(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
陰極方式によって鉄の腐食を抑制する亜鉛めっき法は、防食性能及び経済性に優れるため、高耐食特性を有する鋼材の製造に広く用いられており、自動車、家電製品及び建築資材など産業全般にわたって亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼材に対する需要が増加している。
【0003】
このような亜鉛めっき鋼材は、腐食環境に露出した場合、鉄よりも酸化還元電位の低い亜鉛が先に腐食されて鋼材の腐食が抑制される犠牲方式(Sacrificial Corrosion Protection)の特性を有する。さらに、めっき層の亜鉛が酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成させて鋼材を酸化雰囲気から遮断することにより、鋼材の耐腐食性を向上させる。
【0004】
しかし、産業の高度化によって大気汚染が増加し、腐食環境が悪化しており、資源及びエネルギー節約に対する厳格な規制が行われているため、従来の亜鉛めっき鋼材よりも優れた耐食性を有する鋼材に対する開発の必要性が高まっている。その一環として、めっき層にマグネシウム(Mg)などの元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金めっき鋼材の製造技術に関する研究が多様に行われている。
【0005】
一方、亜鉛めっき鋼材もしくは亜鉛合金めっき鋼材(以下、「亜鉛系めっき鋼材」という)は、一般に加工などによって部品に加工された後、スポット溶接などで溶接されて製品として用いられるが、微細組織として、オーステナイトまたは残留オーステナイトを含む高強度鋼材、高P添加高強度IF(Interstitial Free)鋼材などを素地とする亜鉛系めっき鋼材の場合、スポット溶接において溶融状態である亜鉛が素地鉄の結晶粒界に沿って浸透して脆性クラックを引き起こす、いわゆる液体金属脆化(LME、Liquid Metal Embrittlement)が発生するという問題がある。
【0006】
図1はスポット溶接によってLME亀裂が発生した溶接部材の溶接部を拡大して観察した写真である。
図1においてナゲット(Nugget)の上下部に発生したクラックはタイプAクラック、溶接肩部で発生したクラックはタイプBクラック、溶接での電極の誤整列(misalignment)によって鋼板の内部に発生したクラックはタイプCクラックという。このうち、タイプB及びCクラックは、材料の剛性に大きな影響を及ぼすため、溶接においてクラックの発生を防止することが当技術分野において核心となる要件である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
Zn−Mg合金めっき鋼材の場合、Mgの含量が増加するにつれて耐食性の側面では有利であるが、スポット溶接性の側面では不利であることが知られている。したがって、通常めっき層内のMgの含量を最大10重量%程度で管理している。これは、Zn−Mgめっき層内の融点が低いZn−Mg系金属間化合物が容易に溶解して液体金属脆化を引き起こすためである。しかし、本発明者らがさらに研究を行った結果、めっき層内のMgの含量が10重量%を超える場合でも特定含量の範囲内に該当する場合、むしろスポット溶接性が著しく向上することを見出した。特に、このようなスポット溶接性改善の効果は、めっき層が単層で形成される場合のみならず、2層以上の多層で形成される場合でも同一に適用されることができ、これにより、めっき性の改善、リン酸塩処理性の改善などの効果をさらに達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
以下、スポット溶接性及び耐食性に優れた亜鉛合金めっき鋼材について詳細に説明する。本発明において鋼板の上下は、積置状態によっていつでも変わることがあるため、「上(on)」という記載、例えば「素地鉄上」という記載は、素地鉄に接することを意味するだけであり、高さ上、上部に位置することを意味するものではないという点に留意する必要がある。
【0017】
本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、素地鉄と、上記素地鉄上に形成された多層のめっき層とを含む。本発明では、上記素地鉄の形態については特に限定せず、例えば、鋼板または鋼線材であることができる。
【0018】
また、本発明では、素地鉄の合金組成についても特に限定しないが、一例として、素地鉄は、重量%で、C:0.10〜1.0%、Si:0.5〜3%、Mn:1.0〜25%、Al:0.01〜10%、P:0.1%以下(0%は除く)、S:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含むことができる。この場合、上記C、Si、Mn、P及びSの含量は、下記関係式1を満たすことができる。一方、上述の組成を有する素地鉄は、微細組織として、オーステナイトまたは残留オーステナイトを含むことができる。
[関係式1][C]+[Mn]/20+[Si]/30+2[P]+4[S]≧≧0.3
(ここで、[C]、[Mn]、[Si]、[P]及び[S]はそれぞれ、該当元素の含量(重量%)を意味する)
【0019】
上述の合金組成と微細組織を有する場合、スポット溶接において液体金属脆化(LME)が主に問題になる可能性があり、その理由は次の通りである。即ち、オーステナイトまたは残留オーステナイト組織は、他の組織に比べて結晶粒界が脆弱である。そのため、スポット溶接によって応力が作用すると、液状の溶融亜鉛が溶接部上のオーステナイトまたは残留オーステナイト組織の結晶粒界に浸透して亀裂を発生させ、これにより、脆性破壊である液体金属脆化を起こす。
【0020】
しかし、本発明では、後述するように、液状の溶融亜鉛が残留する時間を最小化したため、上述の合金組成と微細組織を有する鋼材を素地として亜鉛合金めっき鋼材を製造しても、液体金属脆化の発生が効果的に抑制される。但し、素地鉄の合金組成が上記範囲を満たさない場合でも、本発明が適用され得る。
【0021】
多層のめっき層はそれぞれ、Znめっき層、Mgめっき層及びZn−Mg合金めっき層のいずれか一つであり、本発明では、上記多層のめっき層の総重量に対する上記多層のめっき層に含有されたMg重量の比は0.13〜0.24であることを主な技術的特徴とする。より好ましい範囲は0.157〜0.20である。
【0022】
Zn−Mg合金めっき層は、その組織がZn単相、Mg単相、Mg
2Zn
11合金相、MgZn
2合金相、MgZn合金相、Mg
7Zn
3合金相などからなることができる。本発明者らは、多層のめっき層に含有されたMg含量が上述の範囲に制御される場合、スポット溶接において溶接部上の多層のめっき層は溶融して90面積%以上(100面積%含む)のMgZn
2合金相を含む単層の合金層に変化し、この場合、液体金属脆化(LME)が効果的に抑制されることを見出した。これは、Mg−Zn二元系合金の相平衡図である
図2から分かるように、めっき層の融点が高いため、溶融しためっき層が液状に残留する時間が最小となるためであると考えられる。一方、本発明では、溶接部上の単層の合金層のうちMgZn
2合金相以外の残部組織については特に限定しないが、制限されない一例によると、MgZn
2合金相以外の残部は、Mg
2Zn
11合金相であることができる。
【0023】
ここで、相(phase)分率の測定は、一般的なXRDを用いたスタンダードレスリートベルト定量分析(standardless Rietveld quantitative analysis)方法と共に、より精密なTEM−ASTAR(TEM−based crystal orientation mapping technique)を用いて分析及び測定することができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。一方、高温in−situ放射光XRDを用いてZn−Mg合金めっき層の相変態過程を分析することができる。より具体的には、試料を1.3℃/sec、11.3℃/secの加熱速度と、780℃の加熱温度で加熱しながら、加熱及び冷却の熱サイクルの間、XRDスペクトル(spectrum)を1秒ごとに1つのフレーム(frame)ずつ、総900フレーム(frame)のXRDスペクトル(spectrum)を連続測定することによりZn−Mg合金めっき層の相変態過程を分析することができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0024】
本発明者らのさらなる研究結果によると、Mgの含量が上述の範囲に制御されても、めっき層の幅方向(圧延方向に対して垂直方向)におけるMg含量の偏差が過剰であると、スポット溶接性を改善する目的を達成することが困難になる。それを考慮すると、めっき層の幅方向におけるMg含量の偏差の上限を適切に管理する必要があり、多層のめっき層それぞれの厚さ方向の中心部でGDSプロファイルを測定するときに、Mg含量の偏差が±5%以内になるように管理することが好ましい。
【0025】
本発明者らのさらなる研究結果によると、多層のめっき層をなす結晶粒の平均粒径は、めっき鋼材の耐食性に相当な影響を及ぼす。
図3はめっき鋼材の腐食過程を示した模式図であって、
図3の(a)は、結晶粒サイズが相対的に微細な場合の模式図であり、
図3の(b)は、結晶粒サイズが相対的に粗大な場合の模式図である。
図3を参照すると、結晶粒サイズが微細である場合、腐食の進行において相対的に緻密で均一な腐食生成物が形成され、相対的に腐食遅延に役立つことが分かる。
【0026】
また、多層のめっき層をなす結晶粒の平均粒径は、めっき鋼材のスポット溶接性にも相当な影響を及ぼす。結晶粒の平均粒径が一定レベル以下であると、タイプBクラックの発生が顕著に減少する。これは、溶融しためっき層内の原子の移動が活発に起こり、目的とする組織の確保に有利であるためであると考えられる。
【0027】
このように、めっき鋼材の耐食性及びスポット溶接性の両側面を考慮すると、多層のめっき層をなす結晶粒の平均粒径の上限を適切に管理する必要があり、多層のめっき層をなす結晶粒の平均粒径は100nm以下(0nmは除く)となるように管理することが好ましい。ここで、平均粒径は、めっき層の厚さ方向の断面を観察して検出した結晶粒の平均長径を意味する。
【0028】
一例によると、多層のめっき層の付着量の合計は、40g/m
2以下(0g/m
2は除く)であることができる。多層のめっき層の付着量の合計が大きければ大きいほど耐食性の側面では有利であるが、付着量の増加によってスポット溶接において液体金属脆化(LME)が生じることがあるため、溶接性の側面を考慮して、その上限を上記範囲に限定することができる。一方、耐食性及びスポット溶接性の両側面をすべて考慮した多層のめっき層の付着量の合計のより好ましい範囲は10〜35g/m
2であり、さらに好ましい範囲は15〜30g/m
2である。
【0029】
一方、上述のように、本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、2層以上の多層のめっき層を有することを特徴とする。これにより、上述の耐食性及び溶接性の改善効果のほかに、めっき性の改善、リン酸塩処理性の改善などの効果をさらに達成することができるため、以下では、具体的な実施形態を挙げてこれについて詳細に説明する。
【0030】
図4は本発明の一実施形態による多層亜鉛合金めっき鋼材100の模式図である。
【0031】
本発明の一実施形態によると、上記多層のめっき層は、上記素地鉄上に形成された第1めっき層110及び上記第1めっき層110上に形成された第2めっき層120を含み、上記第1めっき層110は、Zn単相またはZn単相とZn−Mg合金相からなり、めっき層中のMg含量が7重量%以下であることができ、上記第2めっき層120は、Zn−Mg合金相からなることができる。このとき、各めっき層は、Zn単相及びZn−Mg合金相を除いた追加の合金相をさらに含むこともできる。
【0032】
Mg
2Zn
11合金相、MgZn
2合金相、MgZn合金相、Mg
7Zn
3合金相のようなZn−Mg合金相は、金属間化合物であって、硬度が高いだけでなく、脆性が高くてめっき性を阻害し、亜鉛合金めっき鋼材の加工においてめっき層の脱落を引き起こす。そこで、本発明者らは、Zn−Mg合金相の形成によるめっき層の脆性の増加を補償するために、素地鉄に隣接して形成される第1めっき層110に延性を付与しようとした。そのための一つの手段として、第1めっき層110がZnめっき層またはMg含量が7重量%以下(好ましくは6.3重量%以下、より好ましくは5.5重量%以下)であるZn−Mg合金めっき層で構成する場合、めっき密着性を著しく改善することができることを見出した。
【0033】
一例によると、第1めっき層110は、Zn単相及びMg
2Zn
11合金相の複合相からなることができる。この場合、第1めっき層110は、Zn単相を20面積%以上含むことができる。第1めっき層110が上述の組織を有する場合、非常に優れた圧縮強度が得られ、これにより、加工によるストレスを第1めっき層110が吸収し、緩衝することができるため、非常に優れためっき性が得られる。
【0034】
一例によると、上記第1めっき層110のめっき付着量は、3g/m
2以上であることができる。本実施形態において、第1めっき層110の付着量を上述の範囲に制御することにより、目的とするめっき性の改善効果を十分に確保することができる。本発明の一実施形態における3g/m
2のめっき付着量は0.6μmの厚さに該当することができる。
【0035】
図5は本発明の他の実施形態による多層亜鉛合金めっき鋼材200の模式図である。
【0036】
本発明の一実施形態において、上記多層のめっき層は、素地上に形成された第1めっき層210と、上記第1めっき層210上に形成された第2めっき層220を含む。上記第1めっき層210は、Zn−Mg合金相からなり、上記第2めっき層220は、Zn単相またはZn単相とZn−Mg合金相からなり、めっき層中のMg含量は、2重量%以下であることができる。このとき、各めっき層は、Zn単相及びZn−Mg合金相を除いた追加の合金相をさらに含むこともできる。
【0037】
亜鉛合金めっき鋼材200の最表面にZn−Mg合金相が一定レベル以上に存在すると、リン酸塩処理性が劣化することがある。これは、リン酸塩処理溶液に含有されたNiイオンとZn−Mg合金相間の腐食電位の差によってガルバニック腐食(Galvanic corrosion)が起こってめっき層の溶解が促進され、結果的に、素地鉄が露出するピット(pit)が発生するためである。それを考慮すると、亜鉛合金めっき鋼材の最表面に位置した第2めっき層220は、Zn単相のみからなるか、またはZn−Mg合金相の分率が一定のレベル以下に制御されることが好ましい。これにより、亜鉛合金めっき鋼材200のリン酸塩処理性を効果的に改善することができる。
【0038】
一例によると、第2めっき層220のめっき付着量は、2g/m
2以上であることができる。本実施形態において、第2めっき層220の付着量を上述の範囲に制御する場合、目的とするリン酸処理性の改善効果を十分に確保することができる。
【0039】
図6は本発明のさらに他の実施形態による多層亜鉛合金めっき鋼材300の模式図である。
【0040】
本発明の一実施形態によると、上記多層のめっき層は、上記素地鉄上に順次に形成された第1〜第3めっき層310、320、330を含む。上記第1めっき層310は、Zn単相またはZn単相とZn−Mg合金相からなり、めっき層中のMg含量が7重量%以下である。上記第2めっき層320は、Zn−Mg合金相からなり、上記第3めっき層330は、Zn単相またはZn単相とZn−Mg合金相からなり、めっき層中のMg含量が2重量%以下であることができる。このとき、各めっき層は、Zn単相及びZn−Mg合金相を除いた追加の合金相をさらに含むこともできる。
【0041】
亜鉛合金めっき鋼材が上述の第1〜第3めっき層310、320、330を順次に含む場合、耐食性、スポット溶接性、めっき性及びリン酸処理性がいずれも改善されることができるという利点がある。
【0042】
第1めっき層310は、Zn単相及びMg
2Zn
11合金相の複合相からなることができ、この場合、第1めっき層310は、Zn単相を20面積%以上含むことができる。第1めっき層310が上述の組織を有する場合、非常に優れた圧縮強度が得られ、これにより、加工によるストレスを第1めっき層310が吸収し、緩衝することができるため、非常に優れためっき性が得られる。
【0043】
このとき、第1めっき層の付着量は、3g/m
2以上であることができ、第3めっき層の付着量は、2g/m
2以上であることができる。
【0044】
めっき層が3層で構成されるという点を除いては、上述の本発明の一実施形態と他の実施形態による亜鉛合金めっき鋼材に関する構成と重複する構成は、同一に適用されることができる。
【0045】
以上で説明した本発明の亜鉛合金めっき鋼材は、様々な方法で製造されることができ、その製造方法は特に制限されない。但し、その一実施形態として、次のような方法により製造されることができる。
【0046】
まず、素地鉄を準備し、14重量%以上のHCl水溶液を用いて酸洗、リンス及び乾燥した後、プラズマ及びイオンビームなどを用いて表面の異物及び自然酸化膜を除去し、多層のめっき層を順次に形成することにより、本発明の亜鉛合金めっき鋼材を製造することができる。
【0047】
このとき、多層のめっき層はそれぞれ、電気めっき法、あるいは通常の真空蒸着法、例えば、電子ビーム法、スパッタリング法、熱蒸発法、誘導加熱蒸発法、イオンプレーティング法などによって形成されることができるが、このうち、Mgめっき層もしくはZn−Mg合金めっき層の場合は、電磁攪拌(Electromagnetic Stirring)効果を有する電磁浮揚物理気相蒸着法によって形成することが好ましい。
【0048】
ここで、電磁浮揚物理気相蒸着法(Electro−Magnetic Levitation Physical Vapor Deposition)は、交流電磁場を生成する一対の電磁コイルに高周波電源を印加して電磁力を発生させると、コーティング物質(本発明の場合は、Zn、MgもしくはZn−Mg合金)が交流電磁場に囲まれた空間で外部の助けなしに空中に浮上するようになり、このように浮上した蒸着物質が大量の蒸着蒸気(金属蒸気)を発生させる現象を用いることを意味する。
図7にはこのような電磁浮揚物理気相蒸着のための装置の模式図が示されている。
図7を参照すると、上述の方法によって形成された大量の蒸着蒸気は、蒸気分配ボックス(vapor distribution box)の多数のノズルを介して素地鉄の表面に高速で噴射されてめっき層を形成する。
【0049】
通常の真空蒸着装置では、コーティング物質がるつぼの内部に備えられ、コーティング物質の気化は、このようなコーティング物質が備えられたるつぼの加熱によって行われる。この場合、るつぼの溶融、るつぼによる熱損失などのために、蒸着物質自体に十分な熱エネルギーを供給することが困難になる。これにより、蒸着速度が遅くなるだけでなく、めっき層をなす結晶粒サイズを微細化するのにも一定の限界がある。また、本発明のようにZn−Mg合金蒸気を蒸着させる場合、めっき層の均質性の確保にも一定の限界がある。
【0050】
しかし、それとは異なり、電磁浮揚物理気相蒸着法によって蒸着を行う場合、通常の真空蒸着法とは異なり、温度による制約条件がないため、コーティング物質をより高温に露出させることができる。これにより、高速蒸着が可能であるだけでなく、結果的に、形成されためっき層をなす結晶粒サイズの微細化と、めっき層内の合金元素分布の均質化を達成することができるという利点がある。
【0051】
蒸着工程での真空蒸着チャンバーの内部の真空度は1.0×10
−3mbar〜1.0×10
−5mbarの条件に調節することが好ましい。この場合、めっき層の形成過程で酸化物が形成されることによって発生する脆性の増加及び物性の低下を効果的に防止することができる。
【0052】
蒸着工程において浮揚するコーティング物質の温度は、700℃以上に調節することが好ましく、800℃以上に調節することがより好ましく、1000℃以上に調節することがさらに好ましい。もし、その温度が700℃未満であると、結晶粒の微細化及びめっき層の均質化効果を十分に確保できない恐れがある。一方、浮揚するコーティング物質の温度が高ければ高いほど、目的とする技術的効果を達成するのに有利であるため、本発明では、その上限については特に限定しない。しかし、その温度が一定のレベル以上であると、その効果が飽和するだけでなく、工程コストが上昇しすぎるため、それを考慮すると、その上限を1500℃に限定することができる。
【0053】
蒸着前後の素地鉄の温度は、100℃以下に調整することが好ましい。もし、100℃を超えると、鋼板の幅方向の温度不均一による幅方向の反曲によって出側多段差等減圧システムを通過する際に真空度の維持を妨げることがある。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0055】
(実施例)
重量%で、C:0.16%、Si:1.43%、Mn:2.56%、Al:0.04%、P:0.006%、S:0.0029%、残部Fe及び不可避不純物を含む、厚さ1.4mmの自動車用高強度冷延鋼板を準備し、
図7の装置(真空度3.2×10
−3mbar)を用いて下記表1に示す組成の多層めっき層を有する多層亜鉛合金めっき鋼材を製造した。すべての例において、各層のめっき層は別途の真空チャンバー内で別途の工程を介して得られ、各層のめっき層を形成する際に、一対の電磁コイルに印加される電流は1.2kA、一対の電磁コイルに印加される周波数は、蒸着物質2kgを基準に60kHz、浮揚したコーティング物質の温度は1000℃、蒸気分配ボックスの温度は900℃と、一定にした。また、各層のめっき層の蒸着前後の素地鉄の温度は60℃に維持した。
【0056】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)法によって製造された多層亜鉛合金めっき鋼材の付着量とMg重量比を測定した。より具体的には、多層亜鉛合金めっき鋼材を80mm×80mmサイズの試験片に切断し、表面を脱脂した後に高精度の秤を用いて1次坪量(W1:0.0000g)した。その後、試験片表面の前面部にクランプを用いてO−リング54.5mm dia専用カラムを付着させて溶液が漏れないように密着させた。以後、30ccの1:3HCl溶液に投入し、インヒビター(inhibitor)を2〜3滴投入した。表面でのH
2ガスの発生が終了した後、溶液を100ccマスフラスコに捕集した。このとき、洗浄ビンを用いて表面の残量をすべて捕集して100cc以下に捕集した。以後、試験片を完全に乾燥させた後に2次坪量(W2)し、1次坪量値と2次坪量値の差を単位面積で割った値を総付着量とした。一方、捕集された溶液を対象にICP法によってMgの含量を測定し、それをMg重量比とした。
【0057】
次に、多層のめっき層のそれぞれの厚さ方向の中心部でGDSプロファイルを測定し、多層のめっき層をなす結晶粒の平均粒径を測定した。測定の結果、すべての例のMg含量の偏差は±5%以内であり、平均粒径は100μm以下であることが分かった。
【0058】
次に、製造された多層亜鉛合金めっき鋼材について溶接性、耐食性、耐パウダリング性及びリン酸塩処理性を評価し、その結果を下記表2に示した。
【0059】
より具体的に、溶接性は、SEP1220−2規格に従って多層亜鉛合金めっき鋼材を40mm×120mmサイズの試験片に切断し、各試験片に対して総100回のスポット溶接を行った後にタイプBクラックの有無及びその大きさを測定し、以下に示す基準で評価した。
1.非常に優秀:すべての試験片でタイプBクラックが発生していない場合
2.優秀:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.1倍以下である場合
3.通常:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.1倍超過0.2倍以下である場合
4.不良:一部もしくはすべての試験片でタイプBクラックが発生し、タイプBクラックの平均長さが素地鉄(冷延鋼板)の厚さの0.2倍を超える場合
【0060】
耐食性は、それぞれの多層亜鉛合金めっき鋼材を75mm×150mmサイズの試験片に切断した後、JISZ2371に準拠して塩水噴霧試験を行って初期赤錆の発生時間を測定し、以下に示す基準で評価した。
1.優秀:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が2倍以上長い場合
2.普通:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が同等レベルであるか、または2倍未満長い場合
3.不良:片面付着量60g/m
2の亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)に比べて赤錆の発生時間が短い場合
【0061】
耐パウダリング性は、多層亜鉛合金めっき鋼材を40mm×80mmサイズの試験片に切断した後に試験片をプレス機に装着し、60°曲げ試験を行った後、試験片を試験機から脱着して曲げられた部分にセロハンテープを付着し、取り外したテープを白紙に付着して剥離の幅を測定し、以下に示す基準で評価した。
1.優秀:剥離の幅が6.0mm以下の場合
2.通常:剥離の幅が6.0mmを超過8.0mm以下の場合
3.不良:剥離の幅が8.0mmを超える場合
【0062】
リン酸塩処理性は、多層亜鉛合金めっき鋼材を75mm×150mmサイズの試験片に切断した後、通常の自動車社規格に従って表面を調整し、リン酸塩処理した後、リン酸塩の均一度を評価した。
1.良好:リン酸皮膜が均一に形成
2.不良:リン酸皮膜が不均一に形成
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2を参照すると、本発明で提案するすべての条件を満たす発明例1〜20は、耐食性だけでなく、スポット溶接性に非常に優れることが確認できる。さらに、より優れたスポット溶接性を確保するためには、Mg重量比が0.157〜0.20に該当し、多層のめっき層の付着量の合計が35g/m
2以下に制御することが好ましいことが確認できる。
【0066】
これに対し、比較例1〜8は、Mg重量比が、本発明で提案する範囲を外れ、スポット溶接性に劣ることが確認できる。
【0067】
一方、表2を参照すると、めっき性を改善するためには、最下部のめっき層がZnめっき層またはMg含量が7重量%以下(0重量%は除く)であるZn−Mg合金めっき層であることが好ましいことが確認でき、リン酸塩処理性を改善するためには、最上部のめっき層がZnめっき層またはMg含量が2重量%以下(0重量%は除く)であるZn−Mg合金めっき層であることが好ましいことが確認できる。
【0068】
図8は発明例18の多層亜鉛合金めっき鋼材を対象にスポット溶接した後の溶接部を観察した写真である。
図8を参照すると、本発明による多層亜鉛合金めっき鋼材は、溶接後に単層の合金層に変化し、上記溶接部上の単層の合金層中のMgZn
2合金相の比率が90面積%以上であった。また、溶接部にタイプBクラックだけでなく、タイプCクラックも全く発生しないことが視覚的に確認できる。