特許第6981794号(P6981794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6981794-エポキシ接着剤 図000013
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981794
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】エポキシ接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20211206BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C09J11/04
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-129778(P2017-129778)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-11445(P2019-11445A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】小林 博之
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−270198(JP,A)
【文献】 特開2004−204144(JP,A)
【文献】 特開2001−019929(JP,A)
【文献】 特開2009−068007(JP,A)
【文献】 特開平08−048857(JP,A)
【文献】 特開平09−157440(JP,A)
【文献】 特開2005−015563(JP,A)
【文献】 特開平05−218638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシと、フィラーと、コアシェル強靭化剤とを含み、
前記エポキシが、3官能以上の液状エポキシを含み、
前記フィラーが、無機中空粒子を含み、
前記エポキシ100質量部に対する前記無機中空粒子の量が、0.1質量部〜60質量部であり、
前記エポキシ100質量部に対する前記フィラーの量が、20質量部〜360質量部であり、
前記フィラーの総量100質量%のうち、前記無機中空粒子の量が55質量%以下である、エポキシ接着剤。
【請求項2】
前記エポキシ100質量%に対する前記3官能以上の液状エポキシの量が、30質量%〜95質量%である、請求項1に記載のエポキシ接着剤。
【請求項3】
前記エポキシ接着剤100体積%に対する前記フィラーの量が、34体積%〜80体積%である、請求項1又は2のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
【請求項4】
エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率が、1GPa以上、7.5GPa以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載のエポキシ接着剤。
【請求項5】
エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率に対する225℃での貯蔵弾性率の比(225℃での貯蔵弾性率/25℃での貯蔵弾性率)が、2.2%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載のエポキシ接着剤。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載のエポキシ接着剤を含む、DCブラシ付きモーターの巻線固着用接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エポキシ接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ接着剤は、一般に、接着特性、機械強度、耐化学物質性及び耐熱性が良好であるため、自動車、機械、電子工学、船舶、宇宙、土木工学、建築等の幅広い分野で用いられている。これら用途の接着剤には、高温条件下でも高い信頼性を有する接着が求められる場合がある。例えば、モーター等、使用時に高温になる場合がある物品における部材間の固着用接着剤には高温条件下での高い信頼性が求められる。
【0003】
例えば、巻線(例えば銅線)及び該巻線の端部と接続されたコミュテータ(整流子)を有するローター(回転子)と、永久磁石を有するステーター(固定子)とを備えるDCモーターにおいては、使用時に熱や振動、銅線の緩みなど銅線が動くこと等により電気的接続が損なわれること、銅線が断線すること等を防止してモーターの信頼性を確保する目的で、コミュテータ周辺の巻線部を固着・補強・封止(ポッティング)をするように接着剤が配置されている。DCモーターは、自動車、電子工学製品、家庭用品、汎用工業品等の多くの用途で広く用いられている。例えば自動車のエンジン周辺に用いられるDCモーターにおいては、接着剤近傍の温度が例えば約120℃以上という高温になる場合があるため、高温条件下での特に高い信頼性が求められる。
【0004】
特許文献1は、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、潜在性硬化剤及び特定構造の尿素化合物を配合した組成物において、該潜在性硬化剤が平均粒径3〜14μmをもつ固体粒子から成り、該尿素化合物が平均粒径2〜15μmの固体粒子から成ることを特徴とする一液性エポキシ樹脂組成物を記載する。
【0005】
特許文献2は、(A)エポキシ樹脂、(B)フェノール樹脂、(C)硬化促進剤、及び(D)中空無機充填材を含む無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物であって、中空無機充填材の含有量が全組成物に対して50体積%以上であり、全無機充填材の含有量が全組成物に対して68体積%以上であり、且つ硬化物の誘電率が3.5以下であることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−316171号公報
【特許文献2】特開2005−041937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高耐熱性の接着剤を得るための一般的な手段としては、ガラス転移温度(Tg)が高い硬化性材料の使用が挙げられる。特許文献1及び2に記載されるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂という比較的Tgが高い樹脂を用いている。しかし、Tgが高い硬化性材料はしばしば剛直で脆い傾向があり、従って、このような硬化性材料を用いて得られる接着剤はしばしば使用時の外力による応力集中でクラックを生じるという問題がある。上記のような応力集中の原因としては、接着剤の使用時の温度変化による接着剤の熱膨張又は熱収縮、及び振動が挙げられる。しかし特許文献1及び2に記載される技術は、接着剤が使用時に、大きな温度変化による熱膨張又は熱収縮(すなわち熱衝撃)を受けてもクラックの発生が十分に抑制された接着剤を適用するものではなかった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決し、接着剤の使用時の温度変化による接着剤の熱膨張又は熱収縮、及び振動によるクラックの発生が抑制されたエポキシ接着剤を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、
エポキシと、フィラーとを含み、
前記エポキシが、3官能以上の液状エポキシを含み、
前記フィラーが、中空粒子を含む、エポキシ接着剤を提供する。
本開示の別の態様は、
本開示の一態様に係るエポキシ接着剤を含む、DCブラシ付きモーターの巻線固着用接着剤を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の幾つかの態様によれば、過度に高密度ではなく、且つ使用時の熱衝撃によるクラックの発生が抑制されたエポキシ接着剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例5及び6、並びに比較例1及び2における動的粘弾性測定装置(DMA)測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の例示の態様について説明するが、本発明はこれらの態様に限定されず、特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱しない任意の改変が本発明に包含されることが意図される。なお本開示において言及する各測定は、特記がない限り、[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法によって行われることが意図される。
【0013】
<エポキシ接着剤>
本開示の一態様は、
エポキシと、フィラーとを含み、
該エポキシが、3官能以上の液状エポキシを含み、
該フィラーが、中空粒子を含む、エポキシ接着剤を提供する。
エポキシ接着剤がフィラーを含むことは、エポキシ接着剤の機械強度を良好にする点で有利である。フィラーは中空粒子を含む。中空粒子は、フィラーとして機能しつつ、貯蔵弾性率が比較的低いエポキシ接着剤を与えることによって当該接着剤の良好な耐熱衝撃性に寄与する。また、中空粒子の使用は、密度が小さいエポキシ接着剤(たとえば、自動車等の移動体で使用した場合、省エネ等の面で有利である軽量の接着剤)を与える点でも有利である。従って、本開示のエポキシ接着剤によれば、エポキシ接着剤の密度を過度に上昇させることなく、熱衝撃を受けてもクラックが発生し難い所望の特性を有するエポキシ接着剤を得ることができる。
【0014】
(A)エポキシ
本開示のエポキシ接着剤は熱硬化性接着剤であり、(A)エポキシは熱硬化性成分としてエポキシ接着剤に含まれる。(A)エポキシは、3官能以上の液状エポキシを含む。本開示で、液状エポキシとは、円錐平板型粘度計によって70℃で測定したときの、200秒-1の回転数における粘度が0.01Pa・s以上50Pa・s以下であるエポキシを意味する。3官能以上の液状エポキシは1種又は2種以上の化合物の組合せであってよい。3官能以上の液状エポキシは、本開示のエポキシ接着剤を高Tgにすることに寄与する。幾つかの態様において、3官能以上の液状エポキシはエポキシ接着剤を低粘度にするという利点も与える。更に、幾つかの態様において、3官能以上の液状エポキシは、これらが有する多数の官能基の寄与により、種々の材質で構成された被着体間の接着における良好な接着性能の実現に寄与する。
【0015】
好ましい態様において、3官能以上の液状エポキシのエポキシ当量(1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数)は、入手性および反応性の観点から、約60以上、又は約70以上、又は約80以上であり、硬化後のエポキシ接着剤の耐熱性の観点及び高Tgの観点から、約1000以下、又は約500以下、又は約300以下である。
【0016】
3官能以上の液状エポキシの好ましい例としては、本開示のエポキシ接着剤に高Tg及び低粘度を良好に与える観点から、一分子内に少なくとも一つの芳香族環をもつ、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ化合物、トリグリシジルアミノクレゾール型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン型エポキシ化合物、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ化合物、テトラグリシジルグリコールウリル型エポキシ化合物等が挙げられる。グリシジルフェノール型エポキシ樹脂としてはフェノールノボラック型エポキシ化合物、トリフェニルメタントリグリシジルエーテル型化合物等が挙げられる。
【0017】
3官能以上の脂肪族から構成される液状エポキシの好ましい例としては、本開示のエポキシ接着剤に低粘性と、架橋密度を落とさずにある程度の耐熱性とを良好に与える観点から、骨格にエーテル結合をもつ、トリメチオールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチオールエタントリグリシジルエーテル、ひまし油変性やグリセロール変性ポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。4官能以上の好ましい例としては、ペンタエリストールポリグリシジルエーテルやソルビトール変性ポリグシジルエーテルなどが挙げられる。当該使用できるものは上記に限定されるものではない。
【0018】
トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(1):
【化1】
で表されるトリグリシジルp−アミノフェノール、及び下記式(2):
【化2】
で表されるトリクレジルm−アミノフェノールである。
【0019】
トリグリシジルアミノクレゾール型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(3):
【化3】
で表されるトリグリシジルアミノクレゾールである。
【0020】
トリフェニルメタントリグリシジルエーテル型化合物の好ましい例は、下記式(4):
【化4】
で表されるトリフェニルメタントリグリシジルエーテルである。
【0021】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(5):
【化5】
で表されるテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(4,4’−メチレンビス[N,N−ビス(オキシラニルメチル)アニリン])である。
【0022】
テトラグリシジルメタキシリレンジアミン型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(6):
【化6】
で表されるテトラグリシジルメタキシリレンジアミンである。
【0023】
テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(7):
【化7】
で表されるテトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンである。
【0024】
テトラグリシジルグリコールウリル型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(8):
【化8】
で表されるテトラグリシジルグリコールウリルである。
【0025】
また、フェノールノボラック型エポキシ化合物の好ましい例は、下記式(9):
【化9】
(式中、nは2以上である。)
で表される化合物である。
【0026】
好ましい態様において、3官能以上の液状エポキシは、3官能エポキシ、若しくは4官能以上を含む多官能エポキシ、又はこれらの組合せを含む。また、好ましい態様において、3官能以上の液状エポキシは、3官能エポキシ、若しくは4官能エポキシ、又はこれらの組合せである。
【0027】
3官能以上の液状エポキシの含有率は、高Tgのエポキシ接着剤を得る観点から、(A)エポキシ100質量%基準で、好ましくは、約30質量%以上、又は約40質量%以上、又は約50質量%以上、又は約60質量%以上であり、接着特性や低粘性を良好に与えるという観点から、好ましくは、約95質量%以下、又は約85質量%以下、又は約75質量%以下である。
【0028】
(A)エポキシは、3官能以上の液状エポキシに加えて、追加のエポキシ成分を含んでもよい。追加のエポキシ成分としては、3官能以上の液状エポキシに包含されない任意のエポキシ化合物を例示でき、脂肪族、脂環式及び芳香族のヒドロキシル化合物をグリシジル化したグリシジルエーテル、脂肪族、脂環式又は芳香族のカルボン酸をグリシジル化したグリシジルエステル、アニリンやトルイジンをグリシジル化したグリシジルアミン類等を例示できる。具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノールエポキシ樹脂、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラックエポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールグリシジルエーテル等のエポキシ化エーテル、グリシジルネオデカノエート、イソシアヌレート環を有するトリグリシジルイソシアヌレート、フェノキシ樹脂、1官能以上のナフタレン骨格を有するグリシジルエーテル、ビフェニル骨格を有するグリシジルエーテル等であって3官能以上の液状エポキシに包含されない化合物が挙げられる。
【0029】
幾つかの態様において、追加のエポキシ成分は、反応性希釈剤又は反応性可塑剤として、アルキルモノグリシジルエーテル、アルキルジグリシジルエーテル、アルキルフェノールモノグリシジルエーテル等の低粘度のエポキシ化合物を含む。
【0030】
エポキシ接着剤100質量%に対する(A)エポキシの量は、良好な接着性能を得る観点から、好ましくは、約15質量%以上、又は約20質量%以上、又は約25質量%以上であり、(B)フィラー等の他の成分の利点を良好に得る観点から、好ましくは、約60質量%以下、又は約55質量%以下、又は約50質量%以下である。
【0031】
(B)フィラー
(B)フィラーは、中空粒子を含む。本開示で、「中空粒子」とは内部に空洞(典型的には一粒子に一つの空洞)を有する粒子を意味する。中空粒子の材質としては、ガラス、アルミノシリケート、シリカ等の無機物質、及び、一般にはシェルがポリアクリロニトリルに代表される熱可塑性樹脂で内部が中空となる有機物質が挙げられる。
【0032】
中空粒子の真密度(g/cm3)は、貯蔵弾性率が低く、密度が小さいエポキシ接着剤を得る観点から、好ましくは、約0.5以下、または約0.4以下である。一方、中空粒子は、その中空構造に起因して急激な熱変化に伴う環境で使用される場合、耐圧強度が高いほうが熱衝撃時に硬化物のクラックを生じさせ難くする点で望ましい。中空粒子の真密度は、良好な耐圧強度を得ることで熱衝撃時のクラックを生じさせ難くする観点から、好ましくは、約0.2以上、又は約0.3以上である。なお、耐圧強度(90%残存)(すなわち、中空粒子に圧力をかけて体積を10%減少させたときの当該圧力を指標とする強度)は好ましくは約30MPa以上、又は約50MPa以上、又は約70MPa以上である。中空粒子は、その中空構造に起因して、エポキシ接着剤中で断熱作用を奏する場合がある。エポキシ接着剤が高温条件下で使用される場合、このような断熱作用は小さい方が、接着剤の劣化を防止する点で望ましい。
【0033】
好ましい態様において、中空粒子は、中空微小球である。本開示で、「中空微小球」とは、平均粒径(d50)が100μm以下である中空粒子を意味する。平均粒径(d50)は、力学的強度の観点から、好ましくは約50μm以下、さらに好ましくは約30μm以下である。
【0034】
中空粒子、及び中空微小球の市販品としては、ソーダ石灰硼珪酸ガラス系の中空微粒子としてグラスバブルズ(iM16K、スリーエム ジャパン株式会社)、火山灰シラスを高温で加熱することで生成される二酸化ケイ素(シリカ)やアルミナなどの複合成分からなるシラスバルーン(ウインライト、MSB−3011、株式会社アクシーズ)、プラスチックマイクロスフィアーの表面に、微細な炭酸カルシウムを付着させた、有機・無機ハイブリッドフィラー(EMC−40、日本フェライト株式会社)等を例示できる。
【0035】
好ましい態様において、フィラーは、中空粒子以外のフィラー成分(以下、追加のフィラー成分ともいう。)を更に含む。追加のフィラー成分としては、アルミニウム、アルミナ、シリカ、ガラス、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機物質のフィラー、及び、(メタ)アクリル酸エステルおよびスチレン、フェノール、シリコーン、ナイロン等の有機物質のフィラーが挙げられる。追加のフィラー成分は、1種でも2種以上の組合せでもよい。追加のフィラー成分は、多孔質粒子であってもよいが、典型的には、空隙を実質的に有さない粒子(すなわち中実粒子)である。
【0036】
中空粒子は、硬化したエポキシ接着剤の機械強度を向上させるというフィラーとしての利点に加え、エポキシ接着剤のガラス状態での貯蔵弾性率の著しい上昇を抑え低減する効果およびゴム領域での貯蔵弾性率の大きな低下を抑制する効果及び低密度化に寄与するという利点を与え得る。一方、追加のフィラー成分は、硬化したエポキシ接着剤の機械強度向上に良好に寄与する。フィラーが、中空粒子と追加のフィラー成分との組合せを含むことは、エポキシ接着剤の機械強度及び接着性能を良好に維持するのに十分な量にフィラー総量を調整しつつ、中空粒子の使用量を、接着剤の貯蔵弾性率低減効果及び低密度化効果が得られ且つ断熱作用が生じ難い好適な範囲の量に調整できる点で有利である。
【0037】
低粘度のエポキシ接着剤を得る観点から、追加のフィラー成分の形状は好ましくは球形であるが、一方でフィラーの表面状態や比表面積にも影響するため、これに限定されるものでない。追加のフィラー成分の粒径は、エポキシ接着剤の粘度を過度に上昇させない観点から、好ましくは約10μm以上、又は約15μm以上であり、一方で機械的強度という観点から、好ましくは約30μm以下、又は約20μm以下、又は約15μm以下である。
また、エポキシ接着剤中への最適な充填と粘度のバランスという観点から粒径が異なる2種以上の粒子をブレンドすることも有効である。
【0038】
なお本開示で、フィラーについて言及する「平均粒径(d50)」は、光散乱法により求められた粒子分布を基にした中位(メジアン)径(d50)を意味する。光散乱法により求められる粒子分布は、流体中に浮遊する粒子に光が当たって生じる散乱現象を基に、乱光量との関係が既知である条件下で散乱の光量とその発生数を計測することで求められる粒径分布であり、或いは、レーザー光の微小な粒子による回折パターンが粒子の大きさにより変化することに基づいて、回折パターンを計測することで求められる粒子分布である。中位(メジアン)径(d50)は、粒子の粒径分布において、ある粒径よりも大きい粒子の個数が全粒子の50%を占めるときの粒径を意味する。
【0039】
(A)エポキシ100質量部に対する(B)フィラーの量は、フィラーの使用による効果を良好に得る観点から、好ましくは、約20質量部以上、又は約50質量部以上、又は約100質量部以上であり、良好な硬化物性の観点から、好ましくは、約360質量部以下、又は約300質量部以下、又は約250質量部以下である。
【0040】
エポキシ接着剤100体積%に対するフィラーの量は、フィラーの使用による効果を良好に得る観点から、好ましくは、約20体積%以上、又は約34体積%以上、又は約41体積%以上であり、良好な硬化物性の観点から、好ましくは、約80体積%以下、又は約70体積%以下、又は約60体積%以下である。
【0041】
(A)エポキシ100質量部に対する中空粒子の量は、中空粒子の使用による効果を良好に得る観点から、好ましくは、約0.1質量部以上、又は約10質量部以上、又は約15質量部以上であり、中空粒子による断熱作用を生じさせ難くしたり強度を保つ観点から、好ましくは、約60質量部以下、又は約50質量部以下、又は約40質量部以下である。
【0042】
(B)フィラーのうち中空粒子の量は、中空粒子の使用による効果を良好に得る観点から、好ましくは、約1質量%以上、又は約5質量%以上、又は約10質量%以上であり、中空粒子による断熱作用を生じさせ難くしたり強度を保つ観点から、好ましくは、約55質量%以下、又は約45質量%以下、又は約35質量%以下である。
【0043】
(C)コアシェル強靭化剤
好ましい態様において、本開示のエポキシ接着剤は、(C)コアシェル強靭化剤を更に含有する。(C)コアシェル強靭化剤は、樹脂改質剤としての強靭化剤として使用できることが当業者に理解される任意の種類のコアシェル強靭化剤を包含する。典型的な態様において、(C)コアシェル強靭化剤は、内側のコア部分と外側のシェル部分とが互いに異なる材料で構成されている複合材料である。ここで、「異なる材料」とは、組成及び/又は特性が互いに異なる材料を意図し、従って、例えば同種の樹脂であるが分子量が互いに異なる材料等も包含する。
【0044】
エポキシ接着剤に対する強靭化効果を良好に得る観点から、シェル部分のTgはコア部分のTgよりも高いことが好ましい。この場合、相対的に低Tgであるコア部分が応力の集中点として働くことにより、硬化したエポキシ接着剤に可撓性を付与する一方で、シェル部分がコアシェル強靭化剤同士の望ましくない凝集を制御してコアシェル強靭化剤をエポキシ接着剤中に均一に分散させることができる。そのため、接着剤の硬化物性を損なうことなく靭性を付与することが可能である。また、硬化収縮などの内部応力の分散という観点でも有用である。
【0045】
例示の態様において、コア部分のTgが約−110℃以上、約−30℃以下であり、かつシェル部分のTgが約0℃以上、約200℃以下となるように、コア部分及びシェル部分の材料を選択することができる。本開示において、コア部分の材料及びシェル部分の材料のTgは、動的粘弾性測定におけるtanδのピーク値の温度として定義される。
【0046】
コアシェル強靭化剤は、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの共役ジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネンなどの非共役ジエンの重合体;これらの共役又は非共役ジエンと、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレートなどの(メタ)アクリレートなどとの共重合体;ポリブチルアクリレートなどのアクリルゴム;シリコーンゴム;シリコーンとポリアルキルアクリレートとからなるIPN型複合ゴムなどのゴム成分を含むコア部分と、コア部分の周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル部分とを有する、コアシェル型のグラフト共重合体であってよい。コア部分として、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体及びアクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体が有利に使用でき、シェル部分としてメチル(メタ)アクリレートをグラフト共重合して形成したものが有利に使用できる。シェル部分は層状であってよく、一層又は複数の層からシェル部分が構成されていてもよい。
【0047】
このようなコアシェル強靭化剤として、例えば、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体などが挙げられるが、これらに限定されない。コアシェル強靭化剤として、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体が有利に使用できる。
【0048】
コアシェル強靭化剤は通常微粒子の形状であり、その一次粒径の平均値(重量平均粒径)は、一般に約0.05μm以上又は約0.1μm以上、約5μm以下又は約1μm以下である。本開示において、コアシェル強靭化剤の一次粒径の平均値は、ゼータ電位粒度分布測定によって得られた値から決定される。
【0049】
好ましい態様において、コアシェル強靭化剤は、マトリクス中に分散された状態で用いてもよい。マトリクス中に分散されたコアシェル強靭化剤は、エポキシ接着剤中で良好に分散することができ有利である。(A)エポキシとの親和性が良好なマトリクスは、エポキシ接着剤中でのコアシェル強靭化剤の良好な分散の観点から特に好ましい。このようなマトリクスとしてはエポキシ樹脂(例えばビスフェノールA等)を例示できる。
【0050】
コアシェル強靭化剤としては、樹脂改質剤等として供給されている市販品を用いてもよく、例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)系のコアシェル樹脂として、BTA751(ダウケミカル社から市販で入手可能)、エポキシ中に樹脂が分散されてなるコアシェル樹脂として、MX−153(カネカ(株)から市販で入手可能の、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)がビスフェノールAジグリシジルエーテル中に分散されている樹脂)、アクリル系のコアシェル樹脂として、F351(アイカ工業(株)から市販で入手可能)、等を例示できる。
【0051】
(C)コアシェル強靭化剤の使用量は、硬化後のエポキシ接着剤において、硬化収縮時のクラックの低減や剥離強さや強靭性などの脆さ低減、及び耐熱衝撃性を得る観点から、(A)エポキシ100質量部を基準として、好ましくは約1質量部以上、又は約5質量部以上、又は約10質量部以上であり、接着特性や接着剤の粘度上昇の観点から、好ましくは約60質量部以下、又は約50質量部以下、又は約40質量部以下である。
【0052】
(D)潜在性硬化剤
潜在性硬化剤としては、一液型エポキシ接着剤の潜在性硬化剤として一般に用いられる種々の化合物を使用できる。潜在性硬化剤は、常温ではエポキシ樹脂を硬化する活性をもたないが、加熱によって活性化し、エポキシ樹脂を硬化することができる。例えば、従来知られている微粒状の潜在性硬化剤は、常温ではエポキシ樹脂に不溶であり、加熱すると可溶化してエポキシ樹脂を硬化することができる。本開示のエポキシ接着剤は、本開示の目的を損なわない範囲で、(D)潜在性硬化剤以外の硬化剤を使用することを排除しないが、典型的な態様において、エポキシ接着剤が含む硬化剤は(D)潜在性硬化剤からなる。
【0053】
(D)潜在性硬化剤として使用される潜在性硬化剤は、(A)エポキシの種類、エポキシ接着剤の硬化物の所望の特性等に応じて、1種で又は2種以上組み合わせて使用できる。本開示における(D)潜在性硬化剤とは、エポキシ樹脂の硬化に関与する化合物を包含する。幾つかの態様において、(D)潜在性硬化剤は、硬化促進剤及び/又は架橋剤との組合せで使用される。
【0054】
(D)潜在性硬化剤として使用できる化合物としては、ジシアンジアミド(DICY)及びその誘導体、ヒドラジド化合物(例えば有機酸ジヒドラジド)、三フッ化ホウ素−アミン錯体(例えば三フッ化ホウ素モノエチルアミン)、イミダゾール化合物(例えば常温で微粒状のもの、例えば2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物)、アミンイミド、ポリアミン、第3級アミン、アミン化合物(例えばアルキル尿素等);アミン化合物とエポキシ化合物との反応生成物(アミン−エポキシ付加物)、アミン化合物とイソシアネート化合物との反応生成物等が挙げられる。これらは1種又は2種以上の組合せで使用できる。
【0055】
幾つかの態様において、反応開始温度が比較的高い潜在性硬化剤(例えばポリアミン化合物、ジシアンジアミド等)を使用する場合、硬化反応の良好な進行の観点から、潜在性硬化剤は硬化促進剤と組合されることが好ましい。硬化促進剤としては、イミダゾール化合物、三フッ化ホウ素、3級アミン、尿素化合物(例えば、1,1’−(4−メチル−m−フェニレン)ビス(3,3−ジメチル)ウレア、3−(p−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア等)等を使用できる。なお当業者に公知であるように、硬化促進剤として使用可能な化合物の中には、例えば上述のイミダゾール化合物、三フッ化ホウ素、アミン−エポキシ化合物、3級アミン等のように、潜在性硬化剤としても機能できるものがある。潜在性硬化剤と硬化促進剤との組合せとしては、ジシアンジアミドとイミダゾール化合物及び/又は尿素化合物及び/又は3級アミンとの組合せ、ポリアミン化合物と尿素化合物との組合せ等を例示できる。幾つかの態様において、本開示でエポキシ接着剤に良好な耐熱性及び剥離強さを付与する観点から、(D)潜在性硬化剤は、ジシアンジアミドを含んでもよい。潜在性硬化剤としてのジシアンジアミドと、硬化促進剤としてのイミダゾール及び/又は尿素化合物との組合せ、潜在性硬化剤としてのイミダゾール化合物が例として挙げられる。
【0056】
一般に、高Tgの硬化性材料は完全硬化のためにより高い硬化温度を必要とする傾向がある。しかし熱膨張係数の影響による硬化時の応力集中を防止するという観点から、より低温度の熱硬化条件が好ましい。熱硬化温度を低くできるという観点から好ましい(D)潜在性硬化剤の組成としては、潜在性硬化剤としてのジシアンジアミドと、硬化促進剤としてのイミダゾール及び/又は尿素化合物及び/又は3級アミンとの組合せ、潜在性硬化剤としてのイミダゾール化合物及び/又は3級アミンが例として挙げられる。
【0057】
(D)潜在性硬化剤の使用量は、エポキシ接着剤の硬化性、硬化したエポキシ接着剤の耐熱性及び耐湿性などを考慮して選択するのがよい。硬化を良好に進行させる観点、及びエポキシ接着剤のTgを高くする観点から、(A)エポキシ100質量部を基準として、好ましくは約1質量部以上、又は約2質量部以上、又は約3質量部以上であり、混合物の粘度上昇抑制の観点、及び硬化物の耐熱性を損なわない観点から、好ましくは約50質量部以下、又は約40質量部以下、又は約30質量部以下の量である。
【0058】
硬化促進剤及び/又は架橋剤を使用する場合、これらの使用量は、用いる潜在性硬化剤の種類及び量等を考慮して選択するのがよい。硬化を良好に進行させる観点から、硬化促進剤及び架橋剤の量は、それぞれ、エポキシ100質量部を基準として、例えば約1質量部以上、又は約2質量部以上、又は約3質量部以上であることができ、また、混合物の粘度上昇抑制、及び貯蔵安定性の観点から、例えば約20質量部以下、又は約15質量部以下、又は約10質量部以下であることができる。
【0059】
(E)任意成分
エポキシ接着剤は、任意成分を更に含むことができる。任意成分としては:ヒュームドシリカやアマイド系、炭酸カルシウム微粒子等のレオロジー調整剤;フェノール系、イオウ系等の酸化防止剤;エポキシ変性アルコキシシラン等のシランカップリング剤;難燃剤;着色剤;レベリング剤;消泡剤;溶剤;分散剤等を例示できる。
【0060】
任意成分の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲において適宜決定することができる。分散剤は、低粘度化の観点においてフィラーの種類に応じて選択するのがよい。フィラーの総質量100質量部基準で、約10質量部以上、約20質量部以上、又は約50質量部以上、また約500質量部以下、約300質量部以下、又は約200質量部以下の量で使用することができる。
【0061】
レオロジー調整剤は、エポキシ接着剤の総質量100質量%基準で、約0.1質量%以上、約0.2質量%以上、又は約0.5質量%以上、また約15質量%以下、約10質量%以下、又は約5質量%以下の量で使用することができる。
【0062】
エポキシ接着剤は、例えば、上記成分を必要に応じて加熱しながらミキサーで混合し、必要に応じて脱泡することにより調製することができる。
【0063】
好ましい態様において、エポキシ接着剤を円錐平板型粘度計によって25℃及び回転数200秒-1で測定したときの粘度は、約10Pa・s以上約200Pa・s以下である。上記粘度は、エポキシ接着剤の操作性の観点から、好ましくは約15Pa・s以上、又は約20Pa・s以上、又は約25Pa・s以上、また約180Pa・s以下、又は約170Pa・s以下、又は約160Pa・s以下である。
【0064】
好ましい態様において、エポキシ接着剤を硬化させて得た測定試料を動的粘弾性測定装置によって測定したときのガラス転移温度(Tg)は、約160℃以上である。上記ガラス転移温度(Tg)は、耐熱性が良好であるという観点から、好ましくは約160℃以上、又は約180℃以上、又は約190℃以上、又は約200℃以上であり、エポキシ接着剤の高粘度化の抑制、及び、周囲の部材及び被着体に影響を及ぼさない程度の硬化温度下でエポキシ樹脂の架橋を可能な限り進行させるという観点から、好ましくは約350℃以下、又は約330℃以下、又は約300℃以下である。
【0065】
好ましい態様において、エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの貯蔵弾性率は、接着剤の良好な剛性を持つという観点から、25℃において、約1GPa以上、又は約2GPa以上、又は約3GPa以上であり、接着剤の良好な耐熱衝撃性の観点から、約9.5GPa以下、又は約8.5GPa以下、又は約7.5GPa以下である。
【0066】
好ましい態様において、エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率に対する225℃での貯蔵弾性率の比(225℃での貯蔵弾性率/25℃での貯蔵弾性率の百分率)は、接着剤の良好な耐熱衝撃性の観点から、約2.2%以上、又は約3.0%以上である。
好ましい態様において、エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率と225℃での貯蔵弾性率との差は、接着剤の良好な耐熱衝撃性の観点から、約7.3GPa以下、又は約7.0GPa以下である。
【0067】
好ましい態様において、エポキシ接着剤の密度は、接着剤の機械強度が良好であるという観点から、約1.2以上、又は約1.3以上、又は約1.4以上であり、接着剤の軽量化という観点から、約2.0以下、又は約1.9以下、又は約1.7以下である。
【0068】
<エポキシ接着剤の用途>
本開示のエポキシ接着剤は、金属、コーティングされた金属、プラスチック及び充填プラスチック基材、ガラス繊維、木材などを含む様々な材質の被着体を互いに結合させることができる。エポキシ接着剤は、必要に応じて加熱しながら、被着体に適用することができる。その後、加熱することにより、エポキシ接着剤は硬化して被着体間を接着する。エポキシ接着剤の硬化条件は、該接着剤の配合によって異なるが、一態様において、例えば約100℃以上、又は約110℃以上、又は約120℃以上、また約250℃以下、又は約230℃、又は約200℃以下の硬化温度、及び例えば約5分間〜約90分間、又は約10分間〜約60分間の硬化時間で、硬化させることができる。硬化条件のより典型的な例としては、140℃×30分間、又は180℃×10分間を挙げることができる。
【0069】
本開示のエポキシ接着剤は、使用時の熱衝撃によるクラックの発生が抑制されるという利点を有する。このようなエポキシ接着剤は、大きな温度変化が接着剤に加わるような部材に対して特に好適に適用される。このような部材としては、自動車用部材(例えばモーターの巻線固定、マグネット固定、エンジンルーム近傍の部材固定、インターバルユニットにおいて昇圧コンバータに配置されるリアクトルのコア材の接着等)、その他自動車用部材(例えば自動車用インバータユニットにおいて昇圧コンバータ内に配置されるリアクトルのコア材の接着等)等が挙げられる。モーターとしては、DCブラシ付きモーター、ブラシレスモーター等が挙げられる。巻線(例えば銅線)及び該巻線の端部と接続されたコミュテータ(整流子)を有するローター(回転子)と、永久磁石を有するステーター(固定子)とを備えるDCモーターにおいては、使用時に熱や振動、銅線の緩みなどから電気的接続が損なわれること、および銅線の断線を防止してモーターの信頼性を確保する目的で、コミュテータ周辺の巻線部を固着・補強および巻き線の固着をするように接着剤が配置されている。
【0070】
本開示で、DCブラシ付きモーターとは、巻線(例えば銅線)及び該巻線の端部と接続されたコミュテータ(整流子)を有するローター(回転子)と、永久磁石を有するステーター(固定子)とを備えるDCモーターを意味する。なお、ブラシレスモーターとは、永久磁石を有するローター(回転子)と、巻線(例えば銅線)及び該巻線の端部が接続されたステーター(固定子)とを備えるモーターを意味する。DCブラシ付きモーターにおいては、巻線が接続されている構造のローターが回転するため、長期のモーター使用によるローターの回転動作を経ても巻線との電気的接続が良好に維持できる接着剤が望まれる。
【0071】
本開示の別の態様は、本開示のエポキシ接着剤を含む、DCブラシ付きモーターの巻線固着用接着剤(すなわち、巻線を固着・補強・封止するための接着剤)を提供する。典型的な態様において、巻線は銅線である。本開示のエポキシ接着剤は、DCブラシ付きモーターの巻線を固着するための接着剤として特に有用であり、特に、自動車のエンジンルーム近傍に配置されるDCブラシ付きモーターの巻線固定用として有用である。自動車のエンジンルーム近傍に用いられるモーターの使用条件は、振動に加えて、例えば摂氏でマイナスとなる温度(例えば寒冷地での使用開始温度)と約120℃以上の高温(例えばアクセル全開時)との間の温度変化といった急激で大きい温度変化を伴う。このような過酷な使用条件下でも、本開示のエポキシ接着剤は、巻線の良好な電気的接続の維持を実現し得る。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明の例示の態様を更に説明するが、本発明はこれら実施例には何ら限定されない。
【0073】
1.材料
表1に示す材料を用いた。
【0074】
【表1】
【0075】
2.評価方法
(1)熱衝撃試験
オリファントワッシャー試験片を作製し、熱衝撃試験を実施した。エポキシ接着剤をオリファントワッシャーの中央部の空洞に設置した外径約39mm、高さ11mmの金属缶(ブリキ製)内に注入し、120℃で60分間の条件で硬化させて硬化物を得た。測定条件は以下のとおりである。
測定条件 :−40℃×30分 ⇔ 160℃×30分
サイクル数:50サイクル及び100サイクル
所定のサイクル数後のクラック発生を確認した。
【0076】
(2)比重
ガラス瓶の重量(W1)g、そのガラス瓶の中に標準温度で満たされた水の重量(W2)gとした。同様に、標準温度に調整した接着剤を注入し満たされた重量(W3)gとした。
次式により比重を算出した。
(W3−W1)/(W2−W1)
計算によって得られた値を比重とした。
【0077】
(3)ガラス転移温度(Tg)及び貯蔵弾性率(E’)
エポキシ接着剤を、150℃で30分間の条件で硬化させて得た硬化物のガラス転移温度(Tg)及び貯蔵弾性率(E’)を動的粘弾性測定装置(DMA)にて測定した。測定条件は以下のとおりである。
試験片:5mm×10mm×0.03mm
測定モード:引張りモード
歪周波数:10Hz
昇温速度:4℃/分
ガラス転移温度は、貯蔵弾性率(E’)/損失弾性率(E”)で定義されるtanδのピークの温度として得た。
【0078】
3.実験
[実施例1〜7、比較例1〜2]
表1に示す配合成分をミキサーにて混合し、エポキシ接着剤を得た。得られたエポキシ接着剤の性能評価を前述の手順で行った。
結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
なお、上記体積比率は、各原料の密度又は比重の値から接着剤の各成分の体積を算出することで計算した。
【0081】
実施例1〜7の接着剤は、いずれも低密度でありながら、−40℃から160℃という過酷は温度変化条件下で高い耐熱衝撃性を示した。一方、比較例1及び2(中空粒子を用いない例)では耐熱衝撃性が低かった。
【0082】
図1は、実施例5及び6、並びに比較例1及び2における動的粘弾性測定装置(DMA)測定結果を示す図である。特に25℃付近のガラス領域では、実施例5及び6の貯蔵弾性率が比較例1及び2の貯蔵弾性率よりも低く、225℃付近のゴム領域においては逆に比較例1及び2の貯蔵弾性率が実施例5及び6よりも高い。言い換えると、実施例5及び6に係るエポキシ接着剤は、ガラス状態では比較的低弾性を示し、一方でゴム状領域では比較的高い弾性率を有していることから貯蔵弾性率の温度依存性が比較的小さいエポキシ接着剤である。これにより、低温域と高温域とのサイクル試験において、硬さの変化が抑えられるだけでなく、熱サイクル時の応力を低減することでクラックの発生や銅線の移動が抑えられると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示に係るエポキシ接着剤は、DCブラシ付きモーター等の自動車用部材を含む種々の用途に好適に適用できる。本発明の実施態様の一部を以下の態様1〜9に記載する。
[態様1]
エポキシと、フィラーとを含み、
前記エポキシが、3官能以上の液状エポキシを含み、
前記フィラーが、中空粒子を含む、エポキシ接着剤。
[態様2]
前記エポキシ100質量部に対する前記中空粒子の量が、0.1質量部〜60質量部である、態様1に記載のエポキシ接着剤。
[態様3]
前記エポキシ100質量部に対する前記フィラーの量が、20質量部〜360質量部である、態様1又は2に記載のエポキシ接着剤。
[態様4]
前記フィラーの総量100質量%のうち、前記中空粒子の量が55質量%以下である、態様1〜3のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
[態様5]
前記エポキシ100質量%に対する前記3官能以上の液状エポキシの量が、30質量%〜95質量%である、態様1〜4のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
[態様6]
前記エポキシ接着剤100体積%に対する前記フィラーの量が、34体積%〜80体積%である、態様1〜5のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
[態様7]
エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率が、1GPa以上、7.5GPa以下である、態様1〜6のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
[態様8]
エポキシ接着剤を動的粘弾性測定装置を用いて測定したときの、25℃での貯蔵弾性率に対する225℃での貯蔵弾性率の比(225℃での貯蔵弾性率/25℃での貯蔵弾性率)が、2.2%以上である、態様1〜7のいずれかに記載のエポキシ接着剤。
[態様9]
態様1〜8のいずれかに記載のエポキシ接着剤を含む、DCブラシ付きモーターの巻線固着用接着剤。
図1