(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6981992
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスの表面及び核内抗原を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/29 20060101AFI20211206BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20211206BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20211206BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20211206BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20211206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20211206BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20211206BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20211206BHJP
【FI】
A61K39/29
A61K39/39
A61P31/20
A61K31/7088
A61P37/04
A61P35/00
A61P1/16
A61K31/685
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-551333(P2018-551333)
(86)(22)【出願日】2017年3月14日
(65)【公表番号】特表2019-510064(P2019-510064A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】CU2017050001
(87)【国際公開番号】WO2017167317
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2020年3月12日
(31)【優先権主張番号】2016-0038
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】CU
(73)【特許権者】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アギラール ルビド、フリオ、セザール
(72)【発明者】
【氏名】ロバイナ マト、ヤディラ
(72)【発明者】
【氏名】イグレシアス ペレス、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ペントン アリアス、エデュアルド
(72)【発明者】
【氏名】ギレン ニエト、ゲラルド、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】アギアール サンティアーゴ、ホルヘ、アグスティン
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ブランコ、ソニア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルデス ヘルナンデス、ホルヘ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァスケス カスティーヨ、マリエラ
【審査官】
濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−529861(JP,A)
【文献】
Hepatol Int,2013年,Vol. 7,p. 981-989,DOI:10.1007/s12072-013-9486-4
【文献】
PLoS ONE,2013年,Vol. 8, No. 9,e75938,doi:10.1371/journal.pone.0075938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/29
A61K 39/39
A61P 31/20
A61K 31/7088
A61P 37/04
A61P 35/00
A61K 31/685
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下により特徴付けられる医薬組成物:
B型肝炎ウイルスのコア抗原(HBcAg)であって、該抗原のリボ核酸(RNA)の総量の45%を超える割合でメッセンジャーリボ核酸(mRNA)及びB型肝炎ウイルス(HBV)の表面抗原(HBsAg)を含み、
前記HBsAgはこの抗原のリン脂質の総量の5%を超える割合でホスファチジルセリンを含む。
【請求項2】
非経口経路及び粘膜経路による投与のための製剤により特徴付けられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ワクチンアジュバントをさらに含むことにより特徴付けられる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
B型肝炎ウイルスのコア抗原(HBcAg)であって、該抗原のリボ核酸(RNA)の総量の45%を超える割合でメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を含むもの、及びB型肝炎ウイルス(HBV)の表面抗原(HBsAg)の、B型肝炎ウイルス(HBV)による感染に対する免疫予防又は免疫治療において用いられる薬物の製造のための使用、
前記HBsAgはこの抗原の全リン脂質の5%を超える割合でホスファチジルセリンを含む。
【請求項5】
薬物が、非経口経路又は粘膜経路による投与のために製剤化されている、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
薬物が慢性B型肝炎(CHB)の患者、又は感染性ウイルスの1つがHBVである重感染を有する患者の治療において用いられる、請求項4に記載の使用。
【請求項7】
CHB患者の治療が、HBV感染に由来する肝細胞癌の予防において用いられる、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
免疫療法が細胞刺激を介して能動的形態又は受動的形態で行われる、請求項4に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬分野、特にワクチン学の枝、特に有効性の高いワクチン組成物の開発に関する。これらの組成物は、予期せず免疫原性を増加させたその化学組成に修飾を有するB型肝炎ウイルス(HBV)の抗原を含む。化学組成が修飾されたHBV抗原は、表面抗原(HBsAg)及びコア抗原(HBcAg)であった。
【0002】
世界保健機関(WHO)は、感染の血清学的マーカーの存在に基づいて、世界人口のほぼ半分がHBVによって感染していると考えている。成人の約5〜10%、HBVに感染した新生児の90%までが、慢性B型肝炎(CHB)を発症すると推定されている。現在、3億5000万人の人々が、持続感染又は慢性感染を有する。長期間のウイルスの持続的な複製は、肝硬変、肝細胞癌、又は腹水症、食道出血及び脾腫などの他の合併症の結果として、感染した集団の25%の試をもたらす肝臓炎症のプロセスを導く。近年、新生児及び子供の普遍的な予防接種、新しいHBV感染の発生率のその後の減少はにもかかわらず、CHBは、依然として世界規模で重大な健康問題である[Hilleman, M.R. Vaccine (2001年), 19, 1837−48]。
【0003】
αインターフェロン(IFN−α)、そのペグ化変異体(PegIFN)並びにテノフォビル、エンテカビル、ラミブジン、アデフォビル−ジピボキシル及びテルビブジンなどのヌクレオシド類似体による治療は、CHB治療の最先端である。一般的には、これらの薬物は、治療後のHBVの持続的な排除に関して劣った有効性を有し、それらの使用は、重要な有害事象(AE)に関連しており、これは、広く認識されている[Nash K. Adv Ther (2009年), 26:155−169; Yang N, Hepatol Int. 2015年9月12日 [Epub ahead of print] PubMed PMID: 26363922]。
【0004】
CHB治療における免疫療法戦略としての、ワクチン製剤の使用は、興味深いアプローチである。ウイルス持続性は、抗HBV細胞性免疫の発達における欠陥に関連している。1980年代の開始以来、ワクチン戦略は、CHB患者のT細胞の弱い応答を増加させ、増強することに集中した。これらの免疫療法戦略は、最初に、HBVに対すると特異的CD4+及びCD8+応答、並びにウイルス複製を制御するための前炎症性サイトカインを導入する目的で、市販の抗HBVワクチンを使用した。従って、ほとんど全ての市販予防ワクチンは、単独で、又は従来の抗ウイルス療法と一緒に試験された。治療ワクチン接種の以前の研究において、ワクチンは、他の抗ウイルス治療の有無に関わらず投与された。さらに、市販のワクチンを用いた免疫療法は、大量の接種スケジュールを提案し、代替の非経口経路も検討された。主な研究を以下に要約する。
【0005】
Genhevac B(登録商標)(Aventis Pasteur、フランス、−CHO哺乳細胞で産生)を使用するCHB患者におけるパイロットワクチン接種試験は、慢性キャリアの約50%でHBV複製の減少を示した[Pol Sら、C R Acad Sci III (1993年), 316:688−91]。別のプラセボ制御マルチセンター試験はまた、Genhevac B(登録商標)ワクチン、及びRecombivax(登録商標)(Merck Sharp Dohme−Chibret, フランス)酵母産生ワクチンを評価した。Genhevac(登録商標)及びRecombivax(登録商標)をそれぞれ接種した群の6ヶ月目に、有意差が認められた(3%、20%及び22%)。しかしながら、その差は、12ヶ月目に消失した[Pol S, J Hepatol (2001年); 34:917-21]。明確な利益は認められず、Genhevac B(登録商標)に見られるpre−S2抗原は、さらなる効果をもたないようであったと結論付けられた。治療用Genhevac(登録商標)ワクチンは、評価された他の研究[Yalcin K,らInfection (2003年), 31: 221−225; Dikici Bら J Gastroenterol Hepatol (2003年), 18(2): 218−22]は、その治療に関連するわずかな利益しか示さなかった。
【0006】
Hepagene(登録商標)(Medeva Ltd., UK)CHO産生ワクチンは、HBsAgの3つの変異体(L、S及びM)を含み、健康なボランティア及び非応答者におけるそれらの結果は、高レベルの免疫原性を示した[Page M,ら Intervirology (2001年), 44:88−97; Yap I, ら. Ann Acad Med Singapore (1996年), 25: 120−122; Zuckerman JN,ら BMJ (1997年), 314: 329; Jones CD, ら. Vaccine (1999年), 17(20-21): 2528-37]。これを考慮して、その治療可能性を評価するための研究が行われた。ワクチン20μgの8回投与量を、4回の接種の2サイクルで、それらの間に5ヶ月間隔で投与した[Carman WF,ら J Hepatol (2001年); 34:917-921]。スケジュールの最後に、スケジュールを完了した22人の患者のうち8人が、HBVの持続的クリアランスを有し、7人の患者がHBeAgを除去した。この制御されていない限定試験の後に、より多数の患者による制御試験が行われた。HBeAg陽性の103人の慢性患者とのこの第2回臨床試験において、ワクチンの4用量又はプラセボの4用量を1及び8ヶ月の間隔で投与し、その後全ての被験者に1ヶ月間隔で8回追加用量を与えた。治療終了時には、有意な臨床的利益は得られなかった[Medeva PLC. http://www.investegate.co.uk/article.aspx?id=200001171532169093D(2015年10月20日の相談)]。
【0007】
抗ウイルス免疫応答の発達を促進するために、治療は、治療ワクチンと従来の抗ウイルス療法とを組み合わせた。この戦略は、ウイルス複製の阻害の結果として、末梢血中の特定のT−HBV細胞の頻度を増加させるラミブジンの効果に関連する知見を考慮する[Bertoletti AらExpert Rev Gastroenterol Hepatol (2009年), 3(5): 561−9]。
【0008】
併用抗ウイルスワクチン戦略は、HBVのT細胞応答のより大きな反応性を支持すべきであるが、免疫系の活性化の結果として肝臓損傷をさけるべきであるので、より安全であると考えられることもできる。しかしながら、CHB患者のワクチンによる特異的免疫応答の活性化が、劇症肝炎を引き起こすことが示された証拠はない。
【0009】
2002年に発表された研究は、CHB患者において、ラミブジンとのEngerix B(登録商標)(GlaxoSmithKline)ワクチンの皮膚内投与(ID)を評価した。月1回、ラミブジンの毎日投与と組み合わせたEngerix B(登録商標)の6回投与を使用した。別のグループは、インターロイキン2(IL−2)の皮下(SC)毎日投与と一緒に同じ治療を受けた。治療終了後、第1群の9人の患者のうち7人と第2群の5人の患者のうち2人は、ウイルス量を検出可能なレベルまで減少させた。4人の応答者がウイルスを除去し、トランスアミナーゼを正常化した。別の臨床試験において、ミョウバン中にHBsAgを含有するワクチンを使用して、1年間ラミブジンの毎日投与して、ID経路による治療ワクチン接種の組み合わせを評価した[Horiike N, ら J Clin Virol (2005年), 32: 156-161]。これらの研究は、併用療法が効果的であり、CHB患者にはほとんど合併症がないことを示した。しかしながら、療法の場合において、ID経路が使用され、これはワクチンの免疫原性に有利であることができた。
【0010】
強力なアジュバントに処方された同じ表面抗原は、ラミブジンとの併用療法では効果的でなく、したがって、免疫経路の効果を無視すべきではなく、将来の予防接種の重要な要素であることを示唆している。
【0011】
ウイルス負荷抑制条件のためのワクチン候補の長い臨床評価期間を終了させる研究は、Vandepapeliereらの報告である[Vandepapeliere P, らVaccine (2007年) Dec 12; 25(51):8585−97]。これは、100μgのHBsAg中に油性アジュバントとともに、及び脂質モノホスホリルA及びサポニンQS21などの強力な免疫調節物質と共に筋肉内(IM)経路を介して注入されたHBsAgに基づくワクチン候補の臨床評価に関する研究であった。減少したバイアル負荷条件下で10回の投与は、抗ウイルス剤単独で処置した対照群と比較した場合、ウイルス学的応答に関して利点を示さなかった。
【0012】
宿主の免疫応答の特徴及び従来のワクチンの治療的使用に関する知識の量は、HBVの抗原に対するT細胞の強力で持続的な反応性の誘導に向けた戦略は、実現可能であり、CHB患者の満足のいく治療に対する希望を表すことを示唆する。
【0013】
ヌクレオカプシド抗原に対する免疫刺激の欠如はおそらく、HBsAgに基づく治療用ワクチンの失敗の主な免疫学的マーカーである。実際には、治療的ワクチン接種の目的は、急性B型肝炎の間に支配的であり、自己制御されるのと同じ自然免疫機構、又はセロコンバージョンを経るCHBにおいてトリガーとすることである。免疫療法がこれらの免疫応答を刺激しない場合、おそらくセロコンバージョンを誘導しないだろう。
【0014】
抗原選択及びワクチン接種戦略に関して、製剤の改善は、これらの困難を克服する方法であることができる。エンベロープのタンパク質の特性は、治療用ワクチンでその包含を正当化する。実際には、エンベロープのタンパク質は、細胞B及びTの多数のエピトープを含み[Penna A,ら J Virol (1992年), 66(2):1193-6; Nayersina R,ら. J Immunol (1993年), 150:4659-71]、抗体抗エンベロープは、遊離ウイルス粒子を循環から除去し、感受性細胞の再感染を防止することにより、ウイルス抑制において重要な役割を果たすと推定される。一方、高レベルのHBsAgは、CHB患者の血清中を循環し;この事実は、T細胞の枯渇及び抗HBs抗体の産生の抑制により、免疫寛容の主な役割を果たすことができる[Nagaraju K,ら J Viral Hepat (1997年), 4:221-30]。
【0015】
この意味で、HBcAgは、CHBの治療用ワクチンに含まれるべき主要な抗原候補であることが示唆されている。急性自己解離性肝炎中に、T細胞のエピトープ応答は強く支持され、自発性又は治療誘発性のCHBにおけるセロコンバージョンの間に優勢である[Ferrari C, ら. J Clin Invest (1991年), 88:214-22; Marinos G,ら Hepatology (1995年), 22:1040-9; Tsai SL, ら Clin Invest (1992年), 89:87-96]。
【0016】
現在までに、抗B型肝炎の市販ワクチンは、現在の治療と競合するのに十分な臨床結果を示しておらず、医療現場での導入を単に支持するものでもありません。しかしながら、これらのワクチンは、抗B型肝炎免疫療法の環境だけでなく、他の疾患治療分野においても、収縮性か否か、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)及び癌の感染など他の慢性疾患の環境においても、治療分野で大きな期待を寄せている。したがって、この戦略は、新しいワクチン概念の臨床評価と全ての関連要因の最適化が必要である。この意味で、HBsAgに加えてHBcAgを含む治療用ワクチン候補は、これらの免疫療法戦略の開発の結果である。
【0017】
遺伝子工学とバイオテクノロジーセンター(CIGB)は、宿主酵母であるピキア・パトリス(Pichia pastoris)で得られた組換えタンパク質としてHBsAgを産生する。この抗原は、1990年代の初めから予防ワクチンHeberbiovac HB(登録商標)に含まれている[Muzio V, ら. Biotecnologia Aplicada (2001年) 18; 103−104; ul−Haq N,ら. Vaccine (2003年) 21:3179−85]。
【0018】
さらに、CIGBは、B型肝炎に対する免疫応答が延長された製剤を開発し、この製剤は、主成分としてHBsAg及びHBcAgを含み;抗原は、全身及び粘膜応答を生成する粘膜経路を介して投与される[欧州特許第1136077号]。この同じセンターの別の特許文献において、粒子を形成する凝集した抗原性構造の生成が記載されている。この文書は、凝集、脱脂又は酸化、並びに30〜500nmの粒子の選択、及びこれらの凝集体の処方は、好都合には、アジュバントが添加されて、得られた抗原製剤の免疫原性を支持することを明らかにしている[欧州特許第EP1346727号]。両方の特許文書に記載された戦略を組み合わせることで、CIGBは、NASVACと呼ばれる治療用ワクチン候補を開発し[Lobaina Y, ら. Mol Immunol (2015年), 63:320-327]、これは、免疫化経路の組み合わせによって投与される。ワクチン製剤の臨床結果は、非常に魅力的であり;しかしながら、より強力な免疫原を使用することにより、製品の有効性を高めるべきである。
【0019】
HBsAg及びHBcAgなどの主要なHBV抗原を含むワクチン戦略は、特定の抗ウイルス効果を有する製剤を製造している。しかしながら、その持続性の抗ウイルス応答を有する患者の数、並びに抗HBsAgに対するHBsAgのセロコンバージョンに達する患者の数を増加させるためにその改善が必要である。
【0020】
本発明は、1)HBcAg抗原のリボ核酸(RNA)の総量の45%を超える割合でメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を含むHBcAg抗原及び2)HBVのHBsAg抗原によって特徴付けられる医薬組成物を提供することによって上記問題を解決することを助ける。本発明の実現において、医薬組成物は、この抗原を形成する総脂質の5%を超える割合でホスファチジルセリンを含むHBsAgを含む。
【0021】
この特定の様式で化学的構成が修飾されたHBsAg及びHBcAg抗原の包含は、免疫療法のためのこの組成物の免疫学的及び抗ウイルス的性質を支持する。しかしながら、上記修飾は、本発明のHBsAg及びHBcAg抗原のタンパク質組成に影響を及ぼさない。それらの一次、二次及び三次構造は、それらの未修飾変異体と比較して同一であるからである。それにもかかわらず、これらの修飾は、これらの抗原の予想外の特性をもたらし、より強力な免疫原をもたらす。また、これらの修飾された抗原の組み合わせは、CHB治療のためにより高い治療的抗ウイルス効果を有する製剤をもたらす。
【0022】
本発明において、HBcAgは、45%を超えるレベルのmRNAを用いて得られた。特定の場合において、この修飾された抗原は、その発酵プロセスのパラメーターの変化の組み合わせのために得られた。この場合において、科学的に規定された培地の使用及び比増殖の低い速度は、その中に存在するRNAの残りと比較して、mRNAの割合が増加したHBcAgの変異体に帰着した。
【0023】
大腸菌(Escherichia coli)で得られたHBcAgの高い免疫原性は、(183アミノ酸の)完全な粒子状抗原の免疫原性における核酸の組成の関与と同様に記載されているが、本発明までは、各RNA変異体は、HBcAgの最終免疫原性に対する特異的な寄与に関して未知であった。45%を超えるmRNAレベルを有するHBcAgが未修飾HBcAgと比較してより免疫原性であり、より強いTh1応答を達成させることが見出されたことは驚くべきことであった。
【0024】
検出されたmRNAの割合の変化は、タンパク質含有量に関連して、粒子中に存在する全RNAの含量に影響しなかった。予想外に、全RNA内の45%を超えるmRNAを含むHBcAgは、そのmRNA含量の修飾なしに得られたHBcAgと比較してより高い免疫原性を有することが見出された。免疫原性のこの増加は、Th1サイトカインの有意な増加、及びCHBトランスジェニックマウス及び患者の免疫化後の循環HBsAgの排除能力の向上を含んでいた。
【0025】
一方、本発明において、本発明者らは、このリポタンパク質抗原中に存在するリン脂質の5%を超えるレベルでホスファチジルセリンを含有するHBsAgを評価した。特に、リン脂質の総量の5%を超えるホスファチジルセリンの割合の増加は、発酵培地中のカルシウム及びマグネシウム濃度の増加、低い比増殖速度及び低いpHなどのパラメーターの変動に関連して立証された。しかしながら、本発明は、これらの条件下で得られたHBsAgに限定されなかった。5%を超えるホスファチジルセリンの割合の増加は、このリン脂質のより低い含有量を有するHBsAgと比較して、得られた抗原の免疫原性の増加と相関していた。Th1サイトカインの有意な増加が見出され、並びにHBsAgトランスジェニックマウス及び5%を超えるホスファチジルセリンを含むHBsAgを有するCHB患者の免疫化後の循環HBsAg除去能力が、リン脂質の全%に対してより多く認められた。
【0026】
本発明において、特に修飾されたHBsAg及びHBcAg抗原は、未修飾抗原が使用された製剤と比較して、免疫及び抗ウイルス応答のより高い強度に基づいて選択されている。さらに、両方の抗原を含む製剤は、別々に投与された抗原と比較すると、より多数の個体においてHBsAgの抗HBsAgへのセロコンバージョンを生成することができ、本発明の組成物の一部を形成する抗原において検出された修飾の重要性及び機能性、並びに各抗原と比較して、組み合わされた製剤の優位性を立証した。
【0027】
本発明は、免疫応答抗HBsAg及び抗HBcAgを増強させることを可能にする新規な製剤の必要性に関する当該技術水準の一般的な問題に対する新しい解決法を示し、HBVによる慢性感染症の制御のためのより効果的な治療を達成する。本発明の問題は、記載された抗原の新しい特性の同定の結果であるため、知識のある人による現状から明らかであり、又は由来すると考えられない。これらの修飾された抗原は、それらのタンパク質組成を損なわれないまま維持するが、それらに関連する分子の化学組成に関して異なる。
【0028】
本発明の効果のために、修飾されたHBcAgは、その抗原の全RNAの45%を超える割合でmRNAを含むHBcAgからの調製物である。同時に、修飾されたHBsAgは、この抗原のリン脂質の総量の5%を超える割合でホスファチジルセリンを含むHBsAgの調製物である。
【0029】
本発明の実現において、この抗原及びHBVのHBsAg抗原の全RNAの45%を超える割合のmRNAを有するHBcAg抗原を有する組成物は、それらが非経口及び粘膜経路による投与のために製剤化されるため、特徴的である。粘膜経路、特に鼻腔経路により本発明の組成物を投与するために、その経路を通じた医薬製剤の投与のために開発され又は市販されている装置を使用し得る。
【0030】
特定の実現において、この組成物は、ワクチンアジュバントを有することによってさらに特徴付けられる。本発明の組成中に存在するワクチンアジュバント内には、例えば、アルミニウム塩、ヒト使用のために開発された油中水のエマルジョン、免疫系の刺激剤などの本技術分野に精通した者によって周知であることを見出した。
【0031】
さらに、本発明は、この抗原及びHBsAg抗原の全RNAの45%を超える割合でmRNAを含むHBcAg抗原及びHBV感染に対する免疫予防又は免疫療法のための薬物を製造するためのHBsAg抗原の使用を提供する。本発明の実現において、この薬物の一部を形成するHBsAgは、この抗原の全リン脂質の5%を超える割合でホスファチジルセリンを有する。特定の実現において、この薬物は、非経口経路及び粘膜経路による投与のために処方される。好ましい実現において、この抗原の全RNAの45%を超える割合のmRNA及びHBsAg抗原を有するHBcAgを有する薬物は、CHB患者又は共感染症の患者の治療に使用され、感染するウイルスの1つは、HBVである。さらに、この薬物でCHB患者を治療する場合、使用は、HBV感染に由来する肝細胞癌の予防につながる。
【0032】
この抗原及びHBsAg抗原の全RNAの45%を超える割合のmRNAを有するHBcAgを有する薬物が、免疫療法によりCHB患者の治療で使用される場合、これは、能動的に行うことができるか(この薬物での患者の免疫化による)又は受動的な形態で細胞刺激によって投与されることができる。その成分のために、本発明の医薬製剤は、自己又は異種細胞の刺激で使用されることができる。したがって、本発明は、樹状細胞、B細胞及びマクロファーアジを含む自己又は異種細胞のインビボ又はインビトロでの最大刺激に基づいて、この製剤を用いた細胞刺激方法及びCHB患者の後の受動免疫をもたらす。
【0033】
さらに、本発明は、この抗原及びHBVのHBsAgの総RNAの45%を超える割合でmRNAを有するHBcAg抗原を含む医薬組成物の有効量を必要とする個体に投与することを特徴とする、HBV感染に対する免疫予防法又は免疫療法を明らかにする。本発明の実現において、HBsAgは、この抗原のリン脂質の総量の5%を超える割合でホスファチジルセリンを含む。本発明の材料化において、この医薬組成物は、非経口経路及び粘膜経路によって投与される。好ましい実現において、免疫療法を受ける個体は、CHB患者である。この場合において、CHB患者の免疫療法のための本発明の適用は、HBV感染に由来する肝細胞癌の予防をもたらす。
【0034】
本発明の目的はまた、この抗原及びHBsAg抗原の総RNAの45%を超える割合でmRNAを有するHBcAg抗原を使用してこれらの抗原の混合物を併用投与するさらなる抗原に対して免疫応答を増加させることである。本発明の実現において、抗原混合物の一部を形成するHBsAgは、この抗原のリン脂質の総量の5%を超える割合でホスファチジルセリンを有する。
【0035】
上記で言及した抗原の混合物は、(治療のシナリオにおいて)CHBに対する免疫応答の増強に、又はワクチンが多価である予防的ワクチン接種のための戦略下で使用されることができる。これは、特定の形態で修飾されたHBsAg及びHBcAg抗原の免疫原性の増加に加えて、それらが異種抗原の強力な免疫原性効果を誘導することができることを実証することが可能であったためである。実験評価の結果は、多価製剤中に見出されるこれらの抗原が、予防的又は治療的使用に有用であることができることを実証する。
【0036】
本発明の製剤に関して、アジュバント、安定化剤又は他の添加剤の使用を避けることができるが、これは、製剤の免疫原性又は得られた最終製剤の免疫原性を低下させない添加剤、賦形剤、希釈剤の導入、又は投与された製剤の抗ウイルス効果を制限しない。
【0037】
本発明の医薬組成物及び本発明の免疫防御又は免疫療法では、持続的抗ウイルス応答が達成され、HBsAgの抗HBsAgへのセロコンバージョンに達する患者の数が、この技術分野で公知の組成物及び方法と比較して、増加する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】2回投与後のIgG抗HBcAg抗体の応答。
【
図3】CR3(HIV−1)特異的CD8+T細胞の増殖応答。
【実施例】
【0039】
実現のモードの詳細な説明/実現の例
例1 異なる比率のRNA変異体を有するHBcAgタンパク質の取得
HBcAgは、この抗原をコードする遺伝子を有するプラスミドで遺伝的に形質転換された大腸菌(E. coli)株から得られた[Aguilar JC,ら Immunol Cell Biol (2004年) 82:539-46]。
【0040】
異なる期間中に行われた発酵プロセスからHBcAgの粒子を特徴付けると、より長い発酵期間で製造されたHBcAgの調製物中に組み込まれたmRNAの割合が増加することがあることが見出された。20時間の発酵後、抗原中のmRNAのレベルは、表1に示すように、14時間までのプロセスで得られたHBcAgと比較して、20%以上に増加した。全RNAのレベル、又はRNA含量/タンパク質含量の比に有意差は見られなかったので、粒子中のRNA総量に有意な変化は検出されなかった。しかしながら、他の変異体、具体的には、mRNAの増加に伴ってその存在の減少を示したリボソームRNA(rRNA)と比較した場合、mRNAレベルの有意な増加があった。HBcAgに関連するマイナー成分又は特定の汚染物質には、質量分析やその他の化学的及び物理的試験による試験を実施する際に、他の関連する変化はみられなかった。
【表1】
【0041】
結果は、5つの測定値の平均値を表す。「変異体」と題される欄には、発酵の持続時間を括弧内に示す。tRNA:トランスファーRNA、rRNA:リボソームRNA及びmRNA:メッセンジャーRNA。(
*):有意差(p<0.05)。
【0042】
異なる割合のmRNAを組み込んだHBcAgの変異体の免疫原性のBalb/cマウスにおける評価
粒子内に組み込まれたmRNAの異なるパーセンテージ(表1)のHBcAgの異なる変異体を得た後、これらの調整物の免疫学的評価をBalb/cマウスで行った。この研究のために、本発明者らは、0日目と15日目に2回の免疫化をSC経路を通して、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の1μgのHBcAgの用量を用いて、8〜12週齢の雌マウスを使用し、100μLの最終容積を投与した。スケジュールの詳細な説明を表2に示す。
【表2】
【0043】
2回目の投与後の10日目に、免疫により生じた特異的抗原応答の評価のための血液抽出を行った。抗体抗HBcAg応答の測定は、ELISA技術を使用して行った。
【0044】
図1に見られるように、各試験群で得られたIgG抗体価の抗HBcAgを示すと、生成されたIgG抗HBcAg応答は、45%を超える組み込まれたmRNAを有するHBcAgを受けた群について有意により高かった(表2の3〜6群)。群3、4、5及び6の中で、有意差は検出されなかったが、組み込まれたmRNAの割合の増加に関連するIgG応答の増加に対してわずかな傾向がある。その結果は、組み込まれた全RNAに関して45%を超えるレベルでHBcAg粒子内に組み込まれたmRNAの割合の増加が、このタンパク質に対するより大きな体液性免疫原性を付与することを示す。IgGサブクラスのパターン予備分析は、細胞型免疫応答のレベルで同様の性能を示唆する。
【0045】
例2 異なる割合のホスファチジルセリンを有するHBsAgのウイルス様粒子(VLP)の取得
組換えHBsAgは、この抗原をコードする遺伝子を使用して、遺伝的に形質転換されたP. pastorisの株から得られた[欧州特許第EP480525号]。この酵母種で発現されるHBsAgは、その構造脂質内にホスファチジルセリンを含むことが知られている[Lobaina Y,ら Biotecnologia Aplicada (2008年), 25:325-331]。しかしながら、本発明までは、この抗原の免疫原性におけるこの脂質の存在の影響は、研究されていなかった。
【0046】
ホスファチジルセリンの割合がHBsAgの免疫原性にどのように影響するかを研究するために、本発明者らは、異なる発酵条件下でこのVLPの調製物を得た。組換え酵母発酵槽中での培養中に、本発明者らは、培地中のMg
(2+)の濃度を1.0〜2.0%に増加させ、HBsAgのVLPに関連するこのリン脂質の増加をもたらした。これは、異なる増殖条件下で得られたHBsAgの特徴付けの間に薄層クロマトグラフィー使用することによって検出した。
【0047】
ホスファチジルセリンは、既知の脂質性のHBsAgのVLPに結合している。表3に示す結果は、5つの異なる繰り返しの平均値を表す。精製は、異なる実験条件下で生成されたHBsAgの全ての調製物について同様であった。表に見られるように、1.2%未満のMg
(2+)濃度を含む培地で発酵を行った場合、得られた試料中にホスファチジルセリンが検出されなかった。2.0%のMg
(2+)を含む培地で得られた調製物中に見られるホスファチジルセリンのレベルは、1.4%のMg
(2+)を含む培地(変異体C)で得られた調製物に見られるものよりも有意に高かった。
【表3】
【0048】
ND:検出なし、Mg
(2+)(%):培地の生理食塩水添加物中で見られるMgイオンの濃度(百分率)。FS(%):生成されたHBsAgの抽出後に決定された全リン脂質中のホスファチジルセリンの百分率。(
*):有意差(p<0.05)、(
**)高い有意差(p<0.01)。
【0049】
表3に示すHBsAgの調製物は、元の変異体に匹敵する、それらの一次、二次及び三次構造を研究するためになされた特性に従って、それらのタンパク質組成物において同一であった。脂質濃度/たんぱく質濃度比は、研究でいずれの変異体についても変化しなかったことを指摘することが重要である。総リン脂質対全タンパク質含量の割合で同じ知見が得られた。質量分析法を用いたそれらの組成物の分析の結果として、HBsAg又は他の微量な化合物の不純物の分析中の他の重要な変化は起こらなかった。
【0050】
例3 ホスファチジルセリンの異なる割合を示すHBsAg調製物の免疫学的評価
ホスファチジルセリンの存在が、HBsAgに対する免疫応答に影響を及ぼすかどうかを評価する目的で、血清中にHBsAgを発現するトランスジェニックマウスで免疫原性試験を行った[Castro FO, ら Interferon y Biotecnologia (1989年) 6:251-257; Perez A,ら. Acta Biotechnol (1993年) 13: 373−383]。6匹のマウスからなる7つの群をそれぞれ使用した。これらは、鼻腔内経路(IN)で免疫された8〜12週齢の雌マウスであった。研究の最初の6つのグループは、フロイントアジュバントと共に表3に記載されたHBsAgの異なる変異体の5μgをそれぞれ受けた。第7群は、対照群として使用され、PBS 1Xを受けた。全ての処置群は、14日間ごとに投与された免疫原を10回投与した。最初の免疫化前及び各投与の10日後に、3回目の投与として血液抽出を行った。表4において、トランスジェニックマウスの血液中のHBsAgのレベル、並びに10回投与後に単離された、脾細胞培養の上清に誘導されたサイトカイン(IFNγ(IFN−γ)、腫瘍壊死因子(TNF−γ)及びIL−2のレベルを示す。評価は、ELISA技術を用いて行った。
【0051】
5μgのHBsAgの投与後、10回の連続した免疫化のIN経路により、このHBsAg中のホスファチジルセリンのレベルが5%以上である場合、HBsAgのトランスジェニックマウスの血液中のHBsAgの濃度は、有意に低下した(例2、表3における変異体D、E及びF)。同様に、5%以上のホスファチジルセリンのHBsAgの変異体は、低レベルの変異体(変異体C)又はホスファチジルセリンが検出されない変異体と比較して、有意に優れたレベルのIFN−γ、TNF−α及びIL−2を誘導し、用量依存的な効果を示唆する。これは、表4で見出される。
【0052】
ホスファチジルセリンを含まないHBsAgと比較した場合、Th1サイトカインの有意な増加があり、5%を超えるホスファチジルセリンのレベルを含むHBsAgの変異体を有するトランスフェニックHBsAgマウスの免疫化後に、循環HBsAgの高い除去能力が見出された(表4、変異体D〜F)。変異体D〜Fについて見出されたサイトカインレベルは、条件A〜Cのものよりも有意に高かった。D〜F変異体は、免疫化されたトランスジェニック動物におけるインビトロでの脾細胞の刺激後のサイトカインの最も強力な分泌を誘導した。
【表4】
【0053】
A〜F:HBsAgの変異体は、表3に示されるように、組成物中に増殖するレベルのホスファチジルセリンを伴って産生された。(
*):有意差(p<0.05)、
**高い有意差(p<0.01)。
【0054】
見出されたように、ホスファチジルセリンのより高い含有量を有するHBsAgの変異体を用いてHBsAgにトランスジェニックしたマウスの免疫化によって、Th1サイトカインの優位な増加及び循環HBsAgのより大きい除去能力があり、それにより、この抗原によって形成されたVLPに会合した脂質中のこの脂質成分の割合の増加に伴う抗原の免疫原性の増加を立証した。
【0055】
HBsAgの粒子でのホスファチジルセリンの挿入は、従来、技術水準で報告されている。しかしながら、この成分の割合がこれらの粒子の免疫原性に影響する方法は、研究されていなかった。2008年には、Lobainaらは、P. pastorisにおいて産生されたより高いHBsAgにおけるホスファチジルセリンの役割を推測しており[Lobaina Yら. Biotecnologia Aplicada (2008年), 25:325-331]、この同じ報告において、同じ宿主で産生されたHBsAgに基づく2つのワクチンは、免疫原性の点で異なるが、ホスファチジルセリンのレベルは、それを産生する酵母種により、おそらく同じであった。
【0056】
例4 カプセル化されたmRNAのより高い割合を有するHBcAgの変異体のCHB患者の免疫原性の増加の実証
例1において、カプセル化されたRNAの全量内でmRNAの割合の増加に伴って、HBcAgの免疫原性の増加があったことがマウスで証明された。これらの結果を考慮して、HBcAg及びHBsAgの両方を含む製剤の免疫学的挙動及び抗ウイルスインビボ応答を、それらのmRNA及びホスファチジルセリンの修飾によって、それぞれ特徴付けた。
【0057】
このために、慢性B型肝炎患者において、第II相無作為二重盲検臨床試験を実施した。選択された患者は、10000コピー/mLを超える高ウイルス負荷を有し、HBeAgは、研究の開始時に陽性であった。患者はそれぞれ15人の患者の6つの群に分けられ、表5に記載される治療が施された。合計10回の投与量を与えられ、5用量の2サイクルに分けられ、その間に1ヶ月間隔を置いた。最初の5用量は、IN経路のみで行い、他の5用量は、IN/SCで同時に投与した。両方の投与サイクルにおいて、用量は、14日間隔で与えられた。
【表5】
【0058】
mHBcAg:この抗原の全RNAの50%の割合でmRNAを含むHBcAg;mHBsAg:VLPの脂質成分内に7%のホスファチジルセリンを含むHBsAg。
【0059】
驚くべきことに、両方の修飾された抗原(すなわち5%を超えるホスファチジルセリンのレベルを有するHBsAgを含んだ製剤、及び45%を超えるmRNAを有するHBcAg)を含む製剤で処置した患者群において、HBeAg及びHBsAgへのセロコンバージョンの有意により高いレベルが、これらの特性を持たない製剤で処置した患者群と比較した場合、見出された(表6参照)。これは、患者において生成された抗ウイルス応答の質の増加におけるこれらの修飾の関連性を示す。
【0060】
ヒトにおいて、抗原は、1用量当たり50μgの抗原、最大1用量当たり1000μgまでの抗原で、HBsAg及びHBeAgへのセロコンバージョン、ウイルス学的対照及び治療終了後1年以上経過した1mL当たりのHBVのDNAの10000コピー下での持続したウイルス学的応答により評価された。
【表6】
【0061】
同様の結果が、HBsAgにトランスジェニックされたマウスのモデルでも見出され、ここで、表5に記載されたものと同様である治療群を評価することが行われ、循環HBsAgのより大きな減少、並びにより高い抗HBsAg抗体価が、より早い出現を有して、上記の修飾を有する抗原に含まれる製剤を投与する群について、得られた。
【0062】
興味深いことに、修飾されたHBcAg及びHBsAgの変異体を含む製剤は、未修飾抗原を含む製剤、又はこれらの修飾された抗原の1つのみを含む製剤で得られた応答と比較して、HBVトランスジェニックマウス及び患者においてより強力なTh1免疫原性を発達させた。
【0063】
例5 多価製剤におけるmRNA及びホスファチジルセリン含有量のそれぞれにおいて修飾を有するHBcAg及びHBsAg抗原のアジュバント効果
この研究において、アジュバントの能力、すなわち、それぞれ、それらのmRNA及びホスファチジルセリン含量の修飾を有する組換えHBcAg及びHBcAgタンパク質の混合中で、経口経路及び粘膜経路を介して、未修飾HBcAg及びHBsAgの混合物を用いて同時に投与される抗原に対する免疫応答の増加を比較した。この目的のために、組換えキメラタンパク質CR3が選択された;これは、HIV−1の多重エピトープ抗原である[Iglesias E ら J Biochem Mol Biol & Biophys (2001年) 1:109-122]。6〜8週齢の8匹の雌Balb/c(H−2
d)マウスの8グループに、1)SC免疫化によるPBS(プラセボ)(これまでプラセボ)と称している)(SC);2)IN免疫化による酢酸塩緩衝液(NaAc)、pH=5.2(プラセボ(IN));3)SC経路によるHBcAg(C)及びHBsAg(S)の混合物(C+S(SC));4)この抗原及びSC経路による脂質成分(mS)中に7%のホスファチジルセリンを含むHBsAg(mS)の全RNAの50%の割合でmRNAを含むHBcAgの混合物(mC+mS(SC));5)IN経路によるC+S(C+S(IN));6)IN経路によるmC+mS(mC+mS(IN));7)SC経路によるHBcAg(C)及びHBsAg(S)を有するCR3の混合物(CR3+C+S(SC));8)CR3+mC+mS(SC):9)CR3+C+S(IN)及び10)CR3+mC+mSを接種した。使用された用量は、各経路によって各抗原の5μgであった;免疫化スケジュールの0、7及び21日目に免疫原を投与した。SC免疫化のため、タンパク質をPBS中に溶解し、1.4mg/mLの水酸化アルミニウム(Superfos Biosector A/S, Vedbaek, Denmark)に吸着させた。IN経路について、タンパク質をNaAc、pH5.2に溶解した。動物を、仰臥位に位置する30μLのケタミン(10mg/mL)の腹腔内(IP)投与によって麻酔し、免疫原をピペットチップで50μL(25μL/鼻孔)にゆっくりと分注した。免疫化の10日後、全ての動物の血清を集め、研究の最後に5匹の動物を犠牲にして(無作為に)、細胞性免疫応答の研究のために脾臓を得た。
【0064】
血清中のIgGの応答を、プレートをCR3タンパク質でコーティングした間接ELISAによって評価した。CR3で刺激された培養上清中IFN−γの分泌の定量のための方法論は、以前より知られている[Garcia Diaz DらImmunol Lett (2013年) 149:77-84]。
【0065】
ガウス分布は、Kolmogorov-Smirnov検定及びBartlett検定との分散の等価性を用いてデータの統計的分析を評価した。正規分布を有するサンプル(又はガウス分布が推定されるサンプル)及び等分散がパラメトリック検定と比較された;それ以外の場合は、代替ノンパラメトリック検定を使用した。値の正期分布を達成するために、IgGの全ての力価を、log10に変換した。セロコンバージョンに達しなかった動物の血清は、統計的処理のために1:10の任意の力価が割り当てられた。p<0・05の値は、統計的に有意であると考えられた。
【0066】
図2で見出されたIgG抗CR3抗体測定(HIV−1)の結果は、それぞれCR3+mC+mS(第8及び10群)対CR3+C+S(第7及び9群)の混合物で免疫化された動物の群におけるSC及びIN経路による投与後、より高い応答(p<0.05)を示した。以前の結果と一致して、IFN−γのより大きな分泌も、表7で見出されるような同じ群のマウスから培養上清中に見出された。最後の免疫付与後(31日目)の10日に、この分析のために、1群当たり5匹のマウスから脾細胞を培養した。個々の動物の脾細胞懸濁液をプラセボ群のために調製した。それらを2.5μg/mLのCR3タンパク質でエキソビボで5日間刺激した。上清中で、CR3特異的IFN−γをサンドイッチ型ELISAで定量した。検出限界は、0.80ng/mLであった。
【表7-1】
【表7-2】
【0067】
最後に、SC経路によって免疫化した群において、エキソビボ刺激後に、CR3(HIV−1)に特異的であるCD8+細胞の頻度を比較した。
図3で見出されるように、CR3+mC+mS(SC)対CR3+C+S(SC)の刺激群においてCD8+細胞のより高い頻度が得られた。
【0068】
これらの結果は、全体として、45%を超えるmRNAを有するHBcAg(mC)及び5%を超えるホスファチジルセリンのレベルを有するHBsAg(mS)の混合物は、非経口及び粘膜経路により、より高いTh1アジュバント効果を有することを示す。特に、HIVに対するワクチンの接種の場合、この結果は、抗ウイルスTh1応答が、AIDSへの感染及び進行に対する防御に関連しているため、非常に重要である。
【0069】
HBsAg及びHBcAg抗原(この例ではC及びSと略する)に対する体液性免疫応答を測定するこの実験の目的ではなかったが、本発明者らは、未修飾HBsAg及びHBcAgの混合物(C+S、データは占めさす)と比較した場合、修飾HBsAg及びHBcAg抗原(mC+mS)の混合物で免疫化されたマウスの群において、より高く統計的に有意であったIgG抗HBcAg及び抗HBsAgの応答を観察した。これは、上記の結果を確認した。
【0070】
例6 HBsAgを発現するトランスジェニックBalb/cマウスに、それぞれmRNA含量及びホスファチジルセリンの修飾を有するHBcAg及びHBsAgの製剤で免疫化したBalb/cマウスからの細胞の養子免疫伝達による受動免疫
本発明において、本発明者らは、ホスファチジルセリン及びmRNAのそれぞれの含量において修飾を含む、HBsAg及びHBcAgの抗原を含む製剤を用いた個体の能動免疫化により、ドナーにおける免疫応答抗HBsAg及び抗HBcAgを増強することを望み、また、移入されるべき細胞は、移入前にインビトロで活性化されるので、これらの抗体に対する応答は、細胞が受容体に接種された場合に最大となる。したがって、人には存在しない応答のタイプが、人工的に得られ、HBVに感染したか否かにかかわらず、類似のハロタイプを有する人へのドナーのマージンを増やすことが可能になる。
【0071】
現在の例において、本発明者らは、細胞の養子免疫伝達により、それぞれホスファチジルセリン及びmRNAの含有量を有するHBsAg及びHBcAg抗原からなる製剤によるワクチン接種によって生成された免疫応答の効果を評価し、これは、HBVの持続性感染のモデルであるHBsAgを発現するトランスジェニックマウスとの関連で、IN/非経口経路により適用される。この研究の目的の1つは、トランスジェニックマウスの血清中のHBsAg(抗遺伝子)の濃度に対する転移免疫応答の効果の評価であった。さらに、本発明者らは、インビボ及びインビトロでHBsAgのみで刺激された細胞の移動によって発生した効果と比較して、HBsAg及びHBcAg抗原の製剤の投与についてIN/非経口投与経路の組み合わせによって誘導される応答の効果を比較した。さらに、この抗原のためのトランスジェニックマウスの文脈で移入され抗体応答抗HBsAgの動力学を研究した。本発明者らは、Balb/cマウス及びHBsAg(+)トランスジェニックであるマウス(CIGBで得られたBalb/cの遺伝的背景を有する)を使用した。
【0072】
Balb/cマウスにおける免疫抗HBsAgの生成
8〜12週齢のBalb/c雌マウスで免疫スケジュールを実施した。IN及び非経口経路により、修飾抗原HBsAg(ホスファチジルセリンの含量の5%以上)及びHBcAg(mRNAの含量の45%以上)を含むワクチン調製物で免疫した。非経口経路内では、本発明者らは、IM、SC及びID経路を試験した。用量(100μLの容量)を、0日目及び14日目に投与し、ブースターショットを移入前の100日目で投与した。血液抽出は、2日目、10日目及び25日目に眼窩後叢で行った。表8は、各群によって受けた治療を含む、免疫スケジュールの設計を示す。
【表8】
【0073】
mHBcAg:この抗原の全RNAの50%の割合でmRNAを含むHBcAg;mHBsAg:VLPの脂質成分中に7%のホスファチジルセリンを含むHBsAg。
【0074】
これらの処置によって生成された免疫体液性応答の評価は、各接種後、IgG応答及びIgG抗HBsAgのサブクラスをELISA技術を使用して測定することによって行った。細胞性免疫応答を評価するために、最初の投与の10日後に、本発明者らは、脾臓由来のCD8+リンパ球によるHBsAgに対する特異的IFN−γの分泌を測定するELISPOT型試験を行った。これらの評価の結果は、第5群が最大の細胞応答及び調査された群の残りのものと異なる体液性応答を生成することを示す。これに基づいて、本発明者らは、養子免疫伝達のための脾細胞ドナーとしてこの群から2匹の動物を選択した。免疫原の選択は、1:1(HBsAg:HBcAg)の割合で実施した。
【0075】
免疫脾細胞の取得
ブースターショットを受けてから15日後、第5群の2匹のマウス及び第7群(プラセボ)の3匹のマウスを屠殺し、それらの脾臓を抽出した。第5群の脾臓及び第7群の脾臓をそれぞれ、グループ分けした。脾臓は、脾細胞が得られるまで処理された。それらは、受容体マウスへの移転のために100μLのPBS1Xの30×10
6細胞のアリコートに分離した。
【0076】
免疫の養子免疫伝達
受容体として使用されたHBsAgを発現するトランスジェニックマウスは、16〜20週齢及び両性のものであった。それらは、表9に示すように異なる治療群に割り当てられた。脾細胞の移動の前に、血清中のHBsAgのレベルをチェックするために、部分的な血液抽出を行った。その後、本発明者らは、100μLのPBS 1Xの容積中に30×10
6の脾細胞を(IP経路により)接種した。免疫の養子免疫伝達の効果を評価するための血液抽出物を、眼窩後叢を介して毎週5週間行った。移入後8週目に、動物から採血し、犠牲にした。
【表9】
【0077】
HBsAgにトランスジェニックなマウスの血清中のHBsAgの定量
血清中のHBsAgのレベルをELISAによって決定した。プレートを、Hep4(CIGBによって製造された)と呼ばれるモノクローナル抗体抗HBsAgでコーティングした。HBsAgに対する以前の免疫性を有する細胞を受けた全てのマウスは、移入後、週の評価から、血清中のHBsAgの顕著な減少を示し、時間0と第2及び第3週の間に有意差があった(p<0.05)。第4週(35日目)現在、本発明者らは、血清中のHBsAgの濃度が上昇し始めたことを観察し、したがって転移免疫による抗遺伝子血症(anti−genemia)の抑制が減少していることを示唆している。この時点で、そして第8週(63日目)まで、試験時間ゼロについて報告されたものと抗遺伝子血症の差はない。
【0078】
HBsAgに対する特異的免疫を有する脾細胞移入を受けたマウスの場合、本発明者らは、血清中のHBsAgの顕著な減少を検出したが、これは7日目と28日目の間に顕著であった。しかしながら、プラセボ脾細胞移入又はPBSを投与されたマウスについて、血清中のHBsAgの濃度の変化があったものの、時間ゼロと共に有意差には到達せず、5μg/ml未満の値は、検出されなかった。
【0079】
これらの結果は、このタンパク質のこれらのトランスジェニック動物の血清中を循環するHBsAgのレベルを効率的に低下させることが、細胞によって媒介される免疫の養子免疫伝達によって可能であることを示している。この場合に移入された免疫応答によって、抗遺伝子血症について確立された対照は、単一細胞移入後約3週間続いた。
【0080】
血清中のIgG抗HBsAg応答
HbsAgに対する特異的IgG抗体応答が、この抗原に対する先の免疫を有する脾細胞の移入を受けた全てのマウスについて検出された。これは、得られた抗遺伝子血症結果と一致する。抗HBsAg応答を有する動物の場合、検出された力価は高く(力価>10
4)、3週間目で減少し始め、これは、約第4週目(第35日目)でこれらの動物で見出された抗遺伝子血症の増加に関連する。プラセボ細胞の移入又はPBSを受けた群は、特異的な抗体を示さない。