特許第6982289号(P6982289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6982289ハンドロボット及びハンドロボットの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6982289
(24)【登録日】2021年11月24日
(45)【発行日】2021年12月17日
(54)【発明の名称】ハンドロボット及びハンドロボットの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20211206BHJP
【FI】
   B25J15/08 W
   B25J15/08 J
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-79058(P2017-79058)
(22)【出願日】2017年4月12日
(65)【公開番号】特開2018-176352(P2018-176352A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛利 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 晴久
(72)【発明者】
【氏名】中村 一也
(72)【発明者】
【氏名】小林 保幸
【審査官】 岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−119770(JP,A)
【文献】 特開2004−020368(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/129587(WO,A1)
【文献】 特開2010−264544(JP,A)
【文献】 特開2005−329512(JP,A)
【文献】 特開2006−035329(JP,A)
【文献】 米国特許第5762390(US,A)
【文献】 宮川正好,他1名,”ウォームギヤを用いた関節トルクセンサによる指先インピーダンス制御”,第24回日本ロボット学会学術講演会予稿集,社団法人日本ロボット学会,2006年09月14日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掌部と、根本側が関節を介して前記掌部に支持されるとともに長手方向の中途部分にも関節を有し、長手方向に隣り合う前記関節の間が節部である複数の指体と、前記関節毎に設けられたモータと、該モータ毎に設けられモータ側から入力部に加わる動力を出力部に伝達する動力伝達機構と、前記出力部の動力によって対応する前記関節を屈伸運動させる屈伸機構と、制御部とを具備し、前記根本側の関節により隣接する指体を接近離間方向へ回動させるとともに、前記中途部分の関節により各指体を前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させるようにしたハンドロボットであって、
前記関節毎に対応して、把持対象物側からの反力を測定する1軸力センサが設けられ、
前記制御部が、複数の前記1軸力センサの力測定データに基づいて、前記各指体の指先力を算出するようにしたハンドロボットにおいて、
前記制御部は、特定の節部の指先側に位置する前記1軸力センサによる力測定データと、前記特定の節部の指根本側に位置する1軸力センサによる力測定データとを比較し、これら力測定データの関係より、前記特定の節部に前記把持対象物との接触位置があるか否かを推定することを特徴とするハンドロボット。
【請求項2】
前記制御部は、前記指先側の1軸力センサによる力測定データが、前記指根本側の1軸力センサによる力測定データよりも小さい場合には、前記特定の節部に前記接触位置があると推定することを特徴とする請求項1記載のハンドロボット。
【請求項3】
前記動力伝達機構が、モータ側から前記入力部に加わる動力を前記出力部に伝達可能で且つ出力側から前記出力部に力が加わった際には前記出力部をロックする一方向動力伝達機構であり、前記1軸力センサが、前記一方向動力伝達機構よりも出力側に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のハンドロボット。
【請求項4】
前記関節毎に、その関節の前後間の角度を測定する角度測定手段が設けられ、
前記制御部が、前記指体毎に、複数の前記角度測定手段による角度測定データに基づき、前記各指体の先端位置を算出するようにしたことを特徴とする請求項1〜3何れか1項記載のハンドロボット。
【請求項5】
掌部と、根本側が関節を介して前記掌部に支持されるとともに長手方向の中途部分にも関節を有し、長手方向に隣り合う前記関節の間が節部である複数の指体と、前記関節毎に設けられたモータと、該モータ毎に設けられモータ側から入力部に加わる動力を出力部に伝達する動力伝達機構と、前記出力部の動力によって対応する前記関節を屈伸運動させる屈伸機構とを具備し、前記根本側の関節により隣接する指体を接近離間方向へ回動させるとともに、前記中途部分の関節により各指体を前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させるようにしたハンドロボットの制御方法であって、
前記関節毎に対応して把持対象物側からの反力を測定する1軸力センサを設け、
複数の前記1軸力センサの力測定データに基づいて、前記各指体の指先力を算出するようにしたハンドロボットの制御方法において、
特定の節部の指先側に位置する前記1軸力センサによる力測定データと、前記特定の節部の指根本側に位置する1軸力センサによる力測定データとを比較し、これら力測定データの関係より、前記特定の節部に前記把持対象物との接触位置があるか否かを推定することを特徴とするハンドロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣接する節部間の関節を屈曲・伸展させるようにしたハンドロボット、及びハンドロボットの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の発明には、例えば特許文献1に記載されるもののように、掌状に形成された基部と、この基部に支持されて屈曲運動する複数の指機構と、各指機構の指先部材に作用する6軸力、即ち、互いに直交する3軸(x軸、y軸、z軸)方向の並進力と各軸周りのモーメントとを測定する6軸力センサとを備え、前記6軸力センサから出力される6軸力の測定値に基づいて各指機構の指先力を制御するようにした5指型ハンド装置がある。
このような従来技術によれば、把持対象物の弾力性や硬度等に応じて6軸力センサの測定値が異なるため、その測定値に基づき、把持対象物の前記特性に応じた指先力を各指機構に与えることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−183629号公報
【特許文献2】特開2007−152528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、非常に高価で高重量かつ大型な6軸力センサを指機構毎に対応するように複数具備する必要がある。そこで、6軸力センサを手首部分のみに単数設けることも考えられるが、この場合には、センサを配置した部位よりも先端側の力・モーメントについては総和しか測定できず、例えば手首部分から離れた各指先部分の力を測定することはできない。したがって、高精度な制御は期待できない。
また、6軸力センサを指先や掌のみに設けた場合には、物体と接触している節部を特定することが困難である。
また、他の従来技術としては、各指の節部毎に触覚センサを設けるようにした発明(例えば、特許文献2参照)もあるが、触覚センサのみの情報に基づき指先力を推定するのは困難であり、力覚センサとの併用を要する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題に鑑みて、本発明は、以下の構成を具備するものである。
掌部と、根本側が関節を介して前記掌部に支持されるとともに長手方向の中途部分にも関節を有し、長手方向に隣り合う前記関節の間が節部である複数の指体と、前記関節毎に設けられたモータと、該モータ毎に設けられモータ側から入力部に加わる動力を出力部に伝達する動力伝達機構と、前記出力部の動力によって対応する前記関節を屈伸運動させる屈伸機構と、制御部とを具備し、前記根本側の関節により隣接する指体を接近離間方向へ回動させるとともに、前記中途部分の関節により各指体を前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させるようにしたハンドロボットであって、前記関節毎に対応して、把持対象物側からの反力を測定する1軸力センサが設けられ、前記制御部が、複数の前記1軸力センサの力測定データに基づいて、前記各指体の指先力を算出するようにしたハンドロボットにおいて、前記制御部は、特定の節部の指先側に位置する前記1軸力センサによる力測定データと、前記特定の節部の指根本側に位置する1軸力センサによる力測定データとを比較し、これら力測定データの関係より、前記特定の節部に前記把持対象物との接触位置があるか否かを推定することを特徴とするハンドロボット。


【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明に係るハンドロボットを具備したロボットの一例を示す概略図である。
図2】ハンド部の一例を示す斜視図である。
図3】指体の要部構造図である。
図4】把持対象物をハンド部の掌部寄りに把持した状態を示す斜視図である。
図5】各指体に関係するパラメータについて説明する模式図である。
図6】ハンド部に関係するパラメータについて説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本実施の形態では、以下の特徴を開示している。
第1の特徴は、ハンドロボットであって、掌部と、根本側が関節を介して前記掌部に支持されるとともに長手方向の中途部分にも関節を有する複数の指体と、前記関節毎に設けられたモータと、該モータ毎に設けられモータ側から入力部に加わる動力を出力部に伝達する動力伝達機構と、前記出力部の動力によって対応する前記関節を屈伸運動させる屈伸機構と、制御部とを具備し、前記根本側の関節により隣接する指体を接近離間方向へ回動させるとともに、前記中途部分の関節により各指体を前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させるようにしたハンドロボットであって、
前記動力伝達機構毎に対応して、把持対象物側からの反力を測定する1軸力センサが設けられ、前記制御部が、複数の前記1軸力センサの力測定データに基づいて、前記各指体の指先力を算出するようにした。
この構成によれば、1軸力センサを用いた比較的安価で小型軽量な構造でもって指先力を高精度に測定することができる。
【0008】
第2の特徴としては、省電力な態様とするために、前記動力伝達機構が、モータ側から前記入力部に加わる動力を前記出力部に伝達可能で且つ出力側から前記出力部に力が加わった際には前記出力部をロックする一方向動力伝達機構であり、前記1軸力センサが、前記一方向動力伝達機構よりも出力側に設けられている。
【0009】
第3の特徴としては、把持対象物に対する接触位置を認識できるように、前記指体毎の前記中途部分の関節が複数設けられ、前記制御部が、前記中途部分の複数の関節の前記力測定データに基づき、前記各指体における把持対象物との接触位置を算出するようにした。
【0010】
第4の特徴としては、各指体の先端位置を認識できるように、前記関節毎に、その関節の前後間の角度を測定する角度測定手段が設けられ、前記制御部が、前記指体毎に、複数の前記角度測定手段による角度測定データに基づき、前記各指体の先端位置を算出するようにした。
【0011】
第5の特徴としては、ハンドロボットの指先力測定方法であって、掌部と、根本側が関節を介して前記掌部に支持されるとともに長手方向の中途部分にも関節を有する複数の指体と、前記関節毎に設けられたモータと、該モータ毎に設けられモータ側から入力部に加わる動力を出力部に伝達する動力伝達機構と、前記出力部の動力によって対応する前記関節を屈伸運動させる屈伸機構とを具備し、前記根本側の関節により隣接する指体を接近離間方向へ回動させるとともに、前記中途部分の関節により各指体を前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させるようにしたハンドロボットにおける指先力測定方法であって、前記動力伝達機構毎に、前記出力部に連動する1軸の回転運動のトルクを測定する1軸力センサを設け、複数の前記1軸力センサの力測定データに基づいて、前記各指体の指先力を算出するようにした。
【0012】
<具体的実施態様>
次に、上記特徴を有する具体的な実施態様について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るハンドロボットAの一例を示している。
このハンドロボットAは、基台11上に固定された支持杆12に、関節部13を介して複数のアーム14を屈曲伸展可能に接続してなるハンド移動機構10と、このハンド移動機構10の最先端側のアーム14に接続されたハンド部20と、これらハンド移動機構10及びハンド部20を制御する制御部30と、把持対象物Xの初期位置や移動等を検出する把持対象物検出手段40とを備える。
【0013】
複数のアーム14は、図示しないモータ及びギヤ機構等により隣接するアーム間や、アーム14と支持杆12との間を屈曲・伸展させるように構成される。
これらのアーム14のうち、その一部又は全部は、屈曲伸展運動の他、必要に応じて、長手方向を軸とした回転運動をするようにしてもよい。同様に、支持杆12も、必要に応じて、長手方向を軸とした回転運動をするようにしてもよい。
【0014】
把持対象物検出手段40は、単数又は複数の撮像素子(例えば、CCDやCMOS等)であり、把持対象物X及びハンド部20等を撮像し、その位置座標や姿勢(角度)等のデータを制御部30へ転送する。
なお、この把持対象物検出手段40の他例としては、赤外線センサや超音波センサ等の非接触センサを用いた態様や、ハンド部20の掌部22や、その他の部分に配置された態様とすることも可能である。また、把持対象物検出手段40を省いて、把持対象物Xの位置等を目視確認しながらハンド移動機構10を手動操作する態様とすることも可能である。
【0015】
また、ハンド移動機構10の他例としては、関節部13及びアーム14の数が図示のものと異なる態様や、人腕型に構成された態様、図示しない周知のXYテーブルやリンク機構等を組み合わせた態様等とすることが可能である。
【0016】
ハンド部20は、複数の関節を屈曲及び伸展させる複数の指体21と、これら指体21を支持する掌部22とを具備している(図2参照)。
ここで、関節とは、指体21の根本と掌部22が連結された部分、各指体21において隣接する節部1,2(又は2,3)同士が連結された部分を意味する。
【0017】
指体21は、物体の把持のために複数本必要であり、本実施態様によれば、3本設けている。
これら指体21は、掌部22の周縁に沿って略等間隔(図示例によれば角度120度の間隔)に配置される。
【0018】
各指体21は、その根本側が関節を介して掌部22に枢支されるとともに、長手方向の中途部分が複数の関節を有する。
詳細に説明すれば、指体21の根本側の節部3は、回転軸aを有する関節を介して掌部22に枢支されている。
また、節部2,3間と、節部1,2間は、それぞれ、回転軸bを有する関節を介して接続されている。
【0019】
回転軸aは、掌部22の周縁に交差(図示例によれば直交)する軸であり、隣接する指体21,21を接近離間方向へ回動(内転及び外転と称する場合もある)させる。
【0020】
回転軸bは、その他の関節、すなわち節部1,2間と、節部2,3間に、それぞれ設けられる。この回転軸bは、図3に示す具体例によれば、パラレルリンク機構21d5を構成する一方のリンク部材21d51の回転支点部分である。
各回転軸bは、各指体21の指先側を、前記接近離間方向に対する交差方向へ屈伸させる。
すなわち、回転軸aと回転軸bは、掌部22の平面視上において交差(図示例によれば直交)するように位置している。
【0021】
掌部22は、図示例によれば平面視略円形状に構成され、上述した複数の指体21を同方向へ突出させて支持しており、その裏面側がハンド移動機構10の先端側に接続されている。
【0022】
ハンド部20内には、回転軸a,b毎に対応して、駆動源となるモータ21aと、このモータ21aの回転力を調整して伝達する調速機構21bと、この調速機構21bから入力部に加わる回転力を出力部に伝達する一方向動力伝達機構21cと、前記出力部の回転力によって対応する関節を屈伸運動させる屈伸機構21dとが設けられている。
また、各指体21内の指先側には、弾性部21eが設けられている。
そして、ハンド部20内の各関節部分には、一方向動力伝達機構21c毎に対応して、把持対象物X側からの反力を測定する1軸力センサ21gが設けられる。
さらに、ハンド部20内には、関節毎に、その関節の前後間(具体的には、節部1と節部2の間、節部2と節部3の間、節部3と掌部22の間)の角度を測定する角度測定手段21hが設けられる。
【0023】
節部1,2,3は、それぞれ、内部が中空の略筒状の部材である。
節部1は、節部に2に対し、回転軸bを支点にして回転するように接続される。同様に、節部2は、節部3に対し、同方向の回転軸bを支点にして回転するように接続されている。
また、節部3は、掌部22に対し、回転軸aを支点にして回転するように接続されている。
これら節部1,2,3は、剛性材料から形成してもよいが、把持対象物Xを把持した際の密着性を向上する観点からは弾性材料(例えば、ゴムやエラストマー樹脂、その他の弾性樹脂材料等)から形成するのが好ましい。
【0024】
モータ21aは、出力軸を突出させた電動の回転式モータであり、節部2、節部3、掌部22の内部に、それぞれ設けられる。
このモータ21aの具体例としては、回転角を制御するようにしたステッピングモータや、DCブラシレスモータ等が挙げられる。
【0025】
調速機構21bは、モータ21aの出力軸の回転を、予め設定された適宜な比率で減速し、一方向動力伝達機構21cの入力部に伝達する機構であり、例えば、遊星歯車機構により構成される。
この調速機構21bの他例としては、複数の歯車を適宜に組み合わせた機構や、直動ねじ機構、ハーモニックドライブ(登録商標)を用いた機構、これらの機構を適宜に組み合わせた機構等とすることも可能である。
【0026】
一方向動力伝達機構21cは、調速機構21bの出力軸から入力部に加わる双方向の回転力を出力部に伝達可能で且つ出力側(具体的にはギヤ群21d1)から前記出力部に回転力が加わった際には前記出力部をロックする機構であり、前記出力部の回転力により、対応する関節(図3によれば節部1,2間)を屈曲させる。
この一方向動力伝達機構21cには、例えば、再公表特許WO2013/133162号公報に開示される発明を用いることが可能である。
なお、一方向動力伝達機構21cの他例としては、ウォームギア機構や、すべりねじ機構、あるいは、これらの機構を適宜に組み合わせた態様等とすることも可能である。
【0027】
屈伸機構21dは、一方向動力伝達機構21cの出力部の回転力により各関節を屈曲させる機構である。
この屈伸機構21dは、図3に示す一例によれば、一方向動力伝達機構21cの回転力を伝達するギヤ群21d1と、ギヤ群21d1の出力側のギヤの回転力により回転する雄ネジ状部材21d2と、雄ネジ状部材21d2に螺合されたナット状部材21d3と、ナット状部材21d3に枢支されたリンク部材21d4と、リンク部材21d4の進退により二本の平行なリンク部材21d51,21d52を回動させるパラレルリンク機構21d5とを具備して構成される。
なお、この屈伸機構21dは、各関節を屈曲伸展させる機構であれば、図示例以外の周知の機構とすることが可能である。
【0028】
弾性部21eは、指体21の最先端側における指腹部寄りに配置され、屈伸機構21dの先端側に枢支された受け部材21fに固定されている。
この弾性体21eは、例えば、ニトリルゴムや、シリコン樹脂、ウレタン樹脂等、適宜な弾性を有し、且つ把持対象物Xを滑らせないように適宜な摩擦係数の材料が選定される。
この弾性体21eは、指体21全体のバックラッシュによる変位量と、指体21全体において弾性体21eよりも駆動源側の弾性変形の量とを加えた変化量よりも大きい必要最小限の弾性変形をするように、その弾性率が適宜に設定されている。
【0029】
また、1軸力センサ21gは、複数の指体21が把持対象物Xを把持した際に、把持対象物X側からの反力を受ける回転部分に設けられる。
この1軸力センサ21gは、図3に示す一例によれば、パラレルリンク機構21d5を構成する一方のリンク部材21d51の回転支点部分(回転軸b)に設けられ、ハンド部20がその指先側で把持対象物Xを把持した際に、リンク部材21d51に作用するトルクを測定する。
この1軸力センサ21gは、複数の回転軸a,bにそれぞれ対応して設けられる。そして、回転軸aに対応する1軸力センサ21gは、回転軸bに対応する1軸力センサ21gに対し、軸方向が直交している。
この1軸力センサ21gによる測定値(以降、力測定データと称する)は、制御部30に送信される。
【0030】
角度測定手段21hは、モータ21aの出力により回転する回転部分の回転角度より、対応する関節前後間の角度を求める構成とすればよい。
図示例によれば、角度測定手段21hは、ギヤ群21d1の一つのギヤの回転角度を測定するエンコーダを備え、このエンコーダによる測定値を制御部30へ送信し、制御部30が前記エンコーダの測定値を関節前後間の角度に変換する。
【0031】
制御部30は、例えば、電源、モータドライバ等を含む制御回路、及びコンピュータ等によって構成され、ハンド部20の全て(図示例によれば9つ)の1軸力センサ21gの力測定データに基づいて、各指体21の指先力を算出する。さらに、この制御部30は、前記算出値に応じて、ハンド部20の動作を制御する。
【0032】
ここで、指先力とは、複数の指体21が把持対象物Xを把持した際に、各指体21における把持対象物Xとの接触位置Pに作用する力やモーメント等として表現される力情報である。この指先力は、例えば、図4に示すように、各指体21の長手方向の中途部分により把持対象物Xを把持した場合には、その中途部分における把持対象物Xとの接触位置Pに作用する前記力情報を意味する。
【0033】
また、制御部30は、指体21毎の複数の関節の前記力測定データに基づき、各指体21における把持対象物Xとの接触位置Pを算出する。
例えば、図4に示すように、ハンド部20が、各指体21の中途部分に位置する節部2を把持対象物Xに接触させて、把持対象物Xを把持している場合には、節部2よりも指先側の1軸力センサ21gによる力測定データが、節部2よりも指の根本側の1軸力センサ21gによる力測定データよりも小さくなるため、これら力測定データの関係より、各指体21における把持対象物Xとの接触位置Pを推定することができる。
【0034】
また、制御部30は、指体21毎に、複数の角度測定手段21hによる複数の角度測定データに基づき、各指体21の先端位置Tを算出する。
【0035】
次に、各指体21の先端位置Tの算出手順、各指体21の指先力の算出手順、各指体21における把持対象物Xとの接触位置Pの算出手順、把持対象物Xを強固に把持したときの力の算出手順等について詳細に説明する。
【0036】
<各指体21の先端位置Tの算出手順>
節部1の長さをl1、節部2の長さをl2、節部3の長さをl3、節部1の関節角度をq1、節部2の関節角度をq2,節部3の関節角度をq3とする。なお、関節角度q1〜q3は、それぞれ、上記角度測定手段21hによる角度測定データに対応する。
例えば、図5のような関節配置であれば、幾何学的な関係より各指体21の先端位置Tは次式を用いて算出する。
【0037】
【数1】
【0038】
<各指体21の指先力の算出手順>
節部1の関節トルクをτ1、節部2の関節トルクをτ2、節部3の関節トルクをτ3とする。このとき、指先力Fは次式により算出する。なお、関節トルクτ1〜τ3は、それぞれ、上記1軸力センサ21gの力測定データに対応する。
【0039】
【数2】
【0040】
ただし、JTが正則でないとき、指先力Fは一意に算出できない。
【0041】
また
【数3】
【数4】
ここで、Jは、関節角度(速度)と指先位置(速度)を関連付ける変換行列である。
【0042】
すなわち、指先力Fを一意に算出するには少なくとも3個の1軸トルクセンサ(上記1軸力センサ)が必要である。3個以上のトルクセンサを利用すれば、最小二乗法等により指先力Fを精度よく算出することができる。
【0043】
<各指体21における把持対象物Xとの接触位置Pの算出手順>
接触位置が指1本に1箇所とした場合、関節トルクτ1、τ2、τ3(上記力測定データ)より接触位置Pを次のように算出する。
・τ1=τ2=τ3=0のとき、非接触である。
・τ1=τ2=0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部3である。
・τ1=0、τ2≠0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部2である。
・τ1≠0、τ2≠0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部1である。
複数の接触位置とした場合、次のように算出する。
・τ1=τ2=τ3=0のとき、非接触である。
・τ1=τ2=0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部3である。
・τ1=0、τ2≠0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部2(確定)、節部3(候補)である。
・τ1≠0、τ2≠0、τ3≠0のとき、接触位置Pは節部1(確定)、節部2(候補)、節部3(候補)である。
【0044】
<把持対象物Xを強固に把持したときの力の算出手順>
把持対象物Xを指3本により強固に把持したとき、指と把持対象物は一体と考える。
i指j関節の関節トルクをτij、関節位置をrij、トルクセンサの出力軸を表す単位ベクトルをuij、把持対象物Xに作用する合力をfcと合モーメントをncとする(図6参照)。
i指j関節にて計測される力fijとモーメントnijのつり合いには次式の関係がある。
【0045】
【数5】
【0046】
このとき、i指第j関節のトルクセンサの出力τijは次式である。
【0047】
【数6】
【0048】
例えば、指3本の第2関節と第3関節において、次のようなセンサ出力を得る。
【0049】
【数7】
【0050】
ただし、
【数8】
とする。
【0051】
行列Uが正則になるトルクセンサの配置では、力fc、モーメントncは、次式により算出できる。
【0052】
【数9】
【0053】
このように、力fc、モーメントncを一意に算出するには、少なくとも6個の1軸トルクセンサ(上記1軸力センサ)が必要となる。
6個以上のトルクセンサを利用できれば、最小二乗法等により力fc、モーメントncを精度よく算出できる。
【0054】
よって、上記構成のハンドロボットA及び指先力測定方法によれば、6軸力センサや触覚センサ等を用いた従来技術に比較し、安価で小型軽量な構造でもって指先力や、各指体21における把持対象物Xとの接触位置P、各指体21の指先位置等を高精度に測定することができ、さらには、把持対象物Xの弾力性や硬度、接触位置等に応じて各指体21を好適に動作させることができる。
【0055】
なお、図2に示す一例によれば、節部3について、回転軸aによって隣接する指体21,21を接近離間方向へ回動(内転及び外転)させるようにしているが、他例としては、節部3の根本側に回転軸aに交差する回転軸(図示せず)を加えて、節部3を、前記接近離間方向及びこの接近離間方向に交差する方向等を含む複数方向に回動可能な態様とすることも可能である。
同様に、節部1,2についても、回転軸b以外の回転軸を加えて、図示以外の方向にも回動可能な構成とすることが可能である。
【0056】
また、図示例によれば、指体21を掌部22周縁に沿って略等間隔に配置したが、他例としては、一本の指体(親指)と他の複数の指体とを対向するように人の手形に配置した態様等、複数の指体のうち、その一部又は全部の間隔を異ならせることも可能である。
【0057】
また、1軸力センサ21gの配置は、図示例に限定されず、例えば、1軸力センサ21gを一方向動力伝達機構21cの出力軸に直結した態様等、一方向動力伝達機構21cよりも出力側の適宜箇所に1軸力センサ21gを配置することが可能である。
【0058】
また、角度測定手段21hの配置も、図示例に限定されず、例えば、モータ21aの回転軸の回転量(回転角度)を測定するように角度測定手段21hを設けた態様や、雄ネジ状部材21d2の回転量を測定するように角度測定手段21hを設けた態様等、上記と同様に機能するように角度測定手段21hを適宜箇所に配置することが可能である。
【0059】
また、上記実施態様では、モータの好ましい一例として、電動の回転式モータを用いたが、このモータの他例としては、超音波モータや、直動モータ、電力以外の動力により駆動するモータとすることも可能である。
【0060】
本発明は上述した実施態様に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,2,3:節部
10:ハンド移動機構
20:ハンド部
22:掌部
21:指体
21a:モータ
21c:一方向動力伝達機構
21g:1軸力センサ
21d:屈伸機構
21h:角度測定手段
30:制御部
a,b:回転軸
A:ハンドロボット
P:接触位置
X:把持対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6