(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982008
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】超薄型、可撓性、耐放射線性の日陰対応光起電力装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/055 20140101AFI20211206BHJP
H01L 31/056 20140101ALI20211206BHJP
【FI】
H01L31/04 622
H01L31/04 624
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-563159(P2018-563159)
(86)(22)【出願日】2017年6月2日
(65)【公表番号】特表2019-520705(P2019-520705A)
(43)【公表日】2019年7月18日
(86)【国際出願番号】US2017035586
(87)【国際公開番号】WO2017210503
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2020年5月13日
(31)【優先権主張番号】62/345,019
(32)【優先日】2016年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517305931
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハースト,ルイス シー.
(72)【発明者】
【氏名】イェークス,マイケル ケー.
(72)【発明者】
【氏名】クレス,コーリー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ジェンキンス フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ワーナー,ジェフリー エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】シュミーダー,ケネス
(72)【発明者】
【氏名】ウォルターズ,ロバート ジェー.
【審査官】
佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−142716(JP,A)
【文献】
特開2009−212414(JP,A)
【文献】
特開2012−119343(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0075612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04−31/078
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光起電力(PV)デバイスであって、
残光蛍光体が埋め込まれかつ光散乱背面を有するハンドルに実装されたPV吸収体を備えるPV素子、および
前記PV素子の正面に複数の上部および下部のかみ合い型電気接点を備え、
前記PVデバイスに入射した少なくとも一部の光子が、前記PV素子によって電荷キャリアに変換され、
前記PV吸収体の厚さが、前記PVデバイスに入射した第1の複数の光子が前記PV吸収体で吸収され、かつ前記PVデバイスに入射した第2の複数の光子が前記ハンドル内の前記蛍光体まで透過するように構成されており、第1の複数の光子は直ちに前記PV素子によって電荷キャリアに変換され、かつ第2の複数の光子の少なくとも一部は、電荷キャリアに変換するために長期間かけて前記PV吸収体に戻るよう放出され、前記ハンドルの前記光散乱背面は、前記PV吸収体の正面で全内部反射される角度モードで、放射された光子の少なくとも一部を前記PV吸収体に入射させて、前記PV素子による電荷キャリアへの変換のために追加の光子を提供するように構成されており、および
電荷キャリアの大部分が、前記PV吸収体の欠陥サイトに拡散する前に、前記上部および下部の電気接点によって抽出されるように、前記PV素子の厚さが、電荷キャリアの拡散長が前記PVデバイスの厚さよりも大きくなるように構成されている、PVデバイス。
【請求項2】
前記PV吸収体が、300nm以下の厚さを有するIII−V半導体材料を含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項3】
前記PV吸収体がGaAsを含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項4】
前記PV吸収体がInPを含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項5】
前記PV吸収体が、2μm以下の厚さを有するシリコン(Si)を含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項6】
前記蛍光体が埋め込まれたハンドルの前記光散乱背面が均等拡散面反射体を含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項7】
前記蛍光体が埋め込まれたハンドルの前記光散乱背面が、0.1nm〜1nmの二乗平均粗さを有する均等拡散面反射体を含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項8】
前記蛍光体が埋め込まれたハンドルの前記光散乱背面が光散乱光子構造を含む、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項9】
前記ハンドルが可撓性膜を備える、請求項1に記載のPVデバイス。
【請求項10】
前記電気接点が、交互配置された上部および下部のかみ合い型電気接点であり、
前記下部の電気接点が、前記PV吸収体のチャネル内に形成されている、請求項1に記載のPVデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年6月3日に出願された米国仮特許出願第62/345,019号明細書の非仮特許出願であり、かつその出願に基づいて米国特許法第119条の下で優先権の利益を主張する。
【0002】
本開示は、光起電力デバイスに関し、特に、センシングおよび通信用の電子機器等、衛星ベースのペイロードで使用されるのに好適な光起電力デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
光起電力デバイスは、入射する太陽光子を有効な電気的仕事量に直接変換する。これらのデバイスは、遠隔地での発電を可能にし、それにより、宇宙電力の用途に対して特に魅力的なものとなる。光起電力デバイスは、宇宙ベースのペイロードに電力を提供するために目下使用されている主要な技術である。
【0004】
宇宙発電太陽電池は、以下の3つの重要な性能/設計基準を有する。
(1)電力密度(W/kg):宇宙展開コストは、新たな衛星を稼働状態にすることに関与する主な費用である。これらのコストは、衛星の質量によって左右され、質量の大部分が太陽光発電システムである。電力密度は、単位質量あたりに放出される電力を記述し、このため、衛星ペイロードに対して利用可能な電力を決定する。
(2)寿命末期の性能:苛酷な宇宙環境における放射線曝露により、太陽電池性能は急速に劣化する。これらの環境において太陽エネルギー変換効率を維持するデバイス設計により、ミッションコストの低減および新たな長期のミッションプロファイルが可能になる。
(3)衛星フォームファクタ:従来技術による従来の宇宙太陽電池は、剛性パネルに実装されている。十分に可撓性があるソーラーパネルにより、衛星の用途での使用に特に好適であり得る新たな衛星フォームファクタが可能となる。たとえば、太陽電池アレイの丸められるシートは、アレイの保護および効率的な打上げ時の積み込みを提供することができ、アレイの展開の動的制御を可能にすることができる。可撓性ソーラーパネルはまた、脆弱な集中電源ユニットを必要とすることなく、構成要素に分かれた超小型衛星群の展開も可能にし、または、衛星の周囲にコンフォーマルに巻き付けられてすべての面からの発電を提供することができる。
【0005】
現行の宇宙発電ソーラーパネルは、SolAero製の第3世代3接合型(ZTJ)太陽電池等のIII−V多接合型設計を組み込み、ZTJ太陽電池の例示的な実施形態を
図1に示すブロック概略図に図示する。
図1に示すように、宇宙発電ソーラーパネルで目下使用されている典型的な従来のZTJ太陽電池は、GaAs中間接合部102およびInGaP上部接合部103を有し、活性Ge基板101の上で成長する。この設計は、29.5%の寿命初期(beginning−of−life)(BOL)太陽エネルギー変換効率を提供する。
【0006】
しかしながら、この従来の電池設計にはいくつかの限界がある。
【0007】
第1に、この設計を有する従来の太陽電池は、比較的低い電力密度を生成する。電力密度は単位質量あたりの電力(W/kg)であるため、厚いGe基板および放射線保護カバーガラスにより、実質的に太陽電池の質量が増大し、したがって、電池の電力密度が低下する。
【0008】
第2に、従来の太陽電池は、十分な耐放射線性を有しておらず、総放射線量で劣化するため、不十分な寿命末期性能をもたらす。多接合型ZTJ電池デバイスは、放射線曝露に対して特に影響を受けやすく、それは、電池が直列に接続されており、そのため、サブセルのいずれかにおける劣化によりスタック全体の性能が制限されるためである。したがって、こうしたデバイスは、この劣化を緩和しデバイスの寿命を延長するために、電池の上に保護カバーガラスを必要とする。しかしながら、カバーガラスによって提供される保護は、質量の増大と上述した結果としての電力密度の低下とを犠牲にしなければならない。
【0009】
最後に、こうした電池は、厚い剛性パネルに実装しなければならず、電池に対して、新たな衛星設計での使用を制限する可能性がある扱いにくいフォームファクタを与える。
【0010】
従来技術において提案されたZTJ電池の問題に対する1つの解決法は、
図2のブロック図に図示する反転変性(inverted metamorphic)(IMM)デバイス設計を使用する。ZTJ設計と同様に、IMMデバイス設計もまた、GaAs中間接合部およびInGaP上部接合部とともにGe基板を使用する。しかしながら、IMM設計では、デバイスは、反転した配置で成長し、Ge基板の上でInGaP頂部接合部203が直接成長し、それにGaAs中間接合部202が続く。そして、低欠陥InGaAsボトムセルの成長を可能にするために、組成傾斜バッファ層204が、より大きい格子定数に移行するように成長する。そして、この構造を、InGaAs層205が構造の底部にあり、Ge基板201が構造の頂部にあるように、反転させる。そして、基板除去プロセスによりGe基板201が除去され、3接合型デバイスが残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この構造は、ZTJ設計の限界のうちのいくつかに対処する。重量のあるGe基板を除去することにより、デバイスの質量が低下し、したがって、電力密度の上昇が提供され、構造のフォームファクタの柔軟性が向上する。しかしながら、IMM設計で使用される多接合型電池の放射線感度は、依然としてカバーガラスの使用を必要とし、デバイスの可撓性およびそのあり得る最大電力密度を制限する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この概要は、詳細な説明(発明を実施するための形態)にさらに記載する選択された概念を簡略化した形態で導入するように意図されている。この概要は、請求項に係る主題の重要なまたは本質的な特徴を特定するようには意図されておらず、請求項にかかる主題の範囲を決定するのに役立つものとして使用されるようにも意図されていない。代わりに、この概要は、単に、本明細書において記載し請求する主題の簡単な概観として提示されるものである。
【0013】
本発明は、センシングおよび通信用の電子機器等、衛星ペイロードに対して電力を提供することができる、超薄型日陰対応(eclipse)光起電力(PV)デバイスを提供する。
【0014】
例示的な実施形態では、本発明による超薄型PVデバイスは、耐放射線性PV素子を含み、それは、内部に埋め込まれた残光蛍光体を有する可撓性ハンドルに実装された、超薄型半導体ベースのPV吸収体と、複数の上部電気接点および下部電気接点とを備える。他の実施形態では、蛍光体が埋め込まれたハンドルは、たとえばアレイの安定性を提供するために、非可撓性であり得る。
【0015】
PV吸収体の厚さは、最初の通過時に太陽光吸収を意図的に制限し、したがって、背面ハンドルの蛍光体の充電を可能にするように、低減されている。
【0016】
デバイスに入射する太陽光子の一部は、最初の通過では超薄型PV吸収体を透過する。ハンドルに埋め込まれた蛍光体は、これらの光子の一部を吸収し、それにより、入射する太陽エネルギーの一部が蛍光体に蓄積され、一方で、ハンドルの光学構造は、いかなる残りの光子もデバイスの正面で全内部反射する角度モードになってPV吸収体に戻るように散乱させるように構成される。蛍光体は、光子の再放射を通して長期間、その蓄積された吸収エネルギーを放出し、それにより、日陰の期間中、すなわち、デバイスが太陽により照射されない間、PV吸収体がそのエネルギーを吸収して電力を提供する。
【0017】
いくつかの実施形態では、超薄型PV吸収体は、約300nm以下の厚さを有するヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)等のIII−V半導体材料から形成することができる。他の実施形態では、PV吸収体は、約2μm以下の厚さを有するシリコン(Si)から形成することができる。
【0018】
本発明によるPVデバイスの超薄型設計により、高電力密度と、寿命末期の太陽エネルギー効率の向上とが提供され、宇宙用途で使用されるのに特に好適な薄型の可撓性太陽電池アレイでの実装が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】従来技術による例示的なZTJ3接合型光起電力セルを示すブロック概略図である。
【
図2】従来技術による例示的な反転変性(IMM)光起電力セルを示すブロック概略図である。
【
図3】本発明による例示的な光起電力デバイス構造の態様を示すブロック概略図である。
【
図4】本発明による超薄型、可撓性、耐放射線性日陰対応光起電力デバイスを示すブロック概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上で概要を示した本発明の態様および特徴は、さまざまな形態で具現化することができる。以下の説明は、例示として、それら態様および特徴を実行することができる組合せおよび構成を示す。記載する態様、特徴および/または実施形態は単に例であり、当業者であれば、他の態様、特徴および/または実施形態を利用することができ、または、本開示の範囲から逸脱することなく構造的変更および機能的変更を行うことができることが理解されよう。
【0021】
本発明は、重量の低減により達成される超高電力密度を示すことができ、カバーガラスを不要とする固有の耐放射線性を有する、超薄型、可撓性光起電力(PV)デバイスに対する新たな設計アーキテクチャを提供する。本発明によるPVデバイスは、軽量かつ可撓性の衛星フォームファクタで使用するのに特に好適であり得る、薄型かつ可撓性のPVアレイに組み込むことができ、日陰の期間中、すなわち、デバイスが太陽により照射されていない間、発電を提供することができる。
【0022】
本発明による「超薄型」PVデバイスでは、PV吸収体の厚さを低減して、入射する太陽放射からの光子の吸収をそれら光子が吸収体を最初に通過する際は意図的に制限し、したがって、背面ハンドルにおける蛍光体の帯電を可能にする。こうした「超薄型」デバイスにおける吸収体もまた、それより大きいデバイスの一部のみを形成するため、「超薄型」であると述べることができ、それより大きいデバイスが超薄型である場合、吸収体もまた必然的に超薄型でなければならない。
【0023】
より詳細に後述するように、本発明による超薄型PVデバイスは、日陰時発電のためにハンドル内に埋め込まれた残光蛍光体と組み合わされた、耐放射線性および高電力密度を提供するPV素子を含む。多くの実施形態では、ハンドルは、PVデバイスの、丸めることができる太陽電池のアレイ等の可撓性形態への実施を可能にするように可撓性があるが、他の実施形態では、ハンドルは、たとえば、アレイの安定性を提供するために非可撓性であり得る。
【0024】
図3に示すブロック概略図は、本発明による超薄型、可撓性PVデバイスの例示的な実施形態の態様を示す。したがって、
図3に示すように、こうした本発明による例示的なPVデバイスは、超薄型PV吸収体302を備えるPV素子301を含み、薄型、可撓性ハンドル305の上に、上部電気接点303a/b/cおよび下部電気接点304a/b/cそれぞれが実装されている。多くの実施形態では、可撓性ハンドル305はポリマーから形成することができるが、他の任意の好適な材料を使用することができ、そうした他の任意の好適な材料は、依然として所望の程度の可撓性を可能にする任意の好適な厚さを有することができる。
【0025】
さらに、より詳細に後述するように、本発明によれば、ハンドル305は、内部に埋め込まれた残光蛍光体を有し、蛍光体は、PVデバイスに入射する光子の一部を吸収し、その後、それら光子を、電力を発生させるのに使用するためにPV吸収体に戻るように放出する。
【0026】
いくつかの実施形態では、PV吸収体302は、約300nm以下の厚さを有するヒ化ガリウム(GaAs)またはリン化インジウム(InP)等のIII−V材料を含むIII−V系吸収体を含むことができ、他の実施形態では、PV吸収体302は、約2μm以下の厚さを有するシリコン系吸収体を含むことができる。こうした場合両方において、こうした吸収体を組み込んだPVデバイスは、本発明の範囲内で「超薄型」であるとみなされる。しかしながら、当業者であれば、PVデバイスが「超薄型」であり続ける限り、他の材料および/または他の材料層厚さを採用することができることが容易に理解されよう。
【0027】
本発明による超薄型PV吸収体302を有するPVデバイスは、固有に耐放射線性である。PV吸収体が放射線に曝露されると、吸収体材料に欠陥サイトが導入され、欠陥サイトにより、デバイスにおける光生成電荷キャリアの拡散長が低減する。上述したZTJ電池またはIMM電池等の従来のより厚い電池では、電荷キャリアは、これらの欠陥サイトを介して無放射再結合し、それにより、デバイス電流を低減させる。対照的に、本発明による超薄型PVデバイスでは、PV吸収体の厚さは、PV素子において光生成された電荷キャリアが、PV吸収体において欠陥サイトを見つけて、それらが上部接点および下部接点まで輸送される前に欠陥サイトで再結合するのを防止し、それにより、光生成電流の劣化を防止するように、構成されている。
【0028】
上述したように、本発明によるPVデバイスでは、PV吸収体302は、内部に埋め込まれた残光蛍光体を有する可撓性膜の上に実装される。近年、場合により励起後に何時間も持続する永続的なルミネセンスを有するいくつかの蛍光体が、さまざまな研究者によって開発された。たとえば、Y.Li,M.Gecevicius,J.Qiu,“Long persistent phosphors−from fundamentals to applications,”Chemical Society Reviews 2016,45(8),2090−2136、およびA.Abdukayum,J.−T.Chen,Q.Zhao,X.−P Yan,“Functional Near Infrared−Emitting Cr3+/Pr3+ Co−Doped Zinc Gallogermanate Persistent Luminescent Nanoparticles with Superlong Afterglow for in Vivo Targeted Bioimaging,”Journal of the American Chemical Society 2013,135(38),14125−14133を参照されたい。Cr
3+ドープ亜鉛ガロゲルマネート(gallogermanate)が、InP電池のGaAsとの集積化のためのその望ましい吸収および放射波長範囲のために、特に有望な候補と思われる。Z.Pan,Y.−Y Lu,F.Liu,“Sunlight−activated long−persistent luminescence in the near−infrared from Cr3+−doped zinc gallogermanates,”Nat.Matter.2012,11(1),58−63を参照されたい。2mm厚さのセラミックディスクが、格子励起が終了した1時間後に>1mWm
-2を放射することが示された。Fang Yu,Yanmin Yang,Xianyuan Su,Chao Mi,and Hyo Jin Seo,“Novel long persistent luminescence phosphors:Yb2+ codoped MAl2O4(M=Ba,Sr),”Opt.Mater.Express 5,585−595(2015)を参照されたい。同様のセラミックス蛍光体を微粉状にして、スピンコーティングのためにポリマーに埋め込むことができることも示された(同文献)。
【0029】
したがって、本発明によれば、より詳細に後述する、PV吸収体302と上部接点303a/b/cおよび下部接点304a/b/cそれぞれとを備えるPV素子301は、内部に埋め込まれた残光蛍光体を有する可撓性ハンドル305の上に実装される。より詳細に後述するように、本発明の設計によるハンドル305内の蛍光体の光学的設計により、超薄型PVデバイスの太陽光変換効率が向上する。
【0030】
デバイスに入射する太陽光子の一部は、最初の通過で吸収されることなく超薄型PV吸収体302を透過する。ハンドル305に埋め込まれた蛍光体は、これらの光子の一部を吸収し、ハンドルにおける光子吸収の程度は、埋め込まれた蛍光体の密度によって決まる。したがって、入射する太陽エネルギーの一部は蛍光体に蓄積され、蛍光体の光学的構造は、いかなる残りの光子もデバイスの正面で全内部反射される角度モードになってPV吸収体内に戻るように散乱させるようにし、PV素子301が電力を発生させるために使用する追加の光子を提供するように構成される。
【0031】
さらに、蛍光体は、PV素子301が電力を発生させるために使用するように、長期間、その吸収エネルギーを光子の再放射を通してPV吸収体302内に放出し、それにより、デバイスが太陽により照射されている間、PV素子301の太陽光効率を向上させ、日陰の期間中、すなわち、デバイスが太陽により照射されていない時点であっても、PV素子301が電力を発生させるのを可能にする。
【0032】
したがって、本発明によるPVデバイスにおける超薄型PV吸収体302の使用により、一意に、エネルギー蓄積および日陰時発電のために背面蛍光体の組込みが可能になる。蛍光体は、PVデバイスが照射されているときに充電され、日陰の期間、すなわち、電池が照射されていない期間中、蓄積されたエネルギーを光学的に放出する。上述した尺度を有する蛍光体を組み込むことにより、本発明によるPVデバイスは、暗闇の中で1時間後に約500μWm
-2の有用な電力を提供することができる。この電力レベルは、バッテリを必要とすることなく、日陰中にリアルタイムクロックおよびマザーボードBIOS設定の格納等、本質的にノンストップのプロセスを実行するためには十分過ぎるほどである。これが望ましいのは、従来の化学電池が、機能するために温度調節される環境を必要とし、また充電回数が限られているためである。さらなる低電力機能は、広い面積被覆率によっても可能とすることができる。
【0033】
さらに、上述したように、蛍光体の光学的構造は、蛍光体によって吸収されないいかなる光子もPV吸収体に戻るように散乱させるように構成される。
図3に示す例示的な実施形態では、これは、蛍光体に均等拡散面反射体306を提供するためにハンドルの背面をランダムに凹凸化し、その後、ハンドルに対する屈折率の急な変化を提供するように均等拡散面反射体306の背面を金属被覆することにより、達成される。例示的な実施形態では、均等拡散面反射体306は、約0.1ミクロン〜1ミクロンの二乗平均粗さを有することができる。しかしながら、当業者であれば、PVデバイスの太陽光効率を向上させるために、蛍光体ハンドルの背面に、光散乱光子構造等、他の凹凸化パラメータおよび/または他の逆反射機構を採用することができることが理解されよう。
【0034】
均等拡散面反射体306が存在する結果として、デバイスを最初に通過する際にPV吸収体302を透過する光子は、背面において、全内部反射光モードになるように拡散反射される。この光子反射により、PV素子301において高い太陽エネルギー変換効率を達成することができるが、実際の向上は、デバイスの放射効率とともに、反射体の品質係数によって決まる可能性がある。均等拡散面光閉じ込めからの熱力学的な最大の吸収の向上は、4n
2、III−V材料の場合は約50倍の向上によって与えられる。E.Yablonovitch,“Statistical ray optics,”J.Opt.Soc.Am.72,899−907(1982)を参照されたい。他の著者は、理論において、100nm未満の厚さを有する超薄型太陽電池が、こうした光散乱方式により優れた性能尺度(太陽エネルギー変換効率>30%)をもたらすことができることを示した。Owen D.Miller,Eli Yablonovitch,and Sarah R.Kurtz.“Strong internal and external luminescence as solar cells approach the Shockley−Queisser limit.”IEEE Journal of Photovoltaics 2.3(2012):303−311を参照されたい。
【0035】
最後に、本発明によるPVデバイスのさらなる設計特徴は、複数の交互配置された
かみ合い型の上部接点および下部接点を含むということである。従来のGaAs PVデバイスでは、p型接点は通常アニールされず、n型接点は、金属被覆により半導体を合金にし、光生成キャリアを抽出するようにオーム接触を生成するために、アニールを必要とする可能性がある。こうした従来のデバイスでは、背面がアニールされたn型接点である場合であっても、背面は完全金属被覆を有する。しかしながら、本発明による超薄型電池において完全被覆背面接点をアニールすると、金属はデバイスの活性接合領域内に拡散し、ダイオード性能を深刻に劣化させる。
【0036】
本発明によるPVデバイス設計はこの問題を解決する。金属粒子を金属接点から接合部内に拡散させることなく、アニールされた背面接点を達成するために、
図3に示すように、複数のチャネルが、正面から高ドープ背面制御層までエッチングされ、その後、金属が堆積しアニールされて、チャネル内に複数の下部接点304a/b/cが形成され、それらは上部接点303a/b/cと
かみ合うように配置される。本発明のPVデバイス設計のこの態様により、電池と散乱ハンドルとの間に配置された背面デバイス金属被覆も不要となる。このように、背面接点コンダクタンス要件によって課される制約なしに、ハンドルの係数を選択することにより、PV素子と蛍光体が埋め込まれたハンドル305との間の効率的な光結合を設計することができる。
【0037】
従来の衛星は、大型の中心ペイロードに接続された別個の太陽電池アレイを用いて設計されることが多い。
図4A〜
図4Cに示すように、本発明の1つまたは複数の態様による複数のPVデバイスは、完全に平坦な、完全可撓性の衛星設計に組み込まれるのに特に好適な、薄型、可撓性PVアレイに組み込むことができる。
【0038】
したがって、
図4Aおよび
図4Bに示すように、本発明によるPVデバイスをこうしたデバイスのアレイ401に組み込んで、高出力ペイロードでの使用を可能にすることができる面積の広いパネルを提供することができる。こうしたペイロードは、アレイに対して外部であり得るか、または、
図4Bに示すペイロード402のように、アレイに完全に組み込むことができる。さらに、
図4Cに示すように、本発明によるこうした超薄型PVデバイスのアレイは、超軽量でありかつ可撓性があり、アレイ(組み込まれたペイロード402を有するアレイであっても)、展開する前に保管のために丸めることができ、それにより、重量および空間の考慮が重要である用途に対して特に適したものとなる。
【0039】
利点および新たな特徴
以下の表は、カバーガラスを備える典型的な従来技術によるZTJ電池と比較した本発明の有利な特徴を要約する。
【0041】
本発明による光起電力デバイスの重要な新規性は、超薄型電池設計であり、PV素子は、典型的には100nm未満の厚さを有し、ただし、約200nm〜300nmの厚さを有する電池も使用することができる。この超薄型電池設計は、光励起電荷キャリアの拡散長がデバイス厚さより一桁長いことを意味し、これにより、欠陥サイト内に拡散する時間ができる前に、デバイス接点において電荷キャリアを抽出して有効な電流を発生させることができるため、デバイスは、放射線曝露によって引き起こされる欠陥に対して耐性があるものとなる。
【0042】
さらに、通常、約6μmの活性層厚さを有する、宇宙用途に対する目下最新の多接合型PV素子は、放射線によって引き起こされる欠陥に対して特に影響を受けやすく、このため、寿命末期性能を維持するために、厚い剛性カバーガラスが必要である。超薄型設計によりカバーガラスを取り除くことによって、パネル電力密度が徹底的に増大し、より広いパネル面積および高出力ペイロードが可能となり、新たな可撓性のある衛星フォームファクタの展開が可能になる。
【0043】
本発明のPVデバイス設計はまた、本来、超薄型PVデバイスの効率を低下させる、光散乱の問題にも対処する。100nm未満の厚さを有する電池では、入射する太陽光子のわずかな割合、たとえば、約10%のみが、最初の通過で吸収される。この吸収を改善するために、本発明のPV設計は、電池ハンドルの背面に均等拡散面反射体または光子散乱構造等の構造を用いる。本発明のこの特徴の結果として、電池を透過する太陽光子は、太陽光許容角度を越えた光モードになるように拡散的に散乱し、構造内の全内部反射が可能になり、超薄型設計における入射光子の完全吸収の達成が可能になる。
【0044】
提案するデバイス設計の第2の重要な新規性は、可撓性後方散乱ハンドル内に埋め込まれた残光蛍光体を使用することである。光に照射されて、蛍光体は、超薄型デバイスを透過する太陽光子の一部を吸収し、励起エネルギーを一時的な閉じ込め状態で蓄積する。照明の数分後、閉じ込め状態飽和が開始し、背面における均等拡散面散乱により、完全な1Sunデバイス電流および高効率のデバイス動作のために、蛍光体と電池との間の効率的な光子リサイクルが可能になる。日陰が発生すると、蛍光体の一時的閉じ込め状態がエネルギーを放出し、暗闇で電力を発生させる。
【0045】
上述したように、本発明は、超薄型設計の固有の耐放射線性であるにも関わらずカバーガラスを不要にし、また、前例のない電力密度と真に柔軟な衛星フォームファクタとを可能にする。超薄型電池の使用により、背面蛍光体を介する日陰時発電も可能になり、これは、従来の厚いデバイスでは可能ではなかった。
【0046】
代替形態
InP電池:大部分の場合、GaAs/InGaP p−n接合が、超薄型設計に望ましい非常に低い表面再結合速度を有するため、GaAsが、PV吸収体に対して最も好適な材料となる。しかしながら、InPは、GaAsより耐放射線性が高く、そのため、いくつかの用途ではより好適であり得る。
【0047】
Si系電池:III−V材料に基づくPVデバイスが、通常、高効率を達成することができるため、宇宙電力の用途に使用されるが、薄型Siは、コスト上の利点があり、そのため、いくつかの大面積の用途では好適である可能性がある。
【0048】
光子構造光散乱:粗化された均等拡散面散乱背面に対する代替形態として、光を横方向伝搬光モードに結合するために、光子構造を採用することができる。均等拡散面散乱は、容易にかつ安価に処理することができるため、最良の形態に対して選択されたが、先行する著者により、光子構造が、均等拡散面散乱に対する熱力学的限界を十分に越えて吸収の向上を提供することができ、本発明に対する有望な代替形態となることが示された。
【0049】
記載した超薄型太陽光発電システムにより、打上げコストが削減され高い弾力性を有する新たな衛星フォームファクタが可能になる。この技術により、苛酷な高放射線環境において長期のミッションプロファイルを可能にすることができる。
【0050】
特定の実施形態、態様および特徴について記載し例示したが、当業者であれば、本明細書に記載した発明が、それら実施形態、態様および特徴のみに限定されるものではなく、本明細書に記載し請求する基礎となる発明の趣旨および範囲内にあるありとあらゆる変更および代替実施形態も企図することが容易に理解されよう。本出願は、本明細書に記載し請求する基礎となる発明の趣旨および範囲内のありとあらゆる変更を企図し、すべてのこうした変更および代替実施形態は、本開示の趣旨および範囲内にあるとみなされる。