特許第6982025号(P6982025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982025
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】可撓性カテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/00 20060101AFI20211206BHJP
   A61M 25/10 20130101ALI20211206BHJP
【FI】
   A61M25/00 550
   A61M25/00 624
   A61M25/10 530
   A61M25/00 530
【請求項の数】29
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-87566(P2019-87566)
(22)【出願日】2019年5月7日
(62)【分割の表示】特願2016-549295(P2016-549295)の分割
【原出願日】2014年2月3日
(65)【公開番号】特開2019-162454(P2019-162454A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2019年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】511245271
【氏名又は名称】メディノール リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDINOL LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リクター、ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】チャペル、シュロミット
【審査官】 田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−518691(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/012528(WO,A1)
【文献】 特表2003−520651(JP,A)
【文献】 特開2006−271901(JP,A)
【文献】 米国特許第05409470(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/00
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近位側端部から遠位側端部まで長手方向に延びるカテーテル本体と、
前記長手方向に延びる前記カテーテル本体の前記遠位側端部に配置されている可撓性カテーテル先端部と
を備える可撓性カテーテルであって、
前記可撓性カテーテル先端部は、近位側端部および遠位側端部を有し、内腔の内腔径および外径を備えるばね部材を含み、
前記ばね部材は、第1領域には2巻以上の巻線の間にピッチの隙間があり、前記第1領域の遠位側の第2領域には隙間なく巻かれた巻線があるワイヤーコイルであり、
前記ワイヤーコイルは、前記ばね部材の前記近位側端部から前記ばね部材の前記遠位側端部へと徐々に減少する断面直径を有する
ことを特徴とする可撓性カテーテル。
【請求項2】
前記ワイヤーコイルは、前記ばね部材の前記近位側端部から前記ばね部材の前記遠位側端部へと徐々に減少する円状の断面直径を有するテーパーのついたワイヤーであることを特徴とする請求項1の可撓性カテーテル。
【請求項3】
前記ワイヤーコイルの外面には、前記ばね部材の前記遠位側端部が非円状の断面直径を有するように遠位側に向かうテーパーがついていることを特徴とする請求項1の可撓性カテーテル。
【請求項4】
前記ワイヤーコイルの外面の少なくとも一部が研磨されていることを特徴とする請求項3の可撓性カテーテル。
【請求項5】
前記ワイヤーコイルは、前記ばね部材の前記近位側端部における第1のコイル直径と、前記ばね部材の前記遠位側端部における第2のコイル直径をさらに含んでいることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項6】
前記第1のコイル直径は0.1mmであり、前記第2のコイル直径は0.05mmであることを特徴とする請求項5の可撓性カテーテル。
【請求項7】
前記第2のコイル直径は、前記第の1コイル直径より30〜70%小さいことを特徴とする請求項5の可撓性カテーテル。
【請求項8】
前記内腔径は実質的に一定であり、前記外径は遠位側に向かってテーパーがついていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項9】
前記内腔径のテーパー比は、前記ばね部材の前記外径よりも緩やかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項のカテーテル。
【請求項10】
前記隙間のあいた巻線のある前記第1領域が、約2〜10の巻線を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項11】
前記ピッチの隙間が、前記ワイヤーコイルの前記断面直径の0.5〜2倍の距離であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項12】
前記ワイヤーコイルの端部に、接着手段又はレーザー溶接部をさらに有することを特徴とする請求項1の可撓性カテーテル。
【請求項13】
前記ばね部材を部分的に覆い、部分的に露出させるジャケットをさらに含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項14】
前記ジャケットは、前記ばね部材の近位側部分を完全に覆うが、遠位側部分は覆わないことを特徴とする請求項13の可撓性カテーテル。
【請求項15】
前記ジャケットは、前記ばね部材の前記近位側部分を埋め込んでいることを特徴とする請求項13の可撓性カテーテル。
【請求項16】
前記ジャケットは、前記ばね部材の前記近位側端部の近位側に配置されている中間介在部分を有することを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項17】
前記ジャケットは、前記ばね部材の前記近位側端部の近位側を超えて近位側に向かって延びることを特徴とする請求項13〜15のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項18】
前記ジャケットは、前記ばね部材の長さの30%から70%を覆うことを特徴とする請求項13〜14のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項19】
前記ジャケットは、前記ばね部材の前記長さの50%から70%を覆うことを特徴とする請求項18の可撓性カテーテル。
【請求項20】
前記ジャケットは、前記ばね部材の周囲に延びることを特徴とする請求項13〜14のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項21】
前記可撓性カテーテルは、膨張可能なバルーンを備えるバルーンカテーテルであることを特徴とする請求項13〜14のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項22】
前記ジャケットは、前記膨張可能なバルーンに直接連結されていることを特徴とする請求項21の可撓性カテーテル。
【請求項23】
前記ジャケットは、前記膨張可能なバルーンの少なくとも一部まで延びていることを特徴とする請求項21の可撓性カテーテル。
【請求項24】
前記ジャケットは、可撓性構造によって前記バルーンから切り離されていることを特徴とする請求項21の可撓性カテーテル。
【請求項25】
前記外径には、前記可撓性カテーテルの前記遠位側端部の最も遠位側の縁部まで第1テーパー比の遠位側に向かうテーパーがついており、前記内腔径には、前記第1テーパー比のテーパーがついていないことを特徴とする請求項1〜24のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項26】
前記ばね部材の前記遠位側端部は、前記可撓性カテーテル先端部の最も遠位側の端部であることを特徴とする請求項1〜25のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項27】
前記カテーテル先端部の最も遠位側の縁部に位置する遠位側縁部構造をさらに備え、前記ばね部材には、遠位側に向かって前記遠位側縁部構造の近位側端部に対してテーパーがついていることを特徴とする請求項1〜24のいずれか一項の可撓性カテーテル。
【請求項28】
前記遠位側縁部構造は、遠位側に向かってテーパーがついていることを特徴とする請求項27の可撓性カテーテル。
【請求項29】
近位側端部から遠位側端部まで長手方向に延びるカテーテル本体と、
前記長手方向に延びる前記カテーテル本体の前記遠位側端部に配置されている可撓性カテーテル先端部と
を備える可撓性カテーテルであって、
前記可撓性カテーテル先端部は、近位側端部および遠位側端部を有し、内腔の内腔径および外径を備えるばね部材を含み、
前記ばね部材は、第1領域には2巻以上の巻線の間にピッチの隙間があり、前記第1領域の遠位側の第2領域にはピッチの隙間がないワイヤーコイルである
ことを特徴とする可撓性カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、脈管内カテーテルに関し、特に、たとえば、ステントのデリバリーおよび経皮血管形成術用の、可撓性カテーテル先端部に関する。本発明のカテーテル先端部は、カテーテルが狭窄血管や蛇行性脈管や過去に展開したステントを内蔵する脈管を横切らなければならないような経皮的処置に特に有用な特徴を備えるよう特別に設計されている。
【背景技術】
【0002】
[背景]
標準的なステントデリバリーシステムにおいて、カテーテルの近位側部分は、比較的剛性が高く可撓性がない材料から製造されることで、カテーテルに適切なプッシュ性能を付与している。対照的に、カテーテルの遠位側部分は、どちらかといえば可撓性を有するように製造され、ステントが蛇行性脈管を通って所望の対象まで適切にデリバリーされることを可能としている。
【0003】
バルーンカテーテルの場合、バルーンは、カテーテルの遠位側部分に配置され、収縮状態でデリバリーされ、カテーテルのインナー膨張チューブに巻き付いて、縮れさせたステントに覆われている。バルーンの遠位側ショルダーを、カテーテルのインナー膨張チューブに融着させてもよい。カテーテルはその全体が、ガイドワイヤー上を滑動するよう設計されており、カテーテル先端部は、カテーテルの先導部分として、たとえば、病変部に入り込んだり、湾曲した脈管を通過したり、脈管内の既存の展開済みステントを通過したりすることに寄与する。
【0004】
カテーテル先端部の属性は、カテーテルが脈管の粗面や脈管病変部もしくは障害物の表面や過去に展開したステントの支柱部にひっかかるか否かを決定する大きな因子である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステントデリバリーシステムのカテーテル先端部および血管形成術用バルーンシステムに装着されたカテーテル先端部の現行形態は、プラスチック材料からなり、デリバリー難度の高い組織を通してカテーテルをデリバリー可能にすることを目的とした先端形状を有する。デリバリー性向上のために、2つのパラメーターを調整することができる。カテーテル先端部は、湾曲した脈管に適合するため長手方向の可撓性を備えるよう設計することができるが、先端部形状およびその径方向剛性を、障害物にぶつかったときに、先端部の遠位側縁部のつぶれ、および/または、カテーテル先端部の近位側ネックのねじれが回避されるよう変更してもよい。カテーテル先端部は、長手方向の可撓性のためには非常に薄いか可撓性の大きい材料を必要とする一方で、プッシュ性能および径方向の剛性のためには厚みがあるか剛性の高い材料を必要とするので、両パラメーターを同時に最適化することが課題となっている。
【0006】
したがって、カテーテルのデリバリー性を最適化するために、長手方向の可撓性とプッシュ性能を有し、遠位側端部において、特に、遠位側縁部において、径方向の剛性を有する脈管内カテーテル先端部が、当該技術分野において必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の概要]
本発明は、長手方向の可撓性、プッシュ性能、および径方向の剛性をその遠位側端部に備えた脈管内カテーテル先端部を提供する。長手方向の可撓性とは、(たとえば、蛇行性脈管の通過を容易にするための)長手方向軸に沿って曲がる能力を意味する。本発明のカテーテル先端部は、2つの特徴を有する。カテーテル先端部の第1の特徴は、ばね状構造、すなわち、カテーテル先端部に所望の長手方向の可撓性とプッシュ性能とを付与するばね部材を含む。ばね部材は、任意の適切な材料、たとえば、金属やプラスチックから作ることができ、当該技術分野で公知の任意の方法で製造することができる。特に、ばね部材は、外径に遠位側に向かうテーパーをつけた、すなわち、直径が近位側端部から遠位側端部まで減少するものとすることができる。そのようなテーパー形状は、ばね部材の断面を減少させることによってカテーテルのデリバリー性を向上させるものであってもよい。テーパーをつける場合、ばね部材は、さらに、内径(内腔径)について、近位側端部から遠位側端部まで一定としてもよく、あるいは、外径よりも緩やかなテーパー比のテーパーをつけてもよい。カテーテル先端部−遠位側端部−の第2の特徴は、径方向の剛性を備え、遠位側端部が、朝顔形に広がってしまい、たとえば、カテーテルを、脈管を通過させて移動させる際に、斑(プラーク)や過去に植え込まれたステントの支柱部に引っかかってしまったりすることを防ぐために、丸めて、テーパーをつけてあるということである。ばね部材は、カテーテル先端部の第2の「遠位側端部」の特徴としての役割を果たしている。したがって、ばね部材は、カテーテル先端部の最も遠位側の部分に、長手方向の可撓性と、径方向の剛性と、プッシュ性能とを提供する。このように、ひとつのカテーテル先端部においてこれら2つの特徴を併せ持つものとすることで、本発明は、カテーテルのデリバリー性を向上させるための別のやり方では両立しえない構造的機能的なパラメーターを有するデバイスを提供する。
【0008】
一実施形態において、カテーテル先端部は、さらに、可撓性のスペーサー部を有し、スペーサー部は、バルーンの遠位側端部と連続し、ばね部材に取り付けられるか一体化され、ばね部材とともに、カテーテル先端部に長手方向の可撓性を付与する。
【0009】
他の実施形態において、ばね部材は、バルーンショルダーとばね自体とを連結するジャケットによって部分的に覆われていてもよい。ジャケットは、ばねの自然の特性を維持するのに役立つことができる。一態様において、ばね部材は、ジャケットに埋め込まれていてもよい。ばね部材をジャケットに埋め込むことで、ばねと、カテーテル先端部がバルーンと連結する遠位側融着部分との間の接着を強めることができる。本実施形態の好ましい態様において、ジャケットは、ばね部材の近位側領域を覆うか埋め込んで、遠位側領域、特に、遠位側端部が、露出した、すなわち、覆われず、埋め込まれていない状態にしておく。本実施形態の他の態様において、ジャケットは、ばね部材の近位側に延びるスペーサー部のような中間介在部分を有していてもよい。
【0010】
さらに他の実施形態において、ばね部材は、遠位側部分に、隙間なく巻かれた巻線を備え、近位側部分に、互いに隙間のあいた巻線を有する。
【0011】
さらに他の実施形態において、ばね部材は、カテーテル先端部の遠位側縁部まで延びるワイヤーコイルであり、コイルの遠位側縁部は、たとえば、脈管壁への損傷を最小化するために平滑化されている。本実施形態の一態様において、コイルの遠位側縁部は、レーザー研磨/溶接を適用することで平滑化されている。本実施形態の他の態様において、コイルの遠位側縁部は、接着手段を施すことで平滑化されている。
【0012】
このように、現在の特許請求の範囲に記載されているカテーテル先端部は、異なるテーパーがついたばね部材であって、前記カテーテル先端部の前記遠位側端部の遠位側縁部まで第1テーパー比の遠位側に向かうテーパーのついた外径と、前記第1テーパー比のテーパーのついていない内腔径とを有するばね部材を備えている。内腔径は、第2テーパー比のテーパーがついていてもよく、一定の径であってもよい。異なるテーパーがついたばね部材は、さらに、部分的にジャケットで覆われていてもよい。ジャケットは、ばね部材の近位側領域を覆い、ばね部材の遠位側領域は覆わず、ばね部材の遠位側端部はむき出しのまま、すなわち露出されたままにしておいてもよい。異なるテーパーがついたばね部材は、さらに、ばね部材の近位側領域および/または中央領域には2巻以上の巻線の間にピッチの隙間があり、ばね部材のより遠位側の領域には隙間なく巻かれた巻線があるワイヤーコイルであってもよい。
【0013】
また、現在の特許請求の範囲に記載されているカテーテル先端部は、組み合わせ型ばね部材を備え、その組み合わせには、以下の特性、すなわち、遠位側に向かうテーパーがついている、近位側領域に2巻以上の巻線の間にピッチの隙間があり、遠位側領域に隙間なく巻かれた巻線があるワイヤーコイル、部分的にジャケットに覆われている、という特性のうちの2ないしそれ以上を含む。これらの組み合わせ型ばね部材の実施形態のうちジャケットを有するものにおいて、そのジャケットは、ばね部材の近位側領域を覆い、ばね部材の遠位側領域は覆わず、ばね部材の遠位側端部はむき出しのまま、すなわち露出されたままであってもよい。これらの組み合わせ型ばね部材の実施形態のうち、ばねが遠位側に向かうテーパーのついたものにおいては、ばね部材は、第1テーパー比のテーパーのついた外径と、第1テーパー比のテーパーのついていない内径を有するものであってもよい。内腔径は、第2テーパー比のテーパーがついていてもよく、一定の径であってもよい。
【0014】
本発明の装置は、たとえば、ステントなど人工装具の脈管内デリバリーのために、あるいは、バルーン血管形成術のために用いることができる。バルーンカテーテルが用いられる場合、カテーテル先端部は、カテーテルの、バルーンに対して遠位側の部分を構成する。カテーテルにバルーンが装着されていない諸実施形態、たとえば、カテーテル自体を膨張可能なものとすることができる胆管ステントシステムにおいては、本発明のカテーテル先端部は、カテーテルを胆管を通して導くために、膨張可能なカテーテルの端部に装着することができる。一般に、カテーテル先端部は、そのカテーテルの遠位側縁部を数ミリメーター超えて延びるものであってもよい。
【0015】
デリバリー性のパラメーターを強化するという利点に加え、本発明のカテーテル先端部のもう一つの望ましい効果としては、放射線不透過性が高いことが挙げられる。高い放射線不透過性によって、カテーテルを処置対象組織内に挿入する間、カテーテル先端部の位置に係る有益なフィードバックを、オペレーターに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ばね部材を含み、ステントデリバリーシステムに装着されている、本発明のカテーテル先端部の実施形態を示す。
図1A】カテーテル先端部上のばね部材の位置を示す。
図2】ばね部材が部分的に覆われ、先端部の遠位側端部が露出したばねである、本発明のカテーテル先端部の実施形態の断面図を示す。
図2A】ばね縁部に接着手段が施されている図2のカテーテル先端部の遠位側端部の一態様を示す。
図3】隙間のあいた巻線および外径が漸減しているコイルワイヤーを組み合わせたテーパーのついたばね部材の実施形態の断面図を示す。
図4】一定の内径を有する、テーパーのついたばね先端部の実施形態の断面図を示す。
図5A】湾曲した脈管内においてバルーンカテーテルシステムに装着された従来型カテーテル先端部を示す。
図5B】湾曲した脈管内においてバルーンカテーテルに装着された本発明の可撓性カテーテル先端部の実施形態を示す。
図6A】従来型カテーテル先端部の先端部縁部の突出を示す。
図6B】ばね部材および径方向に剛性を有する遠位側端部を備えた本発明の可撓性カテーテル先端部の実施形態の先端部縁部の突出がないことを示す。
図7A】狭窄脈管内のバルーンカテーテルに装着された従来型カテーテル先端部を示す。
図7B】狭窄脈管内のバルーンカテーテルシステムに装着された本発明の可撓性とプッシュ性能を有するカテーテル先端部の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一つのカテーテル先端部に他のやり方では両立しえない2つのパラメーターを組み合わせることによって脈管内カテーテルのデリバリー性を高めるために、本発明の装置は、長手方向の可撓性とプッシュ性能と径方向の剛性とを備えたカテーテル先端部を提供する。特に、本発明のカテーテル先端部は、ばね部材を備え、ばね部材は、長手方向の可撓性があるだけでなく、カテーテル先端部にプッシュ性能を与えることもできて、径方向の剛性も備えることができる、すなわち、カテーテル先端部に径方向の支えを付与することができる。本発明のカテーテル先端部は、遠位側端部を有する。遠位側端部は、先端部にプッシュ性能を付与する材料から作られており、テーパーのついた形状と、湾曲したガイドワイヤーに沿って滑動しつつカテーテル先端部の遠位側縁部が朝顔形に広がることを防止ないし最小化するための充分な径方向の剛性とを有している。カテーテル先端部の遠位側端部は、ばね部材の遠位側部分であってもよい。代替的に、カテーテル先端部の遠位側端部は、ばね部材の遠位側端部を超えて延びる構造体を含むものであってもよい。
【0018】
ばね部材は、近位側端部から遠位側端部までテーパーのついた外径を有していてもよい。ばね部材の内腔は、一定の内径を有するものであってもよく、遠位側にむかってテーパーがついていてもよいが、その場合、外径よりもテーパー比は小さい。ばね部材は、部分的に覆われていたり埋め込まれていたりしてもよい。覆ったり埋め込んだりする材料は、ばね部材の近位側部分を覆うように延びており、好ましくは、遠位側端部または遠位側端部を含むばね部材の遠位側部分は露出した状態となっている。覆ったり埋め込んだりする材料は、ばね部材とバルーンショルダーとを連結するものであってもよく、ばね部材とバルーンショルダーとの間に広がるスペーサーのような中間介在部分を含んでいてもよい。
【0019】
ばね部材は、さらに、カテーテル先端部にプッシュ性能を付与する隙間なく巻かれた巻線を備えていてもよい。しかし、一実施形態において、ばね部材は、ばねの近位側領域に、2巻以上の互いの間にピッチの隙間があいた巻線を含んでいる。ここで使用されているように、「ピッチの隙間(pitch space)」という用語は、一般的な用語における、隣接する巻線間隙間を意味し、「ピッチ」とは、螺旋ひと巻分をばね部材の軸線に沿って測ったときの幅である。
【0020】
本発明の新しい組み合わせた特徴によって、オペレーターは、カテーテル先端部の遠位側縁部が内腔壁の凸凹の表面や過去に植え込まれたステントに引っかかるリスクを最小化しつつ、脈管内カテーテルを、ガイドワイヤーに沿って、蛇行性脈管や病変のある脈管や狭窄脈管やステント留置された脈管を通して案内することができるとともに、可撓性カテーテル先端部が脈管の狭窄や閉塞部分の抵抗に対して座屈したりつぶれたりするリスクを最小化することもできる。
【0021】
以下、本発明の装置について、添付の図面を参照しつつ、検討と説明を加える。図面は、典型的な本発明の理解の一例として、本発明の特定の実施形態を模式的に図示するために提供されているものであることに留意されたい。熟練技術者であれば、同様に本発明の範囲に含まれる他の類似した例があることを容易に理解するであろう。図面は、添付の特許請求の範囲において定義した本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0022】
本発明のカテーテルチップは、ばね部材を含み、ばね部材は、カテーテル先端部に、長手方向の可撓性だけではなく、プッシュ性能をも提供する。また、ばね部材は、カテーテル先端部に径方向の剛性を付与するものでもある。本発明のカテーテル先端部20の実施形態は、図1および図1Aに、バルーン膨張式ステントデリバリーシステムに装着されたものが図示されている。図1には、バルーン80と、バルーン膨張式ステント85と、オプションとして追加可能な放射線不透過マーカー15と、ばね部材30を含むカテーテル先端部20とが図示されている。ここでは、バルーン膨張式ステントシステムに装着されたものが図示されているが、カテーテル先端部20は、蛇行性のもしくは部分的に通りにくくなっている内腔を進むために利用される任意のカテーテル上に設けられて使用することができる。図1Aにおいてより詳細に示されているように、本発明のカテーテル先端部20のこの実施形態は、ばね部材30として、たとえば、この実施形態では、引張コイルばねを含んでいる。
【0023】
図1および1Aに示すように、カテーテル先端部20がバルーン膨張式ステントシステムに装着して使用される場合、ばね部材30は、バルーン80の遠位側に配置され、この実施形態においては、遠位側に向かうテーパーがついている。ばね部材30は、図1に示すように、バルーンショルダーに当接していてもよい。代替的に(図示していないが)、ばね部材30は、バルーンショルダーから、遠位方向に一定距離、たとえば1または2mm離れた位置に、あるいは、近位方向に、バルーンの中央部までまたは近位側融着部分(すなわち、バルーンの近位側端部とカテーテルのアウターチューブとの間の接合部)まで、配置されていてもよい。本発明のカテーテル先端部20は、ばね部材30を備え、このばね部材30が、カテーテル先端部20の遠位側縁部45まで延び、カテーテル先端部20の遠位側端部40にプッシュ性能および径方向の剛性を与えている。他の実施形態において、カテーテル先端部20の遠位側縁部45は、ばね部材の遠位側端部に取り付けられた長さの短い構造体(図5B参照)であって、プラスチックやポリアミドなどのポリマーからなるものを含んでいてもよい。ばね部材30は、外径にカテーテル先端部の遠位側端部に向かうテーパーがついている。
【0024】
ばね部材30がバルーン80のショルダーから一定距離だけ離れた位置に配置されている場合、カテーテル先端部20は、バルーン80の遠位側端部とばね部材30の近位側端部との間の距離を埋めるスペーサー部(図示せず)を含んでいてもよい。スペーサー部は、バルーンショルダーの遠位側端部をばね部材30の近位側端部に連結し、好ましくは、長手方向に可撓性がある。スペーサー部を製造するために用いられる材料としては、たとえば、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)ポリウレタンなどのブロック共重合体や、同様の適切な材料を挙げることができる。スペーサー部およびばね部材30は、熱融着によって連結されるものであってもよい。代替的に、ばね部材30は、ジャケット38(図2を参照して後述)に覆われていても、その中に埋め込まれていてもよく、ジャケット38は、ばね部材30の近位側端部を超えてバルーンのショルダーまで延び、それによって、ばね部材30とバルーン80の間のスペーサーもしくは中間介在部分39(図6B参照)を提供するものであってもよい。ジャケット38に適した材料としては、ポリウレタンや、PEBAXなどのブロック共重合体や、その他の適切な材料が挙げられる。一態様において、ジャケット38は、たとえば、融着または接着によって、バルーンの遠位側ショルダーにあらかじめ接合させておいてもよい。他の態様において、ばね部材は、加熱によって、ジャケットに接合させてもよい。
【0025】
図2に示す他の実施形態において、カテーテル先端部120は、ジャケット38によって全体があるいは一部が覆われているばね部材130を含んでいる。ジャケット38は、ばね部材30を遠位側融着部分81に直接連結してもよいが、バルーンショルダーとばね部材との間に可撓性構造を提供する中間介在部分を含んでいてもよい。ジャケット38が中間介在部分39を含むこの実施形態の態様(図6B参照)においては、ばね部材130は、バルーンショルダーから、遠位方向に一定距離、たとえば1または2mm離れた位置に配置されていてもよい。ジャケット38が中間介在部分を介さずバルーン80とばね部材130とを連結する、この実施形態の図2に示すような態様においては、ばね部材130は、バルーンショルダーに、すなわち、遠位側融着部分81において、当接するものであってもよい。代替的に、ばね部材は、近位側に向かって、ジャケットの近位側端部を通って、たとえば、バルーン80の中央部まで、あるいは、図示せぬ近位側融着部(すなわち、バルーンとカテーテル本体のアウターチューブとの間の接合部)まで延びていてもよい。どちらの態様においても、ジャケット38は、それによって、ばね部材130をバルーン80に取り付けるためのバルーン80の遠位側融着部分81におけるばね部材130とカテーテルの本体との適切な接着手段を提供するものとしてもよい。図2に示した特定のジャケット38の実施形態は、中間介在部分(スペーサー)を含まないので、ばね部材130を遠位側融着部分81でバルーンショルダーに連結する。
【0026】
ジャケット38は、ばねの自然の特性を維持すると同時に丈夫な埋め込み材料を提供するのに役立つ。ジャケット38が、ばね部材の全体または一部を覆うので、ばね部材130の遠位側端部140は、完全に露出したままにしておくことができる。ばね部材130の露出した部分の長さは、さまざまに大きく異なるものとすることが可能で、たとえば、ばねの長さの約30〜約70%の間、または、ばねの長さの約30%〜約50%の間、または、ばねの長さの約50%〜約70%の間、または、ばねの長さの約40%〜約60%の間、または、ばねの長さの約30%〜約40%の間とすることができる。任意のばね部材が、たとえば、図1、2、3、4に示されているばね部材30,130、230、330が、このように、本発明のカテーテル先端部にしたがって、ジャケット38により部分的もしくは全体的に覆われ、あるいは埋め込まれるものとしてもよい。
【0027】
ばね部材30、130、230、330は、カテーテル先端部20、120の遠位側縁部45まで延びて事実上カテーテル先端部の遠位側端部40、140を構成するワイヤーコイルであってもよい。したがって、カテーテル先端部の遠位側縁部45が脈管壁と直接接触する可能性があるため、このワイヤーコイルの端部は平滑にする必要があるかもしれない。ワイヤーコイルの近位側端部も平滑にするのが望ましいかもしれない。図示せぬワイヤーコイルばね部材の両端部を平滑化するための手段として、レーザー研磨/溶接をコイル端部に施すことによって、端部を平滑化するとともに、ワイヤーコイルの端部をばね部材の隣り合う巻線、すなわち、隣接巻線47に固定することが挙げられる。この「隣接巻線」47は、ワイヤーコイルの遠位側端部が平滑化されているのか近位側端部が平滑化されているのかによって、最も遠位側の、あるいは、最も近位側の巻線となるだろう。代替手段としては、図2Aに示すような隣り合う巻線47にコイルワイヤー縁部を連結する接着剤もしくは任意の他のタイプの接着手段48を使用することが挙げられる。接着手段48は、自由縁部ワイヤーコイル端部をなくし、ワイヤーコイルの端部のとがった縁部を平滑にするとともに該端部を隣接巻線に固定する役割を果たす。レーザー溶接または他の接着手段は、好ましくは、とがった縁部のように、組織に外傷を生ぜしめる可能性のある余分な材料の流出を残さないようにすべきである。
【0028】
一般に、ばね部材30、130、230、330は、カテーテル先端部の遠位側縁部45の断面が逓減するように、遠位側に向かうテーパーがついていてもよい。テーパーをつけることで、結果として進入断面が小さくなり、それによって、デリバリー性と通過性を高め、狭まった、および/または、狭窄した脈管、および/または、石灰化した病変部を通過させ易くなる。一部の適用例に対しては、テーパーのついたばね部材の内径(内腔径)は、それ自体はテーパーがついていないのが好ましいかもしれない。そのような実施形態においては、ばね部材は、ばね部材の全長にわたって、内径(内腔径)が一定である。換言すれば、内径は、ばねの端から端まで同じであり、外径は、遠位側方向に行くにつれ徐々に縮径している。代替的に、ばね部材の内径を、遠位側に向かって狭くなるが、外径の狭まる割合よりも小さい割合で狭まるように、すなわち、外径よりもテーパー比が小さくなるようにしてもよい。ばね部材およびカテーテル先端部のテーパーの実際の程度を決めるのは、外径の狭まり(縮径率)である。
【0029】
一定もしくは略一定の内径をもつばねを備えることの利点の一つは、それが、ばね部材とそれを通過するガイドワイヤーとの間の内部摩擦を規制および制限することができることである。もう一つの利点は、ばね部材と、製造中にカテーテルを装着するマンドレルとの間の摩擦を制限する点にある。本発明のカテーテル先端部に用いる内径が一定のテーパーのついたばね部材の例示的諸実施形態が、図3図4に図示されている。
【0030】
ばね部材の内径を一定もしくは略一定としつつ外径をテーパーのついたものとする方法のひとつに、ばね部材を、テーパーのついたワイヤーからコイル状ワイヤーとして製造することがある。「テーパーのついたワイヤー」とは、その端から端まで徐々に減少する断面直径31を有するワイヤーを意味する。このようなテーパーのついたばね部材230が、図3に示されている。この特定の非限定的な実施形態において、第1の端部(ワイヤーコイルの近位側端部46)で、ワイヤーの断面直径31は0.1mmであり、第2の端部(ワイヤーコイルの遠位側端部45)では、ワイヤーの断面直径31は0.05mmである。ワイヤー断面直径31について、ばね部材230に対する望ましいテーパーの程度によって、他の漸進変化を採用することもできる。たとえば、テーパーのついたワイヤーの断面直径は、第1の端部と第2の端部の間で、約30〜70%減少してもよい。テーパーのついたワイヤーから形成されたばね部材230について一定の内径すなわち内腔径を維持しつつテーパーのついた外径を獲得することは、製造中、テーパーのついたワイヤーを一定の直径のマンドレルに巻き付けることによって確実に実現することができる。得られたワイヤーコイルばね部材230の内腔径は、一定もしくは略一定に維持され、漸減するワイヤー直径の効果は、得られたばね部材230の外径の減少においてあらわれる。同様に、外径よりもテーパーの小さい内腔径は、製造中、テーパーのついたワイヤーの断面直径よりもテーパー比の小さなマンドレルに、テーパーのついたワイヤーを巻き付けることによって、実現することができる。
【0031】
図4に、遠位側に向かうテーパーのついた外径と、一定もしくは略一定の内(腔)径とを有するテーパーのついたばね部材330の他の実施形態を示す。図4の実施形態を製造する方法は、テーパーのついていないばね部材(たとえば、その端から端まで一定の外径を有するコイル)を最初の素材とし、ばね部材の外面をレーザー放射または化学エッチングもしくはワイヤーコイルの外面を研磨(grinding or abrading)する他の手段にかけて、遠位側端部45に向かって徐々に断面直径31aが減少するワイヤーコイルを作成することを含む。これにより、ばね部材330のコイルは、内腔径が実質的に一定に維持され、その外面側が遠位側に向かうテーパーがついたものとなる。したがって、この実施形態の一態様において、最初のワイヤーの断面直径は、たとえば、100μmで、ばね部材330の近位側端部46から遠位側端部45まで約30〜70%の間の割合で、遠位方向に向かって減少するようにしてもよい。コイル(巻線)の外面を所望のテーパーに研磨した後、ばね部材330は、脈管壁の損傷を最小化するために平滑表面を作出すべく磨い(polish)てもよい。
【0032】
図2図3に示したばね部材130、230は、さらに、本発明のカテーテル先端部に内蔵することができるもうひとつの特徴を示している:すなわち、隙間のあいた巻線である。一般に、本発明のばね部材における巻線は、ピッチの隙間を設けず隙間なく巻かれている。隙間なく巻かれた巻線は、カテーテル先端部にプッシュ性能を付与する。しかし、一実施形態において、ばね部材130、230のいくつかの巻線は、間に隙間がある。このような隙間のあいた巻線は、ばね部材130、230の、バルーンショルダーまたはスペーサーに融着される近位側端部46近傍に配置することができる。そのようなばね部材130、230の隙間のあいた巻線の数は、2〜10巻の範囲とすることができる。したがって、図3に示すように、ばね部材230の第1領域Bには、ピッチの隙間があり、第2領域Cには、隙間なく巻かれた巻線がある。好ましくは、第2領域は、第1領域よりも遠位側にある。図2に示した実施形態は、ピッチの隙間がある巻線の数は少ない。隣り合う隙間のあいた巻線間の間隔の例としては、ワイヤーの断面直径の0.5〜2倍の範囲とすることができる。
【0033】
ばね部材の一部にピッチの隙間を含むものとする目的の一つは、バルーンショルダー、遠位側融着部分81との連結点における接着力を向上させることである。理論的必然ではないにせよ、ジャケット38(図2)が巻線間の隙間に押し込まれるであろうから、接着力は強化されるだろう。それによって、ジャケットとばね部材との間の接触領域が増え、ばねとジャケットとの間の摩擦が増加し、結果として、その領域の接着力が増加するのである。
【0034】
図5A〜7Bに、本発明のカテーテル先端部の、従来型カテーテル先端部に対する優位性を示す。
【0035】
図5Aには、良好なプッシュ性能を達成するため剛体でできている従来型カテーテル先端部が、どのように、湾曲した脈管の内腔の粗面に引っかかる可能性があるのかが示されている。図5Aに示されているのは、従来型カテーテル先端部1と、従来型カテーテル先端部1が例として装着されているバルーンカテーテルのバルーン80と、ガイドワイヤー50である。ガイドワイヤー50は、脈管壁90の湾曲部分に接触すると、図5Aに示されているように、長手方向に沿って屈曲しようとする。従来型カテーテル先端部1は、ガイドワイヤー50に比べ長手方向の可撓性が小さい。したがって、図5Aの差込み図により詳しく示したように、従来型の剛性の高いカテーテル先端部1の遠位側縁部5は、屈曲したガイドワイヤー50から逸れて脈管壁の方へ突き出し、脈管壁90の内腔の粗面91に引っかかる可能性があり、カテーテルのデリバリー性の確保が困難になり、脈管壁90に損傷を来すおそれがある。同様に、カテーテルがステント留置された脈管を横切らなければならない場合には、そのような従来型デバイスの突き出した遠位側縁部5が、過去に展開されたステントの支柱などの構造体に引っかかる可能性がある。
【0036】
図5Bに、カテーテル先端部の遠位側縁部が湾曲した脈管の内腔壁の粗面に引っかかるリスクを最小化する本発明の実施形態の特徴を示す。具体的に、図5Bには、湾曲した脈管内にばね部材30を含むカテーテル先端部20と、カテーテル先端部20が例として装着されているバルーンカテーテルのバルーン80とが示されている。ばね部材30は、可撓性だが、隙間なく巻かれた巻線のおかげでプッシュ性能という特性を有し、径方向には剛性がある。図5Bに示したカテーテル先端部の実施形態において、ばね部材30は、カテーテル先端部20の遠位側縁部45まで延びてはいないが、カテーテル先端部は、ばね部材30の遠位側端部にたとえば接着や融着で取り付けられた長さの短い構造体41を有している。ばね部材30の端部巻線に取り付けられている長さの短い構造体41は、プラスチックやポリアミドのようなポリマーでつくることができる。図5Bの差込み図には、ばね部材30の長手方向の可撓性が、より詳細に示されている。ばね部材30の長手方向の可撓性によって、カテーテル先端部20は、ガイドワイヤーが脈管内腔の湾曲とともに横に撓むのに伴い、ガイドワイヤー50とともに撓み易くなるので、長さの短い構造体41が、ガイドワイヤー50とともに緊密に追従することが可能で、遠位側縁部45は、突き出して脈管壁90の内腔の粗面91に引っかかることがない。この実施形態において、ばね部材30および長さの短い構造体41には、図5Bの差込み図に示すように、テーパーがついていて、そのテーパーのおかげで、さらに、遠位側縁部45が脈管壁90の内腔の粗面91に引っかかるリスクを低減させることができる。カテーテル先端部20の長さの短い構造体41の好ましいテーパーのついた形状は、加熱によって作出することができる。ばね部材30が遠位側に向かうテーパーがついており、カテーテル先端部20の遠位側縁部45まで延びている諸実施形態においても同様に、ガイドワイヤー50とともに緊密に追従するよう動作し、遠位側縁部45は、突き出して脈管壁90の内腔の粗面91に引っかかることはない。この実施形態または他のいずれかの実施形態において、ばね部材30は、平滑な表面を作出し、ばねの可撓性という特性を変質させずに構造体の追従性を向上させるため、可撓性ポリマーなどの材料からなる層であるジャケットに一部または全部が覆われ、もしくは埋め込まれていてもよい。そのような被覆体の材料としては、たとえば、ポリウレタンや、PEBAXが挙げられる。
【0037】
図6Aは、バルーン血管形成システムに装着された従来型カテーテル先端部1を示す図であり、同時にバルーン80も示し、カテーテル先端部1の遠位側縁部5の突出の技術的課題を示している。従来型カテーテル先端部1の全長にわたり可撓性と径方向の剛性が欠けていると、従来型カテーテル先端部1の遠位側縁部5aが、ガイドワイヤー50が脈管内を湾曲するところでガイドワイヤー50から逸れて突き出すことになりがちである。従来型カテーテル先端部の遠位側端部の内径が大きく壁が厚いと、遠位側縁部の突出という問題がさらに助長される可能性がある。
【0038】
対照的に、図6Bは、本発明によるカテーテル先端部20が可撓性と径方向の剛性をあわせもつことで、どのように、本発明の(同様にバルーン血管形成システムのカテーテルに装着されている)カテーテル先端部の実施形態において遠位側縁部45が朝顔形に広がってしまう事態を最小限にとどめているかを示している。図6Bには、ジャケット38およびテーパーのついたばね部材30を含むカテーテル先端部20と、バルーン血管形成システムのバルーン80と、ガイドワイヤー50とが示されている。この特定の実施形態において、ジャケット38は、ばね部材30を部分的に覆っており、中間介在部分39を備えている。ジャケット38の中間介在部分39は、ばね部材30の近位側で、バルーン80の遠位側ショルダーまで延びている。ばね部材30の径方向の剛性とテーパーのついた形状とが、ばね部材30の可撓性と相俟って遠位側縁部45のガイドワイヤーからの突出を制限している。ばね部材30の長手方向の可撓性によって、カテーテル先端部20がガイドワイヤーとともに屈曲可能とされているので、ガイドワイヤーから遠位側縁部45にかかる力が最小限に抑制され、遠位側縁部45まで延びるばね部材30の径方向の剛性によって、塑性変形が最小限に抑制される。図6Bに示すように、ガイドワイヤー50が屈曲しても、そのカテーテル先端部20の遠位側縁部45がガイドワイヤー50から突き出すことにはならない。ばね部材30は、カテーテル先端部20の遠位側縁部45まで延び、隙間なく巻かれた巻線を有しているため、プッシュ性能と径方向の剛性という2つの特性をともにカテーテル先端部20の遠位側端部に付与するものとなっている。好ましくは、この代替実施形態においては、ばね部材30は、外径に遠位側に向かうテーパーがついている。
【0039】
従来型カテーテル先端部により保たれている剛性と弾性との間の推定される妥協点により、図7Aに示すような脈管の狭窄部分にカテーテル先端部がぶつかったとき捩れを生じるおそれがある。たとえば、捩れは、カテーテル先端部内のバルーンの遠位側端部近傍や他の局所的に柔軟または弾性を有する点で起こる可能性がある。バルーンカテーテルに装着された従来型カテーテル先端部(狭窄95を有する血管90内を通ってプッシュされているところ)が、図7Aに図示されている。また、図には、従来型カテーテル先端部1が例として装着されているバルーン血管形成術用バルーン用のバルーン80と、ガイドワイヤー50も示されている。狭窄95を通過させて従来型カテーテル先端部を前進させると、狭窄物がカテーテル先端部に抗する摩擦ないし抵抗を生じ、従来型カテーテル先端部1は、血管斑(プラーク)の固い物質の方に進路を向けざるを得なくなり、図7Aの差込み図に示すような、捩れや座屈を生じる。これは、狭窄物が、かなり大きな石灰沈着を含む場合(まれな事象ではない)に特に問題となる。
【0040】
対照的に、本発明の可撓性カテーテル先端部は、より優れたプッシュ性能を提供するとともに、その可撓性本体のおかげで捩れを生じることがない。このことを、図7Bに、バルーンカテーテルに装着された本発明の実施形態を、狭窄脈管内を通してプッシュしている図として示した。図中、遠位側縁部45まで延びるばね部材30を含むカテーテル先端部と、カテーテル先端部が例として装着されているバルーン血管形成システムのバルーン80と、ガイドワイヤー50とが示されている。この特定の実施形態において、ばね部材30は、第1領域にはいくつかの巻線の間にピッチの隙間があり、第1領域の遠位側の第2領域にはないワイヤーコイルである。ばね部材30は、カテーテル先端部20に長手方向の可撓性および径方向の支えだけでなく、強化されたプッシュ性能も提供することができるので、狭窄95によって本発明のカテーテル先端部に対して作用する摩擦のせいで、カテーテル先端部20が捩れることはない。
【0041】
本発明によるばね部材としては、長手方向の可撓性と径方向の剛性とプッシュ性能といった望ましい特性を有する任意の構造が適合可能である。ばね部材の例としては、引張コイルばね、アコーディオンプラスチックチューブ、編組アコーディオンプラスチックチューブが挙げられる。一部のばね(たとえば、圧縮ばねを含む)は、ばね部材としては好まれない。引張コイルばねは、カテーテルがプッシュされる際のカテーテルのプッシュ性能やカテーテル先端部のコントロールに悪影響を与えかねないばねの圧縮や変形を許容することなく、長手方向軸線に沿って屈曲することにつながる主として隙間なく巻かれた巻線を有する。
【0042】
ばね部材に適した材料としては、たとえば、ステンレス鋼や、コバルトクロムや、ニチノールなどの、本明細書から当業者であれば明らかであるような適切な材料を含む。ばね部材のばね定数の適切な範囲は、0.3〜25gF/mmである。ばね部材がコイル状のワイヤー−たとえば、ステンレス鋼ワイヤー−からなるものである場合、ワイヤーの直径は、0.025〜0.3mm、好ましくは、0.06〜0.2mmの範囲とすることができる。当業者であれば、これらのパラメーターから、他の材料から構成したばね部材の場合の適切なワイヤー直径範囲を判断するであろう。ばね部材は、カテーテル先端部に高い放射線不透過性を付与することでカテーテル先端部のよりよい造影を可能にするために、放射性不透過性材料を用いて構成してもよい。
【0043】
本発明のカテーテル先端部の諸実施形態は、本出願書類中、バルーン膨張式ステントシステムおよびバルーン血管形成システムのカテーテルに装着されるものとして図示し説明した。しかし、カテーテル先端部は、たとえば、自己膨張式ステントシステムを含む脈管内カテーテルや、他の脈管内人工装具デバイスをデリバリーするために用いられる脈管内カテーテルや他の治療用脈管内カテーテルに装着して使用することができるものと考えられる。
【0044】
本出願書類において諸実施形態を通じて特定的に図示し説明した事項に対して、本発明の精神ないし範囲から逸脱することなく、多くの変形や追加や修正がなされ得、他の用途が構想され得ることは、当該技術分野の技術者であれば理解されるだろう。したがって、添付の特許請求の範囲により定義されているような本発明の範囲は、すべての予測可能な変形や追加や修正もしくは用途を包含するものであることが意図されている。
図1
図1A
図2
図2A
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B