特許第6981926号(P6981926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981926
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】光受信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/60 20130101AFI20211206BHJP
   H04B 10/2507 20130101ALI20211206BHJP
【FI】
   H04B10/60
   H04B10/2507
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-110266(P2018-110266)
(22)【出願日】2018年6月8日
(65)【公開番号】特開2019-213153(P2019-213153A)
(43)【公開日】2019年12月12日
【審査請求日】2020年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
【審査官】 対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/062010(WO,A1)
【文献】 特開2015−136015(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0182182(US,A1)
【文献】 HU Q. et al.,Advanced modulation formats for high-performance short-reach optical interconnects,OPTICS EXPRESS,米国,OSA,2015年02月04日,Vol. 23, No. 3,pages 3245-3259
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光送信機から光伝送路を介して受信する信号光に対応するストークス空間における第1ベクトルを検出する検出手段と、
前記信号光が前記光伝送路において与えられた偏波回転及びオフセットを補償するためのパラメータを保持し、前記パラメータと前記第1ベクトルに基づき第2ベクトルを求める演算手段と、
前記第2ベクトルと第3ベクトルとの差に基づき前記パラメータを更新する更新手段と、
前記第2ベクトルに基づき前記信号光に対応するデータを判定する判定手段と、
を備え
前記光送信機が前記光伝送路を介して既知のデータを送信するモードにおいて、前記第3ベクトルは、前記光送信機が送信する、前記既知のデータに対応する信号光の前記ストークス空間におけるベクトルであり、
前記光送信機が前記光伝送路を介して任意のデータを送信するモードにおいて、前記第3ベクトルは、前記判定手段が判定したデータに対応する信号光の前記ストークス空間におけるベクトルであることを特徴とする光受信機。
【請求項2】
前記パラメータは、前記ストークス空間における偏波回転を示す第1パラメータと、オフセット量を示す第2パラメータと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の光受信機。
【請求項3】
前記第1パラメータは、前記偏波回転の回転軸の方向を示すパラメータと、前記回転軸における回転量を示すパラメータと、を含むことを特徴とする請求項2に記載の光受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストークスベクトル検波方式の光受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、ストークスベクトル検波方式の光受信機を用いた短中距離向けの大容量光通信システムを開示している。この光通信システムにおいて、光送信機は、例えば、互いに直交する2つの偏波のうちの一方の偏波で変調光を送信し、他方の偏波で無変調の連続光を送信している。そして、光受信機は、受信する光信号のストークスパラメータS、S及びSを求め、S及びSの値から光送信機が送信した情報を復調している。また、非特許文献1は、この光通信システムにおいて、偏波依存損失(PDL:Polarization dependent loss)が生じると光受信機における復号結果に大きな影響を与えることも開示している。このPDLを補償するため、非特許文献1は、所定のトレーニング信号を使用する構成を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Qian Hu,et al.,"Advanced modulation formats for high performance short reach optical interconnects",OPTICS EXPRESS,Vol.23,No.3,pp.3245−3259,2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1は、PDLが時間と共に変化しないことを前提にしている。つまり、光送信機がトレーニング信号を送信し、これにより、光受信機が光伝送路のPDLを測定した際の状態が継続することを前提にPDLの補償を行っている。しかしながら、光伝送路の状態は、通常、時間と共に変動する。したがって、非特許文献1の構成では、時間の経過により光受信機はPDLを精度良く補償できなくなる。
【0005】
本発明は、時間の経過による光伝送路の状態の変動に追随して、受信する信号光の補償を行う光受信機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によると、光受信機は、光送信機から光伝送路を介して受信する信号光に対応するストークス空間における第1ベクトルを検出する検出手段と、前記信号光が前記光伝送路において与えられた偏波回転及びオフセットを補償するためのパラメータを保持し、前記パラメータと前記第1ベクトルに基づき第2ベクトルを求める演算手段と、前記第2ベクトルと第3ベクトルとの差に基づき前記パラメータを更新する更新手段と、前記第2ベクトルに基づき前記信号光に対応するデータを判定する判定手段と、を備え、前記光送信機が前記光伝送路を介して既知のデータを送信するモードにおいて、前記第3ベクトルは、前記光送信機が送信する、前記既知のデータに対応する信号光の前記ストークス空間におけるベクトルであり、前記光送信機が前記光伝送路を介して任意のデータを送信するモードにおいて、前記第3ベクトルは、前記判定手段が判定したデータに対応する信号光の前記ストークス空間におけるベクトルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、時間の経過による光伝送路の状態の変動に追随して受信する信号光の補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による光送信機の構成図。
図2】一実施形態による光受信機の構成図。
図3】一実施形態による光受信機のストークスパラメータ検出部の構成図。
図4】一実施形態による光受信機の補償部の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は例示であり、本発明を実施形態の内容に限定するものではない。また、以下の各図においては、実施形態の説明に必要ではない構成要素については図から省略する。
【0010】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による光送信機の構成図である。光源11は連続光を生成する。光源11が生成した連続光は、偏波分離器12で、第1偏波の第1連続光と、第1偏波とは直交する第2偏波の第2連続光と、に分離される。なお、第1連続光と第2連続光の振幅が等しくなる様に、偏波分離器12は、入力される連続光を分離するものとする。偏波分離器12が出力する第1連続光は、偏波多重器14に出力される。一方、偏波分離器12が出力する第2連続光は、変調器13に出力される。変調器13は、送信するデータで第2連続光を変調し、変調光を偏波多重器14に出力する。偏波多重器14は、第1偏波の第1連続光と、第2偏波の変調光と、を偏波多重した信号光を光伝送路に出力する。
【0011】
本実施形態による光受信機は、ストークスベクトル検波方式の光受信機であり、光伝送路を介して受信する信号光のストークスパラメータS及びSにより、光送信機が送信したデータを判定する。なお、信号光をストークス空間におけるベクトルで表すと、光受信機が受信する信号光に対応するベクトルは、光送信機が送信した信号光に対応するベクトルを、ストークス空間において回転させ、かつ、オフセットを与えたものとなる。したがって、光受信機は、まず、光伝送路において信号光に与えられた偏波回転とオフセットを推定して、これらを補償し、光送信機が送信した信号光に対応するベクトルを判定する必要がある。なお、ストークス空間とは、ストークスパラメータS、S及びSを、互いに直交する座標軸とする座標系で示される空間である。
【0012】
図2は、本実施形態による光受信機の構成図である。ストークスパラメータ検出部2は、受信した信号光に対応する第1ベクトルを判定する。第1ベクトルの要素は、受信した信号光のストークスパラメータS1out、S2out及びS3outである。補償部3は、光伝送路において信号光に与えられた偏波回転とオフセットを推定し、これらを補償する様に第1ベクトルを変換することで、光送信機が送信した信号光に対応する第2ベクトルを求める。なお、第2ベクトルの要素を、ストークスパラメータS1est、S2est及びS3estとする。補償部3は、第2ベクトルの3つの要素のうち、信号光の復調に必要なストークスパラメータS2est及びS3estを、判定部4に出力する。判定部4は、ストークスパラメータS2est及びS3estに基づき光送信機が送信したデータdを判定して出力する。なお、判定したデータdは、補償部3にも出力される。
【0013】
図3は、ストークスパラメータ検出部2の構成図である。偏波分離器21は、受信した信号光をX偏波の信号Xoutと、X偏波と直交するY偏波の信号Youtに分離する。信号Xoutは、スプリッタ22で2分岐され、一方の信号は、バランスドフォトディテクタ(BD)27に入力され、他方の信号は、90度光ハイブリッド24に入力される。同様に、信号Youtは、スプリッタ23で2分岐され、一方の信号は、バランスドフォトディテクタ(BD)27に入力され、他方の信号は、90度光ハイブリッド24に入力される。BD27は、入力される2つの信号Xout及びYoutの2乗の絶対値の差に対応する信号を出力する。これは、ストークスパラメータS1outに対応する。
【0014】
90度光ハイブリッド24は、信号Xout及びYoutそれぞれの45度成分を混合してBD25に出力する。なお、45度成分とは、X偏波及びY偏波それぞれとの角度が45度となる偏波面の成分である。したがって、BD25は、2×Re{Xoutout}に対応する信号を出力する。BD25が出力する信号は、ストークスパラメータS2outに対応する。なお、YoutはYoutの共役複素数であり、Reは実数部分を取り出すことを意味している。また、90度光ハイブリッド24は、信号Xoutの45度成分と、信号Youtの位相をπ/2だけ遅らせた信号の45度成分を混合してBD26に出力する。したがって、BD26は、2×Im{Xoutout}に対応する信号を出力する。BD26が出力する信号は、ストークスパラメータS3outに対応する。なお、Imは虚数部分を取り出すことを意味している。ストークスパラメータ検出部2が出力するストークスパラメータS1out、S2out及びS3outは、補償部3に入力される。
【0015】
なお、受信した信号光のストークスパラメータS1out、S2out及びS3outを出力するストークスパラメータ検出部2には様々な構成があり、本発明は図2の構成に限定されず、受信した信号光のストークスパラメータS1out、S2out及びS3outを検出する任意の構成を本発明に適用することができる。
【0016】
図4は、補償部3の構成図である。演算部31は、パラメータ更新部32からのパラメータに基づき第1ベクトルを第2ベクトルに変換する。なお、このパラメータは、信号光が光伝送路で受けた偏波回転及びオフセットを相殺するためのパラメータである。つまり、パラメータは、光伝送路が信号光に与える偏波変動の状態を示すパラメータである。以下、補償部3におけるベクトルの変換処理について説明する。
【0017】
まず、ロドリゲスの回転公式により、偏波回転は、以下の行列Rで表される。
【0018】
【数1】
なお、n、n、nは、それぞれ、ストークス空間の単位ベクトルnの軸S、軸S、及び軸S方向の成分を表す。単位ベクトルnの方向は、偏波回転の回転軸と平行であり、θは、単位ベクトルnの方向を回転軸とする偏波回転の回転量である。
【0019】
また、オフセットは、以下の行列Vで表される。
【0020】
【数2】
【0021】
したがって、演算部31が出力するストークスパラメータS1est、S2est、S3estを要素とする第2ベクトルは、以下の式(1)により求められる。
【0022】
【数3】
【0023】
演算部31は、式(1)により、第2ベクトルを求める。なお、式(1)の計算で使用するn、n、n、θ、V、V及びVの値は、パラメータ更新部32から取得する。
【0024】
パラメータ更新部32は、トレーニングモードと、判定指向モードの2つのモードを有する。トレーニングモードとは、光送信機が、トレーニング信号、つまり、光受信機において既知のデータを送信しているときのモードである。一方、判定指向モードとは、光送信機が、実際の通信のためのデータを送信しているときのモードである。まず、トレーニングモードにおけるパラメータ更新部32における処理について説明する。なお、パラメータ更新部32には、トレーニング信号として送信されるデータの値が予め格納されている。
【0025】
パラメータ更新部32は、上記式(1)で得られる第2ベクトルと、トレーニング信号として光送信機が送信したデータに対応する信号光のベクトル(以下、第3ベクトルと呼ぶ。)との差を誤差関数とし、確率的勾配法を用いた適応アルゴリズムによりn、n、n、θ、V、V及びVを更新し、更新後のn、n、n、θ、V、V及びVを、演算部31に通知する。具体的には、パラメータ更新部32は、k番目のn、n、nの値であるn(k)(iは、x、y、z)に基づき以下の式(2)により、k+1番目のn、n、nの値であるn(k+1)を演算部31に出力する。
【0026】
【数4】
【0027】
なお、式(2)においてμは所定の乗数である。また、行列R(k)は、k番目の4つのパラメータによる行列Rである。さらに、ベクトルSout(k)は、k番目に受信した信号光に対応する第1ベクトルである。さらに、ベクトルe(k)は、k番目の誤差ベクトルであり、k番目の第2ベクトルとk番目の第3ベクトルとの差分である。具体的には、k番目の第2ベクトルの要素を、S1est(k)、S2est(k)、S3est(k)とし、k番目の第3ベクトルの要素を、d(k)、d(k)、d(k)とすると、誤差ベクトルe(k)の要素e(k)、e(k)及びe(k)は、以下の式(3)で求められる。
【0028】
【数5】
【0029】
同様に、パラメータ更新部32は、k番目のθの値であるθ(k)に基づき以下の式(4)により、k+1番目のθの値であるθ(k+1)を演算部31に出力する。
【0030】
【数6】
【0031】
同様に、パラメータ更新部32は、k番目のVの値であるV(k)(iは、x、y、z)に基づき以下の式(5)により、k+1番目のVの値であるV(k+1)を演算部31に出力する。
【0032】
【数7】
【0033】
続いて、判定指向モードについて説明する。判定指向モードにおいては、トレーニングモードとは異なり、光送信機は任意のデータを光受信機に送信する。したがって、パラメータ更新部32は、判定部4が判定したデータdに対応するベクトルを第3ベクトルとしてパラメータを更新する。その他の処理は、トレーニングモードと同様である。
【0034】
トレーニングモードにより、光受信機は、そのときの光伝送路の偏波変動の状態に適合するパラメータの値を判定することができる。さらに、判定指向モードにおいても、光受信機は、判定したデータに基づき、パラメータの値を光伝送路の偏波変動の変化に追随させる。この構成により、時間の経過による光伝送路の状態の変動に追随して受信する信号光の補償を行うことができる。
【符号の説明】
【0035】
2:ストークスパラメータ検出部、3:補償部、4:判定部
図1
図2
図3
図4