(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981863
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ハンドレールの摩擦力点検装置
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20211206BHJP
B66B 31/02 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B31/02 Z
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-234757(P2017-234757)
(22)【出願日】2017年12月7日
(65)【公開番号】特開2018-95479(P2018-95479A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2020年11月26日
(31)【優先権主張番号】15/371,487
(32)【優先日】2016年12月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591020353
【氏名又は名称】オーチス エレベータ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Otis Elevator Company
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦
(72)【発明者】
【氏名】宮島 弘光
(72)【発明者】
【氏名】小宮 健二
【審査官】
今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−163284(JP,U)
【文献】
特開2004−224553(JP,A)
【文献】
特開2006−182534(JP,A)
【文献】
特開昭61−145096(JP,A)
【文献】
特開2013−184792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00 − 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドレールを把持し、かつ前記ハンドレールと共に移動可能であるハンドレール把持部と、
一端が固定され、他端が前記ハンドレール把持部に接続されることで、前記ハンドレール把持部が前記ハンドレールと共に移動する際、前記ハンドレールの移動方向に対向するばね力を前記ハンドレール把持部に加えるばねと、
乗客用コンベアのトラス上に固定されたセンサであって、前記ハンドレール把持部から距離を置いて配置され、前記ハンドレール把持部が前記ハンドレールと共に移動する際、前記ハンドレール把持部によって作動可能なセンサとを備え、
前記センサが作動されない場合、前記ハンドレールとハンドレール駆動機構の間に滑りが生じていると判定される、ハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項2】
前記ハンドレール把持部が、前記ハンドレールをその間に把持し、ばねによって付勢される一対の把持要素を備える、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項3】
前記把持要素の少なくとも一方が電磁石を含む、請求項2に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項4】
前記把持要素の一方が電磁石を含み、前記把持要素の他方が鉄の部分を含む、請求項3に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項5】
前記ハンドレールが、通常運転においては前記把持要素の間を自由に移動し、前記電磁石が通電される際、前記把持要素が前記ハンドレールを把持する、請求項3に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項6】
前記ばねがコイルばねである、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項7】
前記ばね力が調節可能である、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項8】
前記センサがリミットスイッチである、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項9】
構造上の構成要素に固定され、かつ前記ばねの一端に接続されたベースと、
前記ばねの他端に接続された中間部材と、
前記中間部材と前記ハンドレール把持部をつなぐ接続部材とをさらに備える、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項10】
前記接続部材がパントグラフを備える、請求項9に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項11】
前記ハンドレール把持部が一対の把持要素を備え、前記接続部材が、一端がそれぞれの把持要素に取り付けられ、他端が前記中間部材に枢動式に接続された一対の傾斜したプレートを備える、請求項9に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項12】
前記ハンドレールの摩擦力点検装置が乗客用コンベア内に設置される、請求項1に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【請求項13】
前記ハンドレールの点検装置が、前記ハンドレールの戻り経路内に位置決めされる、請求項12に記載のハンドレールの摩擦力点検装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、乗客用コンベアに関する。より詳細には、本発明は、乗客用コンベアのハンドレール用の摩擦駆動力を点検するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客用コンベアは、例えば1つの建物の中の異なる階層の間で、または細長い歩道の端から端まで人々を搬送するのに効果的であることが証明されてきた。典型的な構成には、複数の踏み段またはベルトが含まれ、その上に人が立って特定の場所から別の場所へと運ばれる。ハンドレールは典型的には、欄干の上に支持され、人が自分を安定させるために掴む面を提供する。
【0003】
ハンドレールは、踏み段または可動ベルトと一致して移動するように駆動される。ハンドレール駆動機構によって、ハンドレールを所望されるように移動させる。典型的な構成は、ハンドレールに摩擦係合することでハンドレールを所望される方向に推し進めるのに十分な摩擦力を生成する車輪またはローラに頼っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人によって掴まれる面と反対側のハンドレールの面に織物層が設けられることでハンドレールをガイドに沿って摺動し易くし欄干を追うようにする。同じ面にハンドレール駆動機構が摩擦係合する。車輪またはローラによってハンドレール駆動機構内に生じた摩擦力は、織物層を摩耗させやすい。この織物層が摩耗してしまうため、ハンドレールは最終的には望まれるように作動することができなくなり、修理または交換を必要とする。
【0005】
さらにハンドレール駆動機構における車輪またはローラの調整不良または変位もまた、ハンドレールの摩擦駆動力に影響を与える可能性がある。したがってハンドレールを駆動させるのに十分な摩擦力があるかどうかを定期的に点検する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によると、ハンドレールの摩擦力点検装置は、ハンドレールを把持し、ハンドレールと共に可動であるハンドレール把持部と、ばねの一端が固定され、他端がハンドレール把持部に接続されることで、ハンドレール把持部がハンドレールと共に移動する際、ハンドレールの移動の方向に対向するばね力をハンドレール把持部に加えることができるばねと、ハンドレール把持部から隔てられるように配置され、ハンドレール把持部がハンドレールと共に移動する際、ハンドレール把持部によって作動させることができるセンサとを備える。ハンドレールの摩擦力点検装置はさらに、構造上の構成要素に固定され、ばねの一端に接続されたベースと、ばねの他端に接続された中間部材と、中間部材とハンドレール把持部を接続する接続部材とを備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】本発明のハンドレールの摩擦力点検装置の側面図である。
【
図3】
図2に示されるハンドレールの摩擦力点検装置の負荷荷重装置の平面図である。
【
図4】
図3に示される負荷荷重装置のハンドレール把持部の断面図である。
【
図5】通電されない状態と、通電された状態での
図4のハンドレール把持部を示す。
【
図6】ハンドレールの摩擦力点検装置の作動を示す概略図である。
【
図7】ハンドレールの摩擦力点検装置を利用して行われるテストの制御シーケンスを示すフローチャートである。
【
図8】接続部材の運動を示す、
図3の負荷荷重装置の平面図である。
【
図9】本発明の負荷荷重装置の別の実施形態の平面図である。
【
図10】本発明のハンドレールの摩擦力点検装置の別の実施形態の側面図である。
【
図11】本発明のハンドレール把持部の別の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な記載は、図面を参照して一例として、利点及び特徴と併せて本発明の実施形態を説明している。
【0009】
図1は、乗客用コンベア1を概略的に示している。この例において、乗客用コンベア1は、1つの建物の中の異なる階層での踊り場に乗客を搬送するために複数の踏み段を有するエスカレータである。本発明は、エスカレータに限定されるものではなく、例えば動く歩道などの他の形態の乗客用コンベア1にも適用可能である。
【0010】
図1の一例の乗客用コンベア1は、下方の踊り場2と、上方の踊り場3の間に設置されたトラス4を備える。エスカレータ駆動装置5がトラス4の上端に配置され、チェーン6を介して、複数の踏み段を閉鎖ループに沿って駆動させる踏み段チェーン駆動機構の鎖歯車7に接続される。鎖歯車7は、チェーン8を介して、ハンドレール駆動機構の摩擦車9に接続されてそこに駆動力を伝える。摩擦車9は、ハンドレール10の内側面、すなわち乗客によって把持される面と反対側の面と摩擦係合することによってハンドレール10を閉鎖ループに沿って駆動させる。
【0011】
本発明のハンドレールの摩擦力点検装置12は、ハンドレール10の戻り経路内に位置決めされる。各々のハンドレール10について1つのハンドレールの摩擦力点検装置12が設けられてよい。ハンドレール10は、
図4に示されるようなC字形の断面を有する従来式の柔軟な構造であってよい。従来式のT字形のハンドレールガイド11が、ハンドレール10の断面の内部に配置されてガイド手段としての働きをする。ハンドレール10の戻り経路において、ハンドレールガイド11は、トラス4の構造上の構成要素13上に支持される。
【0012】
図2から
図4を参照すると、ハンドレールの摩擦力点検装置12はハンドレール10の真下に位置決めされ、負荷荷重装置14と、センサ15とを備える。テストモードにおいて、ハンドレール10は、ハンドレールガイド11に沿って方向Dに駆動される。負荷荷重装置14は、ベース16と、ベース16と中間部材19の間に接続されたコイルばね18と、中間部材19と、ハンドレール10を把持するためのハンドレール把持部20と、ハンドレール把持部20と中間部材19をつなぐ接続部材22とを備える。センサ15は、この実施形態ではリミットスイッチを備えるが、例えば近接センサなど、ハンドレール把持部20の移動を検知することができるいかなる種類のセンサであってもよい。ベース16と、センサ15は、トラス4の構造上の構成要素23上に固定される。中間部材19と、ハンドレール把持部20は、例えばガイドレールと、摺動要素を含むことができる摺動機構(図示せず)によって、ハンドレール10と平行して長手方向に摺動するように誘導される。この実施形態では、接続部材22はパントグラフである。
【0013】
図3から
図5に示されるように、ハンドレール把持部20は、一対の把持要素24を備え、各々がハンドレール10の外側面、すなわち乗客が掴む面の片側に相補的になるように成形された内側面24aを有する。把持要素24は、従来式の手段によって互いに対して横方向に摺動可能であり、ばね25によって互いから離れるような方向に付勢される。把持要素24の少なくとも一方は電磁石26を備え、把持要素の他方は鉄の部分を備える。
【0014】
電磁石26が通電されないとき、把持要素24は、
図5(a)に示されるようにばね25によって互いから離れる方向に、かつハンドレール10から離れるように付勢される。電磁石26が通電されると、把持要素24は、
図5(b)に示されるように互いに向かって引き寄せられて、ハンドレール10の外側面をしっかりと掴む。ゴム要素などのスリップ止め具27が把持要素24の各々の内側面24aに設けられることで、把持要素24がハンドレール10をしっかりと把持するようにする。
【0015】
図6は、ハンドレールの摩擦力点検装置12がどのように作動するかを示している。ハンドレールの摩擦力点検装置12が作動していないとき、すなわちハンドレール把持部20が通電されないとき、ハンドレール10は、
図6(a)に示されるように把持要素24の間を自由に移動することが許される。リミットスイッチ15はOFFの状態である。
【0016】
ハンドレールの摩擦力点検装置12を用いるテストが開始されると、
図6(b)に示されるようにハンドレール把持部20が通電されハンドレール10をしっかりと把持することで、ハンドレール把持部20がハンドレール10と共に移動する。ハンドレール把持部20がリミットスイッチ15に向かって移動する際、コイルばね18が伸張してハンドレール10に対してばね力を加える。
図6(c)において、ハンドレール把持部20は、リミットスイッチ15に到達し、リミットスイッチ15をONに変える。この位置において、コイルばね18が引き伸ばされた距離に比例するばね力F
1がハンドレール10に加えられる。
【0017】
リミットスイッチ15がONに切り換えられたということは、ハンドレールの摩擦駆動力F
2が十分に大きいことを示している。具体的には、それはハンドレールの摩擦駆動力F
2が、ばね力F
1と、ハンドレール10とハンドレールガイド11の間の移動抵抗とを足したものより大きいことを示している。リミットスイッチ15がONに切り換えられない場合、それはハンドレールの摩擦駆動力F
2が十分ではないことを示している。具体的には、それはハンドレールの摩擦駆動力F
2が不十分であるため、摩擦車9とハンドレール10の間に滑りが生じ、ハンドレール把持部20がリミットスイッチ15に到達するのを阻止していることを示している。
【0018】
図7は、本発明のハンドレールの摩擦力点検装置12を利用して行われるテストの制御シーケンスを示すフローチャートである。このテストは、ステップ1において開始され、その後ステップ2においてハンドレール把持部20が通電される。ステップ3において、所定の時間を空けた後、リミットスイッチ15がONであるかどうかがチェックされる。Noである場合、ステップ4において摩擦駆動力F
2が十分でないと判定される。Yesである場合、ステップ5において摩擦駆動力F
2が十分であると判定される。シーケンスはステップ4及び5からステップ6へと進み、そこでハンドレール把持部20は電気を遮断される。その後ステップ4またはステップ5において行われた判定が、ステップ7においてリモート制御センターまたはサービス技師の携帯機器に送信され、ステップ8においてテストが終了する。
【0019】
テストは、1日のうちで乗客用コンベア1が作動されない時間、例えば真夜中などにリモート制御センターから遠隔式に行われる場合もある。テストはまた、サービス技師が携帯する携帯機器を介して現場で行われる場合もある。
【0020】
図8は、ハンドレール把持部20がハンドレール10を把持する際、ハンドレール10をさらに締め付けるのにパントグラフ22がどのように貢献するのかを示している。
図8(a)は、ハンドレール把持部20が通電されない状態の負荷荷重装置14を示している。
図8(b)では、ハンドレール把持部20は通電され、ハンドレール10をしっかりと把持する。ハンドレール把持部20が方向Dにハンドレール10と共に進む際、パントグラフ22が長く伸びることで、分力F
3が、把持要素24の内側面24aに生じる。この分力F
3は、ハンドレール10を把持要素24の間でさらに締め付けるように作用する。
【0021】
図9は、負荷荷重装置14の別の実施形態を示しており、そこでは把持要素28は各々傾斜した外側面28bを有しており、接続部材22は一対のプレート29である。プレート29の各々は、一端においてそれぞれの把持要素28の傾斜した外側面28bに取り付けられ、他端においてピン19aを介して中間部材19に枢動式に接続されている。プレート29は、中心線CLに対して傾けられている。パントグラフ22を含む実施形態と同様に、分力F
3が把持要素28の内側面に生じることでハンドレール10を把持要素28の間でさらに締め付ける。
【0022】
図10に示されるように、ばね力F
1は調節可能であってよい。ベース16は、ボルト30と、トラス4の構造上の構成要素23に取り付けられた固定部材31とを備えることができる。ボルト30は、固定部材31の内部で回転可能であり、ナット32にねじ込まれ、このナットにコイルばね18が接続される。ボルト30を回転させることによって、コイルばね18とリミットスイッチ15の間の距離を変えることで、ばね力F
1を調節することができる。
【0023】
図11に示されるように、把持要素24の間の水平方向の隙間Gを調節することもできる。隙間Gは、ボルト34によって調節することができる。ハンドレール10は、テスト中ハンドレールガイド11に沿って摺動する必要があるため、把持要素24の把持力は、把持要素24がハンドレール10をハンドレールガイド11に固定するほど強すぎてはならない。把持要素24の間の隙間Gを調節することによって、テスト中ハンドレール10がしっかりと把持されるが、ハンドレールガイド11に沿って摺動するようにハンドレール把持部20の把持力を調節することができる。
【0024】
本発明を限定された数の実施形態のみに関連して詳細に記載してきたが、本発明は、そのような開示される実施形態に限定されないことは容易に理解されるべきである。むしろ、本発明は、ここには記載されないが、本発明の精神及び範囲に見合った任意の数の変形形態、代替形態、置き換えまたは等価な構成を組み込むように修正することができる。加えて本発明の種々の実施形態が記載されているが、本発明の態様は、記載される実施形態の一部のみを含む場合もあることを理解されたい。したがって本発明は、上述の記載によって限定とされるものとみなすべきではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲によってのみ限定される。