特許第6982226号(P6982226)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982226抗ヒトIgG4モノクローナル抗体、およびその抗体を利用したヒトIgG4測定試薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982226
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】抗ヒトIgG4モノクローナル抗体、およびその抗体を利用したヒトIgG4測定試薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20211206BHJP
   C07K 16/42 20060101ALI20211206BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20211206BHJP
   C07K 17/08 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20211206BHJP
   G01N 33/546 20060101ALI20211206BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20211206BHJP
【FI】
   C12N15/13ZNA
   C07K16/42
   C07K16/46
   C07K17/08
   G01N33/53 N
   G01N33/546
   !C12P21/08
【請求項の数】20
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-527757(P2019-527757)
(86)(22)【出願日】2018年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2018025441
(87)【国際公開番号】WO2019009346
(87)【国際公開日】20190110
【審査請求日】2020年1月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-132841(P2017-132841)
(32)【優先日】2017年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 松本友里ら 汎用自動分析装置におけるIgG4測定試薬「N−アッセイ LA IgG4 ニットボー」の性能評価、医学と薬学、vol.75、No.7、2018年6月27日、p.849−858
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02112
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02113
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】照内 友也
(72)【発明者】
【氏名】松木 友里
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 量光
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大介
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 春香
【審査官】 林 康子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/151792(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/120222(WO,A1)
【文献】 松木友里、照内友也、森和雄,汎用自動分析装置におけるIgG4測定試薬「N-アッセイLA IgG4ニットーボー」の性能評価,医学と薬学,vol. 75, no. 7,日本,2018年06月27日,p. 849-858,要約, 第850頁左欄第3段落, 同頁左欄第6段落−右欄第1段落, Fig.1, Fig.2, 第853頁右欄第4段落
【文献】 宇佐美陽子等,汎用性化学自動分析装置で測定可能なIgG4定量試薬の基礎的性能評価,日本臨床検査自動化学会会誌,vol.39, no. 4,2014年09月01日,p. 629,第629頁左欄全体
【文献】 HARADA, Shigenori et al.,Evaluation of Production and Characterization of Monoclonal Antibodies to Human IgG of Four Subclass,Microbiol. Immunol.,1989年,vol. 33, no. 7,p. 579-592,要約等
【文献】 VIDARSSON, Gestur et al.,IgG subclasses and allotypes: from structure to effector functions,Frontiers in Immunology,2014年,vol. 5, article. 520,p. 1-17,FIGURE. 3
【文献】 JEFFERIS, R et al.,Evaluation of monoclonal antibodies having specificity for human IgG sub-classes: Results of an IUIS,Immunology Letters,1985年,vol. 10,p. 223-252,要約, Table.1, 第229頁右欄第3段落等
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgG4に対して特異的に結合するモノクローナル抗体であって、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から274番目のアミノ酸配列の領域と、299番目のグルタミン酸を含む、275番目から327番目のアミノ酸配列の領域に結合する、モノクローナル抗体。
【請求項2】
前記ヒトIgG4に、解離定数5.0×10−10以下で結合する請求項1に記載のモノクローナル抗体;
【請求項3】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するヒトIgG4に対する抗体であって、重鎖可変領域の相補性決定領域(Complementarity Determining Region;以下、CDRと記す)1、2および3がそれぞれ配列番号9、10、および11で示されるアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のCDR1、2および3が、それぞれ配列番号12、13および14で示されるアミノ酸配列である、モノクローナル抗体。
【請求項4】
重鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号6のアミノ酸配列を有する請求項3に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
受託番号NITE P−02112(MaI4−08)のハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
【請求項6】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するヒトIgG4に対する抗体であって、重鎖可変領域の相補性決定領域CDR1、2および3がそれぞれ配列番号15、16、および17で示されるアミノ酸配列であり、抗体の軽鎖可変領域のCDR1、2および3が、それぞれ配列番号18、19および20で示されるアミノ酸配列であるモノクローナル抗体。
【請求項7】
重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有する請求項6に記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
受託番号NITE P−02113(MaI4−09)のハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体の抗原結合部位を2つもつ、二価抗体分子又は二価抗体断片。
【請求項10】
F(ab’)である、請求項9に記載の抗体断片。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体或いは請求項9又は10に記載の二価抗体分子又は二価抗体断片を用いて、試料中のヒトIgG4を測定検出する方法。
【請求項12】
免疫学的粒子凝集阻止法である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって;
(1)試料中のヒトIgG4と請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体或いは請求項9又は10に記載の二価抗体分子又は二価抗体断片を結合させ;
(2)ヒトIgG4又はそのペプチド断片が固定された不溶性担体を加えて、試料中のヒトIgG4と結合しなかった上記モノクローナル抗体或いは二価抗体分子又は二価抗体断片との間で凝集反応を起こし
(3)凝集された不溶性担体を検出することにより、試料中のヒトIgG4を検出測定する方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体或いは請求項9又は10に記載の二価抗体分子又は二価抗体断片を含む、ヒトIgG4の測定キット。
【請求項15】
請求項13に記載の方法のためのキットであって;
(1)請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体或いは請求項9又は10に記載の二価抗体分子又は二価抗体断片;
(2)単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片;及び
(3)不溶性担体
を含むキット。
【請求項16】
(2)単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片が、(3)不溶性担体に吸着している、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
(3)不溶性担体がラテックス粒子である、請求項15又は16に記載のキット。
【請求項18】
IgG4関連疾患の診断を補助するための、請求項11〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
IgG4関連疾患診断に用いるための、請求項14〜17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
ヒトIgG4に対して結合能を有するモノクローナル抗体から、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から274番目のアミノ酸配列の領域と、299番目のグルタミン酸を含む、275番目から327番目のアミノ酸配列の領域に結合する抗体を選択する工程を含む、ヒトIgG4に対して特異的に結合するモノクローナル抗体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ヒトIgG4モノクローナル抗体、およびその抗体を利用したヒトIgG4測定試薬に関する。
本発明の抗ヒトIgG4抗体を用いれば、試料中のヒトIgG4を特異的に検出測定することが可能であり、IgG4関連疾患などの診断や臨床検査の分野において極めて有効である。
【背景技術】
【0002】
近年IgG4関連疾患という新しい疾患概念が提唱され、全身の諸臓器に発生する可能性がある疾患であることから、既知の諸臓器疾患とそれの鑑別を行えることが必要とされる。(非特許文献1)。IgG4関連疾患包括診断基準2011が提唱され、血液中のIgG4値が135mg/dL以上であることを高IgG4血症とした診断基準が策定された。被検患者の中には5000mg/dLを超える例も報告されており、臨床検査の現場では疑似低値を呈する検査結果が問題視されている(非特許文献2)。また、血中IgG4測定試薬は、病院及び検査センター等で広く導入されている汎用型の一般生化学自動分析装置への適用が求められる。
【0003】
血中IgG4測定試薬の汎用自動分析装置への適用に際しては、以下の2つの課題が挙げられる。
IgG4は約146000の分子量を持つヘテロテトラマー分子であり、かかる分子を検出するのには抗体を用いるのが適している。
従って第1の課題として、測定試薬の重要な構成要素となる抗体の特異性が挙げられる。IgG4はIgGサブクラスの1つであり、その他のサブクラスであるIgG1、IgG2またはIgG3との相同性が非常に高いことが知られている(非特許文献3、非特許文献4)。通常健常者血清においておよそIgG1:65%、IgG2:23%、IgG3:8%、IgG4:4%の割合で存在しており、健常者における基準値はIgG1:351〜962;IgG2:239〜838;IgG3:8.5〜140;IgG4:4.5〜117(mg/dL)であり、IgG4の量比の少なさからIgG4にのみ反応できる優れた特異性を有する抗体の作製が必須となる。
【0004】
抗体を用いた測定方法として、間接酵素抗体法(ELISA法)、間接蛍光抗体法、CLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)等の間接抗体法;一元放射状免疫拡散法(single radial immunodiffusion method : SRID)や二重免疫拡散法(double immunodiffusion method:DID)等の免疫拡散法、免疫比濁法(immunoturbidimetry:TIA)や免疫比ろう法(immunonephelometry : NIA)に分類されるラテックス(粒子)凝集法、などが用いられているが、現在臨床検査の現場において多用されているのは、低濃度の標的分子でも検出できる、抗原と抗体の結合に基づく凝集体を検出することに基づく、ラテックス(粒子)凝集法などの免疫比濁法(immunoturbidimetry:TIA)や免疫比ろう法(immunonephelometry : NIA)である。
しかしながら血液や尿といった試料中の抗原濃度が測定範囲を大きく上回っている場合、抗原過剰による凝集抑制が誘導される可能性がある(地帯現象またはプロゾーン現象と呼ばれる)。その結果、測定値が疑似的に低値となり、誤った診断につながる恐れがある。IgG4の場合、上記のように健常者と高IgG4血症患者との間で1000倍近い濃度差があり、実際にIgG4測定試薬においてプロゾーン現象が発生した事例が報告されている(非特許文献2)。
従って第2の課題として、血中IgG4測定試薬とし高濃度のIgG4も測定することが求められている。
【0005】
前記第1の課題について、ヒトIgG4に対するモノクローナル抗体が知られている(特許文献1)。しかしながら、IgGサブクラスのうちIgG4への特異性が高いものの、一般的にモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)は1つであることから、抗体:抗原の凝集体形成には不適である場合がある。免疫比濁法を用いたIgG4の測定に適用可能なIgG4特異的モノクローナル抗体は知られておらず、またモノクローナル抗体を用いた汎用自動分析装置に適応可能なIgG4測定試薬も知られていない。
この問題を解決する方法としては、モノクローナル抗体を疑似的に多価にすることで、前記課題2をも解決される方法が挙げられる。例えば、特許文献2にはモノクローナル抗体をビオチン化しストレプトアビジンにて多量体を形成する方法が、特許文献3にはプロテインAや抗イムノグロブリン抗体等を用いて多量体を形成する方法が、さらに特許文献4には不溶性担体へモノクローナル抗体を固定化する方法が記載されている。しかしながら、いずれの方法もモノクローナル抗体の多価形成するための工程が煩雑であり、特に抗体の価数を常に一定に制御することが難しく、免疫比濁法を測定原理とした汎用自動分析装置対応の試薬としての性能を維持するのにコストと時間を要するという欠点がある。
ポリクローナル抗体を得るための方法である、一般的な動物実験的手法に基づいたヤギ、ヒツジ、またはウサギ等へのヒトIgG4の免疫による該抗血清の取得は、産生される抗体のそのほとんどが各IgGサブクラスに共通した部分に対するものとなり、IgG4以外の他のサブクラスにも反応しうる抗体の吸収工程が必要になり、IgG4に対する特異的な抗体を入手するまでに、非常に煩雑な精製工程を必要とする。該抗血清に含まれるIgG4に対する特異的な抗体の相対的または絶対的な存在量と、前記の精製工程により、所望のIgG4に対する特異的な抗体の収量は非常に少なくなるという問題が懸念される。
またIgGサブクラスのいずれかに特異性の高いポリクローナル抗体を取得する方法が知られている(特許文献5)。この方法によると、上記のような精製工程を必要とせず、免疫寛容により抗原特異的なポリクローナル抗体の取得が可能であるが、免疫寛容の惹起の程度には免疫される動物個体差が存在し、また免疫寛容を引き起こすまでに時間を要することから、定常的に所望のIgG4に対する特異的な抗体を取得するには多数の被免疫動物を必要とし、コスト並びに動物愛護の観点から適当な方法であるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-286754号公報
【特許文献2】特開平4-350559号公報
【特許文献3】特開2001-337092号公報
【特許文献4】国際公開2008/012944号公報
【特許文献5】特表2001-501579号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N Engl J Med 2012; 366:539-551
【非特許文献2】Arthritis Rheumatol. 2014 Jan;66(1):213-7
【非特許文献3】J Mol Biol. 2014 Feb 6;426(3):630-44
【非特許文献4】Front Immunol. 2014; 5: 520
【非特許文献5】Consensus statement on the pathology of IgG4-related disease (Modern Pathology 2012 25, 1181-1192)
【非特許文献6】Epitope mapping of human immunoglobulin specific murine monoclonal antibodies with domain switched deleted and point mutated chimeric antibodies(Journal of Immunological Methods 158 1993 107-122)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かかる問題に鑑み、本発明は、IgG4に対して、さらに特異性と親和性の高いモノクローナル抗体、それを産生するハイブリドーマ、該モノクローナル抗体を用いたIgG4の検出方法およびそれに使用するキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
免疫学的粒子凝集法(ラテックス(粒子)凝集法)は、不溶性担体に抗体を固定化し、これに測定対象である抗原を含む試料を混合し、抗原―抗体反応に基づく免疫凝集反応を生起させることにより、測定対象となる抗原を測定する方法である。かかる方法は、検出感度を高めるため、用いる抗体もポリクローナル抗体などの多用なエピトープを認識する複数種の抗体を用いることが望ましい。1つの抗原分子に対して、複数の抗体(不溶性担体)が結合することによって凝集が起こるからである。その代わり各々の抗体分子の中に親和性の低いものがあってもかまわない。
【0010】
一方、免疫学的粒子凝集阻止法(ラテックス(粒子)凝集阻止法)は抗原を固定化した不溶性担体、抗原に対する遊離抗体、抗原を含む試料を混合することにより、不溶性担体に固定化された抗原と試料に含まれる抗原が競合し、結果として凝集形成が抑制されることにより、測定対象である抗原量を測定する方法である。免疫学的粒子凝集阻止法においては測定範囲を大きく上回る抗原濃度が存在する場合でもプロゾーン現象が見られないことから、測定原理としては、汎用自動分析装置へ適用させる上で、プロゾーン現象のリスクを回避する理想的な方法であるといえる。しかしながら、かかる方法にはポリクローナル抗体を用いることは適さない。エピトープが複数存在するので、試料内抗原と担体に担持した抗原を介した凝集が起こりやすいため、モノクローナル抗体(単一エピトープを認識)と比較し、測定系の感度が下がり、減衰曲線を描きにくくなる可能性があるからである。
【0011】
以上により、本願発明者らは、鋭意研究の結果、ヒトIgG4検出のための免疫学的粒子凝集阻止法(ラテックス(粒子)凝集阻止法)に適したモノクローナル抗体を作製することに成功し、本願発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は本発明の構成は以下の[1]から[21]の通りである。
[1]ヒトIgG4に対して特異的に結合するモノクローナル抗体であって、前記抗体のエピトープが、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列に存在し、299番目のグルタミン酸を含む、モノクローナル抗体;
[2]前記ヒトIgG4に、解離定数5.0×10−10以下で結合する[1]に記載のモノクロナール抗体;
[3]重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するヒトIgG4に対する抗体であって、重鎖可変領域の相補性決定領域(Complementarity Determining Region;以下、CDRと記す)1、2および3がそれぞれ配列番号9、10および11で示されるアミノ酸配列であり、軽鎖可変領域のCDR1、2および3が、それぞれ配列番号12、13および14で示されるアミノ酸配列である、モノクローナル抗体、好ましくは[1]又は[2]に記載のモノクローナル抗体;
[4]重鎖可変領域が配列番号5のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号6のアミノ酸配列を有する[3]に記載のモノクローナル抗体;
[5]ハイブリドーマMaI4−08が産生する[4]に記載のモノクローナル抗体。
【0013】
[6]重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有するヒトIgG4に対する抗体であって、重鎖可変領域の相補性決定領域CDR1、2および3がそれぞれ配列番号15、16および17で示されるアミノ酸配列であり、抗体の軽鎖可変領域のCDR1、2および3が、それぞれ配列番号18、19および20で示されるアミノ酸配列である、モノクローナル抗体、好ましくは[1]又は[2]に記載のモノクローナル抗体;
[7]重鎖可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有し、軽鎖可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有する[6]に記載のモノクローナル抗体;
[8]ハイブリドーマMaI4−09が産生する[7]に記載のモノクローナル抗体。
【0014】
[9][1]〜[8]のいずれかに記載のモノクローナル抗体の抗原(認識)結合部位を1分子あたり2つ以上もつ、多価抗体又は多価抗体断片、より好ましくは1分子あたり2つもつ二価抗体又は二価抗体断片;
[10]F(ab’)である、[9]に記載の抗体断片。
【0015】
[11][1]〜[8]のいずれかに記載のモノクローナル抗体或いは[9]又は[10]に記載の抗体断片を用いて、試料中のヒトIgG4を測定検出する方法;
[12]免疫比濁法又は免疫比ろう法である[11]に記載の方法;
[13]免疫学的粒子凝集法である[12]に記載の方法;
[14]免疫学的粒子凝集阻止法である[12]に記載の方法;
[15]免疫組織化学(IHC)染色である[11]に記載の方法;
[16]フローサイトメトリーによる[11]に記載の方法。
【0016】
[14]に記載の方法であって;
(1)試料中のヒトIgG4と請求項1〜8のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体或いは請求項9又は10に記載の二価抗体分子又は二価抗体断片を結合させ;次いで
(2)ヒトIgG4又はそのペプチド断片が固定された不溶性担体を加えて、試料中のヒトIgG4と結合しなかった上記モノクローナル抗体或いは二価抗体分子又は二価抗体断片との間で凝集反応を起こし、そして
(3)凝集された不溶性担体を検出することにより、試料中のヒトIgG4を検出測定する方法。
【0017】
[18][1]〜[8]のいずれかに記載のモノクローナル抗体或いは[9]又は[10]に記載の抗体断片を含む、ヒトIgG4の測定キット。
【0018】
[19][14]又は[17]に記載の方法のためのキットであって;
(1)[1]〜[8]のいずれかに記載のモノクローナル抗体或いは[9]又は[10]に記載の抗体断片;
(2)単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片;及び
(3)不溶性担体
を含むキット;
[20](2)単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片が、(3)不溶性担体に吸着している、[19]に記載のキット。
[21](3)不溶性担体がラテックス粒子である、[19]又は[20]に記載のキット。
【0019】
[22]IgG4関連疾患の診断を補助するための、[11]〜[17]のいずれかに記載の方法;
[23]IgG4関連疾患診断に用いるための、[18]〜[21]のいずれかに記載のキット。
[24]配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列の全部又は一部からなり、299番目のグルタミン酸を含む、単離されたペプチド。
【0020】
本発明の実施形態によって、生体試料中のIgG4を効率よく検出定量することが可能となり、様々な疾患の診断の一助とすることが出来る。例えばこれに限定されないが、IgG4関連疾患(血清IgG4高値と罹患臓器への著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする全身性、慢性炎症性疾患)の診断の一助とすることが出来、このような疾患としては、ミクリッツ病(Mikulicz disease)、Kuttner腫瘍、涙腺炎、IgG4関連眼疾患、IgG4関連呼吸器疾患、炎症性偽腫瘍、縦隔繊維症、腸炎、硬化性胆管炎、IgG4関連肝障害、自己免疫性膵炎(AIP)、IgG4関連腎臓病、後腹膜線維症、前立腺炎、自己免疫性下垂体炎、甲状腺炎、肥厚性硬膜症、IgG4関連リンパ節症、関節炎、炎症性腹部大動脈瘤、動脈周囲炎が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】選定クローンの免疫学的粒子凝集阻止法への適応性評価
図2】ELISAによるMaI4−08抗体の特異性の評価 図2は、MaI4−08産生抗体において、各ヒトグロブリンに対するELISAの反応吸光度を示す。
図3】ELISAによるMaI4−09産生抗体の特異性の評価 図3は、MaI4−09産生抗体において、各ヒトグロブリンに対するELISAの反応吸光度を示す。
図4】MaI4−08産生抗体を用いた抗体吸光度変化量の測定 図4は、ヒトIgG4の標準試料、MaI4−08産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の吸光度変化を示す。なお標準試料として、ヒトIgG4濃度をそれぞれ1.6、6.3、12.5、25、50mg/dLに調整した標準ヒト血清を用いた。本測定では検体試料の測定を20倍希釈にして測定することを前提とするため、最終的な標準試料濃度は20倍となり、31.3、125、250、500、1000mg/dLとなる。以降に記載する試料濃度は全て20倍した最終的な試料濃度とする。
図5】MaI4−09産生抗体を用いた抗体吸光度変化量の測定 図5は、ヒトIgG4の標準試料、MaI4−09産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の吸光度変化を示す。他の条件は図4と同じである。
図6】MaI4−05産生抗体を用いた抗体吸光度変化量の測定(比較例) 図6は、ヒトIgG4の標準試料、MaI4−05産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の吸光度変化を示す。他の条件は図4と同じである。
図7】HP6025を用いた抗体吸光度変化量の測定(比較例) 図7は、ヒトIgG4の標準試料、HP6025含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の吸光度変化を示す。他の条件は図4と同じである。
図8】MaI4−08産生抗体を用いた希釈直線性の評価 図8は、0〜1000mg/dLのヒトIgG4段階希釈系列試料、MaI4−08産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図9】MaI4−09産生抗体を用いた希釈直線性の評価 図9は、0〜1000mg/dLのヒトIgG4段階希釈系列試料、MaI4−09産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図10】MaI4−08産生抗体を用いたプロゾーン現象への耐性の評価 図10は、0〜8000mg/dLのヒトIgG4段階希釈系列試料、MaI4−08産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図11】MaI4−09産生抗体を用いたプロゾーン現象への耐性の評価 図11は、0〜8000mg/dLのヒトIgG4段階希釈系列試料、MaI4−09産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図12】MaI4−08産生抗体のヒトIgG4に対する特異性の評価 図12は、3000mg/dLのヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3及びヒトIgG4の各試料、MaI4−08産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図13】MaI4−09産生抗体のヒトIgG4に対する特異性の評価 図13は、3000mg/dLのヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3及びヒトIgG4の各試料、MaI4−09産生抗体含有緩衝液(第一試薬)、ヒトIgG4感作ラテックス含有緩衝液(第二試薬)を混合し、反応させた際の測定値を示す。
図14】Uniprotより取得したヒトIgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列H1(P01861、配列番号4)、およびその配列を部分的に欠損させた各ペプチドH2〜12のアミノ酸配列のアライメントを示す。99番目〜110番目はヒンジ領域を示す。
図15】ヒトIgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列(配列番号4)の221番目から327番目のCH3領域のアミノ酸配列(H−10)、並びにH−10の一部をヒトIgG1重鎖定常領域の対応するアミノ酸(太字)に置換させたアミノ酸配列(H−31〜H−39)のアライメントを示す。
図16】MaI4−08産生抗体のペプチドH1〜12に対するウェスタンブロット解析
図17】MaI4−09産生抗体のペプチドH1〜12に対するウェスタンブロット解析
図18】MaI4−08産生抗体のペプチドH10及びH31〜39に対するウェスタンブロット解析
図19】MaI4−09のペプチドH10及びH31〜39に対するウェスタンブロット解析
図20】MaI4−05のペプチドH1〜12に対するウェスタンブロット解析
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態に係るモノクローナル抗体は、例えば精製ヒトIgG4を免疫原として動物を免疫し、その動物が産生する抗ヒトIgG4抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞とを融合させることによって得られるハイブリドーマによって産生される。用いられる動物は限定しないが、ヒト以外の動物例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、などがこれにあたる。特に、IgGのサブタイプがIgG1、IgG2a、IgG2b、及びIgG3であるマウスが好ましい。
【0023】
上記ハイブリドーマは以下の方法によって得ることができる。即ち、ヒトIgG4を、フロイントの完全、不完全アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、百日咳アジュバント等の既に公知のものを用いて共に混和し、感作用アジュバント液を作製して数回に分けてマウス、ラット等の動物に1〜3週間おきに腹腔内皮下、または尾静脈投与することによって免疫する。感作抗原量は1μg〜100mgの間とされているが、一般的には50μg程度が好ましい。免疫回数は2〜7回が一般的であるがさまざまな方法が知られている。次いで脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞(ミエローマ細胞)等の試験管内で増殖能力を有する細胞とを融合する。抗体産生細胞はマウス、ヌードマウス、ラットなどの脾臓等より得ることができる。
上記融合法としては、既にそれ自体公知であるケーラーとミルスタインの定法(Nature.256,495.1975)によってポリエチレングリコール(PEG)を用いることで融合できる。センダイウィルス、電気融合法によっても融合を行うことができる。
【0024】
上記融合した細胞からヒトIgG4を認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択する方法としては以下のようにして行うことができる。即ち、上記融合した細胞から限界希釈法によってHAT培地およびHT培地で生存している細胞により作られるコロニーからハイブリドーマを選択する。96穴ウェルなどにまかれた融合細胞からできたコロニー培養上清中にヒトIgG4に対する抗体が含まれている場合には、ヒトIgG4をプレート上に固定化したアッセイプレート上に上清をのせ、反応後に抗マウスイムノグロブリン−HRP標識抗体等の2次標識抗体を反応させるELISA法により、ヒトIgG4に対するモノクローナル抗体産生クローンを選択できる。標識抗体の標識物質にはHRPの他、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、蛍光物質、放射性物質等を用いることができる。またコントロールとしてブロッキング剤であるBSAのみを結合したアッセイプレートによるELISAを同時に行うことでヒトIgG4特異的抗体のスクリーニングができる。つまりヒトIgG4プレートで陽性であり、BSAによるELISAで陰性のクローンを選択できる。
【0025】
本発明の実施形態に係るハイブリドーマとしては、ヒトIgG4を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのうち、特にヒトIgG4と結合し、他のヒト免疫グロブリン(他のIgG(IgG1、IgG2、IgG3)、IgA(IgA1,IgA2)、IgD、IgE及びIgM)に結合しない抗体を産生するハイブリドーマが望ましい。
ここで「ヒトIgG4に結合し、他のヒト免疫グロブリンに結合しない」とは、たとえば、簡便には通常のELISAにおいて、下記以外の測定条件を同一とした際、固相抗原としてヒトIgG4を含む場合にいずれのヒト免疫グロブリンを含まないものを対照(ブランク)としたときの吸光度の比が40以上、好ましくは50以上、より好ましくは100以上を示すものであり、かつ、固相抗原としてヒトIgG4以外を含む場合にいずれのヒト免疫グロブリンを含まないものを対照(ブランク)としたときの吸光度の比が5以下、好ましくは2以下、を示すものであることをいう。
また、他のヒト免疫グロブリンよりもヒトIgG4に対して高い結合親和性を示すものであることをいい、結合速度定数と解離定数を用いて評価することもできる。具体的には、本発明の好ましい実施形態による抗体では、ヒトIgG4の重鎖定常領域の特定のエピトープに、4.0×10以上、通常4.0×10〜6.0×10の結合速度定数、並びに5.0×10−10以下、通常5.0×10−10〜3.0×10−10の解離定数で結合する。
【0026】
上記ハイブリドーマは通常細胞培養に用いられる培地、例えばα−MEM、RPMI1640、ASF、S−cloneなどで培養し、その培養上清よりモノクローナル抗体を回収することができる。またハイブリドーマが由来する動物、ヌードマウスをあらかじめプリスタン処理しておき、その動物に細胞を腹腔内注射することによって腹水を貯留させ、その腹水からモノクローナル抗体を回収することもできる。
上記の上清、腹水よりモノクローナル抗体を回収する方法としては、通常の方法を用いることができる。たとえば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどによる塩析法やクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインA、プロテインGなどによるアフィニティクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0027】
本発明の実施形態に係るモノクローナル抗体を用いた免疫測定法によって検体中のヒトIgG4を高感度で且つ特異的に検出することができる。対象となる検体としては、検体から採取、単離された血液、血清、血漿などが挙げられる。全身の病変組織、例えば、下垂体、涙腺、唾液腺、甲状腺、前立腺、気管支上皮、肺胞隔壁、膵管、後腹膜、胆管壁、あるいは関節リウマチ滑膜からの生検サンプルであってもよい。
【0028】
「免疫測定法」とは抗原と抗体の反応を利用して、生物学的試料の中に含まれる物質のレベルを測定する生化学的試験測定法を意味する。
【0029】
本発明の実施形態に係るモノクローナル抗体を用いた「免疫測定法」による検出方法としては、サンドイッチELISA法、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス(粒子)凝集法(比濁法)等が挙げられるが、より好ましくは、ラテックス(粒子)凝集阻止法である。
【0030】
「ELISA法」は、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)/EIA(EnzymeImmuno Assay))を意味し、試料中に含まれる物質の濃度を酵素反応を用いて検出定量する方法を指す。酵素反応に基づく発色発光をシグナルに用いることで対象を検出測定する。
「競合ELISA法」とは「標識した抗原」と「試料中の存在する抗原」が、競合条件下でどの割合で抗体に結合するかを測定するELISA法を意味する。
【0031】
「免疫比濁法」とは抗原に抗体を反応させ、免疫複合体の沈降物を形成させ、その凝集塊に光を照射して、散乱による照射光の減衰(吸光度)を自動分析器で計測して検体に含まれる抗原量を測定する方法である。
【0032】
「免疫比ろう法」とは抗原に抗体を反応させ、免疫複合体の沈降物を形成させ、その複合物に光をあて、散乱した光を測定することで、検体に含まれる、抗原を検出する方法である。
【0033】
「ラテックス(粒子)凝集法」とは、抗体をラテックス粒子に固相化し、抗原存在下でラテックス粒子を凝集させ、この凝集を観察することで、抗原を検出する方法である。
「ラテックス(粒子)凝集阻止法」とは、抗原をラテックス粒子に固相化し、「ラテックス粒子に結合した抗原」と「試料中の存在する抗原」が、競合条件下でどの割合で抗体に結合するかを、ラテックス粒子の凝集を観察し、間接的に「試料中の存在する抗原」を検出する方法である。
いずれの場合も、その凝集の観察に、散乱による照射光の減衰(吸光度)を計測(免疫比濁法)してもよいし、散乱した光を測定(免疫比ろう法)してもよい。
【0034】
本願発明の実施形態において「ラテックス粒子に結合した抗原」は必ずしも、「試料中に存在する抗原」と同一分子である必要はなく、本願発明に係る抗体またはその抗原結合断片との結合において「試料中に存在する抗原」と競合する分子であればよい。逆に定義すれば、本願発明に係る抗体を「ラテックス(粒子)凝集阻止法」を用いる場合、「ラテックス粒子に結合した抗原」及び「試料中に存在する抗原」が該抗体のエピトープを含むことが好ましい。
【0035】
エピトープ(epitope) とは、抗体が認識する抗原の一部分のことを指す。ヒトIgG4は、可変領域VLと定常領域CLからなる軽鎖2分子と;可変領域VHと定常領域CH1、ヒンジ領域、定常領域CH2及び定常領域CH3からなる重鎖2分子;からなる約146000の分子量を持つヘテロテトラマー分子であるが、抗体はその全体を認識するわけではなく、抗原の比較的小さな一部分のみを認識して結合する。エピトープとして機能するためには少なくとも10アミノ酸残基、より好ましくは5アミノ酸残基の長さが必要である。この抗体結合部分を「エピトープ」又は「抗原決定基 (antigenic determinant)」 とも呼ぶ。
本発明の実施形態に係る抗体は、IgG4を認識し、IgG1、IgG2及びIgG3を認識しないことが求められる。軽鎖はIgG1〜IgG4で共通するため、エピトープは重鎖、とりわけ、重鎖定常領域にあることが望ましい。IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4の重鎖定常領域は各々配列番号1、2、3及び4で示され、配列番号1〜3と配列番号4の相同性の低い部分をエピトープとすることが望ましく、後述する実施例で実証する通り、特に、ヒトIgG4のCH3領域、より具体的には、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列の範囲内に存在し、299番目のグルタミン酸を含むエピトープが他のIgGサブクラスへの交差反応が無くIgG4への特異的な結合を達成する上で望ましい。換言すると、本発明の好ましい実施形態に係る抗体のエピトープは、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列の全部又は一部からなり、299番目のグルタミン酸を含む。従って、本発明の好ましい他の実施形態によれば、エピトープを含むペプチド、より具体的には、配列番号4に示すヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列の全部又は一部(通常、5個から50個、好ましくは10個から30個)からなり、299番目のグルタミン酸を含むペプチドも提供される。
【0036】
「ラテックス(粒子)凝集法」は、通常エピトープが異なる複数のモノクローナル抗体(ポリクローナル)を用いないと凝集が起こらないが、IgG4自体、軽鎖と重鎖のヘテロダイマーのダイマーであるため、モノクローナル抗体でも凝集反応に適用することができるものがありうる。さらに、ラテックス粒子に複数の抗体分子を吸着させれば、抗体分子が一価抗体分子(抗原(認識)結合部位が1分子あたり1つ)であっても凝集が起こりうる。
「1価抗体」とは、天然の抗体をパパインで処理して出来るFab断片や、遺伝子工学的に、軽鎖可変領域と重鎖可変領域を結合させた、scFV(single-chain variable fragment)などがこれにあたる。
【0037】
一方、「ラテックス(粒子)凝集阻止法」の場合、ポリクローナル抗体などの、結合定数、エピトープ、特異性の異なる抗体を複数用いる場合、測定系内での反応にばらつきが出る可能性はあるので、ポリクローナル抗体は不適である。
さらに、用いる抗体が一価抗体分子だと、抗体を介した(抗原の吸着した)ラテックス粒子間の凝集反応が起こらないため、同じく不適である。抗原(認識)結合部位が、1分子あたり2つ以上必要であり、天然のイムノグロブリンタイプ(IgG(2価)、IgA(4価)、IgD(2価)、IgE(2価)及びIgM(10価))や、ペプシン処理でできるF(ab’)(2価)や上記「1価抗体」のマルチマー抗体である必要がある。
【0038】
「抗原(認識)結合部位」とは、抗原に結合できる抗体の最小部位を示す。これに限定されないが、重鎖及び軽鎖の相補性決定領域(CDR)を含む部位を差す。軽鎖の可変領域であるV領域と重鎖の可変領域であるV領域を含んでもよい。これらは、遺伝子工学的に、あるいはSS結合などを介して結合されていてもよい。
【0039】
ラテックスとは、本来、ポリマー樹脂のコロイド状水分散物を指すが、本願において、「ラテックス粒子」とは、均一な粒子径を有するポリマー樹脂を指す。通常の免疫測定法に用いることの出来るラテックス粒子であれば、特に限定しないが、ポリスチレンを主材料としているものが望ましい。
本願に用いるラテックス粒子の粒子径は、50nm〜500nm、好ましくは75nm〜306nm、より好ましくは100nm〜111nmであってよい。
【0040】
本発明の実施形態に係る測定方法を実施するときは、ヒトIgG4を免疫測定するためのキットであって、(1)本発明抗体、(2)単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片及び(3)固相支持体、を含むキットを用いて行える。
このキットにおいては、固相支持体と単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片溶液とを別々に作製しておき、IgG4を測定する際、抗体を固相支持体に吸着させてもよく、あらかじめ、抗体を固相支持体に吸着させた状態で提供してもよい。このキットにおいては、検体中の単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片を抗体に結合させた後、固相支持体に吸着しなかった成分を除去するために、洗浄液を含むことが好ましい。洗浄液としては、例えば、界面活性剤を含むトリス緩衝液を使用することができる。
さらに、本発明のキットには、必要に応じ、検体希釈液を加えて含むこともできる。検体希釈液としては、例えば、トリス等の緩衝液を使用できる。その緩衝液には、必要に応じて、EDTA・2Na等のキレート剤、食塩等の無機塩を加えてもよい。
【0041】
「単離ヒトIgG4又はそのペプチド断片」は、上記のように「ラテックス粒子に結合した抗原」として使用するので、本発明抗体のエピトープを含む必要がある。天然のIgG4分子を単離精製したものでもかまわないが、遺伝子工学的に作製されたその「ペプチド断片」、例えば、ヒトIgG4の軽鎖又は重鎖の定常領域の一部又は全部をクローニングしたものであってもかまわない。該ヒトIgG4の重鎖の定常領域の一部又は全部は配列番号4のアミノ酸配列の一部又は全部を含んでいてよい。
【0042】
本発明の実施形態においては、本発明のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチアッセイELISA法により、IgG4を測定することもできる。この場合、モノクローナル抗体として、本発明抗体以外に、他のIgG4に対する別な抗体も用いて実施することができる。サンドイッチアッセイによるIgG4を測定する方法の具体例は、以下の通りである。まず、一次抗体として本発明抗体を、固相支持体、例えば、プレートに吸着させ、検体、例えば、血清中のIgG4と反応させ、固相支持体を洗浄し、次いで、吸着したIgG4と、ビオチン化した2次抗体、例えばビオチン化した別なIgG4に対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体とを反応させ、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンと反応させた後、ペルオキシダーゼ酵素反応、次いで、発色反応を行うことにより、IgG4を検出することができる。また、2次抗体を直接ペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼ等により酵素標識したものを用いることにより、同様の測定をすることができる。また、2次標識抗体に結合させる物質は測定方法によって酵素に限られるものではなく、放射線同位元素、蛍光物質、磁性物質、コロイドなどでもよい。
【0043】
本発明の実施形態において、本発明抗体を用いたサンドイッチアッセイELISAを行うときは、サンドイッチアッセイELISA用のキットを用いて実施することができる。
サンドイッチアッセイELISA法で本発明の測定方法を実施するときは、例えば、IgG4を免疫測定するためのキットであって、i)固相支持体、ii)本発明抗体、iii)標識された、別なIgG4に対する抗体、及びiv)標識を検出するための成分を含むキットを用いることによっても、IgG4を測定することができる。
標識を検出するための成分とは、抗体が標識されたものを測定するための成分で、標識がビオチンの場合、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン、テトラメチルベンジジンのペルオキシダーゼ酵素基質、及び過酸化水素を含む試薬であり、標識がアルカリホスファターゼの場合、p−ニトロフェニルリン酸を含む試薬である。このキットには、必要に応じ、洗浄液を含んでいてもよい。
本発明において、このキットを使用するときは、検体中のIgG4を抗体に結合させた後、固相支持体に吸着しなかった成分を除去するために、洗浄液を含むことが好ましい。洗浄液としては、例えば、界面活性剤を含むトリス緩衝液を使用することができる。さらに、本発明のキットには、必要に応じ、検体希釈液を加えて含むこともできる。検体希釈液としては、例えば、トリス等の緩衝液を使用できる。その緩衝液には、必要に応じて、EDTA・2Na等のキレート剤、食塩等の無機塩を加えてもよい。
【0044】
このような、組織免疫染色法による検出は、i)本発明のモノクローナル抗体、ii)標識された二次抗体およびiii)発色試薬を構成成分として含むキットを用いて実施できる。標識された二次抗体としては、例えばペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素で標識した、動物由来の抗IgG抗血清、抗IgGポリクローナル抗体などが挙げられ、発色試薬としては、標識に用いた酵素を発色するための通常用いられる発色基質などの試薬が用いられる。
【0045】
本発明において、本発明抗体を用いた化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、蛍光免疫測定法(FIA)又はラテックス凝集法を行う場合は、公知の化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)用キット、蛍光免疫測定法(FIA)用キット又はラテックス凝集法用のキットを各々用いて実施することができる。
【実施例】
【0046】
以下の実施例、比較例及び参考例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>モノクローナル抗体の作製と評価
(1)モノクローナル抗体作製用抗原の選択と準備
ヒトIgG4を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを公知の方法(例えばKohler and Milstein,Nature (1975)256,p.495−497)に準じて作製した。抗原として用いるIgG4はヒト血清より調製した。具体的にはヒト血清を硫安沈殿により分画・透析後、CaptureSelectIgG4 Affinity Matrix(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)の製品添付文書に従い、IgG4抗原を精製した。
【0048】
(2)免疫
ヒト血清より上記の方法で精製した0.5mg/mLヒトIgG4と同体積量のフロイント完全アジュバント(シグマアルドリッチ)を乳化するまでよく混和し、乳化懸濁液を作製した。4週齢Balb/cマウスをジエチルエーテル麻酔し、上記の乳化懸濁液を1匹あたり50μgのヒトIgG4にて腹腔内投与を実施した。約2週間間隔で6回、上記と同様にフロイント不完全アジュバント(シグマアルドリッチ)にて作製した乳化懸濁液をそれぞれマウスに注射した。最終免疫として上記6回目の注射から約3週間後、同様に乳化懸濁液を注射した。
【0049】
(3)ハイブリドーマの確立
最終免疫より3日後にジエチルエーテル麻酔下にて外科的摘出された脾臓を無菌的に分散し脾臓細胞を調製した。ポリエチレングリコールを用いて、脾臓細胞数と骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−U1(P3U1)数の融合比率を5:1にて融合を実施した。融合細胞を10% FBS(HyClone社)ASF(コスモ・バイオ株式会社)HAT(コスモ・バイオ株式会社)培地に分散し、48ウェルプレート(住友ベークライト)に分注して37℃、5% CO条件にて培養した。以下のスクリーニングに用いたハイブリドーマコロニー数は4481であった。
【0050】
(4)スクリーニング
得られたハイブリドーマのスクリーニングを1)IgG4への結合能確認、2)特異性確認、3)免疫学的凝集阻止法への適応性確認、という3段階にて実施した。
【0051】
1)IgG4への結合能評価
上記抗原として用いた精製したヒトIgG4を0.1μg/ウェルになるように96ウェルプレート(Nunc)に分注した。シェイカーにて700rpm、25.0℃の条件で1時間振盪した。廃液し300μLのPBST(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;0.05%ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノラウレート;pH7.4)にて3回洗浄後、100μLのブロッキング緩衝液(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;1%ブロックエース粉末(大日本住友製薬);pH7.4)を添加し、1晩以上4℃にて保存した。同様にPBSTにて洗浄後、ハイブリドーマコロニーの培養上清を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、抗体希釈緩衝液(10mMリン酸二水素ナトリウム;150mM塩化ナトリウム;0.05%ポリオキシエチレン(20) ソルビタンモノラウレート;0.05%ウシ血清アルブミン;pH7.4)にて10000倍希釈した抗マウスIgG(H+L) HRP標識抗体(Life Technologies)を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、SureBlue(KPL)を100μL添加した。室温にて15分間静置した後、0.5mol/L硫酸(和光純薬工業)を100μL添加した。波長450nmをマイクロプレートリーダー(BIO−RAD)にて測定した。合計4481ウェル中、IgG4への結合能が確認された192ウェルを選定した。選定されたハイブリドーマを単クローン化し、培養を続けた。
【0052】
2)特異性評価
1)にて選定されたクローンから産生される抗体の特異性を評価した。Myeloma ヒトIgG1(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3(シグマアルドリッチ)、Myeloma ヒトIgG4(EMD Millipore)を1μg/mLになるようにPBS(−)にて調整した。調整した試料を96ウェルプレート(Thermo Fisher)に100μLずつ添加した。シェイカーによる振盪以降の操作を上記1)と同様に行った。192クローン中、Myeloma ヒトIgG1、2、3と比べて、Myeloma ヒトIgG4に強い反応を示す8クローンを選定した。
【0053】
(3)免疫学的粒子凝集阻止法への適応性評価
2)にて選定されたクローンから産生される抗体において、免疫学的凝集阻止法への適用性を評価した。
1)第一試薬(R1)の調製
2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝溶液1に、上記の通り選定された8クローン由来の産生抗体をそれぞれ含む溶液を15μg/mLの濃度になるように加え、第一試薬とした。
2)第二試薬(R2)の調製
2%濃度の粒径107nmのポリスチレン製のラテックス粒子溶液18mLに、ヒト血清から通常の方法で粗精製したヒトIgG4 0.35mg/mL溶液18mLを加え、室温にて1時間撹拌してラテックス粒子にヒトIgG4を物理吸着させた。その後20,000rpmで90分間遠心分離を行い、上清を廃棄して沈殿物を回収した。この沈殿物に3%濃度のウシ血清アルブミンを含むコート緩衝液を24mL加えて懸濁し、超音波処理を行って完全に分散させた後、室温で1時間撹拌した。次いで、再び遠心分離を行って得られた沈殿物にHEPES緩衝溶液2を12mL加え懸濁し超音波処理を行って完全に分散させた後、HEPES緩衝溶液2にてラテックス濃度0.12%に調整したヒトIgG4感作ラテックス粒子懸濁液を得て、各第一試薬に対し共通する第二試薬として用いた。
なお、各試薬の組成は以下の通りである。
HEPES緩衝溶液1
25mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業);100mM 3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパン スルホン酸(埼京化成工業);150mM 塩化ナトリウム(和光純薬工業);1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);3.3%デキストラン70(東京化成工業);0.1% ブロックエース(大日本住友製薬);0.09% アジ化ナトリウム(和光純薬工業);pH7.40。
コート緩衝液
25mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業);150mM 塩化ナトリウム(和光純薬工業); 1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);3% ウシ血清アルブミン(メルクミリポア);0.09% アジ化ナトリウム(和光純薬工業);pH7.50。
HEPES緩衝溶液2
500mM 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(埼京化成工業); 25mM 2−モルホリノエタンスルホン酸(和光純薬工業);1mM EDTA・2Na(和光純薬工業);150mM L−アルギニン塩酸塩(和光純薬工業);0.075% プロクリン950(シグマアルドリッチ);pH6.00。
【0054】
3)吸光度変化量の測定
標準試料として、ヒトIgG4濃度をそれぞれ0.0、1.6、6.3、12.5、25.0、50.0mg/dLに調整した標準ヒト血清を用いた。なお0.0mg/dLには生理食塩水を用いた。日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。8クローン中5クローンより産生される抗体は、0.0mg/dL時に最も大きい吸光度変化量を示し、ヒトIgG4濃度が上昇するに従って吸光度変化量が減少した。よって、5クローン(MaI4-09、MaI4-08、MaI4-01、MaI4-06、MaI4-03)は免疫学的凝集阻止法への適応性を示した。一方で他3クローン(MaI4-02、MaI4-04、MaI4-05)に関しては0.0mg/dL時における最も大きい吸光度変化量、及びヒトIgG4濃度上昇に伴う吸光度変化量の減少が認められず、免疫学的凝集阻止法へ適応しなかった(図1)。免疫学的凝集阻止法への適応性を示した抗体を産生する5クローンのうち、0.0mg/dL時の吸光度変化量が高い抗体を産生する上位2クローンを選定し、以降の解析に用いた。
【0055】
(4)寄託
上記で選定されたハイブリドーマMaI4−08及びMaI4−09は、2015年9月1日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構内特許微生物寄託センターに対して2015年9月1日に受領番号NITE AP−02112(MaI4−08)及びNITE AP−02113(MaI4−09)で受領され、2015年9月14日生存確認後、受託番号NITE P−02112(MaI4−08)及びNITE P−02113(MaI4−09)が付与された(受託証2015年9月30日発行)。
以下に、寄託を特定する内容を記載する。
[1]寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 製品評価技術基盤機構産業技術総合研究所 特許微生物寄託センター
あて名:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(郵便番号292−0818)
[2]寄託日:2015年9月1日
[3]受託番号 NITE P−02112(ハイブリドーマMaI4−08)
NITE P−02113(ハイブリドーマMaI4−09)
その後、同じハイブリドーマを国際寄託するために、独立行政法人製品評価技術基盤機構内特許微生物寄託センターに対して微生物移管請求を行い、2018年6月8日に受領番号NITE ABP−02112(MaI4−08)及びNITE ABP−02113(MaI4−09)で受領された。
【0056】
(5)細胞培養法によるモノクローナル抗体の産生
上記ハイブリドーマより抗体を産生させる方法として、公知の方法(例えば モノクローナル抗体:生化学実験法 東京化学同人)に準じて行った。具体的にはモノクローナル抗体を産生するためにはin Virtoでの培養及びIn Vivoでの培養がある。In Virtoでの培養としては培養液中におけるハイブリドーマの培養等があり、一方でIn Vivoでの培養方法としてマウス腹水を作製する方法等があるが、In Virtoでの培養を選択し、モノクローナル抗体を含む培養液上清を取得した。
【0057】
(6)モノクローナル抗体の精製
上記よりモノクローナル抗体を精製する方法として、公知の方法(例えばモノクローナル抗体:生化学実験法 東京化学同人)に準じて行った。モノクローナル抗体の精製としてアフィニティークロマトグラフィー精製が一般的であり、プロテインGやプロテインA等を担持したセファロースカラムを用いるが、プロテインGを担持したプロテインGセファロースカラム(GEヘルスケア)を選択し、精製を行った。得られたモノクローナル抗体における280nmの吸光度を測定し、抗体濃度を確認した。濃度を調整後、0.45μm以下フィルターで濾過滅菌した。
【0058】
(7)抗体の確認
MaI4−08、MaI4−09産生抗体をそれぞれIso−Gold Rapid Mouse−Monoclonal Isotyping Kit(with κ and λ)(BioAssay Works)の製品添付文書に従い、アイソタイプの同定を実施した。アイソタイプは表1の通りであった。
【表1】
【0059】
(8)ELISAによる特異性の評価
Myeloma ヒトIgA1(Abcam)、Myeloma ヒトIgA2(Abcam)、Myeloma ヒトIgD(Abcam)、Myeloma ヒトIgE(Abcam)、Myeloma ヒトIgM(Abcam)、Myeloma ヒトIgG1(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3(シグマアルドリッチ)、Myeloma ヒトIgG4(EMD Millipore)を1μg/mLになるようにPBS(−)にて調整した。調整した試料を96ウェルプレート(Thermo Fisher)に100μLずつ添加した。シェイカーにて700rpm、25.0℃の条件で1時間振盪した。廃液し300μLのPBSTにて3回洗浄後、100μLのブロッキング緩衝液を添加し、1晩以上4℃にて保存した。同様にPBSTにて洗浄後、1μg/mLになるように抗体希釈緩衝液にて調整したMaI4−08、MaI4−09産生抗体をそれぞれ100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、抗体希釈緩衝液にて4000倍希釈した抗マウスIgG HRP標識抗体(Abcam)を100μLずつ添加し、上記と同条件にて振盪させた。同様にPBSTにて洗浄後、SureBlue(KPL)を100μL添加した。MaI4−08、MaI4−09それぞれ5、3分後に0.5mol/L硫酸(和光純薬)を100μL添加した。波長450nmをマイクロプレートリーダー(BIO−RAD)にて測定した。その結果、他調整試料と比べMyeloma ヒトIgG4に強いシグナルが確認された(表2及び3、図2及び3)。
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
(9)モノクローナル抗体のアミノ酸配列解析
MaI4−08、MaI4−09はそれぞれFusion Antibodies社のプロトコルによって、mRNAの抽出、クローニング及びシークエンシグを行った。解析した結果、MaI4−08の可変領域は配列番号5(重鎖可変領域)及び配列番号6(軽鎖可変領域)であり、MaI4−09の可変領域は配列番号7(重鎖可変領域)及び配列番号8(軽鎖可変領域)であり、CDRのアミノ酸配列は表4の通りになった。
【表4】
【0063】
<実施例2>MaI4−08、MaI4−09産生抗体を用いた測定試薬調製及び測定
(1)試薬の調製
1)第一試薬(R1)の調製
2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES)緩衝溶液1に、MaI4−08またはMaI4−09産生抗体溶液を15μg/mLの濃度になるように加え、第一試薬とした。また対照試薬として、MaI4−05産生抗体及び市販抗体HP6025(メルクミリポア)を同様にHEPES緩衝溶液1に添加した溶液を調製した。
2)第二試薬(R2)の調製
2%濃度の粒径107nmのポリスチレン製のラテックス粒子溶液18mLに、ヒト血清から通常の方法で粗精製したヒトIgG4 0.35mg/mL溶液18mLを加え、室温にて1時間撹拌してラテックス粒子にヒトIgG4を物理吸着させた。その後20,000rpmで90分間遠心分離を行い、上清を廃棄して沈殿物を回収した。この沈殿物に3%濃度のウシ血清アルブミンを含むコート緩衝液を24mL加えて懸濁し、超音波処理を行って完全に分散させた後、室温で1時間撹拌した。次いで、再び遠心分離を行って得られた沈殿物にHEPES緩衝溶液2を12mL加え懸濁し超音波処理を行って完全に分散させた後、HEPES緩衝溶液2にてラテックス濃度0.12%に調整したヒトIgG4感作ラテックス粒子懸濁液を得て、各第一試薬に対し共通する第二試薬として用いた。
【0064】
なお、各試薬の組成は以下の通りである。

【表5】

【表6】

【表7】
【0065】
(2)吸光度変化量の測定
標準試料として、ヒトIgG4濃度をそれぞれ1.6、6.3、12.5、25、50mg/dLに調整した標準ヒト血清を用いた。本測定では検体試料の測定を20倍希釈にして測定することを前提とするため、最終的な標準試料濃度は20倍となり、31.3、125、250、500、1000mg/dLとなる。以降に記載する試料濃度は全て20倍した最終的な試料濃度とする。ヒトIgG4濃度0.0mg/dLの試料には塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水を用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。
【0066】
(3)測定結果
上記試薬を用いて、ヒトIgG4濃度を測定した際の吸光度変化量を表8並びに図4、5、6、及び7にそれぞれ示した。
【表8】
【0067】
表8並びに図4から7に示されるように、第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合、ヒトIgG4濃度が高くなるにしたがって、吸光度変化量が減少した。一方でMaI4−05産生抗体および市販抗体HP6025で調製した対照試薬を用いた場合、ヒトIgG4濃度依存的な吸光度変化は見られなかった。以上より、MaI4−05産生抗体および、市販の抗体HP6025にて調製した試薬は自動分析装置でのラテックス(粒子)凝集阻止法に適用させることが困難であることがわかった。一方でMaI4−08およびMaI4−09産生抗体にて調製した試薬はラテックス(粒子)凝集阻止法に適用することが可能であり、自動分析装置を用いたヒトIgG4濃度測定に有用であることが明らかとなった。
【0068】
(4)希釈直線性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、希釈直線性の評価を行った。試料としてヒトIgG4濃度を1000mg/dLに調整した標準ヒト血清を、塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水により段階希釈した試料を検体として用いた。ヒトIgG4濃度0.0mg/dLの試料には生理食塩水をそのまま用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0069】
(5)プロゾーン現象への耐性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、プロゾーン現象への耐性評価を行った。試料としてヒトIgG4濃度を8000mg/dLに調整した標準ヒト血清を、塩化ナトリウムを0.85%含む生理食塩水により段階希釈し、検体として用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3uLに対し第一試薬120μL、第二試薬120uLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0070】
(6)ヒトIgG4に対する特異性の評価
第一試薬に用いるマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体としてMaI4−08産生抗体またはMaI4−09産生抗体を用いた場合について、ヒトIgG4に対する特異性の評価を行った。試料として3000mg/dLに調整したMyeloma ヒトIgG4溶液(EMD Millipore)を用いた。また対照試料として、同様に調整したMyeloma ヒトIgG1溶液(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG2溶液(EMD Millipore)、Myeloma ヒトIgG3溶液(シグマアルドリッチ)を用いた。ブランク試料には生理食塩水を用いた。ヒトIgG4濃度の測定は日立7180形自動分析装置を用い、試料3μLに対し第一試薬120μL、第二試薬120μLを反応させ、主波長570nm、副波長800nmにて18〜28測光ポイント間(R2添加後約1分後から4分後に相当)において、2ポイントエンド法による吸光度変化量を測定した(n=2)。表6の結果から検量線を作成し、試料中のヒトIgG4濃度を算出した。
【0071】
(7)測定結果
結果を図8〜13、表9及び10にそれぞれ示した。
【表9】

【表10】

本発明のハイブリドーマが産生したマウス抗ヒトIgG4モノクローナル抗体を第一試薬に用いた場合、0〜1000mg/dLの検量範囲で十分な希釈直線性を有することが判明した(図8及び9)。また、プロゾーン現象については8000mg/dLまで測定値の低下は見られなかった(図10及び11)。さらに、IgG1、IgG2、IgG3への反応性はほとんど認められなかった(図12及び13、表9及び10)。
【0072】
以上のように、スクリーニング段階だけでなく、抗IgG4モノクローナル抗体として報告されている抗体(HP6025)(非特許文献6)でも、免疫学的粒子凝集阻止法に適さない抗体があることが新たにわかった。免疫学的粒子凝集阻止法に適した抗体と適さない抗体の違いを明確にすべく、抗体の相互作用の解析及びエピトープ解析を行った。
【0073】
<実施例3>相互作用の解析
MaI4−08及びMaI4−09の産生抗体と、対照としてMaI4−05産生抗体及びHP6025とを1mg/mLになるように調製した。またヒト血清より精製した1 mg/mLのIgG4を調製した。株式会社住化分析センターのプロトコルに沿って、IgG4をアミンカップリング法にてチップに固定化し、Biacore機種を用いたセンサーグラム取得を行った。得られた結合速度定数(k)、解離速度定数(k)及び解離定数(KD)は表11の通りとなった。
【表11】

3種類の抗体のうち、MaI4−05産生抗体の結合速度定数kはMaI4−08およびMaI4−09産生抗体の10分の1以下であり、HP6025抗体の結合速度定数kはMaI4−08およびMaI4−09産生抗体の100分の1以下であった。
【0074】
<実施例4>エピトープの解析
UniprotよりヒトIgG4重鎖定常領域のアミノ酸配列を取得した(P01861、配列番号4)。得られたアミノ酸配列を部分的に欠損させたそれぞれ配列番号4及び25〜35で示されるアミノ酸配列H1〜12(図14)のN末端にGSTタグを連結したペプチドを設計した。H1(配列番号4)はヒトIgG4重鎖定常領域全長のアミノ酸配列からなるものである。H2はヒトIgG4重鎖定常領域の1から274番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号25)。H3はヒトIgG4重鎖定常領域の1から220番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号26)。H4はヒトIgG4重鎖定常領域の1から165番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号27)。H5はヒトIgG4重鎖定常領域の1から110番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号28)。H6はヒトIgG4重鎖定常領域の1から55番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号29)。H7はヒトIgG4重鎖定常領域の56から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号30)。H8はヒトIgG4重鎖定常領域の111から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号31)。H9はヒトIgG4重鎖定常領域の166から327番目までのアミノ酸配列からなるたものである(配列番号32)。H10はヒトIgG4重鎖定常領域の221から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号33)。H11はヒトIgG4重鎖定常領域の275から327番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号34)。H12はヒトIgG4重鎖定常領域の99から220番目までのアミノ酸配列からなるものである(配列番号35)。
【0075】
また、ヒトIgG4重鎖CH3領域中のアミノ酸配列(H10、配列番号33)において、ヒトIgG4特異配列を部分的にヒトIgG1重鎖定常領域の対応するアミノ酸に部分的に置換させた、それぞれ配列番号36〜44によって示されるアミノ酸配列H31−39(図15)のN末端にGSTタグを連結したペプチドを設計した。H31はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の235番目のグルタミン残基をアルギニン残基へ置換したものである(配列番号36)。H32はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ置換したものである(配列番号37)。H33はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基へ置換したものである(配列番号38)。H34はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号39)。H35はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の235番目のグルタミン残基をアルギニン残基へ、289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、299番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基へ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号40)。H36はヒトIgG4重鎖定常領域の221から327番目のアミノ酸配列中のIgG4特異配列を全て対応するIgG1のアミノ酸配列へ置換したものである(配列番号41)。H37はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号42)。H38はH10のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の289番目のアルギニン残基をリシン残基へ、299番目のグルタミン酸残基をグルタミンへ、325番目のロイシン残基をプロリン残基へ置換したものである(配列番号43)。H39はH36のアミノ酸配列を元に、ヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に置換したものである(配列番号44)。
【0076】
設計した各アミノ酸配列を元に、GenScript社のプロトコルによって大腸菌での蛋白質発現に適した塩基配列を設計し、各塩基配列を挿入したベクターpGEX−6P−1(GEヘルスケア・バイオサイエンス)を作製した。大腸菌BL21株に作製した発現プラスミドを導入し形質転換体を得た。形質転換体を通常の方法にて培養し、IPTGによる蛋白質発現を誘導した。遠心分離にて集菌後、通常の溶解液にて溶解し、超音波処理を行った。得られた溶解液6μLにSDSサンプル緩衝液6μLを添加した。各調製した試料は95℃にて5分間加熱処理を行った。SDS泳動緩衝液を添加した5〜20%泳動ゲル(アトー)の各ウェルに、上記の大腸菌破砕試料を10μLずつ添加した。また分子量スタンダード(バイオラッド)も同様にウェルに添加し泳動した。泳動終了後、泳動ゲルを転写緩衝液にてPVDFメンブレン(メルクミリポア)に転写した。PVDFメンブレンをメンブレンブロッキング緩衝液に浸漬し、室温にて30分間振盪させた。MaI4−08、MaI4−09、MaI4−05産生抗体のアミノ基に対し、POD標識キット(同人化学研究所)を用いてPOD標識処理を施した。得られた標識抗体をPBSTにてそれぞれ1000倍希釈した。PVDFメンブレンをPBSTにて洗浄後、それぞれ調製した前記抗体溶液をPVDFメンブレンへ添加し、室温にて1時間反応させた。PVDFメンブレンをPBSTにて洗浄後、ECL Prime Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare)を使用しImage Quant Las4000にてシグナルを検出した。
【0077】
その結果、MaI4−08及びMaI4−09産生抗体のどちらもH−1、H−7、H−8、H−9及びH−10においてシグナルが確認された。よってMaI4−08及びMaI4−09産生抗体のエピトープは、ヒトIgG4の重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列に存在する事が明らかとなった(図16及び図17)。
さらに、MaI4−08、MaI4−09産生抗体に関しては299番目のグルタミン酸が保存された条件(H−10、H−31、H−32、H−34、H−37)においてシグナルが確認されたが、299番目のグルタミン酸をグルタミンに置換した条件(H−33、H−35、H−36、H−38)ではシグナルは確認されなかった。したがってMaI4−08,MaI4−09産生抗体のエピトープはヒトIgG4重鎖定常領域の299番目のグルタミン酸残基を含むことを必須とするヒトIgG4重鎖定常領域の221番目から327番目のアミノ酸配列に存在することが明らかとなった(図18及び図19)。
一方、MaI4−05産生抗体は、99から110番目のアミノ酸配列、すなわちヒンジ領域を含む配列(H−1、H−2、H−3、H−4、H−5、H−7、H−12)にのみシグナルが確認された。したがって、MaI4−05産生抗体のエピトープはヒトIgG4重鎖定常領域の99から110番目のアミノ酸配列に存在することが明らかとなった(図20)。
【0078】
H−1乃至H−12、並びにH−31乃至H−39のアミノ酸配列を以下に示す。
【表12-1】

【表12-2】
【0079】
また、各試薬の組成は以下の通りである。
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上に詳細に説明した通り、本発明の免疫測定法では、測定対象目的物質(ヒトIgG4)に対して反応性及び選択性の高い抗体を用いて使用することで反応系中の競合物質(IgG1〜3など)の影響を除き、目的物質を特異的に精密測定することができる。本発明の抗ヒトIgG4抗体を用いれば、試料中のヒトIgG4を特異的に検出測定することか可能であり、IgG4関連疾患などの診断や臨床検査の分野において極めて有効である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]