(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や車両駆動用電源、住宅用蓄電装置等として用いられている。特に近年では、大容量でかつハイレートでの充放電を行う、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、非水電解液二次電池が好ましく用いられている。
【0003】
この二次電池の充電に際しては、負極の表面にSEI被膜(Solid-Electrolyte Interface,固体−電解液界面膜)が形成されることが知られている。例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質が炭素系材料の場合、その反応性の高さから、所定の電位以上で電解液成分が分解されやすくなる。分解された電解液成分は、負極活物質の表面に被膜となって堆積する。この被膜は、炭素系材料の表面の安定化および不活性化を図り、電解液成分の更なる分解を抑制する。そのため、負極により良質な被膜を形成する目的で、充電時に還元分解されて被膜を形成する化合物を非水電解液中に添加することも行われている(例えば特許文献1参照)。この場合、被膜は、電解液成分と上記化合物との反応物により構成されると考えられる。
【0004】
このような電解液成分および化合物(以下、単に「被膜形成剤」という。)は、二次電池の初期充電の際に被膜を形成する。したがって、二次電池の製造に際しては、組み立て後の電池に対して所定の充電処理を行い、電池を活性化するとともに負極の表面に適切な被膜を形成する初期充電工程が行われる。初期充電では、被膜形成剤の分解に伴い、電池ケース内にH
2,CO等のガスが発生する。また、初期充電における充電電流(充電レート)は、概ね1C以下程度に抑える方が、より均質なSEI被膜を形成できて好ましいことが知られている。しかしながら、製造時間の短縮の観点からは、初期充電工程は短時間で完了することが望ましい。そこで、例えば特許文献2には、1.4C以上6C以下の高い充電レートで初期充電を行い、負極表面にSEI被膜が形成される電圧範囲で少なくとも1回の微小休止期間を設けることが開示されている。これにより、初期充電時間の短縮と、良質なSEI被膜の形成との両立が可能であると記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明に係る蓄電装置について、好適な実施形態に基づき説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない二次電池構造等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、下記に示す図面における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書中で範囲を示す「X〜Y」との表記は、特にことわりの無い限り、「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
電池製造においては、例えば、組立後の二次電池に対して初期充電を行う。初期充電工程では、組立後の二次電池をその作動上限電位(充電上限電位)にまで充電する。本発明者らは、二次電池を所定の電位にまで充電するに際し、負極に形成される被膜態様と充電態様との関係について詳細に検討して以下の知見を得た。まず、
図5(a)(b)は、二次電池がリチウムイオン二次電池の場合の被膜形成時の負極の様子を説明する断面模式図である。図中の粒状物が負極活物質を、この負極活物質の集合(結合体)が負極活物質層を、負極活物質の輪郭(表面)部分のより太い箇所が被膜を、それぞれ表している。負極活物質層は、シート状の負極集電体の表面に結合されている。二次電池の充電に際し、負極電位が被膜形成剤の分解電位以上となると、負極活物質の表面に分解生成物としての被膜が形成される。充電レートが低いローレート充電の場合は、
図5(a)に示されるように、リチウムイオンや被膜形成剤成分(以下、リチウムイオン等という場合がある。)は負極活物質層の外部(表面)から内部(集電体およびその近傍)にまで十分に浸透して、負極活物質層の厚み方向に概ね均一な厚みで被膜を形成する。その結果、負極活物質層の厚み方向で、リチウムイオンの充放電特性が均質となり、二次電池の内部抵抗を低く抑えることができる。ただし、ローレートでの充電では、充電上限電位までの充電時間が長くなってしまう。なおここで、ローレートとは、約2C以下(典型的には1C以下)の充電レートでの充電を意味する。また、初期充電は、例えば、0.01C〜1C程度の電流で行われる。
【0014】
これに対し、充電レートが高いハイレートで充電する場合は、負極電位がリチウムイオン等の分解電位に達するのも速い。また、ハイレートでの充電では、リチウムイオン等が瞬時かつ大量に負極側に移動する。そして、充電レートが高くなればなるほど、負極活物質の表面における被膜の形成速度も速くなるとの事情がある。そのため、
図5(b)に示されるように、負極活物質層の表面に到達した大量のリチウムイオン等は、到達したものから順次、負極活物質の表面で電解液成分等と反応して被膜を形成する。つまり、リチウムイオン等は、内部領域に浸透する前に負極活物質層の表面近傍で高濃度に集積し、被膜を形成し始める。負極活物質層は多孔質構造ではあるものの、その他の部位と比較するとリチウムイオン等が移動するためのパス(経路)は狭く、負極活物質層の厚み方向で表面近傍よりも集電体に近い内部領域にまでの浸透は困難である。したがって、表面近傍に被膜が形成されると、リチウムイオン等は内部領域までさらに浸透し難くなってしまう。その結果、負極活物質層の表面近傍においては、厚みの厚い被膜が負極活物質の表面に形成される。その一方で、負極活物質層のそれ以外の部位、つまり内部領域では、負極活物質の表面の被膜の厚みが薄くなるか、あるいは被膜が殆ど形成されない。つまり、負極活物質層の厚み方向で、被膜の形成態様にムラが発生することが確認されている。
なお、ハイレートとは、上記のローレートよりも高い充電レートをいう。典型的には1Cを超える充電レートを包含し、例えば1.4C以上、好ましくは1.5C以上、より好ましくは2C以上、特に好ましくは4C以上の電流を意味する。なおハイレートの電流に上限はないが、例えば、100C以下程度を目安とすることができる。
【0015】
上記の被膜の形成形態のムラは、ハイレート充電によるものであるが、例えば1Cを超えるハイレートでの充電においては、個々の電池ごとに被膜が形成される電圧範囲を正確かつ具体的に絞り込むのは困難である。したがって、例えば、特許文献1の技術を適用しても、充電の微小休止期間を設けるべきタイミングを適切に決定することも困難である。その結果、
図6に示すように、たとえハイレート充電の途中に微小休止期間を設けたとしても、その前後の被膜形成電位範囲においてハイレート充放電が行われ得るため、負極活物質層の厚み方向での被膜の形成ムラの低減については、なお改善の余地があると考えられる。そこで、本発明では、蓄電装置を用い、二次電池を充電するに際し、負極における被膜の形成ムラの発生のタイミングと、負極における被膜の形成ムラが発生し難くなるタイミングと、をそれぞれより正確に検知し、かかる検知結果に基づいて、被膜の形成の様子に適した充電レートでの充電を行うようにしている。
【0016】
図1は、一実施形態に係る蓄電装置1の構成を示す概念図である。蓄電装置1は、蓄電手段10と、ガス発生検知手段20と、制御部30と、二次電池50とを備えている。制御部30は、第1充電制御部31、第2充電制御部32、第3充電制御部33、第1判断部34および第2判断部35を備えている。また、本例の蓄電装置1は、充電電位と充電電流とを確認するために、電圧計11および電流計12を備えている。
【0017】
ここで、まず、充電の対象である二次電池50の構成について簡単に説明する。二次電池50は、具体的には図示しないが、電池ケース51内に、発電要素である積層型電極体と、非水電解液とが収容されて密閉されている。積層型電極体は、正極集電体と正極活物質層とを備えた複数の正極板と、負極集電体と負極活物質層を備えた複数の負極板とが、それぞれセパレータを介して対向するように交互に重ねられている。活物質層は通常、終電体の両面に備えられる。1枚の正極板の一方の面の正極活物質層と、1枚の負極板の一方の面の負極活物質層とが、1枚のセパレータを介して重ね合わされることで1つの発電要素が構成される。そして、これらの要素が、順に複数積層されることで、積層型電極体が構成されている。非水電解液は、例えば非水溶媒と、非水溶媒に溶解して電荷担体を発生する支持塩(例えばリチウム塩)と、必要に応じて被膜形成添加剤とを含む。非水電解液は、積層型電極体のうちの正極活物質層、負極活物質層およびセパレータに含浸されている。また、非水電解液は、積層型電極体に含浸されたもの以外に、積層型電極体と電池ケース51との間の空間にも存在している。
【0018】
正極活物質層は正極活物質を含む。正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料であって、リチウム元素と一種または二種以上の遷移金属元素を含むリチウム含有化合物を好適に用いることができる。例えば、層状岩塩型またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物が好適例として挙げられる。かかるリチウム遷移金属酸化物は、具体的には、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO
2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO
2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn
2O
4)、或いは、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)のような三元系リチウム含有複合酸化物であり得る。正極集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金等が好適に用いられる。
【0019】
負極活物質層は負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な、炭素系材料、酸化物系材料、合金材料および非晶質材料等の各種の材料の1種または2種以上を採用することができる。負極活物質としては、典型的には、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料が好適例として挙げられる。具体的には、天然黒鉛および天然黒鉛に非晶質炭素をコーティングした非晶質炭素被覆黒鉛などが好ましい。負極集電体としては、銅または銅合金等が好適に用いられる。なお、ここに開示される技術は、この負極活物質層の厚み方向により均質に被膜を形成することができる。そのため、負極活物質層の厚みの厚い二次電池に特に好適に適用できる。かかる電池とは、例えば、負極活物質層の平均厚みが約5μm以下の小型二次電池を除く、比較的大容量および/または高出力の電池(換言すると、負極活物質層の平均厚みが約5μm超過(例えば10μm以上)の電池)であり得る。典型的には、車載用の大容量電池等がこれに相当する。
【0020】
非水電解液としては、典型的には、非水溶媒中に支持塩(例えば、リチウムイオン二次電池ではリチウム塩)を溶解または分散させたものを採用し得る。非水溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の各種の有機溶媒の1種または2種以上を特に制限なく用いることができる。例えば、具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等である。支持塩としては、一般的な非水電解液二次電池に用いられる各種のもののうち、1種または2種以上を適宜選択して使用することができる。例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、Li(CF
3SO
2)
2N、LiCF
3SO
3等のリチウム塩を用いることが例示される。支持塩は、非水電解液における濃度が0.7mol/L〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0021】
被膜形成添加剤は必須ではないが、安定な二次電池を形成するために好ましく用いられる。被膜形成添加剤は、電池の製造時において非水電解液中に含まれるものの、典型的には初期充電工程中に電極(典型的には負極)の表面で分解されて被膜を形成し得る各種の化合物を用いることができる。すなわち初期充電後の二次電池において、被膜形成添加剤は当初の形態を有さない。被膜形成添加剤の分解電位は特に制限されないが、非水溶媒よりも分解電位が低く、非水溶媒が分解されるに先立って分解されることが好ましい。好適例として、被膜が形成される始める電池電圧が、リチウム基準で、約3.5V以上4V以下の、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等が挙げられる。
【0022】
正極集電体および負極集電体のそれぞれには、集電のためのタブが設けられている(
図1参照)。正極集電体のタブは電極体の一方の端部に、負極集電体のタブは電極体の他方の端部に、それぞれ突出するように重ね合わされている。電池ケース51は、上記積層型電極体を挿入するための開口を備えるケース本体と、ケース本体の上記開口を封止している封口体と、を含んでいる。封口体には、電池ケース51の内部と外部とを電気的に接続する正極外部端子および負極外部端子が設けられている。電池ケース51を封口体が上面となるように水平面に置いたとき、積層型電極体は電極板の面が垂直方向となり、タブが上方に位置するように、電池ケース51内に収容されている。正極集電体のタブは、封口体に設けられた外部正極端子に電気的に接続されている。負極集電体のタブは、封口体に設けられた外部負極端子に電気的に接続されている。正極外部端子および負極外部端子を介して外部から電力が供給されることで、二次電池50は充電される。また、二次電池50は、正極外部端子および負極外部端子を介して外部に電力を供給することができる。
【0023】
蓄電手段10は、二次電池50を充電する装置である。蓄電手段10は、図示しない発電部と、二次電池50の正極外部端子および負極外部端子のそれぞれに電気的に接続可能な接続部とを備える。なお、発電部については、自身が発電機能を備えていてもよいし、外部電源を搭載したり外部電源に接続されたりするための構成部材であってもよい。蓄電手段10は、制御部30に接続されている。蓄電手段10は、制御部30によってその動作が制御される。
【0024】
ガス発生検知手段20は、蓄電手段10による充電によって二次電池50内の非水電解液中において起こるガスの発生を、AE法に基づき検知する。ガスの発生に際して、二次電池50から微小なエネルギーを持つ弾性波が放出される。ガス発生検知手段20は、このガス発生に起因する弾性波を検出する。ガス発生検知手段20は、AEセンサ21、アンプ22を備えている。ガス発生検知手段20は、制御部30に接続されている。ガス発生検知手段20は、制御部30によってその動作等が制御される。
【0025】
AEセンサ21は、上記のガス発生に基づく弾性波を受け、アコースティック・エミッション信号(AE信号)として電気信号に変換して出力する。AEセンサ21は、受ける押圧力に応じた電圧信号を検出する圧電素子によって構成されている。本実施形態で使用したAEセンサ21は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなるセラミック製圧電素子である。このAEセンサ21は、10〜2000kHzの超音波帯域の弾性振動に対して高い感度を持つ。AEセンサ21は、ガス発生に伴う弾性波を、瞬時かつ高精度に検出することができる。このAEセンサ21は、二次電池50の電池ケース51の表面に直接に固定したり、二次電池50を保持する保持部材に固定したりすることができる。アンプ22は、AEセンサ21の出力信号(以下、「AE信号」という)を増幅するものである。アンプ22で増幅されたAE信号は、制御部30に送られる。
【0026】
制御部30は、蓄電手段10と、ガス発生検知手段20とにそれぞれ電気的に接続されており、蓄電装置1の全体の動作を包括的に制御する。制御部30の構成は特に限定されない。制御部30は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されない。マイクロコンピュータのハードウェア構成は、具体的には図示しないが、例えば、外部機器とのデータの送受信を可能とするインターフェイスと、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(central processing unit:CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや造形データ等の各種データを格納するメモリ等の記憶部と、を備えている。制御部30は、インターフェイスを介して、ホストコンピュータ等から二次電池50の情報等を受信したり、ガス発生検知手段20による検出結果等を出力したりすることができる。制御部30が包含する第1充電制御部31、第2充電制御部32、第3充電制御部33、第1判断部34および第2判断部35は、いずれも独立して、ハードウェア(例えば、回路)により構成されていてもよいし、CPUがコンピュータプログラムを実行することにより機能的に実現されるように構成されていてもよい。
【0027】
第1判断部34は、ガス発生検知手段20から送られるAE信号に基づいて、二次電池50の負極表面に被膜が形成されたことを判断する。第2判断部35は、ガス発生検知手段20から送られるAE信号に基づいて、二次電池50の負極表面で被膜が形成されなくなったことを判断する。充電により、負極の電位が電解質や被膜形成剤の分解電位以上となると、電解質や被膜形成剤が分解されて被膜が形成される。この被膜の形成にはガスの発生が伴う。また、充電により、全ての被膜形成剤の分解が終了すると、被膜がそれ以上形成されずに、ガスの発生が停止する。したがって、ガスの発生の有無により、被膜の形成が進行しているかどうかを判断することができる。このことから、第1判断部34は、AE信号に基づいて、二次電池内部でガスが発生したことをもって、負極表面に被膜が形成されたと判断することができる。また、第2判断部35は、第1判断部34が被膜の形成を判断した後に、AE信号に基づいて、二次電池内部でのガスの発生が終了したことをもって、負極表面で被膜が形成されなくなったと判断することができる。
【0028】
ここで、AE信号について簡単に説明する。
図2Aは、横軸を時間[μs]とし縦軸をAE信号の値[V]としたグラフである。
図2Aの縦軸は中央にゼロ点を置いている。二次電池50が発するAE信号は、ガス発生による気泡の生成が起きていない「通常期間」は、ほとんどゼロまたはノイズである。これは、二次電池50の充放電自体は電気化学反応であり、機械的な運動を伴わないからである。しかし、二次電池50内でガスが発生し、気泡が生成されると、この事象に起因して系に生じるひずみエネルギーが弾性波として放出される。この弾性波をガス発生検知手段20が検知することで、AE信号の値は通常期間よりも大きく振幅する。例えば
図2Aに示すように1粒の気泡の生成が終了すると、AE信号は再び通常期間に戻る。本明細書では、この一つの気泡の発生を「一事象」とよぶ。例えば、二次電池内の気泡の発生を一事象とする弾性波の振幅時間(継続時間)は、例えば1マイクロ秒〜4マイクロ秒程度である。
図2A中の縦軸のT1は、対象事象が発生しているか否かを識別するための閾値である。弾性波形は概ね正負の領域で対称と考えてよいことから、本例では正の信号についてのみ閾値T1を設けている。したがって、AE信号として、閾値T1よりも小さかった信号が、閾値T1よりも大きくなったことをもって、気泡が発生したと判断することができる。また、AE信号として、閾値T1よりも大きかった信号が、閾値T1よりも小さくなったことをもって、気泡の発生が終了したと判断することができる。
【0029】
なお、AE信号にはノイズが含まれ得る。また、通常、充電時における気泡の発生は、1つずつ起こるだけでなく複数が同時に発生し得る。複数の気泡が発生すると、
図2Aの一事象に相当する波形がそれぞれの気泡の発生タイミングで重畳し、信号値が増大する。このことから、ノイズではなく確実に気泡が発生したと判断するために、閾値T1を一つの気泡の発生を検出するための閾値よりも高く設定してもよい。閾値T1の絶対値は、AEセンサ21の精度等に基づき、アンプ22等によって増幅された後の波形において、通常期間と、検出したい事象の起こった期間とを適切に区別できるように、適宜設定することができる。あるいは、AE信号が閾値T1を超えた信号(ピーク)を1つと計測し、所定の時間内にカウントされるAE信号の数が閾値T2を超えたときに、気泡が発生した、すなわち被膜が形成されたと判断してもよい。
【0030】
また、AE信号は、基本的に、その電圧値を2乗することでエネルギー値に変換することができる。
図2Bは、
図2AにおけるAE信号値の2乗値[V
2]、すなわちエネルギー値を算出して示している。ここでは、
図2AにおいてAE信号が閾値T1よりも高くなった、一事象に対応する領域についての結果のみを示している。このようなAE信号のエネルギー値は、上記の通常期間と、検出したい事象の起こった期間との区別をより正確かつ容易にする。例えば、閾値T1をより頻度(ここでは2乗値)の高いものとして設定して、気泡の発生と終了とを判断することができる。したがって、上記のAE信号に基づく、気泡の発生とその終了とは、AE信号の2乗値(エネルギー値)を利用して行ってもよい。換言すると、負極表面で被膜が形成されている(形成されるようになった)ときと、負極表面で被膜が形成されなくなったときと、はAE信号の2乗値(エネルギー値)を利用して判断してもよい。これらの判断のための計算は、例えば、第1判断部34および第2判断部35のそれぞれで行ってもよいし、別途AE信号を処理するAE信号処理部(図示せず)を設けるなどして行ってもよい。
【0031】
図3は、横軸を、蓄電手段10により二次電池50に充電する際の充電の時間とし、縦軸を二次電池50の電圧[V]としたグラフである。このグラフにおいて、蓄電手段10により充電を開始した時をt0とする。また、蓄電手段10による充電の開始後、第1判断部34が、被膜が形成されていると判断したとき(以下、被膜形成開始時という)をt1とする。そして、被膜形成開始時t1の後、第2判断部35が、被膜が形成されなくなったと判断したとき(以下、被膜形成終了時という)をt2とする。
【0032】
図3の縦軸にIで示した領域は、充電が開始されてから負極に被膜が形成され始めるまでの期間(t0〜t1)である。縦軸にIIで示した領域は、負極に被膜が形成され始めてから被膜の形成が終了するまでの被膜形成期間(t1〜t2)である。縦軸にIIIで示した領域は、負極への被膜の形成が終了した後の期間(t2〜)である。領域IおよびIIIでは被膜は形成されない。そのため、負極活物質層の厚み方向における被膜の形成ムラを心配する必要が無い。そこで、蓄電装置1は、領域Iであるt0〜t1の期間および領域IIIであるt2以降の期間においては、ハイレートで二次電池50の充電を行うことができる。一方、領域IIでは被膜が形成される。したがって、蓄電装置1は、負極活物質層の厚み方向における被膜の形成ムラが生じない程度の充電レートで充電することがよい。そこで、蓄電装置1は、領域IIであるt1〜t2の期間においては、被膜の形成ムラが生じない程度の充電レートで二次電池50の充電を行うことができる。制御部30は、かかる充電を実現するように、蓄電手段10の駆動を制御する。
【0033】
具体的には、まず、第1充電制御部31は、蓄電手段10に電気的に接続されている。第1充電制御部31は、蓄電手段10の動作を制御する。第1充電制御部31は、蓄電手段10に対し、1Cを超えるハイレートの第1充電レートで二次電池50に充電することを指示する。第1充電レートは、ユーザーがあらかじめ設定した値であってよい。本実施形態において、第1充電レートは、4Cとした。これにより、蓄電手段10は、第1充電レートでの二次電池50のハイレート充電を開始する。
【0034】
第2充電制御部32は、蓄電手段10に電気的に接続されている。第2充電制御部32は、蓄電手段10の動作を制御する。第2充電制御部32は、第1判断部34が被膜の形成を判断した被膜形成開始時t1に、蓄電手段10による充電レートを第1充電レートから、第2充電レートに低減する。第2充電レートは、第1充電レートよりも低い電流値である。これにより、蓄電手段10は、被膜形成開始時t1の後、第2充電制御部32の指示に基づき、第2充電に切り替えて二次電池50の充電を行う。第2充電レートは、例えば、2C以下で予め決定されている任意のローレートであってもよい。本実施形態において、第2充電レートは、予め0.8Cに設定した。これにより、蓄電手段10は、第2充電レートでの二次電池50のローレート充電を開始する。
【0035】
第3充電制御部33は、蓄電手段10に電気的に接続されている。第3充電制御部33は、蓄電手段10の動作を制御する。第3充電制御部33は、第2判断部35が被膜が形成されなくなったと判断した被膜形成終了時t2に、蓄電手段10による充電レートを第2充電レートから、第3充電レートに増大する。第3充電レートは、第2充電レートよりも高い電流値である。これにより、蓄電手段10は、被膜形成終了時t2の後、第3充電制御部33の指示に基づき、第3充電レートで二次電池50の充電を行う。第3充電レートは、1Cを超過し、上記ローレートよりも高い充電レートであれば特に制限されない。第3充電レートは、例えば、1.4C以上、好ましくは2C以上(2C超過)であって、例えば6C以下程度の範囲で予め決定されている任意のハイレートであってもよい。本実施形態において、第3充電レートは、予め4Cに設定した。なお、第3充電レートは、例えば、第1充電レートと同じレートとしてもよいし、第1充電レートとは異なるレートとしてもよい。
【0036】
この蓄電装置1によると、以下の手順で二次電池50に対して短時間で良好な被膜を形成しながら充電を行うことができる。すなわち、まず、蓄電装置1の正極接続部と負極接続部とを、組立後の二次電池50の外部正極端子と外部負極端子とに接続する。また、二次電池50の電池ケース51の外表面に、ガス発生検知手段20のAEセンサ21を取り付ける。AEセンサ21は、受信面が電極面と並行で、かつ、電極面の中心に位置するように、扁平角型の電池ケース51の最も広い面の略中心に装着するとよい。そして、AEセンサ21で二次電池50内に発生するAE信号を検知しながら、蓄電手段10によって二次電池50に充電を開始する。本例では、
図3に示すように、第1充電制御部31が、充電開始時t0において、充電レートを上記のとおり4Cのハイレート定電流充電として充電を開始した。これにより、二次電池50の積層型電極体の内部に含浸されていた電解液中に含まれるリチウムイオン等は、正極活物質層側から、負極活物質層に向けて、大量に移動を開始する。
【0037】
図4は、
図3に示した充電制御による二次電池の充電時に、AEセンサ21が検知したAE信号をアンプ22によって増幅し、さらに2乗してAEエネルギーとして示したグラフである。
図4に示されるように、ガス発生検知手段20は、時間t0から暫くの間は、閾値T1を超えるAE信号を検出しなかった。そしてガス発生検知手段20は、時間t1においてAE信号を検出した。これにより、第1判断部34は蓄電装置1による充電によって、二次電池50の電位が被膜形成電位に到達し、負極の表面に被膜が形成され始めたと判断する。すると、第2充電制御部32は、蓄電手段10による充電レートを4C(第1充電レート)から0.8C(第2充電レート)のローレート定電流充電に低減するように、蓄電手段10を制御する。蓄電手段10は、時間t1から、第2充電レートでの充電を開始する。このことにより、負極の表面に被膜が形成される速度を低減させることができる。また、その間にリチウムイオン等は、負極活物質層の内部の方にまで十分に浸透することができる。その結果、負極活物質層を構成する負極活物質の表面には電解質の分解生成物等に由来する被膜が形成される。この被膜は、負極活物質層の厚さ方向で、厚みが均一になるように形成される。
【0038】
二次電池50の電位が被膜形成開始電位を超えると、二次電池50内で多量に被膜が形成され始める。その結果、
図4に示されるように、被膜形成開始時t1以降に、AEエネルギーが急激に高くなる。その後、充電時間の経過とともに、被膜形成剤等が分解され続けて非水電解液中の濃度が薄くなる。そして被膜の形成頻度は減少する。これに伴い、AEエネルギーも徐々に減少してゆく。そして、時間t2において、ガス発生検知手段20はAE信号を検出しなくなる。これにより、第2判断部35は、蓄電装置1による充電によって、負極の表面に被膜が形成されなくなったと判断する。すると、第3充電制御部33は、蓄電手段10による充電レートを0.8C(第2充電レート)から4C(第3充電レート)のハイレート定電流充電に増大するように、蓄電手段10を制御する。蓄電手段10は、時間t2から、第3充電レートでの充電を開始する。このことにより、ハイレートでの充電を再び開始することができる。なお、第3充電レートは、二次電池50の充電状態(SOC)を考慮して、第2充電レートよりも高い値で適宜設定することができる。このとき、第3充電レートは、リチウムイオンが析出しない範囲で設定することが好ましい。というのは、被膜の形成が終了したとき(t2)は、二次電池のSOCがある程度高い状態であり得る。このようなSOC状態で、充電レートを著しく高い値(例えば100C)にすると、負極活物質層の表面にリチウムイオンが高濃度に蓄積して金属リチウムが析出するおそれがあるためである。第3充電レートは、電池要領および構成等にも依るが、例えば、80C以下、好ましくは60C以下、より好ましくは40C以下、例えば20C以下とすることができる。また、
図3における二次電池50の電位は、時間t2において被膜形成電位範囲の上限に到達することとなる。第3充電制御部33は、時間t2以降、例えば、所定の二次電池50の充電上限電位(例えば、リチウム基準で4.3V)となるまで、第3充電レートで蓄電手段10による充電を実行する。
【0039】
以上の構成によると、蓄電装置1は、負極の表面に被膜が形成され得る電圧範囲においては充電レートを抑え、その他の電圧範囲においてはハイレートで、二次電池50を充電することができる。このことにより、負極に被膜が形成されるときの被膜形成速度を低減することができ、リチウムイオン等を負極活物質層の内部領域まで浸透するのを促進させることができる。その結果、活物質の表面に形成される被膜の厚みを、負極活物質層の厚み方向で均質にすることができる。また、蓄電装置1に備えられたガス発生検知手段20は、AE法に基づいてガスの発生を瞬時かつ高精度に検知することができる。このことにより、ローレートでの充電時間を極力短くすることができ、全体として効果的に充電時間を短縮することができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、時間t1において、充電レートを第1充電レートから第2充電レートへと切り替えた。すなわち、第1充電レートから第2充電レートへの減少を、一時に(1段階で)実行した。しかしながら、第1充電レートから第2充電レートへの減少は、一段階で実施する必要はない。例えば、具体的には、第1充電レートは、ガス発生検知手段20が検知する二次電池50内のガス発生の様子を確認しながら、少しずつ、多段階で減少させるようにしてもよい。この場合、ガス発生検知手段20が二次電池50内のガス発生を検知したとき、第2充電制御部32は、例えば、第1充電レートよりも所定の減少分「−ΔC1」だけ低い第2充電レートにて充電する。そして、所定の時間「Δt」後に、ガス発生検知手段20がなお二次電池50内のガス発生を検知するようであれば、例えば、第2充電制御部32は、当該第2充電レートを第1充電レートに置き換える。そして、第2充電制御部32は、再び、置き換えられた第1充電レートよりも所定の減少分「−ΔC1」だけ低い第2充電レートにて充電する。このことを、所定の時間「Δt1」後に、ガス発生検知手段20が二次電池50内のガス発生を検知しなくなるまで続けることができる。あるいは、このことを、第2充電レートが予め設定された最低ローレートに達するまで続けることができる。第2充電レートが最低ローレートとなったときは、第2充電レートをこの最低ローレートに固定してもよい。これにより、被膜が形成されるとすぐに、充電レートを低下させることができる。また、対象とする二次電池50に適した第2充電レートを採用することができ、被膜形成電位範囲において、過度に低すぎるレートでの充電や、十分に低減されていないレートでの充電を抑制することができる。なお、「−ΔC1」の大きさは特に制限されない。例えば、「−ΔC1」は、−1C以上が好ましく、−2C以上がより好ましく、−3C以上が特に好ましい。また、「−ΔC1」は、−5C以下とすることができ、−4C以下であってよく、−4.5C以下とすることができる。また、「Δt1」は、5〜50マイクロ秒程度とすることができる。
【0041】
また、上記実施形態では、時間t2において、充電レートを第2充電レートから第3充電レートへと切り替えた。すなわち、第2充電レートから第3充電レートへの増大は、一時に(1段階で)実行した。しかしながら、第2充電レートから第3充電レートへの増大は、一段階で実施する必要はない。例えば、具体的には、第3充電制御部33は、ガス発生検知手段20が検知する二次電池50内のガス発生の有無を確認しながら、第2充電レートを増大させるようにしてもよい。というのは、二次電池50内でガスの発生が一示的に停止したと判断される場合でも、その後に再度ガスが発生し始めることも考えられるからである。この場合、第3充電制御部33は、第2充電レートから第3充電レートへの増加分を例えば「ΔC2」として予め設定しておいてもよい。これにより、被膜の形成が終了したと判断されるとすぐに、充電レートを増大させることができる。なお、「ΔC2」の大きさは特に制限されない。例えば、「ΔC2」は、1C以上が好ましく、2C以上がより好ましく、3C以上が特に好ましい。また、「ΔC2」は、5C以下とすることができ、4C以下であってよく、4.5C以下とすることができる。あるいは、第3充電制御部33は、所定の時間「Δt2」の間連続してガス発生検知手段20が二次電池50内のガス発生を検知しなくなることにより初めて、二次電池50内でガスの発生が停止したと判断するようにしてもよい。これにより、被膜の形成が終了するとすぐに、充電レートを増大させることができる。
【0042】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。例えば、上記実施形態には、充電対象の二次電池として積層型電極体を備えた電池が開示されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、長尺の正極シートおよび負極シートが、長尺のセパレータシートにより絶縁されて積層され、捲回された、捲回型電極体を備える二次電池を充電対象としてもよい。本出願の請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。