【実施例1】
【0019】
本発明の塗装ロボットにおける軌道データのシミュレーション方法(以下単に「軌道データのシミュレーション方法」という。)の実施例について図面を参照して説明すると、
図1は、本実施例の軌道データのシミュレーション方法を実施するためのシステムを説明するためのブロック図である。
【0020】
そして、図において1は制御手段としてのPCであり、このPC1は、PC本体2と表示部3を備えている。即ち、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、CPU等の演算手段を備えたPC本体2と表示部3を具備したPC1を有しており、ティーチングによりロボットコントローラー等に記憶された塗装ロボットとワークの位置情報や軌道データをPC1に取り込み、この取り込んだデータを用いて3D表示データを作成し、更に、この3Dデータを用いて、表示部3に、塗装ロボットのスプレーガンと、ワークを表示することとしている。
【0021】
ここで、図において4がロボットコントローラーであり、このロボットコントローラー4には、ティーチングペンダント5が接続されている。また、図において6は塗装ロボット、7は被塗装物としてのワークであり、前記ロボットコントローラー4には塗装ロボット6が接続されており、塗装ロボット6は、ロボットコントローラー4からの信号に従って稼働することとしている。そして、ティーチングペンダント5を用いて、塗装ロボット6のスプレーガンの位置を所望する位置に登録すると、その軌道データがロボットコントローラー4に送られて記憶される。そうすると、ロボットコントローラー4は、送られてきた軌道データに基づいて、塗装ロボット6を制御して、ティーチングされた通りに塗装ロボット6を稼働させ、更に、軌道データ等を用いて、塗装ロボットやワークの位置情報やスプレーガンとワークとの距離等を演算する。
【0022】
そしてPC本体2では、ロボットコントローラー4に記憶された各種のデータを用いて、塗装ロボット6とワーク7の3D表示データが生成され、これらの3D表示データに基づいて前記表示部3には、塗装ロボット6
のスプレーガンとワーク7が3Dで表示される。
【0023】
また、本実施例においては、前記ロボットコントローラー4が前記PC本体2に接続されており、ティーチングの際にティーチングペンダント5で登録された起動データや、この軌道データに基づいて演算された塗装ロボットやワークの位置情報はリアルタイムで、ロボットコントローラー4からPC本体2へ送られることとしている。そして、PC本体2においては、ロボットコントローラーから送られてきた各種のデータを用いて、塗装ロボットとワークの3D表示データが生成され、これらの3D表示データに基づいて前記表示部3には、塗装ロボットとワークが3Dで表示され、表示部3に表示された塗装ロボットとワークを目視しながら、ティーチングペンダント5でスプレーガンの軌道をティーチングすることを可能としている。
【0024】
但し、本発明の軌道データのシミュレーション方法では、ティーチングの際にティーチングペンダント5で登録された起動データやこの軌道データに基づいて演算された塗装ロボットやワークの位置情報をリアルタイムでロボットコントローラー4からPC本体2へ送る必要は無く、ティーチングが完了した後に、ロボットコントローラー4に記憶された塗装ロボット及びワークの位置情報やスプレーガンの軌道データをPC本体2に取り込むことが可能であればよい。
【0025】
なお、前記塗装用ロボット6は、一般的にワークの大量塗装に用いられる塗装ロボットと同様に、ティーチングされた軌道を移動するアームにスプレーガンが備えられた構成としている。
【0026】
次に、このように構成されるシステムを用いて行う本実施例の軌道データのシミュレーション方法について
図4のフローチャートを参照して説明すると、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、まず、ステップ1において、制御手段としてのPC1へのデータの取り込みが行われる。
【0027】
ここで、PC1に取り込まれるデータとしては、ティーチングの際の初期設定においてロボットコントローラーに記憶される情報と、ティーチングによってロボットコントローラーに記憶される各種情報がある。そして、ティーチングの際の初期設定においてロボットコントローラーに記憶される情報としては、塗装ロボット6に関する外形、機構、寸法等の基本データや、ワーク7に関する外形、寸法等の基本データ、及び塗装ロボット6とワーク7との位置情報、スプレーガンとワークとの距離情報がある。また、ティーチングによってロボットコントローラーに記憶される情報としては、スプレーガンの軌道データやワークとスプレーガンとの距離データ等がある。
【0028】
次に、PC1においては、ステップ2において、前記取り込まれた各種のデータに基づいて、塗装ロボット6及びワーク7の3D表示データが作成される。
【0029】
そして、それとともに、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、ステップ3で、前記ティーチングの際の初期設定においてロボットコントローラーに記憶された情報や、ティーチングによってロボットコントローラーに記憶される各種情報、及び塗料の噴霧条件に基づき、スプレーガンからワークに向けて噴霧される塗料粒子の流体解析が行われる。
【0030】
即ち、
図1において11が解析手段であり、本実施例においては、解析手段としてコンピューター11が用いられている。そして、このコンピューター11が前記PC1に接続されており、ステップ1において前記PC1に取り込まれた各種のデータや、塗料の噴霧条件がコンピューター11に供給され、コンピューター11において、スプレーガンからワークに向けて噴霧される塗料粒子の流体解析が行われ、コンピューター11による流体解析が終了した後に、その結果がPC1に供給される。
【0031】
そして、塗料の噴霧条件としては、塗料の粒子径、粒子速度、塗料をエアーにより霧化するときの霧化圧、また、霧化した塗料を所定パターンに成型するためのパターンエアーのパターン圧、及び塗料の吐出量がある。
【0032】
また、塗装ブース内ではワークに付着しなかった塗料ミストを回収するために塗装ブース内の気流を一定方向に流しており、スプレーガンから噴霧された塗料はこの気流の影響を受けるため、本実施例においては、前記噴霧条件に塗装ブース内の気流を加味することとしている。
【0033】
更に、本実施例において前記ワーク8は、
図2に示すように、回動自在の支柱9の上部に治具10を介して放射状に複数個が取り付けられ、塗装の際には、前記支柱9とともにワーク8を回転させることとしているが、このワークの回転によっても塗装ブース内に気流が発生するため、本実施例においては、ワーク8の回転により発生する気流をも噴霧条件に加味することとしている。
【0034】
なお、本実施例においては、霧化圧0.2MPa、パターン圧0.15MPa、吐出量70ccと設定し、ブースの気流を0.5m/sec、ワーク回転を150rpmと設定した。そして、この設定データに基づき、ステップ3において塗料の流体解析を行った。また流体解析においては、100万個/秒レベルの粒子の追跡をおこなった。
【0035】
また、流体解析に関しては、流体解析ソフトを用いて行われており、流体解析方法には種々の方法があるため、具体的な計算方法等の詳細は省略するが、一例としては、スプレーガンとワーク間の空間を要素に分け、その間を計算させることで、塗料粒子の移動をバーチャルとして実現する方法が考えられる。
【0036】
次に、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、ステップ4において、前記作成した3D表示データによって、表示部3に、スプレーガン及びワークが3Dで表示されるとともに、ステップ5において、前記流体解析の結果に従い、スプレーガンから噴霧された塗料がワークに向けて移動していく状態を表示部上に表示する。
【0037】
即ち、
図2がPC1の表示部3にワーク、スプレーガン、及び、スプレーガンからワークに向けて噴霧されてワークに塗着していく塗料粒子を示している。そして、図において7がワークで、本実施例において前記ワーク7は、ドアミラーとし、回転自在の支柱9に、治具10によって放射状に6個が取り付けられ、表示部3における表示は、支柱9の回転に伴ってワーク7が回転している動画表示としている。
【0038】
また、図において8はスプレーガンであり、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、表示部3にスプレーガン8を表示するとともに、この表示部3に表示したスプレーガン8を、ティーチングされた軌道データに従い移動させることとしている。
【0039】
そして、前述したようにワーク7を回転させるとともに、前記流体解析の結果に従い、スプレーガン8から噴霧された塗料粒子がワーク7に向けて移動していきワークに塗着していく状態を、表示部上に動画で表示することとしている。
【0040】
そのため、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、実際に塗料がどのように噴霧されてワークに向けて移動してワーク7に塗着していくかを表示部3で確認することができるので、ティーチングされた軌道データの検証を行う場合に、実際にワークに塗料を噴射することが不要であるので、検証時の塗料の無駄を無くするとともに、空調エネルギーを使用することも不要で、コストを大幅に抑えることが可能である。
【0041】
なお、
図2は軌道データに従ってスプレーガン9が移動している途中を示しており、ワーク7は矢印で示すように、支柱9及び治具10の回転によって時計回りに円状に移動しており、スプレーガン8は上方から下方に向けて移動している状態を表示している。そして、スプレーガン8から噴霧された塗料粒子は、スプレーガン8からワーク7に向けて霧状に移動していく状態を表示している。なお図においては、理解を容易にするために、噴霧している塗料粒子及びワークに塗着した塗料粒子を細かい点で表示しており、塗着の多少によって点の数を変えている。
【0042】
次に、
図3は、ティーチングに従った塗装が完了した後のワーク7の一つを拡大して表示したものであり、ワークの全域に塗料粒子が塗着した状態を表示している。即ち、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、流体解析の結果に従ってスプレーガン8から噴霧された塗料粒子がワーク7に向けて移動していきワークに塗着していく状態を表示部上に動画で表示するとともに、ティーチングに従った塗装が完了した後のワーク7における塗着状態をも表示可能としている。従って、この塗着状態の表示によって、ティーチングに従ってスプレーガンから塗料を噴射した場合にワークのどの部分に塗料が付着するかを視覚により確認することができる。そのために、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、ティーチングされた軌道データの検証を行う場合には、実際にワークに塗料を噴射することが不要であるので、検証時の塗料の無駄を無くするとともに、空調エネルギーを使用することも不要で、コストを大幅に抑えることが可能である。
【0043】
例えば、
図3に示す塗着状態では、上方部分の一部分が濃くなっており、この部分の塗着数が他の部分の塗着数よりも多いことを示している。そしてそれにより、その部分の塗料の膜厚が他の部分よりも厚くなってしまうことを知ることが可能である。
【0044】
そしてまた、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、ロボットコントローラー4がPC本体2に接続され、ティーチングの際にティーチングペンダント5で登録された起動データや、この軌道データに基づいて演算された塗装ロボットやワークの位置情報をリアルタイムで、ロボットコントローラー4からPC本体2へ送ることとし、そのときの塗装ロボットとワークの3D表示を行うこととしているため、ティーチングされた軌道データの検証を行いながら、ティーチングデータの修正を行うことができる。
【0045】
このように、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、表示部にワークとスプレーガンを表示部に表示するとともに、予め設定した、塗料の粒子径、粒子速度、霧化圧、パターン圧、吐出量等の塗料の噴霧条件に基づいて塗料粒子の流体解析を行い、その解析結果に従って、スプレーガンからワークに向けて噴霧されて移動していきワークに塗着していく状態の塗料粒子を表示部上に表示することとしているため、この噴霧状況を確認することで、ティーチングされた軌道データが正しいかどうかを検証することができる。
【0046】
また、本実施例の軌道データのシミュレーション方法では、流体解析の結果として、塗装が完了した後のワークへの塗着状態をも表示部に表示することとしているため、この塗着状態を確認することによっても、軌道データが正しいかどうかを検証することができる。
【0047】
従って、本実施例によれば、実際の塗装ロボットとワークを用いて塗料をワークに噴射することなく、ティーチングされた軌道データの検証ができるため、塗料を無駄にすることなく、また空調エネルギーを使用することなく、ティーチングされた軌道データの検証、及び修正を容易に行うことが可能である。
【0048】
なお、前述したように、本発明の軌道データのシミュレーション方法では、ティーチングの際にティーチングペンダント5で登録された起動データやこの軌道データに基づいて演算された塗装ロボットやワークの位置情報をリアルタイムでロボットコントローラー4からPC本体7へ送る必要は無く、ティーチングが完了した後に、ロボットコントローラー4に記憶された塗装ロボット及びワークの位置情報やスプレーガンの軌道データをPC本体2に取り込むことが可能であればよい。