(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる運転計画作成装置10について説明する。
図1は、運転計画作成装置の構成を示すブロック図である。
【0028】
この運転計画作成装置10は、全体としてサーバ装置などの演算処理装置からなり、複数の熱源機器を発停制御して需要エネルギーを生成する過程を評価するための指標ごとに、指標に対して求められる運転指針条件を設定し、これら運転指針条件を定式化して得られた、運転指針条件の目的関数および制約条件について最適化演算を実行し、得られた演算結果に基づいて熱源機器の発停を示す運転計画を作成する機能を有している。
【0029】
エネルギー供給システム20は、ヒートポンプ、熱交換器、コージェネレーション、さらにはジェネリンクなどの各種の熱源機器を複数備えるエネルギー供給システムである。
図2は、エネルギー供給システムのモデル構成例である。複数の熱源機器からなる熱源機器群と、需要エネルギーの種類に応じた個別の熱源機器n(n=1〜Nの整数)とから構成されている。
【0030】
これにより、購入エネルギーが、熱源機器群により中間エネルギーに変換され、最終的には熱源機器nにより、個別の需要エネルギーに変換されて、負荷である各種設備へ供給される。ここでは、理解を容易とするため、需要エネルギーの種類(冷水、温水、電気、蒸気など)が1種類であり、購入エネルギーの種類(ガス、電気、重油など)も1種類であるモデルが想定されている。
【0031】
図2において、dem(J,K)は、代表日Jの時刻Kにおける、需要予測値を示すパラメータである。y
n(J,K)は、代表日Jの時刻Kにおける、需要エネルギーを最終的に供給する熱源機器nの出力エネルギー量を示す実数変数である。I
n(J,K)は、代表日Jの時刻Kにおける、熱源機器nの発停状況(0:停止,1:稼働)を示す整数変数である。p(J,K)は、代表日Jの時刻Kにおける、購入エネルギー量を示す実数変数である。
【0032】
熱源運転制御システム30は、産業用のコントローラからなり、運転計画作成装置10で作成された運転計画に基づいて、エネルギー供給システム20の各熱源機器に関する各種の運転制御を行う機能を有している。
【0033】
上位装置40は、全体としてサーバ装置からなり、エネルギー供給システム20に関する各種の管理情報を管理する機能と、これら管理情報を運転計画作成装置10からの要求に応じて運転計画を作成するための最適化演算で用いる処理データとして提供する機能を有している。
【0034】
次に、
図1を参照して、本実施の形態にかかる運転計画作成装置10の構成について詳細に説明する。
運転計画作成装置10には、主な機能部として、上位網I/F部11、操作入力部12、画面表示部13、通信I/F部14、記憶部15、および演算処理部16が設けられている。
【0035】
上位網I/F部11は、上位回線L1を介して上位装置40とデータ通信を行うことにより、上位装置40との間で各種情報をやり取りする機能を有している。
操作入力部12は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理部16へ出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDなどの画面表示装置からなり、演算処理部16から出力された、操作メニュー、設定内容、運転計画などの各種情報を画面表示する機能を有している。
【0036】
通信I/F部14は、通信回線L2を介して熱源運転制御システム30とデータ通信を行うことにより、熱源運転制御システム30からエネルギー供給システム20の運転制御に関する各種情報を受信する機能と、熱源運転制御システム30に運転計画を送信する機能とを有している。
【0037】
記憶部15は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、演算処理部16における最適運転計作成処理で用いる各種処理データや、演算処理部16で実行するプログラムを記憶する機能を有している。
記憶部15で記憶する主な処理データとして、計画対象期間データ15A、設備モデルデータ15B、契約データ15C、予測負荷データ15D、実績データ15E、および運転指針条件データ15Fがある。
【0038】
計画対象期間データ15Aは、運転計画を作成する対象となる対象日や対象時刻を示すデータである。
設備モデルデータ15Bは、エネルギー供給システム20に設けられた各熱源機器に関する機器効率、最大(定格)生成熱量、最小生成熱量などの各種動作特性や、入出力関係を示すデータである。
契約データ15Cは、電力料金体系、ガス料金体系など、エネルギー供給会社との間で締結したエネルギー契約の内容を示すデータである。
【0039】
予測負荷データ15Dは、エネルギー供給システム20における、時刻ごとの冷温水需要量、電力需要量などの各種需要を示すデータである。
実績データ15Eは、ガスなどの購入エネルギーの使用量に関する実績を示すデータである。
運転指針条件データ15Fは、コスト条件、供給不足率条件、同時運転台数条件、総運転時間条件など、エネルギー供給システム20の運転時に目的となる経済性、省エネルギー性、環境保全、設備保全、制御性などの各種指標からなる運転条件を示すデータである。
【0040】
演算処理部16は、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を有し、記憶部15から読み出したプログラムを実行することにより、運転計画の作成処理を実行するための各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理部16で実現される主な処理部として、データ取得部16A、運転指針条件設定部16B、定式化パターン選択部16C、定式化処理部16D、および運転計画作成部16Eが設けられている。
【0041】
データ取得部16Aは、上位網I/F11を介して上位装置40から、あるいは操作入力部12で検出したオペレータ操作に応じて、運転計画作成処理で用いる各種処理データを取得し、記憶部15へ登録する機能を有している。
【0042】
運転指針条件設定部16Bは、操作入力部12で検出したオペレータ操作に応じて、運転指針条件、指標を算出するための指標値算出関数、指標に対して求められる水準値を取得し、運転指針条件データ15Fとして記憶部15に設定する機能を有している。
例えば、需要エネルギーの供給に要するコストが指定した基準値以下とする、という運転指針条件の場合、コストが指標に相当し、コストを計算する関数式が指標値算出関数に相当し、基準値が水準値に相当する。
【0043】
定式化パターン選択部16Cは、操作入力部12で検出したオペレータ操作に応じて、入力された選択指示に基づいて、予め設定されている複数の定式化パターンから、運転指針条件を定式化する際に用いる定式化パターンを、運転指針条件ごとに選択する機能を有している。定式化パターンとは、設定された運転指針条件に関する目的関数および制約条件を示す定義式を生成するための処理パターンである。これら定式化パターンについては、改めて説明する。
【0044】
本発明は、この定式化パターンとして、従来のハード制約型パターンに目的関数を組み合わせたハード制約+目的型パターン(第1の定式化パターン)と、従来のソフト制約型パターンに目的関数を組み合わせたソフト制約+目的型パターン(第2の定式化パターン)からなる、2種類の新たな定式化パターンを有している。
【0045】
定式化処理部16Dは、運転指針条件に関する指標値算出関数および水準値を、定式化パターンに基づいて、運転指針条件を示す目的関数および制約条件の一般式に当て定式化することにより、運転指針条件ごとに定義式を生成し、これら定義式および記憶部15に記憶した各種データに基づき最適化問題を生成する機能を有している。
【0046】
運転計画作成部16Eは、各運転指針条件の目的関数および制約条件を示す定義式からなる最適化問題について最適化演算を実行することにより運転計画を作成する機能と、得られた運転計画を通信I/F部14を介して熱源運転制御システム30に運転計画を通知する機能とを有している。
【0047】
[定式化パターン]
定式化パターンとは、設定された運転指針条件に関する目的関数および制約条件を示す定義式を生成するための処理パターンである。本発明では、この定式化パターンとして、従来のハード制約型パターンに目的関数を組み合わせたハード制約+目的型パターン(第1の定式化パターン)と、従来のソフト制約型パターンに目的関数を組み合わせたソフト制約+目的型パターン(第2の定式化パターン)とからなる、2種類の新たな定式化パターンを提案する。
【0048】
すなわち、ハード制約+目的型パターンは、演算結果において、指標値が水準値より大きくなる解は実行不可能解となり、かつ、指標値が水準値より小さい範囲では目的関数の下界値の指標値に関する勾配がゼロより大きくなることを示す、目的関数および制約条件を生成する定式化パターンである。
【0049】
また、ソフト制約+目的型パターンは、演算結果において、指標値が水準より大きい範囲では目的関数の下界値が単調増加し、かつ、指標値が水準より小さい範囲では目的関数の下界値の指標値に関する勾配が、水準より大きい範囲での勾配より小さくなることを示す、目的関数および制約条件を生成する定式化パターンである。
【0050】
本実施の形態では、実際に運転指針条件を定式化する際に用いる定式化パターンとして、従来のハード制約型パターンおよびソフト制約型パターンに加えて、新たなハード制約+目的型パターンとソフト制約+目的型パターンとを用い、入力された選択指示に基づいて、これらのうちから運転指針条件ごとに定式化に用いる定式化パターンを選択して適用するようにしたものである。これにより、設定された運転指針条件に関する目的関数および制約条件を、より柔軟に定式化でき、エネルギー供給システム20に求められる各種の要請に応じた運転計画を作成することが可能となる。
【0051】
次に、本実施の形態で用いる4種類の定式化パターンについてそれぞれ説明する。なお、以下の説明で用いる変数は、次の通りである。
i:運転指針条件を特定するインデックス
x:設計変数(各機器の入力エネルギー量、出力エネルギー量を表す連続変数、発停を表す0−1整数変数、を含むベクトル)
f
i(x):運転指針条件iの指標値算出関数
b
i:f
i(x)の達成したい水準値(パラメータ)
z
i:定式化のために導入した変数
G
i(z
i):目的関数
γ
i:傾き補正パラメータ
【0052】
[ハード制約型パターン]
ハード制約型パターンは、運転指針条件において、指標値f
i(x)を必ず指定した水準値b
i以下にしたい場合であって、水準値b
i以下であればどの値でも優劣はないと判断することを表現する定義式を生成する定式化パターンである。
このハード制約型パターンによれば、目的関数G
i(z
i)を示す定義式は生成されず、制約条件を示す一般式f
i(x)≦b
iに具体的なf
i(x),b
iが当てはめられることにより定義式が生成される。
【0053】
[ソフト制約型パターン]
ソフト制約型パターンは、運転指針条件において、指標値f
i(x)を必ずしも指定した水準値b
i以下にする必要はないが、なるべく水準値b
i以下にしたい場合であって、水準値b
i以下であればどの値でも優劣はないと判断することを表現する定義式を生成する定式化パターンである。
このソフト制約型パターンによれば、目的関数を示す定義式としてG
i(z
i)=z
i(恒等関数)が生成され、制約条件を示す一般式z
i≧f
i(x)−b
iおよびz
i≧0に具体的なf
i(x),b
iが当てはめられることにより定義式が生成される。
【0054】
[ハード制約+目的型パターン]
ハード制約+目的型パターンは、運転指針条件において、指標値f
i(x)を必ず指定した水準値b
i以下に小さくしたい場合であって、さらに指標値f
i(x)は水準値b
iより小さければ小さいほどよいと判断することを表現する定義式を生成する定式化パターンである。
図3は、ハード制約+目的型パターンに関する定義式を示す説明図である。このハード制約+目的型パターンによれば、目的関数を示す定義式としてG
i(z
i)=z
i(恒等関数)が生成され、制約条件を示す一般式z
i≧f
i(x)およびf
i(x)≦b
iに具体的なf
i(x),b
iが当てはめられることにより定義式が生成される。
【0055】
[ソフト制約+目的型パターン]
ソフト制約+目的型パターンは、運転指針条件において、指標値f
i(x)を必ずしも指定した水準値b
i以下にする必要はないが、なるべく水準値b
i以下にしたい場合であって、さらに指標値f
i(x)は水準値b
iより小さければ小さいほどよいが、その要求の程度は水準を満たさない範囲での要求の程度より小さいことを表現する定義式を生成する定式化パターンである。
図4は、ソフト制約+目的型パターンに関する定義式を示す説明図である。このソフト制約+目的型パターンによれば、目的関数を示す定義式としてG
i(z
i)=z
i(恒等関数)が生成され、制約条件を示す一般式z
i≧f
i(x)−b
iおよびz
i≧γ
i・{f
i(x)−b
i}(0<γ
i<1)に具体的なf
i(x),b
i,γ
iが当てはめられることにより定義式が生成される。
【0056】
なお、γ
iは、0<γ
i<1の範囲の値をとる傾き補正パラメータである。水準値より小さい範囲における目的関数z
iの勾配の、水準値より大きい範囲における勾配に対する大きさの比率を表す。γ
iについては、運転指針条件ごとに、あるいはすべての運転指針条件に共通して、予め定義しておいたものを用いてもよく、オペレータが任意に設定してもよい。
【0057】
本実施の形態では、このようにして、各運転指針条件を定式化して得られた目的関数および制約条件を統合して、各目的関数の重み付き線形和を最適化演算の最終目的関数とするとともに、記憶部15の各種データにより定められる制約条件も含めた各制約条件を最終制約条件とすることにより、最適化問題を定義し、これを最適化演算で解くことにより、代表日Jの時刻Kにおける、熱源機器nの発停状況I
n(J,K)、出力エネルギー量y
n(J,K)、および購入エネルギー量p(J,K)を含む設計変数の値をそれぞれ特定して、運転計画を作成することになる。
【0058】
したがって、最適化問題は、すべての運転指針条件i(i=1,…,r)の集合をIとし、Iのうち定式化パターンがハード制約型である運転指針条件の集合をHとし、運転指針条件iに対する重み係数をw
iとし、運転指針条件以外の制約条件により定まるxの実行可能領域をXとし、運転指針条件iに関する制約条件をConstraints
iとした場合、次の式(1)で定義される。Xおよび全てのf
i(x)が線形式で表されていれば、上記の最適化問題は混合整数線形計画法で一般に用いられる最適化演算手法により解くことができる。
【0060】
なお、本実施の形態では、各運転指針条件の目的関数の重み付き線形和をとって目的関数を単一化し、混合整数線形計画法で解く例を示したが、重み付き線形和をとらずに目的関数を複数(多目的)のままとして、例えばGA(Genetic Algorithm)やPSO(Particle Swarm Optimization)などのメタヒューリスティクスアルゴリズムを最適化演算の手法として用いてもよい。この場合、重み付け係数の定義は不要である。
【0061】
また、重み係数w
iは、オペレータが値を設定してもよいが、設定された水準値b
iと、予め設定されているf
i(x)のとり得る値の最小値f
i*=minf
i(x)を用いて、w
i=1/(b
i−f
i*)と設定してもよい。
また、目的関数の下界が指標値に関する区分線形関数となるように定式化したが、非線形関数として定式化し、非線形最適化演算手法を用いて解いてもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、説明の便宜上、ハード制約型、ソフト制約型、ハード+目的型、ソフト+目的型の4つの定式化パターンを定義したが、定式化パターンの定義の仕方はこれに限らない。
【0063】
また、ハード制約+目的型において、水準より小さい範囲での目的関数の勾配をゼロより大きいものとし、ゼロとなるものを別の定式化パターンであるハード制約型として定義したが、ハード制約+目的型を水準以下での目的関数の勾配を、例えば制約条件z
i≧f
i(x)のf
i(x)の前に0以上の範囲で調整できるパラメータを掛けるなどして、ゼロにも設定できるものとして定義することにより、ハード制約型の定義を省いてもよい。
【0064】
同様に、ソフト制約+目的型において、水準より小さい範囲での目的関数の勾配をゼロより大きいものとし、ゼロとなるものを別の定式化パターンであるソフト制約型として定義したが、ソフト制約+目的型の水準より小さい範囲での目的関数の勾配をゼロにも設定できるものとして定義することにより、ソフト制約型の定義を省いてもよい。
【0065】
[第1の実施の形態の動作]
次に、本実施の形態にかかる運転計画作成装置10の動作について説明する。ここでは、運転指針条件として、以下に示す(1)コスト条件,(2)供給不足率条件,(3)同時運転台数条件,(4)総運転時間条件をなるべく満たすような運転計画を作成する場合を例として説明する。
【0066】
[オペレータの要求]
(1)コスト条件
・エネルギー供給に要する全コストをなるべく1e7(1000万)円以下にしたい。
・さらに、なるべく安くできれば望ましいが、1e7円を満たしていれば、他の運転指針条件の指標が水準を満たすことをある程度優先してほしい。
(2)供給不足率条件
・供給理想値に対する不足率は必ず5%以下にしてほしい。本実施例では、供給理想値は、需要予測値の+10パーセントとなっているものとする。
・不足率は0%に近づくほど望ましい。ただし、不足率はその定義において0%以上であるものとする。
【0067】
(3)同時運転台数条件
・需要エネルギーを最終的に供給する熱源機器の同時運転台数は、なるべく2台以下になるようにしたい。
・どうしても必要な場合(需要が大きい場合など)は3台以上動かしてもいい。
・2台以下なら2台でも1台でもいい。コスト等の他の運転指針条件に従って決めてよい。
(4)総運転時間条件
・熱源機器1の総運転時間は全期間で必ず5000時間以下にしたい。
・5000時間以下であれば何時間でも優劣はない。逆に短時間化して他の指標値の水準未達成量が増えると困る。
【0068】
次に、
図5および
図6を参照して、運転計画作成装置10における運転計画作成処理について説明する。
図5は、運転計画作成処理を示す説明である。
図6は、第1の実施の形態にかかる運転計画作成処理を示すフローチャートである。
運転計画作成装置10は、オペレータ操作に応じて、
図5および
図6の運転計画作成処理を実行する。なお、前提として、記憶部15には、計画対象期間データ15A、設備モデルデータ15B、契約データ15C、予測負荷データ15D、実績データ15Eが、予め設定されているものとする。
【0069】
まず、運転指針条件設定部16Bは、画面表示部13に設定画面を表示し、操作入力部12で検出されたオペレータ操作に応じて、運転指針条件である(1)コスト条件,(2)供給不足率条件,(3)同時運転台数条件,(4)総運転時間条件について、指標値算出関数および水準値を取得し、運転指針条件データ15Fとして記憶部15に設定する(ステップ100)。なお、指標値算出関数については、予め設定されているものをペレータ操作に応じて選択するようにしてもよい。
【0070】
次に、定式化パターン選択部16Cは、画面表示部13に設定画面を表示し、操作入力部12で検出されたオペレータ操作に応じて、運転指針条件ごとに、定式化に用いる定式化パターンを選択する(ステップ101)。
ここでは、前述したオペレータの要求により、(1)コスト条件,(2)供給不足率条件,(3)同時運転台数条件,(4)総運転時間条件に対して、ソフト制約+目的型、ハード制約+目的型、ソフト制約型、ハード制約型の定式化パターンを選択したものとする。
【0071】
この後、定式化処理部16Dは、記憶部15の運転指針条件データ15Fから、各運転指針条件に関する指標値算出関数および水準値を取得し、各運転指針条件の定式化パターンに基づいて、これら運転指針条件を示す目的関数および制約条件を定式化することにより、最適化演算に用いる定義式を生成する(ステップ102)。
【0072】
ここでは、例として、次のようなパラメータと変数を用い定式化を行うものとする。
[パラメータ]
J:計画対象の代表日を表すパラメータであり、計画対象期間データ15Aに含まれているものとする。1年間の運転について、同月内の日は同じ運転として計画するものとしJ=1〜12とする。すなわちJ=1〜12は各月を指すものとなる。
K:計画対象の時刻を表すパラメータであり、計画対象期間データ15Aに含まれているものとする。1時間毎の運転を計画するものとし、K=1〜24とする。
【0073】
days(J):代表日Jの日数を表すパラメータであり、計画対象期間データ15Aに含まれているものとする。本実施例では各月の日数となる。
dem(J,K):代表日Jの時刻Kにおける需要予測値を表すパラメータであり、予測負荷データ15Dに含まれているものとする。
N:需要エネルギーを最終的に供給する熱源の台数を表すパラメータである。
【0074】
c(J,K):代表日Jの時刻Kにおける購入エネルギーの時間単価を表すパラメータであり、契約データ15Cに含まれているものとする。
idealSupply(J,K):供給量の理想値を表すパラメータである。本実施例では、需要予測値に対して10%の安全をみて、idealSupply(J,K)=dem(J,K)*1.10で定義されているものとする。
【0075】
b
c:コストの希求水準を示すパラメータであり、ユーザの入力により設定されるものとする。
b
s:供給不足率の希求水準を示すパラメータであり、ユーザの入力により設定されるものとする。
b
onNum:運転台数の希求水準を示すパラメータであり、ユーザの入力により設定されるものとする。
b
totalOnTime:熱源機器1の総運転時間の希求水準を示すパラメータであり、ユーザの入力により設定されるものとする。
w
c:コスト条件の重み係数を示すパラメータである。
w
s:供給不足率の重み係数を示すパラメータである。
w
onNum:運転台数の重み係数を示すパラメータである。
【0076】
[変数]
y
n(J,K):代表日Jの時刻Kにおける、需要エネルギーを最終的に供給する熱源機器nの出力エネルギー量を表す実数変数である。
I
n(J,K):代表日Jの時刻Kにおける、需要エネルギーを最終的に供給する熱源機器nの発停を表す0−1整数変数(0:停止, 1:稼働)である。
p(J,K):代表日Jの時刻Kにおける購入エネルギーの量を表す実数変数である。
supply(J,K)代表日Jの時刻Kにおける供給エネルギー量の総計を表す実数変数である。
【0077】
f
c:運転計画の作成対象となる全期間における総コストを表す実数変数である。
f
s(J,K):代表日Jの時刻Kにおける供給不足率を表す実数変数である。
f
onNum(J,K):代表日Jの時刻Kにおける運転台数を表す実数変数である。
f
totalOnTime:熱源機器1の総運転時間を表す実数変数である。
x(J,K):代表日Jの時刻Kにおける、y
n(J,K),I
n(J,K),p(J,K)を含む全ての設計変数を並べたベクトルである。
【0078】
次に、定式化処理部16Dにおける運転指針条件、すなわち(1)コスト条件,(2)供給不足率条件,(3)同時運転台数条件,(4)総運転時間条件に関する定式化処理の具体例について、それぞれ説明する。
【0079】
(1)コスト条件
運転計画の作成対象となる全期間における総コストf
cは、次の式(2)により定義されているものとし、コストの希求水準b
cはオペレータ入力に従い、b
c=1e7と定義する。
【数2】
【0080】
この際、(1)コスト条件に関する定式化パターンとして、ソフト制約+目的型が選択されているので、目的関数および制約条件について、次の式(3)に示す定義式が生成される。なお、傾き補正パラメータγ
cは、例えばγ
c=1e(−4)と定義されているものとする。
【数3】
【0081】
(2)供給不足率条件
代表日Jの時刻Kにおける供給不足率f
s(J,K)および供給エネルギー量総計supply(J,K)は、次の式(4)により定義されているものとし、供給不足率の希求水準b
sはオペレータ入力に従い、b
s=5と定義する。
【数4】
【0082】
この際、(2)供給不足率条件に関する定式化パターンとして、ハード制約+目的型が選択されているので、目的関数および制約条件について、次の式(5)に示す定義式が生成される。
【数5】
【0083】
(3)同時運転台数条件
代表日Jの時刻Kにおける運転台数f
onNum(J,K)は、次の式(6)により定義されているものとし、同時運転台数の希求水準b
onNumはオペレータ入力に従い、b
onNum=2と定義する。
【数6】
【0084】
この際、(3)同時運転台数条件に関する定式化パターンとして、ソフト制約型が選択されているので、目的関数および制約条件について、次の式(7)に示す定義式が生成される。
【数7】
【0085】
(4)総運転時間条件
熱源機器1の総運転時間f
totalOnTimeは、次の式(8)により定義されているものとし、熱源機器1の総運転時間の希求水準b
totalOnTimeはオペレータ入力に従い、b
totalOnTime=5000と定義する。
【数8】
【0086】
この際、(4)総運転時間条件に関する定式化パターンとして、ハード制約型が選択されているので、目的関数は生成せず制約条件として、次の式(9)に示す定義式が生成される。
【数9】
【0087】
本実施の形態では、最適化演算手法として、混合整数線形計画法を用いるため、定式化処理部16Dは、定式化により得られた各目的関数の重み付き線形和をとり、次の式(10)に示す最終目的関数Fを生成する。この際、重み係数w
c,w
s,w
onNumは、それぞれの運転指針条件の重要度に応じてオペレータが任意に値を指定するものとする。
【数10】
【0088】
このようにして、最適化問題が生成された後、運転計画作成部16Eは、各運転指針条件の目的関数および制約条件を示す定義式、および記憶部15の各種データから定められる制約条件からなる最適化問題について最適化演算を実行する(ステップ103)。本実施の形態では、求解法については、混合整数線形計画法で用いられる一般的な求解法を用いる。
【0089】
続いて、運転計画作成部16Eは、得られた最適化演算結果を運転計画を示す情報として画面表示部13で画面表示する。この後、オペレータ操作に応じて、通信I/F部14を介して熱源運転制御システム30に運転計画を通知し(ステップ104)、一連の運転計画作成処理を終了する。
なお、以上では、最適化演算が制約条件のもとで目的関数の値を最小化する演算である場合を例として説明したが、目的関数の値を最大化する演算であっても同様にして適用できる。
【0090】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、運転指針条件設定部16Bが、運転指針条件ごとに指標値算出関数および水準値を設定するとともに、定式化パターン選択部16Cが、入力された選択指示に基づいて、予め設定されている複数の定式化パターンから、運転指針条件を定式化する際に用いる定式化パターンを選択し、定式化処理部16Dが、運転指針条件に関する指標値算出関数、水準値、および定式化パターンに基づいて、運転指針条件を示す目的関数および制約条件を定式化するようにしたものである。
【0091】
これに加えて、定式化パターンとして、最適化演算が制約条件のもとで目的関数の値を最小化(最大化)する演算である場合、演算結果において、指標値が水準値より大きくなる解は実行不可能解となり、かつ、指標値が水準値より小さい範囲では目的関数の下界値(上界値)の指標値に関する勾配がゼロより大きく(小さく)なることを示す定義式を生成する第1の定式化パターンと、演算結果において、指標値が水準値より大きい範囲では目的関数の下界値が単調増加(単調減少)し、かつ、指標値が水準値より小さい範囲では目的関数の下界値の指標値に関する勾配が、ゼロより大きく(小さく)水準値より大きい範囲での勾配より小さく(大きく)なることを示す定義式を生成する第2の定式化パターンの、少なくともいずれか一方または両方を含むようにしたものである。
【0092】
したがって、第1の定式化パターンによれば、運転指針条件に対して指数値を指定した水準値より必ず小さくしたい場合であって、かつ、指数値が水準値より小さければ小さいほど望ましい、という定式化条件を適応することができる。これにより、例えば、需要エネルギーに対する供給不足率を水準値以下としたい場合、供給不足率が水準値以下であって、かつ、なるべく供給不足率の低い運転計画を得ることが可能となる。
【0093】
また、第2の定式化パターンによれば、運転指針条件として、指数値を指定した水準値より必ずしも小さくする必要はないが、なるべく水準未達成量を小さくしたい場合であって、かつ、指数値が水準値より小さければ小さいほど望ましいが、この要求程度は水準値を満たさない範囲よりは小さい、という定式化条件を適応することができる。これにより、例えば、総コストを水準値以下としたい場合、指定された水準値を超えて、さらに総コストが小さい運転計画を得ることが可能となる。
【0094】
また、これら第1および第2の定式化パターンの両方を含む場合には、ユーザ(オペレータ)が、これらの定式化パターンのうちから、運転指針条件に対して適切な任意の定式化パターンを選択できる。これにより、ユーザの要求を、より正確に最適化問題の定式化に反映させることが可能となるため、ユーザの要求に極めて近しい運転計画を得ることができる。
【0095】
また、本実施の形態において、運転指針条件に関する目的関数および制約条件を定式化する際、水準値より小さい範囲における目的関数の勾配を、運転指針条件以外の他の運転指針条件の水準未達成量を増加させない程度に小さい値に設定するようにしてもよい。
これにより、第1および第2の定式化パターンをハード制約型パターンやソフト制約型パターンと同等の定式化パターンとして用いることができ、ユーザの要求に柔軟に対応することができる。
【0096】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態にかかる運転計画作成装置10について説明する。
前述した
図6では、各運転指針条件に関する定式化パターンを、オペレータが選択指示によりそれぞれ設定する場合について説明した。本実施の形態では、選択指示によりいずれの定式化パターンも選択されていない運転指針条件に対して、ソフト制約+目的型パターン(第2の定式化パターン)を自動選択するようにしたものである。ただし、定式化パターンが選択されていない運転指針条件に対しても、指標値に対して求める水準は設定されているものとする。
【0097】
図7は、第2の実施の形態にかかる運転計画作成処理を示すフローチャートであり、
図6と同じまたは同等部分には同一符号を付してある。
すなわち、定式化パターン選択部16Cが、オペレータ選択指示に基づいて、任意の運転指針条件について指定された定式化パターンを選択し(ステップ200)、未選択の運転指針条件に対して、ソフト制約+目的型パターン(第2の定式化パターン)を自動選択する(ステップ201)。
この場合、すべての運転指針条件に対してソフト制約+目的型パターンを自動的に先に選択しておき、オペレータが選択指示した運転指針条件だけを、後から指示された定式化パターンに変更してもよい。
【0098】
これにより、定式化パターンを選択する作業を削減しつつ、1回の最適化演算で、定式化パターンの選択指示されていなかった運転指針条件の制約条件以外の制約条件に実行可能解があれば解が得られる。さらに、得られた解は、定式化パターンが選択指示されていなかった各運転指針条件の指標値を設定された水準を超えて最小化することよりも各運転指針条件の指標値が水準を満たすことをある程度優先しつつ、定式化パターンが選択指示された運転指針条件も鑑みて、なるべく水準を超えて最小化されるため、ユーザの要求により近い解を得ることができる。
【0099】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態にかかる運転計画作成装置10について説明する。
前述した第2の実施の形態では、最適化演算が1回だけを想定しているが、これにより得られる解は、定式化パターンが選択されていない運転指針条件のすべてについて水準値を満たすことが優先された解となっているとは限らない。
【0100】
図8は、第3の実施の形態にかかる運転計画作成処理を示すフローチャートであり、
図6と同じまたは同等部分には同一符号を付してある。
本実施の形態では、まず、定式化パターン選択部16Cが、オペレータ選択指示に基づいて、任意の運転指針条件について指定された定式化パターンを選択し(ステップ300)、未選択の運転指針条件に対してそれぞれソフト制約型パターン(第3のパターン)を自動選択する(ステップ301)。
【0101】
ソフト制約型パターン(第3のパターン)は、運転計画作成部16Eでの最適化演算が、目的関数の値を最小化(最大化)する最適化演算である場合、指標値が水準値より大きい範囲では目的関数の下界値が単調増加(上界値が単調減少)し、かつ、指標値が水準値より小さい範囲では指標値がゼロとなることを示す、目的関数および制約条件を生成する定式化パターンである。
【0102】
この後、最適化演算を実行し、得られた演算結果のうち、定式化パターンを自動選択したすべての運転指針条件において、指標値が水準値を満たしている場合には(ステップ302:YES)、定式化パターンを自動選択した運転指針条件に対してそれぞれハード制約+目的型パターン(第1の定式化パターン)を自動選択し直して(ステップ303)、定義式を再生成し(ステップ304)、最適化演算を再実行して(ステップ305)、得られた演算結果に基づいて運転計画を示す情報を出力する。
【0103】
一方、得られた演算結果において、定式化パターンを自動選択した運転指針条件のうち、ある運転指針条件の指標値が水準値を満たしていない場合には(ステップ302:NO)、得られた演算結果に基づいて運転計画を示す情報を出力する。
【0104】
これにより、第2の実施の形態と比べ、最大で2回の最適化演算が必要となるが、定式化パターンが選択指示されていない運転指針条件の全てについて、指標が水準値を満たすことが、水準値超えて最小化することよりも優先された解が得られる。また、それらの指標は、定式化パターンが選択指示された運転指針条件も鑑みて、さらになるべく水準を超えて最小化されるため、ユーザの要求により近い解を得ることができる。
【0105】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。