(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
[鋼片温度推定装置]
まず、
図1を参照して、本実施の形態にかかる鋼片温度推定装置10について説明する。
図1は、鋼片温度推定装置の構成を示すブロック図である。
この鋼片温度推定装置10は、全体としてサーバ装置、PC、産業用コントローラなどの情報処理装置からなり、鋼片加熱炉1から検出した鋼片Bの装入温度T
INおよび炉壁温度T
Wに基づいて、鋼片加熱炉1で加熱している鋼片Bの内部の鋼片温度T
mを推定する装置である。
【0014】
鋼片温度推定装置10は、主な機能部として、通信I/F部11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、温度取得部15、放射伝熱量算出部16、伝導伝熱量算出部17、鋼片温度算出部18を備えている。
【0015】
コントローラ20は、全体として一般的な産業用コントローラからなり、鋼片加熱炉1に設置されている装入温度計21、炉壁温度計22A,22B,22Cなどのフィールド機器と伝送路L2を介してデータ伝送を行うことにより、これらフィールド機器を制御する機能と、これら装入温度計21、炉壁温度計22A,22B,22Cで検出された装入温度および炉壁温度T
Wを含む各種監視データを収集し、通信回線L1を介して上位装置30へ通知する機能とを有している。
【0016】
上位装置30は、全体としてサーバ装置からなり、コントローラ20から通知された装入温度T
INおよび炉壁温度T
Wを含む各種監視データに基づいて鋼片加熱炉1の動作を監視する機能と、監視データに含まれる装入温度T
INおよび炉壁温度T
Wを、通信回線L1を介して鋼片温度推定装置10へ通知する機能とを有している。
【0017】
[鋼片加熱炉]
次に、
図2〜
図5を参照して、鋼片加熱炉1について説明する。
図2は、鋼片加熱炉の模式図である。
図3は、
図2のA−A断面図である。
図4は、
図3のB−B断面図である。
図5は、
図3のC−C断面図である。ここでは、本実施の形態にかかる鋼片温度推定装置10が適用される鋼片加熱炉1が、ウォーキングハース型の鋼片加熱炉である場合を例として説明するが、これに限定されるものではない。
【0018】
図2〜
図5に示すように、鋼片加熱炉1の装入口4から装入された鋼片Bは、炉床3上に載置た状態で、予熱帯1A、加熱帯1B、および均熱帯1Cへと順次搬送され、目標温度まで加熱された後、抽出口5から抽出される。
図2の例では、鋼片加熱炉1に予熱帯1A、加熱帯1B、および均熱帯1Cからなる3帯が設けられている例が示されているが、この構成に限定されるものではない。抽出された鋼片Bは、後段のBD圧延機(図示せず)により所定の形状に形成される。
【0019】
一般に、BD圧延機は、製品ごとに異なる圧延回数や圧下量、さらには鋼片長に起因して、圧延に消費する電力量が変動する。また、同一製品・同一鋼片長であっても、鋼片内部温度と負の相関があるため、鋼片内部温度が低下すると、圧延負荷すなわち圧延消費電力が増大する。したがって、鋼片加熱炉1に装入される鋼片Bごとに、鋼片内部温度を精度よく推定することが必要となる。
【0020】
鋼片加熱炉1に装入された鋼片Bは、炉壁2と炉床3で囲まれた、予熱帯1A、加熱帯1B、および均熱帯1Cの炉内を搬送されるため、鋼片Bの温度を直接計測することはできない。
本発明は、鋼片温度推定装置10は、
図2に示すように、装入口4に設置されている放射温度計などの装入温度計21で装入時に計測した、鋼片Bの装入温度T
INを起点として、予熱帯1A、加熱帯1B、および均熱帯1Cに設置されている炉壁温度計22A,22B,22Cで計測した、それぞれの炉壁温度T
Wに基づいて、鋼片Bの鋼片温度T
mを推定するようにしたものである。
【0021】
この際、鋼片加熱炉1には、例えば50〜200本程度の鋼片Bが装入されるため、これら鋼片Bごとに、鋼片温度をそれぞれ個別に推定する。また、鋼片温度は、徐々に上昇するため、予め設定された算出周期Τに基づく算出時刻tごとに、新たな鋼片温度T
mを推定する。また、鋼片Bの搬送速度は予め規定されているため、装入からの経過時間により鋼片Bが滞在している帯を把握でき、鋼片温度の推定に用いる、例えば炉壁温度計22A,22B,22Cで測定された炉壁温度T
Wなどの各帯に依存するパラメータを切り替えることができる。
【0022】
図3〜
図5に示すように、鋼片Bは、全体として長さB
Lの鋼片長を有する棒形状をなしており、鋼片幅B
W×鋼片高さB
Hの断面矩形形状を有している。これら鋼片Bは、鋼片間隔B
Pで炉床3上に載置された状態で搬送される。
【0023】
鋼片温度推定装置10は、主な機能部として、通信I/F部11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、温度取得部15、放射伝熱量算出部16、伝導伝熱量算出部17、および鋼片温度算出部18を備えている。これら機能部のうち、温度取得部15、放射伝熱量算出部16、伝導伝熱量算出部17、および鋼片温度算出部18は、CPUとプログラムとが協働することにより実現される。
【0024】
通信I/F部11は、通信回線L1を介してコントローラ20や上位装置30とデータ通信を行う機能を有している。
操作入力部12は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出する機能を有している。
画面表示部13は、LCDなどの画面表示装置からなり、メニュー画面、設定画面、算出結果画面などの各種画面を表示する機能を有している。
【0025】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、鋼片温度推定処理に用いる各種処理データやプログラムを記憶する機能を有している。
温度取得部15は、通信I/F部11を介してコントローラ20や上位装置30とデータ通信を行うことにより、鋼片加熱炉1の装入温度計21検出された装入温度T
INや、や炉壁温度計22A,22B,22Cで検出された炉壁温度T
Wを取得して、記憶部14に保存する機能を有している。
【0026】
放射伝熱量算出部16は、鋼片Bの多層平面壁を構成するN(Nは2以上の整数)個の層のうち、最も外側に位置する第1層に対する鋼片加熱炉1からの放射伝熱量を算出する機能を有している。
図6は、多層平面壁を示す説明図であり、
図6(a)は各層の展開図であり、
図6(b)は各層に関する伝熱状況を示す説明図である。
【0027】
本発明では、鋼片Bが、その外側から内側に向けて仮想的に設けたN個の層からなる多層平面壁で構成されていると見なしている。具体的には、
図6(a)に示すように、鋼片Bを長手方向に垂直な断面視で四角格子状に分割し、得られた長さB
Lを有する複数の素片bのうちから、炉床3と接する底面F側方向に開口するコの字形状で、素片bを厚さ1列分ずつ外側から順に選択し、これらコの字形状に選択した素片bのうち左右の両側面を形成する素片b
R,b
Lを、上面を構成するb
Uと同一平面上に展開して得られた複数の層により、多層平面壁を形成している。
【0028】
図6(a)の例では、鋼片Bの長手方向に垂直な断面Sにおいて、鋼片幅B
Wと鋼片高さB
Hを、辺長がb
Dの正方形で分割して、m×n(10×10)個の素片bを形成し、炉床3と接する底面F側にb
Dに満たない高さの素片b’をm×1(10×1)個形成している。これにより、最も外側の第1層から最も内側が第5層までの5つの層が形成され、
図6の例では、10×10個の素片bが5個の層に大幅に圧縮されることになる。なお、本実施の形態では、多層平面壁を形成する層の数が5である場合について説明するが、これに限定されるものではない。
【0029】
本実施の形態によれば、鋼片Bを複数に分割して得られた格子間の伝導伝熱に基づいて鋼片内部温度を算出する際、複数の格子が多層平面壁を構成する層としてグループ化され、これら層間の伝導伝熱に基づいて、鋼片内部温度が算出されることになる。したがって、個々の格子(素片b)間の伝導伝熱に基づいて、鋼片内部温度を算出する場合と比較して、伝導伝熱の算出処理回数を大幅に削減でき、結果として、算出処理負担さらには算出所要時間を大幅に削減することが可能となる。
【0030】
本実施の形態では、鋼片加熱炉1において、燃焼による熱エネルギーはすべて炉壁2からの放射伝熱であるとし、炉壁温度T
Wは、予熱帯1A、加熱帯1B、および均熱帯1Cのそれぞれに設置されている炉壁温度計22A,22B,22Cでの計測値と一致するものと仮定する。また、
図4に示すように、鋼片長をB
Lとし、鋼片間隔をB
Pとした場合、炉壁2から鋼片Bへの放射熱の伝熱面積A
Bは、A
B=B
P×B
Lで求められるものと仮定する。また、炉壁2の面積も伝熱面積A
Bと等しいものとし、無限平衡板であるものとする。
【0031】
鋼片Bのうち第1層の鋼片温度T
m1は、
図6(b)に示すように、鋼片加熱炉1から鋼片Bに対する放射伝熱量q
WBにより変化する。したがって、時刻tに得られた炉壁温度をT
W(t)[℃]とし、その直前の時刻t−1における第1層の鋼片温度をT
m1(t−1)[℃]とし、鋼片B全体と対応する伝熱面積をA
B[m
2]とし、シュテファン・ボルツマン定数をσ[W/(m
2k
4)]とし、総括熱吸収率をΦ
WBとし、鋼片温度の算出周期をΤ[sec]とした場合、時刻tにおける放射伝熱量q
WB(t)[kJ]は、次の式(1)で求められる。
【数1】
【0032】
伝導伝熱量算出部17は、多層平面壁を形成する層ごとに、当該層からその内側に隣接する内側層へ伝熱する伝導伝熱量q
ijを算出する機能を有している。
図7は、各層に関する伝導伝熱量を示す説明図であり、横軸が各層における鋼片温度を示し、縦軸が各層の距離(厚さ)を示している。
図7に示すように、鋼片Bのうち第1層から第4層までの第i層の鋼片温度T
miと、その第i層の内側に隣接する第j(j=i+1)層の鋼片温度T
mjは、隣接する層ij間を伝熱する伝導伝熱量q
ijにより変化する。
【0033】
したがって、時刻tにおける第i層の鋼片温度T
mi(t)[℃]と第j層の鋼片温度T
mj(t−1)[℃]との温度差をΔT[℃]とし、第i層と第j層との間の層間面積をA
ij[m
2]とし、第i層と第j層の層の厚さをΔx[m]とし、鋼片Bの熱伝導率をk
av[w/mK]とした場合、第i層から第j層への時刻tにおける伝導伝熱量q
ij(t)[kJ]は、次の式(2)で求められる。
【数2】
【0034】
この際、伝導伝熱量q
ij(t)は、鋼片Bの外側の層から順に算出されるため、第i層の鋼片温度については、伝導伝熱量q
ij(t)を考慮していない暫定のT
mi(t)が求められており、第j層の鋼片温度T
mjについては、時刻t−1のT
mj(t−1)しかない。このため、温度差ΔTは、T
mi(t)−T
mj(t−1)で求めることになる。
【0035】
鋼片温度算出部18は、放射伝熱量q
WBおよび伝導伝熱量q
ijに基づいて各層が保有する保有熱量Q
mを算出する機能と、これら保有熱量Q
mに基づいて各層に関する鋼片温度T
mを算出する機能を有している。
【0036】
時刻tにおける第i層から第j層への伝導伝熱量をq
ij(t)とし、時刻tにおける暫定の第i層の保有熱量をQ
mi(t)[kJ]とし、時刻t−1における第j層の保有熱量をQ
mj(t−1)[kJ]とした場合、時刻tにおける第i層の保有熱量Q
mi(t)と第j層の保有熱量Q
mj(t)[kJ]は、次の式(3)により求められる。
【数3】
【0037】
この際、伝導伝熱量q
ij(t)は、鋼片Bの外側の層から順に算出されるため、第i層の保有熱量Q
miについては、伝導伝熱量q
ij(t)を考慮していない暫定のQ
mi(t)が求められており、第j層の保有熱量Q
mjについては、時刻t−1のQ
mj(t−1)しかない。このため、第i層の保有熱量Q
mi(t)は、暫定のQ
mi(t)からq
ij(t)を減算して求めることができ、第j層の保有熱量Q
mi(t)は、Q
mj(t−1)にq
ij(t)を加算して求めることができる。
【0038】
また、第i層の重量をW
i[kg]とし、第j層の重量をW
j[kg]とし、熱量と温度との換算係数をC[kJ/kgK]とした場合、第i層の鋼片温度T
mi(t)[℃]と第j層の鋼片温度T
mj(t)[℃]は、次の式(4)により求められる。
【数4】
【0039】
[本実施の形態の動作]
次に、
図8および
図9を参照して、本実施の形態にかかる鋼片温度推定装置10の動作について説明する。
図8は、鋼片温度推定処理を示すフローチャートである。
図9は、鋼片温度推定処理(続き)を示すフローチャートである。
【0040】
鋼片温度推定装置10は、上位装置30からの指示、あるいは、操作入力部12で検出したオペレータ指示に応じて、鋼片加熱炉1に鋼片Bが装入されるごとに、
図8および
図9の鋼片温度推定処理を実行する。なお、鋼片温度推定処理は、鋼片加熱炉1に装入される各鋼片Bについて並行して実行されるが、ここでは1つの鋼片Bに対する鋼片温度推定処理に注目して説明する。また、鋼片温度推定処理に用いる各種パラメータは、予め記憶部14に設定されているものとする。
【0041】
図8に示すように、まず、伝導伝熱量算出部17は、鋼片加熱炉1に新たに装入された鋼片Bに関する幅B
W[m]、高さB
H[m]、および総重量Wを記憶部14から取得し、次の式(5)に基づいて、最も外側の第1層から最も内側の第N層まで、第i(i=1〜N−1の整数)層と第j(j=i+1)層の組ごとに、これら層i,jに関する層間面積A
ij[m
2]を算出し、記憶部14に保存する(ステップ100)。
【数5】
【0042】
なお、式(5)は、ウォーキングハース炉(3面加熱)の場合を示しているが、ウォーキングビーム炉(4面加熱)の場合も同様に、次の式(6)に基づいて、伝熱面積に相当する層i,jに関する層間面積A
ij[m
2]を求めることができる。
【数6】
【0043】
また、伝導伝熱量算出部17は、鋼片Bに関する総重量Wを記憶部14から取得して、次の式(7)に基づいて、第i(i=1〜Nの整数)層に関する重量W
i[kg]をそれぞれ算出し、記憶部14に保存する(ステップ100)。
【数7】
【0044】
なお、式(7)は、ウォーキングハース炉(3面加熱)の場合を示しているが、ウォーキングビーム炉(4面加熱)の場合も同様に、次の式(8)に基づいて、第i層に関する重量W
i[kg]を求めることができる。
【数8】
【0045】
また、温度取得部15は、装入温度計21で測定された鋼片Bの装入温度T
INを、コントローラ20または上位装置30から取得して記憶部14に保存する(ステップ101)。
伝導伝熱量算出部17は、記憶部14から取得した、第i(i=1〜Nの整数)層ごとに、重量W
iおよび装入温度T
IN[℃]と、記憶部14から取得した熱量と温度との換算係数Cとに基づいて、次の式(9)により、第i層に関する保有熱量Q
mi[kJ]をそれぞれ算出する(ステップ102)。
【数9】
【0046】
この際、装入時点における鋼片Bの各層iの温度は、装入温度T
INに等しいものと見なされる。したがって、装入時を示す時刻をt=0とした場合、第i層に関する温度T
mi[0]=T
INとして記憶部14にそれぞれ設定される。
【0047】
図10は、換算係数の温度特性例を示すグラフであり、横軸が鋼片温度、縦軸が換算係数Cを示している。換算係数C[kJ/kgK]は、鋼片Bの材質ごとに固有の温度特性を有している。本実施の形態では、0℃を基準(0[J])として、各温度における鋼片Bの比熱[kJ/kgK]を0℃から荷重平均した値を換算係数Cとして50℃間隔で予め計算しておき、得られた変換テーブルを内挿することにより、任意の温度における換算係数Cを導出している。
【0048】
この後、算出時刻tが到来するまで待機し(ステップ103:NO)、算出時刻tの到来に応じて(ステップ103:YES)、以下の処理を実行する。
まず、温度取得部15は、炉壁温度計22A,22B,22Cのいずれかで測定された鋼片加熱炉1の炉壁温度T
W(t)を、コントローラ20または上位装置30から取得して記憶部14に保存する(ステップ104)。
【0049】
次に、放射伝熱量算出部16は、前述した式(1)に基づいて、最も外側に位置する第1層に対する鋼片加熱炉1からの放射伝熱量q
WB(t)[kJ]を算出し、記憶部14に保存する(ステップ105)。
続いて、鋼片温度算出部18は、前回の算出時刻t−1に算出した第1層の保有熱量Q
m1(t−1)を記憶部14から取得し、次の式(10)に基づいて、時刻tにおける第1層の保有熱量Q
m1(t)を算出し、記憶部14に保存する(ステップ106)。
【数10】
【0050】
また、鋼片温度算出部18は、時刻tにおける第1層の保有熱量Q
m1(t)、第1層の重量W
1、および換算係数Cを記憶部14から取得し、次の式(11)に基づいて、時刻tにおける第1層の鋼片温度T
m1(t)を算出し、記憶部14に保存する(ステップ107)。
【数11】
【0051】
この後、
図9に示すように、最も外側の第1層から最も内側の第N層まで、第i(i=1〜N−1の整数)層と第j(j=i+1)層の組ごとに、ステップ111〜ステップ116のループ処理を実行する(ステップ110)。
【0052】
まず、伝導伝熱量算出部17は、前述した式(2)に基づいて、時刻tにおける第i層の鋼片温度T
mi(t)[℃]と、時刻t−1における第j層の鋼片温度T
mj(t−1)[℃]との温度差ΔT[℃]を求め(ステップ111)、第i層から第j層への時刻tにおける伝導伝熱量q
ij(t)を算出し、記憶部14に保存する(ステップ112)。
【0053】
図11は、熱伝導率の温度特性例を示すグラフであり、横軸が鋼片温度、縦軸が熱伝導率k
avを示している。熱伝導率k
av[w/mK]は、鋼片Bの材質ごとに固有の温度特性を有している。本実施の形態では、公知資料に基づき800℃までの温度特性を内挿し、800℃以上の温度特性については一定と見なしている。
【0054】
次に、鋼片温度算出部18は、時刻tにおける暫定の第i層のQ
mi(t)と第i層から第j層への伝導伝熱量q
ij(t)とを記憶部14から取得し、前述した式(3)に基づき、時刻tにおける第i層の保有熱量Q
mi(t)を更新し、記憶部14に保存する(ステップ113)。
また、鋼片温度算出部18は、時刻t−1における第i層のQ
mj(t−1)と第i層から第j層への伝導伝熱量q
ij(t)とを記憶部14から取得し、前述した式(3)に基づき、時刻tにおける第j層の保有熱量Q
mj(t)(暫定)を算出し、記憶部14に保存する(ステップ114)。
【0055】
この後、鋼片温度算出部18は、時刻tにおける第i層の保有熱量Q
mi(t)、第i層の重量W
i、および換算係数Cを記憶部14から取得し、前述した式(4)に基づいて、時刻tにおける第i層の鋼片温度T
mi(t)を算出する(ステップ115)。
また、鋼片温度算出部18は、時刻tにおける第j層の保有熱量Q
mj(t)、第j層の重量W
j、および換算係数Cを記憶部14から取得し、前述した式(4)に基づいて、時刻tにおける第j層の鋼片温度T
mj(t)を算出する(ステップ116)。
【0056】
このようにして、第i,j層ごとに、時刻tにおける鋼片温度T
mi(t),T
mj(t)を算出した後、対象となる鋼片Bが鋼片加熱炉1から抽出されて、鋼片Bに対する鋼片加熱炉1での加熱が終了したか確認する(ステップ108)。加熱終了確認は、例えば、鋼片Bの装入時刻からの経過時間に基づき確認すればよい。
ここで、加熱が終了していない場合(ステップ108:NO)、ステップ103に戻って次の算出時刻まで待機する。一方、加熱が終了した場合(ステップ108:YES)、一連の鋼片温度算出処理を終了する。
【0057】
[動作例]
次に、
図12および
図13に基づいて、本実施の形態にかかる鋼片温度推定装置10の動作例について説明する。
図12は、鋼片温度推定結果(層数N=5)を示すグラフであり、
図13は、鋼片温度推定結果(層数N=10)を示すグラフである。いずれのグラフも、横軸が時間[sec]を示し、縦軸が鋼片温度[℃]を示しており、総括熱吸収率としてΦ
WB=0.67を用いたものである。これらグラフにおいて、T
Wは炉壁温度を示しており、T
Tは目標温度を示している。
【0058】
図12のグラフでは、鋼片Bの装入時刻(t=0)から約7000[sec]後に、第5層における鋼片温度T
m5が目標温度T
Tに到達している。
図13のグラフも同様に、鋼片Bの装入時刻(t=0)から約7000[sec]後に、第9層における鋼片温度T
m9が目標温度T
Tに到達している。
また、
図12のグラフでは、鋼片Bの表面温度T
m1と内部温度T
m5の温度差は27.6[℃]であった。また、
図13のグラフでは、鋼片Bの表面温度T
m1と内部温度T
m10の温度差は28.3[℃]であり、両者の推定結果は概ね合致していることが分かった。
【0059】
この結果から、多層平面壁を構成する層数Nを5より増加しても、鋼片Bの内部温度の推定精度にはあまり改善が見られないことが確認できた。一方、Nを増加させると各層の重量が小さくなって、鋼片表面温度変化が大きくなり、換算係数や熱伝導率が大きく変化し、鋼片温度の推定結果が大きく乱れることを確認した。また、算出周期を短くすることで温度変化が少なくなり推定結果が安定することも確認できた。これにより、本発明を計測制御システムへ実装する際、層数Nを少なくしたほうが算出負荷の観点から望ましく、十分な推定精度が得られることが分かった。
【0060】
次に、
図14および
図15を参照して、鋼片温度の推定精度に対する総括熱吸収率Φ
WBの影響について説明する。
図14は、総括熱吸収率の違いによる鋼片温度推定結果を示すグラフである。
図15は、総括熱吸収率の違いによる鋼片温度推定結果(続き)を示すグラフである。
【0061】
前述したように、鋼片長をB
Lとするとともに鋼片間隔をB
Pとし、炉壁2から鋼片Bへの放射熱の伝熱面積A
BがA
B=B
P×B
Lで求められるものと仮定し、炉壁2の面積も伝熱面積A
Bと等しいものとし、無限平衡板であるものと仮定した場合、炉壁2から鋼片Bに対する総括熱吸収率Φ
WBは、次の式(12)で求められる。
【数12】
【0062】
式(12)において、Φ
BWは鋼片Bから炉壁2に対する総括熱吸収率であり、ε
Wは炉壁放射率であり、ε
Bは鋼片放射率である。公知資料に基づいて、ε
W=0.8、ε
B=0.8とした場合、式(12)により、理論値としてΦ
WB=0.67が得られる。
【0063】
図14および
図15では、総括熱吸収率Φ
WBを0.5,0.6,0.67,0.7,0.8の場合について、製品サイズおよびブルームサイズ(鋼片長)の異なる36個のサンプルについて、鋼片温度推定処理を行うことにより、抽出温度実測値Tと抽出温度推定値T
eとをグラフ化するとともに、鋼片内部温度とBD(圧延機)電力量との関係をグラフ化した。特に、BD電力量は、消費した電力量を鋼片長さ1m当たりで正規化するとともに、鋼片加熱炉1に装入される鋼片Bの本数で正規化した。また、ブルームサイズとして、小さい方よりBL1,BL2,BL3,BL4を用いた。
【0064】
これら結果によれば、理論値Φ
WB=0.67の付近で、鋼片表面温度と抽出温度との温度差およびばらつきが最も小さく、鋼片内部温度も目標温度T
G付近に集中していることが分かる。また、鋼片内部温度とBD電力量の間の負の相関がよく表れている。
特に、Φ
WB=0.5では、鋼片表面温度および鋼片内部温度ともに大きく外れているが、Φ
WB=0.6以上において、鋼片表面温度が抽出温度とよく整合している。また、鋼片内部温度もその絶対値は異なるものの、ブルームサイズごとの鋼片内部温度とBD電力量との間の負の相関については、その傾きとよく整合している。したがって、鋼片内部温度の変化量からBD電力量の変化量を推定できることが分かる。
【0065】
[計測制御システムへの実装]
次に、
図16を参照して、本実施の形態にかかる鋼片温度推定装置10の、計測制御システムへの実装について説明する。
図16は、鋼片内部温度の推定結果を示すグラフであり、横軸が時間を示し、縦軸が鋼片温度を示している。この推定結果は、装入温度が100℃下がった場合に、抽出鋼片内部温度が6℃下がることを示しており、実際の運転結果からみて納得できる結果である。
鋼片温度推定装置10を計測制御システムへ実装する場合、その実装要件として、鋼片(最大200本)の鋼片表面温度および鋼片内部温度を推定する必要がある。
【0066】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、放射伝熱量算出部16が、多層平面壁を構成する層のうち最も外側に位置する第1層に対して鋼片加熱炉1から伝熱する放射伝熱量を算出し、伝導伝熱量算出部17が、層ごとに、当該層からその内側に隣接する内側層に対して伝熱する伝導伝熱量を算出し、鋼片温度算出部18が、放射伝熱量および伝導伝熱量に基づいて層のそれぞれが保有する保有熱量を算出し、これら保有熱量に基づいて層のそれぞれに関する鋼片温度を算出するようにしたものである。
【0067】
より具体的には、多層平面壁は、鋼片Bを長手方向に垂直な断面視で四角格子状に分割し、得られた複数の素片bのうちから、鋼片Bの底面方向に開口するコの字形状で素片b1つ分の厚さずつ外側から順にブロックを選択し、これらコの字形状に選択した素片bのうち両側の側面を平面的に展開して得られた複数の層からなるものである。
【0068】
これにより、鋼片Bを複数に分割して得られた格子間の伝導伝熱に基づいて鋼片内部温度を算出する際、複数の格子(素片b)が多層平面壁を構成する層としてグループ化され、これら層間の伝導伝熱に基づいて、最も内部の層の鋼片温度が鋼片内部温度として算出されることになる。このため、個々の格子間の伝導伝熱に基づいて、伝導伝熱の算出処理回数を大幅に削減できる。したがって、算出処理負担さらには算出所要時間を大幅に削減することができ、簡素な構成で容易に鋼片温度を推定することが可能となる。結果として、大型計算機を必要としないため、鋼片温度推定に要するエネルギー消費量を大幅に削減することができ、省エネルギーに貢献することが可能となる。
【0069】
また、本実施の形態において、放射伝熱量算出部16が、時刻tに得られた炉壁温度T
W(t)と、その直前の時刻t−1における第1層の鋼片温度T
m1(t−1)と、鋼片B全体と対応する伝熱面積A
Bとに基づいて、時刻tにおける放射伝熱量q
WB(t)を算出し、鋼片温度算出部18が、時刻tに得られた放射伝熱量q
WB(t)を、その直前の時刻t−1における第1層の保有熱量Q
m1(t−1)に加算することにより、時刻tにおける第1層の保有熱量Q
m1(t)を算出し、得られた保有熱量Q
m1(t)を温度に換算することにより時刻tにおける第1層の鋼片温度T
m1(t)を算出するようにしてもよい。
これにより、鋼片加熱炉1から鋼片Bの第1層に対する放射伝熱量q
WB(t)、さらには第1層の鋼片温度T
m1(t)を、少ない処理負担で正確に算出することができる。
【0070】
また、本実施の形態において、伝導伝熱量算出部17が、第i(i=1〜N−1の整数)層からその内側に隣接する第j(j=i+1)層への時刻tにおける伝導伝熱量q
ij(t)を算出する際、時刻tにおける第i層の鋼片温度T
mi(t)とその直前の時刻t−1における第j層の鋼片温度T
mj(t−1)との温度差ΔTと、第i層と第j層との間の層間面積A
ijと、鋼片Bの熱伝導率k
avとに基づいて、伝導伝熱量q
ij(t)を算出し、鋼片温度算出部18が、伝導伝熱量qij(t)を、時刻tにおける第i層の保有熱量Q
mi(t)から減算して保有熱量Q
mi(t)を更新した後、温度に換算することにより時刻tにおける第i層の鋼片温度T
mi(t)を算出し、伝導伝熱量qij(t)を時刻t−1における第j層の保有熱量Q
mj(t−1)に加算して時刻tにおける第j層の保有熱量Q
mj(t)を算出した後、温度に換算することにより時刻tにおける第j層の鋼片温度T
mj(t)を算出するようにしてもよい。
これにより、多層平面壁を構成する各層i,j間の伝導伝熱量q
ij(t)、さらには各層i,jの鋼片温度T
mi(t),T
mj(t)を、少ない処理負担で正確に算出することができ、結果として、鋼片Bの内部温度を少ない処理負担で正確に算出することが可能となる。
【0071】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。例えば、抽出鋼片内部温度制御において在炉中の鋼片温度、抽出ピッチ、および炉温から、抽出時の鋼片内部温度を予測することができ、これを用いた予測制御が可能である。