(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、石油、化学系のプラントなどで使用されるバルブは、特に安全性に留意する必要があり、このため定期的なメンテナンスが行われる。
図8に、石油、化学系のプラントなどで使用されるバルブ(コントロールバルブ)の一例を示す。
【0003】
このバルブ100は、バルブ本体101と、ポジショナ102と、操作器103とを備えている。操作器103は、スプリング形ダイヤフラム構造とされており、ポジショナ102から供給される空気圧Poに応じてダイヤフラム(操作器のダイヤフラム)103aをスプリング103bの力に抗して変位させることにより、弁軸(ステム)104を上下動させて、バルブの開度(弁体105とシートリング106との間の隙間)を調節する。ポジショナ102は、弁軸104に連結されたフィードバックレバー107の回転角度位置から弁軸104のリフト位置、すなわちバルブの実開度を検出し、この検出した実開度と設定開度との差に応じた空気圧Poを操作器103へ供給する。
【0004】
なお、
図8に示したバルブ100は、操作器103として逆作動操作器を用いているが、正作動操作器が用いられる場合もある。逆作動操作器は、スプリングの力でバルブの開度を閉方向に付勢し、正作動操作器は、スプリングの力でバルブの開度を開方向に付勢する。また、
図8に示したバルブ100では、空気圧によって操作器103を作動させているが、油圧によって操作器103を作動させるタイプもある。
【0005】
また、
図8に示したバルブ100(100A)では、弁体105とシートリング106との間の隙間をバルブの開度として調節しているが、
図9に示すように、弁体としてダイヤフラム(弁体のダイヤフラム)105’を用い、このダイヤフラム105’を弁軸104の上下動によって変位させることによって、ダイヤフラム105’と流路との間の隙間をバルブの開度として調節するバルブ100(100B)もある。このようなタイプのバルブ100(100B)をダイヤフラム弁と呼んでいる。
【0006】
このようなバルブが設置されているプラントなどでは、多数のバルブを効率良くメンテナンスする必要があり、そのメンテナンス作業の効率を改善するために、バルブスティックスリップ検出(例えば、特許文献1参照)、バルブハンチング検出(例えば、特許文献2参照)、バルブスケール付着検出(例えば、特許文献3参照)などの手法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔発明の原理〕
ダイヤフラム弁は、主な用途して、腐食性の高い薬品を扱うような場合に用いられる。このため、弁体のダイヤフラム(ゴム系材料)の劣化に留意する必要がある。このとき、ダイヤフラムの劣化としてはゴム系材料の硬化なので、バルブの閉止(着座)からの微妙な開度変化(食い込み量)によって、硬化を推定できることに着眼した。
【0017】
この場合、食い込み量検出については、全閉と認識してから第1規定時間(例えば、30秒)経過した最初の点をゼロ点(第1規定時間経過後のゼロ点)と算出し、さらに、そのまま開閉がなく第2規定時間(例えば、翌日までの時間)経過した最初の点をゼロ点(第2規定時間経過後のゼロ点)と算出することで、この差を食い込み量とすることができる。そして、食い込み量に関する情報を、診断指標としてオペレータに提示することで、ダイヤフラムの劣化推定ができるようになることに想到した。これにより、特に、ダイヤフラム弁を扱う場合について、バルブのメンテナンス作業の効率を改善することができるようになる。
【0018】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態1に係るバルブメンテナンス支援装置の要部の構成を示すブロック図である。ここでは、説明を簡潔にするため、バルブのID(識別情報)の事例などは、実際のプラントで利用されるものよりもシンプルなものにする。
【0019】
本実施の形態のバルブメンテナンス支援装置200は、プロセッサや記憶装置からなるハードウェアと、これらのハードウェアと協働して各種機能を実現させるプログラムとによって実現され、計測値データ記憶部1と、バルブID記憶部2と、診断指標算出部3と、診断指標提示部4と、判定部5と、閾値記憶部6と、判定結果提示部7とを備えている。
【0020】
このバルブメンテナンス支援装置200において、計測値データ記憶部1には、プラントで使用されているバルブ100の開度計測部21から送信されてくる開度計測値データD1が記憶される。
【0021】
すなわち、プラントで使用されているバルブ100は、そのバルブの開度θを計測する開度計測部21を備えている。開度計測部21は、計測したバルブの開度θを開度計測値データD1としてバルブメンテナンス支援装置200へ送信する。
【0022】
バルブメンテナンス支援装置200は、
図2にそのフローチャートを示すように、開度計測部21からの開度計測値データD1を受信すると(ステップS101のYES)、その受信した開度計測値データD1を計測値データ記憶部1に記憶させる(ステップS102)。
【0023】
なお、本実施の形態において、計測値データ記憶部1には、バルブ100の開度計測部21から開度計測値データD1が周期的に送信され、時系列データとして蓄積されて行くものとする。また、本実施の形態において、プラントにはバルブ100が多数設置されており、これらのバルブ100(100−1〜100−N)からの開度計測値データD1(D1
1〜D1
N)が、そのバルブのIDと対応づけて計測値データ記憶部1に蓄積されて行くものとする。
【0024】
以下、
図3に示すフローチャートを参照しながら、このバルブメンテナンス支援装置200の動作について各部の機能を交えながら具体的に説明する。
【0025】
オペレータは、プラントに設置されているバルブ100−1〜100−Nを計測対象とし、この計測対象のバルブ100−1〜100−Nの中からメンテナンスの候補のバルブを定め、このメンテナンスの候補のバルブを登録する(ステップS201)。この場合、メンテナンスの候補のバルブとして登録されたバルブのID(以下、バルブIDとも呼ぶ。)が、バルブメンテナンス支援装置200のバルブID記憶部2に記憶される。
【0026】
例えば、プラント内にバルブ100が26個あるとして、これら26個のバルブ100にそれぞれ“A”,“B”,“C”,・・・,“M”,・・・,“X”,“Y”,“Z”という固有のIDが予め割り当てられているものとする。バルブA,M,Cをメンテナンスの候補のバルブと定めた場合、オペレータはバルブIDとして“A”,“M”,“C”を入力する。本実施の形態では、特にバルブA,M,Cが腐食性の高い薬品を扱うダイヤフラム弁であり、特定の定期プラントメンテナンスにおいて最優先のメンテナンス対象として選定されるものと仮定する。
【0027】
図4はメンテナンス対象のプラントのバルブ配置の一例を示すイメージ図である。本実施の形態では、バルブID“A”,“M”のバルブ100−A(バルブA),100−M(バルブM)が流路ID“1”の流路11−1に配設され、バルブID“C”のバルブ100−C(バルブC)が流路ID“3”の流路11−3に配設されているものとする。
図4における12−A,12−C,12−Mは流量計測器、13はタンク、14は圧力発信器である。なお、
図4では、バルブIDが“A”,“C”,“M”以外のバルブについては記載を省略している。
【0028】
診断指標算出部3は、診断指標の算出指示があると(ステップS202のYES)、バルブID記憶部2に記憶されているメンテナンスの候補のバルブのID“A”,“C”,“M”を読み出し(ステップS203)、この読み出したバルブID“A”,“C”,“M”と対応づけて計測値データ記憶部1に記憶されている開度計測値データD1を読み出す(ステップS204)。
【0029】
そして、診断指標算出部3は、計測値データ記憶部1から読み出した開度計測値データD1に基づいて、バルブA,C,Mが全閉とされたことを認識してからの弁体(ダイヤフラム)の閉方向への食い込み量δに関する情報をバルブA,C,Mの診断指標S(S
A,S
C,S
M)として算出する(ステップS205)。
【0030】
本実施の形態では、ステップS205において、バルブA,C,Mのそれぞれについて、バルブが全閉とされたことを認識(例えば、最小開度付近で弁軸が停止)してから第1規定時間T1(例えば、30秒)が経過した時点での開度計測値データD1(D1
1)を第1の開度計測値データとし、第1規定時間T1の経過後、そのまま開閉がなく第2規定時間T2(例えば、翌日までの時間)が経過した時点での開度計測値データD1(D1
2)を第2の開度計測値データとし、第1の開度計測値データD1
1と第2の開度計測値データD1
2との差を弁体(ダイヤフラム)の閉方向への食い込み量δとし、この食い込み量δをバルブの診断指標Sとして算出する。
【0031】
図5に、特性Iとして、弁体(ダイヤフラム)に劣化がない場合(健全な場合)のバルブ閉時の開度θ(開度計測値データD1)の変化を示し、特性IIとして、弁体(ダイヤフラム)に劣化が生じている場合のバルブ閉時の開度θ(開度計測値データD1)の変化を示す。
【0032】
特性Iの場合、t1時点で全閉と認識され(入力0%時の開度)、全閉と認識されてから第1規定時間T1が経過したt2時点(全閉と判断された時点)で、その時の開度計測値データD1が第1の開度計測値データD1
1として取得される。そして、そのまま開閉がなく第2規定時間T2が経過した時点t3で、その時の開度計測値データD1が第2の開度計測値データD1
2として取得される。そして、第1の開度計測値データD1
1と第2の開度計測値データD1
2との差が食い込み量δ(δ1)として求められ、この食い込み量δ(δ1)がバルブの診断指標Sとされる。
【0033】
特性IIの場合も、特性Iの場合と同様、t1時点で全閉と認識され(入力0%時の開度)、全閉と認識されてから第1規定時間T1が経過したt2時点(全閉と判断された時点)で、その時の開度計測値データD1が第1の開度計測値データD1
1として取得される。そして、そのまま開閉がなく第2規定時間T2が経過した時点t3で、その時の開度計測値データD1が第2の開度計測値データD1
2として取得される。そして、第1の開度計測値データD1
1と第2の開度計測値データD1
2との差が食い込み量δ(δ2)として求められ、この食い込み量δ(δ2)がバルブの診断指標Sとされる。
【0034】
特性Iと特性IIとを比較して分かるように、弁体(ダイヤフラム)に劣化がない場合(健全な場合)は食い込み量δが大きいが、弁体(ダイヤフラム)に劣化が生じてくると食い込み量δが小さくなる。本実施の形態では、この弁体(ダイヤフラム)の食い込み量δを診断指標Sとする。
【0035】
診断指標算出部3で算出された診断指標S(S
A,S
C,S
M)は診断指標提示部4へ送られる。診断指標提示部4は、診断指標算出部3からの診断指標Sをオペレータに提示する(ステップS206)。例えば、
図6に診断指標の提示領域を#1として示すように、メンテナンスの候補のバルブA,C,Mに対応づけて、すなわちメンテナンスの候補のバルブのID“A”,“C”,“M”に対応づけて、診断指標算出部3で算出された診断指標S
A,S
C,S
Mの数値をディスプレイに表示する。
【0036】
この際、
図6に診断対象部分の提示領域を#2として示すように、診断指標の提示領域#1に提示(表示)されている診断指標S
A,S
C,S
MがバルブA,C,Mの弁体(ダイヤフラム)のメンテナンスを対象としていることを提示(表示)するようにすれば、弁体のダイヤフラムのメンテナンスの必要性についての知識が乏しいオペレータに対して、弁体のダイヤフラムへの着目の必要性を定量的に示すことになるので、弁体のダイヤフラムのチェック漏れが発生する危険性を低減することができる。
【0037】
診断指標算出部3で算出された診断指標S(S
A,S
C,S
M)は判定部5へも送られる。閾値記憶部6には、診断指標Sに対する正常範囲の下限値が診断指標閾値Sthとして記憶されている。判定部5は、診断指標算出部3から診断指標Sが送られてくると、閾値記憶部6に記憶されている診断指標閾値Sthを読み出し(ステップS207)、診断指標算出部3からの診断指標Sと診断指標閾値Sthとを比較する(ステップS208)。この場合、診断指標算出部3からの診断指標S
A,S
C,S
Mのそれぞれについて、診断指標閾値Sthと比較する。
【0038】
ここで、判定部5は、診断指標算出部3からの診断指標Sが診断指標閾値Sth以下であった場合(ステップS208のYES)、そのバルブをメンテナンスが必要なバルブであると判定する(ステップS209)。例えば、診断指標S
A,S
C,S
Mの内、診断指標S
Mが診断指標閾値Sth以下であった場合、バルブMをメンテナンスが必要なバルブであると判定する。判定部5は、この判定結果を判定結果提示部7へ送る。
【0039】
判定結果提示部7は、判定部5からの判定結果をオペレータに提示する(ステップS210)。例えば、メンテナンスの候補のバルブA,C,MのうちバルブMがメンテナンスが必要なバルブと判定された場合、
図6に示された診断指標の提示領域#1において、バルブMのバルブIDおよび診断指標S
Mを赤色で表示する。この場合、それ以外のバルブについては、黒色で表示される。この際、診断指標の提示領域#1に、判定の際に用いた診断指標閾値Sthを表示するようにしてもよい。
【0040】
なお、この実施の形態では、メンテナンスの候補のバルブの診断指標やメンテナンスが必要なバルブであるか否かの判定結果をディスプレイに表示するようにしたが、プリンタなどで打ち出してもよく、音声で知らせるようにしたりしてもよい。
【0041】
また、この実施の形態では、診断指標算出部3において、メンテナンスの候補のバルブ(バルブA,C,M)についてのみ診断指標Sを算出するようにしたが、計測対象のバルブの全て(バルブA〜Z)について診断指標Sを算出するようにしてもよい。この場合、診断指標提示部4において、計測対象の全てのバルブのバルブIDと診断指標とを対応づけて、例えば、メンテナンスの候補のバルブについては青色で、メンテナンスの候補でないバルブについては黒色で、メンテナンスが必要と判定されたバルブについては赤色でというように、それぞれを区別して表示させるようにする。
【0042】
また、本実施の形態では、第1規定時間T1を例えば30秒とし、第2規定時間を例えば翌日までの時間としたが、これらの時間は弁体のダイヤフラムのゴム系材料に依存して異なる時間として必要になるものであり、どちらも実験的に予め求めるようにすればよい。
【0043】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の形態2に係るバルブメンテナンス支援装置について説明する。実施の形態2は、実施の形態1の実装例を説明するものである。
図7はプラントとその機器管理システムの構成を示す図であり、
図4と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0044】
石油、化学系のプラントには、そのプラントの各機器を制御・管理する機器管理システム8が設けられている。実施の形態1で説明した計測値データ記憶部1,バルブID記憶部2、診断指標算出部3、判定部5、閾値記憶部6については、プラント固有の膨大な情報を扱うので、機器管理システム8側に実装されることが好ましい。
【0045】
一方、診断指標提示部4、判定結果提示部7については、原則的にバルブのメンテナンス判断時に特に必要な処理を提供するものである。また、メンテナンス実施者(メンテナンス受託企業の作業担当者)は、プラントオーナ企業から委託されてプラントのメンテナンスを実施するのが一般的である。したがって、不特定多数のプラントを対象にすることを想定して、メンテナンス受託企業の作業担当者(オペレータ)が持ち歩く携帯型のコンピュータ9に、診断指標提示部4と判定結果提示部7とを実装することが好ましい。
【0046】
コンピュータ9は、CPU(Central Processing Unit)とメモリとインタフェースとを備えている。プラントの機器管理システム8とコンピュータ9とは、メンテナンス作業実施時にイーサネット(登録商標)などの通信機能を利用して一時的に接続される。
【0047】
オペレータがコンピュータ9上のアプリケーションソフトウエアを起動すると、コンピュータ9のCPUは、メモリに格納されたプログラムに従って処理を実行し、機器管理システム8に診断指標の算出指示を送り、機器管理システム8に登録されているメンテナンスの候補のバルブについて、その診断指標の算出およびメンテナンスが必要か否かの判定を行わせる。この機器管理システム8で算出されたメンテナンスの候補のバルブの診断指標およびメンテナンスが必要が否かの判定結果はコンピュータ9のディスプレイに表示される。
【0048】
なお、この例では、機器管理システム8に既にメンテナンスの候補のバルブが登録されているものとしているが、このメンテナンスの候補のバルブの登録や変更はコンピュータ9よりオペレータが行うことも可能である。
【0049】
オペレータは、コンピュータ9のディスプレイに表示されたメンテナンスの候補のバルブの診断指標およびメンテナンスが必要が否かの判定結果に基づき、特にダイヤフラム弁の弁体(ダイヤフラム)の点検に留意すべきバルブを確認する。確認したら、オペレータは、コンピュータ9と機器管理システム8との接続を解除する。
【0050】
このようにして、実施の形態1で説明したバルブメンテナンス支援装置200を実際のプラントに適用することができる。
【0051】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。