特許第6981985号(P6981985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エネシ・ファーマ・リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981985
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】固体配合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20211206BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 38/29 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20211206BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20211206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211206BHJP
   A61P 5/08 20060101ALI20211206BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20211206BHJP
   A61P 5/18 20060101ALI20211206BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
   A61K38/02
   A61K47/38
   A61K9/16
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K38/12
   A61K38/29
   A61K38/16
   A61K38/26
   A61P35/00
   A61P5/08
   A61P19/08
   A61P5/18
   A61P3/10
【請求項の数】17
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-540227(P2018-540227)
(86)(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公表番号】特表2018-535252(P2018-535252A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】GB2016053276
(87)【国際公開番号】WO2017068351
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年10月17日
(31)【優先権主張番号】1518594.5
(32)【優先日】2015年10月20日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518139339
【氏名又は名称】エネシ・ファーマ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ティアン,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ザジチェク,リチャード
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/007397(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 47/00
A61K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5%(w/w)以下の含水率を有する無針注射用の固体製剤であって、
第1賦形剤および0.01〜50%(w/w)の療法用ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに
1種類以上の追加の賦形剤、および固体製剤の総重量を基準として少なくとも5%(w/w)のCMC
を含み、0.5mm〜2mmの幅を有する固体製剤であって、該製剤の圧縮強度が少なくとも80MPaである、製剤。
【請求項2】
5%(w/w)以下の含水率を有する無針注射用の固体製剤であって、
第1賦形剤および50%以上80%(w/w)までの療法有効ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに
1種類以上の追加の賦形剤、および固体製剤の総重量を基準として少なくとも5%(w/w)のCMC
を含み、0.5mm〜2mmの幅を有する固体製剤であって、該製剤の圧縮強度が少なくとも80MPaである、製剤。
【請求項3】
含水率が2%〜3%(w/w)である、請求項1または2に記載の固体製剤。
【請求項4】
第1賦形剤および/または少なくとも1種類以上の追加の賦形剤が増量剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項5】
増量剤がポリオールである、請求項4に記載の固体製剤。
【請求項6】
増量剤がマンニトールである、請求項5に記載の固体製剤。
【請求項7】
ペプチドがオクトレオチド、PTH 1−34、エキセナチドまたはリラグルチドである、請求項1〜6のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項8】
製剤の幅が1mm以下、好ましくは0.85mmである、請求項1〜7のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項9】
製剤の長さが2から6mmまで、好ましくは4mmである、請求項1〜8のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項10】
製剤の圧縮強度が少なくとも100MPaである、請求項1〜9のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項11】
固体製剤の総重量が5mg以下である、請求項1〜10のいずれかに記載の固体製剤。
【請求項12】
疾患または障害の治療または予防に使用するための、請求項1〜11のいずれか1項に記載の固体製剤。
【請求項13】
ペプチドがオクトレオチドであり、使用が腸腫瘍または転移性カルチノイド腫瘍または先端巨大症の治療または予防である、請求項12に記載の固体製剤。
【請求項14】
ペプチドがPTHまたはそのフラグメントであり、使用が孤立性骨嚢胞または副甲状腺機能低下症の治療または予防である、請求項12に記載の固体製剤。
【請求項15】
ペプチドがエキセナチドまたはリラグリチドであり、使用が2型糖尿病の治療または予防である、請求項12に記載の固体製剤。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の固体製剤を含む、薬物送達デバイス、または薬物送達デバイスと共に使用するためのパッケージされた薬物。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の固体製剤を製造する方法であって、
療法用ペプチドおよび第1賦形剤を含む乾燥マトリックスを調製する;
CMCおよび1種類以上の追加の賦形剤を添加してブレンドを作成する;
ブレンドに水を添加してペーストにする;
ペーストを押し出して押出品を形成する;
押出品を乾燥させる;そして
押出品をカッティングして固体製剤を形成する、ここで該製剤の圧縮強度が少なくとも80MPaである、
工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、療法用ペプチドの非経口送達のための固体剤形に関する。特に、この固体剤形は賦形剤カルボキシメチルセルロース(CMC)を含み、それは配合物の強度、たとえば圧縮強度を増大させる。この固体剤形は、注射針またはカニューレを用いずに対象の皮膚を貫通するのに十分な強度をもつ。
【背景技術】
【0002】
本発明が関係する分野の技術水準をより十分に記載するために、本明細書中で幾つかの刊行物および特許文書を参照する。これらの刊行物および文書のそれぞれの開示内容を本明細書に援用する。
【0003】
注射針と注射器を用いる医薬水溶液の注射は、医薬を非経口経路により送達するための最も一般的な方法である。この送達経路は特に、通常は他の経路を用いた場合にはわずかしか吸収されないか胃内で分解されるタンパク質生物学的製剤および療法用ペプチドなどの薬物、または急速な送達が要求される場合に用いられる。
【0004】
しかし、米国薬局方に挙げられている薬物の3分の1以上および新規薬物分子の約50%が不溶性であり、したがって注射針と注射器による送達または経皮薬物送達のために配合するのは容易ではない。その結果、多数の薬物が現在では最適以下の配合をもつ可能性があり、他の点では有望である多数の化合物が決して市場に出ることがない。
【0005】
したがって、注射針と注射器による水溶液送達の欠点を克服する目的で固体状の薬物が開発された。
WO94/022423 (Bukh Meditec)には、ヒトまたは動物の破断していない皮膚または粘膜を貫通して有効物質、たとえばペプチドを送達することができる形状および/または強度をもつ固体医薬組成物の物体が開示されている。それらの物体は、賦形剤であるゼラチン、アガロースおよびゲランを含む組成物により例示されている。カルボキシメチルセルロースの使用には言及していない。
【0006】
WO96/08289 (SCRAS)には、非経口投与用の8ミリポアズの破壊強度をもつ‘爪楊枝’状ロッド[原文のまま]が開示されている。その出願は一般的な製造方法の使用を開示しているが、それらの手法について具体的には述べておらず、あるいは構造統合性を付与するためのカルボキシメチルセルロースの使用については述べていない。
【0007】
WO96/03978 (Quadrant Holdings)には、非経口投与のための‘ガラス質(glassy)’またはガラス状(vitreous)の固体剤形が開示されている。それらの剤形は、組成物を融解して非晶質、非結晶質のマトリックスを形成するのに十分な高温に加熱することにより製造される。
【0008】
WO01/26602 (Novo Nordisk)には、非経口投与のための細長い薬物配合物を製造するための別法が開示されている。その出願は、そのような配合物に満足すべき強度を付与するためには高い圧縮力を用いる別の製造方法が必要であることを開示している。賦形剤の使用だけで機械的強度を付与することは開示されていない。
【0009】
WO03/051328 (Novo Nordisk)には、有効成分の放出速度を制御するための水不透過性コーティングを含む非経口投与用組成物が開示されている。
WO03/023773 (Caretek Medical Limited, 現在はGlide Pharmaceutical Technologies Limited)には、非経口薬物送達のための療法用コンパウンドの固体ロッドまたはスプリンター(細片)(splinter)の使用が開示されている。その出願はさらに、非経口経路による薬物送達を容易にするための‘先駆発射剤(pioneer projectile)’の使用を開示している。その文書には、機械的強度を高めるためのカルボキシメチルセルロースの使用は開示されていない。
【0010】
WO2004/075875 (Alkabello A/S)には、糖マトリックスを含む口腔粘膜投与のための圧縮されていない即時分散性の固体剤形が開示されている。
WO2008/102136 (Glide Pharmaceutical Technologies Ltd)には、非経口注射用の長い物体および固体配合物が開示されている。その文書には、機械的強度を高めるためのカルボキシメチルセルロースの使用は開示されていない。
【0011】
EP2533814 (Ablynx NV および Glide Pharmaceutical Technologies Limited)には、免疫グロブリン可変ドメインを投与するための配合物が開示され、それは固体であってもよい。その文書には、追加の賦形剤を含む配合物における機械的強度を高めるためのカルボキシメチルセルロースの使用は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO94/022423
【特許文献2】WO96/08289
【特許文献3】WO96/03978
【特許文献4】WO01/26602
【特許文献5】WO03/051328
【特許文献6】WO03/023773
【特許文献7】WO2004/075875
【特許文献8】WO2008/102136
【特許文献9】EP2533814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非経口薬物送達のためのそのような固体剤形の使用は、他の送達形態に優る幾つかの利点をもつ。しかし、一般に米粒ほど小さいかまたはそれより小さい薬物ロッドおよびスプリンターの使用が有利であるが、皮膚貫通に必要な強度を維持した状態で含有させることができる療法用ペプチド量との取引条件がある。皮膚の厚さおよび強度は身体の領域毎に異なる。同様に、下部皮下組織の厚さ、硬さ、含水率および組成も、たとえば性別、身体における位置、または年齢に応じて変動するであろう。したがって、ある固体剤形配合物、特に高レベルのペプチドを含むものが、ある領域の皮膚を貫通できる一方で、それらを必要とする他の箇所にそれらを非経口投与できない可能性がある。
【0014】
よって、ある範囲の割合の療法用ペプチドを取り込ませることができ、一方で皮膚貫通のための増大した圧縮強度を維持または有し、それによって信頼性のある療法用ペプチド送達が可能になる固体剤形に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、賦形剤カルボキシメチルセルロース(CMC)を固体剤形配合物に添加すると、特に配合物が実質的に乾燥状態である場合、非経口投与のために十分な強度をもつ固体剤形が得られるという意外な知見を得た。
【0016】
よって、本発明の第1側面において、固体剤形の総重量を基準として、5%(w/w)以下の含水率を有する注射用の固体剤形であって、第1賦形剤および0.01〜50%(w/w)の療法用ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに1種類以上の追加の賦形剤、および少なくとも5%(w/w)のCMCを含み、0.5mm〜2mmの幅を有する固体剤形が提供される。
【0017】
ある態様において、療法用ペプチドの性質に応じて、本発明の固体剤形は固体剤形の総重量を基準として合計0.5〜30%(w/w)、たとえば0.7〜15%(w/w)または0.8〜10%(w/w)の療法用ペプチドを含むことができる。あるいは、本発明の固体剤形はより高いレベル、たとえば固体剤形の総重量を基準として30〜50%(w/w)または40〜50%(w/w)の療法用ペプチドを含むことができる。
【0018】
さらに、たとえばオクトレオチド(octreotide)またはリラグルチド(liraglutide)に関して、より高いレベルの療法用ペプチドが考慮され、可能であることが示されている。ある場合には、固体剤形はより高い割合、たとえば50%(w/w)以上80%まで、またはより好ましくは50%以上72%(w/w)まで、または50%以上60%(w/w)までの療法有効ペプチドを含む。
【0019】
よって、本発明のさらなる側面において、固体剤形の総重量を基準として、5%(w/w)以下の含水率を有する注射用の固体剤形であって、第1賦形剤および50〜80%(w/w)の療法有効ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに1種類以上の追加の賦形剤、および少なくとも5%(w/w)のCMCを含む固体剤形が提供される。好ましくは、剤形は0.5mm〜2mmの幅をもつ。
【0020】
本発明の固体剤形は、固体剤形の総重量を基準として少なくとも5%(w/w)、たとえば5〜90%(w/w)、5〜70%(w/w)、5〜60%(w/w)、5〜40%(w/w)、より特別には10〜30%(w/w)のCMC賦形剤を含む。CMCの具体的な量には、固体剤形の総重量を基準として5%(w/w)、7%(w/w)、10%(w/w)、15%(w/w)、20%(w/w)、25%(w/w)、30%(w/w)、35%(w/w)、40%(w/w)、45%(w/w)、50%(w/w)、55%(w/w)、60%(w/w)、65%(w/w)、70%(w/w)、75%(w/w)、80%(w/w)、85%(w/w)、90%(w/w)が含まれる。
【0021】
好ましくは、1種類以上の追加の賦形剤は増量剤である。増量剤は下記のうち1以上から選択できる:ポリオール、たとえばマンニトールまたはソルビトール;糖類、たとえばデキストランまたはスクロース;およびアミノ酸。
【0022】
特に好ましいのは、増量剤がマンニトールの場合である。
固体剤形はさらに、界面活性剤、糖類、アミノ酸、EDTAおよび安定剤からなる群から選択される1種類以上の賦形剤を含むことができる。
【0023】
固体剤形は、CMCを含めて、賦形剤(単数または複数)を合計50から99.99重量%まで含むことができる。
用語“療法用ペプチド”は、固体剤形から非経口経路により送達してヒトまたは動物において局所または全身療法効果を生じることができるいずれかの生理学的または医薬的に活性なペプチドを表わすために用いられる。
【0024】
療法用ペプチドの重要なクラスにはソマトスタチン類、バソプレシン類、血小板凝集阻害薬、カルシトニン類、インクレチンホルモン(グルカゴン様ペプチドを含む)、およびGNRH/LHRHアゴニストが含まれる。
【0025】
したがって、本発明の固体剤形は前記に述べたものを含む療法用ペプチド(ただし、それらに限定されない)の投与により治療/予防される疾患または障害の治療または予防に有用である。
【0026】
好ましくは、療法用ペプチドは100個以下のアミノ酸モノマー、たとえば5〜60個のアミノ酸モノマー、好ましくは8〜45個のアミノ酸モノマーからなる。
あるいは、本明細書に記載する療法用ペプチドは化学修飾、たとえばアセチル化、PEG化、メチル化、ヒドロキシル化およびアルブミン修飾されたペプチドを含むことができる。化学修飾の他の例は当業者に既知であろう。
【0027】
療法用ペプチドはオクトレオチドであってもよい。オクトレオチドは、特定の腸腫瘍または転移性カルチノイド腫瘍に伴って起きる重篤な下痢その他の症状を処置するために用いられる。オクトレオチドは先端巨大症を処置するためにも用いられる。
【0028】
あるいは、療法用ペプチドは副甲状腺ホルモン(PTH)、またはそのフラグメント、たとえばPTH 1−34であってもよい;これはテリパラチド(teriparatide)としても知られ、副甲状腺ホルモンの合成または組換えヒトN末端1−34アミノ酸配列である。PTH 1−34は、孤立性骨嚢胞(solitary bone cyst)および副甲状腺機能低下症を処置するために用いられる。
【0029】
あるいは、療法用ペプチドはエキセナチド(exenatide)またはリラグルチドであってもよく、これらはグルカゴン様ペプチド−1受容体アゴニストであり、インスリン分泌を刺激する内因性代謝ホルモンGLP−1と同じ受容体に結合する。そのようなペプチドは2型糖尿病を処置するために使用できる。
【0030】
本明細書中で用いる用語“非経口送達”は、皮膚を通して固体剤形を投与することを意味する。非経口送達にはたとえば皮下および筋肉内投与が含まれる。
本明細書に記載する固体剤形を皮内に、すなわち皮膚または粘膜を完全に通過するのではなく皮膚内に投与できることも明らかであろう。
【0031】
本発明の固体剤形は外科処置またはトロカール(trocar)により投与することもできる。
固体剤形は押出しにより製造できる。あるいは、固体剤形は成形(moulding)または賦形(forming)により製造できる。固体剤形は押出しと成形、または押出しと賦形、または押出しとカッティングの組合わせにより製造することもできる。あるいは、それらの剤形は造粒または凍結乾燥により製造できる。
【0032】
特定の態様において、固体剤形を電離放射線、たとえば電子ビームまたはガンマ線により滅菌する。あるいは、配合物の成分を固体剤形の形成前に無菌処理する。
本発明の第2側面によれば、本発明の第1側面による固体剤形を含む、薬物送達デバイス、または薬物送達デバイスと共に使用するためのパッケージされた薬物が提供される。
【0033】
本発明の第3側面によれば、対象において疾患または障害の処置に使用するための、本発明の第1側面による固体剤形が提供され、その際、疾患または障害は、前記のものを含む(ただし、それらに限定されない)療法用ペプチドの非経口投与により処置できる。
【0034】
さらなる側面において、本発明は、療法用ペプチドの非経口投与により処置できる状態を含む(ただし、それらに限定されない)1以上の状態の処置に用いる医薬の製造のための、本明細書に記載する固体剤形の使用を提供する。
【0035】
さらなる側面において、本発明は、対象に本開示の固体剤形を投与することを含む、前記に述べた療法用ペプチドにより処置できる1以上の状態の処置方法を提供する。
用語“処置”は、予防および治療処置を包含するものとする。状態または障害の処置は、その増悪の処置も包含する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
一般に注射受容能に関して定義される注射恐怖症(injection phobia)は一般集団の7%〜22%であると推定され、医療提供者にとって難題を提示している。注射針と注射器による穿刺の身体感覚に続いて、ある体積の流体が押し込まれ、そして注射針が引き抜かれる感覚がある。通常は投与の各工程が目に見える。
【0037】
投与効率に関して、固体剤形は投与後に100%の有効物質が生物学的に利用できることを可能にする。これに対し、注射針と注射器については常にあるレベルの無駄があり、少なくともある量の有効物質が注射器内に残留する。このため、有効薬物の無駄が最少であることが望まれる高価な薬物に無針技術が有用となる。
【0038】
無針(needle freeまたはneedle less)注射として投与する固体剤形は伝統的な注射針と注射器よりはるかに迅速に投与されるので、したがってそれらの使用は有利である。本発明に関して、固体剤形の全般的特徴は、それらが自力で対象の皮膚を貫通できることであり、その結果、注射針の必要がなくなる。本質的に、固体剤形は注射針にとって代わる。
【0039】
注射針と注射器による注射に際して感じられる皮膚感覚に関して、これは主に必要な注射針のサイズおよび投与する液体の体積が大きいことによるものである。
第1相臨床試験において、本発明者らが製造した固体剤形の投与に際して感じられる感覚は27ゲージ注射針(ワクチン接種に際して一般に用いられる標準的な注射針サイズのひとつ)による皮膚貫通に際して感じられる感覚と同等であることが認められた。しかし、この後、デバイスが固体剤形をきわめて速やかに皮膚に押し込むので、この感覚は無針注射ではほとんど瞬時に終わった。
【0040】
本発明の固体剤形および組成物は、好ましくはそれらの最も広い部分で2mmの最大直径または幅をもつ。特に、幅は2mm未満、1mm未満、特に0.50〜0.90mm、たとえば0.80〜0.90mmである。好ましくは、幅は0.85mm、許容量±5%である。その結果、そのような固体剤形は本質的にほとんど感覚なしに、またはごくわずかな感覚で注射できると判定された。固体剤形の直径が小さすぎるとそれらはきわめて脆くかつ取扱いにくくなり、皮膚を貫通するのに十分なほど強靭でもなくなる。
【0041】
それらの組成物は大部分の用途についていかなる長さにも製造できるが、剤形、好ましくはロッド状剤形の長さは、特に15mm未満、10mm未満、8mm未満、より特別には6mm未満、たとえば2から6mmまで、特に4mmである。好ましくは、固体剤形の長さは4mm、許容量±5%である。
【0042】
しかし、そのような大きさの固体剤形はそれらが収容できる有効物質の量が限られる。たとえば、現在、きわめて細い固体剤形は予定量の有効物質を収容するためにきわめて長い組成を必要とするであろう。それによって組成物の圧縮強度も低減し、投与に際して破断する原因となる可能性がある。よって、現在の固体剤形の寸法は、有効物質の量、および皮膚貫通のために要求される十分な強度を付与する賦形剤の量によって決まる。
【0043】
用語“強度”の使用は、組成物がヒトまたは動物の皮膚を貫通するのに十分な圧縮強度をもつことを意味する。本発明の組成物が信頼性をもってヒトの表皮を貫通するためには少なくとも80MPaの圧縮力が必要であると実験的に判定された。この詳細事項には、平均圧縮力マイナス3σ(すなわち、3標準偏差)が少なくとも80MPaでなければならないという計算により到達した。したがって、非経口注射のための組成物はそのような圧縮力に耐えることができなければならない。
【0044】
圧縮強度は島津引張り強さ試験機で試験することができる。試験は、ロッド状の剤形として組成物を配合し、その剤形に圧縮力を付与することにより実施される。剤形が破断するまで圧縮力を増大させる。計測器は剤形を破壊するのに必要な圧縮力を記録する。このパラメーターを圧縮強度と呼び、圧縮下での破断強度として解釈すべきである。実質的に乾燥状態の剤形について試験を実施しなければならない。
【0045】
本発明の固体剤形は、少なくとも80MPa、たとえば少なくとも100MPa、少なくとも120MPa、少なくとも130MPa、または少なくとも140MPaの圧縮力に耐えることができる。一般に測定はおおよそ0.85mmの直径をもつ配合物について実施される。配合物間で結果を確実に比較できるように、一般に測定はおおよそ2mmの固体剤形について実施される。
【0046】
本発明者らは、CMCを含有する固体剤形は、特に剤形が実質的に乾燥状態である場合、予想より高い圧縮強度をもつという意外な知見を得た。
用語“実質的に乾燥”の使用は、固体剤形が配合物中に最小レベルの水分をもつことを意味する。最終固体剤形における含水率は、固体剤形の総重量を基準として5%(w/w)以下、好ましくは3%(w/w)以下、より特別には1〜5%(w/w)、1〜3%(w/w)、好ましくは2〜3%(w/w)であってもよい。最終剤形における含水率を分析するための方法は当業者に既知であろう。適切な方法には、熱重量分析(thermogravimetric analysis)(TGA)、カール・フィッシャー(Karl Fisher)(KF)および赤外分析が含まれる。固体剤形中に存在する水分は水である可能性がある。実質的に乾燥状態の剤形は、たとえばMemmert UF750対流オーブンまたはそれと同等のものを用いて固体剤形を対流乾燥させ、続いてたとえばMemmert VO500真空オーブンまたはそれと同等のものを用いて真空乾燥させることにより達成できる。他の乾燥方法、たとえば固体剤形を賦形する前にCMCを乾燥させることによる方法が当業者に既知であろう。剤形中に存在する他の材料も混合前に乾燥させることができる。固体剤形中に存在する水分は配合物と一体であり、別個の有効成分とはみなされない。このため、固体剤形を製造するために用いた成分の比率のみを挙げた例示配合物において水分または水は成分として挙げられていない。水は、押出しの前に、押出しを容易にするペーストを形成するために導入できる。この水分は、本明細書中に詳述するように、次いで乾燥除去される。同様に本明細書中に述べるように、最終製品中の水分のレベルは固体剤形の総重量を基準とした%(w/w)として測定できる。したがって、水分の%(w/w)について述べる場合、これはその剤形を作成するために用いた成分の量ではなく固体剤形における水分のレベルを量で表わすための手段であることが理解されるであろう。したがって、本明細書に記載する固体剤形は、療法用ペプチド、CMC、1種類以上の追加の賦形剤、およびある量の水分を含有するであろう。
【0047】
本発明の剤形は、好ましくは物理的および化学的特性、たとえば有効成分の力価、機械的強靭性、および剤形の視覚的外観のような官能特性に関して製造後に有意には変化しないという意味で安定である。
【0048】
最終製品の充分な貯蔵寿命を保証するための固体剤形の安定性は、固体剤形またはそれの個々の成分の物理的および/または化学的特性を参照して判断できる。注射針と注射器により送達される大部分の注射用剤形について、配合物は液状で保存される。しかし、多くの薬物およびワクチンは、たとえそれらが冷蔵庫内に保存されたとしても液状配合物中では十分に安定ではない。よって、これらの場合は薬物を粉末として保存し、注射直前に希釈剤(一般に、水、生理食塩水または緩衝液)で再構成する。このプロセスは煩雑であり、低血糖の処置のためのグルカゴンの場合のように、ある緊急の場合に患者または介護者が有効薬物を含有しない希釈剤を注射した例がある。
【0049】
配合物を固体剤形で保存することは、貯蔵安定性を増大させ、コールドチェーン保存の必要性を避けることができ、かつ貯蔵寿命を延長することができる。配合物を単に溶液から固体に変換するより高い安定性を付与するために、賦形剤を添加することができる。固体剤形配合物は、熱分解に対する安定性が増大し、かつ滅菌などの電離放射線による分解に耐える能力が増大する可能性がある。
【0050】
用語“賦形剤”には、結合剤、崩壊剤、流動促進剤、滑沢剤、保存剤、溶媒およびビヒクルを含めることができる。CMCと組み合わせて用いられる好ましい賦形剤には下記のものが含まれる:ポリオール、たとえばマンニトールおよびソルビトール;糖類、たとえばデキストランおよびスクロース;界面活性剤;糖類;アミノ酸;EDTAおよび安定剤。本明細書に記載する固体剤形は、マンニトールをCMCと組み合わせて含むことができる。デキストランもマンニトールおよびCMCの両方と組み合わせて使用できる。
【0051】
本発明の固体剤形はオクトレオチドを療法用ペプチドとして含むことができる。オクトレオチド固体剤形はさらにCMCおよび本明細書に記載する1種類以上の追加の賦形剤を含むであろう。たとえば、固体剤形は1〜50%(w/w)のオクトレオチド、特に1〜10%(w/w)、好ましくは2〜5%(w/w)のオクトレオチドを、20〜40%(w/w)、好ましくは30〜40%(w/w)のCMC、および40〜80%(w/w)、好ましくは50〜70%(w/w)の1種類以上の追加の賦形剤のほかに含むことができる。あるいは、固体剤形は50%(w/w)以上80%までのオクトレオチド、またはより好ましくは50%以上72%(w/w)まで、または50%以上60%(w/w)までのオクトレオチドを含むことができる。
【0052】
特に、1種類以上の追加の賦形剤は増量剤であり、それは20〜50%(w/w)、好ましくは30〜40%(w/w)の範囲で存在することができる。より好ましいのは増量剤がマンニトールの場合である。さらに、オクトレオチド固体剤形は5%(w/w)以下、好ましくは2〜3%(w/w)の総含水率をもつことができる。すべての重量は固体剤形の総重量を基準とする。オクトレオチド固体剤形は少なくとも1つの尖端(pointed end)および長い本体をもつことができる;固体剤形が本明細書に記載するいずれかの重量および寸法をもつことができるのは認識されるであろう。
【0053】
あるいは、本発明の固体剤形はPTH 1−34を療法用ペプチドとして含むことができる。PTH 1−34固体剤形はさらにCMCおよび本明細書に記載する1種類以上の追加の賦形剤を含むであろう。たとえば、固体剤形は0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2.5%(w/w)のPTH 1−34を、5〜20%(w/w)、好ましくは7〜15%(w/w)のCMC、および80〜99%(w/w)、好ましくは85〜95%(w/w)の1種類以上の追加の賦形剤のほかに含むことができる。特に、1種類以上の追加の賦形剤は増量剤であり、それは20〜60%(w/w)の範囲で存在することができる。増量剤はマンニトールおよび/またはデキストランであってもよい。さらに、PTH 1−34固体剤形は5%(w/w)以下、好ましくは2〜3%(w/w)の総含水率をもつことができる。すべての重量は固体剤形の総重量を基準とする。PTH 1−34固体剤形は少なくとも1つの尖端および長い本体をもつことができる;固体剤形が本明細書に記載するいずれかの重量および寸法をもつことができるのは認識されるであろう。
【0054】
あるいは、本発明の固体剤形はエキセナチドを療法用ペプチドとして含むことができる。エキセナチド固体剤形はさらにCMCおよび本明細書に記載する1種類以上の追加の賦形剤を含むであろう。たとえば、固体剤形は0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜2.5%(w/w)のエキセナチドを、5〜20%(w/w)、好ましくは7〜15%(w/w)のCMC、および80〜99%(w/w)、好ましくは85〜95%(w/w)の1種類以上の追加の賦形剤のほかに含むことができる。特に、1種類以上の追加の賦形剤は増量剤であり、それは20〜60%(w/w)の範囲で存在することができる。増量剤はマンニトールおよび/またはデキストランであってもよい。さらに、エキセナチド固体剤形は5%(w/w)以下、好ましくは2〜3%(w/w)の総含水率をもつことができる。すべての重量は固体剤形の総重量を基準とする。エキセナチド固体剤形は少なくとも1つの尖端および長い本体をもつことができる;固体剤形が本明細書に記載するいずれかの重量および寸法をもつことができるのは認識されるであろう。
【0055】
理想的には、用いるすべての賦形剤が非経口投与用として承認されているか、あるいはGenerally Regarded As Safe(一般に安全と認められる)(GRAS)である。
本発明の固体剤形は、標準的な注射針と注射器で投与した有効物質の放出プロフィールと実質的に生物学的同等な放出プロフィールを示す。
【0056】
配合物からの有効成分の放出速度は、ある程度は有効成分の溶解度に依存するであろう。固体剤形は徐々に溶解する有効成分または賦形剤を含むことができ、それは全身循環への有効成分の制御放出も生じる。療法用ペプチドをそれの具体的放出プロフィールについて選択できる。
【0057】
配合物への1種類以上の崩壊剤または制御放出剤の添加は有利である可能性がある。適切な崩壊剤および制御放出剤は当業者に既知であろう。
本発明の賦形剤のブレンドは、固体剤形の総重量を基準として50から99.99%まで、好ましくは90%から99.95%までの量で用いられる。
【0058】
賦形剤のブレンドは、乾燥混合物として、または水溶液を組み合わせることにより、または2種類のうちの一方を他方の水溶液に添加することにより調製できる。
固体剤形は、乾燥マトリックスを1種類以上の賦形剤と組み合わせて含むバルク製剤から作成できる。乾燥マトリックスは、療法用ペプチドを1種類以上の賦形剤、たとえばマンニトールと組み合わせて含む。乾燥マトリックスは、乾燥マトリックスの総重量を基準として最大80%(w/w)、たとえば1〜80%(w/w)の療法用ペプチドを含むことができる。乾燥マトリックスの残りの質量は1種類以上の賦形剤、たとえば安定剤で構成され、それは療法用タンパク質の安定化を補助することができる。
【0059】
バルク製剤は最大90%(w/w)の乾燥マトリックスを含むことができる。たとえば、バルク製剤は10〜90%(w/w)、20〜80%(w/w)、25〜75%(w/w)または30〜65%(w/w)の乾燥マトリックスを含むことができ、残りの質量はCMCおよび1種類以上の追加の賦形剤で構成される。よって、乾燥マトリックスが80%のペプチドを含み、最終バルク製剤配合物中に90%の乾燥マトリックスを用い、残りがCMCおよび他の賦形剤で構成されるならば、固体剤形の最終組成物は72%のペプチドを含むであろう。しかし、わずか75%の同じ乾燥マトリックスブレンドを用いるならば、最終組成物である固体剤形は60%のペプチドを含むであろう。
【0060】
固体剤形は、凍結乾燥マトリックスを1種類以上の賦形剤と組み合わせて含むバルク製剤から作成できる。凍結乾燥マトリックスは療法用ペプチドを1種類以上の賦形剤と組み合わせて含む。凍結乾燥マトリックスは、凍結乾燥マトリックスの総重量を基準として最大80%(w/w)、たとえば1〜20%(w/w)の療法用ペプチドを含むことができる。凍結乾燥マトリックスの残りの質量は1種類以上の賦形剤、たとえば安定剤で構成され、それは療法用タンパク質を安定化するのを補助できる。
【0061】
バルク製剤は最大90%(w/w)の凍結乾燥マトリックスを含むことができる。たとえば、バルク製剤は10〜90%(w/w)、20〜80%(w/w)、25〜75%(w/w)または30〜65%(w/w)の凍結乾燥マトリックスを含むことができ、残りの質量はCMCおよび場合により1種類以上の追加の賦形剤で構成される。
【0062】
一般に、本発明の固体剤形は10mg未満、通常は5mg未満、たとえば1mgから5mgまで、特に1.8〜3.2mgの範囲の総重量をもつであろう。
好ましくは、固体剤形は固体剤形の総重量を基準として0.01〜50%(w/w)、より好ましくは0.05〜30%(w/w)の療法用ペプチドを含む。有効物質の重量は3μg〜1.5mgの範囲であってもよい。有効物質の具体的な重量には、1mg、0.5mg、100μg、50μg、20μg、10μgおよび3μg、またはそれらの間のいずれかの範囲が含まれる。
【0063】
用語‘固体剤形’は、液体でもなく、粉末、たとえば凍結乾燥粉末でもない、固体配合物の形態である剤形を表わす。
本発明の固体剤形には、ロッド、ペレット、粒子(grain)、顆粒およびスプリンターが含まれる。断面は円形、実質的な円形、楕円形、三角形、四角形もしくは多角形、またはこれらの組合わせであってもよい。固体剤形の三次元形状は、円筒体、円錐体、または多面体、たとえば立方体、プリズム体もしくは錐体、またはこれらの組合わせであってもよい。好ましくは、固体剤形は皮膚貫通を容易にするために少なくとも1つの尖端をもつであろう。尖端は、円錐として、またはたとえばたがね(chisel)に類似する2以上の交差面から形成された斜端(bevelled tip)として形成されていてもよい。
【0064】
2つの面が共通の地点(頂点)で出会う場合、それらの間の角度、すなわち夾角(included angle)は特に10〜110°、特に10〜90°、よりさらに特別には20〜65°、または40°〜60°である。先端が円錐形である場合、その先端の頂部半径は好ましくはそのような組成物の直径の半分より小さく、より好ましくはそのような組成物の直径の四分の一より小さい。
【0065】
好ましくは、本発明の固体剤形配合物は非晶質またはガラス質ではなく、むしろ結晶質である。特定の場合、固体剤形は粗面をもつことができ、あるいは粗面を含み、あるいは剤形に表面テキスチャーを付与する特定の幾何学的表面構造をもつ。言い換えると、それらはガラス表面のように平滑かつ単調(featureless)ではないであろう。
【0066】
本発明の固体剤形は30秒から1日までの範囲の崩壊時間をもつことができる。崩壊時間を変更するために固体剤形中の賦形剤の組合わせを改変することができる。
最適療法作用を発揮するためには、有効部分をそれの作用部位へ有効濃度で希望する期間、送達すべきである。信頼性をもって療法効果を予測できるためには、有効物質を含有する剤形の性能を十分に解明すべきである。
【0067】
好ましくは、皮膚のタイプまたは位置に関係なく投与毎に再現性のある薬物量を可能にする技術を用いて本発明の固体剤形を投与する。適切な送達システムはWO03/023773、WO04/014468およびWO06/082439として公開された本出願人の先の出願に開示されており、これらを本明細書に援用する。たとえば、本発明の固体剤形は低速で投与され、低速で皮膚を貫通する。特に、固体剤形は低速で移動した後に皮膚に接触して貫通する。
【0068】
本発明の固体剤形は当技術分野で既知の方法により形成できる。
要約すると、本発明の固体剤形は下記の工程を含む方法により製造できる:
(a)乾燥した療法用ペプチド、CMCおよび1種類以上の追加の賦形剤をブレンドして、ブレンドを作成する;
(b)ブレンドに水を添加してペーストにする(押出しの前または途中に);
(c)ペーストを押し出して押出品を形成する;
(d)押出品を乾燥させる;
(e)押出品をカッティングして固体剤形を形成する。
【0069】
ペーストを押し出す代わりに、ペーストを乾燥前に成形または賦形することができる。あるいはペーストを乾燥前に押出しかつ成形することができ、あるいはペーストを乾燥前に押出しかつ賦形することができる。あるいは、ブレンドした乾燥状態の療法用ペプチド、CMCおよび1種類以上の追加の賦形剤(それぞれ粉末状)を圧縮して賦形することができる。
【0070】
上記方法は、より詳細には下記のように記載することができる:
1)療法用ペプチドを凍結乾燥して凍結乾燥マトリックスを調製する。1種類以上の追加の賦形剤も療法用ペプチドと共に凍結乾燥することができる;
2)凍結乾燥マトリックスを次いでCMC、および場合により1種類以上の追加の賦形剤に添加し、次いでブレンドする;
3)ブレンドを、必要な直径のダイを備えた2軸スクリュー押出機内で水と混合して押出品を製造する;
4)押出品をカッティングしてロッドにし、対流オーブン内で乾燥させる。ロッドを約1〜5時間、たとえば約3時間、乾燥させることができる。対流オーブンは約30〜60℃、たとえば約50℃の温度であってもよい。好ましくは、ロッドを対流オーブン内で約3時間、約50℃の温度で乾燥させる;
5)ロッドを次いで約30℃〜70℃、好ましくは60℃の温度の真空オーブン内で、適切な圧縮強度、すなわち少なくとも80MPaの圧縮強度に達するまで乾燥させる。得られる乾燥ロッドは実質的に乾燥状態である;
6)ロッドをさらにカッティングして、希望する長さ、たとえば2から6mmまでの個別の剤形を形成する。
【0071】
乾燥剤形中の水分のレベルが低いほど剤形の圧縮強度は高くなるという相関関係が認められた。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は前記の本発明の固体剤形を開示する。
実施例1−オクトレオチド配合物
【0073】
【表1】
【0074】
オクトレオチド固体剤形を下記の方法により製造した:
1.オクトレオチドを、安定剤(ヒスチジン、メチオニンおよびクエン酸)および増量剤としてのマンニトールと共に凍結乾燥して、凍結乾燥マトリックスを調製した;
2.凍結乾燥マトリックス(30.25% w/w)をCMC(35% w/w)およびマンニトール(35.75% w/w)に添加し、バッグブレンドして、ブレンドを調製した;
3.ブレンドを、必要な直径のダイを備えた2軸スクリュー押出機内で水と混合して、押出品を製造した;
4.押出品をカッティングして長いロッド(約10cmの長さ)にし、50℃の対流オーブン内で3時間乾燥させた;
5.ロッドを次いで適切な圧縮強度に達するまで60℃の真空オーブン内でさらに乾燥させた;
6.ロッドさらにカッティングして、長さ4mmの個別の剤形を形成した。
【0075】
少なくとも48時間、真空乾燥した場合、この方法により圧縮強度>130MPaをもつ剤形が製造された。
【0076】
【表2】
【0077】
圧縮強度は2mmのサンプルについて試験されるので、表1の乾燥データを得るために真空オーブン内での乾燥時間(工程5)を変更した後に前記方法の工程6を実施し、長さ2mm(4mmではなく)の剤形を得た。圧縮強度を測定するために、長さ2mmのオクトレオチドサンプルを2枚の金属板の間で圧縮し、サンプルを破断するのに要した力を測定して記録した。表1のデータは、熱重量分析(TGA)により測定した製品中の水分が低減するのに伴って圧縮強度が増大することを示す。TGAにより水分を測定する場合、温度傾斜に際しての各サンプルの重量減少をモニターする。
【0078】
実施例2 − PTH 1−34配合物
【0079】
【表3】
【0080】
PTH 1−34固体剤形を下記の方法により製造した:
1.PTH 1−34を安定剤(ヒスチジン、メチオニン、EDTA、NaOH、システインおよびクエン酸・1水和物)および増量剤としてのマンニトールと共に凍結乾燥して、凍結乾燥マトリックスを調製した;
2.凍結乾燥マトリックス(35% w/w)をCMC(10% w/w)、マンニトール(24%)、デキストラン(30% w/w)およびTween 20(1% w/w)に添加し、バッグブレンドして、ブレンドを調製した;
3.ブレンドを、必要な直径のダイを備えた2軸スクリュー押出機内で水と混合して、押出品を製造した;
4.押出品をカッティングしてロッドにし、50℃の対流オーブン内で3時間乾燥させた;
5.ロッドを次いで適切な圧縮強度に達するまで60℃の真空オーブン内でさらに乾燥させた;
6.ロッドさらにカッティングして、長さ4mmの個別の剤形を形成した。
【0081】
少なくとも41時間、真空乾燥した場合、この方法により圧縮強度>100MPaをもつ剤形が製造された。
【0082】
【表4】
【0083】
圧縮強度は2mmのサンプルについて試験されるので、表1の乾燥データを得るために真空オーブン内での乾燥時間(工程5)を変更した後に前記方法の工程6を実施し、長さ2mm(4mmではなく)の剤形を得た。圧縮強度を測定するために、長さ2mmのPTH 1−34サンプルを2枚の金属板の間で圧縮し、サンプルを破断するのに要した力を測定して記録した。表2のデータは、熱重量分析(TGA)により測定した製品中の水分が低減するのに伴って圧縮強度が増大することを示す。TGAにより水分を測定する場合、温度傾斜に際しての各サンプルの重量減少をモニターする。
【0084】
実施例3 − エキセナチド配合物
【0085】
【表5】
【0086】
エキセナチド固体剤形を下記の方法により製造した:
・ エキセナチドを安定剤(ヒスチジン、メチオニン、EDTA、NaClおよびシステイン)および増量剤としてのマンニトールと共に凍結乾燥して、凍結乾燥マトリックスを調製した;
・ 凍結乾燥マトリックス(35% w/w)をCMC(10% w/w)、マンニトール(25%)、デキストラン(30% w/w)に添加し、バッグブレンドして、ブレンドを調製した;
・ ブレンドを、必要な直径のダイを備えた2軸スクリュー押出機内で水と混合して、押出品を製造した;
・ 押出品をカッティングしてロッドにし、50℃の対流オーブン内で3時間乾燥させた;
・ ロッドを次いで適切な圧縮強度に達するまで60℃の真空オーブン内でさらに乾燥させた;
・ ロッドをさらにカッティングして、長さ4mmの個別の剤形を形成した。
【0087】
実施例4 − オクトレオチド配合物
【0088】
【表6】
【0089】
1.オクトレオチド(80%)を賦形剤(20%) − その20%以内のマンニトールおよび1種類以上のさらなる任意選択的な賦形剤 − と共に乾燥させて、乾燥マトリックス(100%)を調製した;
2.乾燥マトリックス(90% w/w)をCMC(5% w/w)およびマンニトール(5% w/w)に添加し、バッグブレンドして、72%のペプチドを含む固体剤形ブレンド(100% w/w − 全配合物)を調製した。
【0090】
実施例5 − リラグルチド配合物
【0091】
【表7】
【0092】
1.リラグルチド(80%)を賦形剤(20%) − その20%以内のマンニトールおよび1種類以上のさらなる任意選択的な賦形剤 − と共に乾燥させて、乾燥マトリックス(100%)を調製した;
2.乾燥マトリックス(90% w/w)をCMC(5% w/w)およびマンニトール(5% w/w)に添加し、バッグブレンドして、60%のペプチドを含む固体剤形ブレンド(100% w/w − 全配合物)を調製した。
本発明の態様には以下のものがある。
5%(w/w)以下の含水率を有する注射用の固体剤形であって、
第1賦形剤および0.01〜50%(w/w)の療法用ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに
1種類以上の追加の賦形剤、および固体剤形の総重量を基準として少なくとも5%(w/w)のCMC
を含み、0.5mm〜2mmの幅を有する固体剤形。
態様2
5%(w/w)以下の含水率を有する注射用の固体剤形であって、
第1賦形剤および50%以上80%(w/w)までの療法有効ペプチドを含有する乾燥マトリックス;ならびに
1種類以上の追加の賦形剤、および固体剤形の総重量を基準として少なくとも5%(w/w)のCMC
を含み、0.5mm〜2mmの幅を有する固体剤形。
態様3
含水率が2%〜3%(w/w)である、態様1または2に記載の固体剤形。
態様4
第1賦形剤および/または少なくとも1種類以上の追加の賦形剤が増量剤である、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様5
増量剤がポリオールである、態様4に記載の固体剤形。
態様6
増量剤がマンニトールである、態様5に記載の固体剤形。
態様7
ペプチドがオクトレオチド、PTH 1−34、エキセナチドまたはリラグルチドである、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様8
剤形の幅が1mm以下、好ましくは0.85mmである、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様9
剤形の長さが2から6mmまで、好ましくは4mmである、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様10
剤形の圧縮強度が少なくとも80MPa、たとえば少なくとも100MPaである、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様11
固体剤形の総重量が5mg以下である、前記態様のいずれかに記載の固体剤形。
態様12
疾患または障害の治療または予防に使用するための、態様1〜11のいずれかに記載の固体剤形。
態様13
ペプチドがオクトレオチドであり、使用が腸腫瘍または転移性カルチノイド腫瘍または先端巨大症の治療または予防である、態様12に記載の固体剤形。
態様14
ペプチドがPTHまたはそのフラグメントであり、使用が孤立性骨嚢胞または副甲状腺機能低下症の治療または予防である、態様12に記載の固体剤形。
態様15
ペプチドがエキセナチドまたはリラグリチドであり、使用が2型糖尿病の治療または予防である、態様12に記載の固体剤形。
態様16
前記態様のいずれかに記載の固体剤形を含む、薬物送達デバイス、または薬物送達デバイスと共に使用するためのパッケージされた薬物。
態様17
疾患または障害を処置するための方法であって、必要とする対象に療法有効量の態様1〜13のいずれかに記載の固体剤形を投与することを含む方法。
態様18
態様1〜15のいずれかに記載の固体剤形を製造する方法であって、
療法用ペプチドおよび第1賦形剤を含む乾燥マトリックスを調製する;
CMCおよび1種類以上の追加の賦形剤を添加してブレンドを作成する;
ブレンドに水を添加してペーストにする;
ペーストを押し出して押出品を形成する;
押出品を乾燥させる;そして
押出品をカッティングして固体剤形を形成する
工程を含む方法。