特許第6982015号(P6982015)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982015
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】金属粉末製造装置及びそのガス噴射器
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   B22F9/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-18040(P2019-18040)
(22)【出願日】2019年2月4日
(65)【公開番号】特開2020-125512(P2020-125512A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2020年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝山 隆史
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
(72)【発明者】
【氏名】江口 滋信
【審査官】 松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/035205(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/022595(WO,A1)
【文献】 特開昭63−230806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の噴霧槽と、
るつぼに蓄えられた溶融金属を前記噴霧槽内に流下させる複数の溶湯ノズルと、
前記複数の溶湯ノズルがそれぞれ挿入される複数の溶湯ノズル挿入孔が設けられたガス噴射器と、
前記複数の溶湯ノズル挿入孔のそれぞれの周囲に第1の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第1噴射孔からなり、前記複数の第1噴射孔のガス噴射方向は全て第1焦点を通過しており、前記溶湯ノズルから流下する溶融金属に対してガスを噴射して粉砕する第1ガス噴射ノズルと、
前記第1の環のそれぞれの外側に第2の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第2噴射孔からなり、前記複数の第2噴射孔のガス噴射方向は前記第1焦点よりも下方に位置する第2焦点を全て通過しており、前記第1ガス噴射ノズルで粉砕された金属粒の飛散を防止するためにガスを噴射する第2ガス噴射ノズルと、
前記第2ガス噴射ノズルの外側に第3の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第3噴射孔からなり、前記噴霧槽の内壁面に対してガスを噴射する第3ガス噴射ノズルとを備え
前記複数の第3噴射孔はガスの噴射方向が前記第3の環の中心から外側に向かって放射状に前記噴霧槽の内壁面に向かうように各噴射孔の軸方向が設定されていることを特徴とする金属粉末製造装置。
【請求項2】
請求項1の金属粉末製造装置において、
前記噴霧槽内の所定の高さに配置された複数の噴射孔からなり、前記噴霧槽の内壁面に沿ってガスを噴射することで前記噴霧槽内に前記噴霧槽の中心軸の周囲に旋回流を発生する第4ガス噴射ノズルを備えることを特徴とする金属粉末製造装置。
【請求項3】
請求項2の金属粉末製造装置において、
前記第4ガス噴射ノズルは前記噴霧槽の高さ方向において複数設けられていることを特徴とする金属粉末製造装置。
【請求項4】
溶湯にガスを噴射して金属粉末を製造する金属粉末製造装置のガス噴射器であって、
円筒状の噴霧槽内に溶融金属を流下させる溶湯ノズルが挿入される複数の溶湯ノズル挿入孔と、
前記複数の溶湯ノズル挿入孔のそれぞれの周囲に第1の環を描くように配置された複数の第1噴射孔からなり、前記複数の第1噴射孔のガス噴射方向は全て第1焦点を通過しており、前記溶湯ノズルから流下する溶融金属に対してガスを噴射して粉砕する第1ガス噴射ノズルと、
前記第1の環のそれぞれの外側に第2の環を描くように配置された複数の第2噴射孔からなり、前記複数の第2噴射孔のガス噴射方向は前記第1焦点よりも下方に位置する第2焦点を全て通過しており、前記第1ガス噴射ノズルで粉砕された金属粒の飛散を防止するためにガスを噴射する第2ガス噴射ノズルと、
前記第2ガス噴射ノズルの外側に第3の環を描くように配置された複数の噴射孔からなり、前記噴霧槽の内壁面に対してガスを噴射する第3ガス噴射ノズルとを備え
前記第3ガス噴射ノズルの各噴射孔はガスの噴射方向が前記第3の環の中心から外側に向かって放射状に前記噴霧槽の内壁面に向かうように各噴射孔の軸方向が設定されていることを特徴とするガス噴射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯ノズルから流下する溶融金属に高圧ガス流体を衝突させることで微粒子状の金属(金属粉末)を製造する金属粉末製造装置及びそのガス噴射器に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融金属から微粒子状の金属(金属粉末)を製造する方法にガスアトマイズ法や水アトマイズ法を含むアトマイズ法がある。ガスアトマイズ法は、溶融金属を貯留する溶解槽の下部の溶湯ノズルから溶湯を流下させ、溶湯ノズルの周囲に配置された複数のガス噴射ノズルから不活性ガスを溶湯に吹きつける。溶湯ノズルからの溶融金属の流れは、ガス噴射ノズルからの不活性ガス流によって分断され微細な多数の金属液滴となって噴霧槽内を落下し、表面張力によって球状化しながら凝固する。これにより噴霧槽底部の採集ホッパで球状の金属粉末が回収される。
【0003】
例えば特開2016−211027号公報には、噴霧チャンバ(噴霧槽)上部に設けられ金属溶湯を保持するるつぼと、前記るつぼの底部に接続して前記不活性ガスを吹きつけながら前記金属溶湯を前記噴霧チャンバ内に落下させるアトマイズノズル(溶湯ノズル)と、アトマイズノズルの周囲に備えられ、アトマイズノズルを流下する金属溶湯に高圧の不活性ガスを吹き付けて微細な多数の金属液滴とする複数の不活性ガスノズル(ガス噴射ノズル)と、前記噴霧チャンバ内をガス置換させるガス導入口及びガス排出口と、前記噴霧チャンバ内を酸化雰囲気及び/又は窒化雰囲気とするためのガスを与える第2のガス導入口とを有する金属粉末の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−211027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大量の金属粒子を積層して所望の形状の金属を造形する金属3次元プリンターの材料等をはじめとして、アトマイズ法に従前求められていた金属粉末よりも粒径の小さいもののニーズが近年高まっている。粉末冶金や溶接等に用いられる従前からの金属粉末の粒径は例えば70−100μm程度であったが、3次元プリンターに用いられる金属粉末の粒径は例えば20−50μm程度と非常に細かい。
【0006】
ここで、溶湯ノズルと、その溶湯ノズルの周囲に設けられた複数の噴射孔からなり、当該複数の噴射孔からガスを噴射することで当該溶湯ノズルから流下する溶湯を粉砕するガス噴射ノズルとを「噴霧ノズル」と総称する。従前からの噴霧槽の体型を変えずに微細な金属粉末を効率良く製造する方策としては、1つの噴霧槽に対して通常は1つだけ設けられる噴霧ノズルを、複数設けることが考えられる。
【0007】
しかし、このように複数の噴霧ノズルを設けると、各噴霧ノズルで粉砕された金属粒子同士が凝固前に接触して金属粒子の粒径が拡大し得るため、所望の粒径を有する金属粉末の収率の低下が懸念される。また、複数の噴霧ノズルを設けると、各噴霧ノズル(溶湯ノズル)から噴霧槽の内壁までの距離は従前より短くなるため、凝固前の金属粒子が噴霧槽の内壁に接触したり固着したりして収率が低下し易い。さらに、噴霧槽の内壁に金属粒子が固着・堆積することで噴霧槽の放熱性能が低下した場合には、金属粉末が噴霧槽内で充分に冷却されずにホッパに固着・堆積して収率が低下する可能性もある。
【0008】
本発明の目的は、噴霧槽の体型を変えずに微細な金属粉末を効率良く製造できる金属粉末製造装置及びそのガス噴射器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、円筒状の噴霧槽と、るつぼに蓄えられた溶融金属を前記噴霧槽内に流下させる複数の溶湯ノズルと、前記複数の溶湯ノズルがそれぞれ挿入される複数の溶湯ノズル挿入孔が設けられたガス噴射器と、前記複数の溶湯ノズル挿入孔のそれぞれの周囲に第1の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第1噴射孔からなり、前記複数の第1噴射孔のガス噴射方向は全て第1焦点を通過しており、前記溶湯ノズルから流下する溶融金属に対してガスを噴射して粉砕する第1ガス噴射ノズルと、前記第1の環のそれぞれの外側に第2の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第2噴射孔からなり、前記複数の第2噴射孔のガス噴射方向は前記第1焦点よりも下方に位置する第2焦点を全て通過しており、前記第1ガス噴射ノズルで粉砕された金属粒の飛散を防止するためにガスを噴射する第2ガス噴射ノズルと、前記第2ガス噴射ノズルの外側に第3の環を描くように前記ガス噴射器の底面に配置された複数の第3噴射孔からなり、前記噴霧槽の内壁面に対してガスを噴射する第3ガス噴射ノズルとを備え、前記複数の第3噴射孔はガスの噴射方向が前記第3の環の中心から外側に向かって放射状に前記噴霧槽の内壁面に向かうように各噴射孔の軸方向が設定されていることとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば噴霧槽の体型を変えずに微細な金属粉末を効率良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】金属粉末製造装置であるガスアトマイズ装置の全体構成図。
図2】ガス噴射器200の周辺の断面図。
図3】ガス噴射器200の底面図。
図4】ガス噴射器200の斜視図。
図5】ガス噴射ノズル71Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向と第1溶湯ノズル11Aの溶湯の流下領域27の関係図。
図6】ガス噴射ノズル72Aを構成する複数の噴射孔92のガス噴射方向とガス噴射ノズル71Aの焦点(第1焦点)261の関係図。
図7】噴霧槽4の図1におけるVII−VII矢視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明に係る金属粉末製造装置であるガスアトマイズ装置の全体構成図である。図1のガスアトマイズ装置は、液体状の金属である溶融金属(溶湯)が蓄えられる容器であるるつぼ(タンディッシュ)100(図2参照)が収納される溶解槽1と、溶解槽1から溶湯ノズル(後述)11を介して細粒となって流下する溶湯に対して高圧ガス(ガス流体)を吹き付けて多数の微粒子に粉砕して溶融金属を液体噴霧するガス噴射器200と、ガス噴射器200に高圧ガスを供給するための噴射ガス供給管(噴射流体供給管)3と、不活性ガス雰囲気に保持された容器であってガス噴射器200から噴霧された微粒子状の液体金属が落下中に急冷凝固される噴霧槽4と、噴霧槽4の底部に設けられ噴霧槽4での落下中に凝固した粉末状の固体金属を回収する採集ホッパ(ホッパ)5とを備えている。ガスアトマイズ装置は、溶湯ノズル11から流下する溶湯に対して、ガス噴射器200でガスを噴射して金属粉末を製造する。
【0014】
溶解槽1内は不活性ガス雰囲気に保持することが好ましい。噴霧槽4は、上部及び中部では同一の径を有する円筒状の容器であるが、採集ホッパ5による金属粉末の回収し易さの観点から、下部では採集ホッパ5に近づくほど径が小さくなるテーパ形状になっている。採集ホッパ5からは不活性ガスが適宜排気6として排出されている。
【0015】
図2は本実施形態に係るガスアトマイズ装置のガス噴射器200周辺の断面図であり、図3は本実施形態のガス噴射器200の底面図であり、図4は本実施形態のガス噴射器200の斜視図である。なお、図4では図3中に示した第2ガス噴射ノズル72及び第3ガス噴射ノズル73を構成する複数の噴射孔(貫通孔)92,93は省略している。
【0016】
−溶湯ノズル11A,11B−
図2に示すように、溶解槽1内のるつぼ100の底部には、るつぼ100内の溶融金属を噴霧槽4内にそれぞれ流下させる複数の溶湯ノズルである溶湯ノズル11A,11Bが溶解槽1の底面から鉛直下方に向かって突出して設けられている。2本の溶湯ノズル11A,11Bは、同一の形状とすることができ、それぞれの内部に溶湯が流下する鉛直方向に延びた縦長の孔を有している。この縦長の孔は、るつぼ100の底部から鉛直下方に向かって溶融金属が流下する溶湯流路となる。
【0017】
溶湯ノズル11Aと溶湯ノズル11Bの下端に位置する開口端21A,21Bは、ガス噴射器200の底面から突出して噴霧槽4内の空洞に臨むようにそれぞれ配置されている。るつぼ100内の溶融金属は溶湯ノズル11A,11Bの内部の孔を溶湯流8となって流下し開口端21A,21Bを介して噴霧槽4内に放出(流下)される。噴霧槽4内に導入される溶湯の径の大きさに寄与する第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの最小内径としては、例えば従前より小さい5mm以下の値が選択できる。
【0018】
−ガス噴射器200−
略円柱状の外形を有するガス噴射器200は、図2に示すように、複数の溶湯ノズル11A,11Bがそれぞれ挿入される複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bと、各溶湯ノズル11A,11Bから流下する溶融金属に対してガスを噴射して粉砕する第1ガス噴射ノズル71を備えている。ガス噴射器200は、不活性の高圧ガスで満たされる中空構造の円柱形状の外形を有しており、その内部は複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲にガス流を形成するガス流路50となっている。ガス流路50は、ガス噴射器200の円柱の側面に設けられたガス吸入孔(図示せず)に接続される噴射ガス供給管3から高圧ガスの供給を受ける。また、ガス噴射器200はるつぼ100を支持している。なお、図示は省略するが、溶解槽1とガス噴射器70の間には、溶解槽1からの熱伝導を防止する観点から断熱材を挿入することが好ましい。
【0019】
−溶湯ノズル挿入孔12A,12B−
溶湯ノズル挿入孔12Aと溶湯ノズル挿入孔12Bは、図4に示すように、円柱状のガス噴射器200の中心軸(Cg0)と平行の軸(Cm1,Cm2)を有する2本の円柱状の貫通孔である。第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bには、第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bがそれぞれ挿入される。第1溶湯ノズル挿入孔12Aと第2溶湯ノズル挿入孔12Bの中心軸Cm1,Cm2は第1溶湯ノズル11Aと第2溶湯ノズル11Bの孔の中心軸に一致させることができる。
【0020】
−第1ガス噴射ノズル71(71A,71B)−
第1ガス噴射ノズル71は、複数の溶湯ノズル挿入孔12A,12Bのそれぞれの周囲に第1の環(図3参照)61を描くように配置された複数の噴射孔(貫通孔)91からなる。ここでは第1ガス噴射ノズル71のうち、溶湯ノズル挿入孔12Aの周囲に位置する複数の噴射孔91が形成するものをガス噴射ノズル71Aと称し、溶湯ノズル挿入孔12Bの周囲に位置する複数の噴射孔91が形成するものをガス噴射ノズル71Bと称する。
【0021】
図5はガス噴射ノズル71Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向と第1溶湯ノズル11Aの溶湯の流下領域27の関係図である。
【0022】
図5にはガス噴射ノズル71Aを構成する複数の噴射孔91のガス噴射方向を直線251で示しており、各噴射孔91は対応する直線251と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器200の底面に穿つことで形成されている。この複数の噴射孔91はガス噴射器200の底面において第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1と同心円である第1の環61の上に等間隔で配置されている。ガス噴射ノズル71Aを構成する全ての噴射孔91のガス噴射方向(直線25)は共通の焦点(第1焦点)261を通過している。すなわち全ての噴射孔91のガス噴射方向は一点(焦点261)に集中している。焦点261は第1溶湯ノズル11A(図4には図示せず)から流下する溶融金属の外径によって規定される略円柱状の流下領域27内に位置している。流下領域27の径は、第1溶湯ノズル11Aを構成する孔の最小内径(オリフィス径)に応じて適宜調整できる。流下領域27の径は例えば第1溶湯ノズル11Aの開口端21Aの径以下の値にすることもできる。なお、説明は省略するが、ガス噴射ノズル71Bもガス噴射ノズル71Aと同様に形成されている。
【0023】
なお、本実施形態における第1の環61は、溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸とガス噴射器200の底面(噴霧槽4内に臨む面)との交点を中心とする真円である。図3中では、ガス噴射ノズル71Aを構成する噴射孔91の数とガス噴射ノズル71Bを構成する噴射孔91の数とは同数であるが、異ならせても良い。
【0024】
−噴霧ノズル20A,20B−
ガス噴射ノズル71Aと溶湯ノズル11Aは、噴霧槽4内に溶融金属を液体噴霧する第1噴霧ノズル20Aを構成し、ガス噴射ノズル71Bと溶湯ノズル11Bは、同様に、第2噴霧ノズル20Bを構成する。すなわち本実施形態のガスアトマイズ装置は第1噴霧ノズル20Aと第2噴霧ノズル20Bの2つの噴霧ノズルを備えている。
【0025】
本実施形態のガス噴射器200は、上記の第1ガス噴射ノズル71に加えてさらに、ガス噴射器200の底面に設けられる第2ガス噴射ノズル72及び第3ガス噴射ノズル73と、噴霧槽4の内壁面に設けられる第4ガス噴射ノズル74(図1参照)とを備えている。
【0026】
−第2ガス噴射ノズル72(72A,72B)−
第2ガス噴射ノズル72は、2つの第1の環61のそれぞれの外側に第2の環62を描くようにガス噴射器200の底面に配置された複数の噴射孔(貫通孔)92からなり、第1ガス噴射ノズル71で粉砕された金属粒の飛散を防止するためにガスを噴射するガス噴射ノズルである。複数の噴射孔92は、ガス噴射器200の底面に穿たれている。ここでは第2ガス噴射ノズル72のうち、溶湯ノズル挿入孔12Aの周囲に位置する複数の噴射孔92が形成するものをガス噴射ノズル72Aと称し、溶湯ノズル挿入孔12Bの周囲に位置する複数の噴射孔92が形成するものをガス噴射ノズル72Bと称する。
【0027】
図6はガス噴射ノズル72Aを構成する複数の噴射孔92のガス噴射方向とガス噴射ノズル71Aの焦点(第1焦点)261の関係図である。
【0028】
図6にはガス噴射ノズル72Aを構成する複数の噴射孔92のガス噴射方向を直線252で示しており、各噴射孔92は対応する直線252と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器200の底面に穿つことで形成されている。この複数の噴射孔92はガス噴射器200の底面において第1溶湯ノズル挿入孔12Aの中心軸Cm1と同心円である第2の環62の上に等間隔で配置されている。ガス噴射ノズル72Aを構成する全ての噴射孔92のガス噴射方向(直線252)は共通の焦点(第2焦点)262を通過している。すなわち全ての噴射孔92のガス噴射方向は一点(焦点262)に集中している。この焦点(第2焦点)262はガス噴射ノズル71Aの焦点(第1焦点)261よりも下方に位置している。なお、説明は省略するが、ガス噴射ノズル72Bもガス噴射ノズル72Aと同様に形成されている。
【0029】
なお、本実施形態における第2の環62は、溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸とガス噴射器200の底面(噴霧槽4内に臨む面)との交点を中心とする真円であるが、楕円でも多角形でも良く、その中心は溶湯ノズル挿入孔12A,12Bの中心軸上からずれていても良い。ただし、第2の環62上に配置される複数の噴射孔92の焦点(第2焦点)262が第1焦点261よりも下方に位置するように第2の環62及び各噴射孔92の噴射方向252を設定する必要がある。また、図3中では、ガス噴射ノズル72Aを構成する噴射孔92の数とガス噴射ノズル72Bを構成する噴射孔92の数は同数であるが、異ならせても良い。また、図6中では、ガス噴射ノズル72Aを構成する噴射孔92の数とガス噴射ノズル71Aを構成する噴射孔91の数は同数であるが、異ならせても良い。
【0030】
−第3ガス噴射ノズル73−
第3ガス噴射ノズル73は、第2ガス噴射ノズル72(2つの第2の環62)の外側に第3の環63を描くようにガス噴射器200の底面に配置された複数の噴射孔(貫通孔)93からなり、噴霧槽4の内壁面に対してガスを噴射するガス噴射ノズルである。複数の噴射孔93は、ガス噴射器200の底面においてガス噴射器200の中心軸Cg0が通過する点を中心とする第3の環63の上に等間隔で配置されている。
【0031】
図2及び図3にはガス噴射ノズル73を構成する噴射孔93のガス噴射方向を矢印253で示している。各噴射孔93のガス噴射方向(直線253)は噴霧槽4における最寄りの内壁面に対して向かっている。本実施形態のガス噴射方向253をガス噴射器200に投影したベクトルは、第3の環63の中心(ガス噴射器200の底面においてガス噴射器200の中心軸Cg0が通過する点)から外側に向かって放射状になっている。図3中に複数の噴射孔93のうちの1つのガス噴射方向253を示す。各噴射孔93は対応する直線253と一致する中心軸を有する貫通孔をガス噴射器200の底面に穿つことで形成されている。
【0032】
なお、本実施形態における第3の環63は、ガス噴射器200の中心軸Cg0がガス噴射器200の底面を通過する点を中心とする真円であるが、楕円でも多角形でも良く、その中心はガス噴射器200の中心軸Cg0上からずれていても良い。ただし、各噴射孔92から噴射されるガスの噴射方向253が噴霧槽4の内壁面に向かうように第3の環63及び各噴射孔93の軸方向を設定する必要がある。なお、図3に示した噴射孔93の数は一例に過ぎず、噴霧槽4の冷却性能が損なわれない範囲で任意の数が選択できる。
【0033】
−第4ガス噴射ノズル74(74A,74B)−
第4ガス噴射ノズル74は、図1に示すように、噴霧槽4内の所定の高さに配置された複数の噴射孔94からなり、噴霧槽4の内壁面に沿ってガスを噴射することで噴霧槽4内に噴霧槽4の中心軸Cg0の周囲に旋回流81を発生するガス噴射ノズルである。本実施形態では図1に示すように噴霧槽4における設置高さの異なる2つのガス噴射ノズル74A,74Bが設けられている。ここでは第4ガス噴射ノズル74のうち、噴霧槽4の高さ方向において相対的に高い位置に設けられているものをガス噴射ノズル74Aと称し、相対的に低い位置に設けられているものをガス噴射ノズル74Bと称する。
【0034】
図7は噴霧槽4の図1におけるVII−VII矢視断面図であり、ガス噴射ノズル74A及びそれを構成する複数の噴射孔94の構成図である。図7にはガス噴射ノズル74Aを構成する複数の噴射孔94から噴射されるガスの流れを矢印254で示しており、各噴射孔94は噴霧槽4の内壁面の軸方向断面における接線方向と一致する中心軸を有する管で形成されている。この複数の噴射孔94は図7に示すように噴霧槽4の内周面の周方向において等間隔で配置されている。複数の噴射孔94のそれぞれは噴射ガス供給管(噴射流体供給管)3と接続されており、噴射ガス供給管3から高圧ガスの供給を受ける。なお、図7の例では同一平面上に4つの噴射孔94が90度間隔で配置されているが、旋回流81が発生可能であれば噴射孔94の数はその他の値でも良い。また、説明は省略するが、ガス噴射ノズル74Bもガス噴射ノズル74Aと同様に形成されている。
【0035】
−動作・効果−
(1)第1ガス噴射ノズル71(噴霧ノズル20A,20B)
上記のように構成された金属粉末製造装置において、噴射ガス供給管3からガス噴射器200に高圧ガスを供給すると、ガス噴射器200において第1ガス噴射ノズル71A,71Bを構成する全ての噴射孔91から噴霧槽4の内部に向かって噴射孔91ごとに予め定められた噴射方向(直線251(図4参照))に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。このとき、第1ガス噴射ノズル71A,71Bでは、それぞれの焦点(第1焦点)261に対してガスが集中噴射され、図5に示すような焦点261を頂点とし複数の噴射孔91が配置された円(環)61を底面とする逆円錐状(逆円錐形状)の流体膜101が形成される。この流体膜101を金属噴霧ガスジェット(第1ガスジェット)101と称することがある。
【0036】
一方、溶解槽1に溶融金属を投入すると、溶解槽1の底面に設けられた複数の溶湯ノズル11A,11Bを介して噴霧槽4の内部に対して2本の溶湯流8が流下される。そして、その溶湯流8は、第1ガス噴射ノズル71A,71Bに係る2つの焦点261の近傍で高圧ガスが形成する金属噴霧ガスジェット101と衝突して多数の微粒子15に粉砕される。
【0037】
本実施形態では2本の溶湯ノズル11A,11Bを構成する孔の最小内径として従前(例えば5mm程度)よりも小さな値(例えば1−2mm)を選択しているため、例えば第1ガス噴射ノズル71A,71Bから従前と同じ圧力でガスを噴射しても従前よりも径の細かな金属粒子を容易に得られる。また、従前と同じ圧力でガスを噴射した場合には噴霧槽4内での金属粒子の飛距離も抑えられるので、金属粒子の変形防止の観点から径の大きな噴霧槽4への取り替える必要や噴霧槽4の設置スペースを拡大する必要もない。一方、従前よりも最小内径を縮小しているため、溶湯ノズル11A,11Bごとでみれば時間あたりの溶湯流8の流量が従前より低下して収率が低下するものの、本実施形態では1つの噴霧槽4に対して2本の溶湯ノズル11A,11B(すなわち2つの噴霧ノズル20A,20B)を有するため、時間あたりの収率を2倍にすることができる。
【0038】
(2)第2ガス噴射ノズル72
また、噴射ガス供給管3からガス噴射器200に高圧ガスを供給すると、上記の第1ガス噴射ノズル71の場合と同様に、ガス噴射器200において第2ガス噴射ノズル72A,72Bを構成する全ての噴射孔92から噴霧槽4の内部に向かって噴射孔92ごとに予め定められた噴射方向(直線252(図6参照))に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。このとき、第2ガス噴射ノズル72A,72Bでは、それぞれの焦点(第2焦点)262に対してガスが集中噴射され、図6に示すような焦点262を頂点とし複数の噴射孔92が配置された円(環)62を底面とする逆円錐状(逆円錐形状)の流体膜102が形成される。この流体膜102を接触防止ガスジェット(第2ガスジェット)102と称することがある。
【0039】
このように第2ガス噴射ノズル72A,72Bが形成する接触防止ガスジェット102は、2つの噴霧ノズル20A,20Bのうち一方の噴霧ノズルから噴霧された微粒子15(例えば溶湯ノズル11Aから流下される溶融金属)と他方の噴霧ノズルから噴霧された微粒子15(例えば溶湯ノズル11Bから流下される溶融金属)が衝突することを防止するエアカーテンとして機能する。その結果、変形した金属粒子の発生が防止され、噴霧ノズル20A,20Bのみを備える場合と比較して金属粉末の製造効率を向上できる。
【0040】
また、本実施形態に係る金属粉末製造装置は、1つの噴霧槽4内に2組の噴霧ノズル20A,20Bを備えており、噴霧ノズル20が1組のみの従前のものに比して各噴霧ノズル20A,20Bから噴霧槽4の内壁面までの距離が短く、凝固前の金属粉末15が噴霧槽4の内壁面に衝突・付着しやすい構造となっている。この点に関し、本実施形態の第2ガス噴射ノズル72が形成する接触防止ガスジェット(第2ガスジェット)102は、金属噴霧ガスジェット(第1ガスジェット)101を外側から覆うような略円錐形状を有しており、微粒子15が噴霧槽4の内壁面に向かって飛散することを抑制できる。すなわち、本実施形態によれば、この観点からも金属粉末の製造効率を向上できる。また、例えば従前と同径の噴霧槽4を利用した場合であっても微粒子15の衝突を防止できるので、噴霧槽4の取り替えコストや設置スペースの増大を防止することもできる。
【0041】
なお、第1ガス噴射ノズル71からの噴射ガスによって微粒子15となり、第2ガス噴射ノズル72からの噴射ガスによって噴霧槽4の径方向への飛散を抑止された金属は、噴霧槽4内の落下中に急速冷却されて凝固して多数の金属粉として採集ホッパ5で回収される。
【0042】
(3)第3ガス噴射ノズル73
また、噴射ガス供給管3からガス噴射器200に高圧ガスを供給すると、上記の第1,2ガス噴射ノズル71,72の場合と同様に、ガス噴射器200において第3ガス噴射ノズル73を構成する全ての噴射孔93から噴霧槽4の内壁に向かって噴射孔93ごとに予め定められた噴射方向(直線253(図3参照))に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。このとき、第3ガス噴射ノズル73では、各噴射孔93から噴霧槽4における最寄りの内壁面に対してガスが噴射され、図2に示すような略円錐台状の流体膜103が形成される。この流体膜103を噴霧槽冷却ガスジェット(第3ガスジェット)103と称することがある。
【0043】
このように第3ガス噴射ノズル73が形成する噴霧槽冷却ガスジェット103は、噴霧槽4の内壁面に放出されて噴霧槽4を冷却する。これにより噴霧ノズル20A,20Bで噴霧された微粒子(金属粉末)15が噴霧槽4内で充分に冷却され易くなるため、噴霧槽4内で凝固せずにホッパ5に固着・堆積して収率が低下することが抑制できる。また、噴霧槽冷却ガスジェット103は、接触防止ガスジェット102と同様に微粒子15が噴霧槽4の内壁面と衝突することを防止する機能を発揮する。すなわち、本実施形態によれば、この観点からも金属粉末の製造効率を向上できる。
【0044】
(4)第4ガス噴射ノズル74
また、第4ガス噴射ノズル74(74A,74B)に高圧ガスを供給すると、第4ガス噴射ノズル74を構成する全ての噴射孔94から噴霧槽4の内壁に沿って噴射孔94ごとに予め定められた噴射方向(例えば図7における内周壁の接線方向)に従って同じ圧力の高圧ガスが噴射される。これにより図7に示す矢印254のようなガスの流れが噴霧槽4に発生し、その結果、噴霧槽4の中心軸の周りに噴霧槽4の内壁に沿った旋回流81が発生する。
【0045】
この旋回流81は、第2ガスジェット102,第3ガスジェット103と同様に微粒子15が噴霧槽4の内壁面と衝突することを防止する機能を発揮する。また、旋回流81は、噴霧槽4の水平面内における熱分布を均一化する作用を発揮するため、第3ガスジェット103との相乗効果により噴霧槽4の冷却性能を向上できる。すなわち、本実施形態によれば、この観点からも金属粉末の製造効率を向上できる。
【0046】
以上のように、第1ガス噴射ノズル71に加えて,第2,第3及び第4ガス噴射ノズル72,73,74を備える本実施形態の金属噴霧装置によれば、噴霧槽の体型を変えずに微細な金属粉末を効率良く製造できる。
【0047】
<その他>
本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例が含まれる。例えば、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、ある実施の形態に係る構成の一部を、他の実施の形態に係る構成に追加又は置換することが可能である。
【0048】
例えば、ガス噴射器200内のガス流路50はガス噴射ノズル71−73ごとに分離しても良いし、ガス流路50を複数に分離した上で各ガス流路に異なる圧力のガスを供給することで各ガス噴射ノズル71−73から噴射されるガス圧を変更・調整しても良い。また、各ガス噴射ノズル71−74の径を適宜異ならせても良い。
【0049】
上記の実施形態では、第1ガス噴射ノズル71に加えて、第2−第4ガス噴射ノズル72−74を備える場合を説明したが、第2−第4ガス噴射ノズル72−74のうち少なくとも1つのガス噴射ノズルを備える実施形態においても、金属粉末の製造効率の向上効果は発揮され得る。
【0050】
上記の第4ガス噴射ノズル74は、図7中における反時計回りに旋回流81を発生するように構成したが、時計回りの旋回流81を発生するように噴射孔94の向きを変更しても良い。また、第4ガス噴射ノズル74は、噴霧槽4の高さ方向の2箇所に設けたが、1箇所や3箇所以上設けても良い。
【0051】
上記の実施形態では1つ噴霧槽につき2つの噴霧ノズル20A,20Bを備える場合について説明したが、噴霧ノズルの数は1つに減らしても構わないし、3つ以上に増加しても構わない。
【0052】
また、上記ではガス噴射ノズル71−74から気体(ガス流体)を噴射する場合について説明したが水などの液体を噴射しても構わない。すなわち流体を噴射するノズルであれば本発明は適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0053】
Cg0…金属噴霧装置200(噴霧槽4)の中心軸、Cm1,Cm2…溶湯ノズル挿入孔の中心軸、1…溶解槽、3…噴射ガス供給管、4…噴霧槽、5…採集ホッパ、6…排気、7…溶融金属(溶湯)、8…溶湯流、10…噴射ガスジェット、11(11A,11B)…溶湯ノズル、12(12A,12B)…溶湯ノズル挿入孔、15…微粒子、20(20A,20B)…噴霧ノズル、21…溶湯ノズルの開口端、50…ガス流路、61…第1の環、62…第2の環、63…第3の環、71(71A,71B)…第1ガス噴射ノズル、72(72A,72B)…第2ガス噴射ノズル、73…第3ガス噴射ノズル、74(74A,74B)…第4ガス噴射ノズル、91…噴射孔、93…噴射孔、93…噴射孔、94…噴射孔、100…るつぼ、101…金属噴霧ガスジェット、102…接触防止ガスジェット、200…ガス噴射器、251…ガス噴射方向(噴射孔中心軸)、252…ガス噴射方向(噴射孔中心軸)、253…ガス噴射方向(噴射孔中心軸)、254…ガスの流れ方向、261…第1ガス噴射ノズルの焦点(第1焦点)、262…第2ガス噴射ノズルの焦点(第2焦点)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7