特許第6981958号(P6981958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6981958-車軸の支持構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981958
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】車軸の支持構造
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/16 20060101AFI20211206BHJP
   F16H 57/021 20120101ALI20211206BHJP
【FI】
   B60B35/16 E
   F16H57/021
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-248682(P2018-248682)
(22)【出願日】2018年12月28日
(65)【公開番号】特開2020-108978(P2020-108978A)
(43)【公開日】2020年7月16日
【審査請求日】2020年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】木曾田 雄星
【審査官】 菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−237144(JP,A)
【文献】 特開2004−347026(JP,A)
【文献】 特開2006−199210(JP,A)
【文献】 特開2018−91405(JP,A)
【文献】 特開平7−257411(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102012011573(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/16
F16H 57/021
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の左側および右側の車軸を支持する構造であって、
左側および右側の前記車軸は、それぞれ筒状の車軸ケースに挿通されて、前記車軸ケースに回転可能に保持され、
左側の前記車軸の左端部および右側の前記車軸の右端部は、前記車軸ケースから突出して駆動輪に接続されており、
前記作業車両には、前記車軸に動力を伝達する動力伝達機構を収容した本体ケースが設けられ、
前記本体ケースには、左右方向に互いに対向する位置に、それぞれ左側および右側の前記車軸ケースが挿入される挿入口が形成され、
前記車軸ケースは、前記挿入口に前記本体ケースの外側から挿入されて、前記本体ケースに対して固定されておらず、
左側の前記車軸ケースと右側の前記車軸ケースとは、前記本体ケースの外部において、前記本体ケースと別体に設けられたサポート部材により連結されて支持されている、支持構造。
【請求項2】
前記本体ケース内において、左側および右側の前記車軸は、各端部に相対回転不能に取り付けられたギヤ同士を相対回転可能に接続することにより、相対回転可能に連結されている、請求項1に記載の支持構造。
【請求項3】
前記車軸ケースの前記駆動輪側の端部は、前記作業車両のフレームに固定されている、請求項1または2に記載の支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両の車軸を支持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、コンバインでは、不整地走破能力が必要とされるため、左右一対の走行装置にクローラが採用されている。クローラの駆動輪となる駆動スプロケットには、車軸が相対回転不能に接続されている。そして、駆動源からの動力は、動力伝達機構を介して、左右の車軸に伝達され、左右のクローラの駆動スプロケットがそれぞれ車軸と一体に回転する。
【0003】
図2は、従来のコンバインにおける車軸の近傍の構成を示す断面図である。
【0004】
車軸51の車幅方向内側の端部は、動力伝達機構を収容する本体ケース52内に挿入されて、本体ケース52内でギヤ53と相対回転不能に結合されている。車軸51の車幅方向外側の端部は、駆動スプロケット54に相対回転不能に結合されている。
【0005】
車軸51は、本体ケース52と駆動スプロケット54との間において、車軸ケース55に被覆されている。車軸ケース55は、円筒状のケース本体部56と、ケース本体部56の本体ケース52側の端部から車軸51の回転径方向外側に張り出したフランジ部57とを備えている。ケース本体部56とフランジ部57とは、溶接により互いに固着されている。そして、フランジ部57が本体ケース52の外面に当接されて、フランジ部57を挿通するボルト58の先端部が本体ケース52にねじ込まれることにより、車軸ケース55が本体ケース52に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−78699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる構成では、駆動スプロケット54にクローラの張力により大きな横引き荷重(駆動スプロケット54の径方向の荷重)が加わった場合、負荷がフランジ部57を介して本体ケース52や本体ケース52と車軸ケース55との合わせ面に影響し、本体ケース52と車軸ケース55との間をシールするガスケットの破損によるオイル漏れが発生したり、本体ケース52が破損したりするおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、駆動輪に大きな横引き荷重が加わった場合でも、本体ケースなどの破損を抑制できる、車軸の支持構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車軸の支持構造は、作業車両の左側および右側の車軸を支持する構造であって、左側および右側の車軸は、それぞれ筒状の車軸ケースに挿通されて、車軸ケースに回転可能に保持され、左側の車軸の左端部および右側の車軸の右端部は、車軸ケースから突出して駆動輪に接続されており、作業車両には、車軸に動力を伝達する動力伝達機構を収容した本体ケースが設けられ、本体ケースには、左右方向に互いに対向する位置に、それぞれ左側および右側の車軸ケースが挿入される挿入口が形成され、車軸ケースは、挿入口に本体ケースの外側から挿入されて、本体ケースに対して固定されておらず、左側の車軸ケースと右側の車軸ケースとは、本体ケースの外部において、本体ケースと別体に設けられたサポート部材により連結されて支持されている。
【0010】
この構成によれば、左側および右側の各車軸ケースは、本体ケースに形成されている挿入口に外側から挿入されているが、本体ケースに固定されておらず、本体ケースとは別体に設けられたサポート部材により連結されて支持されている。そのため、駆動輪に大きな横引き荷重が加わった場合でも、その横引き荷重による本体ケースへの影響を小さくでき、本体ケースと車軸ケースとの間をシールするガスケットの破損や本体ケース自体の破損を抑制することができる。
【0011】
本体ケース内において、左側および右側の車軸は、各端部に相対回転不能に取り付けられたギヤ同士を相対回転可能に接続することにより、相対回転可能に連結されていてもよい。これにより、車軸およびサポート部材を作業車両のフレームの構造部材として取り込んで、フレームの構造を設計することができる。そのため、フレームの構造の設計の自由度が増す。
【0012】
車軸ケースの駆動輪側の端部は、作業車両のフレームに固定されていてもよい。これにより、車軸ケースの駆動輪側の端部を安定して支持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、駆動輪に大きな横引き荷重が加わった場合でも、本体ケースと車軸ケースとの間をシールするガスケットの破損や本体ケース自体の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るコンバインの車体の前端部の構成を示す断面図である。
図2】従来のコンバインにおける車軸の近傍の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
<車軸ケースの固定構造>
図1は、本発明の一実施形態に係るコンバイン1の車体の前端部の構成を示す断面図である。
【0017】
コンバイン1は、圃場などの不整地を走破する能力を確保すべく、走行装置2として、左右一対のクローラを採用している。左側および右側のクローラには、それぞれ駆動スプロケット3L,3Rが駆動輪として備えられており、駆動スプロケット3L,3Rには、それぞれ車軸4L,4Rが相対回転不能に接続されている。
【0018】
コンバイン1では、エンジン(図示せず)の動力が動力伝達機構5を介して車軸4L,4Rに伝達される。動力伝達機構5は、たとえば、油圧ポンプおよび油圧モータを含む構成のHST(Hydro Static Transmission:静油圧式無段変速機)を備えている。エンジンの動力で油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプが吐出する作動油により油圧モータが駆動される。また、動力伝達機構5は、ギヤ機構を備えており、HSTの油圧モータの動力は、そのギヤ機構を介して、車軸4L,4Rに伝達される。ギヤ機構には、ギヤ6L,6Rが含まれる。動力伝達機構5は、本体ケース7に収容されている。
【0019】
車軸4L,4Rは、それぞれ筒状の車軸ケース11L,11Rに挿通されている。車軸ケース11L,11Rは、それぞれ本体ケース7の左側および右側に分かれて設けられている。
【0020】
左側の車軸ケース11Lの右側の端部には、車軸4Lの軸径方向に円環状に張り出すフランジ部12Lが形成されている。フランジ部12Lの右側の端面には、断面略正方形状で円環状をなす圧肉部13Lが突出して形成されている。圧肉部13Lの外周面には、リング状のガスケット14Lが埋設されている。
【0021】
右側の車軸ケース11Rは、左側の車軸ケース11Lと左右対称な構成を有している。すなわち、右側の車軸ケース11Rの左側の端部には、車軸4Rの軸径方向に円環状に張り出すフランジ部12Rが形成されている。フランジ部12Rの左側の端面には、断面略正方形状で円環状をなす圧肉部13Rが突出して形成されている。圧肉部13Rの外周面には、リング状のガスケット14Rが埋設されている。
【0022】
本体ケース7の左側の側壁15Lおよび右側の側壁15Rには、左右方向に互いに対向する位置に、それぞれ円形の挿入口16L,16Rが貫通して形成されている。挿入口16L,16Rの径は、それぞれ圧肉部13L,13Rの外径と同じ寸法に設計されている。
【0023】
また、左側の側壁15Lの内面には、挿入口16Lの周縁部から本体ケース7の内側に突出する円筒状の円筒状部17Lが形成されている。円筒状部17Lの内周面は、挿入口16Lの周面に段差なく連続している。
【0024】
右側の側壁15Rの内面には、挿入口16Rの周縁部から本体ケース7の内側に突出する円筒状の円筒状部17Rが形成されている。円筒状部17Rの内周面は、挿入口16Rの周面に段差なく連続している。
【0025】
左側の車軸ケース11Lの圧肉部13Lは、本体ケース7の挿入口16Lにその左側からインローで挿入されている。これにより、ガスケット14Lは、圧肉部13Lと円筒状部17Lとの間で弾性変形して、円筒状部17Lに液密的に当接し、圧肉部13Lと円筒状部17Lとの間を封止している。圧肉部13Lは、フランジ部12Lにおける圧肉部13Lよりも軸径方向の外側に突出した部分が本体ケース7の側壁15Lに接触する位置まで挿入されている。車軸ケース11Lが本体ケース7に対して固定されないが、フランジ部12Lを側壁15Lに面で接触させることにより、車軸ケース11Lががたつくことが抑制されている。
【0026】
右側の車軸ケース11Rの圧肉部13Rは、本体ケース7の挿入口16Rにその右側からインローで挿入されている。これにより、ガスケット14Rは、圧肉部13Rと円筒状部17Rとの間で弾性変形して、円筒状部17Rに液密的に当接し、圧肉部13Rと円筒状部17Rとの間を封止している。圧肉部13Rは、フランジ部12Rにおける圧肉部13Rよりも軸径方向の外側に突出した部分が本体ケース7の側壁15Rに接触する位置まで挿入されている。車軸ケース11Rが本体ケース7に対して固定されないが、フランジ部12Rを側壁15Rに面で接触させることにより、車軸ケース11Rががたつくことが抑制されている。
【0027】
車軸ケース11L,11Rは、本体ケース7の外部において、サポート部材21により連結されて支持されている。サポート部材21は、左側の車軸ケース11Lのフランジ部12Lに左側からボルト21Lで固定される左固定部22Lと、右側の車軸ケース11Rのフランジ部12Rに右側からボルト21Rで固定される右固定部22Rと、左固定部22Lと右固定部22Rとを連結する連結部23とを一体的に有している。サポート部材21は、コンバイン1の骨格であるフレーム8に固定されている。
【0028】
また、車軸ケース11Lの左側の端部および車軸ケース11Rの右側の端部は、それぞれホルダ24L,24Rを用いて、フレーム8に固定されている。
【0029】
左側の車軸4Lは、車軸ケース11Lの左側および右側の端部にそれぞれベアリング31,32を介して回転可能に支持されている。車軸4Lの左側の端部は、車軸ケース11Lから左側に突出して、駆動スプロケット3Lに相対回転不能に接続されている。車軸4Lの右側の端部は、本体ケース7内で車軸ケース11Lから右側に突出し、その車軸ケース11Lから突出した部分の外周面には、スプラインが形成されている。ギヤ6Lの左端面には、円形の凹部33が形成されている。車軸4Lの右側の端部のスプラインに対応して、凹部33の内周面には、スプラインが形成されている。車軸4Lの右側の端部は、凹部33に挿入されて、凹部33とスプライン嵌合している。
【0030】
右側の車軸4Rは、車軸ケース11Rの左側および右側の端部にそれぞれベアリング34,35を介して回転可能に支持されている。車軸4Rの右側の端部は、車軸ケース11Rから右側に突出して、駆動スプロケット3Rに相対回転不能に接続されている。車軸4Rの左側の端部は、本体ケース7内で車軸ケース11Rから左側に突出し、その車軸ケース11Rから突出した部分の外周面には、スプラインが形成されている。ギヤ6Rの右端面には、凹む円形の凹部36が形成されている。車軸4Rの左側の端部のスプラインに対応して、凹部36の内周面には、スプラインが形成されている。車軸4Rの左側の端部は、凹部36に挿入されて、凹部36とスプライン嵌合している。
【0031】
また、ギヤ6Lの右端面には、円形の凹部37が形成されている。一方、ギヤ6Rの左端面には、円柱形の凸部38が形成されている。ギヤ6Rの凸部38がギヤ6Lの凹部37に右側から挿入されて、凸部38がニードルベアリングを介して凹部37の周面に相対回転可能に保持されている。
【0032】
<作用効果>
以上のように、車軸ケース11L,11Rは、それぞれ本体ケース7に形成されている挿入口16L,16Rに外側から挿入されているが、本体ケース7に固定されておらず、本体ケース7とは別体に設けられたサポート部材21により連結されて支持されている。そのため、駆動スプロケット3L,3Rに大きな横引き荷重が加わった場合でも、その横引き荷重による本体ケース7への影響を小さくでき、本体ケース7と車軸ケース11L,11Rとの間をそれぞれシールするガスケット14L,14Rの破損や本体ケース7の破損を抑制することができる。
【0033】
本体ケース7内において、車軸4L,4Rは、車軸4Lの端部に相対回転不能に取り付けられたギヤ6Lと車軸4Rの端部に相対回転不能に取り付けられたギヤ6Rとを相対回転可能に接続することにより、相対回転可能に連結されている。これにより、車軸4L,4Rおよびサポート部材21をコンバイン1のフレーム8の構造部材として取り込んで、フレーム8の構造を設計することができる。そのため、フレーム8の構造の設計の自由度が増す。
【0034】
車軸ケース11Lの左側の端部および車軸ケース11Rの右側の端部は、コンバイン1のフレーム8に固定されている。これにより、車軸ケース11L,11Rの駆動スプロケット3L,3R側の端部を安定して支持することができる。
【0035】
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することも可能である。
【0036】
たとえば、作業車両の一例として、コンバイン1を取り上げたが、本発明は、コンバイン1に限らず、人参や大根、枝豆、キャベツなどの野菜を収穫する収穫機など、コンバイン1以外の作業車両に適用することができる。
【0037】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1:コンバイン(作業車両)
3L,3R:駆動スプロケット(駆動輪)
4L,4R:車軸
5:動力伝達機構
6L,6R:ギヤ
7:本体ケース
8:フレーム
11L,11R:車軸ケース
16L,16R:挿入口
21:サポート部材
図1
図2