(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982030
(24)【登録日】2021年11月22日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】車両用ドアシール材
(51)【国際特許分類】
B60J 10/22 20160101AFI20211206BHJP
B60J 10/25 20160101ALI20211206BHJP
B60J 10/26 20160101ALI20211206BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20211206BHJP
B60J 10/86 20160101ALI20211206BHJP
【FI】
B60J10/22
B60J10/25
B60J10/26
B60J10/50
B60J10/86
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2019-125349(P2019-125349)
(22)【出願日】2019年7月4日
(65)【公開番号】特開2021-11146(P2021-11146A)
(43)【公開日】2021年2月4日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219705
【氏名又は名称】東海興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002033
【氏名又は名称】特許業務法人東名国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 真人
(72)【発明者】
【氏名】水谷 弘次
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
【審査官】
森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−254617(JP,A)
【文献】
特開2006−015923(JP,A)
【文献】
特開2004−017904(JP,A)
【文献】
特開2002−127756(JP,A)
【文献】
特開2011−178220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/00−10/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部座席側のドア及び車両本体の間をシールする車両用ドアシール材であって、
前記ドアの一部と当接し、取設されるシール基部と、
前記シール基部と一体的に成形され、前記ドアを閉じた際に前記車両本体と少なくとも一部が当接し、前記ドア及び前記車両本体の間で一部が押し潰されて変形する中空構造のシール部と、
前記シール基部及び/または前記シール部と一体的に成形され、所定方向に突出した舌状のリップ部と、
前記リップ先端部に取設され、前記ドアの一部と係止される係止部と
を具備し、
前記リップ部は、
前記シール基部及び前記シール部の長手方向に沿って成形されるとともに、前記シール基部及び/または前記シール部からの突出幅が、前記リップ部のリップ先端部に向かって漸次拡がるように形成され、
拡開して形成された前記リップ部によって前記ドア及び前記車両本体の隙間を遮蔽する車両用ドアシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアシール材に関する。更に詳しくは、自動車のドアや車両本体(ボディ)に開口した車両開口部等の周縁に沿って取設され、ドアを閉じた際に弾性変形することで雨水等の車両内部への浸入等を防止するための車両用ドアシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ドアシール材(「車両用ウェザーストリップ」とも呼称される。)は、可動部材としてのドア及び/または固定部材としての車両本体の車両開口部の周縁に沿って取設されている(例えば、特許文献1参照)。かかる車両用ドアシール材(以下、単に「シール材」と称す。)は、ドアを車両開口部に対して近接させ、閉める操作を行うことでドア及び車両本体の間に取設されたシール材が弾性変形し、挟まれた状態になる。
【0003】
これにより、シール材の弾性復元力(或いは、弾性反発力)によって、当該シール材がドアまたは車両本体に強く押し付けられることとなり、ドア及び車両本体の隙間を塞ぎ、雨水等の浸入経路を遮断することができる。その結果、水、或いは水以外の塵や埃等の小さな夾雑物、アリ等の小さな昆虫等が車両内部へ侵入することを防いだり、車両外部の騒音や風などが侵入することを防いだりすることができる。これにより、シール材によって運転中等のドライバーや同乗者を不快にさせることがなく、常に快適な車内空間を保つことができる。
【0004】
シール材の基本的な構成は、例えば、
図7に示されるようなものである。すなわち、シール材100は、ドアや車両本体等(図示しない)に周知の固定手段(例えば、クリップ等)を介して固定されるシール基部101と、当該シール基部101と一体的に成形され、ドアを閉じた際にその一部が押し潰されて変形する中空構造のシール部102と、シール部102と一体的に成形され、シール部102の外面102aから外方向に向かって突出した板状若しくは舌状のリップ部103とを主に具備している。
【0005】
上記シール材100は、弾性変形可能なゴム材料を主原料として形成され、所定の温度に加熱して粘度を調整した溶融性の主原料を押出成形技術や型成形技術(射出成形技術)等の周知の樹脂成形技術を用いて所望の形状に成形することができる。ここで、シール材は、ドア等の周縁に沿って取設されるため、一般的に長尺状の形状を呈している。そのため、主として、押出成形技術によって形成されることが多い。なお、
図4は押出成形されたシール材100の断面形状を模式的に示すものである。また、主原料として使用される弾性変形可能なゴム材料等の樹脂材料としては、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、或いはその他の熱可塑性エラストマー等が主に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−78720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、EPDM等から形成されたシール材は、ドア及び車両本体の間を弾性変形しながら水等の経路を遮蔽することができるため、車両外部から車両内部に至る浸入をほぼ確実に防ぐことができる。すなわち、高いシール性を備えている。しかしながら、特に近年において、下記に掲げる特殊な状況下において不具合を生じる可能性があった。
【0008】
上記の通り、シール材は水等のシール性の効果を奏するものであればよいため、当該シール性に必要な大きさでリップ部等の大きさや位置が決定されていた。そのため、例えば、乗用車の前部座席側のドアと車両本体との間に配設された場合であっても、その近傍のドア及びフェンダーやAピラーの隙間を隠すようなものではなかった。そのため、車両外部からドア及びフェンダー等の間が視認されることがあり、見栄え性が良くないことがあった。
【0009】
加えて、上記のようにドア及びフェンダー等の間に大きな隙間が形成されることにより、高速走行時に当該隙間によって風切り音が発生する可能性があった。
【0010】
そこで、本発明は上記実情に鑑み、ドア及び車両本体の隙間を塞ぎ、見栄え性を良好なものとするとともに、高速走行時の風切り音の発生を抑制することの可能な車両用ドアシール材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記課題を解決したドアシール材(車両用ドアシール材)が提供される。
【0012】
[1] 前部座席側のドア及び車両本体の間をシールする車両用ドアシール材であって、前記ドアの一部と当接し、取設されるシール基部と、前記シール基部と一体的に成形され、前記ドアを閉じた際に前記車両本体と少なくと一部が当接し、前記ドア及び前記車両本体の間で一部が押し潰されて変形する中空構造のシール部と、前記シール基部及び/または前記シール部と一体的に成形され、所定方向に突出した舌状のリップ部と
、前記リップ先端部に取設され、前記ドアの一部と係止される係止部とを具備し、前記リップ部は、前記シール基部及び前記シール部の長手方向に沿って成形されるとともに、前記シール基部及び/または前記シール部からの突出幅が、前記リップ部のリップ先端部に向かって漸次拡がるように形成され、拡開して形成された前記リップ部によって前記ドア及び前記車両本体の隙間を遮蔽する車両用ドアシール材。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシール材によれば、ドア及びフェンダー等の車両本体の隙間を拡開したリップ部によって塞ぐことができる。これにより、車両外部からの当該隙間の視認ができなくなり、乗用車の見栄え性、デザイン性が向上する利点を有している。更に、当該隙間が原因で高速走行時に発生することが予想される風切り音を抑制する効果を更に奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態のシール材の取設位置の概略を示す説明図である。
【
図5】従来のシール材の取設の一例を示す説明図である。
【
図7】従来のシール材の概略構成を示す断面図である。
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明のシール材(車両用ドアシール材)の実施の形態について説明する。なお、本発明のシール材は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0017】
本発明の一実施形態のシール材1は、
図1〜
図5に示されるように、乗用車CのドアDの周縁2に沿って取設され、水等の車両内部への浸入を防止するためのものである。特に、本実施形態のシール材1は、乗用車Cの前部座席側のドアDのドア前部FDの周縁2に沿って取設され、前部座席側のドアD及び車両本体Bの間をシールするものである。ここで、ドアDのドア前部FDとは、
図1に示されるように、乗用車CのAピラー及び当該Aピラーと連設するフェンダーの近傍の車両本体Bと当接する箇所に相当する。
【0018】
本実施形態のシール材の具体的構成について説明すると、当該シール材1は、例えば、
図2に示すように、シール基部3と、中空構造を呈するシール部4と、舌状のリップ部5とを具備して主に構成されている。
【0019】
本実施形態のシール材1は、応力に対して弾性変形可能な樹脂材料を押出成形することで、上記の構成が一体的に成形されたものであり、全体として長尺状を呈して構成されている。また、シール材1構成する樹脂材料は特に限定されないが、例えば、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(以下、「EPDM」と称す。)を主原料とするものを好適に用いることができる。
【0020】
次に、シール材1の各構成について更に詳述すると、シール基部3は、ドアDの周縁2に沿って取設されるものであり、ドアDに相対する底部3aと、当該底部3aから立設された三つの脚部3b,3c,3d、及び後述するシール部4及びリップ部5の一部とによって囲まれた略多角形状の二つの中空部3e,3fを備えて構成されている(
図2等参照)。
【0021】
なお、シール基部3の構成は、上記した三つの脚部3b,3c,3dによって二つの中空部3e,3fを備えたものに限定されるものではなく、ドアDにシール材1を取設するために、当該ドアDと当接可能なものであれば構わない。なお、シール基部3にかかる構成及び作用効果等は周知のものであるため、詳細な説明は省略する。また、シール基部3は、長手方向に沿って変化し、後述する
図3及び
図4に示されるように、脚部3b等及び中空部3e等が消失し、シール部4の一部として構成されることもある。
【0022】
一方、シール部4は、上述したシール基部3の3つの脚部3b,3c,3dの上端と一部が接続され、複数の曲線及び直線を組み合わせて形成された中空管状の構造を呈するものであり、ドアDの開閉操作に応じて弾性変形可能な中空変形部4aを備えるものである。すなわち、シール部4に何ら力が加わっていない状態、換言すれば、ドアDが開いた状態では、例えば、
図3に示すような形状を維持している。かかる状態からドアDを閉じることによって、シール部4と車両本体Bの一部とが接触し、更に車両本体BによってドアD側に押し付けられることで、中空管状の構造のシール部4が押し潰されて弾性変形する。
【0023】
すなわち、
図3におけるシール部4の断面形状が変化する。ここで、
図3は、ドアD及び車両本体Bは、ドアDが閉状態にある際の位置関係を示し、シール部4(シール材1)はドアDが開状態にある際の形状を示す断面図である(後述する
図6についても同様)。
【0024】
上記のように、シール材1は弾性変形可能な樹脂材料によって構成されているため、弾性変形したシール部4は元の状態に復帰しようとする弾性反発力が生じる。そのため、シール部4は、車両本体Bを押し戻す方向に力が生じる。その結果、車両本体B及びシール部4が更に強く密着する。これにより、車両本体B及びシール部4の間を水等が流通することが規制される。すなわち、車両本体B側での水等のシール性が発揮される。なお、シール部4にかかる構成及び作用効果等は周知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
本実施形態のシール材1は、
図2等に示すように、上記のシール基部3及び/またはシール部4と一体的に成形され、所定方向に突出した舌状のリップ部5を更に具備して構成されている。ここで、リップ部5によるシール性等の作用効果については既に周知のものであるため、詳細な説明は省略する。
【0026】
本実施形態のシール材1におけるリップ部5は、上記のようなシール性に係る作用効果を発揮するとともに、下記の作用効果を併せて奏することができる。すなわち、リップ部5は、
図2等に示すように、シール基部3及びシール部4の長手方向L(
図2における略上下方向に相当)に沿って一体的に成形されている。そして、シール基部3及び/またはシール部4の外面6からの所定の突出方向への突出幅Wが従来のシール材と比較して大きくなるように形成されている。特に、リップ部5のリップ先端部5aに向かって、当該突出幅Wが漸次拡がるように形成されている。
【0027】
かかる構成のリップ部5を備えることで、例えば、
図4に示すように、ドアD及び車両本体Bの隙間CAを遮蔽若しくは塞ぐことができる。ここで、
図4は、本実施形態のシール材1の取設された乗用車Cの前部座席側のドアDのドア前部FD付近を拡大して示したものである。ドアDに相対する車両本体Bの一部であるAピラーAP及びフェンダーFとの間の隙間CAがシール材1のリップ部5によって塞がれている(
図4のハッチング領域参照)。本実施形態のシール材1のリップ部5が従来よりも幅広となるように形成されていることで、ドアD及び車両本体Bの隙間CAに、シール材1が視認されることがある。これにより、車両外部から車両内部が視認されるのを当該シール材1で遮蔽することができる。そのため、乗用車Cの見栄え性を向上させることができる。
【0028】
一方、これに対比するように図示された
図5は、通常のシール材の取設された乗用車Cの前部座席側のドアDのドア前部付近FDを拡大して示したものである。この場合、本実施形態のシール材1の使用として、車両外部から隙間CAを介して車両内部Iの少なくとも一部を視認することができる。その結果見栄え性が悪化したと感じる場合もある。本実施形態のシール材1は、リップ部5によって車両外部からの視認を規制することができる。
【0029】
更に、本実施形態のシール材1は、下記に掲げる効果を奏している。すなわち、高速走行時等において主に発生する風切り音の抑制効果を奏することができる。一般に、乗用車の車両外部に形成された凹凸等の形状によって、高速走行時等に風切り音が発生する可能性がある。先に示した
図5の場合、ドアD及びフェンダーF等の車両本体Bの間には、大きな隙間CAが形成されている。そのため、車両表面に大きな凹凸が認められる。
【0030】
これに対し、本実施形態のシール材1を適用した乗用車C(
図1参照)の場合、当該隙間CAをリップ部5の一部で塞ぐことができるため、車両外部に対する凹凸の形状を小さくすることができる。その結果、風切り音の発生を抑制若しくは軽減することができる。これにより、高速走行時等における車両内部の空間の快適性を向上させることができる。
【0031】
加えて、本実施形態のシール材1は、上記構成に加え、リップ部5のリップ先端部5aにドアDの一部と係止可能な係止部7を具備して構成されている。上記の通り、通常のシール材に対して突出幅Wを大きく形成する必要があるため、従来のシール材1よりも走行時の風等の影響を受けやすくなる。すなわち、隙間CAを介して侵入した風が強くリップ部5に当たる可能性がある。
【0032】
特に、リップ部5を含むシール材1全体が、弾性変形可能な樹脂材料を用いて一体的に成形されているため、かかる風による圧力によって、リップ部5の全体が振動したり、或いは、周囲の車両本体B或いはドアDとその一部が直接当たったりする可能性がある。その結果、不快な振動や音等を運転者等が感じることがあり、快適な車両空間を確保できないことがあった。
【0033】
そこで、本実施形態のシール材1は、リップ部5のリップ先端部5aに、当該リップ部5の一部を約180°方向に折り曲げた断面略コの字形状の係止部7を備えている。これにより、ドアDの一部D1に当該リップ先端部5aの断面略コの字形状の部分を挟み込むことができる(
図6参照)。
【0034】
かかる構成を採用することにより、リップ部5が従来よりも幅広に形成されたとしても、リップ部5が大きく振動する等の不具合を解消することができる。なお、係止部7の形状及び構造は、
図2及び
図6等に図示したものに限定されるものではなく、ドアDに固定され、上記の振動等の防止機能を備えるものであれば構わない。
【0035】
上記示した通り、本発明のシール材は、通常のシール性等の効果を奏するとともに、通常よりも幅広に形成されたリップ部を備えることで、車両外部からの車両内部の視認を遮蔽する遮蔽機能と、高速走行時の風切り音の発生を抑制する風切り音抑制機能とを備えている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のシール材(車両用ドアシール材)は、乗用車や産業用或いは農業等の各種車両のドアまたは車体開口部等に取設可能であり、その他の種々の産業技術分野において利用可能性が期待される。
【符号の説明】
【0037】
1,100:シール材(車両用ドアシール材)、2:周縁、3,101:シール基部、3a:底部、3b,3c,3d:脚部、3e,3f:中空部、4,102:シール部、4a:中空変形部、5,103:リップ部、5a:リップ先端部、5b:突出基端、6,102a:外面、7:係止部、AP:Aピラー(車両本体)、B:車両本体、C:乗用車、CA:隙間、D:ドア、D1:ドアの一部、F:フェンダー(車両本体)、FD:ドア前部、I:車両内部、L:長手方向、W:突出幅。