(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981897
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】パッキン
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20211206BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20211206BHJP
【FI】
B22D11/128 340K
B22D11/128 340F
F16J15/3232 201
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-40543(P2018-40543)
(22)【出願日】2018年3月7日
(65)【公開番号】特開2019-155370(P2019-155370A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂川 雅英
(72)【発明者】
【氏名】杢保 優
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−34957(JP,U)
【文献】
特開2005−240833(JP,A)
【文献】
特開2002−147614(JP,A)
【文献】
特開2015−48904(JP,A)
【文献】
特開2015−48855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/128
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を通すための軸方向の貫通孔を有する、連続鋳造設備における円筒状の分割型ロールの一の分割ロールと、この一の分割ロールと同芯に設けられる他の分割ロールとを連結するために前記貫通孔内に配置される連結管の外周面と前記分割ロールの内周面とを密封する環状のパッキンであって、
前記パッキンは、分割ロールの内周面に形成された周方向に沿った溝内に配設されており、
前記パッキンは弾性部材で形成されており、
前記パッキンは、前記連結管の外周面と接触する主リップ及び当該主リップよりも軸方向一方側の大気側に設けられる補助リップと、前記溝の外周面と接触する外向きリップとを備えており、
前記主リップは、前記連結管の外周面と接触していない自然状態において、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向内側に延びるとともに先端に向かうにつれて軸方向一方側に曲がる形状を呈しており、且つ、先端に向かうにつれて膨出する形状を呈している、パッキン。
【請求項2】
前記主リップと補助リップとの間にグリースを封入するための環状のグリース溜まりが形成されている、請求項1に記載のパッキン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッキンに関する。さらに詳しくは、連続鋳造設備の分割ロールを連結する連結管用のパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備は、タンディッシュに保持した溶鋼を鋳型に注ぎ、この鋳型内で外殻だけが凝固した状態の溶鋼を、所定間隔をあけて対向するロール間を搬送し冷却することで連続的に帯状のスラブに形成する設備である。ロールは、スラブの輻射熱により高温になるため、当該ロールを円筒体で構成して、この円筒体内部の貫通孔に冷却水を流してロールを冷却している。
【0003】
また、スラブからの荷重が大きい場合には、当該荷重によるロールの負担を分散又は低減させるために前記ロールをスラブの幅方向に沿って分割した分割型ロールが採用されることがある。この分割型ロールでは、一の分割ロールと同芯に他の分割ロールが設けられ、両分割ロールは連結管によって連結される。連結管は、両分割ロールの互いに対向する端部の貫通孔内に配置され、各分割ロールの内周面と連結管の外周面との間には、貫通孔内を流れる冷却水側と、大気側との間を密封するパッキンが設けられる。パッキンは分割ロールの内周面に形成された周方向に沿った溝内に、当該パッキンのリップが連結管の外周面と接触するように配置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、連結管は、当該連結管の外周面と接触するパッキンのリップで保持されているため、偏心が発生しやすい。
また、分割ロールと連結管は、通常、同じ回転数で回転するが、分割ロール間でスラブからの荷重に差が生じる等が原因で、分割ロール間で回転数又は回転速度に差が生じ、これに伴い、分割ロールと連結管とが相対回転する場合がある。すなわち、分割型ロールでは、分割ロールと分割ロールとの間の軸受部は、スラブと接触しない部分であるので、この軸受部がスラブの搬送方向に沿って同じライン上に存在しないように、通常、軸方向の長さの異なる複数の分割ロール(例えば、長、中、短の3種類のロール)を連結し、軸受部が搬送方向に沿ってジグザグ状に配置されるようにしている。この場合に、長さが異なる分割ロール間で前記荷重差に起因して回転数差が発生し、これに伴い、分割ロールと連結管とが相対回転する恐れがある。
【0005】
貫通孔内を流れる冷却水によってロール内部が腐食して錆が発生することがあるが、従来のパッキンは、当該パッキンが接触する部材との相対回転を考慮した設計ではないので、前述した錆がパッキンのリップに巻き込まれた状態で当該リップが連結管の外周面を摺動すると、リップの摩耗が進行しやすくなる。
【0006】
また、軸方向において互いに隣接する前記一の分割ロールの軸受部と、他の分割ロールの軸受部との隙間からスラブのスケール等の異物がパッキンに侵入する恐れがあり、この異物がパッキンのリップに巻き込まれた状態で当該パッキンのリップが連結管の外周面を摺動すると、前記と同様に、リップの摩耗が進行しやすくなる。
以上のようなリップの摩耗の進行は、前記のように連結管に偏心が発生するとさらに助長されることになる。
【0007】
リップの摩耗が進行してロール内部を流れる冷却水が外部に漏れてスラブに触れると、冷却水が触れたスラブ部分の温度が低下して、当該スラブ部分の特性が変化する恐れがある。
以上のようなパッキンの摩耗、及び、それに起因するスラブ特性の変化を抑制するために、パッキンの点検又は交換周期を短くすることが考えられるが、生産性及び生産コストの点で問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、耐久性を向上させることができるパッキンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパッキンは、
(1)冷却水を通すための軸方向の貫通孔を有する、連続鋳造設備における円筒状の分割型ロールの一の分割ロールと、この一の分割ロールと同芯に設けられる他の分割ロールとを連結するために前記貫通孔内に配置される連結管の外周面と前記分割ロールの内周面とを密封する環状のパッキンであって、
前記パッキンは、分割ロールの内周面に形成された周方向に沿った溝内に配設されており、
前記パッキンは弾性部材で形成されており、
前記パッキンは、前記連結管の外周面と接触する主リップ及び当該主リップより軸方向一方側の大気側に設けられる補助リップと、前記溝の外周面と接触する外向きリップとを備えており、
前記主リップは、前記連結管の外周面と接触していない自然状態において、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向内側に延びるとともに先端に向かうにつれて軸方向一方側に曲がる形状を呈しており、且つ、先端に向かうにつれて膨出する形状を呈している。
【0010】
本発明のパッキンでは、連結管の外周面と接触するリップとして主リップだけでなく補助リップを設けている。2つのリップで連結管を保持することで当該連結管の偏心の程度を抑制ないし小さくすることができる。また、補助リップを軸方向一方側の大気側に設けることで、大気側からのスケール等の異物が主リップに侵入するのを抑制することができる。さらに、主リップを、連結管の外周面と接触していない自然状態において、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向内側に延びるとともに先端に向かうにつれて軸方向一方側に曲がる形状にし、且つ、先端に向かうにつれて膨出する形状にしている。このため、連結管の外周面と接触していない自然状態において軸方向他方側及び径方向内側に直線的に延びる場合に比べて、主リップを連結管の外周面に組み付けたときの、リップ先端と連結管の外周面との接触幅(リップ先端と連結管の外周面とが接触している部分の軸方向のサイズ)を小さくして面圧又は緊迫力を大きくすることができる。面圧又は緊迫力を大きくすることで、リップ先端を連結管の外周面と安定して接触させることができ、接触部分に冷却水側からの錆や大気側からのスケール等の異物が侵入することを抑制することができる。したがって、分割ロール間の回転数差に起因して分割ロールと連結管とが相対回転し、パッキンのリップが連結管の外周面を摺動する場合でも、前記異物等により引き起こされる摩耗の程度を抑制することができる。その結果、パッキンの耐久性を向上させることができ、その点検及び交換の頻度を少なくすることができる。これにより、生産性を向上させるとともに生産コストを低減させることができる。
【0011】
(2)前記(1)のパッキンにおいて、前記主リップと補助リップとの間にグリースを封入するための環状のグリース溜まりが形成されていることが望ましい。この場合、グリースによりパッキンの主リップ及び補助リップの潤滑性を向上させることができ、前記のように分割ロールと連結管とが相対回転したとしても、当該主リップ及び補助リップの摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパッキンによれば、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のパッキンの一実施形態を備えた分割型ロールの断面説明図である。
【
図2】
図1に示されるパッキンの拡大断面説明図である。
【
図3】使用時におけるパッキンの状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のパッキンの実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るパッキン1を備えた、連続鋳造設備における分割型ロールの断面説明図であり、
図2は、
図1に示されるパッキン1のうちAで示されるパッキン1の拡大断面説明図である。
分割型ロールは、軸方向に沿って複数に分割されたロールであり、一の分割ロールである第1分割ロール10と、この第1分割ロール10と同芯に設けられる他の分割ロールである第2分割ロール11とを有している。なお、図示は省略しているが、分割側ロールは、前記第1のロール10及び第2のロール11と同芯にさらに他のロールを有している。すなわち、分割型ロールは、3本の分割ロールを有している。この3本の分割ロールは、互いに軸方向の長さが異なっており、長い分割ロール、中位の分割ロール、及び短い分割ロールで構成されている。
【0016】
第1の分割ロール10及び第2の分割ロール11の各端部に形成された環状の凹部12には、第1の分割ロール10及び第2の分割ロールを回転自在に支持する軸受部13が配設されている。軸受部13は、外輪と、この外輪の径方向内側に配設され分割ロールの外周に固定される内輪と、両輪の間に転動自在に配設される転動体と、外輪と内輪とで形成される環状空間の両端を封止する密封部とで主に構成されている。
【0017】
第1分割ロール10及び第2の分割ロール11は、例えばクロムモリブデン等の金属で作製された円筒状の部材であり、冷却水を流すための軸方向の貫通孔14を有している。第1の分割ロール10の軸方向端部と、この第1の分割ロール10の軸方向端部と対向する第2の分割ロール11の軸方向端部とは、円筒状の連結管15で繋がれている。連結管15は、例えばSUS316、SUS304、SS400+めっき等の金属で作製することができるが、耐腐食性及び耐摩耗性の点より、SUS316で作製することが望ましい。
【0018】
連結管15の外周面15aと対向する、第1の分割ロール10の端部の内周面10a、及び、第2の分割ロール11の端部の内周面11aには、パッキン1を配設するための周方向の溝16が形成されている。溝16は、断面が矩形状であり、
図2に示されるように、外周面16a及び側面16bを有している。本実施形態では、各分割ロール10,11の端部に、軸方向に沿って2本の溝16が形成されている。
【0019】
パッキン1は、環状の部材であり、例えば水素化ニトリルゴム(HNBR)、フッ素ゴム、ニトリルゴム等のゴム状の弾性部材で作製することができるが、引張強度や耐熱水性に優れている点より、水素化ニトリルゴムで作製することが望ましい。
【0020】
パッキン1は、
図2に示されるように、パッキン基部2と、このパッキン基部2から延びる主リップ3と、補助リップ4と、外向きリップ5とを有している。主リップ3は、連結管15の外周面15aと接触していない自然状態において、パッキン基部2から、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向内側に延びている。また、主リップ2は、当該主リップ2の先端に向かうにつれて軸方向一方側に曲がる形状を呈するとともに、先端に向かうにつれて膨出する形状を呈している。補助リップ4は、主リップ2よりも軸方向一方側の大気側に設けられている。補助リップ4は、パッキン基部2から径方向内側に延びている。また、外向きリップ5は、溝16の外周面16aと接触していない自然状態において、パッキン基部2から、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向外側に延びている。なお、本明細書において、大気側を軸方向一方側といい、冷却水側を軸方向他方側という。
図1において、例えば第1の分割ロール10の図示されている側の端部については、右側が軸方向一方側(大気側)であり、左側が軸方向他方側(冷却水側)となる。また、
図1において、上下方向を径方向といい、第1の分割ロール10及び第2の分割ロール11の軸心Cを基準として、径方向に沿って当該軸心Cに向かう方向を径方向内側といい、径方向に沿って当該軸心Cから離れる方向を径方向外側という。
【0021】
主リップ3と、補助リップ4と、連結管15の外周面15aとによって、環状のグリース溜まり6が形成されている。このグリース溜まり6にグリースを封入しておくことで、主リップ1及び補助リップ4の潤滑性を向上させることができる。これにより、分割ロール10,11と連結管15との回転数差に起因して当該分割ロール10,11と連結管15とが相対回転して主リップ3及び補助リップ4の各先端が連結管15の外周面15aを摺動したとしても、当該主リップ1及び補助リップ4の摩耗を抑制することができる。
【0022】
本実施形態に係るパッキン1では、連結管15の外周面15aと接触するリップとして主リップ3だけでなく補助リップ4を、当該主リップ3の軸方向一方側の大気側に設けている。このように、2つのリップ3,4で連結管15を保持することで当該連結管15の偏心の程度を抑制ないし小さくすることができる。また、補助リップ4を軸方向一方側の大気側に設けることで、大気側からのスケール等の異物が主リップ3に侵入するのを抑制することができる。
【0023】
また、主リップ3を、連結管15の外周面15aと接触していない自然状態において、軸方向他方側の冷却水側且つ径方向内側に延びるとともに、先端に向かうにつれて軸方向一方側に曲がる形状にしている。また、先端に向かうにつれて膨出する形状にしている。すなわち、パッキン基部2から直線的に延びるのではなく、途中から軸方向一方側である大気側に曲がる形状を呈するとともに、先端に向かうにつれて膨出する形状を呈している。このため、連結管15の外周面15と接触していない自然状態において軸方向他方側及び径方向内側に直線的に延びる場合に比べて、主リップ3を連結管15の外周面15aに組み付けたときの、リップ先端と連結管15の外周面15との接触幅(リップ先端と連結管の外周面とが接触している部分の軸方向のサイズ)を小さくして面圧又は緊迫力を大きくすることができる。
【0024】
図3は、パッキンの使用状態における説明図であり、(a)は本実施形態に係るパッキン1の説明図であり、(b)は従来のパッキンの説明図である。従来のパッキンでは、連結管の外周面との接触幅が大きく、主リップの多くの部分が連結管の外周面と接触する、いわゆるベタ当たりの状態であるが、本実施形態に係るパッキンでは、前記のように先端に向かうにつれて曲がった形状であるとともに、先端部のボリュームが根元部分に比べて大きくなっているので、接触幅が従来のパッキンよりも小さくなっている。
【0025】
接触幅を小さくして面圧又は緊迫力を大きくすることで、リップ先端を連結管15の外周面15aと安定して接触させることができ、接触部分に冷却水側からの錆や大気側からのスケール等の異物が侵入することを抑制することができる。その結果、第1の分割ロール10と第2の分割ロールとのの回転数差に起因して第1の分割ロール10及び第2の分割ロール11と連結管15とが相対回転し、パッキン1の主リップ3が連結管15の外周面15aを摺動する場合でも、前記異物等により引き起こされる摩耗の程度を抑制することができる。これにより、パッキン1の耐久性を向上させることができ、その点検及び交換の頻度を少なくすることができる。その結果、スラブの生産性を向上させるとともに生産コストを低減させることができる。
【0026】
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では各分割ロールの端部に軸方向に沿って2つのパッキンを設けているが、1つのパッキンだけを設けることもでき、また、3つ以上のパッキンを設けることもできる。
また、前述した実施形態では、主リップ以外に1つの補助リップを設けているが、2つ以上の補助リップを設けることもできる。
【符号の説明】
【0027】
1 : パッキン
2 : パッキン基部
3 : 主リップ
4 : 補助リップ
5 : 外向きリップ
6 : グリース溜まり
10 : 第1の分割ロール
11 : 第2の分割ロール
12 : 凹部
13 : 軸受部
14 : 貫通孔
15 : 連結管
15a: 外周面
16 : 溝
16a: 外周面
16b: 側面
C : 軸心