【文献】
POLYMERS and PORYMERIC COMPOSITES,Graphitic Carbon Powders for Polymer Applications,スイス,2017年03月08日,P.401-424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、黒鉛及びマイクロまたはナノサイズの耐酸性バインダから形成される炭素複合体が、高圧高温において改良された耐酸性を有することを見出した。新しい炭素複合体は、優れた機械的強度を有する。また、炭素複合体は、高温で優れた弾性、耐熱性、及び耐薬品性を有する。さらに有利な特徴において、複合体は、黒鉛の種々の優れた特性、例えば、熱伝導性、電気伝導性、潤滑性などを保持している。
【0010】
理論によって拘束されることを望まないが、耐酸性の改良が、炭素マイクロ構造の間に形成される耐酸性結合相によって付与されるとされている。バインダの融点を超える温度などの高温では、マイクロまたはナノサイズのバインダが、炭素マイクロ構造の間で均一に分散されるように液化する。冷却の際、バインダが固化し、機械的連動を通して一緒に炭素ナノ構造を結合する結合相を形成する。
【0011】
さらに、理論によって拘束されることを望まないが、改良された機械的強度及び改良された弾性の両方を有する複合体では、炭素マイクロ構造それ自体が、積層された層間に空間を有する層構造であるとされている。バインダは、マイクロ構造に浸透することなく、その境界においてマイクロ構造をただ選択的にロックする。そのため、マイクロ構造内の結合していない層が弾性を付与し、炭素マイクロ構造の間に設けられている結合相が機械的強度を付与する。
【0012】
炭素マイクロ構造は、黒鉛を高密度状態に圧縮した後に形成される、黒鉛の微視的構造である。これらは、圧縮方向に沿って一緒に積層された黒鉛底面を含む。本明細書において使用されているとき、炭素底面は、実質的に平坦な、平行な炭素原子シートまたは層を指し、ここで、各シートまたは層は、単一原子の厚さを有している。黒鉛底面はまた、炭素層とも称される。炭素マイクロ構造は、概して平坦でありかつ薄い。これらは、異なる形状を有し得、また、マイクロフレーク、マイクロディスクなどとも称され得る。一実施形態において、炭素マイクロ構造は、互いに実質的に平行である。
【0013】
炭素複合体において2種類の空隙:炭素マイクロ構造の間の空隙または格子間空間、及びそれぞれ個々の炭素マイクロ構造内の空隙;が存在する。炭素マイクロ構造の間の格子間空間が、約0.1〜約100ミクロン、具体的には約1〜約20ミクロンのサイズを有する一方で、炭素マイクロ構造内の空隙は、はるかに小さく、概して、約20ナノメータ〜約1ミクロン、具体的には約200ナノメータ〜約1ミクロンの間である。空隙または格子間空間の形状は、特に限定されない。本明細書において使用されているとき、空隙または格子間空間のサイズは、空隙または格子間空間の最大寸法を指し、高分解能電子顕微鏡または原子間力顕微鏡技術によって決定され得る。
【0014】
炭素マイクロ構造の間の格子間空間は、マイクロまたはナノサイズのバインダから形成される結合相によって充填されている。例えば、結合相は、炭素マイクロ構造の間の格子間空間の約10体積%〜約90体積%、約50体積%〜約90体積%、約70体積%〜約90体積%、約10体積%〜約30体積%、または約20体積%〜約50体積%、または約20体積%〜約40体積%を占めることができる。しかし、バインダは、個々の炭素マイクロ構造に浸透せず、炭素マイクロ構造内の空隙は充填されていない、すなわち、いずれのバインダによっても充填されていない。そのため、炭素マイクロ構造内の炭素層は、バインダによって一緒にロックされていない。このメカニズムを通して、炭素複合体、特に、膨張黒鉛のマイクロ構造を含有する炭素複合体の可撓性が保たれ得る。
【0015】
炭素マイクロ構造は、約1〜約200ミクロン、約1〜約150ミクロン、約1〜約100ミクロン、約1〜約50ミクロン、または約10〜約20ミクロンの厚さを有する。炭素マイクロ構造の直径または最大寸法は、約5〜約500ミクロンまたは約10〜約500ミクロンである。炭素マイクロ構造のアスペクト比は、約10〜約500、約20〜約400、または約25〜約350である。一実施形態において、炭素マイクロ構造における炭素層間の距離は、約0.3ナノメータ〜約1ミクロンである。炭素マイクロ構造は、約0.5〜約3g/cm
3、または約0.1〜約2g/cm
3の密度を有し得る。
【0016】
本明細書において使用されているとき、黒鉛は、以下:天然黒鉛;合成黒鉛;膨張性黒鉛;または膨張黒鉛;のうちの1つ以上を含む。天然黒鉛は、自然により形成されている黒鉛である。これは、「片状」黒鉛、「鱗状」黒鉛、及び「土状」黒鉛として分類され得る。合成黒鉛は、炭素材料から作製される製造物である。熱分解黒鉛は、合成黒鉛の1つの形態である。膨張性黒鉛は、天然黒鉛または合成黒鉛の層間に挿入されるインターカラント材料を有する黒鉛を指す。黒鉛材料をインターカレートするために広範な化学物質が使用されてきた。これらとして、酸、酸化剤、ハロゲン化物などが挙げられる。例示的なインターカラント材料として、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO
3、またはハロゲン化物、例えばFeCl
3、ZnCl
2、及びSbCl
5が挙げられる。加熱の際、インターカラント材料は、液体または固体状態から気相に変換される。気体の形成により圧力が発生し、これが、隣接する炭素層を押して離間させて、結果として膨張黒鉛を生じさせる。膨張黒鉛粒子は外見が蠕虫状であるため、一般に蠕虫と称されている。
【0017】
有利には、炭素複合体は、膨張黒鉛のマイクロ構造を含む。他の形態の黒鉛と比較して、膨張黒鉛は、高い可撓性、高い圧縮回復、及びより大きな異方性を有する。膨張黒鉛及びマイクロまたはナノサイズの耐酸性バインダから高温高圧条件下で形成された複合体は、したがって、所望の機械的強度及び弾性に加えて優れた耐酸性を有し得る。
【0018】
炭素複合体において、炭素マイクロ構造は、結合相によって一緒に保持される。結合相は、機械的連動によって炭素マイクロ構造を結合するバインダを含む。結合相の厚さは、約0.1〜約100ミクロンまたは約1〜約20ミクロンである。結合相は、一緒に炭素マイクロ構造を結合する連続または不連続のネットワークを形成し得る。一実施形態において、結合相には個々の粒子が存在しない。炭素複合体において、炭素マイクロ構造の底面は、実質的に平行であり得る。
【0019】
例示的なバインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTEF)、テトラフルオロエチレン及びプロピレンのペルオキシド硬化したコポリマー(FEPM)、フッ化炭素ゴム(FKM);ペルフルオロカーボンゴム(FFKM)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンは具体的に言及されている。これらの材料は、粒子、ファイバ、及びワイヤなどの異なる形状であってよい。材料の組み合わせが使用されてよい。
【0020】
炭素複合体を作製するのに使用されるバインダは、マイクロまたはナノサイズである。一実施形態において、バインダは、約0.05〜約20ミクロン、具体的には、約0.05〜約10ミクロン、約0.5〜約5ミクロン、より具体的には約0.1〜約3ミクロンの平均粒子サイズを有する。理論によって拘束されることを望まないが、バインダが、これらの範囲内のサイズを有するとき、炭素マイクロ構造の間で均一に分散しているとされる。
【0021】
炭素複合体は、複合体の合計重量を基準にして、約20〜約60重量%、約30〜約50重量%、または約35〜約45重量%の炭素を含む。結合相またはバインダは、複合体の合計重量を基準にして、約40重量%〜約80重量%または約50重量%〜約70重量%、または約55重量%〜約65重量%の量で存在する。
【0022】
炭素複合体の一実施形態を
図1に示す。
図1に示すように、複合体は、炭素マイクロ構造1と、当該炭素マイクロ構造をロックする結合相2とを含む。炭素複合体は、炭素マイクロ構造1の間で格子間空間5を含有する。炭素マイクロ構造内に、未充填空隙6が存在する。
【0023】
炭素複合体は、充填剤を任意選択的に含むことができる。例示的な充填剤として、以下:炭素ファイバ;カーボンブラック;マイカ;クレイ;ガラスファイバ;セラミックファイバ;またはセラミック中空構造;のうちの1つ以上が挙げられる。セラミック材料として、SiC、Si
3N
4、SiO
2、BNなどが挙げられる。充填剤は、炭素複合体の合計重量を基準にして、約0.5〜約10重量%または約1〜約8%の量で存在し得る。
【0024】
複合体は、バー、ブロック、シート、チューブ状物、円筒形ビレット、トロイド、粉末、ペレット、または、有用な製品を形成するために機械加工され、形成されもしくは他の場合には使用され得る他の形態を含めたいずれの所望の形状を有していてもよい。これらの形態のサイズまたは寸法は、特に限定されない。実例として、シートは、約10μm〜約10cmの厚さ及び約10mm〜約2mの幅を有する。粉末は、約10μm〜約1cmの平均サイズを有する粒子を含む。ペレットは、約1cm〜約5cmの平均サイズを有する粒子を含む。
【0025】
炭素複合体を形成する1つの方法は、コールドプレスにより、炭素及びマイクロまたはナノサイズのバインダを含む組み合わせを圧縮して圧粉体を付与すること;ならびに、バインダの溶融温度を超える温度で圧粉体を圧縮及び加熱することにより、炭素複合体を形成することである。当該プロセスは、2工程プロセスと称され得る。代替的に、炭素及びマイクロまたはナノサイズのバインダを含む組み合わせは、バインダの融点を超える温度で直接圧縮及び加熱されて炭素複合体を形成することができる。当該プロセスは、1工程プロセスと称され得る。
【0026】
組み合わせにおいて、黒鉛などの炭素は、組み合わせの合計重量を基準にして、20〜約60重量%、約30〜約50重量%、または約35〜約45重量%の量で存在する。バインダは、組み合わせの合計重量を基準にして、約40重量%〜約80重量%または約50重量%〜約70重量%、または約55重量%〜約65重量%の量で存在する。
【0027】
組み合わせにおける黒鉛は、チップ、粉末、プレートレット、フレークなどの形態であり得る。一実施形態において、黒鉛は、約50ミクロン〜約5,000ミクロン、好ましくは約100〜約300ミクロンの直径を有するフレークの形態である。黒鉛フレークは、約1〜約5ミクロンの厚さを有し得る。組み合わせの密度は、約0.01〜約0.05g/cm
3、約0.01〜約0.04g/cm
3、約0.01〜約0.03g/cm
3または約0.026g/cm
3である。組み合わせは、当該分野において公知の任意の好適な方法を介して黒鉛及びマイクロまたはナノサイズのバインダをブレンドすることによって形成され得る。好適な方法の例として、ボール混合、音響混合、リボンブレンド、垂直スクリュー混合、及びV−ブレンドが挙げられる。
【0028】
2工程プロセスを参照すると、圧粉体を形成するための圧力は、約500psi〜約10ksiであり得、温度は、約20℃〜約200℃であり得る。この段階での低減比率、すなわち、組み合わせの体積に対する圧粉体の体積は、約40%〜約80%である。圧粉体の密度は、約0.1〜約5g/cm
3、約0.5〜約3g/cm
3、または約0.5〜約2g/cm
3である。
【0029】
圧粉体は、バインダの融点よりも約10℃〜約50℃高い、または約10℃〜約30℃高い、または約10℃〜約20℃高い温度で加熱され得る。温度がより高いとき、バインダは、より低粘性になり、より良好に流動し、バインダが炭素マイクロ構造の間の空隙に均一に分散されるようにするために必要とされる圧力が低くなり得る。しかし、温度が高すぎると、機器に有害な影響を及ぼし得る。
【0030】
温度は、所定の温度スケジュールまたは傾斜率にしたがって適用され得る。加熱手段は、特に限定されない。例示的な加熱方法として、直流(DC)加熱、誘導加熱、マイクロ波加熱、及び放電プラズマ焼結(SPS)が挙げられる。一実施形態において、加熱は、DC加熱を介して行われる。例えば、黒鉛及びマイクロまたはナノサイズのバインダを含む組み合わせは、熱を非常に迅速に発生させる組み合わせを通して流れる、電流によって帯電され得る。任意選択的に、加熱はまた、不活性雰囲気下、例えば、アルゴンまたは窒素下で行われてもよい。一実施形態において、圧粉体は、空気の存在下で加熱される。
【0031】
加熱は、約500psi〜約30,000psiまたは約1000psi〜約5000psiの圧力で行われ得る。圧力は、過圧であっても亜大気圧であってもよい。理論によって拘束されることを望まないが、過圧が組み合わせに印加されるとき、マイクロまたはナノサイズのバインダは、侵入によって炭素マイクロ構造の間の空隙に押し進められるとされている。亜大気圧が組み合わせに印加されるとき、マイクロまたはナノサイズのバインダはまた、毛管力によって炭素マイクロ構造の間の空隙に押し進められ得る。
【0032】
一実施形態において、炭素複合体を形成する所望の圧力は、一度には印加されない。圧粉体が投入された後、低い圧力が、組成物に室温または低温で最初に印加されて、組成物における大きな孔を閉鎖する。他の場合には、溶融したバインダがダイの表面に流れ得る。温度が所定の最高温度に達したら、炭素複合体を作製するのに必要とされる所望の圧力が印加され得る。温度及び圧力は、所定の最高温度及び所定の最大圧力で約5分〜約120分間保持され得る。一実施形態において、所定の最高温度は、バインダの融点よりも約10℃〜約50℃高い。
【0033】
この段階での低減比率、すなわち、圧粉体の体積に対する炭素複合体の体積は、約10%〜約70%または約20〜約40%である。炭素複合体の密度は、圧縮度を制御することによって変動し得る。炭素複合体は、約0.5〜約10g/cm
3、約1〜約8g/cm
3、約1〜約6g/cm
3、約2〜約5g/cm
3、約3〜約5g/cm
3、または約2〜約4g/cm
3の密度を有する。
【0034】
別の実施形態において、炭素複合体は、圧粉体を作製することなく黒鉛及びバインダの組み合わせから直接作製され得る。プレス及び加熱は、同時に実施され得る。好適な圧力及び温度は、2工程プロセスの第2工程について本明細書において考察されているのと同じであり得る。
【0035】
ホットプレスは、温度及び圧力を同時に印加するプロセスである。これは、炭素複合体を作製するための1工程及び2工程の両方のプロセスにおいて使用され得る。
【0036】
炭素複合体は、1工程または2工程プロセスを通して金型において作製され得る。得られた炭素複合体は、バー、ブロック、チューブ状物、円筒形ビレット、またはトロイドを形成するように、さらに機械加工または形削りされてよい。機械加工として、例えば、ミラー、鋸、旋盤、放電加工機などを使用した、切断、鋸引、削磨、フライス加工、面削り、旋盤加工、掘削などが挙げられる。代替的に、炭素複合体は、所望の形状を有する金型を選択することによって有用な形状に直接成形され得る。
【0037】
シート材料、例えば、ウエブ、紙、ストリップ、テープ、ホイル、マットなどもまた、熱間圧延を介して作製され得る。一実施形態において、熱間圧延によって作製される炭素複合体シートは、さらに加熱されて、バインダが炭素マイクロ構造を一緒に効果的に結合することを可能にし得る。
【0038】
炭素複合体ペレットは、押出によって作製され得る。例えば、黒鉛及びマイクロまたはナノサイズのバインダの組み合わせは、まず、コンテナに投入され得る。次いで、組み合わせは、ピストンを通して押出機に押し込まれる。押出温度は、バインダの融点よりも約10〜約50℃高くてよい。一実施形態において、押出からワイヤが得られ、これが切断されてペレットを形成し得る。別の実施形態において、ペレットは、押出機から直接得られる。任意選択的に、後処理プロセスがペレットに適用され得る。例えば、ペレットは、炭素マイクロ構造が結合されていないまたは押出の際に適切に結合されていないときにバインダが炭素マイクロ構造を一緒に結合することができるようにバインダの溶融温度を超える炉において加熱され得る。
【0039】
炭素複合体粉末は、炭素複合体、例えば固体片を、剪断力(切断力)を通してフライス加工することによって作製され得る。炭素複合体は粉砕されるべきではないことに注意されたい。そうでない場合、炭素マイクロ構造内の空隙が破壊され得、これにより、炭素複合体が弾性を失う。
【0040】
炭素複合体は、多くの有利な特性を有し、広範な用途において使用され得る。特に有利な特徴において、炭素複合体を形成することにより、耐酸性及び機械的強度の両方が改良される。
【0041】
炭素複合体の改良された特性を説明するために、約40重量%の膨張黒鉛、及び、約60重量%の、20ミクロン未満の粒子サイズを有するポリテトラフルオロエチレン粉末を含有する組成物を、約350℃の温度で圧縮することによってサンプルを調製した。耐酸性及び一軸圧縮試験結果を
図2及び3に示す。
【0042】
炭素複合体は、高温において優れた耐酸性の性質を有する。
図2は、150℃の温度及び150psiの圧力において50体積%硝酸に7日間暴露する前後の炭素複合体を比較している。
図2に示すように、試験後に炭素複合体サンプルの変化はない。
【0043】
本明細書に開示されている炭素複合体は、50体積%以上の酸濃度で種々のタイプの酸に耐薬品性を有し得る。例示的な酸として、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。炭素複合体は、最大で約500°F
(260℃)、具体的には最大で約300°F
(149℃)、より具体的には約200°F
(93℃)の操作温度範囲で高い耐酸性を有し得る。炭素複合体は、約50psi〜約5000psiの圧力または約100psi〜約3000psiの圧力において高い耐酸性を有し得る。一実施形態において、炭素複合体またはその物品は、酸が50体積%以上の酸濃度におけるものである硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせに暴露されるとき、約68°F
(20℃)〜約500°F
(260℃)の温度及び約100psi〜約3000psiの圧力において10日を超えて、20日を超えて、または30日を超えて連続して使用され得る。本明細書において使用されているとき、「継続して抵抗性である」または「継続して」は、炭素複合体または炭素複合体を含有する物品の合計重量を基準にして、炭素複合体または炭素複合体を含有する物品の約10重量%未満、約5重量%未満、約2重量%未満、または約1重量%未満が、熱的に割れ、熱的に劣化され、かつ/または熱的に分解されることを意味する。
【0044】
改良された耐酸性に加えて、炭素複合体はまた、優れた機械的強度を有することもできる。
図3は、本開示による例示的な炭素複合体サンプルが、約900psiの一軸圧縮強度を有し得ることを示している。
【0045】
炭素複合体は、限定されないが、エレクトロニクス、原子力、熱間金属加工、コーティング、航空宇宙、自動車、石油ガス、及び海洋用途を含めた広範な用途のための物品を作製するのに有用である。炭素複合体は、物品の全体または一部を形成するのに使用されてよい。したがって、炭素複合体を含む物品が提供される。有利には、物品は、シーリング要素である。
【0046】
実例としてのシーリング要素として、例えば、シール、例えば静的シールまたは動的シール;シールシート;パックオフシール、例えば、回収可能セメンティングパックオフ、ポリッシュドボアレセプタクルパックオフ、ワイヤーラインパックオフ;パッカー;ジョイントシート;ガスケット;ブリッジプラグ;パッキン、例えば、ポンプパッキン、バルブパッキンなどが挙げられる。異なるタイプのシーリング要素の中で重複があり得る。静的シールは、2つの安定かつ動かない要素間でのシールを指し、C−リング、E−リング、O−リング、U−リング、T−リング、L−リング、矩形リング、方形リング、x−セクションドリングなどが含まれる。動的シールは、特に限定されず、これには、1対の相対的に可動な部材間の任意のシールが含まれる。ガスケットは、2以上の合わせ面間の空間を充填する機械的シールである。例示的なガスケットとして、圧力及び熱を受ける高性能ガスケット、例えば、自動車用のヘッドガスケット及び排気ガスケット、ならびに精製機用のフランジガスケットが挙げられる。シーリング要素は、優れた弾性特性を有する。そのため、該要素は、シールされる表面におけるギャップ及び欠陥を充填して、流体密または気密シールを付与することができる。シーリング要素は、高い耐熱性及び耐久性をさらに有し得、広い温度範囲において使用され得る。
【0047】
物品は、ダウンホール要素であり得る。実例の物品として、シール、高圧力ビーズフラクスクリーンプラグ、スクリーンベースパイププラグ、ボール及びシート用のコーティング、圧縮パッキン要素、膨張性パッキン要素、O−リング、ボンデッドシール、ブレットシール、サブサーフェスセーフティバルブシール、サブサーフェスセーフティバルブフラッパーシール、動的シール、V−リング、バックアップリング、ドリルビットシール、ライナーポートプラグ、大気ディスク、大気室ディスク、デブリバリア、ドリルインスチムライナープラグ、流入制御装置プラグ、フラッパー、シート、ボールシート、直接接続ディスク、ドリルインリニアディスク、ガスリフトバルブプラグ、流体損失制御フラッパー、電動水中ポンプシール、剪断プラグ、フラッパーバルブ、ガスリフトバルブ、ならびにスリーブが挙げられる。
【0048】
炭素複合体は、約−65°F
(−54℃)から最大で約1200°F
(649℃)までの操作温度範囲で高い耐熱性を有する。したがって、ダウンホール物品、例えば、パッカーは、750°F
(399℃)超、または1000°F
(538℃)超の周囲温度を有する地下の位置から炭化水素を生成するのに使用され得る。
【0049】
ダウンホール物品はまた、坑井を切り離すまたは仕上げるのに使用することもできる。方法は、坑井においてダウンホール物品のうちの1つ以上を含む装置を配備することを含む。例えば、物品は、1つ以上の生産用チューブ状物を包囲する箇所において掘削孔内の環帯を充填するのに適したタイプのものであり得る。本明細書において使用されているとき、「生産用チューブ状物」という用語は、例えば、井戸を完成させるのに使用される任意の種類のチューブ状物、例えば、限定されないが、生産用導管、生産用ケーシング、中間ケーシング、及び、炭化水素が表面に流れるデバイスを含むことが定義される。かかる物品の例として、非限定的な実施形態において、対象でない生産ゾーンまたは水ゾーンを閉鎖するのに使用される環状アイソレータなどが挙げられる。
【0050】
物品は、所望の形状を有する金型を選択することによって炭素複合体に関して本明細書において記載されているのと同じ条件下で、1工程または2工程プロセスを通して、炭素、例えば、黒鉛、及びバインダを含有する組成物から直接作製され得る。代替的に、物品は、形削りもしくは機械加工またはこれらの組み合わせによって炭素複合体から形成される。形削りには、成形、押出、鋳造、及びラミネート加工が含まれる。機械加工として、例えば、例えば、ミラー、鋸、旋盤、放電加工機などを使用した、切断、鋸引、削磨、フライス加工、面削り、旋盤加工、掘削などが挙げられる。物品を作製するのに使用される炭素複合体の形態は、特に限定されず、例えば、粉末、ペレット、シート、バー、ブロック、チューブ状物、円筒形ビレット、トロイドなどが挙げられる。
【0051】
本開示の種々の実施形態を以下に記載する。
【0052】
実施形態1。炭素マイクロ構造の間に格子間空間を有する前記炭素マイクロ構造と;前記格子間空間の少なくともいくつかに設けられているバインダと;を含有する炭素複合体を含む物品であって、前記炭素マイクロ構造が、前記炭素マイクロ構造内に未充填空隙を含んでおり;前記バインダが、以下:ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニル;ポリフッ化ビニリデン;ポリクロロトリフルオロエチレン;ペルフルオロアルコキシアルカン;フッ素化エチレンプロピレン;エチレンテトラフルオロエチレン;エチレンクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン及びプロピレンのペルオキシド硬化したコポリマー;フッ化炭素ゴム;ペルフルオロカーボンゴム;またはペルフルオロポリエーテル;のうちの1つ以上を含んでいる、前記物品。
【0053】
実施形態2。前記バインダが、前記炭素複合体の合計重量を基準にして約40重量%〜約80重量%の量で存在する、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0054】
実施形態3。前記バインダが、前記炭素マイクロ構造を機械的にロックする結合相を形成する、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0055】
実施形態4。前記結合相が、粒子を含まない、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0056】
実施形態5。前記炭素マイクロ構造が、膨張黒鉛のマイクロ構造を含む、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0057】
実施形態6。前記バインダが、ポリテトラフルオロエチレンを含む、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0058】
実施形態7。少なくとも50体積%の、以下:硫酸;硝酸;塩酸;または酢酸;のうちの1つ以上を含む酸に暴露されるとき、約68°F
(20℃)〜約500°F
(260℃)の温度及び約50psi〜約5,000psiの圧力において10日を超えて連続して使用されるときに、前記炭素複合体の10重量%未満が、熱的に割れ、熱的に劣化され、または熱的に分解される、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0059】
実施形態8。シーリング要素である、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0060】
実施形態9。前記シーリング要素が、シール;シールシート;シールアセンブリ;パックオフシール;パッカー;ジョイントシート;ガスケット;ブリッジプラグ;またはパッキンである、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0061】
実施形態10。前記シールが、静的シール;動的シール;回収可能セメンティングパックオフ;ポリッシュドボアレセプタクルパックオフ;ワイヤーラインパックオフ;ヘッドガスケット、排気ガスケット、フランジガスケット;バルブパッキン;またはポンプパッキンである、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0062】
実施形態11。シール、高圧力ビーズフラクスクリーンプラグ;スクリーンベースパイププラグ;ボール及びシート用コーティング;圧縮パッキン要素;膨張性パッキン要素;O−リング;ボンデッドシール;ブレットシール;サブサーフェスセーフティバルブシール;サブサーフェスセーフティバルブフラッパーシール;動的シール;V−リング;バックアップリング;ドリルビットシール;ライナーポートプラグ;大気ディスク;大気室ディスク;デブリバリア;ドリルインスチムライナープラグ;流入制御装置プラグ;フラッパー;シート;ボールシート;直接接続ディスク;ドリルインリニアディスク;ガスリフトバルブプラグ;流体損失制御フラッパー;電動水中ポンプシール;剪断プラグ;フラッパーバルブ;ガスリフトバルブ;またはスリーブを含むダウンホール要素である、いずれかの先行実施形態に記載の物品。
【0063】
実施形態12。炭素複合体を含む物品を形成する方法であって:炭素及びバインダを含有する組成物を、前記バインダの融点よりも約10℃〜約50℃高い温度及び約500psi〜約30,000psiの圧力で圧縮して、前記物品を形成すること;を含み、前記物品が、炭素マイクロ構造の間に格子間空間を有する前記炭素マイクロ構造と;前記格子間空間の少なくともいくつかに設けられているバインダと;を含有する炭素複合体を含んでおり、前記炭素マイクロ構造が、前記炭素マイクロ構造内に未充填空隙を含んでおり;前記バインダが、以下:ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニル;ポリフッ化ビニリデン;ポリクロロトリフルオロエチレン;ペルフルオロアルコキシアルカン;フッ素化エチレンプロピレン;エチレンテトラフルオロエチレン;エチレンクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン及びプロピレンのペルオキシド硬化したコポリマー;フッ化炭素ゴム;ペルフルオロカーボンゴム;またはペルフルオロポリエーテル;のうちの1つ以上を含んでいる、前記方法。
【0064】
実施形態13。前記バインダが、前記炭素複合体の合計重量を基準にして約40重量%〜約80重量%の量で存在する、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0065】
実施形態14。前記バインダが、前記圧縮の際に液体になる、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0066】
実施形態15。地下の位置から炭化水素を生成する方法であって、炭素複合体を含む物品のうちの1つ以上を使用することを含み、炭素複合体が、炭素マイクロ構造の間に格子間空間を有する前記炭素マイクロ構造と;前記格子間空間の少なくともいくつかに設けられているバインダと;を含んでおり、前記炭素マイクロ構造が、前記炭素マイクロ構造内に未充填空隙を含んでおり;前記バインダが、以下:ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニル;ポリフッ化ビニリデン;ポリクロロトリフルオロエチレン;ペルフルオロアルコキシアルカン;フッ素化エチレンプロピレン;エチレンテトラフルオロエチレン;エチレンクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン及びプロピレンのペルオキシド硬化したコポリマー;フッ化炭素ゴム;ペルフルオロカーボンゴム;またはペルフルオロポリエーテル;のうちの1つ以上を含んでいる、前記方法。
【0067】
実施形態16。前記物品がパッカーである、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0068】
実施形態17。前記物品を、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含む流体に、150°F
(66℃)超の温度で暴露する、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0069】
実施形態18。前記流体が、前記流体の合計体積を基準にして、50体積%超の硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含有する、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0070】
実施形態19。坑井を切り離すまたは仕上げる方法であって、物品を含む装置を前記坑井に配備することを含み、前記物品が、150°F
(66℃)超の温度で、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含有する流体に暴露され、炭素複合体を含んでおり、炭素複合体は、炭素マイクロ構造の間に格子間空間を有する前記炭素マイクロ構造と;前記格子間空間の少なくともいくつかに設けられているバインダと;を含有しており、前記炭素マイクロ構造が、前記炭素マイクロ構造内に未充填空隙を含んでおり;前記バインダが、以下:ポリテトラフルオロエチレン;ポリフッ化ビニル;ポリフッ化ビニリデン;ポリクロロトリフルオロエチレン;ペルフルオロアルコキシアルカン;フッ素化エチレンプロピレン;エチレンテトラフルオロエチレン;エチレンクロロトリフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン及びプロピレンのペルオキシド硬化したコポリマー;フッ化炭素ゴム;ペルフルオロカーボンゴム;またはペルフルオロポリエーテル;のうちの1つ以上を含んでいる、前記方法。
【0071】
実施形態20。前記流体が、前記流体の合計体積を基準にして、50体積%超の硫酸、硝酸、塩酸、酢酸、またはこれらのうちの少なくとも1つを含む組み合わせを含有する、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0072】
実施形態21。前記物品が、熱的割れ、熱的劣化または熱的分解の1 つ以上に対して、150°F
(66℃)超の周囲温度において30日を超えて継続して抵抗性である、いずれかの先行実施形態に記載の方法。
【0073】
本明細書に開示されている全ての範囲は終点を包含し、終点は、独立して互いに組み合わせ可能である。本明細書において使用されるとき、「組み合わせ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などを包含する。全ての参照文献が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
発明を説明する文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)、「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」という用語、ならびに同様の指示対象の使用は、別途本明細書において示されないまたは文脈によって明らかに否定されない限り、単数及び複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。「または」は、「及び/または」を意味する。量と併せて使用されている修飾語句「約」は、記述されている値を包含し、文脈によって指示されている意味を有する(例えば、これは、具体的な量の測定に関連する誤差の程度を含む)。本明細書において使用されているとき、粒子のサイズまたは平均サイズは、粒子の最大寸法を指し、高分解能電子顕微鏡または原子間力顕微鏡技術によって決定され得る。「平均サイズ」は、「数平均サイズ」を意味する。