(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ネジ溝ポンプ機構部を構成する第1の円筒体と、外周面に複数の動翼を多段に配置しターボ分子ポンプ機構部を構成する第2の円筒体と、回転軸に締結されるための貫通穴を備え、前記第1の円筒体の内面と前記第2の円筒体の内面とからなる円筒内面、および、前記第1の円筒体の外面が、前記動翼の表面より放射率の小さい低放射率部として構成された真空ポンプの回転体を製造する方法において、
前記第1の円筒体の内面と前記第2の円筒体の内面とからなる円筒内面を、高放射率表面処理から保護するために、蓋部材と水密に接触する接触面を有する前記貫通穴を前記蓋部材で塞ぐことにより、前記貫通穴への高放射表面処理液の侵入を封鎖する保護工程と、
前記保護工程の後に前記第2の円筒体の外面および前記動翼に前記高放射率表面処理を施す表面処理工程と、を備えてなること
を特徴とする真空ポンプの回転体の製造方法。
ネジ溝ポンプ機構部を構成する第1の円筒体とターボ分子ポンプ機構部を構成する第2の円筒体とを備え、前記第2の円筒体の外周面に複数の動翼を多段に配置し、前記第1の円筒体の内面と前記第2の円筒体の内面とからなる円筒内面、および、前記第1の円筒体の外面が、メッキ処理を施すことにより、前記動翼の外面より放射率の小さい低放射率部として構成され、前記第1の円筒体または第2の円筒体を回転軸に締結するための貫通穴が設けられている真空ポンプの回転体を製造する方法において、
前記メッキ処理を施し、前記第2の円筒体の外面および前記動翼に高放射率表面処理を施した後に、前記貫通穴を穴開け加工により設けること
を特徴とする真空ポンプの回転体の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明を適用した真空ポンプ断面図、
図2は、
図1の真空ポンプPを構成する回転体における低放射率部と高放射率部の範囲の説明図である。
【0039】
図1の真空ポンプPは、ガス排気機構としてターボ分子機構部Ptとネジ溝ポンプ機構部Psを備えた複合ポンプであって、例えば、半導体製造装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバやその他の密閉チャンバのガス排気手段等として利用される。
【0040】
図1の真空ポンプPにおいて、外装体1は、筒状のポンプケースCとポンプベースBとをその筒軸方向に締結部材で一体に連結することにより、有底の略円筒形状になっている。
【0041】
ポンプケースCの上端部側(
図1において紙面上方)はガス吸気口1Aとして開口しており、また、ポンプベースBにはガス排気口2を設けてある。なお、ガス吸気口1Aは例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等、高真空となる図示しない密閉チャンバに接続され、ガス排気口2は、図示しない補助ポンプに連通接続される。
【0042】
ポンプケースC内の中央部には円筒状のステータコラム3が設けられている。ステータコラム3はポンプベースB上に立設されており、ステータコラム3の外側には回転体4が設けられ、ステータコラム3の内側には、回転体4をその径方向および軸方向に支持する手段としての磁気軸受MBや、該回転体4を回転駆動する手段としての駆動モータMTなどの各種電装部品が内蔵されている。なお、磁気軸受MBや駆動モータMTは公知であるため、その具体的な構成の詳細説明は省略する。
【0043】
回転体4は、ポンプベースB上に回転可能に配置され、ポンプベースBとポンプケースCとに内包された状態になっている。
【0044】
また、この回転体4は、ステータコラム3の外周を囲む略円筒形状であって、直径の異なる2つの円筒体(
図1の真空ポンプPでは、ネジ溝ポンプ機構部Psを構成する第1の円筒体4Aと、ターボ分子ポンプ機構部Ptを構成する第2の円筒体4B)をその筒軸方向に連結部4Cで連結した構造、第2の円筒体4Bと後述する回転軸4とを締結するための締結部4Dを第2の円筒体4Bの内面に備えた構造、および、第2の円筒体4Bの外周面に後述する複数の動翼6を多段に配置した構造になっている。
【0045】
回転体4の内側には回転軸41が設けられており、回転軸41は締結部4Dを介して第2の円筒体4Bに一体に締結されている。このような回転軸41の具体的な締結構造として、
図1の真空ポンプPでは、第2の円筒体4Bを回転軸41に締結するための複数の貫通穴H1、H2(
図2参照)が締結部4Dに設けられている。
【0046】
そして、これら複数の貫通穴H1、H2のうち、回転体4の回転中心線上に位置する貫通穴(以下「中心貫通穴H1」という)に対して回転体4の内面側から回転軸41の先端を圧入で挿入した後、中心貫通穴H1の周囲に位置する他の貫通穴(以下「周囲貫通穴H2」という)に対して締結ボルトBTを挿入して締付けることにより、第2の円筒体4Bと回転軸41は一体に締結されている。
【0047】
なお、前記のように貫通穴H1に対する回転軸41の挿入による組立ては、前記のような圧入に限定されず、焼嵌めや冷やし嵌めでの組立てや、すきま嵌めの構造となっても良い。
【0048】
また、
図1の真空ポンプPにおいて、回転軸41をステータコラム3に内蔵の磁気軸受MBで支持すること、および、回転軸41をステータコラム3に内蔵の駆動モータMTで回転駆動することにより、回転体4は、その軸方向と径方向の所定位置において磁力で支持されながら、回転中心(回転軸41中心)回りに回転する構造になっている。この構造の場合、回転軸41、磁気軸受MB及び駆動モータMTが回転体4の支持及び駆動手段として機能する。これとは別の構成により回転体4をその軸心周りに回転可能に支持し回転駆動してもよい。
【0049】
図1の真空ポンプPは、回転軸41を中心とした回転体4の回転によりガス吸気口1Aからガスを吸気し、吸気したガスをガス排気口2から外部へ排気する手段として、ガス流路R1、R2を備えている。
【0050】
ガス流路R1、R2の一実施形態として、
図1の真空ポンプPにおいては、そのガス流路R1、R2全体のうち、前半の吸気側ガス流路R1(回転体4の連結部4Cより上流側)は、回転体4の外周面に設けた複数の動翼6と、ポンプケースCの内周面にスペーサ9を介して固定された複数の静翼7とによって形成してあり、また、後半の排気側ガス流路R2(回転体4の連結部4Cより下流側)については、回転体4の外周面(具体的には、第1の円筒体4Aの外周面)とこれに対向するネジ溝ポンプステータ8とによりネジ溝状の流路として形成してある。
【0051】
吸気側ガス流路R1の構成を更に詳細に説明すると、
図1の真空ポンプPにおいて、吸気側ガス流路R1を構成する動翼6は、ポンプ軸心(例えば、回転体4の回転中心等)を中心として放射状に並んで複数配置されている。この一方、吸気側ガス流路R1を構成する静翼7は、スペーサ9を介してポンプ径方向及びポンプ軸方向に位置決めされる形式でポンプケースCの内周側に配置固定されるとともに、ポンプ軸心を中心として放射状に並んで複数配置されている。
【0052】
そして、
図1の真空ポンプPでは、前記のように放射状に配置された動翼6と静翼7とがポンプ軸心方向に交互に多段に配置されることにより、吸気側ガス流路R1が形成されるように構成してある。
【0053】
以上の構成からなる吸気側ガス流路R1では、駆動モータMTの起動により回転体4および複数の動翼6が一体に高速回転することにより、動翼6がガス吸気口1Aから入射したガス分子に下向き方向の運動量を付与する。そして、このような下向き方向の運動量を有するガス分子が静翼7によって次段の動翼側へ送り込まれる。以上のようなガス分子への運動量の付与と送り込み動作とが繰り返し多段に行われることによって、ガス吸気口側のガス分子は、吸気側ガス流路R1を通じて、排気側ガス流路R2の方向に順次移行するように排気される。
【0054】
次に、排気側ガス流路R2の構成を更に詳細に説明すると、
図1の真空ポンプPにおいて、排気側ガス流路R2を構成するネジ溝ポンプステータ8は、回転体4の下流側外周面(具体的には、第1の円筒体4Aの外周面。以下も同様)を囲む環状の固定部材であって、かつ、その内周面側が所定隙間を隔てて回転体4の下流側外周面(具体的には、第1の円筒体4Aの外周面)と対向するように配置してある。
【0055】
また、このネジ溝ポンプステータ8の内周部にはネジ溝8Aを形成してあり、ネジ溝8Aは、その深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化し、ネジ溝ポンプステータ8の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してある。
【0056】
そして、
図1の真空ポンプPでは、回転体4の下流側外周面とネジ溝8Aを備えたネジ溝ポンプステータ8とが対向することで、排気側ガス流路R2がネジ溝状のガス流路として形成されるように構成してある。これとは別の実施形態として、図示は省略するが、例えば、かかるネジ溝8Aを回転体4の下流側外周面に設けることにより、前記のような排気側ガス流路R2が形成される構成を採用することも可能である。
【0057】
以上の構成からなる排気側ガス流路R2では、駆動モータMTの起動により回転体4が回転すると、吸気側ガス流路R1からガスが流入し、ネジ溝8Aと回転体4の下流側外周面でのドラッグ効果により、その流入したガスを遷移流から粘性流に圧縮しながら移送する形式で排気する。
【0058】
図2を参照すると、
図1の真空ポンプPにおいて、回転体4の内面、具体的には、第1の円筒体4Aの内面S1と第2の円筒体4Bの内面S2とからなる円筒内面の少なくとも一部(
図2の例では内面S1と内面S2の全体)および第1の円筒体4Aの外面Q1は、いずれも、動翼6の外面より放射率の低い低放射率部EM1として構成されている。また、本実施形態では、締結部4Dの内面S3も動翼6の外面より放射率の低い低放射率部EM1として構成されている。
【0059】
図1の真空ポンプPによると、前記のように回転体4における円筒内面の少なくとも一部が、低放射率部EM1として構成される。このため、例えばネジ溝ポンプステータ8のように、真空ポンプPの中でも特に高温化が必要とされる部分から回転体4の外面に対して放射される熱量が減ることで、その高温化が必要とされる部分を効率よく高温化することができ、かかる部分の高温化による反応生成物の堆積を軽減するのに好適である。
【0060】
また、
図1の真空ポンプPによると、前記のように、回転体4からその内側への熱の放射量が減るので、回転体4の内側に位置する電装部品(例えば、回転体4を支持する磁気軸受MBや回転体4を回転駆動するモータMTなど)のように高温化を避けたい部分を比較的低温に維持することができ、かかる電装部品の過熱による誤動作、ポンプ故障も効果的に減る。
【0061】
低放射率部EM1とは、熱量の放射率が変わるような表面処理(例えば、メッキ処理)を何も行なわずに得られるもの、すなわち、第1または第2の円筒体4A、4B若しくは締結部4Dを構成する材料本来の放射率を持ったもの(ノーメッキタイプ)と、例えばニッケル合金メッキなどのメッキ処理による低放射率メッキ層の形成によって得られる放射率を持ったもの(メッキタイプ)などを含む。
【0062】
また、低放射率部EM1は、第1の低放射率部の上に第2の低放射率部を積層してなる多層構造になっていてもよい。このような多層構造の低放射率部は、例えば、被メッキ面の上にニッケル合金メッキ処理を施すことによって下地層(第1の低放射率部)を形成し、さらに、この下地層の上にニッケル合金メッキ処理を施すことによってニッケル合金メッキ層(第2の低放射率部)を設けることで得てもよい。
【0063】
回転体4の全面において、先に説明した低放射率部EM1以外の部分、例えば第2の円筒体4Bの外面Q2や動翼6の外面Q3は、低放射率部EM1よりも高い放射率を備えた高放射率部EM2として構成してある。このような高放射率部EM2は例えば高放射メッキ液による高放射率表面処理で得ることができる。
【0064】
また、回転体4を酸に浸して表面を酸化させることにより形成することができる。
【0065】
高放射率部EM2については、例えば、ニッケル酸化物メッキを採用することができる。ここで、ノーメッキとニッケル合金メッキとニッケル酸化物メッキの放熱性を比較すると、その大小関係は下記のような放熱性の大小関係になる。
・放熱性の大小関係
ニッケル酸化物メッキ > ニッケル合金メッキ > ノーメッキ(母材)
【0066】
前記のように第2の円筒体4Bの外面Q2や動翼6の外面Q3を高放射率部EM2として構成したのは、回転体4から外装体1の方向への放熱性を高めることにより、動翼6の熱膨張変形やクリープ破壊を低減するためである。
【0067】
《回転体4の第1の製造方法の説明》
図3は、
図1の真空ポンプを構成する回転体の第1の製造方法の説明図である。
【0068】
前記のような低放射率部EM1と高放射率部EM2を備えた回転体4の第1の製造方法として、かかる回転体4は、その機械加工(例えば、切削加工により動翼6を形成するなど)が完了した後に、後述の保護工程と表面処理工程とを実施することによって製造することができる。
【0069】
保護工程とは、低放射率部EM1として構成したい部分(具体的には、第1の円筒体4Aの内面S1と第2の円筒体4Bの内面S2とからなる円筒内面の少なくとも一部、および、第1の円筒体4Aの外面Q1)を高放射率表面処理から保護する工程である。
【0070】
また、表面処理工程とは、保護工程の後に回転体4に対して高放射率表面処理を施す工程である。
【0071】
保護工程は、低放射率部ME1(
図2参照)として構成したい部分を
図3のようにマスキング部材MSK1あるいは図示しないマスキング専用治具で保護してもよい。
【0072】
マスキング部材MSK1は、低放射率部ME1として構成したい第1の円筒体4Aの外面Q1に対して高放射率表面処理が施されることを防ぐとともに、第1の円筒体4Aの下端開口を閉鎖することにより、低放射率部ME1として構成したい第1の円筒体4Aの内面S1と第2の円筒体4Bの内面S2とからなる円筒内面に対して高放射率表面処理が施されることを防ぐものである。
【0073】
また、保護工程の中には、
図3に示したように、第2の円筒体4Bの上端開口をマスキング部材MSK2あるいは図示しないマスキング専用治具で閉鎖することにより、間接的に複数の貫通穴(H1、H2)を塞ぐ処理(以下「貫通穴封鎖処理」という)が含まれている。
【0074】
貫通穴封鎖処理は、低放射率部ME1として構成したい部分、具体的には、第1の円筒体4Aの内面S1と第2の円筒体4Bの内面S2とからなる円筒内面に対して高放射率表面処理が施されることを防ぐものである。
【0075】
表面処理工程では、高放射メッキ液を充填したメッキ槽PB、または、酸性の溶液に回転体4全体を漬けることによって、回転体4の外面のマスキング処理実施部以外に高放射率表面処理を施す。
【0076】
《回転体4の第2の製造方法の説明》
図4は、
図1の真空ポンプを構成する回転体の第2の製造方法の説明図である。
【0077】
この第2の製造方法が先に説明した第1の製造方法と異なる点は、保護工程中の貫通穴封鎖処理のみであり、それ以外は第1の製造方法と同様であるため、その詳細説明は省略する。
【0078】
図4を参照すると、この第2の製造方法における保護工程中の貫通穴封鎖処理は、貫通穴(H1、H2)の一方ないし両端開口を蓋部材LIDで閉鎖することにより、直接的に複数の貫通穴(H1、H2)をすべて塞ぐというものである。
図3の保護工程と異なる点は、回転体4の上端開口の一部が保護処理されないという点であり、蓋部材LIDは、既存の貫通穴(H1、H2)を使用して固定することが可能である。
【0079】
《回転体4の第3の製造方法の説明》
図5は、
図1の真空ポンプを構成する回転体の第3の製造方法の説明図である。
【0080】
前記のような低放射率部EM1と高放射率部EM2を備えた回転体4の第3の製造方法として、かかる回転体4は、その機械加工が完了した後に、締結工程、保護工程、メッキ工程をその順に設けることによっても製造できる。
【0081】
先に説明した第1または第2の製造方法では、回転体4に対して回転軸41を取り付ける前に、回転体4の外面に高放射率表面処理を施している。これに対し、
図5を参照すると、この第3の製造方法では、第2の円筒体4Bと回転軸41を締結した状態、つまり回転体4に対して回転軸41を取り付けた状態で、高放射メッキ液を充填したメッキ槽PB、または、酸性の溶液に回転体4全体を漬けることによって、回転体4に対して高放射率表面処理を施すようにしている。
【0082】
この第3の製造方法における締結工程は、複数の貫通穴(H1、H2)のうち、中心貫通穴H1に対して回転体4の内面側から回転軸41の先端を圧入した後、周囲貫通穴H2に締結ボルトBTを挿入して締付けることにより、第2の円筒体4Bと回転軸41とを締結する。
【0083】
この第3の製造方法における保護工程は、その一部、具体的には貫通穴封鎖処理が先に説明した第1の製造方法における保護工程と異なる。すなわち、
図5を参照すると、第3の製造方法における保護工程では、貫通穴封鎖処理の一例として、締結工程で圧入した回転軸41の先端部に保護カバーPCを取付けることにより、高放射率表面処理から回転体4の内面を保護している。
【0084】
なお、この第3の製造方法におけるメッキ工程は、第1の製造方法におけるメッキ工程と同様であるため、その詳細説明は省略する。
【0085】
ところで、前記のように取付けた保護カバーPCは、貫通穴(H1、H2)と締結ボルトBTとの隙間を介して回転体4の内面が高放射率表面処理されることを防止する手段として機能する。また、前記のように取付けた保護カバーPCは、真空ポンプPの組立完成後も取外されることなく真空ポンプ構成部品として存在することにより、腐食性ガスによる回転軸41や締結ボルトBTの腐食の防止、また、腐食された場合でも腐食物が真空ポンプPの外へ流出することを防止する手段として機能する。
【0086】
《回転体4の第4の製造方法の説明》
先に説明した第1から第3の製造方法では、回転体4に複数の貫通穴(H1、H2)が形成されている状態で、高放射メッキ液を充填したメッキ槽または、酸性の溶液に回転体4を漬けることによって、回転体4の外面に高放射率表面処理を施している。それに対し、この第4の製造方法は、高放射率表面処理を施した後に、複数の貫通穴(H1、H2)を加工(形成)するものである。
【0087】
このため、この第4の製造方法によると、高放射率表面処理を施す段階で、複数の貫通穴(H1、H2)は存在しないから、かかる貫通穴(H1、H2)を高放射率表面処理時に塞ぐ処理(貫通穴封鎖処理)は不要である。
【0088】
《回転体4の第5の製造方法の説明》
回転体4における第1の円筒体4Aの外面Q1をメッキタイプの低放射率部EM1として構成する場合、メッキタイプの低放射率部EM1は、例えば、ニッケル合金メッキなどのメッキ処理による低放射率メッキ層として設けられる。
【0089】
一方、第2の円筒体4Bの外面Q2や動翼6の外面Q3等のように、高放射率部EM2として構成される回転体4の外面には、高放射率部EM2として例えばニッケル酸化物が設けられる。
【0090】
したがって、前記のような低放射率部EM1と高放射率部EM2を備える回転体4を製造するには、低放射率メッキ層と高放射率層を形成するための、いわゆる部分メッキ処理が行なわれる。部分メッキ処理の具体的な方式については、下記のような《部分メッキ処理(その1)》と《部分メッキ処理(その2)》が考えられる。
【0091】
《部分メッキ(その1)》
部分メッキ処理(その1)は、下記(1−1)第1マスキング工程、(1−2)第1メッキ工程、(1−3)第2マスキング工程、(1−4)第2メッキ工程という4つの工程で構成される。
【0092】
(1−1)第1マスキング工程
第1マスキング工程では、回転体4の外面全体のうち低放射率部EM1として構成したい部分を第1マスキング部材でマスキング保護する。
【0093】
(1−2)第1メッキ工程(第1表面処理工程)
第1メッキ工程では、低放射率表面処理液を充填した処理槽として、低放射率メッキ液を充填したメッキ槽を用意し、第1マスキング工程によりマスキングされた回転体4全体をそのメッキ槽(処理槽)に漬けることにより、低放射率部EM1として構成したい部分のみに低放射率表面処理(本例では、メッキ処理)を施す。その後、回転体4から第1のマスキング部材を除去する。
【0094】
(1−3)第2マスキング工程
第2マスキング工程では、第1メッキ工程における低放射率表面処理で形成された低放射率表面処理層(本例では、前述のメッキ処理によって形成された低放射率メッキ層)を第2マスキング部材でマスキング保護する。
【0095】
(1−4)第2メッキ処理工程(第2表面処理工程)
第2メッキ処理工程では、高放射表面処理液を充填した処理槽として、高低放射率メッキ液を充填したメッキ槽を用意し、第2マスキング工程によりマスキングされた回転体4全体をそのメッキ槽(処理槽)に漬ける、つまり、第2マスキング工程によりマスキングされた回転体4の全体に対して高放射率表面処理を施すことにより、高放射率部EM2として構成したい部分(マスキング処理実施部以外)に高放射率表面処理を施す。その後、第2マスキング部材を除去する。
【0096】
ここでは、低放射率部EM1または高放射率部EM2を形成するためにメッキ処理を採用しているが、これに限定するものではなく、低放射率部EM1または高放射率部EM2を形成する方法であれば適用することができる。
【0097】
《部分メッキ(その2)》
部分メッキ処理(その1)は、下記(2−1)第1メッキ工程、(2−2)第1マスキング工程、(2−3)第2メッキ工程という3つの工程で構成される。
【0098】
(2−1)第1メッキ工程(第1表面処理工程)
第1メッキ工程では、低放射率表面処理液を充填した処理槽として、低放射率メッキ液を充填したメッキ槽を用意し、回転体4の外面全体のうち低放射率部EM1として構成したい部分、すなわち回転体4の下半分(具体的には、第1の円筒体4A)のみをそのメッキ漕(処理槽)に漬けることで、回転体4の下半分(回転体4の外面全体のうち低放射率部EM1として構成したい部分)のみに低放射率表面処理を施す。
【0099】
(2−2)マスキング工程
マスキング工程では、第1メッキ工程における低放射率表面処理で形成された低放射率メッキ層、すなわち回転体4の下半分をマスキング部材などで保護する。
【0100】
(2−3)第2メッキ工程(第2表面処理工程)
第2メッキ工程では、高放射表面処理液を充填した処理槽として、高放射メッキ液を充填したメッキ槽を用意し、マスキング工程によりマスキングされた回転体4全体をそのメッキ槽(処理槽)に漬けることにより、回転体4の外面全体に対して高放射率表面処理を施す。その後、第2マスキング部材を除去する。
【0101】
ここでは、低放射率部EM1または高放射率部EM2を形成するためにメッキ処理を採用しているが、これに限定するものではなく、低放射率部EM1または高放射率部EM2を形成する方法であれば適用することができる。例えば、高放射率表面処理であるニッケル酸化物メッキ層を実施する場合、低放射率部とする部分は、マスキングなどをして、高放射率処理を行わなければ、そのまま低放射率部であるニッケル合金メッキ層のまま存在することが可能となる。
【0102】
《低放射率部と高放射率部の境界構造の説明》
図6は、低放射率部EM1と高放射率部EM2との境界部付近の構造(境界構造)の説明図である。
【0103】
図6を参照すると、低放射率部EM1とこれに隣接して設けた高放射率部EM2との間には、低放射率部EM1の放射率より大きくかつ高放射率部EM2の放射率より小さい放射率を備えた中間部EM3が存在する。
【0104】
前記のような高放射率部EM1と低放射率部EM2は予め設計(設定)された範囲(以下「設計範囲」という)に設けられるように構成される。しかし、先に説明した工程において、例えばマスキング部材MSK1の施された下面側に高放射率表面処理が施される場合がある。その場合は、前記のような中間部EM3が形成されることになる。この際、低放射率部EM1と高放射率部EM2それぞれの設計範囲A1、A2のうち、いずれか一方の設計範囲(
図5の例では低放射率部EM1の設計範囲A1)内に中間部EM3が位置することで、他方の設計範囲(
図5の例では高放射率部EM2の設計範囲A2)は中間部EM3を含まない高放射率部EM2または低放射率部EM1のみ(
図5の例では高放射率部EM2のみ)で構成される。なお、いずれの設計範囲A1、A2を高放射率部EM2または低放射率部EM1のいずれかのみで構成するかは、マスキング部材MSK1の位置をずらすことによって、必要に応じて適宜調整することができる。
【0105】
ここでの中間部EM3は、元の低放射率部EM1と高放射率部EM2の放射率の大きさや高放射率表面処理の方法によって、一様な放射率ではなく、放射率の分布が発生した部分を意味する。
【0106】
《低放射率部と高放射率部に関する他の実施形態》
図2の回転体4を採用した
図1の真空ポンプPでは、第2の円筒体4Bの外面Q2や動翼6の外面Q3が高放射率部EM2として構成されることにより、第2の円筒体4Bから外装体1の方向への熱の放射量が増大する。このため、図示は省略するが、第2の円筒体4Bの内面S2は、低放射率部EM1よりも高い放射率をもった高放射率部EM2として構成することで、ステータコラム3から第2の円筒体4Bの方向への熱の放射量を増やして、ステータコラム3の過熱を低減するようにしてもよい。
【0107】
図2の回転体4では、第1の円筒体4Aの端部面S4も低放射率部EM1として構成したが、これに代えて、その端部面S4は、その低放射率部EM1よりも高い放射率をもった高放射率部EM2として構成してもよい。この構成によると、第1の円筒体4Aの端部面S4からポンプベースBの方向への熱の放射量が増大することで、回転体4全体の放熱性が高まる。
【0108】
図7は、最下段の動翼の表面を低放射率部として構成した例の説明図である。
【0109】
図2の回転体4では、すべての動翼6の表面を高放射率部EM2として構成したが、これに代えて、
図7に示したように、複数の動翼6のうち最下段の動翼6Eの表面は、その高放射率部EM2よりも低い放射率を備えた低放射率部EM1として構成してもよい。
【0110】
この構成によると、最下段の動翼6Eと対向する固定部材(具体的には、ネジ溝ポンプステータ8)から最下段の動翼6Eの方向への熱の放射量が減ることで、動翼6の過熱は効果的に低減される。このような動翼過熱低減効果は、最下段の動翼6Eの表面全体のうちネジ溝ポンプステータ8と対向する面のみを低放射率部EM1として構成するよりも効果的に得られ、更に対向する面のみをマスキングするような複雑なマスキング処理を無くすことが出来る。
【0111】
図8は、最下段の動翼とこれに対向する固定部材との間に低放射率部を備えた遮熱部材となる部品が介在する例の説明図である。
【0112】
前記のように最下段の動翼6Eの表面を低放射率部EM1として構成する代わりに、
図8に示したように、最下段の動翼6Eとこれに対向する固定部材(具体的には、ネジ溝ポンプステータ8)との間に、低放射率部を備えた遮熱部材となる部品(
図8の例では、表面を低放射率部EM1として構成した最下段の固定翼7E)が介在する構成でも、前記のような動翼過熱低減効果は得られる。
【0113】
図9は、外リムの上下面、外周面のうち少なくともいずれか一つの面を低放射率部として構成した例の説明図、
図10は、複数のリム部材の突合わせ面を低放射率部として構成した例の説明図である。
【0114】
図1の真空ポンプPは、前述の通り、放射状に配置された動翼6と静翼7とがポンプ軸方向に交互に多段に配置される構成、つまり、複数の動翼6のうちポンプ軸心方向の動翼6間に静翼7が設けられる構成になっている。そして、その各段における放射状に配置された複数の静翼7は、
図9に示したように、その外周端部7Aが外リム10で保持され、かつ、その内周端部7Bが内リム11で保持される構成になっている。そして複数の静翼7は、外リム10の外周部またはその外周部の近傍を上下のスペーサ9(
図1参照)で挟み込むことによりポンプケースCの内周面に固定(支持)される構成になっている。
【0115】
前記のような静翼7の固定構造によると、静翼7の熱は外リム10およびスペーサ9を介する熱伝導で外装体1側へ放熱されるので、その放熱経路の熱伝導性を高めるために、
図9に示したように、外リム10の上下面、外周面のうち少なくともいずれか一つの面(
図9の例では、外リム10の外周面)は、ノーメッキあるいはニッケル合金メッキ処理によるニッケル合金メッキ層等からなる低放射率部EM1として構成するのが好ましい。
【0116】
外リム10の外周面のスペーサ9との接触部分を低放射率部EM1として構成したい場合には、例えば、静翼7を突合せ接合した状態で、外リム10の外周面にゴム製のリング等からなるマスク部材を装着し、この状態で高放射率表面処理を行なえばよい。この場合、静翼7は高放射率表面処理の対象となり、一方、マスキング処理された外リム10の外周面のスペーサ9との接触部分は高放射率表面処理の対象外、つまりノーメッキの状態となるので、静翼7よりも低い放射率を持った低放射率部として構成される。
【0117】
また、
図9を参照すると、外リム10は、複数のリム部材(
図9の例では、半円弧状の2つのリム部材10A、10B(
図10参照)を突合わせ接合することにより全体として環状に形成されており、その複数のリム部材10A、10Bの突合わせ面S5は、
図10に示したように、ノーメッキあるいはニッケル合金メッキ処理によるニッケル合金メッキ層等からなる低放射率部EM1として構成するのが好ましい。
【0118】
このような構成によると、例えば、一つのリム部材10Aに熱が集中的に蓄積された場合に、集中した熱を他のリム部材10Bの方向へ分散することで、一つのリム部材10Aの過熱を効果的に低減することができる。
【0119】
前記のようにリム部材10A、10Bの突合わせ面S5を低放射率部EM1として構成する方法としては、例えば、複数のリム部材10A、10Bを互いに突合わせ接合した状態で、静翼7に対して高放射率表面処理を施すという方法が考えられる。
【0120】
このような方法によると、リム部材10A、10Bの突合わせ面S5間には高放射率表面処理が施されないので、その突合わせ面S5は、高放射率表面処理で静翼7の表面に形成される高放射率部EM2より低い放射率を持った状態になる。
【0121】
低放射率部EM1をニッケル合金メッキ層で構成し、かつ、高放射率部EM2をニッケル酸化物で構成する場合は、
図6に示したように、被メッキ面に対してニッケル合金メッキ処理を施すことによってニッケル合金メッキ層Me1からなる低放射率部EM1を形成した後、ニッケル合金メッキ層Me1の表面を薬液で酸化させること等によってニッケル酸化物Me2からなる高放射率部EM2を形成してもよい。この場合、ニッケル酸化物Me2からなる高放射率部EM2は、ニッケル合金メッキ層Me1からなる低放射率部EMの上に形成された構造になる。
【0122】
図11は、高放射率部が多層構造の最上層である例の説明図である。
【0123】
先に説明した高放射率部EM2は、
図11に示したように、被メッキ面に対してニッケル合金メッキからなる下地層Me0を形成した後、さらに、その下地層Me0の上にニッケル合金メッキ層Me1からなる低放射率部EM1を形成し、その後、そのニッケル合金メッキ層Me1の表面を薬液(酸)で酸化させること等によってニッケル酸化物Me2からなる高放射率部EM2を形成してもよい。この場合、ニッケル酸化物Me2からなる高放射率部EM2は、ニッケル合金メッキ層Me1の上に形成された構造、すなわち多層構造(本実施例の場合は2層構造)の最上層に設けられることになる。
【0124】
この場合のメリットとしては、部分メッキ方法(その1、その2)では発生しやすい、低放射部EM1と高放射部EM2の境目での隙間を防止し、腐食ガスに対する耐食性の低下を防止することが可能となる。また、低放射率部EM2で発生するピンホールの数を低減することができる。
【0125】
《マスキング部材の説明》
図12は、マスキング部材と被マスキング面における表面粗さの説明図、
図13は、弾性を有するマスキング部材を被マスキング面に装着した状態の説明図である。
【0126】
先に説明した第1から第5の製造方法における高放射率表面処理で使用する溶液は酸性であるため、その高放射率表面処理で使用するマスキング部材MSK1としては耐酸性仕様のものが好ましい。耐酸性のある材料としては、フッ素を含有するゴム材料がある。
【0127】
図12を参照すると、マスキング部材MSK1や被マスキング面(同図の例では、第1の円筒体4Aの外面)はそれぞれ固有の表面粗さSR1、SR2を有する。このため、マスキング部材MSK1を被マスキング面に装着したときに、マスキング部材MSK1と被マスキング面との間に表面粗さによる凹凸で隙間G1が生じることは避けられず、かかる隙間G1に高放射率表面処理が施されるおそれがある。このことから、マスキング部材MSK1は、被マスキング面の表面粗さによる凹凸形状に倣って変形可能な弾性を有していることが好ましい。
【0128】
図13を参照すると、前記のような弾性を有するマスキング部材MSK1は環状に形成され、そのマスキング部材MSK1の内径は第1の円筒体4Aの外径より小さくなるように設けている。このようなマスキング部材MSK1を第1の円筒体4Aの外面に装着すると、その装着時に弾性変形して拡大したマスキング部材MSK1が元の状態に戻ろうとする復元力によって、マスキング部材MSK1全体に張力が発生し、マスキング部材MSK1全体に張力による面圧が生じることで、マスキング部材MSK1は、被マスキング面(第1の円筒体4Aの外面)の表面粗さによる凹凸形状に倣って変形し、前記のような隙間G1は小さくなり、必要としない部分に低放射率表面処理や高放射率表面処理が施されることを低減させることが可能となる。
【0129】
また、以上説明した各実施形態は組み合わせて使用しても良い。
【0130】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。