール係合溝に係合する複数のボールと、第1の円板と第2の円板との間に介在し、ボールを保持する保持器を備えた減速機は既に提案されている(例えば、特許文献1、2)。この形式の減速機は、小型で大きな減速比が得られるなどの点で優れている。
【0003】
特許文献1に提案された減速機は、平面の第1の基準円を一定のピッチで交錯する曲がりくねった第1の溝と前記平面の第2の基準円を一定のピッチで交錯する曲がりくねった第2の溝をそれぞれ備えた第1、第2の円板と、前記第1の円板と前記第2の円板は、第1、第2の保持器により、それぞれ保持された第1、第2の転動体を介して対向し、前記第1の保持器は固定され、前記第2の保持器は回転自在に支持されている。この減速機は、差動式であるため、大きな減速比を得ることができ、かつ小型の減速機が可能であると記載されている。
【0004】
特許文献2に提案された減速機は、ボールと係合し回転軸から一定距離偏心した円形のカム溝を有する駆動カムと、ボールと係合する花びら状のカム溝を備えた従動カムと、ボールを半径方向に移動可能に保持する溝部を有する保持器とを具備し、保持器を間に挟んで、その両側に駆動カムと従動カムとをそれぞれのカム溝を備えた面を対向させて、同一軸線周りに回転可能に連結し、ボールの動作を介して駆動カムの回転を減速して従動カムに伝達する。この減速装置は、小型で、比較的簡易な加工により低コストで製作され、減速機比6程度を得ることが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−168954号公報
【特許文献2】特開平5−203009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、使用用途によっては、減速機の高い回転精度や振動抑制などが望まれる。これに対して、減速機の入力側と出力側との間の回転運動の不等速性や、これに伴う、出力側の回転速度変動、振動発生などの高次元の問題に着目し、対応が必要であるという考えに至った。ところが、特許文献1、2に記載された減速機は、小型で大きな減速比が得られるなどの面では優れたものとされるが、上記のような入力側と出力側との間の回転運動の不等速性や、これに伴う、出力側の回転速度変動、振動発生の問題については着目されてなく、また、その他の文献でも、これまでに具体的な提案はなく、これに着目したのが本発明である。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑み、小型で高い減速比が得られ、かつ、出力側の回転速度変動や振動の抑制を可能にする減速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、入力側と出力側との間の減速回転運動に同期回転性が得られるボール係合溝を創出するという新たな着想により、本発明に至った。
【0009】
本発明の減速装置は、第1のボール係合溝が形成された入力板を有する入力側回転部材と、この入力側回転部材の回転軸と同軸に配置され、第2のボール係合溝が形成された出力板を有する出力側回転部材と、軸方向に対向する前記入力板および前記出力板の両ボール係合溝に係合する複数のボールと、このボールを半径方向に移動可能に保持する複数のポケットを有する保持器とを備え、第1のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸中心に対して所定量だけ偏心し、第2のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸中心上に配設され、かつ、前記保持器が回転不能に設けられ、前記両ボール係合溝に係合する前記ボールを介して前記入力側回転部材の回転が減速されて前記出力側回転部材に伝達される減速装置において、前記出力側回転部材の第2のボール係合溝の軌道中心線が波状曲線となって、第2のボール係合溝が、入力板の回転角に対して出力板の回転角が常時変速比との関係を保って回転する波状溝であり、当該波状曲線は、前記出力側回転部材の軸心と前記軌道中心線との距離が基準ピッチ円半径(PCR)に対して連続的に増減変動することにより、前記入力側回転部材の任意の回転角(θ)に対して前記出力側回転部材が減速されて同期回転する状態を可能にし、前記入力側回転部材の回転角をθとし、前記出力側回転部材の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、i=ψ/θとなり、前記入力側回転部材から出力側回転部材に減速された回転運動が同期回転で伝達され、かつ、第1のボール係合溝の溝形状と第2のボール係合溝の溝形状の少なくともいずれかがゴシックアーチ形状をなすものである。
【0010】
本発明によれば、常時、入力側と出力側とが常時同期回転する。しかも、このように構成するに、溝形状を決定すればよく、構成上複雑化を招くことがない。第1のボール係合溝の溝形状と第2のボール係合溝の溝形状の少なくともいずれかがゴシックアーチ形状をなすものであるので、この形状の溝においては、ボールを安定した位置に配置できる。
【0011】
入力板の第1のボール係合溝は、装置回転軸に対して所定量だけ偏心した中心を持つ円形溝であったり、装置回転軸に対して所定量だけ偏心した中心を持ち、ボールの数と同じ数の多角円筒形状としたりできる。特に、入力板の溝形状をボールの数と同じ数の多角円筒形状としたことによって、入力側と出力側の同期回転特性(等速性)の向上を図ることが可能となる。
【0012】
前記入力板は、入力軸である回転軸に形成された偏心部に軸受を介して回転自在に装着されて、第1のボール係合溝の曲率中心が装置回転軸に対して所定量だけ偏心しているものであっても、前記入力板の軸心は入力軸である回転軸の同心軸であって、第1のボール係合溝の曲率中心が入力板の軸心に対して所定量だけ偏心しているものであってもよい。このため、第1のボール係合溝の曲率中心が装置回転中心に対して所定量だけ偏心させる構成に設計の自由度が大となって、装置の設計性の向上を図ることができる。
【0013】
ボールの数をnとし、出力板の波状溝の極数をNとし、減速比をiとしたときに、i=(N−n)/Nとなる。このため、小型で高い減速比を得ることができる。
【0014】
第1のボール係合溝が円形溝である場合に、前記第1のボール係合溝の偏心量をaとし、ポケットの中心のピッチ円半径をrとし、出力板の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、出力板の波状溝の中心軌跡が、減速機回転軸からの距離Rで表され、この距離Rが次の数1の数式を満たすことになる。
【数1】
【0015】
また、第1のボール係合溝が多角円筒形状である場合に、前記第1のボール係合溝の偏心量をaとし、ポケットの中心のピッチ円半径をrとし、出力板の回転角をψとし、減速比をiとしたときに、出力板の波状溝の中心軌跡が、減速機回転軸からの距離Rで表され、この距離Rが次の数2の数式を満たすことになる。
【数2】
【0016】
この減速装置では、入力板と出力板との間に配設されるボールは、保持器のポケットによって拘束されて一方向(径方向)に移動できる。このため、回転軸の軸心とボール中心との距離Rを求め、この距離Rと入力板の回転角θとの関係を導くことによって、出力板の波状溝の基準曲線(軌道中心線)を求めることができる。
【0017】
入力板及び出力板を回転可能に収納するとともに保持器を固定するケースを備え、入力板が、入力軸の偏心部に軸受を介して外嵌され、出力板がケースに軸受を介して回転自在に枢支された出力軸と一体化されているものとできる。このように構成することによって、コンパクトな減速装置を形成できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、常時、入力側と出力側とが常時同期回転するので、出力側の回転速度変動や振動の少ない高品質の減速装置を提供できる。しかも、ゴシックアーチ形状をなす溝においては、ボールを安定した位置配置でき、同期回転特性(等速性)を高めることができる。このため、耐久性に優れたより高品質の変速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る減速装置の第1の実施形態を示す断面図である。
図2図1の要部を示す分解斜視図である。
図3図2の概要図である。
図4】(a)図は、図1のE−E線で矢視した入力板の側面図で、(b)図は、(a)図のG−G線における入力板の断面図である。
図5】(a)図は、図1のF−F線で矢視した出力板の側面図で、(b)図は、(a)図のH−H線における出力板の断面図である。
図6】(a)図は、図1のI−I線で矢視した保持器の側面図で、(b)図は、(a)図のJ部の拡大図である。
図7】出力板のボール係合溝とボールの配置状態を示す図である。
図8】ボール係合溝に対するボールの動きを示す図である。
図9】出力板のボール係合溝の基準曲線を導出する模式図である。
図10】本発明に係る減速装置の第2の実施形態を示す断面図である。
図11図10の要部を示す斜視図である。
図12図11の概要図である。
図13図10に示す減速装置の入力板を示し、(a)は側面図であり、(b)は(a)のC−C線断面図である。
図14図10に示す減速装置の出力板を示し、(a)は側面図であり、(b)は(a)のD−D線断面図である。
図15図10に示す減速装置の出力板のボール係合溝の基準曲線を導出する模式図である。
図16】入力板の回転角とボール1往復の軌跡との関係を示し、(a)は入力板の溝が円形状の場合のグラフ図であり、(b)は入力板の溝が多角円筒形状の場合のグラフ図である。
図17】自転規制機構を備えた減速装置の断面図である。
図18】前記図17に示す減速装置の要部拡大断面図である。
図19】前記図17に示す減速装置の入力板の入力側から見た要部簡略図である。
図20】前記図17に示す減速装置のケースの入力側の側壁の出力側から見た要部簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図9は本発明に係る減速装置の第1実施形態を示す。この減速装置1は、入力側回転部材2、出力側回転部材3、ボール4および保持器5を主な構成とし、ケース6(入力側の第1部材6aと出力側の第2部材6bとが組合わされてなるケース)内に組込まれている。
【0021】
図1に示すように、入力側回転部材2は、入力軸としての回転軸7、偏心カム8、転がり軸受9および入力板10(10A)からなる。回転軸7の外径面に偏心カム8が嵌合されている。偏心カム8の円筒形外径面8aの中心線O1は、回転軸7の軸心X1(すなわち、装置回転中心X)に対して偏心量aだけ半径方向に偏心している。このため、この偏心カム8にて、入力軸である回転軸7に偏心部が構成される。偏心カム8の円筒形外径面8aと入力板10Aの円筒形内径面10aとの間に転がり軸受9が装着され、入力板10Aは偏心カム8に回転自在に支持されている。偏心カム8の円筒形外径面8aの中心線O1は入力板10Aの中心線でもある。このため、回転軸7が回転すると入力板10Aは、回転軸7の軸心X1を中心に振れ回り半径aで公転運動を行う。回転軸7は、ケース6の第1部材6aの内径面21に装着された転がり軸受11および保持器5の内径面5aに装着された転がり軸受12によって回転自在に支持されている。
【0022】
図1図4(a)および図4(b)に示すように、入力板10Aの側面10bに第1のボール係合溝13が形成されている。図4(a)は、図1のE−E線で矢視した入力板10Aの側面図で、図4(b)は、図4(a)のG−G線における入力板10Aの断面図である。図4(a)、図4(b)では、入力板10Aの外径面の面取りや転がり軸受9が装着される内径面10a(図1参照)の図示を省略している。
【0023】
この第1のボール係合溝13Aは、その断面形状がいわゆるゴシックアーチ形状とされる。このため、図4(b)に示すように、ボール4は、入力板10Aのボール係合溝13Aと2点C12,C13でアンギュラコンタクトする。この場合、接触点C12,C13が成す角度である接触角としては、例えば、30°〜40°程度に設定できる。なお、図4(b)のハッチングは接触部を示している。
【0024】
図4(a)に示すように、第1のボール係合溝13の軌道中心線L1は半径rの円形に形成され、第1のボール係合溝13はトーラス面の一部からなる。軌道中心線L1の曲率中心は、偏心カム8の円筒形外径面8aおよび入力板10Aの中心線O1に位置する。曲率中心O1は回転軸7の軸心X1に対して偏心量aだけ偏心している。第1のボール係合溝13の軌道中心線L1上にボール4の中心Obが位置する。本明細書および特許請求の範囲において、第1のボール係合溝の軌道中心線とは、第1のボール係合溝13に沿ってボール4を移動させたときのボール4の中心Obの軌跡を意味する。
【0025】
図1に示すように、出力側回転部材3は出力板30(30A)と軸部31とからなり、出力板30Aと軸部31は一体に形成されている。軸部31は出力軸となる。出力側回転部材3は、ケース6bの内径面20に装着された転がり軸受14および保持器5の段部外径面5bに装着された転がり軸受15によって回転自在に支持されている。
【0026】
図1図5(a)および図5(b)に示すように、出力板30Aの側面28に第2のボール係合溝16Aが形成されている。図5(a)は、図1のF−F線で矢視した出力板30Aの側面図で、図5(b)は、図5(a)のH−H線における出力板30Aの断面図である。図5(a)、図5(b)では、出力板30Aの外径面の面取りや転がり軸受15が装着される内径面22(図1参照)の図示を省略している。
【0027】
この第2のボール係合溝16も、その断面形状がいわゆるゴシックアーチ形状とされる。このため、図5(b)に示すように、ボール4は、出力板30Aのボール係合溝16と2点C15,C16でアンギュラコンタクトする。この場合、接触点C15,C16が成す角度である接触角としては、例えば、30°〜40°程度に設定できる。なお、図5(b)のハッチングは接触部を示している。
【0028】
第2のボール係合溝16の軌道中心線L2は波状曲線で形成され、軸部31の軸心X2と軌道中心線L2と距離Rは、基準ピッチ円半径PCRに対して増減変動し、本実施形態では、軌道中心線L2の波状曲線には基準ピッチ円半径PCRより大きい距離Rを有する山部が10個、基準ピッチ円半径PCRより小さい距離Rを有する谷部が10個で形成されている。軸部31の軸心X2は回転軸7の軸心X1と同軸上に配置されている。第2のボール係合溝16の軌道中心線L2上にボール4の中心Obが位置する。
【0029】
本実施形態において、第2のボール係合溝の軌道中心線の波状曲線とは、半径PCRの基準ピッチ円に一定のピッチで交互に交差する曲線を意味する。また、第2のボール係合溝の軌道中心線とは、第2のボール係合溝16に沿ってボール4を移動させたときのボール4の中心Obの軌跡を意味する。第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の波状曲線の詳細は後述する。
【0030】
図1に示すように、入力板10Aと出力板30Aの軸方向に対向する側面10b、28間に保持器5が配置されている。保持器5にはボール4を保持するポケット17が設けられている。保持器5の外周側に貫通孔18が設けられ、この貫通孔18にピン19が嵌挿され、保持器5はケース6に回転不能に取り付けられている。これにより、保持器5は、入力側回転部材2の回転軸7に対して回転不能となる。この状態で、第2部材6bの貫通孔25、保持器5の貫通孔23に固定用ボルト24を嵌挿し、第1部材6aのねじ孔26に螺合させて第1部材6a、第2部材6bおよび保持器5が締結される。
【0031】
図1図6(a)および図6(b)に示すように、保持器5のポケット17は回転軸7の軸心X1を中心に径方向に放射状に延びる長穴で形成されている。図6(a)は、図1のI−I線で矢視した保持器の側面図で、図6(b)は、図6(a)のJ部の拡大図である。図6(a)、図6(b)では、図1における保持器5の外周側の貫通孔18、23や転がり軸受12を装着する内径面5aの図示を省略している。
【0032】
保持器5のポケット17の個数は、軌道中心線L2の波状曲線の山部又は谷部の個数(10個)より1個多い11個であり、ポケット17は周方向に等間隔に形成されている。各ポケット17にボール4が1個ずつ配置されている。各ポケット17が径方向に放射状に延びる長穴で形成されているので、各ポケット17内のボール4は、基準ピッチ円半径PCRに対して径方向外側および径方向内側に所定量mの範囲で移動することができる。保持器5は回転不能に設けられており、ボール4は、保持器5のポケット17により半径方向に移動可能に保持されている。
【0033】
この実施形態の減速装置1では、第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の山部の個数が10個(谷部の個数も同様に10個)で、ボール4の個数が11個であるので、減速比iは次式により求められ、減速比iは−1/10となる。
減速比i=(山部の個数−ボール個数)/山部の個数
【0034】
すなわち、出力板はN極/周の波状溝(1周当たりの山部の数N)を有し、出力板はボールがこの波状溝に沿って移動することによって回転駆動する。このため、減速比は、i=(N−n)/Nで表される。ここで、nはボールの数であり、Nは波状溝の極数である。ただし、ボール個数nは、N±1で構成されるため、減速比iは、i=−(±)/Nとなり、プラスの場合、入力板と出力板が同方向に回転し、マイナスの場合、入力板と出力板が逆方向に回転する。
【0035】
次に、図2および図3を参照して、入力板10A、保持器5、ボール4および出力板30Aの組合せ状態を説明する。図2は、図1の要部を示す斜視図で、図3は、図2のボールを保持器のポケットに配置させた状態の概要図である。図3では、図2における入力板10Aの外径面取り、軸受装着用内径面10a、保持器5の外径側貫通孔18、23、軸受装着用内径面5a、出力板30Aの軸受装着用内径面22、軸部31などの図示を省略している。
【0036】
入力側回転部材2の回転軸7の軸心X1と出力側回転部材3の軸心X2は同軸上に配置され、保持器5の軸心も軸心X1、X2と同軸上に配置されている。入力板10Aの第1のボール係合溝13の軌道中心線L1の曲率中心O1〔図4(a)参照〕は回転軸7の軸心X1に対して偏心量aだけ偏心している。換言すれば、入力板10Aの第1のボール係合溝13の軌道中心線L1の径方向の中心は回転軸7の軸心X1に対して偏心量aだけ偏心している。
【0037】
図2では、ボール4が出力板30Aの第2のボール係合溝16に係合した状態で示しているが、このボール4が保持器5のポケット17内に配置され、ポケット17から図面手前側にボール4が突出した状態となり、ボール4が入力板10Aの第1のボール係合溝13(図1参照)に係合する。すなわち、図3に示すように、保持器5のポケット17内のボール4の図面手前側が入力板10Aの第1のボール係合溝13(図1参照)に係合し、ボール4の図面奥側が出力板30Aの第2のボール係合溝16に係合する。
【0038】
この実施形態の減速装置1の全体構成は以上のとおりである。次に、入力側回転部材に対して出力側回転部材が減速されて同期回転するボール係合溝の詳細を図7図9に基づいて説明する。図7は出力板の第2のボール係合溝とボールの配置状態を示す図で、図8は、図7のK部を拡大して第2のボール係合溝に対するボールの動きを示す図で、図9は出力板の第2のボール係合溝の基準曲線を導出する模式図である。
【0039】
前述したように、保持器5は回転不能に設けられており、ボール4は、保持器5のポケット17により半径方向に移動可能に保持されている。図7に示すように、ボール4は、出力板30Aの第2のボール係合溝16に対して周方向に等角度の位置で係合する。本実施形態では、ボール4の個数を11個としたので、軸心X2と周方向に隣り合うボール4の中心Ob0、Ob’を結ぶ直線のなす角度をαとしたとき、α=360°/11となり、全ての隣り合うボール4の間の角度αは等角度となっている。
【0040】
入力側回転部材2に対して出力側回転部材3が減速されて同期回転する状態を図8に基づいて説明する。前述したように、入力側回転部材2および出力側回転部材3の回転に対して、保持器5は回転不能に構成されている。したがって、図8に実線で示すポケット17は周方向に移動しない。図8の水平方向の中心線は入力側回転部材2の回転軸7の回転角θが0°の位置を示す。ボール4は、ポケット17の中で径方向の最も外側に位置している。これは、入力板10Aの公転運動において、入力板10Aの回転軸7の軸心X1に対する振れ回り半径aが図8の水平方向の中心線上にあるため、入力板10Aの第1のボール係合溝13に係合するボール4がポケット17の中で径方向の最も外側に位置する。
【0041】
回転軸7が回転角θ1回転し、入力板10Aの振れ回り半径aの位置が回転角θ1の位置に移動するので、入力板10Aの第1のボール係合溝13に係合するボール4はポケット17内を径方向の内径側に移動し、ボール4の中心はOb1の位置になる。ボール4の中心がOb1の状態で、出力板30Aの第2のボール係合溝16にボール4が係合するため、換言すれば、ボール4の中心Ob1が第2のボール係合溝16の軌道中心線L2上に位置するために、出力板30Aが図8に示す回転角iθ1分回転することになる。続いて、回転軸7が回転角θ2、さらに回転角θ3、θ4と回転すると、上記と同様に、出力板30Aは回転角iθ2、iθ3、iθ4と回転することになる。これにより、入力側回転部材2から出力側回転部材3に減速(減速比i=−1/10)された回転運動が伝達される。
【0042】
この実施形態の減速装置1では、入力側回転部材2から出力側回転部材3に減速された上記回転運動が同期回転で伝達されることを特徴とする。これにより、高い回転精度や振動抑制を図ることができる。入力側回転部材2から出力側回転部材3に減速された回転運動が同期回転で伝達されるために、出力板30Aの第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の波状曲線の形状が設定されている。
【0043】
出力板30Aの第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の波状曲線の導出方法を図9に基づいて説明する。図9は第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の波状曲線を導出する模式図である。図9の水平方向の中心線は、図8の水平方向の中心線に対応し、入力側回転部材2の回転軸7の回転角θが0°の位置を示す。回転軸7の回転角θが0°のときの入力板10Aの第1のボール係合溝13の軌道中心線L10を破線で表記し、任意の回転角θのときの第1のボール係合溝13の軌道中心線L1θを実線で表記している。
【0044】
入力側回転部材2の回転軸7の軸心X1に対して、入力板10Aの第1のボール係合溝13の軌道中心線L1は半径rの円形で、その曲率中心O1は、偏心量aだけ偏心している。このため、回転角θが0°のときの軌道中心線L1の曲率中心はO10にあり、ボール4の中心はOb0で半径方向に最も外側に位置する。保持器5のポケット17により、ボール4は、線n1上に拘束され、半径方向に移動が可能である。そして、回転軸7が任意の回転角θになると、軌道中心線L1の曲率中心はO1θに移動し、ボール4の中心はObθに移動する。この位置にあるボール4が出力板30Aの第2のボール係合溝16に係合する。すなわち、ボール4の中心Obθが第2のボール係合溝16の軌道中心線L2(図8参照)上に位置する関係になる。この位置関係が、回転軸7の任意の回転角θに対して、常に出力板30Aの回転角がiθであることが回転軸7と出力板30Aの同期回転を成立させる。これに基づいて、回転軸7の軸心X1と第2のボール係合溝の軌道中心線L2との距離Rを幾何学的に求める。
【0045】
図9に示すように、回転軸7の軸心X1と第2のボール係合溝の軌道中心線L2との距離Rは次のように表される。
【数3】
【0046】
すなわち、図9からわかるように、以下の数4、数5、数6、数7、及び数8の数式が成り立つ。
【数4】
【0047】
【数5】
【0048】
【数6】
【0049】
【数7】
【0050】
【数8】
【0051】
ここで、この減速装置が同期回転するため、減速比i=ψ/θが成り立つ必要がある。このため、この数8から前記数3の数式を求めることができる。
【0052】
この実施形態の減速装置1の作動を要約して説明する。入力側回転部材2の回転軸7を回転させると、入力板10Aは、回転軸7の軸心X1の周りに公転運動する。その際、入力板10Aは、回転軸7に設けられた偏心カム8に対して回転自在であるので、入力板10Aは、自転運動はほとんど行わない。これにより、保持器のポケットやボール係合溝とボールとの間の相対的な摩擦量を低減し、入力側回転部材から出力側回転部材への伝達効率を向上させることができる。
【0053】
入力板10Aが公転運動を行うと、円形の軌道中心線L1からなる第1のボール係合溝13に係合する各ボール4が、回転不能に設けられた保持器5のポケット17に拘束され、それぞれ半径方向に移動する。
【0054】
各ボール4は、出力側回転部材3の出力板30Aの第2のボール係合溝16に係合しているので、各ボール4の半径方向の移動動作に対応して、図8に示すように、出力側回転部材3は、入力側回転部材2の回転軸7の回転が減速されて回転する。その際、出力板30Aの第2のボール係合溝16の軌道中心線L2の基準曲線が、図9で説明したように設定されているので、出力側回転部材3は回転軸7に対して減速された回転数で同期回転する。
【0055】
この実施形態の減速装置1の作動は以上のとおりであり、小型で高い減速比が得られ、かつ、出力側の回転速度変動や振動の抑制を可能にする減速装置を実現することができる。また、円形の軌道中心線からなる第1のボール係合溝と波状曲線の軌道中心線からなる第2のボール係合溝は、全体としてボール係合溝の形状を簡素化でき、製造の容易化、低コスト化を図ることができる。
【0056】
特に、第1のボール係合溝13A及び第2のボール係合溝16Aがゴシックアーチ形状であるので、ボールを安定した位置配置でき、同期回転特性(等速性)を高めることができる。このため、耐久性に優れてより高品質の変速装置を提供できる。
【0057】
次に図10図14は本発明の第2実施形態に係る第2の減速装置を示す。この減速装置の入力板10(10B)は、前記実施形態の減速装置の入力板10Aと相違して、図13(a)に示すように、多角円筒形状の第1ボール係合溝13Bを有するものである。また、この場合の出力板30(30B)は前記実施形態の減速装置の出力板30Bと同様、波形溝からなる第2ボール係合溝16Bを有するものである。
【0058】
この場合の入力板10Bの第1のボール係合溝13Bは、図13(b)に示すように、その断面形状がいわゆるゴシックアーチ形状とされる。このため、ボール4は、入力板10Bのボール係合溝13Bと2点C22,C23でアンギュラコンタクトする。この場合、接触点C22,C23が成す角度である接触角としては、例えば、30°〜40°程度に設定できる。なお、図13(b)のハッチングは接触部を示している。
【0059】
また、出力板30Bの第2のボール係合溝16Bは、図14(b)に示すように、その断面形状がいわゆるゴシックアーチ形状とされる。このため、ボール4は、出力板30Bのボール係合溝16Bと2点C25,C26でアンギュラコンタクトする。この場合、接触点C25,C26が成す角度である接触角としては、例えば、30°〜40°程度に設定できる。なお、図14(b)のハッチングは接触部を示している。
【0060】
この場合も、入力板10Bが偏心カム8に外嵌されるので、ボール係合溝13Bの中心は、回転軸の軸心に対して所定量aだけ偏心している。なお、図10図14の本発明に係る減速装置の他の構成は、前記実施形態と同様である。このため、この他の構成については、図1等で示す実施形態の減速装置と同一符号を付してそれらの説明を省略する。
【0061】
図15は第2のボール係合溝16Bの軌道中心線(基準曲線)の波状曲線を導出する模式図である。図15の水平方向の中心線は、図8の水平方向の中心線に対応し、入力側回転部材2の回転軸7の回転角θが0°の位置を示す。回転軸7の回転角θが0°のときの入力板10Bの第1のボール係合溝13Bの軌道中心線L30を破線で表記し、任意の回転角θのときの第1のボール係合溝13Bの軌道中心線L3θを実線で表記している。
【0062】
入力側回転部材2の回転軸7の軸心X1に対して、入力板10Bの第1のボール係合溝13Bの軌道中心線L3は多角形で、その中心O3は、偏心量aだけ偏心している。このため、回転角θが0°のときの軌道中心線L3の曲率中心はO30にあり、ボール4の中心はOb0で半径方向に最も外側に位置する。保持器5のポケット17により、ボール4は、半径方向に移動が可能である。そして、回転軸7が任意の回転角θになると、軌道中心線L3の曲率中心はO3θに移動し、ボール4の中心は実線で示すL3上に移動する。この位置にあるボール4が出力板30の第2のボール係合溝16に係合する。すなわち、ボール4の中心Obθが第2のボール係合溝16の軌道中心線L2(図8参照)上に位置する関係になる。この位置関係が、回転軸7の任意の回転角θに対して、常に出力板30の回転角がiθであることが回転軸7と出力板30の同期回転を成立させる。これに基づいて、回転軸7の軸心X1と第2のボール係合溝16Bの軌道中心線L2との距離Rを幾何学的に求めることができる。
【0063】
この図10等に示す本発明に係る減速装置では、図15に示すように、回転中心軸の軸心X1とボール4の中心との距離Rは次のように表される。
【数9】
【0064】
すなわち、図15からわかるように、以下の数10、数11、及び数12の数式が成り立つ。
【数10】
【0065】
【数11】
【0066】
【数12】
ここで、この減速装置が同期回転するため、減速比i=ψ/θが成り立つ必要がある。このため、この数12から前記数9の数式を求めることができる。
【0067】
ところで、実施形態のように、入力板10の溝13を円形溝とした場合、入力板10が1回転すると、ボール4は保持器5内の長穴(ポケット)17を1往復し、出力板30はi回転する。入力板10の回転角dθ(0°≦θ≦360°)を4象限(0°〜90°、90°〜180°、180°〜270°、270°〜360°)に分け、各象限でのボールの動きに着目することで第1実施形態と第2実施形態との特性を確認することができる。
【0068】
入力板10のオフセット量が最大のときの回転角をdθ=0°とし、観察するボール4はdθ=0のとき最も回転軸から遠くにあるボールとする。保持器5に設けられた長穴17内をボール4が1往復するときの距離のうち、入力板10の回転角dθが第1象限のときのボール4の移動距離をLa1(図6(b)参照)、第2象限のときをLa2(図6(b)参照)、第3象限のときをLa3(図6(b)参照)、第4象限のときをLa4(図6(b)参照)とし、ボール4の移動距離La1とLa2(またはLa3とLa4)を比較すると、図16(a)から明らかに第1実施形態では相違する。
【0069】
すなわち、入力板10の溝13が円形の場合、図16(a)に示すように、La1とLa2(またはLa3とLa4)の長さが異なる。これはボール4が保持器5内の長穴17を転がる1往復の中で、ピッチ円を中心とした径方向外側の移動距離と径方向内側の移動距離が異なることを示し、入力板10の回転角θと出力板30の回転角ψの同期回転特性(ψ=iθ)を満足させるために、保持器5の長穴17内のボール4の速度変動がピッチ円を中心とした径方向外側と内側で異なることを示す。これは出力板30の波状溝16を転がるボールの速度変動がピッチ円を中心とした径方向外側と内側で異なることを示し、振動や異音の発生につながる可能性がある。
【0070】
これに対して、入力板10の溝13が多角形状の場合、図16(b)に示すように、La1とLa2(またはLa3とLa4)の長さが等しくなる。これはボール4が保持器5の長穴17内および出力板30の波状溝16を転がる1周期の中で、ピッチ円を中心とした径方向外側の移動距離と径方向内側の移動距離が等しいこと(=単振動)を示し、入力板10の回転角θと出力板30の回転角ψの同期回転特性(ψ=iθ)を保ちつつ、ボールの速度変動がピッチ円を中心とした径方向外側と内側で等しいことを示す。
【0071】
このため、入力板10の溝13を多角形状(多角円筒形状)とすることによって、入力板10と出力板30の同期回転特性(等速性)を高めることができる。これによって、出力側の回転速度変動や振動を極力抑えることができる。
【0072】
本発明によれば、前記実施形態と同様、常時、入力側と出力側とが常時同期回転するので、出力側の回転速度変動や振動の少ない高品質の減速装置を提供できる。しかも小型化が可能で高い減速比を得ることも可能である。また、入力側と出力側とが常時同期回転するように構成するには、溝形状を決定すればよく、構成上複雑化を招くことはない。特に、本願発明では、入力板10の溝形状をボール4の数と同じ数の多角円筒形状としたことによって、入力側と出力側の同期回転特性(等速性)の向上を図ることが可能となる。
【0073】
また、ボールの数をnとし、出力板の波状溝の極数をNとし、減速比をiとしたときに、i=(N−n)/Nとなるように設定でき、小型で高い減速比を得ることができる減速装置を安定して提供できる。
【0074】
この第2実施形態においても、第1のボール係合溝13B及び第2のボール係合溝16Bがゴシックアーチ形状であるので、ボールを安定した位置に配置でき、同期回転特性(等速性)を高めることができる。このため、耐久性に優れてより高品質の変速装置を提供できる。
【0075】
また、第1実施形態でも第2実施形態でも、入力板10及び出力板30を回転可能に収納するとともに保持器5を固定するケース6を備え、入力板10が、入力軸(回転軸7)の偏心部に軸受11を介して外嵌され、出力板30がケース6に軸受14,15を介して回転自在に枢支された出力軸31と一体化されているので、コンパクトな減速装置を形成できる。
【0076】
ところで、入力板10の溝13を多角形状とした場合、入力板10の溝13と保持器5が有する長穴(ポケット)17の相互位置関係特性を保つために、入力板10の自転を規制し公転のみ許容させるのが好ましい。このため、図17図18に示すように、入力板10と、これに対向する固定側の壁面(この場合、ケース6の入力側の側壁の内側面6a1)との間に、この入力板10の自転を規制するとともに公転を許容する自転規制機構Mを設けるのが好ましい。
【0077】
自転規制機構Mは、入力板10Bの入力側の側面10cに周方向に沿って所定ピッチで複数個(実施形態では、図19に示すように、45°ピッチで8個)設けられる円環状の軌道溝55と、入力板10Bの入力側の側面10cに対向するケースの第1部材6aの内側面6a1に周方向に沿って所定ピッチで複数個(図20に示すように、45°ピッチで8個)設けられる円環状の軌道溝56と、軌道溝55とこれに対向する軌道溝56の間に介在される転動体57とを備える。この場合、軌道溝55の円環中心O5と軌道溝56の円環中心O6を偏心させている。この際、軌道溝55の円環中心O5と軌道溝56の円環中心O6は180°反対方向に偏心させるのが好ましい。軌道溝55及び軌道溝56の中央には、山部55a、56aが形成され、この山部55a、56aの軸心は円環中心O5、O6となる。
【0078】
このような自転規制機構Mを設ければ、入力板10の自転を規制するとともに公転を許容することになって、入力板10の溝13と保持器5の長穴(ポケット)17の相互位置関係性を保つことができ、安定して、振動発生を防止できる。なお、自転規制機構Mの軌道溝55(56)の数の増減も任意である。
【0079】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、第1実施形態の減速装置では、入力板10(10A,10B)は、回転軸7に設けられた偏心カム8に対して回転自在にした構成のものとしたが、入力板10と回転軸7とが一体の構成にしてもよい。また、第1実施形態の減速装置1では、回転軸7の別体の偏心カム8を嵌合させた構成を例示したが、これにかぎらず、回転軸と偏心カムとを一体成形した構成にしてもよい。さらには、入力板10の軸心が入力軸である回転軸7の同心軸であって、第1のボール係合溝13の曲率中心が入力板10の軸心に対して所定量だけ偏心させたものであってもよい。すなわち、回転軸7に偏心部を設けることなく、形成する曲率中心が、回転軸7の軸心に対して偏心したボール係合溝13を形成したものであってもよい。このため、第1のボール係合溝13の曲率中心が装置回転中心Xに対して所定量だけ偏心させる構成に設計の自由度が大となって、装置の設計性の向上を係ることができる。
【0080】
本実施形態の減速装置1では、減速比iが−1/10のものを例示したが、例えば、減速比iは1/5〜1/20程度で必要に応じて適宜設定することができる。この場合は、減速比iに応じて、ボール係合溝の軌道中心線の波状曲線の山部/谷部の個数、保持器のポケット個数およびボール個数を適宜設定すればよい。
【0081】
前記実施形態においては、各ボール係合溝13A,13B,16A、16Bをゴシックアーチ形状としたが、これらの内、少なくともいずれか一の溝がゴシックアーチ形状であればよい。すなわち、図1に示す減速装置において、第1のボール係合溝13Aと第2のボール係合溝16Aとのいずれかであったり、図10に示す減速装置において、第1のボール係合溝13Bと第2のボール係合溝16Bとのいずれかであったりする。
【0082】
入力軸に駆動力を入力するための駆動源としては、モータであってもよく、また、エンジン等の他の駆動源であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
2 入力側回転部材
3 出力側回転部材
30 出力板
4 ボール
5 保持器
6 ケース
8 偏心カム
9 軸受
10 入力板
13 第1ボール係合溝
14 軸受
15 軸受
16 第2ボール係合溝
17 ポケット
M 自転規制機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20