(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
〔多孔質シート〕
本実施形態の多孔質シートは、樹脂粒子を焼結してなる多孔質シートであって、連続気孔を有し、少なくとも一方の表面の、JIS B 0601:2001で定義される、切断レベル5μmにおける負荷長さ率が、10%以上である。なお、本実施形態における「連続気孔」とは、多孔質シートのある面から他の面へ気孔が連続している物をいう。この気孔は直線的でも、曲線的でもよい。また、気孔の寸法は、例えば表層と内部、或いは一つの表層と他の表層とで異なっていてもよい。
【0015】
〔樹脂粒子〕
多孔質シートは樹脂粒子を焼結してなるものである。樹脂粒子を構成する樹脂としては、特に制限されないが、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。樹脂粒子を構成する樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン酢酸ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリメタアクリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アリル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0018】
これらの中でも、賦形性、二次加工性等の観点から熱可塑性樹脂が好ましい。更に熱可塑性樹脂の中でも、安価であること、耐薬品性に優れること、加工性に優れること、素材の吸湿性・吸水性が低いこと等からポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の中でも、安価であること、焼結成形が容易であること、成形後の加工性に優れること、耐薬品性に優れること、素材自身の吸湿吸水性が低いこと等の理由から、ポリエチレン系樹脂が最も好ましい。
【0020】
上記ポリエチレン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、エチレンの単独重合体;エチレンとプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1のような1種以上のα−オレフィンとの共重合体;エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステルなどとの共重合体が挙げられる。このような樹脂を用いることにより、焼結成形後のサイズ調整など加工時に取り扱いやすい適度な剛性と、被吸着体にダメージを与えにくい適度な柔らかさを合わせもった多孔質シートが得られ、吸着状態がより向上する傾向にある。
【0021】
また、上記ポリプロピレン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、プロピレンの単独重合体;プロピレンとエチレン、ブテン−1の様な1種以上のα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
【0022】
さらに、ポリエチレン系樹脂の密度の下限は、好ましくは890kg/m
3以上であり、より好ましくは920kg/m
3以上であり、さらに好ましくは930kg/m
3以上であり、特に好ましくは940kg/m
3以上である。ポリエチレン系樹脂の密度の下限が上記範囲内であることにより、多孔質シートの剛性がより向上する傾向にある。また、ポリエチレン系樹脂の密度の上限は、好ましくは970kg/m
3以下であり、より好ましくは960kg/m
3以下である。ポリエチレン系樹脂の密度の上限が上記範囲内であることにより、多孔質シートの製造時における取扱い性や、成形後の加工性がより向上する傾向にある。
【0023】
ポリエチレン系樹脂の嵩密度は、好ましくは0.20〜0.60g/ccであり、より好ましくは0.25〜0.55g/ccであり、さらに好ましくは0.30〜0.50g/ccである。ポリエチレン系樹脂の嵩密度が0.20g/cc以上であることにより、機械的強度がより向上し、取り扱い性もより向上する傾向にある。また、ポリエチレン系樹脂の嵩密度が0.60g/cc以下であることにより、気孔詰まりが抑制され通気度がより向上する傾向にある。
【0024】
ポリエチレン系樹脂の密度は、エチレンと共重合する他のモノマー、例えば、α−オレフィンの量を調節すること、分子量を調節すること、又は、密度の異なる2種以上のポリエチレンを混合すること等で調整することができる。尚、ポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K 7112:1999に準拠し、密度勾配管法(23℃)により測定して得ることができる。
【0025】
また、ポリエチレン系樹脂の粘度平均分子量Mvの下限は、好ましくは1.0×10
5以上である。ポリエチレン系樹脂の粘度平均分子量の上限は、好ましくは1.0×10
7以下であり、より好ましくは5.0×10
6以下である。ポリエチレン系樹脂の粘度平均分子量が上記範囲内であることにより、後述する焼結成形時において樹脂が流動することに起因する連続気孔の形成阻害が生じにくくなり、かつ、隣り合う樹脂粒子の融着性がより向上する傾向にある。
【0026】
ポリエチレン系樹脂の粘度平均分子量は、重合条件等を適宜調整することで制御することができる。具体的には、重合系に水素を存在させるか、又は重合温度を変化させること等によって粘度平均分子量を調節することができる。なお、粘度平均分子量は従来公知の方法により測定することができ、より具体的には実施例で記載した方法により求めることができる。
【0027】
樹脂粒子を構成するにあたっては、ポリエチレン系樹脂は、密度及び/又は粘度平均分子量等が異なるポリエチレンを混合して用いてもよいし、ポリエチレン系樹脂とポリエチレン系樹脂以外の樹脂とを混合して用いてもよい。
【0028】
これらのポリオレフィンは、親水基を持ったモノマーとの共重合、親水基を持ったモノマーのグラフト、界面活性剤の添加等、公知の手段を用いて帯電防止処理されていても良い。尚、帯電防止処理は、粉末の状態で帯電防止処理された物を多孔質体に成形して帯電防止性多孔質シートを得ても良いし、予め多孔質シートに成形した物を公知の方法で帯電防止処理しても良い。
【0029】
本実施形態におけるJIS B 0601:2001で定義される、切断レベル5μmにおける負荷長さ率(以下、単に「負荷長さ率」ということもある。)は、10%以上であり、好ましくは17%以上であり、より好ましくは20%以上である。負荷長さ率が10%以上であることにより、被吸着体に圧力がかかる場合においても、被吸着体へのダメージをより小さくすることができる。また、負荷長さ率の上限は、好ましくは40%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。負荷長さ率の上限が上記範囲内であることにより、通気性がより向上する傾向にある。
【0030】
さらに、1m
2以上の多孔質焼結シートを100cm
2以下に区切ることにより得られる各区画が、下記条件Aを満たすことが好ましい。下記条件を満たすことにより、シート全体が均一な表面形状を有することができ、サイズの大きな被吸着体においても安定した吸引固定搬送が可能となる。
(条件A)Mr≧10%
(Mr:少なくとも一方の表面の切断レベル5μmにおける負荷長さ率)
【0031】
本実施形態における負荷長さ率は、形状測定レーザーマイクロスコープにより得られる画像を解析することにより得ることができる。レーザーマイクロスコープとしては、例えばキーエンス社製の「VK―X100」が挙げられる。
【0032】
レーザーマイクロスコープを用いた観察は任意の方法を用いることができるが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0033】
多孔質シートの表面を、形状測定レーザーマイクロスコープ(キーエンス社製「VK―X100」)を用いて、対物レンズ10倍で測定し、4×4の画像連結を行い、幅6284μm×縦3658μmの視野を得る。この視野にて横水平方向の断面プロファイルを3点測定(例えば
図1)する。
【0034】
こうして得られた断面プロファイル情報を基に、切断レベル5μmにおける負荷長さ率をJIS B 0601:2001で定義される方法で計算し、3点の平均値を多孔質シートの負荷長さ率とする。
【0035】
通常、多孔質シートの表面形状は表面粗さRaの指標も用いて評価される。しかしながら、この指標は高さ方向の情報のみで評価するものであるため、同じ表面粗さRaを有する多孔質シートであっても、一方は表面に存在する突起状の形状が相対的に少なく、他方は表面に存在する突起状の形状が相対的に多くなるということが生じる。当然、表面に多くの突起を有する多孔質シートは、吸着固定や吸着搬送における吸着緩衝材として用いた場合に被吸着体にダメージを与えやすい。
【0036】
そこで、本実施形態においては、負荷長さ率を10%以上にすることによって、仮に表面粗さRaの値が同じ場合であっても被吸着体にダメージを与え難い表面上体を有する多孔質シートを提供する。これにより、被吸着体に圧力がかかる場合でも多孔質シートの圧力痕などの吸着時のトラブルを軽減することができる。
【0037】
負荷長さ率が10%以上である多孔質シートを作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、後述する堆積法を採用し、より好ましくは後述する圧縮工程を経る方法が挙げられる。より具体的には、堆積法において、無端コンベアベルト等の搬送用基体の移動速度に対して原料ホッパー下の供給ローラーの移動速度を3%〜5%遅くして樹脂粒子をフィードすること、焼結温度を150℃〜230℃に調整すること、圧縮ローラーの温度を樹脂の融点±30℃の温度範囲に設定すること、圧縮ローラー通過後20秒以内に無端コンベアベルト等の搬送用基体から多孔質シートを剥がして両面から空冷すること等の方法が挙げられる(
図3参照)。
【0038】
一般的に、多孔質シートをスライス加工、またはスカイブ加工してシート状に成形した場合においては、切断面にシャープエッジが発生し鋭い突起状の形状が表面にみられる傾向にある。また、金型に樹脂粒子を充填し焼結させる金型法では、加熱時に膨張した樹脂粒子が金型があることによって圧縮される状態になる。さらに、分子量の高い樹脂粒子を使用する場合、樹脂粒子そのものの歪な形状が表面形状に反映され、表面に突起状の形状が見られる。これらは、いずれも負荷長さ率が10%未満となる要因となる。なお、スライス加工、スカイブ加工、金型法による成形、高分子量の樹脂粒子を用いた場合であっても、多孔質シートを樹脂の融点の±30℃に調整された圧縮ローラーやプレス装置で通気性を損なわない程度に加圧処理することにより、その負荷長さ率を10%以上に調整することも可能である。
【0039】
負荷長さ率が上記所定値以上である表面の表面粗さRaは、好ましくは3μm以上30μm以下であり、より好ましくは5μm以上25μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上20μm以下である。表面粗さが上記範囲内であることにより、吸着緩衝材として使用した際に、被吸着体に傷や接触痕が生じることを防ぐことができる。多孔質シートの表面粗さ(Ra)は、後述する堆積法を経て多孔質シートを作製すること、得られた多孔質シートをプレス成形すること、得られた多孔質シートを切削すること等により調整することができる。尚、表面粗さ(Ra)は、従来公知の方法で測定することができ、より具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
多孔質シートの少なくとも一方の表面に存在する表面開口径(円相当径の平均)は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下であり、最も好ましくは30μm以下である。表面開口径が上記範囲内であることにより、被吸着体を吸引固定した場合に、開口部に吸い込まれて破損するなどの不具合を避けることができる。表面開口径は前記負荷長さ率を測定する際にえられた表面形状データから同時に算出することができる。
【0041】
本実施形態の多孔質シートの厚みは、好ましくは0.15mm以上5mm以下であり、より好ましくは0.15mm以上3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以上2mm以下であり、好ましくは0.15mm以上1mm以下である。厚みが上記範囲内であることにより、多孔質シートの機械強度を維持しつつ、通気性がより向上する傾向にある。なお、多孔質シートの厚みは実施例に記載の方法により測定することができる。
【0042】
〔多孔質シートの製造方法〕
本実施形態の多孔質シートの製造方法は、樹脂粒子を焼結させることにより連続気孔を有する多孔質シートを得る方法であれば、特に制限されないが、無端コンベアベルト等の搬送用基体に樹脂粒子をシート状に堆積させる堆積工程と、シート状に堆積させた樹脂粒子を焼結することにより多孔質シートを得る焼結工程と、を有する方法が挙げられる。
【0043】
なお、本実施形態においては、上記堆積工程と焼結工程とを経て多孔質シート(多孔質焼結体)を得る方法を「堆積法」ともいう。堆積法は、移動する搬送用基体(無端コンベアベルト)上に連続して樹脂粒子を堆積させるとともに、搬送用基体に堆積された樹脂粒子が順次焼結室に搬送されるような連続的な工程で行うこともできる。このような堆積法は、多孔質シートの連続生産性や厚みの自由度の点から好ましい。
図3に、堆積法を実施するための装置の模式図を示す。
【0044】
その他、堆積法によらない場合の焼結成形法としては、金型に樹脂粒子を充填し、融点以上に温度維持された加熱炉内に投入して焼結させ、その後冷却し、金型から連続気孔を有する多孔質焼結体を取り出す方法が挙げられる。その後、得られた多孔質焼結体をスライス加工、またはスカイブ加工することにより、多孔質シートを得ることができる。
【0045】
〔堆積工程〕
堆積工程は、無端コンベアベルト上に樹脂粒子をシート状に堆積させる工程である。無端コンベアベルト上に樹脂粒子を供給する際に、樹脂粒子が充填された原料ホッパーを1000〜10000VPMの振動数で振動させることにより、原料樹脂粒子の堆積を均一に行うことができる。なお、原料ホッパー1下の供給ローラー3の移動速度は、無端コンベアベルト4の移動速度に対して、3%〜5%遅いことが好ましい。
【0046】
本実施形態の多孔質シートの製造方法において用いる樹脂粒子の平均粒径は、好ましくは30μm〜300μmであり、より好ましくは40μm〜250μmであり、さらに好ましくは50μm〜200μmであり、特に好ましくは60μm〜180μmである。樹脂粒子の平均粒径が上記範囲内であることにより、得られる多孔質シートの通気性がより向上するとともに、その強度と剛性のバランスも優れるものとなる。なお、本実施形態において樹脂粒子の平均粒径は、累積重量が50%となる粒子径、すなわちメディアン径であり、レーザ回析式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製「SALD−2100」)を用い、メタノールを分散媒として測定することができる。さらに、累積重量が90%となる粒子径D90と累積重量が10%となる粒子径D10の比D90/D10が2以上であることが好ましい。D90/D10が2以上であることにより、粒度分布が広くなり、大粒子で出来た隙間を小粒子で埋めることができ、負荷長さ率が大きくなる傾向がある。
【0047】
また、樹脂粒子は、堆積前に界面活性剤と混合してから用いてもよい。界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシソルビタンモノラウレートなどが挙げられる。
【0048】
〔焼結工程〕
焼結工程は、シート状に堆積させた樹脂粒子を焼結することにより多孔質シートを得る工程である。焼結温度は、特に制限されないが、用いる樹脂の融点Tmを基準として、好ましくはTm〜Tm+80℃であり、より好ましくはTm〜Tm+70℃であり、さらに好ましくはTm〜Tm+60℃である。より具体的な焼結温度は、樹脂種にもよるが、好ましくは150℃〜230℃である。焼結時間は、樹脂の流動性にもよるが、好ましくは1分〜30分であり、より好ましくは3分〜20分であり、さらに好ましくは5分〜15分である。
【0049】
無端コンベアベルト上の熱可塑性樹脂粒子を加熱する際に、搬送用基体が上下2つの赤外線ヒーターの間を通過するように載置し、下側のヒーターの温度を上側のヒーターより5℃以上高く設定することが好ましい。これにより、無端コンベアベルトの平滑面の多孔質シートへの転写性を上げることでき、負荷長さ率が大きくなる傾向にある。
【0050】
さらに、搬送用基体上の熱可塑性樹脂粒子を加熱する際に、入口と出口の間に少なくとも二つ以上の連続したゾーンを設け、入口側のゾーンの温度設定より、出口側の温度設定が10℃以上低くなるように段階的に温度を下げて加熱することが好ましい。入り口付近を高温にすることで、コンベアベルトの平滑面の転写性を上げることでき、出口付近の温度を下げることで、温度の上げ過ぎによる過焼結による開口部の閉塞やコンベアベルトへの焼き付きを防止することができる。
【0051】
〔圧縮工程〕
本実施形態の多孔質シートの製造方法は、焼結工程後、樹脂粒子を構成する樹脂の融点Tm±30℃の温度で加温した加圧ローラーを用いて、多孔質シートを圧縮する圧縮工程をさらに有してもよい。また、加圧ローラーに代えて、加圧板や無端ベルト状の加圧装置などの加圧部材により、加圧圧縮することもできる。
【0052】
圧縮工程の加圧部材の温度は、樹脂の融点Tmを基準として、好ましくは±30℃であり、より好ましくは±20℃であり、さらに好ましくは±10℃である。加圧部材(加圧ローラー)の温度が、Tm−30℃以上であることにより、樹脂が硬化する前に加圧圧縮をすることができる。また、加圧部材(加圧ローラー)の温度が、Tm+30℃以下であることにより、樹脂が加圧部材に付着することを抑制でき、また、多孔質シートの表面の気孔が加圧によりつぶれてしまうことを抑制することができる。
【0053】
圧縮工程における多孔質シートを圧縮率は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。圧縮率が10%以下であることにより、多孔質シートの通気度がより向上する傾向にある。
圧縮率=(圧縮前の多孔質シートの厚み−圧縮後の多孔質シートの厚み)/圧縮前の多孔質シートの厚み×100
【0054】
圧縮工程後は、速やかに多孔質シートを加圧部材から剥離させて、冷却することが好ましい。
【0055】
[用途]
本実施形態の多孔質シートは、通気性が高く表面付近に突起状の形状が少ない為、吸着緩衝材として好適に用いることができる。吸着緩衝材とは、液晶用ガラス板や積層セラミックコンデンサ用のシート等、薄膜もしくは板状、フィルム状の物を固定または搬送するための手段のひとつに、減圧吸引での吸着ステージで吸着固定または吸着搬送する方法があるが、その吸着ステージの吸着面に装着するものである。
【0056】
薄膜としては、セラミックグリーンシートが挙げられる。セラミックグリーンシートは、通常、セラミック粉体、バインダ(アクリル系樹脂、ブチラール系樹脂等)、可塑剤(フタル酸エステル類、グリコール類、アジピン酸、燐酸エステル類)および有機溶剤(トルエン、MEK、アセトン等)からなるセラミック塗料を準備し、このセラミック塗料を、ドクターブレード法などによりキャリアシート上に塗布し、加熱乾燥させたものである。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
各材料の各物性の測定は以下のとおりに行った。
【0058】
[負荷長さ率]
多孔質シートの表面を、形状測定レーザーマイクロスコープ(キーエンス社製「VK―X100」)を用いて、対物レンズ10倍で測定し、4×4の画像連結を行い、幅6284μm×縦3658μmの視野を得た。この視野にて横水平方向の断面プロファイルを3点測定(例えば
図1)し、切断レベル5μmにおける負荷長さ率をJIS B 0601:2001で定義される方法で計算し、3点の平均値を多孔質シートの負荷長さ率とした。なお、
図1及び2中のBACは負荷曲線(グレー)を意味し、ADFは確率密度関数(ブラック)を意味する。BACはADFの積分曲線であり、ADFのピークがより表面に近い(上の)方にあると、負荷長さ率が大きくなる傾向にある。
【0059】
[負荷長さ率の均一性(Mr)]
1m
2の前記多孔質焼結シートを100cm
2に区切ることにより得られる100個の各区画について、上記のとおり負荷長さ率(Mr)を測定し、1区画でも10%未満となる区画があるものは×とした。
【0060】
[表面開口径]
上記負荷長さ率を計測するのに用いた形状データを解析することによって得られる。得られた形状データから最低部と最高部の間を100%として、最低部から30%の閾値で2値化処理し、開口部を特定した。この開口部を上限1000個までの面積を求め、その結果から円相当径を求めた。
【0061】
[表面粗さ(Ra)]
触針式表面粗さ計(株式会社東京精密社製「ハンディサーフE−35B」)を用い、先端径R:5μm、速度:0.6mm/s、測定長:12.5mm、カットオフ値λc:2.5mmの条件にて、負荷長さ率を測定した面と同じ面の表面粗さRaを測定した。測定位置は、多孔質シートの面の中心1箇所と、面を出来るだけ同じ形状になるように4等分した際、その4等分された面の中心1箇所ずつ、合計5箇所を測定した。
【0062】
[厚み]
多孔質シートの厚みの測定は、X線CT測定において空隙率が100%以下となる最初の測定点から反対側に向かい100%を超える前の最後の測定点までの距離を厚みとした。
【0063】
[通気性]
通気度測定機(TEXTEST社製「FX3360PORTAIR」)を用い、測定範囲20cm2、測定差圧125Paの条件にて測定した。得られた通気度に基づいて、0.1cm
3/cm
2/sec以上を有りと評価した。
【0064】
[吸着状態の評価]
得られた多孔質シートを吸着ステージ(厚さ15mm、縦横200mmのアルミ製板に、直径1mmの通気口を縦横10mmのピッチで設け、片面から吸引ポンプで吸引できるようにしたもの)に装着し、多孔質シートを介して、厚み50μmの銀箔を、圧力60Paで吸着固定し、目視で銀箔表面に凹凸が認められるかどうかを確認し、凹凸がないものを○、目視で確認できる凹凸があるものを×と評価した。
【0065】
[粘度平均分子量(Mv)の測定方法]
ポリエチレン系樹脂をデカリン(デカヒドロナフタレン)に溶解させ、濃度(C)の異なる複数の溶液を作製した。それらの溶液を135℃の恒温槽に静置し、ウベローデタイプの粘度計を用いて、各溶液の還元粘度(ηsp/C)を測定した。その後、溶液ごとの濃度(C)と還元粘度(ηsp/C)とをプロットして、直線式を導き、濃度0に外挿した極限粘度([η])を求めた。この極限粘度([η])から以下の式に従い、ポリエチレン系樹脂の粘度平均分子量(Mv)を求めた。
Mv=5.34×10
4×[η]
1.49【0066】
[平均粒径の測定方法]
メタノールを分散媒として樹脂粒子を分散させた溶液を調製した。得られた溶液をレーザ回析式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製「SALD−2100」)を用いて測定することにより、累積重量が50%となる粒子径(メディアン径)を平均粒子径として得た。さらに、累積重量が90%となる粒子径D90と累積重量が10%となる粒子径D10を求め、その比D90/D10を得た。
【0067】
[実施例1]
粘度平均分子量(Mv)が4.0×10
5、平均粒径が95μm、嵩密度が0.53g/ccの超高分子量ポリエチレン100質量部に対して、ポリオキシソルビタンモノラウレート0.3質量部を添加して、ブレンダーで混合した。得られた樹脂粒子2を小型モーターバイブレータを用い3000VPMで振動させた原料ホッパー1に投入して原料ホッパー1下部の供給ローラー3を移動速度(円周)0.3rpmで回転させ樹脂粒子2を無端コンベアベルト4上に供給した。供給された樹脂粒子2は、移動速度15cm/minで移動している無端コンベアベルト4上に厚み0.505mmになるように堆積した。
【0068】
次に、無端コンベアベルト4上にシート状に堆積した樹脂粒子2を、上下4枚合計8枚の遠赤外線セラミックヒータでコンベアベルトを挟むようにセットされた加熱ゾーン6で、上側のヒーターを入口側から205℃、190℃、185℃、185℃に設定し、下側を入口側から210℃、200℃、195℃、195℃に設定された加熱ゾーン6を10分間かけて通過させた。加熱ゾーン6の出口の樹脂温度は140℃であった。続いて、温度を115℃に調整した圧縮ローラーにより、多孔質シートを圧縮率1%で圧縮した。圧縮ローラーによる圧縮から15秒後に無端コンベアベルトから多孔質シートを剥がし、両面から空冷し、ロールに巻きつけて多孔質シートの原反を得た。得られた多孔質シートの特性を表1に示す。また、断面のプロファイルを
図1に示す。
【0069】
[実施例2]
平均粒径が75μm、嵩密度が0.43g/ccの超高分子量ポリエチレンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、多孔質シートを得た。得られた多孔質シートの特性を表1に示す。
【0070】
[実施例3]
粘度平均分子量(Mv)が3.0×10
6、平均粒径が50μm、嵩密度が0.25g/ccの超高分子量ポリエチレン100質量部に対して、ポリオキシソルビタンモノラウレート0.3質量部を添加して、ブレンダーで混合した。得られた樹脂粒子を、無端コンベアベルト4上に厚み0.170mmになるように堆積させた。その他は、実施例1と同様にして、焼結工程を行った。
【0071】
圧縮ローラーを使用する代わりに、型枠厚み0.150mmの型を用いて、得られた多孔質シートを95℃で90秒間、1MPの条件で加圧プレスすることにより、厚み0.150mmの多孔質シートの原反を得た。得られた多孔質シートの特性を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
粘度平均分子量(Mv)が5.5×10
6、平均粒径が100μm、嵩密度が0.41g/ccの超高分子量ポリエチレン樹脂を使用し、メッシュ状の円筒状金型(内径250mm、高さ500mm)に充填し、30秒間バイブレーターで振動を与えながら樹脂を充填した。これを耐圧容器に入れ、水蒸気(160℃、8気圧)を導入し、10時間加熱焼結し、その後、25℃の室温に放置して冷却した。得られた円筒状の多孔質焼結体ブロックを切削することにより、厚み0.50mmの多孔質シートを得た。得られた多孔質シートの特性を表1に示す。また、断面のプロファイルを
図2に示す。
【0073】
[比較例2]
粘度平均分子量(Mv)が3.3×10
6、平均粒径が150μm、嵩密度が0.41g/ccの超高分子量ポリエチレン樹脂を使用し、クリアランス2.0mmに調整されたアルミニウム製の金型に30秒間バイブレーターで振動を与えながら樹脂を充填し、金型温度が200℃になるまで加熱、冷却後離形し、厚み2.0mmの多孔質シートを得た。得られた多孔質シートの特性を表1に示す。
【0074】
[比較例3]
実施例1で用いた樹脂粒子を使用し、ホッパーを振動させなかった以外は、実施例1と同様な方法で多孔質シートを得た。このシートは均一な敷き均しができず、穴あきが発生した。
【0075】
[比較例4]
実施例1で用いた樹脂粒子を分級し、D90/D10が1.2となるように調整した以外は、実施例1と同様な方法で多孔質シートを得た。このシートは表面開口径が大きく、吸着状態に凹凸が発生した。
【0076】
[比較例5]
実施例1で用いた樹脂粒子を使用し、上下のヒータ温度を同じ設定にし、入口側から210℃、200℃、195℃、195℃に設定した以外は、実施例1と同様な方法で多孔質シートを得た。このシートは通気性がなく、連続気孔を有しない。
【0077】
[比較例6]
実施例1で用いた樹脂粒子を使用し、上側のヒーターを入口側から155℃、155℃、155℃、155℃に設定し、下側を入口側から160℃、160℃、160℃、160℃に設定された加熱ゾーン6を10分間かけて通過させた以外は、実施例1と同様な方法で多孔質シートを得た。このシートは、焼結が不十分であり、厚みを測定するのも不可能なほど強度が弱く、吸引固定搬送用シートしての使用は不可能であった。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示す通り、少なくとも一方の表面の、負荷長さ率が10%以上とすることで、被吸着体へのダメージを低減することができ、通気性があり、表面に突起状の形状がないため吸着緩衝材として有効である。