【実施例】
【0031】
まず、本願発明の理論的背景について説明する。
図1は、(a)時間領域(TD)、(b)周波数領域(FD)、(c)ガボール分割(Gabor division、TD-FD)の3種の多重化を示す。
図1(d)は、非可換特性Τ
τ,0Τ
0,ν(t)=e
-jπτνΤ
o,νΤ
τ,0を持つ対称的時間−周波数シフト演算子Τ
τ,νx(t)を示す。
【0032】
例えばレーダ問題では、遅延時間及びドップラーシフトが未知で、これらの正確な測距が必要である。TD及びFDの拡散符号を導入し、T及びFをN及びN'均等分割したチップ単位のT
c=T/N及びF
c=F/N’のマイクロセルを導入することにより、遅延時間及びドップラーシフトは、チップ単位T
c及びF
cの精度で求めることができる。このため、レーダの発射信号は、広帯域信号v(t)及びV(f)になる。
【0033】
なお、同期には、単純には手間NN'が必要になるように見える。しかしながら、同期が容易なように、TD、FD信号v(t)、V(f)には、それぞれ、その手がかりとなるテンプレート信号がN'及びN個埋め込まれている。そのため、手間N+N'に削減している。
【0034】
N、N'個のTD、FDの相関器アレイが、受信信号とテンプレートとのパタンマッチングを行う。各相関器は、パラメタ空間Θ
τ,νを直和分解したパラメタ部分空間で、それぞれのN、N'個の部分空間に割り当てられるテンプレートとのテンプレートマッチングを行う。すなわち、パラメタ空間をアドレス(n行目(1≦n≦N)、n'列目(1≦n'≦N'))で指定された矩形領域に均等分割し、アドレスを特徴付けるために、n行目用のテンプレート(その周波数双対:n'列目用のテンプレート)を設計する。さらに、これらのテンプレートと受信信号(その周波数双対:そのフーリエ変換)とのテンプレートマッチングを行う。その際、各テンプレート信号間の独立性の確保のため拡散符号が導入されている。これは、統計学のパラメタ推定論でのN種信号検出論(resp.N'種信号検出論)の尤度関数が、受信装置の相関器で実現される。本願発明は、パラメタ推定問題に2次元位相変調した信号を採用しており、従来の拡散符号の新たな活用法を与えている。
【0035】
拡散符号の導入には、多重化等の長所がある。最大の欠点は、符号による位相歪みが発生し、これに対する位相歪み補償が必要なことである。すなわち、t
d及びf
Dの位相歪みexp(jπt
df
D)に引き続いて起こる多重化(データレベル、チップレベル)に伴う位相歪みexp(jπTF)、exp(±jπT
cF
c)が生じる。受信側では、位相歪みに対する補償が必要になる。無線通信分野では、このような位相歪み補償は、しばしば無視されている。
【0036】
以下では、具体的に説明する。
【0037】
発明者は、これまで、連続時間に関して研究・発表を行ってきた(特許文献1参照)。式(1)により連続時間変数と離散時間変数を対応させて、連続時間の結果を離散時間型に改める。さらに、式(2)は、チップパルスの直交関係のためのものである。式(3)は、L-point twiddle factor(回転因子)である。以下では、TDとFDとの対称性を確認するため、両者を並行して議論する。
【0038】
【数1】
【0039】
式(4)及び式(5)は、それぞれ、波形z(t)の遅延時間t
d、ドップラーシフトf
Dのエコー信号とそのフーリエ変換(FT)である。これらの間には、(t
d、f
D)に関する対称性がない。
【0040】
少し工夫すると、式(6)を得ることができる。式(6)の第1式のフーリエ変換の括弧内の関数と第3式は、それぞれ、式(7)の、TD関数z(t)及びFD関数Z(f)に対する(t
d,f
D)の対称的時間・周波数シフト演算式の定義を与え、式(8)を与える(
図1(d)参照)。
【0041】
しばらくは、簡単のため、単一のペア(t
d,f
D)を説明の対象とする。式(7)の指数関数の肩部の項−t
d/2、−f
D/2は、無重畳重ね合わせ(non-overlapping superposition)法などで本質的な役割を果たす。まず、Τ
td,fDz(t)、Τ
ffD,-tdZ(f)との間で(t
d,f
D)の対称性が成立する(TD信号中のt
d、f
Dは、FD信号中のf
D、−t
dと完全に対応する)。次に、2つの未知数(t
d,f
D)の求解問題では、2個の関数z(t)、Z(f)を用意することは当然のことである。式(7)の指数関数の肩部から緩やかな関数z(t)、Z(f)に対しt
d(resp.f
D)を推定する場合、検出が容易なZ(f)(resp.z(t))を対象に並列処理して考察すべきこと等がわかる。
【0042】
【数2】
【0043】
次に、式(9)を導入することにより、信号理論と量子力学を対応させる。
【0044】
【数3】
【0045】
式(10)は、ヒルベルト空間Ηの自己随伴演算子Q、Pに対するHeisenberg’s Canonical Commutation Relation(CCR)である。ただし、h/(2π)は、プランク定数である。Stone-von Neumann theoremは、式(10)を満たす演算子Q、Pが式(11)のシュレーディンガー表示が唯一であることを証明した。この理論によれば、Baker-Cambell-Hausdorff formulaより、式(12)の演算子Q、Pに対するone parameterユニタリ演算子により式(13)のHeisenberg’s CCR のWeyl形式が得られる。また、式(14)のvon Neumannのtwo parameter 演算子により、式(15)のWeyl形式が得られる。
【0046】
【数4】
【0047】
式(16)の量子力学と時間・周波数シフト演算子の対応付けは、対称的時間・周波数シフト演算子Τ
τ,νが、Neumann演算子S(a,b)と同一形式であることを意味する。さらに、式(15)の位相項は群演算の連鎖則を明示するため、式(17)のように2×2の行列式で表記する。これより、無歪条件τν∈Zは、式(18)のDiracの基本的量子条件の古典的極限:h/(2π)→0と対応する。ただし、2つの作用素の[P,Q]=PQ−QPは、Heisenberg’s bracketである。式(17)では、式(19)の重要な関係式を用いた。これは、(i)両演算子は非可換:Τ
td,0Τ
0,fD=e
-j2πtdfDΤ
0,fDΤ
td,0であり位相項が生じること、(ii)両シフト量の加法性に伴い位相項が生じること等を意味する。特にレーダ関係で多用されるパルス列p(t)を発射信号とする場合、(t
d,f
D)を有する伝搬路を経た受信信号の位相歪補償を行う相関関数が必要であることを強く示唆している。
【0048】
【数5】
【0049】
高精度測距を可能とするために、式(20)の4レベルの階層構造の送信信号を設計する。
【0050】
【数6】
【0051】
まず、長さL
g(resp.L
G)の因果的離散時間prototype filterの実現のため、g[k](resp. G[l])は、区間[-L
gΔt/2,L
gΔt/2] (resp. [-L
GΔf/2,L
GΔf/2])で打ち切られた時間(resp.帯域)制限のg(t)(resp.G(f))、さらにDΔt/2,D=L
g−1(resp.D'Δf/2,D'=L
G−1)の遅延を受け、式(21)の正規化された関数で定義する。以下、離散時間TD、FD関数は、連続時間TD、FD関数に各々時間遅延D/2、周波数シフトD'/2を施した関数とする。
【0052】
【数7】
【0053】
TDのシグネチャv(t;Χ)とそのFDのV(f;Χ)は、式(22)〜式(25)で示される。それぞれ、TDテンプレートu
TDs'(t;X)、FDテンプレートU
FDs(f;X')が埋め込まれている。ただし、テンプレートのTD信号は、式(26)及び式(27)である。テンプレートのFD信号は、式(28)及び式(29)である。結局、式(30)〜式(33)が成り立つ。
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
【0056】
【数10】
【0057】
周期N,N'のX
m,X'
mを無限長m∈Z,m'∈Zに適用すると、式(34)のmodulated filter(MF)特性を用いて、上式は、式(35)となる。記号lcm[M,N']=M
0N'=MN'
0,lcm[M',N]=M'
0N=M'N
0を導入し、式(36)のM
0N'、M'
0N個のpolyphase componentを導入することにより、式(37)の各々polyphase filter(VaidyanathanのType 1 polyphase)が定義される。従って、
図2(a)及び(b)の2次元の時間・周波数拡散符号変調されたシグネチャv[k]、V[l]のSFBが得られる。
図2(a)及び(b)は、それぞれ、TDシグネチャv[k]及びFDシグネチャV[l]に対するTDとFDのSS符号を持つSFBを示す。
図2(a)は、式(23)と(35)のTDシグネチャv[k]に対するTD,FDのSS符号X
m,X'
m'とm'番目のTDテンプレートu
TDm'[k](0≦m'≦N'−1)のSFDである。
図2(b)は、式(25)と(35)のFDシグネチャV[l]に対するTD,FDのSS符号X
m,X'
m'とm'番目のFDテンプレートU
FDm[l](0≦m≦N−1)のSFBである。
【0058】
【数11】
【0059】
情報信号を埋め込んだ送信信号(transmit signal)は、式(38)及び式(39)である。そのFTのFD送信信号は、式(40)及び式(41)である。式(42)は、
図3(a)及び(b)の送信信号のSFBである。ただし、式(43)及び式(44)のデータ伝送のmodulated filter(MF)特性を用いると、それぞれ、polyphase filter(VaidyanathanのType 1 polyphase)は、式(45)が定義される。
図3(a)は、式(39)と(42)によって定義されるTD送信信号s[k]に対するデータ{d
p,p'}
P,P'p,p'=1のSFBである。
図3(b)は、式(41)と(42)によって定義されるFD送信信号S[l]に対するデータ{d
p,p'}
P,P'p,p'=1のSFBである。なお、通常のSFBでは、シグネチャ生成過程がないので
図2(a)及び(b)は不要である。
図3(a)及び(b)で、N=N'=1のとき通常のSFBに対応する。
【0060】
【数12】
【0061】
【数13】
【0062】
t
d≒k
dΔt,f
D≒l
DΔfを有するチャネルを介してheterodyne受信器の出力側でのbaseband複素信号r(t)とそのFTであるR(f)=F[r(t)](f)は、それぞれ、式(46)〜(49)である。ただし、η(t)、E(f)は干渉成分とそのFTであり、ξ(t)、Ξ(f)は外部雑音とそのFTであり、α、φはチャネルの減衰、位相特性である。
【0063】
【数14】
【0064】
制御パラメタ、推定パラメタ(μ,^t
d)≒(l
μΔf,^k
dΔt)を有するtype-3のTD相関器(その周波数双対:(σ;^f
D)≒(k
σΔt,^l
DΔf)を有するtype-4のFD相関器)と各々の推定テンプレートを与える。受信側では、incoherent通信を想定し、TD、FDの拡散符号はY={Y
n},Y'={Y'
n'}とし、チップアドレス,データアドレスは各々(n,n'),
→q=(q,q')とする。type-3、type-4の相関関数は、それぞれ、式(50)及び式(51)である。ただし、パルス波形の偶関数性:g[k]=g[D-k],G[l]=G[D'-l]を用いた。
【0065】
【数15】
【0066】
modulated filter係数(式(52))のAFBのfilter特性とP'
0MN,P
0M'N'個のpolyphase components(式(53))を用いると、それぞれ、N',N個のpolyphase filter(式(54))(VaidyanathanのType 2 polyphase)が定義され、
図4(a)及び(b)のAFBが得られる。
図4(a)は、{d
p,p'}
Pp=1,1≦p'≦P'の受信に対するTD相関器アレイを持つAFBを示す。
図4(b)は、{d
p,p'}
P'p'=1,1≦p≦Pの受信に対するFD相関器アレイを持つAFBを示す。N=N'=1,N
0=N'
0=1のとき通常のAFBである。
【0067】
図5は、(a)TD、(c)FD相関器アレイのAnalysis Filter Bankと(b)ノイマンのAPTを示す。
図5(a)(c)は、P×P'個の情報データ{d
→p}
P,P'p,p'=1を
→p=(p,p')単位で各々N,N'個からなる最終出力側の相関器アレイ中で特定p-Band、p'-Durationの単一データの場合を取り出し最尤法のパラメタ推定法のための複数個のアレイ型相関器だけを抽出している。可変フィルタを使用することにより、同期をとることができる。
【0068】
【数16】
【0069】
すなわち、
図5(a)(c)のTD,FD型AFBは、
図5(b)のように、t
d, f
Dによる歪を含む受信信号から無情報で信号検出するために、arg maxの演算で得られた、各々最尤推定値l
*μ,k
*σを他方、FD,TDの^l
D,^k
dに採用し、
図5(d)のようなvon Neumann's APTの交互更新を行う。なお、
図4は、単一データの場合、
図5(a)(c)のように各々中心部ブロックの相関器アレイだけでよい。結局、PP'個の情報データ検出用に、TD,FDでは各々N,N'のアレイ型相関器を並列にP',P個配置し、時間幅T、帯域幅Fのデータの無重畳伝送に要するPT×P'Fの時間・周波数領域に均等に存在するt
d,f
Dの無情報高精度・高速検出と情報データ高速検出を同時並行的に実行する。
【0070】
【数17】
【0071】
なお、従来のOFDM等はmulti-carrier法であるが、t
d、f
D−freeの環境で完全同期の場合、同期ズレが起こることなく通信が正常動作する。この根拠は、時間幅T、帯域幅Fの信号の伝送の場合、可換条件(無歪条件):TF∈Zを満たす設計法にある。しかし、式(57)はT,Fのずれε
T,ε
F<<1による位相歪を示す。式(57)より相関器実部の劇的減少に直結するので揺らぎは深刻な事態を招く。ただし、復調器で多用される“絶対値操作”がこれを覆い隠しているにすぎない。
【0072】
【数18】
【0073】
拡散符号が独立であるため相互相関<ψ
η,s',→p[k],u
TDs',→p[k;Y]>
d,kが相対的に小さいと仮定して近似し、受信器への要素Ae
iκの入力CE ψ
w[k;X]と、(s',
→p)番目のTDテンプレートにマッチするフィルタのインパルス応答との相互相関を式(58)と定義する。ここで、d
→p=1であり、Xに代えて符号Yである。
【0074】
離散時間TD関数の空間l
2(Z)における内積を使うと、式(59)を得る。ただし、θ
xy(・,・)、Θ
XY(・,・)は、式(60)で定義されるambiguity functionである。ambiguity functionは、量子力学におけるWigner functionと密接な関係がある。また、二つの時間・周波数シフトされた関数間の内積を式(61)〜(63)と簡潔に表現する。
【0075】
式(59)より、位相項は、五つの位相歪要素:1)通信路歪+送信信号のsymbol levelの多重化、2)送信信号のchip levelの多重化、3) 受信器のsymbol levelの多重化による通信路歪推定、4)受信信号のchip levelの多重化、5)ambiguity function型相関器の位相、からなる。なお、従来、データレベルやチップレベルで歪みが出ることを意識していないため、データレベルのズレやチップレベルのズレを考慮せずに^k
d-k
dとl
μ−l
Dを小さくしようとしてしまっていた。
【0076】
残念ながら、一般的には、θ
gg(τ,ν)及びΘ
GG(ν,−τ)は、多くのサイドローブを持つ。しかしながら、Gaussian pulse g(t)は、推定問題に抜本的な解決策を与える。なぜなら、Gaussian pulseは、式(64)に示すように分離可能で指数的に減衰するambiguity functionを持つからである。
【0077】
【数19】
【0078】
N、N'>>1の大きな値の相関器出力は、ambiguity function θ
dggの最初と2番目の引数が0に近いこと(すなわち、
→p=
→q)を意味する。よって、式(59)の
→p≠
→qのすべての項は、無視することができる。
【0079】
ν
0[l
μ]=l
μ−l
D、τ
0[^k
d]=^k
d−k
dを導入すると、Twiddle factor W=e
-j2π/Lの3つの指数の和(式(65))を与えられる。拡散符号の3つの総和を計算する。もし受信機がアドレス
→p=
→qであり、n=mであり、Y=X,Y'=X'ならば、式(66)が成り立つ。総和は、式(67)のように、Dirichlet fucntion formで表現される。
【0080】
【数20】
【0081】
拡散符号が独立であるため相互相関<Es,
,→p[l],U
FDs,→p[l;X]>
d,lが相対的に小さいと仮定して近似し、受信器への要素Ae
iκのFD入力CE Ψ
W[l;X]と、(s,
→p)番目のFDテンプレートにマッチするフィルタのFDインパルス応答との相互相関を式(68)と定義する。ここで、d
→p=1であり、X'に代えて符号Y'である。これは、式(69)と書き替えることができる。
【0082】
同様に、N、N'>>1の大きな値の相関器出力は、ambiguity function Θ
dGGの最初と2番目の引数が0に近いこと(すなわち、
→p=
→q)を意味する。よって、式(69)の
→p≠
→qのすべての項は、無視することができる。
【0083】
ν
0[l
μ]=l
μ−l
D、τ
0[^k
d]=^k
d−k
dを導入すると、Twiddle factor W=e
-j2π/Lの3つの指数の和(式(70))を与えられる。拡散符号の3つの総和を計算する。もし受信機がアドレス
→p=
→qであり、n=mであり、Y=X,Y'=X'ならば、式(71)が成り立つ。
【0084】
【数21】
【0085】
2つの相関器は、t
dとf
D(又はk
d、l
D∈Z)に関して完全に対称である。c
→p,s'TD,d(l
μ;k
d)とC
→p,sTD,d(k
σ;^l
D)のペアのTD SS符号とFD符号を交換することにより、式(72)及び式(73)の他の相関器のペアを得る。
【0086】
【数22】
【0087】
Ae
jκと(t
d,f
D)推定は分離できる。そのため、例えば、式(74)で定義される2組の相関器(いわゆる相補ペア)に対し、式(75)を利用して、整数のペア(^k
d,s,^l
D,s)を、sが偶数のとき^l
D,s=l
*μとし、sが奇数のとき^k
d,s=k
*σと更新する。初期値(^k
d,0,^l
D,0)は任意に選ぶことができる。(^k
d,0,^l
D,0)=(0,0)でもよい。l
*μ及びk
*σを、それぞれ、^f
D,s+1及び^t
d,s+1の候補として選択する。もし|^t
d,s+1-^t
d,s|<T
C/2及び|^f
D,s+1-^f
D,s|<F
C/2ならば、推定手続きを終了する。
【0088】
【数23】
【0089】
4種類の相関器出力の計算にかかわる2d-SS codeと対応する級数和はDFT,IDFTの形式で整理できるので、各々をF
○、F
○-1と略記する。出力値は、3重級数和で整理できる。ただし、○はrunning variableのn、n'を意味する。
【0090】
【数24】
【0091】
両相関値実部の最大をとる制御パラメタとその相関器番号を式(77)、(78)で定め、互いのr-stepの固定パラメタ^t
d,r、^f
D,rを交互更新する。これは、von Neumann's APT(Alternating Projection Theorem)の適用対象である、(μ
*,s
*)がMaximum Likelihood(ML)の尤度関数によるM種TD信号検出法でM=Nに相当し、n
*が信号の種類検出番号と共にμ
*がf
Dの最適推定値である。すなわち、argmax演算で最大値を与えるTD関数の可変パラメタμ
*がf
DのML estimateになり、FD関数のf
D推定値となり、その双対FD関数の可変パラメタσ
*がt
dのML estimateになり、TD関数のt
d推定値となる。お互いに双対相手の推定値を与える。argmaxの操作はTD関数ではf
Dの最適推定を、FD関数ではt
dの最適推定を行う。パラメタ推定は斜になっている。これは式(82)に現れている。小文字の相関関数は時間領域、大文字のそれは周波数領域での積分(内積)を実行する。一方、(σ
*,s
*)がMLの尤度関数(その変数は周波数変数)によるM種FD信号検出法でM=N'に相当し、s
*が信号の種類検出番号と共にσ
*がt
dの最適推定値である。
【0092】
【数25】
【0093】
式(77)のoriginal pairは高SNRで、式(78)のcomplementary pairは低SNRで動作し、前者は収束までのstep数が多く、後者は少ない。SNRとstep数の間のトレードオフ関係が数値シミュレーションで確認されている。SS codeによるパルス列を用いた結果は、式(79)及び(80)である。ただし、Δt、Δfは、それぞれ、ガウス波z(t)=e
-πt^2/st^2、Z(f)=e
-π(fs_t)^2の標本化時間間隔、周波数間隔である。ガウス波の分散は、各々s
t2=Σ
kk
2g[k]、s
f2=Σ
ll
2G[l]、(s
t・s
f=1/2π)である。d'
2はSS変調によるスペクトル振幅N
-1、N'
-1を考慮すると、d'
2=d
2N
2、d'
f2=N'
2d
2より、右辺は各々1/(4π
2d'
2T
c2)、1/(d
f'
2F
c2)となる。ただし、NT
c=T,N'F
c=Fである。
【0094】
AFBの形式で表現するために、両相関器の計算は、受信信号r(t)とテンプレートu
TDn′(t;Y)(その周波数双対:R(f)とテンプレートU
FDn(f;Y'))との内積(template matching)の形で整理した。
【0095】
【数26】
【0096】
その他注意事項として、まず、type-1,type-2テンプレートについて説明する。TD、FD符号の役割を入れ替えると、別のテンプレート分解も可能である。
【0097】
TDのsignature信号v(t;X)(式(81))と、そのFD:V(f;X)(X=(X;X')(式(82))は、各々、TDテンプレートu
nFD(t;X')、FDテンプレートU
n'TD(f;X)で、式(83)及び(84)と分解される。すなわち、signature v(t)(resp.V (f))を発射信号とすると、(t
d,f
D)の伝搬路を経て受信信号はT
t_d,f_Dv(t;X)(resp.T
ff_D,-t_dV(f;X))と雑音及び干渉の和となる。ただし、各テンプレートのTD,FD信号は、式(85)及び(86)である。
【0098】
【数27】
【0099】
提案法は、信号のTD−FD表現(Gabor展開)が未知パラメタ空間(τ,ν)の分割に応用可能であることを示した。M種の信号s
j(t),1≦j≦Mは、互いに独立であることが望ましいので拡散符号変調は重要である。高精度パラメタ推定を行うために、2次元拡散符号によるN×N'分割は、TD、FDを各々、N'分割してパラメタ探索空間をN、N'分割しているので上記のM種の仮説作成に対応する。
【0100】
パラメタ推定計算の手間O(NN')が、O(N+N')に削減された。すなわち、TD、FDで各々N、N'個の仮説を作成したことになった。パラメタ探索空間分割の結果、新たな位相歪が発生するので、それらの位相歪補償付きのN、N'個の相関器が必要となる。すなわち、パラメタ推定の高精度化と種々の位相歪の増大とはトレードオフの関係にある。これらはBinary incoherent channelやIncoherent M-ary Channel を想定しているので必要なコストである。また、粗いパラメタ推定値では、尤度比は所望の尤度比レベルに達しないので、低いFalse Alarm確率Q
0や検出確率Q
dをもたらすことが予想される。なお、上記のHelstromの各種の統計的手法は主にTDで議論されていたので、TFS(Time-Frequency Symmetry)に注意してFDにおける尤度関数や尤度比を定義する必要がある。
【0101】
以上の理論的背景をもとに、
図6及び
図7を参照して、本願発明の実施の形態に係る信号処理システムの構成及び動作の例を説明する。
【0102】
図6は、本願発明の実施の形態に係る信号処理システム1の(a)構成及び(b)動作の一例を示す。
【0103】
図6(a)を参照して、信号処理システム1は、送信装置3と、受信装置5を備える。送信装置3は、拡散符号記憶部7と、送信信号生成部9と、送信信号送信部11を備える。受信装置7は、受信信号受信部13と、補償部15と、拡散符号記憶部16を備える。送信装置3の拡散符号記憶部7は拡散符号を記憶し、受信装置5の拡散符号記憶部16は、対応する拡散符号を記憶する。
【0104】
図6(b)を参照して、
図6(a)の信号処理システム1の動作の一例を説明する。拡散符号記憶部7は、時間拡散符号及び周波数拡散符号を記憶する。送信信号生成部9は、時間拡散符号及び周波数拡散符号を用いて2次元位相変調して送信信号を生成する(ステップST1)(式(43)、式(45)参照)。ここで、式(43)や式(45)によれば、(−1)
qq'NN'を含む。この値は、q、q'、N、N'がすべて奇数のときに−1となり、他の場合は1となる。そのため、q、q'、N、N'がすべて奇数のときに位相歪みが生じる。これが2次元位相変調による位相歪みとなる。なお、この位相歪みは、連続時間変数から離散時間変数としたことにより明確になった。送信信号送信部11は、受信装置5に対して送信信号を送信する(ステップST2)。受信信号受信部13は、送信信号を受信して受信信号を得る(ステップST3)。補償部15は、受信信号における、時間拡散符号及び周波数拡散符号を用いた2次元位相変調による位相歪みを補償する(ステップST4)。これらの処理は、通常のアンテナ等の通信装置やコンピュータを使用して実現可能なものである。
【0105】
ステップST1において、送信信号生成部9は、2次元位相変調により、データ多重化及び/又はチップ多重化を行ってもよい。このとき、ステップST4において、補償部15は、データ多重化及び/又はチップ多重化による位相歪みを補償する。
【0106】
図7は、本願発明の実施の形態に係る信号処理システム21の(a)構成及び(b)動作の例を示す。
【0107】
図7(a)を参照して、信号処理システム21は、送信装置23と、受信装置25を備える。送信装置23は、拡散符号記憶部27と、送信信号生成部29と、送信信号送信部31を備える。受信装置27は、受信信号受信部33と、推定部35と、拡散符号記憶部36を備える。推定部35は、TD推定部37と、FD推定部39を備える。送信装置23の拡散符号記憶部27は拡散符号を記憶し、受信装置25の拡散符号記憶部36は、対応する拡散符号を記憶する。
【0108】
図7(b)を参照して、
図7(a)の信号処理システム21の動作の一例を説明する。拡散符号記憶部27は、時間拡散符号及び周波数拡散符号を記憶する。送信信号生成部29は、時間と周波数との対称性を満たす時間シフト及び周波数シフトを行うシフト演算子を用いて、時間拡散符号及び周波数拡散符号を用いて2次元位相変調して送信信号を生成する(ステップSTE1)。送信信号送信部31は、受信装置25に対して送信信号を送信する(ステップSTE2)。受信信号受信部33は、伝搬路を経た送信信号を受信して受信信号を得る(ステップSTE3)。推定部35は、例えば式(56)並びに式(82)及び(83)について説明したように、2次元位相変調による位相歪みを補償して伝搬路における遅延時間t
d及びドップラーシフトf
Dを推定する(ステップSTE4)。これらの処理は、通常のアンテナ等の通信装置やコンピュータを使用して実現可能なものである。また、TD推定部37やFD推定部39などは、専用のハードウエアを使用してもよい。
【0109】
すなわち、TD推定部37は、2次元位相変調による位相歪みを補償してドップラーシフトf
Dの最尤推定値を得る。FD推定部39は、2次元位相変調による位相歪みを補償して遅延時間t
dの最尤推定値を得る。ステップSTE4において、推定部35は、TD推定部37とFD推定部39による、一方での最尤推定値を他方が用いて交互に更新することにより、遅延時間t
d及びドップラーシフトf
Dを推定する(式(56)など参照)。