【実施例】
【0101】
(実施例1)
化合物の合成
本明細書で開示されている化合物は、開始試薬への適切な修飾を使用して、以下の方法に従い調製することができる。当業者であれば、以下の教示を考慮して、および典型的な有機化学技術を使用して、本明細書で開示されている化合物を合成することができる。
【0102】
中間体Aの合成:スキーム1に示されている通り、中間体AをD−グルコースから調製した。
【化22】
【0103】
中間体Aの脱ベンジル化は、化合物13をもたらし、これを保護された化合物14aに変換することができる。
【0104】
式Iの化合物の合成:式Iの化合物は、スキーム2に示されている通り、エナミン(化合物16)への変換、これに続く活性化した適当なカルボン酸とのカップリングにより、化合物13から調製される。
【化23】
【0105】
式Iの化合物はまた、スキーム3に示されている通り、チオラクタム(化合物29)への変換、これに続く適当なα−ブロモアミド(化合物3’)とのカップリングおよび式Iの化合物への変換により、化合物13から調製される。
【化24】
(実施例2)
in vitroでのフコシダーゼ阻害
【0106】
50mMホスフェート−シトレートpH4.5、5mM MgCl
2、640nM 4−メチルウンベリフェリル−アルファ−L−フコピラノシド(4MU−FUC)、1ng/mL rhFUCA1(R&D Systems)、および化合物II、III、またはIV:
【化25】
【化26】
の反応混合物を調製することにより、フコシダーゼ阻害を評価した。反応物(100μL)を、37℃で30分間インキュベートし、次いで同量の600mMシトレート−カーボネート緩衝液、pH9でクエンチした。360nmでの励起および450nmでの発光により蛍光を測定した。表2に結果が提供されている。
【表2】
【0107】
結果は、化合物II、IIIおよびIVによるフコシダーゼ活性の有効な阻害を実証している。
(実施例3)
タグ付フコースでの代謝性標識
【0108】
HepG2細胞を、フコシダーゼ阻害剤なしで、または化合物II、III、もしくはIVと共に(実施例2を参照)24時間成長させ、次いで(3S,4R,5R,6S)−6−エチニルテトラヒドロ−2H−ピラン−2,3,4,5−テトライルテトラアセテート、5’−メチル基の代わりにアルキン部分を含有するフコースのper−アセチル化類似体(Click−iT(商標)Fucose Alkyne、Molecular Probes、Eugene、Oregon)をさらに48時間で加えることによって、糖タンパク質代謝における摂動をアッセイした。細胞を固定し、透過処理し、洗浄し、Alexa Fluor488アジドで着色して、フコース類似体を組み込んでいる糖タンパク質を直交に標識した。次いで、Guava 6HT−2Lフローサイトメーター(ThermoFisher)を使用して、蛍光について細胞を分析した。結果は、
図1および表3に提供されており、化合物IIおよびIVでの処理による細胞中のフコシル化物質の増加したレベルを実証し、これはフコシダーゼ阻害と一致する。結果はまた、化合物IIIで処理した細胞中のフコシル化物質の低減したレベルを実証し、これは、フコシル化の阻害の可能性を示唆している。さらに、HepG2細胞の代わりに健康な線維芽細胞を使用した同様のアッセイにおいて、化合物IIでの処置は、フコシル化物質のレベルに対する最小の効果を実証した。
【表3】
(実施例4)
HepG2細胞における細胞傷害性
【0109】
細胞中の化合物の細胞傷害性を評価するために、HepG2細胞を、96−ウェルプレートに、1.5e4細胞/ウェルで、Minimum Essential Media、10%FBSおよび2mM L−グルタミンに三連で播種した。プレーティングした細胞は、48時間回復させた。次いで培地を、化合物IIまたはIV(実施例2を参照)の希釈物を含有する同じ培地に置き換え、24または48時間インキュベートし、XTTアッセイに供して、生存度(ATCC)を測定した。結果は
図2および
図3に提供されており、化合物IVは、化合物IIと比較して、より高い阻害剤濃度で低下した細胞傷害性を実証していることを示す。
(実施例5)
化合物IIの細胞傷害性
【0110】
多重化した細胞傷害性アッセイ:がんおよび正常細胞における化合物II(実施例2を参照)の細胞傷害性を評価するために、RPMI1640、10%FBS、2mM L−アラニル−L−グルタミン、1mM Naピルベートまたは特別な培地内で、5%CO
2の加湿雰囲気下、37℃で細胞を成長させた。細胞を384−ウェルプレートに播種し、5%CO
2の加湿雰囲気下、37℃でインキュベートした。細胞の播種の24時間後、化合物IIを加えた。同時に、時間ゼロの未処置の細胞プレートを生成した。
【0111】
72時間のインキュベーション期間後、細胞を固定し、蛍光標識した抗体および核染料で着色して、核、アポトーシス細胞および有糸分裂細胞の可視化を可能にした。抗活性のカスパーゼ−3抗体を使用して、アポトーシス細胞を検出した。抗ホスホ−ヒストン−3抗体を使用して、有糸分裂細胞を検出した。
【0112】
化合物IIを3.16倍に連続希釈し、9つの濃度にわたりアッセイした。GE Healthcare IN Cell Analyzer 1000を使用して自動化蛍光顕微鏡法を行い、4倍対物レンズを用いて画像を収集した。
【0113】
データ分析:InCell Analyzer 1000 3.2を使用して、12ビットtiff画像を取得し、Developer Toolbox 1.6ソフトウエアで分析した。データをシグモイドの4ポイント、4パラメーターOne−Site用量応答モデル(ここで、y(フィット)=A+[(B−A)/(1+((C/x)^D))]にフィットさせるための非線形回帰を使用して、EC
50およびIC
50値を計算した。特注のデータリダクションエンジンMathIQベースソフトウエア(AIM)を使用して、曲線−フィッティング、EC
50/IC
50計算および報告の作成を実施した。
【0114】
多重化した細胞傷害性アッセイは細胞画像ベースの分析技術を使用するが、ここでは、細胞を固定し、蛍光標識した抗体および核染料で着色して、核、ならびにアポトーシス細胞および有糸分裂細胞を視覚化する。抗活性のカスパーゼ−3抗体を使用して、アポトーシス細胞を検出する。抗ホスホ−ヒストン−3抗体を使用して、有糸分裂細胞を検出する。組み込まれた核染料のシグナル強度により細胞増殖を測定する。細胞増殖アッセイ出力は、相対細胞カウントと称する。細胞増殖エンドポイントを決定するため、以下の式を使用して、細胞増殖データ出力を対照(POC)のパーセントへと変換する:
【0115】
POC=相対細胞カウント(化合物のウェル)/相対細胞カウント(ビヒクルのウェル)×100。
【0116】
相対細胞カウントIC
50は、最大可能応答の50%での試験化合物濃度である。相対細胞カウントEC
50は、曲線屈曲点または有効応答の半分での試験化合物濃度である(フィットした曲線解法のパラメーターC)。GI
50は、観察された成長を半分に減少させるのに必要とされる濃度である。これは、未処理の細胞(時間ゼロ値)と、ウェル内に播種された細胞の数との中間で成長を阻害する濃度である。
【0117】
時間ゼロでの未処理プレートを使用して、72時間のアッセイ期間での倍加の数を決定する:72時間での倍加の数=LN[細胞数(72時間エンドポイント)*細胞数(時間ゼロ)]/LN(2)
【0118】
各バイオマーカーの出力は、各ウェル内の相対細胞カウントに対して正規化したビヒクルバックグランドに対する増加倍数である。
【0119】
活性化したカスパーゼ−3マーカーは、早期から後期のアポトーシス細胞を標識する。出力は、各ウェル内の相対細胞カウントに対して正規化したビヒクルバックグランドに対するアポトーシス細胞の増加倍数として示されている。カスパーゼ−3シグナルにおいて5倍の誘導を引き起こす試験化合物の濃度は、有意なアポトーシス誘導を示す。相対細胞カウントIC
95より高い濃度を有するウェルは、カスパーゼ3誘導分析から排除する。
【0120】
ホスホ−ヒストン−3マーカーは有糸分裂細胞を標識する。出力は、各ウェル内の相対細胞カウントに対して正規化したビヒクルバックグランドに対する有糸分裂細胞の誘導倍数として示されている。バックグランドに対する有糸分裂細胞シグナルの誘導倍数が約1である場合、細胞周期に対して「効果なし」である。ビヒクルバックグランドに対するホスホ−ヒストン−3シグナルの2倍またはそれより大きい増加は、試験化合物の有意な有糸分裂阻止の誘導を示している。
【0121】
細胞傷害性レベルが測定された相対細胞カウントIC
95未満の場合にのみ、ホスホ−ヒストン−3シグナルにおける2分の1またはそれ未満の低減(two or more fold decrease)はG1/S阻止を示し得る。ホスホ−ヒストン−3シグナルの2分の1またはそれ未満の低減が相対細胞カウントIC
95より高い濃度で観察された場合、有糸分裂細胞カウントの低減は、真のG1/S期阻止ではなく、より一般的な細胞傷害性効果に起因する可能性が最も高い。相対細胞カウントIC
95より高い濃度を有するウェルはホスホ−ヒストン−3の分析から排除する。
【0122】
これらの研究の結果は表4に提供されており、細胞内のリソソームフコシダーゼを阻害する化合物IIは、結腸および前立腺細胞系を含むいくつかの腫瘍細胞系に対して毒性であることを示している。結果はまた、化合物IIが一部の正常な(非腫瘍)初代系において成長停止を誘発するが、これらを死滅させないことも実証している。
【表4】
(実施例6)
化合物IIの薬物動態および生体分布
【0123】
マウス血漿中の化合物II(実施例2を参照)の薬物動態を評価するために、化合物IIを1mg/kgの投与量で静脈内投与した。投与後24時間までの様々な時間点において化合物II濃度を測定し、結果は表5に提供されている。
【表5】
【0124】
マウス肝臓および結腸中の化合物II(実施例2を参照)の生体分布を評価するために、化合物IIを、1mg/kgの投与量で静脈内投与した。化合物II濃度を、投与後1時間および8時間において測定し、結果は表6および7に提供されている。
【表6】
【表7】
【0125】
これらの結果は、マウス血漿からのフコシダーゼ阻害剤の急速なクリアランスを実証しているが、組織、特に結腸への化合物の分布を反映している。
(実施例7)
ヒト肝細胞癌の同所性モデルにおけるin vivoでの効力
【0126】
in vivoでの化合物を評価するために、ヒト肝細胞癌の同所性モデルを使用した。ヒト肝臓癌細胞系HepG2をヌードマウスに移植し、腫瘍細胞をin vivoで成長させることによって、同所性腫瘍モデルを生成した。
【0127】
1群当たり10匹のマウスおよび2つの投与量レジメンを使用して効力研究を行った。化合物II(実施例2を参照)は、強制経口投与(po)で、175mg/kgの投与量を1日1回3週間(QD×21)または87.5mg/kgの投与量を1日2回3週間(BID×21)投与した。ビヒクル(100μL)を対照動物に投与した。
【0128】
次いで、体重および腫瘍容積における変化に対して、動物を評価し、結果が表8および9に提供されている。
【表8】
【表9】
【0129】
化合物IIは、両方の投与量レジメンに対して、動物モデルの腫瘍容積における効率的な減少を実証し、87.5mg/kg、1日2回の用量に対してより大きな減少が観察された。これらのデータは、肝臓癌または他の肝臓状態を患っているヒトにおいて、腫瘍細胞を標的とすることに対するフコシダーゼ阻害剤の適性を支持している。
(実施例8)
化合物の特徴付け
【0130】
上記実施例に加えて、本明細書の化合物の活性は、これらに限定されないが以下に記載されているものを含む、当分野で公知の他のアッセイによって測定することができる。
【0131】
HepG2細胞における生化学的効力:もともとHCC腫瘍から誘導されたHepG2細胞は、過剰フコシル化糖タンパク質を生成する。肝細胞内での化合物の生化学的効力を評価するために、標準的条件を使用してHepG2細胞を培養し、緩衝液のみと、1種または1種より多くの公知のフコシダーゼ阻害剤と、または試験化合物と共に、マルチ−ウェルプレート内でインキュベートする。一晩インキュベートした後、細胞を冷たいPBSですすぎ、50mMクエン酸ナトリウムpH4.8へと凍結融解により溶解する。細胞溶解物を遠心分離で浄化し、4−メチルウンベリフェリル−アルファ−L−フコースアッセイ(Sigma−Aldrichから入手可能、参照番号PMID 2137330)を使用して、製造業者プロトコールに従いフコシダーゼ活性をアッセイする。細胞数およびリソソーム関数に対する正規化のために、標準的手順を使用して、β−グルクロニダーゼレベルもまたアッセイする。
【0132】
HepG2細胞における機能的効力の研究:HepG2細胞は、12−ウェルプレート内、1ウェル当たり1×10
5細胞を播種し、24時間回復させておく。次いで、細胞を試験化合物と共に72時間インキュベートする。次いで、細胞の状態をMTT増殖アッセイで評価する。
【0133】
HepG2細胞内のフコシダーゼ活性の阻害は、細胞内のフコシル化タンパク質の蓄積を引き起こし、細胞死をもたらす、または少なくとも細胞増殖を遅らせるもしくは停止させることが予想される。
【0134】
同所性腫瘍異種移植片モデルにおける機能的効力:以前に記載されている通り、同所性肝内異種移植片モデルにおいて化合物の効力をアッセイする(Ong, L.C.ら、Mol. Imaging Biol.、11巻:334〜42頁(2009年);Aihara, A.ら、J. Hepatol.、52巻:63〜71頁(2010年))。簡単に説明すると、週齢6〜8週の、重症複合免疫不全(SCID)マウスを、適当な麻酔剤、例えば、ケタミン、ジアゼパムまたはそれらの組合せで麻酔し、上腹部正中開腹を実施することによって、腹部の正中切開を介してマウスの門脈を曝露させる。次いで、30ゲージ針を使用して、10
6 HepG2細胞の懸濁液を、門脈に1分間にわたり注入する。次いで、切開を縫合して閉じ、動物が完全に覚醒するまで保温しておく。
【0135】
化合物処置の効力を測定するために、適当な放射標識薬剤、例えば、2−デオキシ−2−(F−18)−フルオロ−D−グルコース(
18F−FDG)を使用してポジトロン放出断層撮影(PET)を行うことによって(Ong, L.C.ら、Mol. Imaging Biol.、11巻:334〜42頁(2009年))、非侵襲的方法を介して処置マウスおよび対照マウスにおけるHepG2誘発性腫瘍の進行をフォローする。化合物処置の効力はまた、処置動物および対照動物における腫瘍エリアの組織学的分析によりin vivoで測定する。
【0136】
リソソーム、尿および血液中のグリコサミノグリカン(GAG)レベルを含めた、リソソーム蓄積症指標の測定もまた同所性腫瘍モデルにおいてアッセイする。
【0137】
化合物の投与は、化合物を与えていない被験体と比較して、腫瘍サイズを低減させる、または腫瘍成長の進行を遅延させることが予想される。化合物の投与は、GAGアッセイで測定した場合、化合物を取り込んだ細胞のリソソーム中のフコシル化タンパク質のレベルを増加させることもまた予想される。
(実施例9)
化合物の特徴付け
【0138】
上記実施例に加えて、本明細書の化合物のin vivo活性は、これらに限定されないが、以下に記載されているものを含めた、当分野で公知の他の動物モデルにより測定することができる。
【0139】
皮下腫瘍異種移植片モデルにおける機能的効力:皮下異種移植片モデルにおける化合物の効力をアッセイする。適切な皮下異種移植片モデルは、週齢6〜8週の重症複合免疫不全(SCID)マウスを使用して、適当な麻酔剤、例えば、ケタミン、ジアゼパムまたはそれらの組合せで麻酔し、次いで、肝細胞癌に対するHuh−7、SK−Hep1、HA22T/VGH、またはPLC/PRF/5細胞;乳がんに対するBT−474、MDA−MB−453、MCF−7、またはMDA−MB−231細胞;肺がんに対するNCI−H460、A549、NCI−1703、またはNCI−H226細胞;胃がんに対するSNU−1、NCI−N87、TMC−1、TSGH、またはTSGH−S3細胞;急性骨髄性白血病に対するMV4−11、RS4−11、またはMOLM−13細胞;結腸がんに対するCOLO205またはHT−29細胞;鼻癌に対するRPMI2650細胞;膵臓癌に対するPANC1またはMIA−PaCa2細胞;頭頸部がんに対するRPMI−2650、Detroit562、FaDu、またはHSC−3細胞;および甲状腺癌に対するTT細胞などの細胞の適当な懸濁液を注入することにより得ることができる。次いで、切開を縫合して閉じ、動物が完全に覚醒するまで保温しておく。
【0140】
化合物処置の効力を測定するために、適当な放射標識薬剤、例えば、2−デオキシ−2−(F−18)−フルオロ−D−グルコース(
18F−FDG)を使用して、ポジトロン放出断層撮影(PET)を行うことによって(Ong, L.C.ら、Mol. Imaging Biol.、11巻:334〜42頁(2009年))、非侵襲的方法を介して処置マウスおよび対照マウスにおける誘発性腫瘍の進行をフォローする。化合物処置の効力はまた、処置動物および対照動物における腫瘍エリアの組織学的分析によりin vivoで測定する。
【0141】
リソソーム、尿および血液中のグリコサミノグリカン(GAG)レベルを含めた、リソソーム蓄積症指標の測定もまた皮下の腫瘍モデルにおいてアッセイする。
【0142】
化合物の投与は、化合物を与えていない被験体と比較して、腫瘍サイズを低減させる、または腫瘍成長の進行を遅延させることが予想される。化合物の投与は、GAGアッセイで測定した場合、化合物を取り込んだ細胞のリソソーム中のフコシル化タンパク質のレベルを増加させることもまた予想される。
【0143】
同所性腫瘍異種移植片モデルにおける機能的効力:同所異種移植モデルにおける化合物の効力をアッセイする。適切な同所異種移植モデルは、週齢6〜8週の重症複合免疫不全(SCID)マウスを使用して、適当な麻酔剤、例えば、ケタミン、ジアゼパムまたはそれらの組合せで麻酔し、次いで、肝細胞癌に対するHuh−7、PLC/PRF/5、またはBNL1MEA.7R.1−luc細胞;例えば、患者由来の異種移植片(PDX)モデルのための肝細胞癌患者からの患者由来の細胞;頭頸部がんに対するDetroit562またはHSC−3細胞;および黒色腫に対するB16−F10細胞などの細胞の適当な懸濁液を注入することにより得ることができる。次いで、切開を縫合して閉じ、動物が完全に覚醒するまで保温しておく。
【0144】
追加的に、黒色腫の自然発症のリンパモード転移モデルは、B16−F10−luc2ネズミ黒色腫細胞を、免疫能力がある同系C57Bl/6マウスの後足パッドに接種することによって得ることができる。
【0145】
化合物処置の効力を測定するために、適当な放射標識薬剤、例えば、2−デオキシ−2−(F−18)−フルオロ−D−グルコース(
18F−FDG)を使用して、ポジトロン放出断層撮影(PET)を行うことによって(Ong, L.C.ら、Mol. Imaging Biol.、11巻:334〜42頁(2009年))、非侵襲的方法を介して、処置マウスおよび対照マウスにおける誘発性腫瘍の進行をフォローする。化合物処置の効力はまた、処置動物および対照動物における腫瘍エリアの組織学的分析によりin vivoで測定する。
【0146】
リソソーム、尿および血液中のグリコサミノグリカン(GAG)レベルを含めた、リソソーム蓄積症指標の測定もまた皮下の腫瘍モデルにおいてアッセイする。
【0147】
化合物の投与は、化合物を与えていない被験体と比較して、腫瘍サイズを低減させる、または腫瘍成長の進行を遅延させることが予想される。化合物の投与は、GAGアッセイで測定した場合、化合物を取り込んだ細胞のリソソーム中のフコシル化タンパク質のレベルを増加させることもまた予想される。
(実施例10)
in vivoでの化合物の投与
【0148】
HCCは、5番目に最も多く診断されている悪性腫瘍であり、世界中で年間ほぼ500,000件の死亡の原因となっている。腫瘍組織の外科切除、移植および物理的破壊が処置に対する第1の選択であるが、これらの手法に対して適切な腫瘍の症状を示すのは5〜10%の患者のみである(Ribero, D.ら、 Expert Rev. Anticancer Ther.、6巻:567〜579頁(2006年);Lau, W. Y.ら、J. Am. Coll. Surg.、202巻:155〜168頁(2006年);Lin, X. D.ら、Hepatobiliary Pancreat. Dis. Int.、5巻:16〜21頁(2006年))。さらに、全身性化学療法は、化学療法薬の毒性と腫瘍細胞耐性の両方により、15〜20%という低い応答率を生じる(Chan, J. Y.ら、Life Sci. 67巻:2117〜2124頁(2000年);Plosker, G. Lら、Drugs、45巻:788〜856頁(1993年))。
【0149】
例えば、ドキソルビシンは、多種多様な腫瘍に対して高い効率を有するがん化学療法薬であり、特に、腫瘍細胞を含めて、急速な成長を遂げている細胞に対して毒性である。しかし、肝細胞癌の処置におけるドキソルビシンの使用は、重大な肝臓および心臓毒性ならびに血液細胞産生の抑制により制限される(Danesi, R.ら、Clin. Pharmacokinet.、41巻:431〜444頁(2002年))。加えて、肝細胞癌細胞は、薬物耐性タイプへの高い変換率を示す(Hu, Y.ら、 Int. J. Oncol.、25巻:1357〜1364頁(2004年))。
【0150】
代替の治療手法は照射を利用する。例えば、現在試験されている肝がんに対する新しい処置は、放射性物質(
90Y)で標識されている微細なガラスビーズを主要肝臓動脈へ注入し、ここから、腫瘍組織を潅流している小さな血管を送ることを含む。次いで、照射により腫瘍組織を破壊する。しかし、肝臓動脈から肺への血液の大幅なシャントは、多くの患者においてガラスビーズの使用を妨げる。消化管に血液供給している動脈へのビーズの大幅な逆流はまた重篤な副作用を引き起こす可能性がある。したがって、腫瘍組織への治療の有効な送達は、血管に捕捉されることになる大きな物質に依存しない、より方向づけられた手法を必要とする。
【0151】
化合物をin vivoで評価するために、ヒト肝細胞癌の同所性モデルが使用される。
【0152】
動物において同所性腫瘍を生成するため、ヒト肝臓癌細胞系をヌードマウス、ラット、または他の適当な動物に移植し、腫瘍細胞をin vivoで成長させる。同所性モデルに対して有用なHCC細胞系は、これらに限定されないが、上に記載されているような細胞系、例えば、Hep3B、HepG2、SK−Hep1、HA22T/VGH、PLC/PRF/5、およびHuh−7を含む。HCCの同所性腫瘍モデルは当技術分野で公知であり、例えば、Okuboら(J Gastroenterol Hepatol.、2007年、22巻:423〜8頁);Armengolら、(Clin Cancer Res.、2004年、10巻:2150〜7頁)および Yaoら、(Clin Cancer Res.、2003年、9巻:2719〜26頁)に記載されている。
【0153】
最初に、in vivoで化合物および対照の投与のための用量範囲を確立するために、化合物(例えば、200mg/kg/日まで)を与えている、1群当たり5匹のマウスを使用して、低用量の範囲で研究を行う。試験薬剤は、毎日2週間(QD×14)静脈内または腹腔内のいずれかで投与し、研究のエンドポイントにおいて、体重における変化、任意の臨床的観察、ならびに臨床的病理および組織病理について被験体動物を試験する。
【0154】
効力研究を行うために、1群当たり8〜10匹のマウスを使用し、ヒトHCC細胞が与えられている動物、および対照動物に上記化合物の3つの試験用量範囲を投与する。試験薬剤は、静脈内または腹腔内のいずれかに投与し、適当な頻度、例えば、毎日4週間(QD×28)、毎日3週間(QD×21)または毎日2週間(QD×14)投与する。次いで、当技術分野で公知の技術を使用して、被験体動物を、体重における任意の変化、臨床的観察、およびin vivoでの効力の測定、例えば、腫瘍容積、肝臓組織病理、および一般的な臨床的病理について評価する。
【0155】
in vivoで肝細胞癌細胞の成長を減少させる化合物の能力は、化合物が肝臓細胞に有効に送達され、生物学的に測定可能な効果をもたらすことを実証している。動物モデルにおける効率的な腫瘍死の実証は、化合物が、肝臓癌または他の肝臓状態を患っているヒトにおいて、腫瘍細胞を標的とするのに有効であることを示唆している。
【0156】
治療薬の生体分布および効力を試験するための肝細胞癌(HCC)に対する別の関連動物モデルは、ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)に感染したイースタンウッドチャックである(Tennant, B. C.,ら、Gastroenterology、127巻:S283〜293頁(2004年))。ウイルスに新生児感染させたほぼすべてのウッドチャックは、平均24カ月の間隔でHCCを発症する。平均推定寿命は30カ月であるが、WHVに感染したウッドチャックは、HCC患者の大部分に存在する状態である硬変症を発症しない。ウッドチャック肝炎ウイルスおよびヒトB型肝炎ウイルスは構造、遺伝学、伝染の方法、感染過程および肝細胞癌への進行が同様である。このモデルの重要性を強調する重大な類似点が存在する。ヒトと同様に、生後直ちに肝炎ウイルスに曝露されたすべてのウッドチャックの半分より多くが慢性感染症を発症し、ほぼすべての慢性的に感染したウッドチャックは、曝露後約20〜28カ月で肝細胞癌を発症する。接種を行った残りの新生児ウッドチャックは多くの場合急性肝炎を発症するが、ウイルスに対する抗体を生み出し、回復する。これらの「回復した」動物の17〜25%の間は、曝露後29〜56カ月の間にHCCを発症する。肝炎感染症から明らかに回復した後のHCCの発症はヒトにも見られる。
【0157】
肝臓腫瘍細胞に対する化合物の有効性を決定するために、対照および試験化合物の取り込みおよび毒性をウッドチャックHCCモデルで研究する。一実施形態では、6匹の慢性的に感染させたウッドチャックおよび4匹の未感染ウッドチャック、約1.5〜2歳を使用する。
【0158】
有用な化合物は以下の特徴を一般的に示す:1)すでに障害が起きた肝臓機能に悪影響を及ぼさない、2)肝臓および悪性肝臓組織による測定可能な取り込み、3)ならびに取り込みにより、腫瘍細胞に対して毒性であり、腫瘍退縮を引き起こす。
【0159】
リソソーム、尿および血液中のオリゴ糖レベルを含めた、リソソーム蓄積症指標の測定もまた腫瘍モデルにおいてアッセイする。
【0160】
上記の例証的な例に示された本発明における多くの改変および変動が、当業者に生じることが予想されている。結果的に、添付の特許請求の範囲に出現するようなこのような制限のみが本発明に課されるべきである。
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
式Iの化合物:
【化27】
(式中、
X1、X2、およびX3は、独立して、OH、ハロ、およびO(C)OCH3からなる
群から選択され、
Rは、C1〜3アルキルおよびC1〜3ハロアルキルからなる群から選択され、
R1は、H、C1〜3アルキル、OH、−CO2C1〜3アルキルからなる群から選択
され、
R2は、−NRbC(O)Ra、−NRbC(O)ORa、−NRbC(O)NRcR
a、−NRbC(O)SRa、−C(O)Ra、および−C(O)NRbRaからなる群
から選択され、
Raは−C0〜3アルキレン−Gであり、
Gは、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、およびヘテロシクロアルキルから
なる群から選択され、
RbおよびRcは、独立して、HおよびC1〜3アルキルからなる群から選択される)
。
(項2)
X1、X2、およびX3がOHである、上記項1に記載の化合物。
(項3)
Rがメチルである、上記項1または2に記載の化合物。
(項4)
R1がHである、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項5)
R2が−NRbC(O)Raである、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項6)
R2が−C(O)NRbRaである、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項7)
RbがHである、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項8)
Gが、任意選択で置換されているインドリル、ベンゾチオフェニル、フルオレニル、イン
デニル、ジヒドロインデニル、およびフェニルからなる群から選択される、先行する上記
項のいずれか一項に記載の化合物。
(項9)
Gが、任意選択で置換されているフェニルおよび
【化28】
(式中、Aは、5、6、7、8、9または10員の炭素環式または複素環式環系である)
からなる群から選択される、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項10)
Gが、
【化29】
からなる群から選択され、
RdおよびReが、独立して、H、ORf、NRfRg、C1〜3アルキル、およびC
1〜5シクロアルキルからなる群から選択されるか、または
RdおよびReが、これらが結合している炭素原子と一緒になって、C=Oを形成し、
RfおよびRgが、独立して、HおよびC1〜3アルキルからなる群から選択され、
Yが、NH、N−C1〜3アルキル、S、SO、SO2、およびOからなる群から選択
される、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項11)
Gが、
【化30】
からなる群から選択される、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項12)
Raが、
【化31】
からなる群から選択される、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項13)
Raが
【化32】
である、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項14)
前記式Iの化合物が、以下の構造:
【化33】
を有する、先行する上記項のいずれか一項に記載の化合物。
(項15)
前記式Iの化合物が、以下の構造:
【化34】
を有する、上記項1から13のいずれか一項に記載の化合物。
(項16)
前記化合物が、
【化35】
からなる群から選択される、上記項1から14のいずれか一項に記載の化合物。
(項17)
前記化合物が、
【化36】
からなる群から選択される、上記項1から14のいずれか一項に記載の化合物。
(項18)
前記化合物が、
【化37】
からなる群から選択される、上記項1から14のいずれか一項に記載の化合物。
(項19)
腫瘍またはがんを処置することを必要とする被験体において腫瘍またはがんを処置するた
めの方法であって、上記項1から18のいずれか一項に記載の化合物、化合物II、また
は化合物III:
【化38】
を治療有効量で投与することを含む、方法。
(項20)
前記腫瘍またはがんが、肝がん、乳がん、黒色腫、肺がん、白血病、膵臓がん、胃がん、
直腸結腸がん、および頭頸部がんである、上記項19に記載の方法。
(項21)
前記化合物が被験体において腫瘍転移を減少させる、上記項19から20のいずれか一項
に記載の方法。
(項22)
前記腫瘍が、肝細胞癌、肝炎ウイルス感染症、硬変症、有毒性肝臓損傷、および遺伝性ヘ
モクロマトーシスの結果である、上記項19に記載の方法。
(項23)
前記腫瘍が肝細胞癌の結果である、上記項22に記載の方法。
(項24)
前記処置が、前記被験体において腫瘍サイズの低減をもたらす、上記項19から23のい
ずれか一項に記載の方法。
(項25)
前記処置が、処置前のレベルと比較して、前記被験体のアルファ−フェトプロテインの血
中レベルの減少をもたらす、上記項19から24のいずれか一項に記載の方法。
(項26)
前記化合物が静脈内投与される、上記項19から25のいずれか一項に記載の方法。
(項27)
前記化合物が肝臓動脈を介して投与される、上記項26に記載の方法。
(項28)
前記化合物が、第2の薬剤と組み合わせて投与される、上記項19から25のいずれか一
項に記載の方法。
(項29)
前記第2の薬剤が、化学療法剤、細胞傷害性剤、ラジオアイソトープ、抗ウイルス剤、抗
真菌剤、抗炎症剤および抗体からなる群から選択される、上記項28に記載の方法。
(項30)
前記化学療法剤が、ドキソルビシンおよび5−フルオロウラシルからなる群から選択され
る、上記項29に記載の方法。
(項31)
前記第2の薬剤が細胞傷害性剤である、上記項29に記載の方法。
(項32)
前記細胞傷害性剤が、メクロレタミン塩酸塩、シクロホスファミド、イホスファミド、ク
ロラムブシル、メルファラン、ブスルファン、チオテパ、カルムスチン、ロムスチン、ダ
カルバジンおよびストレプトゾシンからなる群から選択される、上記項31に記載の方法
。
(項33)
前記第2の薬剤がラジオアイソトープである、上記項29に記載の方法。
(項34)
前記ラジオアイソトープが、131I、125I、111In、90Y、67Cu、12
7Lu、212Bi、213Bi、255Fm、149Tb、223Rd、213Pb、
212Pb、211At、89Sr、153Sm、166Ho、225Ac、186Re
、67Ga、68Gaおよび99mTcからなる群から選択される、上記項33に記載の
方法。
(項35)
前記腫瘍が、肝炎ウイルス感染症に関連し、前記第2の薬剤が抗ウイルス剤である、上記
項29に記載の方法。