【実施例】
【0046】
以下の実施例、比較例及び参考例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
モノクローナル抗体の作製と評価
(1)
モノクローナル抗体作製用抗原の選択と準備
ヒトIgG4を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを公知の方法(例えばKohler and Milstein,Nature (1975)256,p.495−497)に準じて作製した。抗原として用いるIgG4はヒト血清より調製した。具体的にはヒト血清を硫安沈殿により分画・透析後、CaptureSelectIgG4 Affinity Matrix(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)の製品添付文書に従い、IgG4抗原を精製した。
【0048】
(2)
免疫
ヒト血清より上記の方法で精製した0.5mg/mLヒトIgG4と同体積量のフロイント完全アジュバント(シグマアルドリッチ)を乳化するまでよく混和し、乳化懸濁液を作製した。4週齢Balb/cマウスをジエチルエーテル麻酔し、上記の乳化懸濁液を1匹あたり50μgのヒトIgG4にて腹腔内投与を実施した。約2週間間隔で6回、上記と同様にフロイント不完全アジュバント(シグマアルドリッチ)にて作製した乳化懸濁液をそれぞれマウスに注射した。最終免疫として上記6回目の注射から約3週間後、同様に乳化懸濁液を注射した。
【0049】
(3)
ハイブリドーマの確立
最終免疫より3日後にジエチルエーテル麻酔下にて外科的摘出された脾臓を無菌的に分散し脾臓細胞を調製した。ポリエチレングリコールを用いて、脾臓細胞数と骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−U1(P3U1)数の融合比率を5:1にて融合を実施した。融合細胞を10% FBS(HyClone社)ASF(コスモ・バイオ株式会社)HAT(コスモ・バイオ株式会社)培地に分散し、48ウェルプレート(住友ベークライト)に分注して37℃、5% CO
2条件にて培養した。以下のスクリーニングに用いたハイブリドーマコロニー数は4481であった。
【0050】
(4)
スクリーニング
得られたハイブリドーマのスクリーニングを1)IgG4への結合能確認、2)特異性確認、3)免疫学的凝集阻止法への適応性確認、という3段階にて実施した。
【0051】
1)
IgG4への結合能評価
上記抗原として用いた精製したヒトIgG4を0.1μg/ウェルになるように96ウェルプレート(Nunc)に分注した。シェイカーにて700rpm、25.0℃の条件で1時間振盪した。廃液し300μLのPBST(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;0.05%ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノラウレート;pH7.4)にて3回洗浄後、100μLのブロッキング緩衝液(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;1%ブロックエース粉末(大日本住友製薬);pH7.4)を添加し、1晩以上4℃にて保存した。同様にPBSTにて洗浄後、ハイブリドーマコロニーの培養上清を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、抗体希釈緩衝液(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;0.05%ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノラウレート;0.05%ウシ血清アルブミン;pH7.4)にて10000倍希釈した抗マウスIgG(H+L) HRP標識抗体(Life Technologies)を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、SureBlue(KPL)を100μL添加した。室温にて15分間静置した後、0.5mol/L硫酸(和光純薬工業)を100μL添加した。波長450nmをマイクロプレートリーダー(BIO−RAD)にて測定した。合計4481ウェル中、IgG4への結合能が確認された192ウェルを選定した。選定されたハイブリドーマを単クローン化し、培養を続けた。
【0052】
2)
特異性評価
1)にて選定されたクローンから産生される抗体の特異性を評価した。Myeloma ヒトIgG1(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3(シグマアルドリッチ)、Myeloma ヒトIgG4(EMD Millipore)を1μg/mLになるようにPBS(−)にて調整した。調整した試料を96ウェルプレート(Thermo Fisher)に100μLずつ添加した。シェイカーによる振盪以降の操作を上記1)と同様に行った。192クローン中、Myeloma ヒトIgG1、2、3と比べて、Myeloma ヒトIgG4に強い反応を示す8クローンを選定した。
【0053】
(3)
免疫学的粒子凝集阻止法への適応性評価
2)にて選定されたクローンから産生される抗体において、免疫学的凝集阻止法への適用性を評価した。
1)
第一試薬(R1)の調製
2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝溶液1に、上記の通り選定された8クローン由来の産生抗体をそれぞれ含む溶液を15μg/mLの濃度になるように加え、第一試薬とした。
2)
第二試薬(R2)の調製
2%濃度の粒径107nmのポリスチレン製のラテックス粒子溶液18mLに、ヒト血清から通常の方法で粗精製したヒトIgG4 0.35mg/mL溶液18mLを加え、室温にて1時間撹拌してラテックス粒子にヒトIgG4を物理吸着させた。その後20,000rpmで90分間遠心分離を行い、上清を廃棄して沈殿物を回収した。この沈殿物に3%濃度のウシ血清アルブミンを含むコート緩衝液を24mL加えて懸濁し、超音波処理を行って完全に分散させた後、室温で1時間撹拌した。次いで、再び遠心分離を行って得られた沈殿物にHEPES緩衝溶液2を12mL加え懸濁し超音波処理を行って完全に分散させた後、HEPES緩衝溶液2にてラテックス濃度0.12%に調整したヒトIgG4感作ラテックス粒子懸濁液を得て、各第一試薬に対し共通する第二試薬として用いた。
なお、各試薬の組成は以下の通りである。
HEPES緩衝溶液1
25mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業);100mM 3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパン スルホン酸(埼京化成工業);150mM 塩化ナトリウム(和光純薬工業);1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);3.3%デキストラン70(東京化成工業);0.1% ブロックエース(大日本住友製薬);0.09% アジ化ナトリウム(和光純薬工業);pH7.40。
コート緩衝液
25mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業);150mM 塩化ナトリウム(和光純薬工業); 1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);3% ウシ血清アルブミン(メルクミリポア);0.09% アジ化ナトリウム(和光純薬工業);pH7.50。
HEPES緩衝溶液2
500mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業); 25mM 2−モルホリノエタンスルホン酸(和光純薬工業);1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);150mM L−アルギニン塩酸塩(和光純薬工業);0.075% プロクリン950(シグマアルドリッチ);pH6.00。
【0054】
3)
吸光度変化量の測定
標準試料として、ヒトIgG4濃度をそれぞれ0.0、1.6、6.3、12.5、25.0、50.0mg/dLに調整した標準ヒト血清を用いた。なお0.0mg/dLには生理食塩水を用いた。日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。8クローン中5クローンより産生される抗体は、0.0mg/dL時に最も大きい吸光度変化量を示し、ヒトIgG4濃度が上昇するに従って吸光度変化量が減少した。よって、5クローン(MaI4-09、MaI4-08、MaI4-01、MaI4-06、MaI4-03)は免疫学的凝集阻止法への適応性を示した。一方で他3クローン(MaI4-02、MaI4-04、MaI4-05)に関しては0.0mg/dL時における最も大きい吸光度変化量、及びヒトIgG4濃度上昇に伴う吸光度変化量の減少が認められず、免疫学的凝集阻止法へ適応しなかった(
図1)。免疫学的凝集阻止法への適応性を示した抗体を産生する5クローンのうち、0.0mg/dL時の吸光度変化量が高い抗体を産生する上位2クローンを選定し、以降の解析に用いた。
【0055】
(4)
寄託
上記で選定されたハイブリドーマMaI4−08及びMaI4−09は、2015年9月1日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構内特許微生物寄託センターに対して2015年9月1日に
受領番号NITE AP−02112(MaI4−08)及びNITE AP−02113(MaI4−09)で受領され、2015年9月14日生存確認後、
受託番号NITE P−02112(MaI4−08)及びNITE P−02113(MaI4−09)が付与された(受託証2015年9月30日発行)。
以下に、寄託を特定する内容を記載する。
[1]寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 製品評価技術基盤機構産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター
あて名:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(郵便番号292−0818)
[2]寄託日:2015年9月1日
[3]
受託番号 NITE P−02112(ハイブリドーマMaI4−08)
NITE P−02113(ハイブリドーマMaI4−09)
その後、同じハイブリドーマを国際寄託するために、独立行政法人製品評価技術基盤機構内特許微生物寄託センターに対して微生物移管請求を行い、2018年6月8日に受領番号NITE ABP−02112(MaI4−08)及びNITE ABP−02113(MaI4−09)で受領された。
【0056】
(5)
細胞培養法によるモノクローナル抗体の産生
上記ハイブリドーマより抗体を産生させる方法として、公知の方法(例えば モノクローナル抗体:生化学実験法 東京化学同人)に準じて行った。具体的にはモノクローナル抗体を産生するためにはin Virtoでの培養及びIn Vivoでの培養がある。In Virtoでの培養としては培養液中におけるハイブリドーマの培養等があり、一方でIn Vivoでの培養方法としてマウス腹水を作製する方法等があるが、In Virtoでの培養を選択し、モノクローナル抗体を含む培養液上清を取得した。
【0057】
(6)
モノクローナル抗体の精製
上記よりモノクローナル抗体を精製する方法として、公知の方法(例えばモノクローナル抗体:生化学実験法 東京化学同人)に準じて行った。モノクローナル抗体の精製としてアフィニティークロマトグラフィー精製が一般的であり、プロテインGやプロテインA等を担持したセファロースカラムを用いるが、プロテインGを担持したプロテインGセファロースカラム(GEヘルスケア)を選択し、精製を行った。得られたモノクローナル抗体における280nmの吸光度を測定し、抗体濃度を確認した。濃度を調整後、0.45μm以下フィルターで濾過滅菌した。
【0058】
(7)
抗体の確認
MaI4−08、MaI4−09産生抗体をそれぞれIso−Gold Rapid Mouse−Monoclonal Isotyping Kit(with κ and λ)(BioAssay Works)の製品添付文書に従い、アイソタイプの同定を実施した。アイソタイプは表1の通りであった。
【表1】
【0059】
(8)
ELISAによる特異性の評価
Myeloma ヒトIgA1(Abcam)、Myeloma ヒトIgA2(Abcam)、Myeloma ヒトIgD(Abcam)、Myeloma ヒトIgE(Abcam)、Myeloma ヒトIgM(Abcam)、Myeloma ヒトIgG1(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3(シグマアルドリッチ)、Myeloma ヒトIgG4(EMD Millipore)を1μg/mLになるようにPBS(−)にて調整した。調整した試料を96ウェルプレート(Thermo Fisher)に100μLずつ添加した。シェイカーにて700rpm、25.0℃の条件で1時間振盪した。廃液し300μLのPBSTにて3回洗浄後、100μLのブロッキング緩衝液を添加し、1晩以上4℃にて保存した。同様にPBSTにて洗浄後、1μg/mLになるように抗体希釈緩衝液にて調整したMaI4−08、MaI4−09産生抗体をそれぞれ100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、抗体希釈緩衝液にて4000倍希釈した抗マウスIgG HRP標識抗体(Abcam)を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、SureBlue(KPL)を100μL添加した。MaI4−08、MaI4−09それぞれ5、3分後に0.5mol/L硫酸(和光純薬)を100μL添加した。波長450nmをマイクロプレートリーダー(BIO−RAD)にて測定した。その結果、他調整試料と比べMyeloma ヒトIgG4に強いシグナルが確認された(表2及び3、
図2及び3)。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
(9)
モノクローナル抗体のアミノ酸配列解析
MaI4−08、MaI4−09はそれぞれFusion Antibodies社のプロトコルによって、mRNAの抽出、クローニング及びシークエンシグを行った。解析した結果、MaI4−08の可変領域は配列番号5(重鎖可変領域)及び配列番号6(軽鎖可変領域)であり、MaI4−09の可変領域は配列番号7(重鎖可変領域)及び配列番号8(軽鎖可変領域)であり、CDRのアミノ酸配列は表4の通りになった。
【表4】
【0063】
<実施例2>
MaI4−08、MaI4−09産生抗体を用いた測定試薬調製及び測定
(1)
試薬の調製
1)
第一試薬(R1)の調製
2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝溶液1に、MaI4−08またはMaI4−09産生抗体溶液を15μg/mLの濃度になるように加え、第一試薬とした。また対照試薬として、MaI4−05産生抗体及び市販抗体HP6025(メルクミリポア)を同様にHEPES緩衝溶液1に添加した溶液を調製した。
2)
第二試薬(R2)の調製
2%濃度の粒径107nmのポリスチレン製のラテックス粒子溶液18mLに、ヒト血清から通常の方法で粗精製したヒトIgG4 0.35mg/mL溶液18mLを加え、室温にて1時間撹拌してラテックス粒子にヒトIgG4を物理吸着させた。その後20,000rpmで90分間遠心分離を行い、上清を廃棄して沈殿物を回収した。この沈殿物に3%濃度のウシ血清アルブミンを含むコート緩衝液を24mL加えて懸濁し、超音波処理を行って完全に分散させた後、室温で1時間撹拌した。次いで、再び遠心分離を行って得られた沈殿物にHEPES緩衝溶液2を12mL加え懸濁し超音波処理を行って完全に分散させた後、HEPES緩衝溶液2にてラテックス濃度0.12%に調整したヒトIgG4感作ラテックス粒子懸濁液を得て、各第一試薬に対し共通する第二試薬として用いた。
【0064】
なお、各試薬の組成は以下の通りである。
【表5】
【表6】
【表7】
【0065】
(2)
吸光度変化量の測定
標準試料として、ヒトIgG4濃度をそれぞれ1.6、6.3、12.5、25、50mg/dLに調整した標準ヒト血清を用いた。本測定では検体試料の測定を20倍希釈にして測定することを前提とするため、最終的な標準試料濃度は20倍となり、31.3、125、250、500、1000mg/dLとなる。以降に記載する試料濃度は全て20倍した最終的な試料濃度とする。ヒトIgG4濃度0.0mg/dLの試料には塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水を用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。
【0066】
(3)
測定結果
上記試薬を用いて、ヒトIgG4濃度を測定した際の吸光度変化量を表8並びに
図4、5、6、及び7にそれぞれ示した。
【表8】
【0067】
表8並びに
図4から7に示されるように、第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合、ヒトIgG4濃度が高くなるにしたがって、吸光度変化量が減少した。一方でMaI4−05産生抗体および市販抗体HP6025で調製した対照試薬を用いた場合、ヒトIgG4濃度依存的な吸光度変化は見られなかった。以上より、MaI4−05産生抗体および、市販の抗体HP6025にて調製した試薬は自動分析装置でのラテックス(粒子)凝集阻止法に適用させることが困難であることがわかった。一方でMaI4−08およびMaI4−09産生抗体にて調製した試薬はラテックス(粒子)凝集阻止法に適用することが可能であり、自動分析装置を用いたヒトIgG4濃度測定に有用であることが明らかとなった。
【0068】
(4)
希釈直線性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、希釈直線性の評価を行った。試料としてヒトIgG4濃度を1000mg/dLに調整した標準ヒト血清を、塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水により段階希釈した試料を検体として用いた。ヒトIgG4濃度0.0mg/dLの試料には生理食塩水をそのまま用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0069】
(5)
プロゾーン現象への耐性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、プロゾーン現象への耐性評価を行った。試料としてヒトIgG4濃度を8000mg/dLに調整した標準ヒト血清を、塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水により段階希釈し、検体として用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3uLに対し第一試薬120μL、第二試薬120uLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0070】
(6)
ヒトIgG4に対する特異性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、ヒトIgG4に対する特異性の評価を行った。試料として3000mg/dLに調整したMyeloma ヒトIgG4溶液(EMD Millipore)を用いた。また対照試料として、同様に調整したMyeloma ヒトIgG1溶液(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2溶液(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3溶液(シグマアルドリッチ)を用いた。ブランク試料には生理食塩水を用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0071】
(7)
測定結果
結果を
図8〜13、表9及び10にそれぞれ示した。
【表9】
【表10】
本発明のハイブリドーマが産生したマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体を第一試薬に用いた場合、0〜1000mg/dLの検量範囲で十分な希釈直線性を有することが判明した(
図8及び9)。また、プロゾーン現象については8000mg/dLまで測定値の低下は見られなかった(
図10及び11)。さらに、IgG1、IgG2、IgG3への反応性はほとんど認められなかった(
図12及び13、表9及び10)。
【0072】
以上のように、スクリーニング段階だけでなく、抗IgG4モノクローナル抗体として報告されている抗体(HP6025)(非特許文献6)でも、免疫学的粒子凝集阻止法に適さない抗体があることが新たにわかった。免疫学的粒子凝集阻止法に適した抗体と適さない抗体の違いを明確にすべく、抗体の相互作用の解析及びエピトープ解析を行った。
【0073】
<実施例3>相互作用の解析
MaI4−08及びMaI4−09の産生抗体と、対照としてMaI4−05産生抗体及びHP6025とを1mg/mLになるように調製した。またヒト血清より精製した1 mg/mLのIgG4を調製した。株式会社住化分析センターのプロトコルに沿って、IgG4をアミンカップリング法にてチップに固定化し、Biacore機種を用いたセンサーグラム取得を行った。得られた結合速度定数(k
a)、解離速度定数(k
d)及び解離定数(KD)は表11の通りとなった。
【表11】
3種類の抗体のうち、MaI4−05産生抗体の結合速度定数k
aはMaI4−08およびMaI4−09産生抗体の10分の1以下であり、HP6025抗体の結合速度定数k
aはMaI4−08およびMaI4−09産生抗体の100分の1以下であった。
【0074】
<実施例4>エピトープの解析
UniprotよりヒトIgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列を取得した(P01861、配列番号4)。得られたアミノ酸配列を部分的に欠損させたそれぞれ配列番号4及び25〜35で示されるアミノ酸配列H1〜12(
図14)のN末端にGSTタグを連結したペプチドを設計した。H1(配列番号4)はヒトIgG4重鎖定常領域全長のアミノ酸配列からなるものである。H2はヒトIgG4重鎖定常領域の1から274番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号25)。H3はヒトIgG4重鎖定常領域の1から220番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号26)。H4はヒトIgG4重鎖定常領域の1から165番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号27)。H5はヒトIgG4重鎖定常領域の1から110番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号28)。H6はヒトIgG4重鎖定常領域の1から55番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号29)。H7はヒトIgG4重鎖定常領域の56から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号30)。H8はヒトIgG4重鎖定常領域の111から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号31)。H9はヒトIgG4重鎖定常領域の166から327番目までのアミノ酸配列からなるたものである(配列番号32)。H10はヒトIgG4重鎖定常領域の221から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号33)。H11はヒトIgG4重鎖定常領域の275から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号34)。H12はヒトIgG4重鎖定常領域の99から220番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号35)。
【0075】
また、ヒトIgG4重鎖CH3領域中のアミノ酸配列(H10、配列番号33)において、ヒトIgG4特異配列を部分的にヒトIgG1重鎖定常領域の対応するアミノ酸に部分的に置換させた、それぞれ配列番号36〜44によって示されるアミノ酸配列H31−39(
図15)のN末端にGSTタグを連結したペプチドを設計した。H31はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の235番目のグルタミン残基をアルギニン残基へ置換したものである(配列番号36)。H32はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ置換したものである(配列番号37)。H33はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基へ置換したものである(配列番号38)。H34はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号39)。H35はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の235番目のグルタミン残基をアルギニン残基へ、289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、299番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基へ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号40)。H36はヒトIgG4重鎖定常領域の221から327番目のアミノ酸配列中のIgG4特異配列を全て対応するIgG1のアミノ酸配列へ置換したものである(配列番号41)。H37はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号42)。H38はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、299番目のグルタミン酸残基をグルタミンへ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号43)。H39はH36のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に置換したものである(配列番号44)。
【0076】
設計した各アミノ酸配列を元に、GenScript社のプロトコルによって大腸菌での蛋白質発現に適した塩基配列を設計し、各塩基配列を挿入したベクターpGEX−6P−1(GEヘルスケア・バイオサイエンス)を作製した。大腸菌BL21株に作製した発現プラスミドを導入し形質転換体を得た。形質転換体を通常の方法にて培養し、IPTGによる蛋白質発現を誘導した。遠心分離にて集菌後、通常の溶解液にて溶解し、超音波処理を行った。得られた溶解液6μLにSDSサンプル緩衝液6μLを添加した。各調製した試料は95℃にて5分間加熱処理を行った。SDS泳動緩衝液を添加した5〜20%泳動ゲル(アトー)の各ウェルに、上記の大腸菌破砕試料を10μLずつ添加した。また分子量スタンダード(バイオラッド)も同様にウェルに添加し泳動した。泳動終了後、泳動ゲルを転写緩衝液にてPVDFメンブレン(メルクミリポア)に転写した。PVDFメンブレンをメンブレンブロッキング緩衝液に浸漬し、室温にて30分間振盪させた。MaI4−08、MaI4−09、MaI4−05産生抗体のアミノ基に対し、POD標識キット(同人化学研究所)を用いてPOD標識処理を施した。得られた標識抗体をPBSTにてそれぞれ1000倍希釈した。PVDFメンブレンをPBSTにて洗浄後、それぞれ調製した前記抗体溶液をPVDFメンブレンへ添加し、室温にて1時間反応させた。PVDFメンブレンをPBSTにて洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare)を使用しImage Quant Las4000にてシグナルを検出した。
【0077】
その結果、MaI4−08及びMaI4−09産生抗体のどちらもH−1、H−7、H−8、H−9及びH−10においてシグナルが確認された。よってMaI4−08及びMaI4−09産生抗体のエピトープは、ヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列に存在する事が明らかとなった(
図16及び
図17)。
さらに、MaI4−08、MaI4−09産生抗体に関しては299番目のグルタミン酸が保存された条件(H−10、H−31、H−32、H−34、H−37)においてシグナルが確認されたが、299番目のグルタミン酸をグルタミンに置換した条件(H−33、H−35、H−36、H−38)ではシグナルは確認されなかった。したがってMaI4−08,MaI4−09産生抗体のエピトープはヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン酸残基を含むことを必須とするヒトIgG4重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列に存在することが明らかとなった(
図18及び
図19)。
一方、MaI4−05産生抗体は、99から110番目のアミノ酸配列、すなわちヒンジ領域を含む配列(H−1、H−2、H−3、H−4、H−5、H−7、H−12)にのみシグナルが確認された。したがって、MaI4−05産生抗体のエピトープはヒトIgG4重鎖定常領域の99から110番目のアミノ酸配列に存在することが明らかとなった(
図20)。
【0078】
H−1乃至H−12、並びにH−31乃至H−39のアミノ酸配列を以下に示す。
【表12-1】
【表12-2】
【0079】
また、各試薬の組成は以下の通りである。
【表13】