【文献】
Seungyong Jung et al.,Terahertz difference-frequency quantum cascade laser sources on silicon,Optica,2016年12月22日,Vol. 4, Issue 1,pp.38-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持基板を剥離する工程後において、所定の切断ラインに沿ってステルスダイシングを行うことにより、前記半導体素子をチップ化する工程を更に備える、請求項1記載の量子カスケードレーザ光源の製造方法。
前記第2掘り込み部と前記周縁部とを形成する工程では、前記一対の第1掘り込み部それぞれに対応する前記第2掘り込み部を、前記リッジ部を挟んで対称となる位置に形成する、請求項1〜3のいずれか一項記載の量子カスケードレーザ光源の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板が除去された構成は、極めて薄い構造となるため、製造時等における種々の外力に耐えうる十分な強度を有していない場合がある。本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、十分な強度を担保しながらテラヘルツ波の高い取り出し効率を実現する量子カスケードレーザ光源の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る量子カスケードレーザ光源の製造方法は、リン化インジウム基板上に、下部コンタクト層、下部クラッド層、下部ガイド層、活性層、及び上部ガイド層が順次積層された半導体積層体を準備する工程と、半導体積層体において、部分的にエッチングを行い、該エッチングにより下部クラッド層が露出した一対の第1掘り込み部と、該一対の第1掘り込み部に挟まれるように形成されたリッジ部とを形成する工程と、第1掘り込み部においてドープ層が成長し、更に、第1掘り込み部及びリッジ部において上部クラッド層及び上部コンタクト層が成長した後に、一対の第1掘り込み部それぞれにおいて、部分的にエッチングを行い、該エッチングにより下部コンタクト層が露出した第2掘り込み部と、リッジ部との間に第2掘り込み部を挟むように形成された周縁部とを形成する工程と、リッジ部における上部コンタクト層の一部の領域である第1領域、及び、第2掘り込み部における下部コンタクト層の一部の領域である第2領域を除いて絶縁膜を形成した後に、第1領域に接するように第1電極を形成すると共に、第2領域に接するように第2電極を形成し、半導体素子を形成する工程と、半導体素子における第1電極及び第2電極が形成された側である結晶成長面側を支持基板に固定する工程と、支持基板に固定された半導体素子のリン化インジウム基板を除去する工程と、半導体素子におけるリン化インジウム基板が除去された面にシリコン基板を固定する工程と、シリコン基板が固定された後に半導体素子から支持基板を剥離する工程と、を備える。
【0007】
本発明に係る量子カスケードレーザ光源の製造方法では、半導体素子の形成後において、支持基板に固定された半導体素子のリン化インジウム基板が除去され、該リン化インジウム基板に替えてシリコン基板が張り合わされている。このように、テラヘルツ波を吸収しやすいリン化インジウム基板に替えて、テラヘルツ波を吸収しにくいシリコン基板が張り合わされることにより、半導体素子を用いた量子カスケードレーザ光源において、テラヘルツ波の取り出し効率を向上させることができる。
【0008】
ここで、リン化インジウム基板が除去された半導体素子は、極めて薄い構造となるため、その後のシリコン基板の張り合わせ等における外力に耐えることができない(十分な強度を有さない)場合がある。また、シリコン基板が張り合わされる半導体素子においては、結晶成長面側(シリコン基板が張り合わされない側)に電極を設ける必要があるところ、上部コンタクト層の露出部分と下部コンタクト層の露出部分とは高低差がある。このような構成においては、通常、上部コンタクト層に対応するリッジ部分のみが突出した形状となる。このため、半導体素子は、支持基板との固定面においてリッジ部分とそれ以外の部分との凸凹が大きくなり、支持基板に強固に固定することができず、ヒビや割れが生じやすくなってしまう。
【0009】
この点、本発明に係る量子カスケードレーザ光源の製造方法では、リッジ部の両側に周縁部が設けられた半導体素子が形成される。周縁部は、下部クラッド層が露出した第1掘り込み部においてドープ層が成長すると共に上部クラッド層及び上部コンタクト層が成長することにより形成された部分である。このため、周縁部は、同じく上部クラッド層及び上部コンタクト層が成長することにより形成されたリッジ部と同様に、ある程度の高さを有することとなる。このことで、半導体素子は、リン化インジウム基板が除去された状態においても、従来と比較して厚みが増した構成となり、強度が向上する。また、半導体素子は、周縁部を有していることによって、支持基板との固定面においてリッジ部分とそれ以外の部分との凸凹が小さくなり、従来と比較して支持基板に密着して強固に固定し易くなる。以上より、本発明によれば、十分な強度を担保しながらテラヘルツ波の高い取り出し効率を実現する量子カスケードレーザ光源が製造される。
【0010】
更に、本発明に係る量子カスケードレーザ光源の製造方法では、下部コンタクト層が露出した第2領域が、リッジ部の両側に形成されており、且つ、周縁部及びリッジ部の間の領域(すなわち、リッジ部に近接した領域)に形成されている。このため、本発明では、下部コンタクト層に接する第2電極が、活性層を挟むように活性層の両側に形成されるとともに、活性層に近接した領域に形成されることとなる。コンタクト層と接する電極が活性層の片側のみに形成された場合や、活性層から大きく離間して形成された場合には、電圧降下が大きくなり電気的な特性が悪化してしまう。この点、上述したように、本発明では、下部コンタクト層に接する第2電極が、活性層を挟むように活性層の両側に形成されるとともに、活性層に近接した領域に形成されているため、電圧降下が抑制される。
【0011】
上記製造方法は、支持基板を剥離する工程後において、所定の切断ラインに沿ってステルスダイシングを行うことにより、半導体素子をチップ化する工程を更に備えていてもよい。ステルスダイシングでは、切断対象が内部から割断されるため、ダイシングブレード等を用いて外部から切断される場合と比較して、切断対象を傷つけることなく分離することができる。本発明では、切断ラインに沿ってステルスダイシングが行われているため、チップ化された半導体素子の結晶成長面等における傷又は欠け等が防止される。
【0012】
上記製造方法の半導体素子を形成する工程では、第2領域に接する第2電極を、周縁部を覆う絶縁膜に沿って周縁部の表面まで形成し、上記製造方法は更に、第3電極と、該第3電極の両側に設けられた第4電極とが設けられたサブマウントを準備する工程と、チップ化する工程後において、サブマウントの第3電極及び第4電極が形成された面と、半導体素子の第1電極及び第2電極が形成された面とを対向させ、第3電極に第1電極が接触し、第4電極に第2電極が接触するように、エピサイドダウン組立によりサブマウントに半導体素子を接続する工程と、を更に備えていてもよい。
【0013】
従来の製造方法により製造された量子カスケードレーザ光源の半導体素子では、上述したように、上部コンタクト層に対応するリッジ部分のみが突出しており、上部コンタクト層の露出部分に接触する電極と、下部コンタクト層の露出部分に接触する電極とは高低差があり、電極が形成された面の凹凸が大きい構成(電極パターンが複雑な構成)となる。このような半導体素子は、サブマウントに対して、互いの電極を接触させるようにエピサイドダウン組立により接続されることが困難である。この点、本発明では、リッジ部の両側に形成された周縁部がリッジ部と同程度の高さを有しており、且つ、第2領域に接する第2電極が周縁部の表面にまで形成されているため、リッジ部に形成された第1電極と周縁部に形成された第2電極との高さを同程度とすることができる。このことにより、サブマウントの第3電極に対して第1電極、サブマウントの第4電極に対して第2電極を接触させるようにして、エピサイドダウン組立により、半導体素子とサブマウントとを接続させることができる。エピサイドダウン組立により半導体素子とサブマウントとが接続されることによって、半導体素子からの発熱を効率良くサブマウントに逃がすことができ、半導体素子は、より高温環境下での動作や、発熱負荷の大きい、高いデューティーサイクル動作又は連続動作が可能になる。
【0014】
上記製造方法の第2掘り込み部と周縁部とを形成する工程では、一対の第1掘り込み部それぞれに対応する第2掘り込み部を、リッジ部を挟んで対称となる位置に形成してもよい。これにより、活性層からの離間距離が両側の第2電極で同程度となり、電圧降下がより好適に抑制される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、十分な強度を担保しながらテラヘルツ波の高い取り出し効率を実現する量子カスケードレーザ光源の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、説明において同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る量子カスケードレーザ光源1を示す概略斜視図である。本実施形態の量子カスケードレーザ光源1は、半導体量子井戸構造におけるサブバンド間での電子遷移を利用して光を生成するモノポーラタイプのレーザ素子である。より詳細には、量子カスケードレーザ光源1は、2波長発振する中赤外量子カスケードレーザ(Quantum Cascade Laser:QCL)内における差周波発生(DifferentialFrequency Generation:DFG)によってテラヘルツ波を出力するDFG−QCL光源である。量子カスケードレーザ光源1は、半導体素子2と、該半導体素子2が接続されたサブマウント100とを含んで構成されている。半導体素子2は、エピサイドダウン組立によりサブマウント100に接続されている(詳細は後述)。以下では、量子カスケードレーザ光源1の製造方法について、
図2〜
図7を参照して説明する。量子カスケードレーザ光源1の製造工程では、結晶成長面側プロセス、仮接合工程、ダイシング工程、及び組立工程が順次行われる。結晶成長面プロセスによって、電極パターンが形成された半導体素子8(
図3(c)参照)が形成され、仮接合工程によって、基板が張り替えられた半導体素子9(
図4(d)参照)が形成され、ダイシング工程によって、チップ化された半導体素子2(
図6参照)が形成され、組立工程によって、サブマウント100に半導体素子2が接続された量子カスケードレーザ光源1が形成される。
【0019】
図2及び
図3を参照して、量子カスケードレーザ光源1の製造工程のうち、結晶成長面側プロセスについて説明する。結晶成長面側プロセスは、Feドープ(半絶縁)リン化インジウム単結晶基板上における結晶成長を経て、結晶成長面側に電極が形成された半導体素子を形成する工程である。
図2(a)〜
図2(d)及び
図3(a)〜
図3(c)は、結晶成長面側プロセスを時系列で示している。なお、
図2(a)〜
図2(d)及び
図3(a)〜
図3(c)では、半導体素子の1チップに対応する領域のみ図示しているが、実際には、結晶成長面側プロセスは、
図5に示すような、複数チップに対応する領域を有する板状部材単位に実施される。
【0020】
結晶成長面側プロセスでは、最初に、半導体積層体20(詳細には、半導体積層体20が成長したウェハ)を準備する(
図2(a)参照)。半導体積層体20は、半導体基板としてFeドープ(半絶縁)リン化インジウム(Indium Phosphide:InP)単結晶基板21を有する。更に、半導体積層体20では、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21上に、厚さ250nmの下部コンタクト層であるインジウムガリウムヒ化物(Indium Gallium Arsenide:InGaAs)電流拡散層22(n=1.5×10
18cm
−3)、厚さ5μmの下部InPクラッド層23(下部クラッド層)、厚さ250nmの下部InGaAsガイド層24(下部ガイド層)、単位積層体が多段に積層された活性層25、及び、厚さ250nmの上部InGaAsガイド層26(上部ガイド層)が順次積層されている。以下の説明における結晶成長は、例えば有機金属気相成長(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法又は分子線エピキタシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法により行われる。なお、以下の説明における結晶成長面とは、半導体積層体20における結晶成長が行われる側の面であり、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が設けられた側の反対側の面である。
【0021】
次に、上部InGaAsガイド層26に回析格子を形成する。取得するテラヘルツ波ωTHzは活性層25内で生成されるω
1と回析格子の周期によって選択されたω
2の差周波により決定される。例えば上部InGaAsガイド層26に深さ150nmの回析格子を形成する。
【0022】
次に、半導体積層体20にリッジ部30を形成する(
図2(b)参照)。詳細には、半導体積層体20において部分的にエッチングを行い、該エッチングにより下部InPクラッド層23が露出した一対の第1掘り込み部41,42と、該一対の第1掘り込み部41,42に挟まれるように形成されたリッジ部30(エッチングされていない突部)とを形成する。エッチングは、例えばドライエッチング又はウェットエッチング、或いはその両方により行われる。当該エッチングは、少なくとも、上部InGaAsガイド層26、活性層25、及び下部InGaAsガイド層24を貫通するように行われ、下部InPクラッド層23内、又は、下部InGaAsガイド層24及び下部InPクラッド層23の界面まで行われる。
【0023】
次に、一対の第1掘り込み部41,42において、リッジ部30の側面を覆うようにFeドープInP層27を成長させる(
図2(c)参照)。FeドープInP層27は、少なくとも活性層25の側面を覆うように厚さ2.5μm程度成長させる。なお、FeドープInP層27がリッジ部30の上部(上部InGaAsガイド層26の上部)にまで成長することを抑制すべく、リッジ部30の上部をマスクでカバーしておく必要がある。
【0024】
次に、FeドープInP層27の成長後において、上述したマスクを除去すると共に、第1掘り込み部41,42及びリッジ部30を含む全面に、厚さ5μmの上部InPクラッド層28及び厚さ250nmの上部コンタクト層であるInGaAsコンタクト層29(n=5×10
18cm
−3)を成長させる(
図2(d)参照)。
【0025】
次に、半導体積層体20に一対のチャネル構造51,52(第2掘り込み部)を形成する(
図3(a)参照)。詳細には、リッジ部30の両側である一対の第1掘り込み部41,42それぞれにおいて部分的にエッチングを行い、該エッチングによりInGaAs電流拡散層22が露出したチャネル構造51,52と、リッジ部30との間にチャネル構造51,52を挟むように形成された周縁部61,62(エッチングされていない突部)とを形成する。より詳細には、一対の第1掘り込み部41,42それぞれに対応するチャネル構造51,52を、リッジ部30を挟んで対称となる位置(リッジ部30の中心から見て左右対称となる位置)に形成する。チャネル構造51,52は、例えば、幅70μmで形成されており、リッジ部30の中心から100μm離れた位置から170μm離れた位置にまで形成されている。周縁部61,62の幅は、例えばチャネル構造51,52の幅と同程度か、やや大きくされる。チャネル構造51,52を形成するエッチングは、少なくともInGaAsコンタクト層29、上部InPクラッド層28、FeドープInP層27、及び下部InPクラッド層23を貫通するように行われる。InGaAsコンタクト層29のエッチングは、例えば、燐酸、過酸化水素水、及び水により行われる。更に、上部InPクラッド層28、FeドープInP層27、及び下部InPクラッド層23のエッチングは、塩酸系エッチャントによる選択エッチングにより行われる。なお、InGaAs電流拡散層22の界面又はInGaAs電流拡散層22内においてエッチングを停止できれば、その他のエッチャント又はドライエッチングが行われてもよい。
【0026】
次に、結晶成長面側の全面に厚さ300nmのSiN絶縁膜71を成膜した後に、リッジ部30におけるInGaAsコンタクト層29の一部の領域(例えば中心の領域)である第1領域29a、及び、チャネル構造51,52におけるInGaAs電流拡散層22の一部の領域である第2領域22aのみSiN絶縁膜71を除去する(
図3(b)参照)。すなわち、第1領域29a及び第2領域22aを除いてSiN絶縁膜71を形成する。
【0027】
次に、リッジ部30の上部、及び、両サイドのチャネル構造51,52をそれぞれ覆うように、電極パターン81,82を形成する(
図3(c)参照)。詳細には、第1領域29aに接するようにリッジ部30の上部において電極パターン81(第1電極)を形成すると共に、第2領域22aに接するように両サイドのチャネル構造51,52において電極パターン82(第2電極)を形成する。電極パターン82は、チャネル構造51,52の溝形状に沿って形成されると共に、両端(上端)部分が周縁部61,62の表面、及びリッジ部30の表面にまで到達している。すなわち、第2領域22aに接する電極パターン82は、周縁部61,62を覆うSiN絶縁膜71に沿って周縁部61,62の表面まで形成されている。電極パターン81,82は、SiN絶縁膜71を介して互いに電気的に絶縁されている。電極パターン81,82は、例えば電極用のAuである。電極パターン81,82としてAuが採用されることにより、半導体素子の機械的強度を向上させることができる。結晶成長面側に電極パターン81,82を形成し、電極パターンを3か所に分離することにより、結晶成長面側から電流注入及び電圧印加を行うことができる。以上の結晶成長面側プロセスにより、結晶成長面側に電極パターン81,82が形成された半導体素子8が形成される。
【0028】
図4を参照して、量子カスケードレーザ光源1の製造工程のうち、結晶成長面側プロセス完了後の仮接合工程について説明する。仮接合工程は、半導体素子8を支持基板に仮接合した後に、半導体素子8のFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板21をシリコン(Silicone:Si)基板に張り替える工程である。
図4(a)〜
図4(d)は、仮接合工程を時系列で示している。なお、
図4(a)〜
図4(d)では、半導体素子の1チップに対応する領域のみ図示しているが、実際には、仮接合工程は、
図5に示すような、複数チップに対応する領域を有する板状部材単位に実施される。
【0029】
仮接合工程では、最初に、半導体素子8における電極パターン81,82が形成された側である結晶成長面側を支持基板91に固定する(
図4(a)参照)。詳細には、結晶成長面及び支持基板91の接合面の少なくともいずれか一方に、仮接合用ワックス92を塗布した状態で、支持基板91に対して半導体素子8の結晶成長面を押し付けることにより、支持基板91に結晶成長面(すなわち半導体素子8)を固定する。
【0030】
次に、支持基板91に固定された半導体素子8のFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を除去する(
図4(a)及び
図4(b)参照)。詳細には、まず、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を、粒径3μmの研磨粉にて残り厚さ50μm程度まで研磨する。その後、残り厚さ50μmのFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を、塩酸及び過酸化水素を1対1とした溶液によりエッチングし、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を完全に除去して、InGaAs電流拡散層22を露出させる。
【0031】
次に、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が除去された面にSi基板93を固定する(
図4(c)参照)。詳細には、例えば1kΩ・cm以上のFZ(Floating Zone)−Si基板93を準備し洗浄した後に、該Si基板93に接合用樹脂94をスピンコーティングで塗布し、100℃に加熱したホットプレートで1分程度ベークを行う。更に、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が除去されたことにより露出したInGaAs電流拡散層22に、Si基板93における接合用樹脂94が塗布された面を張り合わせ、3MPa程度の加重を加えながら200℃で15分間加熱を行う。なお、接合用樹脂94は、活性層25内で発生するテラヘルツ波の波長に対して透過するものであればよく、例えば、透過率が80%以上であってInPに屈折率が近いもの、加熱後の膜厚が200nm以下となるもの等が用いられる。具体的には、接合用樹脂94としては、例えばCYCLOTENE樹脂が用いられる。
【0032】
次に、上記加熱によってSi基板93がInGaAs電流拡散層22に固定された後に、支持基板91を剥離すると共に、結晶成長面に残った仮接合用ワックス92を除去する(
図4(d)参照)。以上の仮接合工程により、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21に替えてSi基板93が張り合わされた半導体素子9が形成される。
【0033】
図5及び
図6を参照して、量子カスケードレーザ光源1の製造工程のうち、仮接合工程完了後のダイシング工程について説明する。ダイシング工程は、半導体素子9をチップ化する工程である。
図5は、ダイシング前の半導体素子9を示す平面図である。
図6はチップ化された半導体素子2を示す概略斜視図である。上述した支持基板91を剥離する工程後において、
図5に示す切断ラインCLに沿ってステルスダイシングを行うことにより、複数のチップに対応する領域(チップ対応領域CE)を有する板状部材である半導体素子9をチップ化し、チップ化された半導体素子2(
図6参照)を形成する。切断ラインCLは、隣り合うチップ対応領域CE間に延びており、より詳細には、隣り合うチップ対応領域CEの電極パターン82間に形成されている。ステルスダイシングでは、まず、ステルスダイシング(Stealth laser dicing:SD)層の形成を行う。具体的には、結晶成長面側にダメージを与えないように、Si基板93側にダイシングテープを貼り付け、ダイシングテープ側から切断ラインCLに沿ってレーザを照射する。レーザの照射は、例えば波長1342nm、パルス幅90nmのレーザを用いて、加工速度400mm/sで行われる。これにより、Si基板93内にSD層が形成される。そして、形成したSD層を起点として半導体素子9の表裏面に向かって上下に垂直なクラックを発生させることにより、半導体素子9が内部から割断される。SD層を、Si基板93内におけるInGaAs電流拡散層22に近い領域(例えばInGaAs電流拡散層22から40μm程度離間した領域)に形成し、その後200μmの間隔でSD層形成することにより、結晶成長面に傷やカケを発生させることなくダイシングすることができる。なお、レーザ照射時には、加工深さに応じてLCOSを使用して任意に収差補正を行っている。
【0034】
図7を参照して、量子カスケードレーザ光源1の製造工程のうち、ダイシング工程完了後の組立工程について説明する。組立工程は、チップ化された半導体素子2をエピサイドダウン組立によりサブマウント100に接続し、量子カスケードレーザ光源1を形成する工程である。
図7は、エピサイドダウン組立によりサブマウント100に接続された半導体素子2を示す正面図である。上述したチップ化する工程後において、
図7に示すサブマウント100を準備し、エピサイドダウン組立によりサブマウント100に半導体素子2を接続する。サブマウント100には、半導体素子2の電極パターン81に対応する金属部分101(第3電極)と、該金属部分101の両側に設けられ、半導体素子2の電極パターン82に対応する金属部分102とが設けられている。そして、サブマウント100の金属部分101,102が形成された面と、半導体素子2の電極パターン81,82が形成された面とを対向させ、金属部分101に電極パターン81が接触し、金属部分102に電極パターン82が接触するように、エピサイドダウン組立によりサブマウント100に半導体素子2を接続する。以上により、サブマウント100に半導体素子2が接続され、量子カスケードレーザ光源1が製造される。
【0035】
続いて、上述した量子カスケードレーザ光源1の製造方法の作用効果について説明する。
【0036】
室温動作可能な小型テラヘルツ光源として、2波長発振する中赤外量子カスケードレーザ内における差周波発生によってテラヘルツ波を出力するDFG−QCL光源が知られている。DFG−QCL光源では、活性層内で生成されたテラヘルツ波がFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板内部に吸収されることにより、テラヘルツ波の出力が数μW程度と極端に小さくなってしまうことが問題となる。このような問題に対して、例えば、チェレンコフ位相整合を適用する方法がある。この方法は、屈折率分散によってテラヘルツ波が半導体素子から斜め方向に放出されることに着目し、半導体素子の端面を20°〜30°に研磨することにより、テラへルツの取り出し効率を向上させるものである。しかしながら、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板の吸収量が大きいことから、当該方法によっても、十分な出力を確保することができない。また、当該方法では、チップ化した半導体素子1つ1つに対して、端面部分を研磨する必要があることから、作業が煩雑となり半導体素子の量産に適していない。
【0037】
更に別の方法として、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板を除去すると共に、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板に替えて、テラヘルツ波の吸収量が少ないSi基板を張り合わせることによりテラヘルツ波の取り出し効率を向上させる方法がある。このような方法によれば、テラヘルツ波の取り出し効率を大きく向上させることができる。ここで、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板が除去された半導体素子は、極めて薄い構造となるため、その後のSi基板の張り合わせ等における外力に耐えることができない(十分な強度を有さない)場合がある。また、
図8の比較例に示すように、Si基板294が張り合わされた半導体素子202においては、結晶成長面側(Si基板294が張り合わされない側)に電極を設ける必要があるところ、上部コンタクト層であるInGaAsコンタクト層229の露出部分と、下部コンタクト層であるInGaAs電流拡散層222の露出部分とは例えば10μm程度の高低差がある。このような構成においては、通常、InGaAsコンタクト層229に対応するリッジ部230のみが突出した形状となる。このため、半導体素子202は、Si基板張り替え時の支持基板との固定面においてリッジ部230とそれ以外の部分との凸凹が大きくなり、支持基板に強固に固定することができず、ヒビや割れが生じやすくなってしまう。
【0038】
上述した課題を解決すべく、本実施形態に係る量子カスケードレーザ光源1の製造方法は、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21上に、InGaAs電流拡散層22、下部InPクラッド層23、下部InGaAsガイド層24、活性層25、及び、上部InGaAsガイド層26が順次積層された半導体積層体20を準備する工程と、半導体積層体20において、部分的にエッチングを行い、該エッチングにより下部InPクラッド層23が露出した一対の第1掘り込み部41,42と、該一対の第1掘り込み部41,42に挟まれるように形成されたリッジ部30とを形成する工程と、第1掘り込み部41,42においてFeドープInP層27が成長し、更に、第1掘り込み部41,42及びリッジ部30において上部InPクラッド層28及びInGaAsコンタクト層29が成長した後に、一対の第1掘り込み部41,42それぞれにおいて、部分的にエッチングを行い、該エッチングによりInGaAs電流拡散層22が露出したチャネル構造51,52と、リッジ部30との間にチャネル構造51,52を挟むように形成された周縁部61,62とを形成する工程と、リッジ部30におけるInGaAsコンタクト層29の一部の領域である第1領域29a、及び、チャネル構造51,52におけるInGaAs電流拡散層22の一部の領域である第2領域22aを除いてSiN絶縁膜71を形成した後に、第1領域29aに接するように電極パターン81を形成すると共に、第2領域22aに接するように電極パターン82を形成し、半導体素子8を形成する工程と、半導体素子8における電極パターン81及び電極パターン82が形成された側である結晶成長面側を支持基板91に固定する工程と、支持基板91に固定された半導体素子8のFeドープ(半絶縁)Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を除去する工程と、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が除去された面にSi基板93を固定する工程と、Si基板93が固定された後に支持基板91を剥離する工程と、を備える。
【0039】
本実施形態に係る量子カスケードレーザ光源1の製造方法では、半導体素子8の形成後において、支持基板91に固定された半導体素子8のFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が除去され、該Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21に替えてSi基板93が張り合わされている。このように、テラヘルツ波を吸収しやすいFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板21に替えて、テラヘルツ波を吸収しにくい(波長3THzにおいてFeドープ(半絶縁)InP単結晶基板の約1/100の吸収量である)Si基板93が張り合わされることにより、チェレンコフ位相整合を適用して量子カスケードレーザ光源1において、テラヘルツ波の取り出し効率を向上させることができる。この場合、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板と同様に屈折率分散によってテラヘルツ波が半導体素子から斜め方向に放出されるが、Si基板の屈折率はInPよりも小さいため、研磨することなくテラヘルツ波の出力を取りだすことが可能である。テラヘルツ波は半導体と空気の界面において約40°、Si基板93の方向に屈折されて放射される。Si基板93を用いた構成におけるテラヘルツ波の出力は、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板を用いる場合と比較して、5〜8倍大きくなる。
【0040】
そして、量子カスケードレーザ光源1の製造方法では、リッジ部30の両側に周縁部61,62が設けられた半導体素子9が形成される。周縁部61,62は、下部InPクラッド層23が露出した第1掘り込み部41,42においてドープ層が成長すると共に上部InPクラッド層28及びInGaAsコンタクト層29が成長することにより形成された部分である。このため、周縁部61,62は、同じくInPクラッド層28及びInGaAsコンタクト層29が成長することにより形成されたリッジ部30と同様に、ある程度の高さを有することとなる(
図3(c)等参照)。このことで、半導体素子は、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21が除去された状態においても、従来と比較して厚みが増した構成となり(
図4(b)参照)、強度が向上する。また、半導体素子は、周縁部61,62を有していることによって、支持基板91との固定面においてリッジ部30とそれ以外の部分との凸凹が小さくなり、従来と比較して支持基板91に密着して強固に固定し易くなる(
図4(b)等参照)。以上より、本実施形態の製造方法によれば、十分な強度を担保しながらテラヘルツ波の高い取り出し効率を実現する量子カスケードレーザ光源1が製造される。
【0041】
更に、本実施形態の製造方法では、InGaAs電流拡散層22が露出した第2領域22aが、リッジ部30の両側に形成されており、且つ、周縁部61,62及びリッジ部30の間の領域(すなわち、リッジ部30に近接した領域)に形成されている(
図3(b)等参照)。このため、本発明では、InGaAs電流拡散層22に接する電極パターン82が、活性層25を挟むように活性層25の両側に形成されるとともに、活性層25に近接した領域に形成されることとなる(
図3(c)等参照)。コンタクト層と接する電極が活性層の片側のみに形成された場合や、活性層から大きく離間して形成された場合には、電圧降下が大きくなり電気的な特性が悪化してしまう。この点、上述したように、本実施形態の製造方法では、下部コンタクト層であるInGaAs電流拡散層22に接する電極パターン82が、活性層25を挟むように活性層25の両側に形成されるとともに、活性層25に近接した領域に形成されているため、電圧降下が抑制される。
【0042】
また、本実施形態の製造方法では、上述した支持基板91を剥離する工程(
図4(d)参照)を含む仮接合工程後において、
図5に示すような所定の切断ラインCLに沿ってステルスダイシングを行うことにより、半導体素子9をチップ化し、チップ化された半導体素子2(
図6参照)を形成する工程を更に備えている。ステルスダイシングでは、切断対象が内部から割断されるため、ダイシングブレード等を用いて外部から切断される場合と比較して、切断対象を傷つけることなく高速に分離することができる。切断ラインCLに沿ってステルスダイシングが行われることにより、チップ化された半導体素子2の結晶成長面等における傷又は欠け等が防止され、当該傷等が生じた場合に問題となるテラヘルツ波の出力低下が抑制されると共に、ダイシングによるチップ化が高速化される。
【0043】
また、本実施形態の製造方法では、半導体素子8を形成する工程において、第2領域22aに接する電極パターン82を、周縁部61,62を覆うSiN絶縁膜71に沿って周縁部61,62の表面まで形成し(
図3(c)参照)、金属部分101と、該金属部分101の両側に設けられた金属部分102とが設けられたサブマウント100を準備する工程と(
図7参照)、ダイシング工程後において、サブマウント100の金属部分101及び金属部分102が形成された面と、半導体素子2の電極パターン81及び電極パターン82が形成された面とを対向させ、金属部分101に電極パターン81が接触し、金属部分102に電極パターン82が接触するように、エピサイドダウン組立によりサブマウント100に半導体素子2を接続する工程と(
図7参照)、を更に備えている。
【0044】
従来の製造方法により製造された量子カスケードレーザ光源の半導体素子では、上述したように、上部コンタクト層に対応するリッジ部分のみが突出しており、上部コンタクト層の露出部分に接触する電極と、下部コンタクト層の露出部分に接触する電極とは高低差があり、電極が形成された面の凹凸が大きい構成(電極パターンが複雑な構成)となる。このような半導体素子は、サブマウントに対して、互いの電極を接触させるようにエピサイドダウン組立により接続されることが困難である。例えば上述した比較例に係る
図8の半導体素子202では、支持基板に対して張り合わされる際の結晶成長面側のデバイス構造を保護する用途で突出したレジスト部250が形成されているが、当該レジスト部が残存していることによって、エピサイドダウン組立がより困難となっている。この点、本実施形態の製造方法では、リッジ部30の両側に形成された周縁部61,62がリッジ部30と同程度の高さを有しており、且つ、第2領域22aに接する電極パターン82が周縁部61,62の表面にまで形成されているため、リッジ部30に形成された電極パターン81と周縁部61,62(及びリッジ部30)に形成された電極パターン82との高さを同程度とすることができる(
図3(c)等参照)。このことにより、
図7に示すように、サブマウント100の金属部分101に対して電極パターン81、金属部分102に対して電極パターン82を接触させるようにして、エピサイドダウン組立により、半導体素子2とサブマウント100とを接続させることができる。エピサイドダウン組立により半導体素子2とサブマウント100とが接続されることによって、半導体素子2からの発熱を効率良くサブマウント100に逃がすことができ、半導体素子2は、より高温環境下での動作や、発熱負荷の大きい、高いデューティーサイクル動作又は連続動作が可能になる。
【0045】
また、本実施形態の製造方法では、チャネル構造51,52と周縁部61,62とを形成する工程において、一対の第1掘り込み部41,42それぞれに対応するチャネル構造51,52を、リッジ部30を挟んで対称となる位置に形成する(
図3(a)等参照)。これにより、活性層25からの離間距離が両側の電極パターン82で同程度となり(
図3(c)等参照)、電圧降下がより好適に抑制される。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、実施形態では、接合用樹脂94によってInGaAs電流拡散層22とSi基板93とを接合するとして説明したが、活性化接合又は加圧等の直接接合により当該接合を行うこととしてもよい。
【0047】
また、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21を完全に除去してInGaAs電流拡散層22を露出させるとして説明したがこれに限定されず、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板を薄く残した状態で、Si基板が接合されてもよい。ただし、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板におけるテラヘルツ波の吸収(自由キャリア吸収)を抑制する観点から、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板は150μm以下まで薄くされることが好ましい。
【0048】
また、ステルスダイシングにより半導体素子9をダイシングするとして説明したがこれに限定されず、一般的なダイシングブレードによってダイシングが行われてもよい。
【0049】
また、エピサイドダウン組立により半導体素子2がサブマウント100に接続されるとして説明したがこれに限定されず、例えばワイヤドロップ等により半導体素子がサブマウントに接続されるものであってもよい。
【0050】
また、Feドープ(半絶縁)InP単結晶基板21上の構成として、InGaAs電流拡散層22、下部InPクラッド層23、下部InGaAsガイド層24、活性層25、及び、上部InGaAsガイド層26が順次積層された構成を説明したが、これに限定されず、例えば、活性層25は様々な形態を用いてよい。具体的には、単位積層体が多段に積層された活性層25に2種類若しくはそれ以上の単位積層体を用いた活性層を用いてもよい。また、上部InGaAsガイド層26に回析格子を形成する際、2種類のグレーティングや2種類がミックスされたグレーティングパターンを用いて、ポンプ光ω1及びω2に対応する周波数を発生させてもよい。この場合、得られるTHzスペクトルはシングルモードとなる。また、ファブリペロ動作において発振スペクトル幅が1THz以上に広がった場合もその差周波によってテラヘルツ波を生じさせることが可能であり、上部InGaAsガイド層26に回折格子を形成する必要はない。この場合、得られるテラヘルツ出力は回折格子を形成したものと比べ低くなる。